【城】第二次都市計画
マスター名：馬車猪
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| ■オープニング本文 小麦の増産に成功し、図らずも小麦を大量輸出をすることになった城塞都市ナーマ。 急速に集まる富は、アル＝カマルの有力者達だけでなく賊共をも惹きつける。 ナーマの戦力とそれを支える経済力は強い。しかし率いる君主も部下達も経験が足りない。 無数の落とし穴を回避できるかどうか、これから否応なく確かめられることになる。 ●賊 飛空船を襲った賊は、開拓者により全ての情報を搾り取られた。 背後関係は無し。単に儲かると判断しての襲撃であることを知らされたナーマ首脳陣は、恐怖に近いものを感じていた。 「討っても捕らえても、新手が来る可能性が高い、と」 都市防衛や街道警備にも金がかかるが、空路の安全確保はそれ以上の金食い虫になるかもしれなかった。 ●妖の影 ナーマの西隣の地域で、１つの小規模オアシスの滅亡が確認された。 内部抗争の結果か、あるいはアヤカシの手によるものか、今の所詳しい情報は入ってきていない。 ●依頼票 仕事の内容は城塞都市ナーマの経営補助 依頼期間中、１つの地方における全ての権限と領主の全資産の扱いを任される 領主から自由な行動を期待されており、大きな問題が出そうな場合に限り領主が補佐することになる ●城塞都市ナーマの概要 人口：普 零細部族から派遣されて来た者を除くと微になります 環境：普 ごみ処理実行中。水豊富。空間に空き有 治安：普 厳正な法と賄賂の通用しない警備隊が正常に機能中 防衛：微 城壁の半分が機能を停止中。年末に増築完了の見込 戦力：普 ジン数名とからくり１２人が城壁内に常駐。戦闘用飛空船込みの評価です 農業：良 城壁内に開墾余地無し。麦、豆類、甜菜が主。大量の水と肥料と二毛作を駆使しています。牧畜有 収入：良 周辺地域と交易は低調。遠方との取引が主。前回は護衛戦力不足で鉱山お休み。一定期間後に鉱石買取価格低下の可能性高 評判：良 好評価：人類領域（一地方）の奪還者。地域内覇権に最も近い勢力 悪評：伝統を軽視する者 資金：普 後少しで一段階低下。輸出が好調です。大型氷砂糖が一年先まで予約済。外壁拡張で１段階、ナーマの判断で少量消費 状況が良い順に、優、良、普、微、無、滅となります。１つ以上の項目が滅になると都市が滅亡します ●都市側からの要望 輸出量を一定に抑え移民を募るか、大規模な輸出を行うか 大規模輸出と引き替えに燃料の安定供給を受けるか、別のものを望むか 今回決める必要はないですが意見を期待しています アマルより ●資金消費無しでも実行可能な行動例 ある行動を行った際の必要資金と必要期間の予測 対外交渉準備 都市周辺勢力との交渉の為の知識とノウハウを自習します。選択時は都市内の行動のみ可能。複数回必要 ●資金投入が必要な行動一覧 都市、鉱山間を結ぶ道をつくります○ 最低限一ヶ月間必要 小型飛行船１隻購入○ 民兵装備を長射程銃に更新○ 飛空船関連事業△ 資金一段階分強を投じ、人材と設備を引き抜いてきます ×現在実行不可 △困難 ○実行可 ●都市内組織 官僚団 内政１名。情報１名。他３名。事務員有 教育中 医者候補４名、官僚見習い２０名 情報機関 情報機関協力員十名強 警備隊 約百名。都市内治安維持を担当 ジン隊 初心者開拓者相当のジン７名。対アヤカシ戦特化。城壁完成まで都市内警戒中 農業技術者集団 学者級の能力のある者を含む３家族。農業指導から品種改良まで担当 職人集団 地方都市にしては高熟練度。技術の高い者ほど需要が高く、別の仕事を受け持たせるのは困難 現場監督団 職人集団と一部重複 からくり 同型１２体。見た目良好。駆け出し官僚見習兼見習軍人。城壁完成まで都市内及び都市上空警戒中 守備隊 常勤は負傷で引退したジン数名のみ。城壁での防戦の訓練のみを受けた２３０名の銃兵を招集可。招集時資金消費収入一時低下。損害発生時収入低下 ●住民 元作業員が大部分。現在は９割農民。正規住民の地位を与えられたため帰属意識は高く防衛戦等に自発的に参加する者が多い。元流民が多いため全体的に技能は低め ●雇用組織 小型飛空船 船員有。ナーマと外部の連絡便 ●都市内情勢 甜菜。麦二毛作 妊婦の割合高め 食料庫が足りません 身元の確かなものが余暇を使い水源周辺清掃と祭祀見習いを担当 ●軍備 非志体持ち仕様銃６００丁。志体持ち用魔槍砲１０。弾薬は大規模防衛戦２回分。迎撃や訓練で少量ずつ弾薬消費中 飛空船（装甲小型１隻）。都市・鉱山間であれば辛うじてからくりが運航可能です ●領内主要人物 ナーマ・スレイダン 故人。初代ナーマ領領主。元大商人。極貧層出身。係累無し。性格最悪能力優 アマル・ナーマ・スレイダン 第二代ナーマ領領主。からくり。人格未成熟。内部の権力は完全に掌握中 ●ナーマ領域内地図 調査可能対象地図。１文字縦横５ｋｍ 漠漠漠漠 漠漠漠漠漠漠 オ。小オアシス複数 漠漠穴漠漠漠 道。道有り。砂漠。安全 オ漠漠都漠漠 穴。洞窟の入り口有り。砂漠。 漠漠漠道漠漠 都。城塞都市あり。砂漠。安全 漠漠道漠 漠。砂漠。比較的安全 ●鉱山側面図 ○○入 ○ 穴 ○ 穴 未荒○○○○○○○採調 空白部分は地下の通行不可能な場所か地上 穴：空気穴。人は通れません 入：入り口 ○：洞窟 採：作業員が採掘を行う地点です 未：落石、崩落等の危険有り。探査に時間がかかり、アヤカシ出現時、急ぎの作業時はさらに危険度増大 調：調査中の地点です。アヤカシの気配はありませんが、補強工事抜きでの侵入は危険なため、時間がかかります ●交渉可能勢力一覧 王宮 援助等を要請するとナーマの威信が低下し評価が下がります 定住民系大商家 継続的な取引有。大規模案件提案の際は要時間 ナーマ周辺零細部族群 ナーマに対し好意的。ナーマへ出稼ぎを多数派遣中。経済・軍事に関する提携開始 東隣小規模都市 ナーマと敵対的中立。外部から援助され経済回復。外部から訪れた者に対する身元調査を行っています。ナーマとの勢力圏の境にある小オアシスを確保 上記勢力を援護する地域外勢力 最低でもナーマの数倍の経済力有。ナーマに対する直接の影響力行使は裏表含めて一切行っていないため、ナーマ側から手を出すと評判に重大な悪影響が発生する見込 ●交渉不能勢力一覧 西隣弱小遊牧民 治安劣悪。経済どん底。零細勢力に圧力中。ナーマがリーダーの筆跡を確保。謀略実行時は域外大勢力に感づかれる可能性が有り、その場合ナーマの威信が低下 南隣零細勢力 詳細不明。東の影響力が浸透開始の模様 北隣小規模都市 東からの援助により壊滅状態から復興中。来年初頭には東に編入される見込 ●都市拡張計画の変遷 最初：農地９９。倉庫１ 途中：農地９０。多目的大規模施設９。飛空船離発着施設１（完成） 現在：農地９５。倉庫４。離発着施設１ |
■参加者一覧
玲璃（ia1114）17歳・男・吟 
ジークリンデ（ib0258）20歳・女・魔 
アレーナ・オレアリス（ib0405）25歳・女・騎 
将門（ib1770）25歳・男・サ 
朽葉・生（ib2229）19歳・女・魔 
エラト（ib5623）17歳・女・吟 
アナス・ディアズイ（ib5668）16歳・女・騎 
クシャスラ（ib5672）17歳・女・騎 
嶽御前（ib7951）16歳・女・巫 
中書令（ib9408）20歳・男・吟 |
| ■リプレイ本文 ●終わりが始まる地 ナーマ発、王都行きの飛行船に乗って途中で降りる。 その後人目につかない移動経路を選択することで、ナーマと非友好的な地域への潜入を容易に成し遂げることができた。 「伝聞以上の惨状ですね」 途中立ち寄ったオアシスから十分離れてから、嶽御前（ib7951）は沈痛な面持ちで弱音じみた声を出していた。 先程のオアシスは、ナーマの西隣を本拠地とする遊牧民の配下であるはずだった。 しかし現実には支配も保護も受けておらず、アヤカシの襲撃のたびに大きな被害を出し、共同体の維持すら難しくなりつつあった。 そんな状況で現れた嶽御前と霊騎は、賊でもアヤカシでもない時点で熱烈に歓迎された。霊騎が牽くソリの荷（新鮮な水と保存食と少量の医薬品）と引き替えに、小オアシスの長は周辺の詳細地図を渡しさえした。 既に、最重要の情報を切り売りせざるをえない状況にまで追い詰められているのだ。 「経済が壊滅では賊も食っていけない、ですからね」 中書令（ib9408）は、遠方から発見されないよう駿龍を低空で飛ばしながら、聴覚に集中して広範囲を索敵する。 普通なら街道やオアシスからかすかではあっても人間のたてる音が聞こえてくるはずだが、それがない。 ２人は生気のない土地を進み続け、異変があったと思われるオアシスに到着する。 正確には、オアシス跡地だ。 古びてはいるが丁寧に修繕されていたはずの天幕は力任せに破壊され、育てる者のいなくなった畑は乾ききっている。 嶽御前が索敵用の結界を展開しても反応はない。 感覚を研ぎ澄ませて瘴気の濃淡を探っても、人が住む場所にしてはやや濃いことくらいしか分からない。 「かすかに血の臭いがしますが…それだけですね」 最初に聴覚、次に臭覚に意識を集中させた中書令は、ほとんど何も分からないことだけが分かったことを告げる。 「何が起こったのでしょう」 切り裂かれた天幕の布や柱、その他少しでも手がかりになりそうなものをソリに積み込みながら、嶽御前は高速で仮説を立てていく。 病。賊。妖。 どれも可能性はあるが、断定するための材料が無い。 「ここから情報を得られることを祈りましょう。…帰りは慎重にいきましょう。部族の兵に見つかると対処が面倒ですから」 歌で強制的に意識を奪うことはできるとはいえ、記憶を消すことまではできない。ナーマと西隣の部族の力を差は大きいので後で文句を言ってきても無視できるかもしれないが、特に必要もないのに衝突を起こしても時間と人材の無駄だ。 ２人は積み込めるだけソリに積み込んで固定すると、行き以上の注意を払って来た道を通ってナーマに帰還する。 ナーマに帰還後、大人数で時間をかけて検証した結果、以下のことが判明した。 破壊の痕跡から判断して、オアシスを破壊したのは身長３メートルを超える人型の生き物であり、単独である可能性が高いこと。 血痕の数と古さから判断して、少なくとも複数の住人が殺害され、さらにその遺体を処分された可能性が高いこと。 どうやら、人間が犯人である可能性は極めて低いようだ。 ●工事 髪の毛一本分の誤差もない平面を持つ石材。 それを上から人力のクレーンで吊し、同様に平面に削られた台座に据える。 据える直前に位置を調整するのはアナス・ディアズイ（ib5668）が乗り込むアーマーだ。 少し力を入れるだけで激しく揺れてしまうはずの石材を、石材と比べると非常に小さく感じられる手の平で操り、じりじりと移動させて見事に合体させることに成功する。 リエータの銘を持つアーマーが手を振ると、待機していた熟練職人達が石材に駆け寄り、完全に隙間がないことを慎重に確認する。 数十分後。 リエータから降りて水分補給と機体の整備を済ませたアナスが、建設部門のトップを含む数人と会議を行っていた。 「時間は」 「こちらになります」 先程の作業だけでなく、アーマーを使った様々な作業にかかった時間がびっしりと書き込まれた書面が差し出される。 「計画表は現在書き換えてるところで…終わったようですな」 工事現場に設置された大天幕。 その中に設置された無骨な大型黒板に、修正されたばかりの計画表が張り出される。 「時間に余裕がありませんね。トラブル発生時の対処は？」 「アナス様のスケジュールにあわせる形で組んでいます。無理をお願いすることになりますが、何卒」 自身とアーマーの消耗と、要求されている仕事量を計算し、アナスは厳しいが無理ではないと判断した。 現在、アナスの強い希望によって外壁の機能回復が優先して進められている。 ここ数日風が強いため上空の飛空船からのつり下げ工法が使えず効率が落ちているが、次回までにはある程度防御力が回復する見込みだった。 「承知しました。補修用機材の発注についてですが」 「今週中には開拓者ギルド経由で届く予定です」 人にも物にも多大な負荷をかけながら、大工事は速度を緩めることなく進んでいく。 ●ナーマの遠景 飛空船がナーマの領域に入ると、まず出迎えるのは船長以下乗組員全員がからくりの快速小型船だ。 揃いの外套を来た同型のからくり達がきびきびと動く様は見ていて心地よく、長旅で疲れた船員達の目を楽しませる。 なお、外からは見えにくいところで失敗を繰り返す同型６人を実質的に指揮しているのはアレーナ・オレアリス（ib0405）の相棒であるからくりロスヴァイセだ。反省はしてもなかなか改善してくれない同属の相手に、精神的な疲れを感じる日々を送っているらしい。 さらに数分が経過するとナーマの城壁が見えてくる。 都市設立時の外壁は石組みで、威厳と力を感じさせる見た目にも優れた建築物だった。 それに対し、現在建設が進んでいるのは実用性を突き詰めたコンクリート製城壁だ。遠くからはつるりとして見えるなめらかな外見は、巨大な暴力とそれを支える経済力を否応なく感じさせた。 ●ナーマの近景 重量物をつり下げて頼りなく飛ぶ飛空船の甲板で、ジークリンデ（ib0258）は小さく息を吐いて手元の帳面に書き込みをする。 ジークリンデ達開拓者が様々な手を打つことで工事は加速している。が、天候に関しては手の打ちようが無く、ここ数日吹く強い風は工事を遅らせる形で影響を与えていた。 「流し込むぞ！」 下方から声が響いてくる。ジークリンデが作った土台の上に大きな枠が組まれ、膨大な量のコンクリートが流し込まれていく。 枠の中にはジークリンデの高い能力によって生み出された強固な石壁がいくつも設置されていて、コスト度外視で耐久性を向上させたコンクリートをさらに強固にするはずだ。 「魔術師様！ ５班を４区に向かわせています。お手透きでしたら設置作業を再開してください！」 下からの呼びかけに軽く手を振って答え、ジークリンデは飛空船に搭載されていたグライダーで現場へ向かう。 常に携帯している管の中から、仕事無いの？ というイメージが伝わってくる気がするが現在管狐に向いた仕事はない。アヤカシの襲撃があれば縦横無尽に活躍してくれるだろうが、都市外に展開中の飛空船だけで十分過ぎるのだ。 「これ以上の変事が起きなければ、城壁完成時点で私達の仕事も終わるかもしれませんね…」 理性ではそう判断できる。 しかし、何度も修羅場をくぐることで培われた勘は、最低でももう一波乱はあると告げていた。 ●薄暗がり 設計図と計画表と各分野の専門家が集まる指揮所に報告が届けられ、新たな指示を持たされた作業員が駆け足で現場に戻っていく。 指揮所の男達はなんとか時間を捻出して現場に出ようとし、しかし作業をこなすのに時間をとられ、結局一歩も指揮所から出られなかった。 翌日の人員配置、資材の遣り繰り、手順の確認を終えると夜明け直前になってしまい、今は指揮所の中で毛布にくるまって仮眠をとっている最中だ。 夜空が朝の色に染まり始めた頃、鷲獅鳥の司がとある天幕の前で立ち上がる。 それから数秒後、疲労の色が濃い朽葉・生（ib2229）が慌てた様子で天幕から出てきた。 「警備は…いませんか」 周囲を確認するが、警備隊の姿も守備隊の姿もない。 時間が時間故、宮殿などの重要箇所の警備や少数の巡回を除き休んでいるのだろう。 「速度優先で」 司は返事の代わりに生を背に乗せ、力強く大地を蹴って飛翔した。 体の芯まで冷やす大気を切り裂き、生が警戒用の術を仕掛けた場所へ急行する。 「あちらですか」 ムスタシュィルに反応があってから反応があった場所まで１分弱。 現場には誰もいなかったものの、かすかな気配を頼りに相棒と共に追う。 最初の時点で瘴気の反応がなかったことから予測できたが、曲者はアヤカシではなく来客の随員だった。 夜明前に工事現場近くにいるのは明らかに怪しい。しかし重要区画に入り込んだ証拠は１つも残っておらず、今も堂々として生を出迎えている。さらに、この随員は生ほどではないが戦闘能力を持つジンだ。この場で捕らえるのは複数の意味で危険すぎる。 「宿舎はあちらですよ」 生は決して油断せず、表面上は友好的に宮殿の方を示す。 「ありがとうございます。少し迷ってしまったようで…」 この種の攻防は、手を変え品を変え毎日のように繰り返された。 ●会議は続く 「エラト様、素晴らしい条件の確保、おめでとうございます！」 「念願の製鉄業に手を出せそうですね」 大勢力からの使者の応接を庚に任せて下がってきたエラト（ib5623）に対し、会議室で情報の分析を行っていた官僚達が口々に賞賛する。 その中に先代から使えている官僚が含まれていないことに安堵しつつ、エラトは表情を変えないまま、声の調子を変えないまま、冷然と切って捨てた。 「長期間安定して燃料を輸出できる能力を持つ勢力は既に交渉から撤退しました。現在残った相手を頼りにして製鉄業を興すのはお勧めできません」 ナーマの頭脳労働者達を酷使し、エラト自身も胃壁を削る交渉を粘り強く繰り返した結果、ナーマを食い物にするつもりの勢力の排除には成功した。 しかし、ナーマは穀物輸出を抑制してでもナーマ本体の規模を拡大する方針に傾きつつあるため、長期大量の穀物輸出を望んでいた勢力が距離を置きつつあるのだ。 エラトが丁寧に説明してやると、他勢力の意図を今まで理解し切れていなかった促成官僚達がうめき、頭を抱える。 「今は互いの意図を探り合っている段階です。条件交渉は始まってすらいませんが…」 大きな代償を支払わない限り、製鉄業を興せるとしても小規模なものになる可能性が高い。 現実的な複数の案を作るよう命じてから、エラトは言葉と経済力の戦場に戻っていくのだった。 ●移民募集の際の条件について 「解がない設問ですか」 焔は１時間近く悩んだ末に、自信なさげな口ぶりでそう答えていた。 「理想的な解が存在しない設問というべきだな。政に限らずそのような問いは多い」 将門（ib1770）が正解を口にすると、成熟した美貌を持つからくりが、しょんぼりと沈んだ雰囲気を出す。 「この短期間でよくそこまで理解した。次はそのような問いで自分なりの解を見つけるのが目標だな」 よく手入れされた赤い髪を優しく撫でてやってから、将門はナーマ周辺地域の情報とりまとめの合間に少しずつ作っていた資料を取り出す。 今後行う可能性が高い、ナーマの移民募集についての予想が書かれている。 技術や財産を持つ者を多く受け入れたいなら好待遇を提示する必要があるが、その場合最初からの住民が不満に思う。 提示する待遇を下げれば下げるほど、使えるようするために時間と金がかかる連中ばかりが集まることになる。 「失礼します。資料を受け取りに…お邪魔でしたか？」 将門の書斎と化した資料庫に玲璃（ia1114）が現れる。 「問題ない」 余韻に浸って停止しているからくりを一瞥し、将門は玲璃に向き直る。 「明日から移民募集の準備作業に人をまわせるそうです」 「そうか。使い走りのようなことをさせてしまったな」 玲璃は気にしないよう身振りで答え、将門が作成した予測を確認し、かすかに眉を寄せた。 「揉めそうですね」 「ああ」 気休めを口にすることはできなかった。 ２人とも、移民希望者である流民の扱いに苦慮した経験があるのだから。 「西の首長からの返答はあったか？」 「人を介しましたから、反応があるとしても来週か来年か…。いけませんね。ナーマの速度を基準に考えると何もかもが遅く感じられてしまいます」 ２人は苦笑しあい、それぞれの仕事に戻っていくのだった。 ●育児施設 赤ん坊の泣き声が複数重なり、慣れない者にとっては精神をやすりで削るような苦行を強いる。 微かに臭うのは赤ん坊の粗相だろうか。 産まれたばかりで未だ儚い赤子達は、全力を尽くして必死に生きようとしていた。 「手洗い、ですか」 「強い酒も使うのですか？ 手には入りますけど予算が…」 新人母親が増えすぎたため当初の予定を前倒して稼働することになった育児施設で、忙しい中時間を無理矢理作って集まった職員達が首をかしげていた。 「疾病の発生確率が確実に下がります」 アレーナの口調は穏やかだが、意見は聞いても反論は一切許さない雰囲気がある。 「そういうことでしたら」 「ええと、我々だけで良いのでしょうか。見習達にも同様に？」 職員はマニュアルを確かめつつ質問してくる。 「母親とその家族にも指導をお願いします」 アレーナがきっぱりと断言すると、職員達は時間のやりくりに頭を悩ませながら短時間で役割の分担を決め、生命にあふれる戦場へ戻っていった。 ●水源にて 普段水源周辺の掃除や椰子の木の手入れを行っている人々を労るための集会に出席した後、アマル・ナーマ・スレイダン（iz0282）は少数の護衛を伴い水源にとどまっていた。 最近体調が上向いている。 アレーナがナーマに滞在しているときは特にその傾向が強い。 己の子供に対するように親身に、けれど無制限に甘やかすことはなく改善点を容赦なく指摘してくる。 昨夜もそうだ。パーツの奥まで安らぐ曲をピアノで弾いてくれた後に、美しい音やものに触れる意義を繰り返し諭されたのだ。 「時間か」 主に起動させられてから地位を継ぐまで、アマルは知識と技術のみを与えられ、感性を育む機会は与えられなかった。今から育てることができるかどうか、正直なところ自信が無い。 そんな、あまり健全でないことを考えていると、足下に柔らかな体温を感じた。 領主としての顔に戻って見下ろすと、そこには見慣れたほむらさまの顔があった。 「休憩をとられているようでなによりです。根を詰めすぎても効率が下がるばかりですから」 続いて玲璃が声をかけてくるが、アマルの目はもふらさまのつぶらな瞳に釘付けだった。 玲璃は優しく微笑み、水源の状態の確認と、わずかに溜まった瘴気の浄化を行っていく。 「誰しも、理解できないものはたくさんあります。理解できるようになることは素晴らしいことですけど」 保育施設に運び込むための水を汲みながら、玲璃は水源から市街地と宮殿を見つめる。 人間の欲望が渦巻く場所を離れた場所からみつめると、普段とは異なる陰影が感じられた。 「様々な物事との居心地のいい距離を見つけるのも重要だと、私は思います」 アマルはもふらさまから目を離し、何も言わずに考えを巡らせていた。 ●空飛ぶ鉄鉱石 航海士である鳳珠があらかじめ天候を知ることで、万全の準備を整えた上で飛び立った商用飛空船。 その船倉には大量の鉄鉱石が積み込まれており、並の船乗りでは途中で不時着していたかもしれない。 しかし機関手ヤリーロは機関を良く扱い、十分な浮力と出力を確保し続ける。 「後１往復です。最後まで集中力を切らさないように」 操舵手であるルエラ・ファールバルトは、鳳珠と共に厳重な警戒を行いつつ航海を続けるのだった。 ●目覚め 心身を削る鉱山労働から１週間以上解放されたていた作業員達は、猛烈な勢いで鉄鉱石を掘り出し、地下洞窟から地上へと運び出していく。 アーマーを使った洞窟補強作業を終え、久々の休憩と食事をとっていたクシャスラ（ib5672）は、堅焼きのパンをその場に置いて武器を手に立ち上がる。 「て、敵襲っ？」 「逃げ、いや鉦を鳴らせ！ 急いで騎士様に！」 洞窟の奥から悲鳴が響いてきたときには、既にクシャスラは長剣と盾を構えてかけ出していた。 「点呼！ 全員いるか確かめなさい」 騒ぐ作業員の脇を駆け抜け、人外の気配が漏れ出す採掘現場へ向かう。 再度アーマーを展開する時間はない。１秒でも速く敵を制圧しなければ、どれだけ被害が発生するか分からないのだから。 後方から届くおぼろげな光を頼りに、クシャスラは採掘現場である小さな穴を確認する。 つるはしの跡が残る、最近ではすっかり見慣れてしまった岩肌だ。一部に小さな亀裂があるが、水が噴き出してくるわけでも無し、たいして珍しくも害もない状況に見えた。 が、その小さな亀裂から瘴気がゆっくりと漏れ出し、岩肌を伝わり地面にたまった瘴気が徐々に形を為していく。 盾で防ぐまでもない。 基本に忠実に振り下ろされた刃は、壁に当たることなく振り切られ、未だ不定形だったアヤカシを切断し、堅い岩肌に衝突する寸前で止まる。 他にアヤカシの気配はない。 だが亀裂からの瘴気の流れは止まらない。 「騎士様！ 整列させて確認しました。全員無事です」 「バリケードの材料と銃が人数分あります。ご命令をっ」 どうやら鉱山部門も万一への備えをしていたらしい。ジンは含まれていないが、民兵としての訓練を受けている者がほとんどのようだった。 「兵役未経験者は後退。経験者はすぐに逃げられるよう軽装で、資材を私の近くまで持ってきてください」 亀裂を破壊して根本を絶つことも考えた。しかし亀裂の向こうに何があるか分からず、背後に志体すら持たない者が多数いる現状では危険すぎる。 クシャスラはわき出る瘴気がアヤカシになるたびに刃を振るい、穴を塞ぎ終わると即座に撤退を宣言し、作業員と共にナーマに戻るのであった。 |
