【希儀】ヘビに強襲!
マスター名:馬車猪
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/11/05 21:30



■オープニング本文

 あなたは希儀に上陸した。
 そこで待っていたのは豊かな緑と、緑の中から無数に這い出てくる蛇であった。

 ニンゲン。
 肉。
 イゼンタベタノハイツダ。
 クイタイ。
 ヨコセ。
 チ。
 ニク。
 ヒメイ。
 アジアワセロ。

 蛇型のアヤカシが、悪意と食欲の入り交じった意思を向けてくる。
 緑豊かな穏やかな平原は、続々と集まってくるシアナスネークに覆われ元の色が見えなくなってしまっていた。
 現れたアヤカシの中に飛行可能なものは含まれていない。距離が60丈(約180メートル)以上ある今ならなんとか逃げることも可能だろう。
 だがこれは好機でもある。
 視界内だけでも50近い蛇が前方から迫ってきているのだが、アヤカシは連携が全くとれていないのだ。動きが鈍い蛇が素早く力強い蛇の邪魔になり、沢から出てきた蛇達と草原の穴から出てきた蛇達が衝突し渋滞を引き起こしている。
 今アヤカシに対して攻撃を仕掛ければ、少なくとも最初のうちは一方的に有利に戦える。
 足場は野原。少し柔らかいが罠や障害物は見えず、100丈(約300メートル)先にいる最後尾の蛇まで含めてアヤカシの総数は100強。
 あなたはたまたま同行していた同業者と共に、眼前の群れを倒してから先遣隊本隊に合流することに決めた。


■参加者一覧
バロン(ia6062
45歳・男・弓
茜ヶ原 ほとり(ia9204
19歳・女・弓
ベルナデット東條(ib5223
16歳・女・志
罔象(ib5429
15歳・女・砲
スレダ(ib6629
14歳・女・魔
菊池 貴(ib9751
40歳・女・武
緋乃宮 白月(ib9855
15歳・男・泰
来那・ブルーリバー(ic0076
34歳・男・騎


■リプレイ本文

●平穏
 人の手が入ってない、混沌とした力強さを感じさせる緑の湿原。
 軽い輸送任務という実質的な息抜きに従事していたベルナデット東條(ib5223)は、懐から横笛を取り出してそっと唇を触れさせる。
 義妹のくつろいだ様子に、茜ヶ原ほとり(ia9204)も目を細めて柔らかな歌声を響かせようとしていた。
「2人とも」
 言いたくないというのがはっきり分かる表情を浮かべたまま、スレダ(ib6629)が2人に声をかける。
「スレちゃん?」
 戸惑った曖昧な表情を浮かべ、ほとりは戦友の瞳をじっとみつめた。
「休憩は終わりみてーですよ」
 スレダはちらりと横を見る。
 そこでは、バロン(ia6062)が携帯バリスタに矢をつがえ、罔象(ib5429)が魔槍砲の動作確認を行っていた。明らかに戦闘直前の行動だ。
「ああ、なるほど」
 遠くから近づいてくる気配に気付き、ほとりの顔から一切の感情が消える。
「ありがとう」
 笛を剣に持ち替えた妹に守られながら、感情を感じさせない声と動きで弓を取り出し射撃の準備を整えるほとり。彼女からアヤカシに向けられている鋭く冷たい殺意は、ただ近くにいるだけのスレダに冷や汗をかかせいた。
「おっかない嬢ちゃんだね」
 菊池貴(ib9751)が明るい声でコメントする。字面だけ見れば揶揄じみた発言ではあるが、ほとりの切り替えの早さと戦意の見事さへの簡単が声に籠もっていた。
「期待はしていーですよ」
 ほとりの戦いぶりを何度も直接見たことがあるスレダは静かに断言し、精霊武器である鏡を掲げてアヤカシを待ち受けるのだった。

●開戦
 数十の蛇型アヤカシが一方向に向かい、重なり合いぶつかり合い急激に速度を落としていく。
「近づかれてからでは減らしきれぬか。仕方があるまい。始めるぞ」
 大きさに相応しい重量を持つ攻城兵器をバロンは強靱な足腰で支え、機械を力ではなく技と精神で動かし、引き金を引く。
 解き放たれた矢は大気の壁を軽々と突破し、渋滞中のアヤカシとその背後に存在する膨大な数のアヤカシを貫き、かすめ、直進していく。
 直撃したのはほんの数体だったけれども、矢が伴っていた衝撃波は大量のアヤカシを巻き込み、歪ませ、砕き、決して軽くないダメージを与えていた。
 アヤカシの集団に空いた大きな穴は、後方から際限なく現れる蛇により瞬く間に塞がれ、相変わらず渋滞しながらじりじりと近づいてくる。
「あと5つ」
 大威力と引き替えに再装填に時間がかかっているバロンとは対照的に、ほとりはリズミカルに矢を放ち続けている。
 混雑を抜け出しかけたアヤカシを矢が射貫き。アヤカシは衝撃で吹き飛ばされることを許されず地面に縫い付けられ、すぐに力尽きて消えていく。
 だが膨大かつ急速に集まりつつあるアヤカシの群れは、ほとりとバロンの殲滅力を上回りつつあった。
「零れてきた奴だけ叩き潰しときゃ問題ねぇんだが、こりゃあ数が多すぎるな」
 来那・ブルーリバー(ic0076)は美しく装飾された剣を鞘から抜く。
 華やかなに彩られた柄とは対照的に、刀身は冴え冴えとした光を放つ銀単色。それをアヤカシの群れに突きつけたまま、来那は射撃を続ける後衛の援護に向かえる位置での待機を続ける。
「2つ」
 ほとりのカウントダウンに促されるようにして、ベルナデットは焙烙玉に点火し、一気に前進し。
「今」
 投擲した。
「爆ぜるがいい…!」
 焙烙は団子状になったアヤカシに吸い込まれ、ぼすんと鈍い音を立てて爆発する。次から次に蛇が押し寄せるため見た目に変化はなかったものの、滅んだアヤカシを構成していた瘴気が団子から漏れ、立ち上り、そして風に吹かれて消えていく。
「今次目標は敵殲滅」
 アヤカシが近づいて来ても動きを見せなかった罔象が初めて動く。
 魔槍砲アクケルテに練力を流し込む。
 罔象がしたのはそれだけだが、もたらした変化は絶大だった。
 砲から飛び出した力は一度焙烙が命中したアヤカシ密集地帯で力を開放する。地上で発生した爆風がアヤカシの固まりを飲み込み、小さいアヤカシはすり潰し、大きなものは押しつぶすようにして確実にダメージを与えていく。
「手札は足りると思うのですが」
 危地であっても冷静沈着に、再び練力を流し込んで第二の爆発を引き起こし、練力を用いて弾倉に再装填する。
 先頭のアヤカシはほぼ全滅したものの、成人男性でもひと呑みにできそうな大蛇が1体、真っ直ぐに開拓者後衛に向かって突進してきていた。
「ははぁ、飢えているって感じだね」
 貴は散歩をするような気軽な態度で前進し、大蛇に真正面から立ち向かう。
 頭部を大きく開き、大蛇が貴を丸呑みにしようと飛びかかる。
 貴は恐れる様子もなく踏み込み、破邪の剣をつっかえ棒にして口を開いたままにさせ、自身の手足を使って無理矢理その場に食い止める。
 強すぎる負荷をかけられた筋肉が膨れあがり、一部の血管からは鮮やかな赤が飛び散った。
 蛇の牙からしたたり落ちる毒が健康的な肌に落ち、徐々に侵食していく。
「あたしらを見つけちまったのが運の尽きと思って倒されておくれ」
 貴はとびきりの笑顔を浮かべ、気合いの声と共に蛇の口を押し広げてしまう。
 そこに狙い澄ました魔法の吹雪が叩きつけられ、蛇の無防備な内側が凍らされ、砕かれていく。
「助かったよ」
「これから助けてもらうですから」
 貴の背後で、スレダは真面目な顔で応える。
 渋滞で遅遅として進めていないとはいえ、時間をかければアヤカシも近づいてくるだろう。そこからが前衛職の本番だ。
「これを」
 敵陣の大量の矢を打ち込む義姉の前で戦っていたベルナデットが一瞬立ち止まり、出発前に支給された物資を投げ渡す。
「お、悪いね。できたら飲みたいところだけど」
 瓶の封を開け、肌にかかった毒を洗い流す。痛みはそのままで術とは異なり回復もしないが、これ以上悪化することはないだろう。
「おーいそこのお嬢さん達。できればこっちの援護に…っと危ねぇ」
 来那は剣をわざと大振りしてアヤカシの注意をひきつけ、襲い来る牙や毒を大型の盾で受け止め、隙をみて胴を蹴り飛ばし距離を離す。
 ひきつけているのはただの1匹だが、その1匹は貴とスレダの2人がかりでようやく倒したものと同種の1体だ。
 貴とスレダは残りのアヤカシ群を防ぐため移動できず、バロン達弓使いは後続のアヤカシを足止めしつつ少しでも数を削るため近くの援護まで手がまわらない。
「仕掛けます。あわせてください」
 背後からかけられた声に一見反応せず、しかし即座に動けるよう体に力を溜める。
 大蛇は来那に体を巻き付けようと大きく動き、だが来那を追い越し槍を突き出してきた罔象に気をとられ、甘い大振りな動きをしてしまう。
「おまえの相手は自分だぜぇっ!」
 来那の振るう銀の刃が、隙をさらした大蛇の首を跳ね飛ばす。
 蛇頭が地面を転がっても胴はその場に立ち尽くしていた。数秒後、頭と胴は同時に瘴気に分解され、急速に姿を消していくのだった。

●激戦
 細い、けれど見事に鍛えぬかれた足が緑の地に触れると、大地と大気が激しく揺れた。
 衝撃波に巻き込まれた小さな蛇は一瞬で消え去り、成人男性並のサイズの蛇も痛みに苛まれ一瞬ではあるが動きが鈍る。
 瘴気と粉塵で数歩先の様子も良く分からなくなった状況で、かすかな音を立てて大型の蛇が回り込み、緋乃宮白月(ib9855)の背後から飛びかかろうとした。
 白月はひらりと身をひるがえし、巨体にふさわしい重量を持つものの体当たりを回避する。
 煙の中に消えた蛇を追うようにして、がちんと牙と牙が打ち合わされる音が響いてくる。
 熾烈な争いを優位に進めている白月の口から、甘やかであると同時に凛とした声がこぼれた。
「多い! 強いですよこれ! 援護ー」
「こんなに有利に戦える機会なんて滅多にねーですよ。ふぁいと!」
 白月から見て後方、後衛から見てやや前方で、スレダが平然とした口調で声援を送っている。
 スレダに治療されて戦闘開始前と同じかそれ以上の肌の色艶を取り戻した貴が戦線に復帰するが、復帰したのは後衛の近くで白月から遠く離れている。つまり、直接的には白月の助けにはならない。
「それは、わかって、るけどっ」
 アヤカシの勢いは戦闘開始直後と同じく凄まじい。そして、混乱ぶりも最初とほとんど変わらない。
 肌が泡立つほどの戦意がアヤカシから発せられてはいるものの、アヤカシは同属との連携が全くなっておらず、互いの進路を妨害し、ときには同属同士ぶつかりあって損害を与えあっている。
 こんな状況だからこそ、白月が単身で1方面を押さえきれるのだ。
「そろそろ危ないよ!」
 罔象が爆発で吹き飛ばし、ほとりが矢の豪雨を見舞った結果、アヤカシの数はかなり減ってきている。おそらく多くて20程度だ。
「とはいってもこちらもそろそろ弾切れですし」
 スレダが最後に残った練力を振り絞り、吹雪に変えて白月の周囲のアヤカシに打撃を与える。
「おい、こっちだ!」
 来那が派手な動きで後衛から離れ、アヤカシの一部をひきつけることで白月にかかる圧力を軽減する。
 だが、アヤカシの生き残りのほとんどが強さと大きさを兼ね備えたシアナスネークだ。3体にまとめて向かってこられると防ぎきれない。
 そのとき、淡々と射撃を続けていたバロンが敵陣の決定的な変化に気づく。
 敵陣奥のアヤカシが後退を始めたのだ。熱狂から冷めたようにも見える。
「追う余裕はないな」
 自陣に目をやり、バロンは決断を下す。
 被害は敵の方が巨大ではあるが、こちらもほとんど練力を使い果たしている。このまま追撃を仕掛ければ間違いなく勝てる。が、敵地に深入りすると帰還途中に別のアヤカシ部隊に襲われかねない。そうなれば何人生き残れるか分からない。
「眼前のアヤカシを排除後撤退する。遅れるな!」
 バリスタから矢が飛び出すと同時に、バロンの全身を衝撃が襲う。
 しかしバロンの体はぶれず、曲がらず、次の射撃のための最適な姿勢を保っていた。
「分かりました!」
 バロンの一矢が頭部に命中し大地に縫い止めたシアナスネークの喉元に、白月は両方の踵を揃えて叩きつける。
 地面に首を押し込まれた蛇はうめき声をあげることすらできず、一度だけ全身を痙攣させてから動きを止める。
「行きます」
 ベルナデットが駆け出すと、ほとりは退却していくアヤカシへの攻撃を止め、ベルナデットが狙う蛇だけに射撃を集中させる。
 事前の打ち合わせ抜き、言葉による指示抜きでの見事な連携は、心を通わせた2人にしかできないことかもしれない。
 姉妹の刃と鏃が蛇を貫き、防戦に集中していた来那達が攻勢に転じ、逃げ遅れたシアナスネークに対して一斉攻撃を開始する。
 生きている人間に惹かれ暴走したアヤカシ達は、その実力の半分も発揮できないまま、その力を十分に発揮した開拓者の手で瘴気にまで分解されてしまうのだった。

 8人が後退して先遣隊と合流してから1日後、千人を越える開拓者による大作戦が発動した。