大人気ない人。メンコ編
マスター名:馬車猪
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 易しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/07/06 04:25



■オープニング本文

 世の中には好き勝手にさせるとろくなことをしない人間が存在する。
 とある街に小さな店を構える、2人兄弟の職人もその種の人間だ。
 普段手綱をとっている奥さん達が揃って旅行に出かけたため、暴走を開始してしまったのだ。
「一番すげぇメンコは何かだって? んなもの俺が造ったのに決まってるだろうが」
「ちげーよ俺が造った奴、ってそういう意味じゃねぇよ。どんな材料で、どんな形状で、どんなバランスがいいかって話だよ」
「おめー馬鹿か? 使う人間によって最適なものは変わってくるんだから‥‥」
「だーかーらー。そんな細々した話なんぞ無視して、一番強いメンコは何かって話だよ」
「ガキのようなことを言いやがる」
「でもこういう話好きだろ」
「好きに決まってんだろ馬鹿野郎。いつもうるせぇかーちゃん達もいねぇし、早速造るか!」
「おうともよ」
 かくして男共は暴走する。
 貴重な素材を惜しげもなく使い、大量の失敗作を生み出した末にいくつかの試作品が完成する。
「さすがに鉄製のは俺達じゃ試せねぇな。開拓者呼ぶか」
「馬鹿め。既に依頼は出したわ」
「そうこなくちゃな」
 男二人の馬鹿笑いが不気味に響き渡る。
 そんなことをしているから客が徐々に減ってきているのだが、馬鹿2人は全く気にしないのだった。

「その依頼ですか?」
 開拓者から依頼の詳細説明を求められた係員は、困惑混じりの表情で説明を開始した。
「メンコの試作品を使って開拓者同士で勝負し、最強のメンコを1つ決めて欲しいという依頼です。メンコの材質は鉄、銅、木、各種紙から厚紙に金属を仕込んだものなど、様々な物がそろっているそうです。勝負の前には、開拓者の要望に従って彩色や形状の調整をするという話です。‥‥勝負の方法ですか? ええとですね、依頼人はルール無用の残虐ファイトを希望されていますが、普通に地面に叩き付けあって、ひっくり返った方が負けというルールで良いと思いますよ。依頼人は公序良俗に反する勝負はしなくて良いという条件を承諾されましたから」
 依頼人いわく、ルール無用の残酷ファイトとは、開拓者がその技と力を全力で出し切る勝負を意味するらしい。
 具体的には肉体強化スキルや設置型罠スキルや直接攻撃系スキルが炸裂しまくる感じの勝負。
「勝負の場所は街中の広場に設置された特設会場です。縦横共に大股で10歩程度の石造りの舞台ですが、この舞台は依頼人の持ち物ではないので壊した場合は賠償を求められる可能性があります。‥‥細かく考えずにノリでやった方が良いのではないかと思います。多分」
 係員は完全にさじを投げた表情で、依頼の説明を終えるのだった。


■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
ペケ(ia5365
18歳・女・シ
からす(ia6525
13歳・女・弓
リエット・ネーヴ(ia8814
14歳・女・シ
紅咬 幽矢(ia9197
21歳・男・弓
守紗 刄久郎(ia9521
25歳・男・サ
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ
狸寝入りの平五郎(ib6026
42歳・男・志


■リプレイ本文

●孤高の狸メンコバトルに死す
「まさかこの場に戻ってくることになるとはな」
 狸寝入りの平五郎(ib6026)は初夏の暑い風に吹かれながら、風格漂う顔をわずかにうつむかせていた。
 裏面は小型の畳の3枚重ね。
 表面は狸の置物が描かれた一枚板。
 その間に挟まるのは開拓者である平五郎本人。
 裏面と表面の間は分厚く頑丈な布でふさがれており、平五郎の頭と腕と足が中から突き出ていた。
 いわば、まるごとめんこ。
 言い換えるとメンコ着ぐるみである。
「ふふっ。遅かったじゃないですか」
 石造りの試合会場の中央で、豊かな双丘を大きくそらしたペケ(ia5365)、もとい残虐メンコマイスターペケが平五郎を出迎える。
「今日が私の覇道の始まりです。まずはあなたを倒して他の面々に対する宣戦布告にさせてもらいます」
 残虐メンコマイスター防盾術は己の武器を高々と掲げる。
 形は縦8センチ横5センチの長方形。
 表には、墨痕も鮮やかにXと描かれている、
「私は雷神Xと共に天下を取る! 最初の相手になれたことを光栄に思いなさい!」
 残虐メンコマイスターペケは勢いよく石造りの舞台に雷神Xを叩きつける。
「おお、流石だな。激しく命中したにも関わらずメンコが浮き上がらなかった」
「というと?」
 芋羊羹を肴に銘酒もふ殺しを飲んでいた水鏡絵梨乃(ia0191)が、同じく観客席に座っているからす(ia6525)に問う。
「一見紙製だが、風に吹かれてもびくともしないのは中に重りを仕込んだ結果だろう。しかしそれだけではあの安定性は説明できない」
 からすは、お酒は14歳になってから、と描かれた湯飲みから一口茶を飲み、決戦場の中央に置かれた雷神Xを見据える。
「雷神XにはX型の薄い銅板を埋め込んでいます。いくら平五郎さんがその身をメンコにしようが、いえだからこそ、雷神Xを大地から引き離すことはできません!」
「なんだかすげー自信だじぇ」
 リエット・ネーヴ(ia8814)が観客席から身を乗り出しながら、きらきら輝く瞳をメンコに向けている。
「まあ、床に張り付いているから生半可なことでは引き離せないね」
「超大型化や大重量化でなんとかしようとしていない正攻法だが、普通に強い。着ぐるみ故精度が甘くなっている側の勝ち目は少ないだろう」
「私もようかんー! ありがとうだじぇー!」
 3人は適当に駄弁りながら芋羊羹を次々に消費していく。
「お嬢ちゃん、いいやここは残虐メンコマイスターペケさんと呼ばせてもらおう。確かに見事なメンコだ。だがよ」
 平五郎の口元が凶悪に吊り上がる。
 鬼か大アヤカシかという凶悪な笑みを浮かべたまま、メンコ着ぐるみをまとう平五郎は真後ろに振り返り全力で駆けだした。
「なっ?」
 突然の平五郎の行動に困惑する残虐メンコマイスターペケ。しかしすぐに敵の意図に気づく。
「あの大型のハシゴって大道具じゃないの?」
 つい素に戻ってしまったペケは、呆れ半分感心半分で、高さが20メートル近くもあるハシゴを登っていく平五郎を見上げていた。
「俺は俺のやり方を貫くだけよ!」
 頂点まで上った平五郎はさらに跳躍し、くるりと一回転してから一直線に落下していく。
「かっけー!」
「怪我で済めばいいけど」
 観客席から歓声と悲鳴があがる。
 歓声はリエットを含むお子様達。
 悲鳴はある程度の常識を備えた大きなお友達、もとい大人達だ。
「根性見せたらぁっ!」
 地上20メートル超から落下した場合、舞台と激突する際の衝撃は確実に激化する。
 畳3枚重ね程度では衝撃を殺すことなどできるはずもなく、こっそり使っていた防盾術も焼け石に水だ。
「エーックス!」
 落下の衝撃で埃が舞い上がり、ペケの視界を隠す。
 数秒後に埃が風に流されたときには、衝撃によりわずかに位置がずれた雷神Xと、落下の衝撃で体の中も外も危険な状態になった平五郎の姿があった。
「仕留めきれなかったか。さあ、次はあんたの番だ」
 平五郎は両手両足をぷるぷる震わせながら、声だけは不敵にペケへと告げる。
「凄いね。でも、だからこそ負けられない!」
 残虐メンコマイスターペケは、平五郎の脇を駆け抜けると高々と跳躍し、大型ハシゴを足場にしてさらに高度を上げる。
「必殺雷光の飛沫、サンダースプラーッシュ!」
 雷を伴うメンコが高速で地面に激突し、その名の通りX字に電撃をほとばしらせる。
 メンコ即ち本人な平五郎は石の舞台にしがみついて耐える。
 着ぐるみを選択したのが自分自身である以上泣き言は言わないし、負けるつもりもない。
「耐えたぜ」
 着ぐるみと自身の両方に焦げ目がついているにも関わらず、平五郎は雄々しく立ち上がる。
 平五郎とペケの視線が交錯し、どちらからともなく同時に破顔一笑する。
 着ぐるみは傷ついた体に鞭打ってハシゴを登り、その頂上で高らかに宣言する。
「俺は開拓者、狸寝入りの平五郎だー!」
 世界に対し名乗りをあげると、雷神X目がけて飛び降りる。同時に発動した炎魂縛武により、平五郎の魂がこもった着ぐるみが熱い炎をまとう。
「X! 耐えろー!」
 平五郎の2度目にして最期の落下は、石の舞台に細かな亀裂を生じさせ、雷神Xを半ばまで焼き焦がしていた。
 そして、着ぐるみに描かれた狸が、炎の中で焼け焦げ、消えていく。
「両者ノックアウト! 両者ノックアウトです!」
 薄れゆく意識の中、平五郎は歓喜と感嘆の歓声を確かに感じていた。

●NINJA対サムライ
「よくもここまで盛り上げてくれたもんだ」
 守紗刄久郎(ia9521)は第一戦の後始末がされた舞台に登ると、反対側から登ってきたルンルン・パムポップン(ib0234)ににやりと笑いかける。
 ルンルンは薄着のくせに派手な衣装をひるがえし、バチコーンと派手なウィンクをかました。
「メンコ戦士として、私とこのマジカルフラワーユニコーンは、絶対に負けないんだからっ!」
 ルンルンの手にあるのは、美しくも可愛らしい花々に囲まれて遊ぶ、ユニコーンが描かれたメルヘンチックなメンコ。
 ただしサイズは通常の畳並みだ。
「その挑戦、受けて立つ!」
 刄久郎も仁王立ちで不敵な笑みを返す。
 背中にあるのはルンルンに負けないサイズのメンコだ。
 派手なルンルンのメンコとは正反対に、木目がそのまま残された無骨な木製メンコ。
「刄久郎さん、お互い技の限りをぶつけあい、メンコ界に新たな風を巻き起こしましょう」
「いいだろう!」
 ルンルンと刄久郎は1度だけ握手をかわすと、双方同時に畳大のメンコを構える。
「では、いざ尋常に勝負です!」
 両者同時にメンコを舞台に叩きつける。
 巨大サイズのメンコはその重量により固い守りを誇るが、その大きさのせいで風に大きく影響される。
 勢いの面でわずかに劣っていたルンルンのメルヘンメンコが体勢を崩す。
 が、そのまま負けるほどルンルンは甘くない。
「ルンルン忍法畳み返し‥‥ニンジャに生半可な攻撃は通じないんだからっ」
「審判ー!」
 手と足でメルヘンメンコの軌道を変更したルンルンに対し、刄久郎は審判を捜してツッコミを入れようとする。
「先攻はルンルンだからルール違反ではない。少なくともこの大会ではね」
 案内チラシの裏に書かれていたルールを確認しながら、紅咬幽矢(ia9197)はため息混じりに返答する。
 そうしている間にもルンルンの攻撃は続く。
「行け、マジカルフラワーユニコーン‥‥畳で返しっ!」
 半ば浮き上がっていたメルヘンメンコが高速で舞台に着地し、強烈な風が生じる。
 それは刄久郎のメンコを浮き上がらせかけるが、無骨故に密度が高い刄久郎のメンコは辛うじて耐える。
「やるねぇ。面白くなってきた」
 腕の筋肉を激しく隆起させながら、刄久郎は凄惨な笑みを浮かべ、己のメンコを両手で持ち上げる。
 ルンルンもメルヘンメンコを抱えて駆け出し、大型ハシゴを利用して高々と宙に舞う。
「ジュゲームジュゲームパムポップン‥‥ルンルン忍法真空ハリケーン! 今、嵐となれマジカルフラワーユニコーンっ」
 真空の刃を伴いながら、マジカルフラワーユニコーンが天より駆け下る。
「吹き飛べえぇぇぇぇぇッ!」
 それに対する刄久郎は、地を走る衝撃波を加えた単純な、しかし凄まじい力でメンコを打ち下ろす。
 2つのメンコはぎりぎりで衝突を避けながら、全く勢いを減じず舞台へぶつかる。
「あ」
 そのとき、あーやっちゃった、という感じの間の抜けた声が刄久郎の口から漏れた。
 メルヘンメンコは風に押されて転倒しかかる。
 刄久郎の無骨なメンコは、衝撃波がかすってしまい軌道が変わり、ルンルン忍法真空ハリケーン、ではなく風神による真空の刃に巻き込まれる。
 無骨なメンコは端を切り取られたことでバランスを崩し、主の元へ吹き飛んでいく。
「ぐぬっ」
 刄久郎は横に移動して軽々と無骨なメンコをかわすが、軌道が変わったのは彼のメンコだけではなかった。
「ごめんねっ」
 ルンルンが可愛く謝ると同時に、刄久郎は高速で飛来したメルヘンメンコに押しつぶされていた。

●容赦の無い人たち
「マジカルフラワーユニコーン!」
 ルンルンが悲鳴をあげるがメルヘンメンコの末路は変わらない。
 鉄塊じみた厚さを持つ板が、メルヘンメンコを文字通り粉砕していた。
「おーっとこれは本気で容赦がねぇ。前の戦いで傷ついた所を的確に狙っていったな」
 司会役を押しつけられた刄久郎が、ちびっ子達にまとわりつかれながらも懸命に司会をしている。
「次の選手は水鏡‥‥おっと、面白い形のメンコを持ってきたな」
 ルンルンと入れ替わりで舞台に登った絵梨乃は、一抱えはある芋羊羹にしか見えない物を片手で運んでいた。
「ふふ、よろしく。酒を飲まれてしまったからといって負けろとは言いませんが」
「手加減するような間柄ではないだろ」
 からすも絵梨乃も、穏やかと表現すべき柔らかな微笑みを浮かべている。
「おい、殺気飛ばすな。がきんちょ共が怖がるだろうが」
 刄久郎は小声で2人に注意を促すが、2人とも聞いていない。
「後攻だったのを恨んでも良いよ」
 塗装を除けば全金属製の芋羊羹型メンコを、まるで蹴鞠の鞠であるかのように、片手で軽々と宙に飛ばす。
 絵梨乃はその場で跳躍して芋羊羹型メンコを追い越し、両足を揃えてメンコに叩き付ける。
「絶破降龍札返しッ!」
 青い閃光が龍のようにほとばしり、猛烈な速度で飛ぶ芋羊羹型メンコを追い越していく。
「舞台の破壊を厭わないとは」
「もう俺はつっこまねぇぞ」
 感心してうなずくからすに呆れ、刄久郎は司会を放棄して近くにいた客の避難誘導を開始していた。
「耐えた?」
 結果を確認した絵梨乃の眉がしかめられる。
 からすのメンコは一応はメンコとして作られており、上方から加えられた力を受け流すことはある程度可能だった。
「ぎりぎりだが」
 かなりぼろくなったメンコを拾い上げ、もふらが描かれた面にある金具に鉄の矢を装着する。
「あと一撃ならば耐えられる」
 おもむろに機械弓をガシャンと取り出し、メンコと合体した鉄の矢を装填する。
「ちょっと離れたほうがよいぞ?」
 勝負ではあっても戦闘ではないので、からすは十分な時間をかけて敵の状態を確認し、己の矢とメンコが発生させるであろう衝撃を考慮に入れつつ発射位置と角度を検討する。
 それから1分後、からすはあくまで冷静に引き金を引いた。
「流星砲」
 鉄製メンコが無理矢理に発射される。
 無理矢理とはいっても発射装置である機械弓の威力は凄まじく、メンコは急加速して猛烈な速度で芋羊羹型メンコに迫る。
 衝撃波も伴っており、仮にからすのメンコ本体に耐えたとしても衝撃波でとどめを刺す二段構えの策だ。
 からすは結果を確かめるために舞台に悠然と視線を向け、予想外の結果に目を見開いた。
「爪楊枝が無ければ危なかった」
 芋羊羹型メンコから伸びる、爪楊枝を模した突起物が、舞台に生じた亀裂に食い込んでメンコの転倒を防いでいた。
 逆にからすのメンコは、勢いをそらされた結果舞台の上から転がり落ちてしまっていた。
「戦場の把握が甘かった。不覚」
 からすは一度頭を振ると、そのまま退場していくのだった。

●大人げない人
「よろしくだじぇ!」
 リエットが元気に手を振ると、幽矢は曖昧な笑みを浮かべて手を振り返す。
「よろしくね? ははは‥‥元気いいなあ」
 深く考えずに選んだ通常型のメンコを手に、雄々しい筆致で柳と蛙が描かれたメンコを見下ろす。
「ボクが先攻だね。行くよ」
 普通に力を入れて、普通にメンコを叩き付ける。
 開拓者の力で繰り出されたそれはたいした勢いではあったが、これまで戦ってきた面と比べると気合いの面で圧倒的に劣っていた。
 素材は紙のみで素朴な形状なリエットのメンコは、襲いかかってきた衝撃に楽々と耐える。リエットはにこにこと微笑みながら自分のメンコを取り上げ、むんと気合いを入れて構える。
「僕のぉ、メンコが光って唸るっ! 雨季の力をみせてやるじぇ!」
 メンコの蛙が舞台に触れると同時に水柱が出現する。
 溢れる水は幽矢のメンコを極自然に押し流し、極自然に舞台の袖から地面へ運んでいった。
「ぶーぶー。弱すぎるぞー」
「そーだそーだ」
「見せ場は作りなさい」
 観客席に紛れ込んでいた依頼人の職人兄弟と、メンコが半壊していたためリエットにあっさり負けた絵梨乃がヤジを飛ばす。
「もう一度、やる?」
 微妙に申し訳なさそうな顔をしたリエットがたずねると、幽矢は顔をひきつらせながらうなずくのだった。

●すごく大人げない人達
「何故だ。弓術師の力を使っているのに何故? ええい、次のメンコを持ってくるんだ!」
 派手な戦いが出来てきゃっほー、と喜んでいるリエットとは対照的に、幽矢は激しく荒れていた。
「今度は乾季の力だじぇ!」
 吹き荒れる炎が幽矢の鉄製メンコを吹き飛ばし、そのついでに焼き溶かす。
「くっ、何ボサッとしてんのさ‥‥! あんたのメンコってこんなもん? 鍛冶屋に行って鍛えてきなよ」
「よし分かった。これでどうだ」
 幽矢に怒りを向けられた依頼人は、指を2本立てながら、からすが注文したメンコと同型のそれを幽矢に渡す。
 荒々しい手つきで支払いを終えると、幽矢は目をきらきらさせて次の勝負を待つリエットに向かっていくのだった。
 客の無茶な要求に耐えられる職人は、ときに荒稼ぎすることができる。
 たとえば、大人の財力を大人げないことに大量につぎ込む人間に次々物を売りつけるなどして。
 今回のメンコバトルでこの街の一部好事家が少年の心を取り戻し、依頼人に大量の利益をもたらすのは、また別の話である。