小鬼の山、山、山、山
マスター名:馬車猪
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/07/04 23:35



■オープニング本文

「こちらも小鬼の討伐依頼?」
 開拓者ギルド係員は、ほぼ同一内容の依頼が複数来ていることに気付いて眉を寄せた。
「偶然かもしれないけれど、いくらなんでも数が多すぎるような」
 それぞれ1つの依頼としてギルドに張り出しても良いのだが、係員の良く言えば慎重な、悪く言えば猜疑心の強い性格が邪魔をする。
「アヤカシの種類以外に共通点は‥‥」
 現地にいると思われる小鬼の数は、それぞれの依頼でかなり異なっている。
 係員はしつこく時間をかけて複数の依頼書を確認し続け、夜明けが近い時間帯にようやく気付いた。
「まさかこれ、発生ヶ所が1つの山の周辺っ?」
 徹夜明けのハイテンションの勢いで、広範囲の地形が載った地図を無理矢理借りてくる。
 予想は、完全に当たっていた。
 係員の顔から血の気が引いていく。
 同一の個体が複数の場所に出没した可能性もあるが、それを考慮に入れた場合でも小鬼の総数は3桁近い。
 小鬼以外が確認されていないのは不幸中の幸いかもしれないが、いつまで幸いが続いてくれるか考えると非常に頭が痛い。
「2徹決定か。私もう若くないのに」
 係員は冷め切った茶を飲み干すと、関係各所に話を通すため動き始めるのだった。

「小鬼を可能な限り減らして下さい」
 その言葉を聞いた開拓者達は、不審がる表情になる。
 アヤカシである以上油断はできないものの、小鬼は戦闘力が低いため全滅させることがほとんどだからだ。
「小鬼の所在地はこの山です」
 開拓者からの視線が集まったところで地図を取り出す。
 縦横それぞれ1キロメートル程度、ふもとと頂上の高度差が200メートル台という、かなり険しい山が記載されていた。
「既に付近一帯では立ち入りが制限されています。アーマーやグライダーを含む朋友の持ち込みも許可されていますが、運用の際は山からあまり離れないようにしてください。また、誠に申し訳ないのですが、現地で行動可能な期間は到着した日から数えて3日です」
 禿げ山ならともかく、10メートルを超える杉などが大量に生えている山を3日で捜索し終えるのは、至難を通り越して無茶苦茶かもしれない。
「小鬼の数は3桁に達すると思われます。実際に何体いるかは分かりません。小鬼の戦闘能力は下の下ですが、大量の数が集まれば話は別です。無事の生還を期待しています」
 係員は目の下の濃い隈を隠しもせず、深々と頭を下げた。


■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
焔 龍牙(ia0904
25歳・男・サ
滝月 玲(ia1409
19歳・男・シ
シャンテ・ラインハルト(ib0069
16歳・女・吟
オドゥノール(ib0479
15歳・女・騎
朽葉・生(ib2229
19歳・女・魔
セシリア=L=モルゲン(ib5665
24歳・女・ジ
凹次郎(ib6668
15歳・男・サ


■リプレイ本文

●登山道
 ほぼ直線の軌道を描いた矢は小鬼を貫通し、急斜面に根を這わせる木の幹に突きたった。
「多少の距離など無いのと同じだ。どちらにとってもな」
 焔龍牙(ia0904)は次々に矢を放ちながら渋い表情を浮かべていた。
「退路をふさぐという段階ではありませんね」
 シャンテ・ラインハルト(ib0069)は銀の横笛を手にしたまま困惑している。
 龍牙に射貫かれた小鬼が斜面から転がり落ち、それに巻き込まれて無傷の小鬼が転落し、岩や土砂と入り交じりながら転げ落ちてきている。
 前進して精霊の狂想曲を奏でれば40体ほどまとめて混乱状態に陥らせることができそうだが、そんなことをすれば小鬼による土砂崩れが発生しかねない。
 ここは険しい山の南側にある激しく蛇行する細い登山道。
 小鬼がいるのは登山道に隣接する傾斜のきつい斜面だ。
「すまんが大規模な術は今の攻勢をしのいでから頼む」
「分かっています」
 シャンテがうなずくと、霊騎カプリスは横座りで己に乗る主人を揺らさぬよう注意しつつ、静かに登山道を後退する。
「傾斜が緩い側でこれだなんてね」
 シャンテと入れ替わりで前進した水鏡絵梨乃(ia0191)は、新鮮な残り香を漂わせる瓶をその場に転がしながら前を見る。
 近い小鬼は現在地から30メートルほど、最も遠くに見える小鬼は現在地から100メートルほど離れている。
「きりが無いな。汪牙! 一挙に片付けろ!」
 二対の翼を持つケモノが空から急降下し、おっかなびっくり斜面を降りる小鬼に真空の刃をお見舞いする。
 一撃で両断とはいかないかったが、足に深い傷を負った小鬼は転倒し、斜面から突き出ていた岩に頭部をぶつけ、転がりなら瘴気に戻って霧散していく。
 龍牙に従う迅鷹は初陣での初戦果に驕らず、再び高度を上げて主人の命令を待つ。
「強いじゃない。あんたも負けられないわね」
 汪牙の活躍を見た絵梨乃がからかうように言うと、彼女に使える迅鷹の花月は、主人の足をくちばしで軽く突いてから、輝く光となって絵梨乃の足と同化する。
「行くわよ!」
 絵梨乃が登山道脇の坂に足を踏み入れると同時に、龍牙は弓から剣に持ち替えつつ登山道を駆け上っていく。
 その後をシャンテを乗せたカプリスと、凹次郎(ib6668)が続く。
「はぁっ」
 絵梨乃が位置を調節しながら踏み込むと、発生した衝撃波が斜面を崩さず小鬼だけを打ち砕き斜面から吹き飛ばす。
 小鬼の残骸は斜面にぶつかるより早く霧散はするものの、回数を重ねていけばどうなるかは分からない。
「待ち伏せでござるか。包囲が甘いのは所詮小鬼というところでござるが」
 凹次郎は霊騎ハリールを巧みに操り、徒歩の龍牙と歩調をあわせながら長柄の得物を振るう。
 それは通常ならば馬上で振るうには大きすぎる代物だったが、二天を身につけた凹次郎にはあてはまらない。
 開拓者を食い止めるため登山道を塞ぐよう展開していた小鬼のうちの1体を、文字通り粉砕する。
「全員移動を完了した。派手にやれ!」
 龍牙が叫ぶと、絵梨乃が突っ込んでいった方向から連続して何かが炸裂する音が響く。
 それから数秒後、つい先程まで開拓者達がいた場所に、小鬼が使っていた粗末な棍棒や、小鬼が予め用意していたらしい岩が混じった土砂が滑り落ちてくる。
「焔龍桔梗斬!」
 登山道を駆け下りてきた小鬼の一隊に対し、龍牙は阿修羅の銘を持つ太刀を一閃させる。
 小鬼の隊は4体からなっていたが、連続で放たれたカマイタチに2体の首を飛ばされ、残る2体も驚き戸惑う間に追撃を受けて先の2体の後を追う。
「近くに敵影は無し。日が暮れるまでに山小屋にたどり着くぞ」
 心眼で周囲に小鬼の生き残りがいないのを確認し、龍牙は皆の先頭に立って先を急ぐのだった。

●山小屋奪回
 光を反射しない黒い鱗で身を固めた駿龍が、翼を畳んで急降下を開始する。
 物音に気付いて山小屋から顔を出した小鬼は、敵の気配を感じつつも敵がどこにいるか分からず、首をひねりながら無防備に小屋の外に出る。
 そして、緑色に濡れた穂先が突き出される。
 駿龍ゾリグは地面との激突を避けるために急減速するが、ゾリグを駆るオドゥノール(ib0479)は槍の一振りで小鬼の上半身をまとめて砕いていた。
「小屋の内部に敵影無し」
「承知」
 オドゥノールの声に応えたのは、上空で駿龍ボレアと共に待機していた朽葉・生(ib2229)だった。
 山小屋の入り口を塞ぐようにして鉄壁を出現させ、突然の奇襲に慌てふためく小鬼の群の逃げ道をふさぐ。
「ンフフ。寝床はしっかり確保しないとねェ」
 セシリア=L=モルゲン(ib5665)は生と同様に上空に陣取ったまま、連続で結界呪符「黒」を発動させていく。
 小屋という防御施設への退路を無くした小鬼達は、険しい山という天然の城塞に逃げ込もうとするが、進路に次々に現れる黒い壁によりみるみる退路を無くしていく。
「小鬼とはいっても、ちゃんと可愛がらないとねェ。ンフフッ!」
 艶と暴の気配が溶け合いひとつになり、セシリアの豊満な肢体から滲み出てくるようだった。
 彼女は移動を炎龍である蛇龍に任せ、自分自身は蛇の形をした式を打ち、壁を避けて逃げ出そうとする小鬼を狩っていく。
 風に混じりだしたかすかな血臭を感じ取りながら、セシリアは含み笑いを続けていく。
「たしかにこれを放っておいては、周辺の迷惑以外の何者でもないな。数が多すぎる」
 ゾリグを壁の上で旋回させながら、オドゥノールは壁に攻撃をしかけようとする小鬼を見つけては魔槍を振り下ろし、少しでも包囲を長続きさせようとする。
 オドゥノールの槍が間に合わないときはゾリグがソニックブームで仕留めているが、翌日以降も戦闘があることを考えると、ゾリグの練力の残りが少し頼りない。
「助かります。ボレア!」
 それまで鉄壁を連続で出現させていた生が声をかけると、ボレアは主の意に従い壁に囲まれた空間に接近する。
 龍と人間が己の得物が届く距離にやって来たことに気付き、小鬼達がボレア達主従に飛びかかり押しつぶそうとする。
 しかし小鬼にとっては残念なことに、役者が違いすぎた。
 生がブリザーストームを発動させ、90度の扇状に広がる吹雪が壁ごと小鬼達を吹き飛ばす。吹雪が止む瞬間にボレアが90度旋回し、再度生が発動させた吹雪が90度の角度の範囲の全てなぎ倒す。
「ンフフ。ほとんどとられてしまったわね」
 最後に残った3体のうち2体をセシリアが仕留め、1体をオドゥノールが槍で葬り去る。
「大丈夫ですか」
 オドゥノールは己の龍を生の側に寄せた。
 消耗が大きな術を連続で何度も使用したためか、生の顔色は良くない。
 生と同じくらい術を連発したセシリアは、さっそく地面に降りたって瘴気回収を使い練力の回復に努めている。
「不作法かもしれませんが今練力を補給します」
 高性能な練力回復効果を持つ節分豆を生が取り出すと、オドゥノールは安堵してこくりとうなずくのだった。

●魅惑の料理
「出来たぞ」
 滝月玲(ia1409)が言うより早く、山小屋の側にある簡易かまどの前に開拓者達が集まってくる。
 かまどで熱せられているのは2つの鍋。
 1つは白米を炊いたものであり、もう1つは肉と野菜に大量の香辛料を加えた贅沢な食べ物だ。
 木皿に盛られた艶やかな白米とそれの組み合わせは、開拓者達の食欲を激しく煽っていた。
「ラインハルト殿の霊騎は、水が足りているでござるか?」
 夕食を受け取りながら凹次郎がたずねると、シャンテは少し暗い顔になる。
「今日だけならば、なんとか。明日以降は水場を見つけられないと‥‥」
「そのときは拙者が持ってきた分を使って下され」
 凹次郎は念のため複数の水筒を持ってきており、彼の愛馬のハリールは充分な水分をとれて快調だ。
 主人が大量の岩清水を持ってきたボレアも快調だが、他の朋友の面々は不調になるほどではないが水がやや不足しているようだ。
「これだけ緑が濃いなら確実に湧水はあるだろう。いずれにせよお腹がすいては鬼退治どころじゃない。まずは腹ごしらえといこう」
 玲に促され、開拓者達は魅惑のスパイシー料理に手を伸ばすのだった。

●夜襲の跡
「予想以上に知恵が回る」
 玲は大刀を鞘に収めると、鋭い視線で周囲を見渡した。
 山小屋の周辺には短くも激しい戦闘の痕跡があり、所々の地面が大きくえぐれている。
「ボクは体力的には問題ないけど、練力がね」
 絵梨乃は手についた埃をはらいながら、かなり深刻な表情でつぶやく。
「俺は汪牙が心配だ。夜襲を警戒しながらでは練力も体力も、な」
 龍牙は小鬼がはまった落とし穴に再度の偽装を施し、次の日に備える。
 玲は予め仕掛けておいたものの小鬼に回避された鳴子の罠を、最初とは違う場所にしかけながら口を開く。
「今日は俺まで手番が回ってこなかった。明日は俺が大目に担当するさ」
「ああ」
「頼む」
 不寝番を続ける玲に礼を述べると、龍牙達は朋友を落ち着かせてから日の出まで仮眠をとるのであった。

●2日目夕方
 涼やかな音色が精霊を揺り動かし、広範囲へと影響を与える術を発動させる。
 それは聞く者の精神を冒し混乱に導く狂想曲であったが、精神混乱に伴う知覚攻撃だけで十分すぎた。
 シャンテはゆっくり時間をかけて揺り動かした精霊を鎮めてから、静かに横笛を下ろした。
「水の音がします」
「今日はここまででござるな。行ってくるでござる」
 シャンテの言葉に凹次郎が答え、空の水筒を手に沢へと向かう。
「ンフフ‥‥。ちょっと欲求不足ねェ」
「今日の不寝番で体力を使うから大丈夫だろう?」
 玲がからかうように言うと、セシリアは妖艶に微笑んでから凹次郎の後を追った。

●撤退開始
「ボレア、お前は移動に徹しろ」
 主人のために戦いたがる駿龍をなだめながら、生はこの日10度目になるブリザーストームを放った。
 巻き込んだ杉の幹が変色し、効果範囲内の小鬼は抵抗も出来ずに全滅する。しかし木々の合間から別の小鬼の群が見える。
「40の倍は倒しているのだぞ」
 消耗を避けるため、魔槍から弓に持ち替えたオドゥノールが頬を伝う汗をぬぐう。
「多く減らせることを喜ぶしかないな。しかしこの山、魔の森になりかけてるんじゃあないだろうな‥‥」
 冗談めかせて口にする玲だったが、その表情は深刻だ。
「瘴気の密度からしてそれは無いわねェ。準備が出来たわよォ、ンフフ!」
 瘴気回収による練力回復速度にものをいわせて大量の壁を作り出したセシリアは、横に並べられた結果数十メートルの幅を持つに至った壁の向こうから声をかける。
「お先に失礼するでござる」
 凹次郎は追いすがる小鬼に一太刀ずつくれてやり、追っ手を討ち果たしてから巨大な壁の端からふもとへと降りていく。
「悪い。俺も行く」
 龍牙は汪牙に先に行かせてから、少し助走してから己の体を宙へと跳ね上げる。
 さすがに1度では飛び越えられなかったが、1度壁を蹴り、手を上に伸ばすことで壁の上に手をかける。そのまま危なげなく壁を飛び越え、ふもとへと向かう。
「後はよろしく」
 花月を己の足に合体させたままの絵梨乃は、ほぼ助走無しで龍牙の後を追い壁を飛び越え、撤退していく。
「俺達が殿か。鬼は鬼でも小鬼というのは物足りないが」
 己に近づいた小鬼を桔梗で葬りながら、玲は不敵に笑った。
「次が最後です。いきますよ!」
「おう」
「承知しました」
 生が上空から小鬼の群の行く手に吹雪を叩き付けると同時に、生とオドゥノールが己の龍と共に壁を飛び越えて壁の向こう側に撤退。
 吹雪が止むと同時に生の龍が撤退を開始し、開拓者達は全員の撤退を完了するのだった。

●鎮まる山裾
 3時間にわたる精霊の聖歌の演奏が終わると、誰からともなく安堵のため息がもれた。
「これで、この場所ではアヤカシは発生しません。残念ながら小鬼が山から下りてくるのを防ぐことはできません」
 シャンテが申し訳なさそうに頭を下げると、この付近を治める領主から派遣されてきた役人が一礼して感謝の言葉を述べる。
「十分です。予想以上に危険だった場所に攻め入り、その大部分を討ち取っていただけたのです。後のことは我等にお任せ下さい。‥‥もし再度の討伐ということになれば、よろしくお願いしたいですが」
 役人が悪戯っぽく微笑むと、少しは気が楽になったのか、シャンテも穏やかに微笑みを返す。
「予想外に手応えがあったな」
 玲の言葉に開拓者達はそれぞれのやり方で同意を示す。
 小鬼の大群は面倒な面はあっても強敵ではない。事実、最後に戦った群も撤退時には9割方討ち取っている。全滅させなかったのは時間制限の関係で後続を警戒したためだ。
 強敵だったのは、山そのものだ。
 水と食料の準備は面倒だわ索敵に余計な手間はかかるわで、今回は戦闘以外の苦労が9割を超えていた気さえする。
「参りましょう」
 シャンテが霊騎カプリスに騎乗すると、開拓者達は役人に軽く挨拶してから帰路へつくのだった。