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■オープニング本文 魚じみた姿の村人が夜な夜な怪しい儀式を繰り返している。 そんな宣伝文句で、夏の間だけ怪奇的な出し物をして金を稼いでいる村があった。 金の有り余った商家の若旦那や、怖いもの見たさの若い男女が今年も出向き、そして、誰一人帰らなかったのだ。 最初に気づいたのは商家の丁稚達で、若旦那を村まで迎えにやらされ、異様な気配に怖じ気づいてそのまま帰ってきた。 商家の大旦那からは大目玉を食らったものの丁稚達の判断は結果的に正しかった。 地元領主が派遣した私兵団が、村から現れた異形におそわれて大きな被害を出したのだから。 ●チラシ ゆうれいせんがやってきた。 船の中にはお化けがうごきまわっているぞ。れいげんあらたかな砂をぶつけてやっつけよう。 (砂の持ち込みはご遠慮させていただきます。宿で1回分10文で販売しております) ●チラシ じゃあくなぎしきがおこなわれているぞ。とらわれのおひめさまをたすけだそう。 (順路に従って行動してください。儀式担当者に怪我を負わせると治療費等請求させていただきます) ●依頼 異変が起きた漁村に向かい、生存者がいた場合は1人でも多く救出してほしい。 生存者がいなかった場合に限り、依頼は救出依頼から討伐依頼に切り替わる。その場合は原因を1つ残らず根絶してほしい。 |
■参加者一覧
ペケ(ia5365)
18歳・女・シ
将門(ib1770)
25歳・男・サ
ラグナ・グラウシード(ib8459)
19歳・男・騎
雪邑 レイ(ib9856)
18歳・男・陰
マルガリータ・ナヴァラ(ib9900)
20歳・女・魔
黒月 拓魔(ib9921)
21歳・男・砲 |
■リプレイ本文 ●死んだ村 観光収入が収入の半分近くを占める村らしく、外から見える村は綺麗に清掃されていた。 地元貴族の私兵団が村の解放のために攻め込んだ痕跡まで、完全に消されてしまっていた。 「うっぷ」 擬音を口にしてから、ペケ(ia5365)はマフラーを口元に巻き改めて村を注視する。 人影はなく、民家も集会所も壊れていない。村の奥、海岸にある船にも異常は見えない。 だがこの村の異常を感じ取れない者はいないだろう。 「腐敗臭が致死量越えてるカンジです。具体的には刺激が強すぎて涙がでそう」 気合いで涙を止めているが、この調子では我慢の限界は近そうだ。 「提案がありますわ」 息を乱さないぎりぎりの早さで駆けながら、エルフ耳に洒落た飾りをつけたマルガリータ・ナヴァラ(ib9900)が口を開く。 「どうみても異変が起きているようですし、集会所にこもるのはやめた方がいいでしょう。作戦案はBでお願いしますわ」 人気のない村。静まり返ったその場所は、足を踏み入れた者を狂気に誘いそうな雰囲気さえ漂う。事前に相談していた作戦案のうち、彼女は後者としていた方を提案する。 「ふむ。確かにこの状況で、留守番を置くのは得策ではないな‥‥」 雪邑レイ(ib9856)が頷いた。この状況では、事前に考えていた『集会場に留守番を置いて探索』は、得策ではないだろう。むしろ、仲間を危険にさらしてしまう事になる。 「どう見ても敵か危ないものが潜んでいるようですし、戦うつもりでいきましょう。念のため遅滞戦術の準備もして」 マルガリータの頭に、『全滅』の二文字がよぎったが、あえて言わなかった。それよりも、探索を続ける方が優先だ。 「異論は無い。ところでアヤカシの正体に心当たりのあるものはいるか」 走り続けたままレイがたずねると、黒月拓魔(ib9921)が軽快に足を動かしながら答えた。 「不死系なのは確かだろ。臭うのは屍人(ゾンビ)、食屍鬼(グール)、死竜(ドラゴンゾンビ)。腐りかけが蘇屍鬼(ワイト)。死竜なら撃退たれた私兵達が気づくだろうから…。畜生、そういうことか」 屍人、食屍鬼、蘇屍鬼に共通する能力を思い出し、拓魔はレイの言いたいことを察してしまう。 「ンー、宿っぽいのと集会所っぽいのから足音がしますね。民家は、走りながらだとちょっと自信ないです」 ペケが耳による偵察結果を報告する。だがそれが生存者を意味する可能性が極小であることを、開拓者全員が知っていた。 「ワイトの可能性を考慮に入れて行動しましょう」 可能性が極小でも、諦めるつもりはない。 「アヤカシが感染能力を持っている可能性がある以上、より急ぐ必要があります。特に前衛のお二人の負担が大きくなりますが」 「へっ。望むところだ」 「このまま止まらず仕掛けるぞ」 ラグナ・グラウシード(ib8459)は荒々しく、将門(ib1770)は淡々とマルガリータの提案を受け容れた。 村を囲む柵を跳び越え、開拓者達は死臭漂う戦場に突入する。 まず目指したのはホラーな演目ののぼりが多数周囲に立てられている集会所だ。 その堅く閉ざされた扉に、将門が正面から激突する。 常人なら跳ね返されて地面に倒れ込んだだろうが、将門は高位開拓者でしかも前衛職だ。激突の衝撃で1メートルほど後退するのと引き替えに、真新しく頑丈だった扉を派手に粉砕することに成功する。 「開拓者ですよ〜、助かりたいかたは反応してください〜」 ペケは俊敏な身のこなしで前衛2人を追い抜き、一見無造作にもみえる動きで扉の残骸を越えて中へ入り込み、そのままくるりと180度回転して戻ってくる。 「どうですの…と、聞くまでもありませんわね」 マルガリータは一瞬だけ目を閉じて黙祷を捧げ、即座に精神を立て直して高々と杖を掲げる。 「新しい伝説の始まりですわ! いきますわよ」 魔杖「ヴィエディマ」からほとばしる雷が、既に終わった村での最期の戦いの始まりを告げた。 ●突入 集会所の薄暗がりを風の刃が切り裂き、複数方向から入り口に殺到しようとしていたワイトに炸裂する。 凄腕シノビによる広範囲攻撃は適確かつ強力であり、ワイトの四肢に重大なダメージを与えることに成功した。 が、ワイトはひるみもせずに開拓者に殺到してくる。 「見ていてくれよ、うさみたん。あっという間に終わらせてやる」 最悪の現場で空気を和ませるために自らが背負うぬいぐるみに一声かけてから、ラグナが先頭に立って集会所の中に飛び込もうとする。 ぱっと見ただけで10近くいるワイト達が一斉にラグナに襲いかかってくる。 「この程度の攻撃に当たるものかよっ」 深紅の両手剣を半ば盾のように扱い、力はあるが狙いの甘いワイトの拳を防いでいく。 騎士にとっての基本的な技術であるガード。歴戦を積み重ねたラグナは、そのスキルを最大限活かす術を身につけていた。 「んじゃ、ちゃっちゃと済ませようぜ!」 左手に火打宝珠式短銃、右手に予備の短刀を構えた拓魔が、恐れ気も無く前進を開始する。 扉の残骸がまき散らされた扉跡ではラグナとワイト達の激戦が繰り広げられている。しかしそのまま勢いを緩めず跳躍して乱戦をすり抜ける。 「攻勢に移りますわ」 マルガリータは雷の術の行使頻度を増やしていく。できれば威力のあるファイヤーボールを使いたいところだが、生存者の有無を確認できていない状況では使う訳にはいかなかった。 「誰かいないか」 建物の奥に踏み込み拓魔が呼びかける。 猛烈な臭気に支配された集会所の中には、血で黒く染まったチラシと損壊が激しすぎてアヤカシに冒されなかった遺体が4人分散らばっていた。 生きているものの気配は、無い。 「はっ」 アヤカシに対する怒りを呼気に乗せ、鋭く吐く。 「やりやがったな」 柱の影から飛び出して来た腕を右の刃で弾き、利き腕と自身の最大攻撃力を守りながら回避する。 そして、銃口をワイトのこめかみに正確に向け、そっと引き金を引く。 撃つ前の段階でのフェイントに引っかかっていたワイトは、回避のため体を動かそうとするが間に合わない。銃弾は頭部の一部を破壊し、ワイトは一時的にではあるが拓魔を見失う。 「生存者無し」 急いで再装填しながら、乱戦が続く入り口に呼びかける。 「ラグナが耐えている間に後退してくださいな」 屋外にいるマルガリータが連続で術を発動し続け、拓魔が重傷を負わせたワイトに雷を浴びせていく。頑丈なワイトは一度や二度ではふらつきもしなかったが、十数秒連続して雷を浴びせられた後、焦げ臭い煙と共に床に倒れ伏すことになる。 拓魔は入り口に向かって駆けだし、ラグナに背を向けて迎撃に向かってきたワイトに銃弾を浴びせてから、再びアヤカシ達をすり抜けて屋外に出る。 「先に行く」 「応よ。闇に捕われた村人は私が抑える。おまえは1人でも多く助けろ」 腐りかけた拳や蹴りを巧みに防ぎながら、ラグナは民家に向かう拓魔にエールを送るのだった。 ●抵抗 炎をまとう刃が2回振るわれると、分厚い筋肉で守られていたワイトが半ば断ち切られて地面に転がった。 将門は1つの遺体がアヤカシから解放されたことに内心安堵し、しかし態度には出さずに周囲の状況を確認する。 ラグナとマルガリータが集会場の中のアヤカシ達を押さえ込み、ペケと拓魔は西側にある民家の確認に向かっている。 「宿の中に生存者無し。死後数日経過している模様」 式経由で収集した情報を口頭で伝えてから、レイは新たな符を取り出し、練力と引き替えに白いキジバト型の式を作り出す。 人魂は持続時間の割に練力消費量が多いので長距離や長時間の偵察には向かないが、小回りがきいて使い捨て可能なので、近くの家の中に敵が潜んでいるかどうか確かめるには最適の術だ。 キジバト型を思考で操作し、戸と雨戸で締め切られた民家の煙突から中に潜り込ませる。 式の目を通して、アヤカシに遺体を操られた母子が薄暗い室内で縄を結っている光景が伝わってきた。 「蘇屍鬼2。生存者確認できず」 声が怒りで震えないよう、精神力を振り絞る必要が有った。 「そうか。一旦アヤカシを無視して我々は北に停泊中の船を…」 将門が次の行動を提案しようとしたとき、西から銃声と術の発動音が何度か響いてくる。やがてペケが姿を現し、生存者がいなかったことをハンドサインで伝えてきた。 「後は北側だな」 「ああ」 ラグナが力尽きる前に生存者の捜索を終わらせる必要が有る。 前衛将門、後衛レイの隊列で駆け足で移動し、桟橋の手前まで来たところで、2人は既にこの村が滅んでいたことに気づかされた。 船を使って逃げようとした村人がいたためか、何らかの手段で抵抗した結果かは分からないが、船の側面がほとんど破壊されていたのだ。当然、船の中にあるすべてのものが外から見える。催し物用の仕掛けと、遺骸と、ワイトだ。 2人に気づいたアヤカシが一斉に振り向き、死に損ないの扮装をした死骸を操り2人に向かってくる。おそらく生前よりも速い。 「来い」 将門は咆哮を発動してアヤカシの狙いを自らに引きつける。 桟橋を飛び越えるようにして突進してきたワイトの動きを読み、大振りの拳を余裕をもって回避し、強烈な刃の一撃を叩き込む。ワイトがしぶとすぎるため将門の一撃でも倒れないとはいえ、二度、三度と繰り返せば確実に葬ることができる。問題は、時間がかかると他の方面に援護に行けなくなることだ。 「設置完了。真後ろには仕掛けていない」 少し後方で術を仕掛けていたレイが報告すると、将門は体を全く揺らさない見事な動きで、視線をアヤカシに向けたまま後退していく。 ワイトは将門を追い、包囲して一気に仕留めようとして広がり、レイが仕掛けていた地縛霊の射程に踏み込むことになる。 1つのワイトにつき数個の衝撃波が命中する。 1つ1つでは到底倒しきれない。だが複数の攻撃が命中すればワイトの体が損傷するし、そうなれば将門が容易にとどめを刺すことができる。 「青き炎よ、魔性を滅せよ」 残り少なくなったワイトを、レイが放った燃えさかる式が焼くのだった。 ●終わった村 ラグナが重量級両手剣を振るって血を落とすのと、最後に残ったワイトが存在できなくなったのはほぼ同時だった。 ひざまずき、遺体の目を閉じてやってから、ラグナは無言のまま立ち上がり集会所を後にする。 背中のぬいぐるみを見せるつもりだった相手は、既にいなかった。 「終わりましたわ」 後衛だったため目立った汚れのない、しかし目に見えて疲労したマルガリータが声をかけてくる。彼女の背後には、マントや引き抜いたのぼりで覆われた遺体が複数並んでいた。 「宿も家も全て調査終了。情報にあった村人は全員確認済み。感染源と思われる古めの遺体も1つありましたね」 ペケの報告を聞き、誰からともなく重い息を吐く。 地獄の中に踏み込み、力を以て終わらせた開拓者達は、重い足取りで帰路につく。 この翌日。地元領主とその私兵達により村人の埋葬と村の焼却が行われた。 |