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■オープニング本文 アル=カマルは暑い。 夏は特に暑い。 枝に大量の氷を実らせた樹木型アヤカシがお宝に見えてしまうほど暑いのだ。 ●討伐依頼 「アイスツリーって知ってます?」 うちわで自分を扇ぎながら、開拓者ギルド内で係員が話しかけてくる。 下級アヤカシアイスツリー。 氷弾を40と数メートル飛ばしてきたり、樹木型のくせ移動可能でしかも頑丈で攻撃が効きにくいという面倒な相手ではあるが、知性が虫並なので比較的たやすい相手ではある。 「サボテン風のアイスツリーがアルカマルの田舎に現れたみたいなんですが、とても面倒臭い状況になっているようなんです」 氷を実らせる木を手に入れて一攫千金を手に入れようと、山師や物見高い人々がアイスツリーを探しているというのだ。 アイスツリーがアヤカシであることを知っている者に止められた者もいたが、欲に目がくらんだ彼等はアイスツリーをアヤカシではないと思い込んでしまっており、無謀な行為を止めようとはしない。 「アヤカシにやられても自業自得な気もしますけど、放っておく訳にもいきません。また、アイスツリーが出没するのは通常のサボテンが多数生えている礫砂漠です。アヤカシや山師に大量に切り倒されると環境に悪影響が出かねませんので、最低でも半分程度はのこるようにことを運んで下さい。…依頼人である地元の御領主様によると、山師や見物人に水や氷や食料を売りつけても税とかはとらないそうです。死人がでなければ余程のことが起きない限り不問にする旨書面で了解を得ていますので、うまくすればかなり儲かるかもしれないですね」 ギルド係員は言いたい放題言ってから、様々な情報が載った依頼票をギルド内に張り出すのだった。 |
■参加者一覧
鴇ノ宮 風葉(ia0799)
18歳・女・魔
村雨 紫狼(ia9073)
27歳・男・サ
月野 魅琴(ib1851)
23歳・男・泰
ケイマ・レステリオール(ib2850)
18歳・男・巫
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
Kyrie(ib5916)
23歳・男・陰
羽紫 アラタ(ib7297)
17歳・男・陰
雪邑 レイ(ib9856)
18歳・男・陰 |
■リプレイ本文 砂漠にきらめく氷のサボテン。 そんな幻想的な光景を想像した人々、の中の一部が、氷を目指して砂漠に向かっていた。 向かう先が砂漠の奥なら案内人が必要となり、案内人が無謀を止めただろうが…。 氷のサボテンがあると思われる場所は、砂漠とはいっても都市部に近く、特徴的な目印が多いので迷いようがなかった。 そのため、山師ではない単なる都市住民達も、夏の暑さに茹だった頭で現地に向かってしまったのだ。 ●対ものずき 天儀の装束をお洒落に着こなす美青年が、荒い息を吐きながら岩にもたれかかっていた。 銀髪を結んでいた紐がほどけて乱れた髪が白皙の肌にかかり、洒落者の証である片眼鏡がずり落ちてしまっている。 「そこの人、大丈夫かい?」 欲や好奇心につられはしてもアル=カマルの民としての誇りは十分に持っているらしく、旅装の男女が慌てて駆け寄り、砂漠に持ち込んだ水を飲ませようとする。 青年は少量の水を嚥下すると大きく息を吐き、心からの礼を言ってから、目の前の男女以外に対する呪詛をまき散らす。 「何が氷のサボテンだ…。あんな水をボクに売りつけやがって…許せない、あの糞山師め! 許せない」 眉目秀麗で立ち居振る舞いも服装も優れているがゆえに、青年からは瘴気じみたものすら感じられた 「お、おう」 「おおお大事に…」 暑さに茹だった頭を天儀風ホラーで冷やされたアル=カマルの人々は、水筒をその場に残して180度方向転換して街に戻っていく。 数分後、物好き達が視界から完全に消えてから、月野魅琴(ib1851)は何事もなかったかのように立ち上がる。 表情を元に戻して髪をまとめて紐でくくれば、あっという間にいつもの色男に戻る。 「如何でしたか?」 魅琴が振り返ると、観光客がいた場所からは大きな岩で遮られた場所を歩いていたリィムナ・ピサレット(ib5201)と村雨紫狼(ia9073)が笑顔で親指を立てた。 が、リィムナは大量に背負っていたもふらの水袋の山を崩してしまい、思わずその場でふらついてしまう。 「はっはっは。リィムナたん、あまり重装備はお勧めしないぜー」 心の底からの笑みを浮かべ、紫狼はリィムナの背嚢をそっと押してバランスを取り戻してやる。 「水着なんて超お勧めだぜ」 面と向かってこういえるあたり、桁外れな紳士力を感じさせる。 「ねぇ村雨さーん♪ お水、持ってほしいな」 リィムナは荷運びめんどくさい、という内心を笑顔に隠しておねだりする。 巧みに体を動かし、大胆なスリットの入った服を揺らすことも忘れない。 「ほう…」 決して手は触れず、目でしか堪能してから、紫狼は深々とうなずいた。 「ナイスロー…」 規約的に危険な台詞を紫狼が口走ろうとした瞬間、強烈な破壊力が詰め込まれた火球が紫狼の眼前を通過する。 「っと、ごめんごめん。アヤカシがいたから仕方ないよね」 いつの間にかにじり寄って来ていた、しかし今はファイヤーボールで半死半生のアイスツリーにとどめを刺しながら、鴇ノ宮風葉(ia0799)は朗らかに笑っていた。 「へい、だんちょー。女性の嫉妬は可愛いもんだが、リィムナちゃんとは違ってその年齢だとロリじゃなくひん」 そのとき行われた制裁は、格の割に強めのアイスツリーを恐怖させるレベルであったという。 なお、戦闘自体は女性陣の猛攻であっさり終わったらしい。 ●2本目の氷樹 砂地に倒れ伏す紫狼を放置し、開拓者が素早く散開していく。 ダイイングメッセージ風に、犯人はひ、とまで書いているあたり、紫狼はまだまだ余裕があるのかもしれない。 同属を滅ぼした風葉に気をとられた新手のアイスツリーに対し、中空から急降下した甲龍雷炎が鋭利な牙で接近戦を仕掛ける。 幹を大きく削って動きを鈍らせる。が、アイスツリーは予想以上に生命力に溢れているようで、氷枝の先端を何本も龍に向けていく。 「待避やー!」 ケイマ・レステリオール(ib2850)が大声で警告するのと、緊急離脱する雷炎の腹を氷がかすめたのはほぼ同時だった。 「頑丈すぎるわ、あれ」 神楽舞・攻での応援は功を奏したようで、アイスツリーが動くたびに異音が響いている。だが直撃すれば極めて危険なことが分かった以上、雷炎は後退させざるを得ない。 あえて矢を使って牽制してくれた魅琴に礼を言いながら、ケイマは口笛を吹いて雷炎に撤退を命じた。 「参りましたね。これでは何度もかわすのは難しそうだ」 アイスツリーから飛来する氷槍の、狙いの意外な正確さに驚きながら、魅琴は巧みな足取りで危なげなく氷を回避していく。 「あっつい場所であっつい焔…サイアクだけど、これも劫火絢爛の嗜みってことで…!」 風葉は不敵な笑みを浮かべて火球をぶっ放す。 数は2発。ファイヤーボールは他の術に比べれば威力が低くなりがちだが、風葉の強大な知覚力により、並みの相手なら1発で燃やし尽くせる威力がある。 が、どうやら特に生命力に溢れた個体だったらしく、短射程のファイヤーボールを使うために接近していた風葉に対し、体に炎をまとわりつかせたまま突進してきた。 「右! 3本目!」 岩の影から姿を現しつつある新手に気づき、ケイマは大声で警告しながら風葉の近くのアイスツリー周辺の空間を弄る。 それで限界に達したアヤカシは、枝の氷ごと不定形の瘴気に戻り、そして風に吹かれて消えていく。 「うわぁ。止めだけ刺させてもろた気が」 手応えとしては、皮一枚で繋がって居た木を押して両断した感じであった。 風葉は気にするなというように手を振ってから3本目に向き直るが、距離があってまだ届かない。 「アーク…ブラストブラストブラっ」 2条の稲妻が3体目に命中して炎上させ、早口に少しだけ失敗したリィムナがちょっと涙目になる。 リィムナが涙目になった瞬間に復活して3本目の足止めに向かう紫狼の勇姿があったりしたが、残念ながら注目している者はいなかった。 「氷霊結より派手な術を要してきた方がよかったかもね」 砂漠入り口での荒稼ぎの結果重たくなった懐を意識しつつ、風葉は確実に炎球をたたき込んでいくのであった。 ●冷たく熱い戦い 熱い、何もない砂漠の中に一つ咲く氷のサボテン 物語に登場すれば幻想的かもしれないが、現実に存在すればただひたすら怪しい。 「1体確認した」 空気中の瘴気と反応しつつある黒死符を手に取り、雪邑レイ(ib9856)は術の発動の準備を進める。 「合流を待たないのか」 その気は無いが一応口にしつつ、羽紫アラタ(ib7297)も愛用の符を複数、指の間に挟んでいた。 「勝てる相手から逃げる必要はない。アラタ、抜かるなよ」 「そっちも援護するタイミング逃すなよ」 互いに目も向けず、しかし見事に息をあわせ、両者は岩の影から飛び出した。 「疾く。行け」 黒死符が長い体を持つ狐に変じ、ゆっくりと移動中だったアヤカシの体に巻き付く。 極めつけに頑丈なアイスツリーは軽傷程度のダメージしか受けず、反撃に凄まじい速度の氷刃をレイに向かって連発する。 「行動に知性がない。いくら強くても宝の持ち腐れだ」 レイは地面を蹴ってその場を飛び退き、複数の氷の射線から逃れようとする。真正面からの撃ち合いをしたとしたら、足場が悪いこともありアヤカシの攻撃はレイに直撃していただろう。 しかし呪縛符は確実に効果を現しており、射程ぎりぎりで戦うことで命中させづらく回避しやすい状況をつくっていたレイの工夫が効果を表し、サボテンの撃ち出した複数の氷のほとんどがレイに触れられなかった。 「私が回復を」 Kyrie(ib5916)が後方で精霊力を集め、レイの傷を癒す。 「頼んだぜ巫女さんよ」 アラタは針のように鋭く固められた符を2本打ち出し、己の練力に指向性を与え力を解放する。 「急々如律令」 針が燃え尽き、氷龍となって氷樹に襲いかかる。 1つ1つでは倒すに至らず、2つまとめてもいくつか枝を落とす程度しかできない。しかしアラタは不敵な笑みを浮かべたまま高速で動き続け、反撃の氷を距離をとって回避していく。 「そろそろ締めるぞ。…青き炎よ、魔性を滅せよ」 黒死符を青い火の輪に変え、岩を遮蔽物にしながらアイスツリーに向けて撃ち出す。 後退していくアラタとレイのどちらを狙うか迷ったようだが、氷サボテンはレイに向かって氷を撃ち出していく。 が、抵抗はできても回避する方法の無い火輪は確実にアヤカシの体力を削り、術とはいえ当てる必要が有る氷はむなしく岩に激突して消えていく。 「どうしたサボテンもどき。手も足も出ないか」 アラタは挑発しながら、岩も何もない方向目指して駆け出す。 アイスツリーは再び狙いを変更し、アラタを氷の射程に収めるため全力移動を開始し、そして、予めアラタが設置していた罠に踏み込むことになる。 30分ほど前に設置していた地縛霊が、実に8つ。 連続して発動した地縛霊が氷サボテンの体力をほとんど一瞬で削り取り、砂地に倒れることも許さずただの瘴気に戻していった。 ●甘い罠 「ああ痛い、痛い、見ておくれやす、酷いものです」 真っ青な顔で、体のあちこちに包帯を巻いたケイマが砂の上に倒れ込む。よく見ればわかる程度の演技なのだが、考えの浅い山師達は顔を見合わせて動きを止めてしまう。 もともと、氷の木という怪しげなネタに飛びつくのは危険の予測ができない程度の頭の持ち主達だ。危険を示してやれば簡単に怖じ気づいてしまう。 時間が経てば欲に煽られて再び進み始めたかもしれない。が、今ここには、精霊やアヤカシに関する深い知識を持つ巫女がいる。 「ここより先に潜むはアヤカシのみです。止むに止まれぬ事情があればともかく…」 天儀の神職用装束を見事に着こなすジルベリアの青年が、宗教的な権威さえ感じさせながらたしなめていく。 「アヤカシの氷は瘴気が変じたものでしかありません。危険ですから、私の傍を離れないように」 甘く響くテノールが、山師達の心に染みいりその心をとろかしていく。 「巫女って、すげーな」 通行止め立て札とロープを設置中だったアラタが思わず表情を引きつらせる。山師達は全員男だ。むくつけき男達が顔を赤らめる様は、正直見ていて気持ちよくない。 「喉も渇いているでしょう。お代はいただきますが、どうです?」 新鮮な水を氷にして即専用の削り機で細かく砕き、美しく輝く氷の破片を器に降らせていく。 シロップと練乳で極上の香りと甘みを加え、餅を始めとするトッピングで美しさと高級感をさらに増していく。 「なんてぇ商売上手だ」 メニューに書かれた値段に目をむきながら、山師達は真夜中の炎に惹かれる蛾のように、財布を取り出し次々に注文していくのだった。 「うまー」 客の護衛目的でその場にいたはずのリィムナが、周囲への警戒をレイにお願いして特盛りの氷菓を上品かつ高速に崩していっていた。 金の足りなかった山師と一部観光客にぬるい水を振る舞っていたアラタが、リィムナの平坦なおなかと減り続ける氷を見比べてから口を挟む。 「おまえ、少し加減しろよ」 「そうですよ。流石に水分を取り過ぎでは?」 Kyrieも心配そうに語りかける。 「摂り過ぎ? だいじょうぶだって。今は寝る前じゃないし」 春の妖精風に朗らかに笑う。 が、誰の耳にも聞こえる大きさで、リィムナの平たいおなかから不気味な音が響き出す。 「あ、あはは…うっ!」 岩陰に設置されたトイレにダッシュするリィムナ。 紳士的にリィムナから視線を外す男性陣。 それから何が起きたかについては全員黙して語らないが、一応、リィムナの乙女としての尊厳は守られたらしい。 話は変わるが、水と氷と氷菓子はかなり売れた。 アヤカシの討伐が終わっても1日近く現地にとどまらざるを得ないほどだったという。 |