【城】変わる季節
マスター名:馬車猪
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: 難しい
参加人数: 10人
サポート: 10人
リプレイ完成日時: 2012/09/04 05:44



■オープニング本文

 ナーマ・スレイダン。
 かつての大商人にして、アル=カマルの人類領域を広げた男である。
 天儀の一部では開拓者を長期間使い続けたお大尽として知られていたりもするが、新たに広がった領域とその周辺では確実に歴史に残る人物だ。
 彼が意識を失い水すら摂取できなくなってから、既に2日が経過していた。

●誰もいない部屋で
 豊かな水源。巨大な城壁。忠誠心溢れる民。
 野心家が生涯をかけて得ようとするものを自意識をもって数ヶ月で与えられた彼女は、一度も望むものを手に入れられなかった。
 忠実に従う者はいる。気遣ってくれる者もいた。
 しかし、寄り添ってくれる者はいない。
「お父様。最期の命令だけは、お恨みします」
 完全な抑揚で発せられた言葉には暗色の感情が滲んでいた。

●依頼票
 仕事の内容は城塞都市ナーマの経営補助。
 依頼期間中、1つの地方における全ての権限と領主の全資産の扱いを任されることになる。
 領主から自由な行動を期待されており、大きな問題が出そうなら領主やその部下から事前に助言と改善案が示される。失敗を恐れず立ち向かって欲しい。


●依頼内容
 城塞都市の状況は以下のようになっています
 状況が良い順に、優、良、普、微、無、滅となります。滅になると都市が滅亡します

 人口:普 流民の受け入れを停止しています。零細部族からの派遣されて来た者を除くと微になります
 環境:普 商業施設は建物だけ存在します
 治安:微 治安維持組織の機能が低下しています。次回再編が終了し一段階上昇見込
 防衛:良 都市の規模からすれば十分な城壁が存在します
 戦力:微
 農業:普 城壁内に開墾余地無し。麦、豆類、甜菜が主。10月まで大規模天災等なければ1段階未満上昇します
 収入:普 周辺地域との売買は極めて低調
 評判:普
 資金:普 少しでも支出が増えると一段階低下します。前回採掘し売却した鉄鉱石の代金は既に受け取り済みです。小型飛行船1隻分支払い済。要種別指定
 人材:内政担当官僚1名。情報機関担当新人官僚1名。農業技術者3家族。熟練工1名。官僚見習3名。医者候補2名。情報機関協力員十名弱


・実行可能な行動
 複数の行動を行っても全く問題はありません。ただしその場合、個々の描写が薄くなったり個々の行動の成功率が低下する可能性が高くなります。都市内の事柄に関わりながらでは砂漠への遠征は困難です

行動:葬儀準備
詳細:今依頼中のナーマの死は確定しています。準備無しで葬儀を行った場合、外交面で大きな負の影響が発生します

行動:軍備購入
詳細:
資金一段階低下と引き替えに以下のもののうち1つを購入可。全て輸送費込。整備費別。価格変動の可能性有り
城壁に対地攻撃用の砲を配備
非志体持ち仕様銃500丁と防衛戦3回分の弾薬
小型の戦闘用飛空船を購入
からくり5〜10名(雇用条件次第)

行動:砂漠への遠征(死亡可能性高)
調査可能対象地図。1文字縦横5キロメートル
 砂砂砂砂
砂砂砂砂砂砂 砂。砂漠。危険度不明
砂砂穴漠漠砂 道。道有り。砂漠。比較的安全
砂砂漠都漠砂 穴。洞窟の入り口有り。砂漠。敵情報有。比較的安全
砂砂漠道漠砂 都。城塞都市あり。砂漠。安全
 砂漠道漠  漠。砂漠。敵情報微量有。比較的安全

行動:城壁大拡張開始
効果:完全実行時資金が一段階低下
行動:安全に耕作できる面積を現状の数割増しにします。1月程度外壁の機能が失われます。資材、設計図、人員、計画立案済

行動:鉱山開発
詳細:鉄の鉱脈が確認された洞窟を開発します。洞窟内の空気は悪く非志体持ちの長時間労働は不可能。洞窟の上の土地にはアヤカシが出没しています。都市に換気設備用資材有。大穴付近であればアーマーの運用は可能でした。洞窟内の整備は難航中

行動:対外交渉準備
効果:都市周辺勢力との交渉の為の知識とノウハウを自習します
詳細:選択時は都市内の行動のみ可能。習得には多くの回数が必要です

行動:定住民系大商家との交渉
詳細:複数の地域で事業を展開する組織と交渉します。融資要請、飛行船船団雇用、都市の商業の一部委託など、大規模な取引が可能です。鉱山開発等の大規模案件では要請から回答まで時間がかかります

行動:飛空船関連
詳細:改造、設計等を行うための機材が有りません

行動:その他
詳細:開拓事業に良い影響を与える可能性のある行動であれば実行可能です


・現在進行中の行動
 依頼人に雇われた者達が実行中の行動です。開拓者は中止させることも変更させることもできます。

行動:防衛組織立ち上げ
詳細:専業にすることを前提に非ジンの心身に優れた者を選抜し訓練中。守備隊は対大型アヤカシ部隊への転換を模索中。診療所の協力を得て医療部隊設立のための人材を集め中。現時点で非志体持ちを防衛戦に参加させた場合、仮に勝てても甚大な被害が発生します。開拓者不在時は、元守備隊の古兵と助っ人の官僚が重点的に実行中

行動:飛空船
詳細:鉄鉱石の輸出に従事中。在庫は今回で無くなります

祭祀:情報機関により安全であると確認された者だけが、休憩時間を割いて水源近くの社の清掃を行っています
詳細:専門の人材を雇うにも、本格的な儀礼を希望者に学ばせるにも時間と費用が必要です

行動:周辺の零細部族民を非公式に雇用中
詳細:既存住民との衝突発生率低下中

行動:城壁防衛
効果:失敗すれば開拓事業全体が後退します。守備隊が実行中

行動:治安維持
効果:治安の低下をわずかに抑えます
詳細:生き残りの警備員が宮殿を警戒中。市街は新米中心

行動:環境整備
効果:環境の低下をわずかに抑えます
詳細:排泄物の処理だけは行われています

行動:教育
詳細:一定期間経過後、低確率で官僚、外交官、医者の人材が手に入ります

行動:牧畜
詳細:何もなければ9月頃後半に、城壁外で本格的に牧畜を開始できる見込

行動:砂糖関連
詳細:秋頃収穫見込

行動:二毛作関連
詳細:継続可能か等判明するのは早くて晩秋

行動:捕虜等
詳細:なし

行動:情報機関
詳細:数名の人員が都市内での防諜の任についています。信頼はできますが全員正業持ち。予算を投入しない限り専業を雇う余裕はありません


・周辺状況
東。やや辺境。小規模都市勢力有り。物資を備蓄している気配があります。詳細不明。外交チャンネル有り
西。最辺境。小規模遊牧民勢力有り。状況不明
南。辺境。ほぼ無人地帯。内部の零細勢力が有力部族から距離をとりつつあります
北。やや辺境。小規模都市勢力有り。内部で紛争頻発。外部への影響力喪失
超小規模オアシス。敵対しない限り、避戦に役立つ目的が得られる可能性があります
各地域とも有力勢力はナーマに対し敵対的中立
ナーマ・開拓者ギルド間の契約内容は全勢力把握済

・軍
超低レベル志体持ち7名。非志体持ち未熟練兵多数
非志体持ち仕様銃100丁
志体持ち用魔槍砲10
防衛戦1回分の弾薬


■参加者一覧
玲璃(ia1114
17歳・男・吟
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
フレイア(ib0257
28歳・女・魔
ジークリンデ(ib0258
20歳・女・魔
将門(ib1770
25歳・男・サ
朽葉・生(ib2229
19歳・女・魔
鳳珠(ib3369
14歳・女・巫
エラト(ib5623
17歳・女・吟
ライ・ネック(ib5781
27歳・女・シ
アルバルク(ib6635
38歳・男・砂


■リプレイ本文

●終焉と始まり
 終りへの階とは、死ぬゆく者が最期に望んだ幻を見せる、救いとなり得る術である。
 異論がある者も当然いる。だがこれによって最期の瞬間を心安らかに逝けた者が多数存在するのも、紛れもない事実である。
 さて、救いについては脇におくとして、この術は条件さえ揃っていれば必ず効果を現すのだろうか。過酷な、けれど幸せにも普通に生きることのできた人間なら、高位の術者によって最期の幻に癒されるかもしれない。
 しかし体力どころか魂全てを燃やす尽くす生き方を貫いた者の場合はどうなるだろう。
 その答えが、玲璃(ia1114)が強制的に叩き込まれている真の闇だった。
 何も感じられない。
 目も見えず。
 耳も聞こえず。
 臭いも無く
 舌も肌も感覚がない。
 さらに己自身を知覚することもできない。
 己の全てを燃やし尽くした男は、死神に導かれるより早く完全な死を迎えていた。
「っ」
 実に三分に及ぶ死に耐え抜き、玲璃は顔面蒼白となり脂汗を流しながら、辛うじてその場に倒れることだけは避けていた。
「じいちゃん…」
 ナーマ・スレイダンの呼吸と血の流れが完全に停止したのを目だけで確認し、ルオウ(ia2445)は無言のまま視線を下げる。
 将門(ib1770)は目を閉じ、アルバルク(ib6635)は常に浮かべていた不敵な笑いを消す。彼等にとっての別れの挨拶は、それで十分だった。
 すぐさまそれぞれの仕事に取りかかるため動こうとした男達だが、ナーマの寝台脇から立ち上がる者に気付き動きを止める。
「先代領主ナーマ・スレイダンは逝きました。皆様のこれまでのご助力に対し、先代と領民全員に成り代わり御礼申し上げます」
 声は鎮痛だけれども良く通り。
 礼儀正しくはあっても威は損なわれず。
 目の動きから足先への体重のかけかたまで、支配者階級にふさわしい動きが身体の芯まで染みついている。
「重ねて、当代領主たる私、アマル・ナーマ・スレイダンへのご助力をお願いいたします」
 立場上頭を下げられない領主としては最大限の礼を尽くす。
「承知いたしました。事前の申告をいたしましょうか」
 開拓者を代表してジークリンデ(ib0258)がたずねると、アマルは軽くうなずいてから静かに答える。
「手数をかけますが可能な限り事前報告をお願いします。先代はみなさんの動きを見るだけで何をされているか分かったようですが」
 外見と自身の戦闘能力を除けば、ナーマ・スレイダンよりはるかに劣る能力しかない。アマルは事実を隠すことなく口にした。
「俺は警備隊のヒヨコ共の尻叩きだな」
「守備軍の立ち上げだ。城壁内で演習をするので外向けの威嚇に使うのもよかろう」
 アルバルクと将門は端的に答えてナーマの寝所を後にする。
「私達は砂漠でのアヤカシ掃討と連絡路造りですね」
「時間が必要ですから砂漠に泊まり込むことが多くなるでしょう。無論ナーマに変事があれば切り上げて帰還します」
 ジークリンデと鳳珠(ib3369)が分かり易く説明する。
「王都からの正式な使者の先触れへの対応を」
「葬儀の準備です。招待状の送付から先代様の服装を整えることまで…。おそらく宮殿の詰めることになります。慌ただしくなりますが、招待客に関する情報は可能な限り短期間で記憶してください」
 エラト(ib5623)とフレイア(ib0257)の言葉に、アマルは静かにうなずく。
「私は…いえ、今だからこそ言わせていただきます」
 玲璃はアマルに近づき視線をあわす。
 身長はわずかに玲璃の方が高いが、姿勢の良さによってアマルの方が少し背が高く見える。
 銃口を己に向けて持ち、玲璃は相棒銃「テンペスト」をアマルに差し出した。
「これは貴方の味方になる証。私はからくりじゃない。いつも傍にいられるわけじゃない。それでも傍にいられる間、私は、私達は貴方の味方でいたい。領主とか関係なく貴方自身の。貴方の孤独や寂しさ、苦しさを少しでもわかりたい。貴方の話を聞きたい。貴方のやりたい事を助けたい。欲しいものが、やりたいことがあれば言葉にしていいんだ。与えられるのを待つのではなく、自分から求めていいんだ。貴方一人では叶えられなくても、私達が時間はかかるけど叶えると誓う」
 飾り気の無い、しかしこれ以上ないほど情熱的な言葉を連ねていく。
 だが、玲璃とは逆にアマルの顔からは表情が消えていき、力と知性を感じさていた両の瞳が虚ろな穴じみていく。
 遠くで見守っていた官僚が異変を感じて近づいてくるが、エラトに押しとどめられて近付けない。
「信じられるなら、この手と銃を受け取ってほしい。信じられなくても構わない。でも、どうか自分の人生を恐れないで。彼が貴方に遺したものだから」
 からくりは、そのまま礼法の教科書に載せられる動きで、感情の無い完璧な笑顔を浮かべて銃を受け取る。相手の感情を受け取る能力のない彼女には、これが限界だった。
 代替わりを知らせる鐘の音が、真夏の城塞都市に響いていた。

●弔問希望者
「こちらが弔問希望者からの便りになります」
 王宮から派遣されてきた使者が、上質な羊皮紙が何十枚も重ねられた大荷物を取り出した。
「確かに受け取りました」
 エラトは予想外の展開に困惑しているが、それを表に出そうとはしない。
 直接出向いても弔問の使者の派遣を断ってくると予測していたにもかかわらず、王宮経由で先方から申し出があった。
 王宮を経由したのも謀略ではなく、城塞都市ナーマと直接交渉を持っている領主が少ないという単純な理由からだ。事実、定住民系大商会のスポンサーである勢力からは大商家経由で申し出が届いている。
「いくつかお尋ねしてもよいでしょうか。特に葬儀の形式について」
 真剣な口調で質問してくる使者に対し、羊皮紙の確認を始めたエラトに代わってフレイアが答える。
「葬儀はナーマ周辺の風習にあわせます。実際の祭祀を担うのが天儀出身者になる可能性が高いので純アル=カマルとはいかないかもしれませんが」
「その程度でしたら各領の文化ということで皆様方も納得されるでしょう」
 使者は安堵の息を吐き、己の額に浮かんだ汗を拭う。効率を最優先し文化に背を向けてきた先代領主とは異なることを知り、心底ほっとしているようだ。精霊への尊崇がある儀式なら受け入れられ易いのがアル=カマルの流儀だが、何事にも限度というものがあるのだから。
「領主本人の参加は無し。次期後継者級の方が来られる場合は半公的な立場で来られるのですか」
 羊皮紙の確認を終えたエラトが確認すると、使者は曖昧に微笑んでごまかそうとした。どうやら、ナーマと比較的友好に接しようとする勢力もナーマの後継者が人間以外であることを理由に及び腰になっているようだ。
 その後、王宮からの使者を見送った2人は、手分けして招待状の作製を開始する。
 送るのはナーマ周辺の小勢力と、弔問の申し出が無かった王都付近の勢力だ。
 後者からの反応はないかもしれないが、無視してさらなる反感を買うのも避けたい。もっとも下手に出すぎても後で問題になるので、1文字1文字吟味した上で文を作製する必要がある。
「ナーマ老の係累に出さずに済むのは良かったのか悪かったのか」
 フレイアはペンを動かす手をとめて物憂げにつぶやく。
 ナーマ・スレイダンの遺品を整理したのだが、個人情報については何も分からなかった。実用書と報告書と少しの調理道具しか私物が無かったのだ。
「アマルの出番については?」
「本人も言っていましたが、しばらくは喪に服するという名目で宮殿に留まる必要があります。葬儀には喪主として出席する必要がありますが、それまではこちらで準備しなければ」
 2人は葬儀における対外的な作業に忙殺され、依頼期間が終了する直前まで宮殿に籠もることになる。
 鷲獅鳥の奏も、アーマーのスワンチカも、宮殿で内外に対して戦力を誇示するための役割を果たすことになる。

●からくりと船
 飛空船見ゆの報を受け取り、将門は訓練指揮を元守備隊の古兵に引き継ぎ格納庫に向かう。
 走龍玄天を駆って格納庫にたどり着いたときには、都市直上に到着した飛行船がゆっくりと高度を下げていくところだった。
「こりゃあいい」
 将門とほぼ同時に格納庫に到着したルオウが歓声をあげる。
 が、ルオウの背に抱きつく少女に気付き、将門はわずかではあるが眉を動かしてしまった。
 ルオウに手を借りて走龍から降りた少女を、周囲から不自然に思われない範囲で最大限に素早い動作で格納庫の中に連れ込む。
「何があった」
 気まぐれで喪に服するという前言を翻すことはあり得ない。その程度にはアマルのことを信用していた。
 遅れてやって来た羽妖精睦とコルリス・フェネストラ(ia9657)が入り口を封鎖し鏡弦でアヤカシを警戒し始めたのを確認してから、アマルはヴェールをとって口を開く。
「私が直接対応せざるを得ません。護衛を」
 サムライ2人は助走無しで、アマルは軽く助走してから甲板に上がると、そこには異様なほど目立たない雰囲気の作業員が数人いた。
「シノビか」
 気配の抑え方も身体の運び方も並みのシノビでは不可能な水準だ。
「御無礼をお許し下さい」
 代表者らしい、他の作業員と見分けがつかない男が一通の書状を差し出す。
 ルオウに警備を任せて受け取り、アマルの許可と立ち会いのもと開く。
 そこには、未起動の同型からくり12体を引き渡す旨が記されていた。署名は天儀の商家のものだが、凄腕のシノビを複数送り込める組織がただの商家の訳がない。
「高位貴族の了解が得られたか」
 将門はルオウ達と共に甲板から船倉に向かう。
「良い木を使ってるなー。多分俺達が全力出しても壊れないぞ」
 軽く甲板の上で飛び跳ねてから心底嬉しそうにつぶやく。
 船倉に入ると漆塗りの棺が整然と並べられており、蓋をずらすと見栄えの良いからくりが現れる。
 開拓者が連れているからくり並みの美形揃い、しかも姉妹機で分かる程度に似通っているのが12体。衣装と教育は必要だが、諸侯の側付きとして十分使えるだろう。
「掛けでの取引か。ナーマでの使い方に見合った支払をしろということだな」
 将門にとっては言うまでもないことをあえて口にすると、ようやく理解に至ったアマルは目の動きだけで感謝を伝えてくる。
「我々は輸送人ですので」
 シノビ達はナーマに先行させていた同僚と合流すると、開拓者以外に気付かれることなく陸路で去っていった。
「私が起こすべきなのでしょうね」
 己の同属を、アマルは無機質な目で見下ろしている。
「なあアマル。じいちゃんの最期の言葉をどう思ったのか聞いてもいいか?」
 単に疑問に思ったから聞いた。
 悪意も善意も計算もなく、けれど礼儀はわきまえた問いに、アマルは視線の向きを変えないまま返答する。
「お父様は私に自由を与えたのでしょう。私にとっての自らの由は、お父様の技術と生き方しかありませんが」
 アマルは、開拓者が帰路につくまでからくりに触れようとはしなかった。

●地の底で
 メグレズ・ファウンテン(ia9696)に護衛されながら、アナス・ディアズイ(ib5668)とクシャスラ(ib5672)は慎重にアーマーを運用していた。
 回避どころかアーマー用の武具を持つことすら難しい狭い場所で鉄鉱石を掘り、地上に続く空気穴を崩落が発生しないよう注意しながら少しずつ掘り進めていくのだ。
 アーマーは休ませれば練力が回復するが、作業の間中、2人の精神力はやすりで削られるように消耗していっていた。
 ある程度鉄鉱石や石屑がたまると、ムキ(ib6120)が大型の、開拓者仕様の恐るべき強度を持つソリと共に地下に降りてくる。
 朋友と協力しながらソリを必死に押すムキと別れ、採掘隊は掘り進めることで地下洞窟を拡張していくのだった。

●砂中の拠点
 灰色の光が岩盤に命中し、削りかすを残さず垂直に穴を開け、消える。
 圧倒的な力と高度な技術を感じさせる、神秘的とさえいえる光景だ。
 もっともそれを為した朽葉・生(ib2229)は、難しい表情を浮かべたまま穴の小ささを確認していた。
「メテオストライクでは地下洞窟に影響を与えかねず、ララド=メ・デリタは影響を及ぼす範囲が小さすぎる」
 砂を排除して判明した事実に頭を抱えたくなるが、残念ながらその時間はなさそうだった。
「生さん後退して下さい!」
 鳳珠の警告が響き渡る。敵が襲ってきたのではない。岩盤の上から退けられていた大量の土砂と砂が、強さを増した風に押されて崩れてきているのだ。
 それを好機を見たのか飛行型アヤカシが急速接近してくるが、これは空路急行した罔象(ib5429)のスパークボムで排除される。
 アヤカシにとっての本命だったらしい、砂の奥底から沸き上がる不定形のアヤカシは鳳珠に気付かれ、指示を受けた宿奈芳純(ia9695)が黄泉より這い出る者で討ち滅ぼしてしまう。
「生さん、このままでは」
 霊騎の務から降り、鳳珠は深刻な表情を浮かべて結論を口にした。
 このままでは地下洞窟へ続く周辺、つまりこの場所を保持し続けることができない。
 到着してから2日間、全ての襲撃に耐え抜き3桁を越えるアヤカシを討ち滅ぼした。だが襲撃の頻度は到着当初と変わらず、開拓者の動きは徐々に疲労で鈍くなっていっている。
 洞窟の守りを固め、天幕を用意し、サクル(ib6734)の砂の雫と鳳珠の癒しの技を駆使してもこの状況なのだ。開拓者が去ればナーマ守備隊が全力出動しても保持し続けるのは難しいだろう。
「どうにかならないでしょうか」
 土砂が崩れた跡を、強固に固定された石壁で固めながら生がつぶやく。生の頭上では鷲獅鳥司が眼光鋭く警戒している。
「手段は、あるかもしれませんが」
 鳳珠が苦しげに言葉をつむぐ。
「少なくともこの方法では効率が悪すぎます。地下への機材搬入も鉱石運び出しも10人近い開拓者がいてようやく可能なのが現状なのです。アヤカシを完全に排除できるまで何度も長期駐留を続けるという手段もありはしますが」
 おそらく、そうした場合洞窟以外の場所への遠征はできなくなるだろう。
「どうしたものでしょうか」
 生は唇を噛みしめ、徐々に嵐になっていく砂漠を見据えるのだった。

●ひとやすみ
 忍犬ルプスは水源にたどり着くと、椰子の木の陰に座り込みだらしなく舌を出した。
 ここ数日鼻を使いすぎたせいか、鼻が乾きがちで全体的に体調が良くない。
 水源の見回りに来た嶽御前(ib7951)が器を用意すると、ルプスは舌を戻してから小さく頭を下げ、自分で水をすくってから勢いよく飲み始める。
「ここにいましたか」
 ほとんど気配を感じさせることなくライ・ネック(ib5781)が歩いてくる。
 主の目から光が消えているのに気付きルプスが静かかつ鋭く周囲をみまわすが、異変は全く感じられなかった。
「大事有りません。ただの、勉強の疲れです」
 ライは忍犬の脇に腰を下ろし、その背を優しく撫でてやる。
 ルプスも落ち着きを取り戻し、忍犬にあるまじきあくびをしてからその場で丸くなる。清められた水源周辺は清浄な気で満ちており、午睡を楽しむには最高の場所だった。
「次の弔問客が来るのは夕方です。それまでには起きなさい」
 ルプスは全精力を傾けてようやく微かにまぶたを持ち上げ、了解の意を伝えてから再び眠りについた。
「さすがに、疲れました」
 周辺勢力とのやりとりについてフレイアと協議するアマルについて地元外交を学び、アルバルクに協力して警備体制の確認と整備、弔問客やその先触れや随員の臭いを覚えたルプスと共に間諜狩り。
 毎日睡眠をとっても心身が回復しきれないレベルの重労働を、ここ数日こなしてきたのだ。ようやく一息ついたのが先程のことで、開拓者に比べれば体力の無いアマルも、今は宮殿で泥のように眠りについているはずだ。
「うまくやりすぎた?」
 嶽御前を礼を言い見送ってから、最低限の警戒を行いつつも考えにふける。
 城塞都市ナーマに潜り込もうとする者の数は減らないのだが、直接的な行動に出る者が減っている気がする。
「素晴らしいことなのですがまとめて釣り上げられないと長期戦に…」
 半ば眠りの中にあっても、ライはナーマの防諜計画立案を続けていた。

●日常
「報告、連絡、相談のてってーだよ! あと暇なら走る! 人がいたなら挨拶情報収集!」
 羽妖精のリプスは市街各所の詰所を回って士気を高め、警備隊の新人に捕り物のやり方や情報収集のこつを教え込み、さらに休憩時間の子供に構ってあげたりしながら市街を走り回る。
 葬儀に向けての準備や市街の地形把握に追われるアルバルクの仕事も極めて重要なのだが、治安維持や組織維持に関する知識が浅い者には、リプスしか働いていないように見えたかもしれない。
「仕事が終わらねぇなぁ」
 アルバルクは都市の隅々まで出向き、己の目で現状を確かめてから葬儀に向けて人員の配置計画を練り上げ行く。
 途中で居住区近くを通ると、腹が大きくなりつつある女性達が談笑している姿が目に入ってくる。
 女性達の身なりは豪奢ではないが清潔で、肌に艶があり、目は希望で明るく輝いている。今の生活がうまくいるのに加え、明るい将来が確実に来ると確認している証拠だ。
「新領主のお嬢ちゃんにも街中を見る機会がありゃあなぁ」
 最近妊婦を良く目にするようになった。いずれは人口構成の変化に対応するために様々な手をうつ必要がでてくるだろうが、見て不愉快になる光景では決してない。
「くさー」
 主の様子を見に来た羽妖精が容赦の無いコメントをしてくる。
 さすがに渋面になるアルバルクであったが、近い将来の母親達に笑顔で挨拶されてしまい、ごまかしながらその場を去ることにする。
「仕事に戻るねー」
 アルバルクが反論するより早く、リプスは大通りを集団で移動する警備隊を見つけて合流する。妖精らしい高い声が何度か響くと、警備隊の動きが目に見えて良くなっていく。のべ数ヶ月教官役をこなしてきたためか手際が素晴らしい。
 肩をすくめて警備隊の詰め所に向かおうとし、大型のそりで高級石材を運ぶ作業員達とすれ違う。
「次から次に面倒ごとが現れやがるな」
 ふんと鼻を鳴らし、表面が滑らかな道標に置き換えられつつある砂漠の道を眺めるのだった。

●財力の誇示による外交
 遠方から葬儀に参列しにやって来た一団を出迎えたのは、砂漠の中で一際白く輝く道であった。
 参列客に誇示するためだけに敷かれたようには見えない。部品の交換も考慮された造りであり、城塞都市ナーマがこの道を維持する意思と力を持つことを無言のうちに主張している。
「ほう」
 使節団の長が満足げにうなずく。
「武のみではなさそうだ」
 彼だけでなく、使節団全員が上質の布を使った旅装で身を包んでいる。これも、見た目に金をかけ続けられる財力を持つこと示すことによる示威だ。
「…の方々ですね」
 鷲獅鳥が宙から舞い降り、銀の髪を日除けで隠したジークリンデが美しい動作で砂漠に降り立つ。
 使節団は礼儀正しくジルベリアの美女を迎えながら、装備、健康状態、立ち居振る舞い、その他ありとあらゆるものを観察し記憶していく。
 ジークリンデは優雅に微笑んで決して隙を見せず、使節団と同じように使節団の全てを観察し記憶していく。
 刃を交えぬ外交という戦場に同席させられることとなったクロムは、高位のアヤカシと戦う際よりも消耗している自分に気づいていた。
 ジークリンデは中書令(ib9408)に使節団の相手を任せ、地平線の向こうから見えてきた次の使節団を応接しに向かうのだった。

 依頼期間が過ぎると、開拓者は現状についての報告書と改善の提案書の山を残し、城塞都市から天儀に帰還した。