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■オープニング本文 サムライが咆哮で大量のアヤカシを引きつけ、血を吐きながらその場で足止めする。 巫女は癒しの技で武人の命をぎりぎりで繋ぎ、吟遊詩人は曲でアヤカシ全体の動きを乱し、魔術師や陰陽師が強力な術でアヤカシの数を減らしていく。 咆哮などの状態異常系術から逃れた大物アヤカシに対しては、銃弾と矢の出迎えの後、とどめの刃が降り注ぐ。 そんな激闘が行われている場所から1時間ほど歩いた場所に、白い砂が美しい砂浜があった。 白い砂浜が美しく、海の幸が豊かな場所ではあるのだが、アヤカシが流れ着くことが多く漁業関係者が寄りつくことはほとんどない。 その普段は寂しい場所に、本来この場では見かけないはずの生き物がいた。 決戦場の地形が朋友に向いていなかったため、安全な場所で待つよう指示された朋友達だ。 主の勝利は確信しているが、この場で何もせずぼんやりしているのは正直辛いかもしれない。 開拓者ギルドの職員が気を利かせて持たせてくれた釣り竿、バーベキュー用の調理器具、調味料、野菜、薪は豊富にある。 全力で飛んでも泳いでもどこからも文句のでない空と海もある。 ふってわいた自由時間をどう過ごすかは、朋友次第だ。 |
■参加者一覧
礼野 真夢紀(ia1144)
10歳・女・巫
弖志峰 直羽(ia1884)
23歳・男・巫
からす(ia6525)
13歳・女・弓
不破 颯(ib0495)
25歳・男・弓
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
フルト・ブランド(ib6122)
29歳・男・砲
ラビ(ib9134)
15歳・男・陰
二式丸(ib9801)
16歳・男・武 |
■リプレイ本文 ●ただいまお仕事中 二対の翼を持つ迅鷹が、半径数百メートルの円を描きながら鋭い視線を周囲に向けていた。 真下にあるのは白い砂と青い海水の対比が美しい砂浜だ。 そこから内陸に入ると人の手がほとんど入っていない森があり、さらに奥に行くと小さな川と湿地と森が入り交じった複雑な地形がある。 迅鷹サジタリオの鋭敏な視覚は、術により作り出した大量の矢をアヤカシにぶつけているリィムナ・ピサレット(ib5201)の姿を捉えていた。 サジタリオの主は身軽な動きで障害物を飛び越え、あるいは潜り抜けながら、そろそろ非常識の域に達しつつある練力量にものをいわせて猛攻を継続する。 数分後、それまでとは打って変わって年相応の少女としての顔ではしゃぎだした主人を確認し、サジタリオはいつでも救援に迎えるよう体に溜めていた力を抜いていく。 翼を何度か振って砂浜に合図を送り戦闘の無事終結を伝えると、緊張で仕事に手がついていなかったらしいからくりが笑顔で手を振ってきた。 百戦錬磨の迅鷹は視線をあげ、少し速度を上げながら上空からの警戒を再開する。主人が戻ってくるまで、同僚達の安全は確保するつもりであった。 ●強敵 勢いよく釣り竿をあげると、魚に餌だけを奪われた釣り針が虚しく陽の光を反射する。 「手強い」 刺刀は、からくり特有のパーツの切れ目に汗を滲ませていた。 「釣りがここまでの難事だったとは」 以前、弖志峰直羽(ia1884)が釣りをしていたときのことを思い出し、慣れていない手つきで餌を付けて海に投擲する。 高速を得た釣り針は並みの刃以上の鋭さを見せ、海面近くを泳いでいた貧魚(ピラニア)を貫き、ただの瘴気に戻していく。 「くっ…。魚型アヤカシの方が容易い相手ではないかっ」 口惜しく思いながらも、刺刀は何時も通りの真面目さで釣りを続けていく。 そんな刺刀の斜め前で、1柱のもふらさまが穏やかな波に揺られていた。 やや冷ための海水がときどき顔にかかえるが、気にもせずに穏やかな寝息をたてている。 「もふら殿。そのままでは沖まで流されるのではないか?」 真摯な表情で刺刀が忠告するのと、釣り針から餌だけが消えるのはほぼ同時であった。 「おう、おう、こりゃ失敬」 眠気を誘いかねない穏やかな口調で、風信子は手足を伸ばして器用な泳ぎを披露する。 そして、少し沖に仕掛けていた籠を口で咥え、器用に海水から引き上げる。 「なに」 刺刀の表情が固まる。 籠の中には活きの良い小魚と形の良い貝がたっぷりと詰まっていた。 「おひとつどうかの」 年長者の余裕というには少々のんびりしすぎた口調で風信子がたずねると、心身を鍛えてはいるがまだまだ発展途上の刺刀は、負けん気を発揮して釣り竿に意識を集中した。すると、初めての力強い引きが竿を通して腕を揺らす。 「不要です。それは貴殿の主に差し上げて下さい」 「どうせなら新鮮なうちに食った方がうまいぞ?」 主人の不破颯(ib0495)より自らの食欲を優先させる風信子であった。 「それは、それは」 釣りに集中している刺刀は、風信子の言葉をほとんど聞いていなかった。しばしの格闘の後、刺刀は勢いよく釣り竿をあげて獲物を海面下から引きずり出す。 その時点で、風信子はいつの間にか刺刀から距離をとっていた。 「…たこ?」 自分に向かって飛んでくる蛸を呆然と見上げる刺刀に、蛸の怒りのスミアタックが炸裂した。 ●熟練と若手 深い色をした細い身体をくねらせ、魂流は海底の見回りをしていた。 小さな魚も雑魚も無視し、活きの良い大振りの魚を見つけたときだけ加速して器用に咥える。そして一度海から上がり、砂浜の海から離れた場所に予め作っておいた生け簀に魚を入れる。 赤い眼を細めて生け簀の中を確認し、そろそろ新しい生け簀を掘るべきかと考え出した頃、魂流は所在なさげにたたずむからくりに気付いた。 みゅー、と。耳をくすぐる心地よい音が魂流から響く。 しらさぎははっと顔をあげ、間近まで迫っていた魂流に初めて気付いた。 「わっ」 思わずバランスを崩しかけ、魂流に手を甘噛みされてなんとか持ち直す。 「ありがとう」 はずかしげにつぶやくしらさぎの前に、そっと青魚が差し出される。 さりげなく締めて血抜きまで済ませているが、料理修行中のしらさぎは残念なことにそれに気付けなかった。 「えっと、きをつかわせちゃって、ごめんね。…そうだ! マユキのぶんつくるけど、アナタのぶんもつくる?」 新雪のように真っ白な髪が風に揺れ、無邪気な色をたたえた朱の瞳が魂流をみつめる。はしゃぎながら取り出したのは、主人である礼野真夢紀(ia1144)から与えられた初心者用の包丁とまな板だ。 みゅー、と。魂流は年少者を見守る視線をしらさぎに向け、砂浜に運び込まれていた野菜や調味料を器用に咥えて運んでくる。 「ばーべきゅー、は『野外で行う焼き肉』…」 調味料が入った瓶に張られていた『バーベキュー用』の文字を確認し、子供のように首をかしげる。 「ヤキニクのときのヤサイのきりかた、でいいのよね? おさかなは、あたまからおなじおおきさにきればよかった?」 魂流はそっと魚を回収し、野菜に苦戦するしらさぎから離れ、料理の心得のある別のからくりに協力を求めることにした。 ●からくり達 強烈な直射日光を直接浴びながら、レイシーが慣れた手つきで包丁を振るう。 人間の情勢なら真っ先に日除けの調達を考える場所だが、からくりであるレイシーは日焼けしないので全く関係無い。 「おぼっちゃまの歩く速度と戦場から距離を考えると…」 鍋に野菜を入れて調味料を適量加えてから、予め火をおこしておいた竈に鍋を近づける。 「こうですね」 少し離してから、過酷な戦闘で疲れているであろうラビ(ib9134)の為に塩を足しておく。 「あっ、あの…」 声をかけられたレイシーが振り向くと、仕立ての良い服を着たからくりが、何かをいいかけて結局言葉にならずうつむくという行動を繰り返していた。 「あなたはブランド様のからくりですね。どうかなさいましたか」 レイシーは、責めるのではなくただ単に用件をたすねたつもりだった。 が、からくりの叶は、礼儀正しさを冷たい対応と受け取ったらしく、うっすらと涙を浮かべてしまう。 叶の頭の中では、戦場に向かう前に主が言い残した言葉が再生されている。 できたら休憩時間中にレイシーさんと仲良くなってくださいね、という命令ではなくお願いなのだが、起動して間のない叶は上手く解釈し行動することができない。 「どうされました?」 対するレイシーも困っていた。 これまでレイシーが会ったことのあるからくりは、仕事ぶりには満点をつけられないものの、心は外見年齢並みには成長していた。 つまり何が言いたいかというと、レイシーは精神的に子供な者を相手にした経験が無いのだ。 精神が育ち始めたばかりの叶は、友達になる方法どころか知人になる方法すら分からず困惑し。 主人の世話に関しては完璧でも稼働時間はまだまだ短いレイシーは、同属の子供という慣れない存在への対処に困惑する。 長時間お見合いをする2人を絶好の好餌と考えたらしい貧魚が海面からすっ飛んで来る。レイシーは白銀の鋏で無造作に切って何も無い砂地にたたき落としてから、何事もなかったかのように困り顔を浮かべていた。 みゅー、と、心地よい声が2人の耳をくすぐる。 2人のからくりがほっとして視線を向けると、そこには新鮮な魚を籠に入れ運んできたミヅチの姿があった。 魂流の赤い瞳が鍋と叶と魚の順に向けられ、最後に促すような視線がレイシーに向けられる。 「ありがとうございます」 レイシーは表情をかえないまま、しかし心からの感謝と共に頭を下げる。 「叶さん、よければ一緒に料理をしませんか?」 料理と聞いた瞬間に叶が浮かべた不安げな表情を見逃さず、レイシーはさらに言葉を続ける。 「手順は隣でお教えします。技術的には簡単ですし、魚の数が多いですから私1人では手が足りないのです。手伝っていただけませんか?」 相手の精神的ハードルを下げつつ勧誘する。 一瞬だけ魂流に視線を向けると、魂流は良くやったというように深くうなずいていた。 「は、はいっ! よろしくお願いします!」 満面の笑みを浮かべて同意するからくりの目の前で、レイシーは内心ほっと安堵の息を吐いていた。 ●主の帰還 頭とふさふさの尻尾だけを海面から出し、忍犬の七月丸は元気の良い犬かきで海を堪能していた。 少々潮の流れが速い場所もあるが、忍犬としてシノビの里から出ること許された彼女の実力は確かで、ときに潮の流れを読みまたあるときは力尽くで波も潮も突破して海水とその温度を楽しんでいく。 わふ、と、少しだけ緊張感を感じさせる声を出してから、七月丸は激しく波を掻き分け砂浜へ向かう。 途中、未だに釣果無しのからくりが魚に逃げられていたりするが、今は気にしている余裕は無い。 七月丸は白い砂浜に上陸すると同時に激しく体を振って水を飛ばし、ほとんど足音をたてずに素晴らしい早さで内陸へ走っていく。 「ただいま、ナナツキ」 内陸の森から現れたのは、彼女の主人である二式丸(ib9801)だった。 爆発する喜びの感情に従って跳躍すると、二式丸は一瞬だけ目を見開き、しかしすぐに優しく笑って七月丸を受け止めた。 何回転かして七月丸を地面に下ろし、まだ毛皮が濡れていることに気付いて手拭で拭ってやる。 二式丸の鼻と舌を見て水分が不足していることに気付くと、水筒の封を切って新鮮な水を飲ましてやった。 「やっほー! お待たせー!」 二式丸の次に森から現れたのはリィムナ・ピサレット(ib5201)。 そして、七月丸の次にやって来たのはサジタリオだった。 リィムナは戦闘用の装備を脱ぎ捨て、予め着込んでいた大胆な水着姿になりながら海へ向かう。急降下してきたサジタリオは地面に激突寸前で見事に速度を0にし、主の薄い肩に着地して大喜びで頭をすりつけ始める。 上空で警戒を行っていたときの凛々しさからは想像し辛い姿だが、これもサジタリオの一面だ。 「いくよサジ太!」 リィムナがかっこいいポーズをとると、サジタリオは嬉々としてきらめく光に変じて主と一体化する。 「ひゃっほー!」 高速を保ったまま海へ到達し、衝撃で海の表面を割りながら自由に空を飛ぶ。 「トビウオ泳法!」 輝く翼を水面に残したまま、激しく泳ぎ、華麗に水面に飛び上がり、またより一層激しく泳いでいく。 体の熱が海に吸い取られたら、今度は激しい水しぶきと共に急上昇する。 「姉ちゃん直伝! 荒ぶる鷹のポーズ!」 一対の翼と一対の腕の角度が重要な、強いて表現すればYの字のポーズであった。 リィムナ主従が通った海面から、いくつか薄い瘴気が立ちのぼっている気がするが、そんなことを気にするような者はこの場にいなかった。 「むむっ」 潮の香りに負けない、甘辛い豊潤な香りがリィムナの鼻孔をくすぐる。 宙に停止したまま海岸に目を向けると、そこではレイシーが後輩と共にシーフードカレーを完成させていた。 生魚は塩とオリーブ油などを加えられてマリネにされており、一緒に食べると相乗効果で美味しくなりそうだ。 「次は浜まで競争だよ! 負けないからね、サジ太!」 リィムナと彼女から分離したサジタリオの歓声が響き、2つの影が高速でカレー入り鍋に向かうのだった。 ●海岸のカレー 「待たせたねぇ」 「もう少し遅くても良いのじゃよ」 風信子は、合流した主を徹底的に邪険に扱っていた。 「はっはっは。そんなこと言うなよー」 風信子が確保したカレー皿に颯が手を伸ばし、風信子が高笑いをあげつつタックルで主を排除しようとする。 気心が知れているだけあり、準備動作に見せかけた牽制や視線での牽制なども多用する非常に大人気ない争いが展開される。 「匙を使うか。卑怯じゃぞ」 「戦場での卑怯はほめ言葉ってことで」 銀のスプーンを手にした颯が徐々に優位に立ち、隙をついては皿からカレーをすくい取って食べていく。 両者の争いは、レイシーが「ご飯をおもちゃにしてはいけません」と優しく2人を叱るまで続いた。 「刺刀は、凱旋を信じておりました…お帰りなさいませ」 結局最後までぼうずであり、数度にわたる蛸との戦いで墨を被ってしまった刺刀が、主に対して恭しく臣下の礼をとる。 しかし、主である直羽には、刺刀の気落ちを見逃さない。 「は? いえ、私は何も問題ありませんが…? 私のようなものをお気遣い下さるとは…身に余る光栄」 あくまで臣としての態度を崩さない刺刀に乾いた上着をかけてやりながら、直羽は用意されたカレーのもとへからくりを連れていく。 「マスター! こちらです!」 笑顔で迎えた叶を見て、フルト・ブランド(ib6122)は喜びと驚きの入り交じった表情を浮かべていた。 感情の薄い叶が数時間でこうなるとは、想像すらしていなかった。 「それが『楽しい』という感覚です。今日はいい経験が得られましたね。レイシーさんやラビさんに感謝しなければ」 弾んだ口調でレイシーから料理を学んだことを報告する叶に、フルトは優しく微笑む。 「あれ、しらさぎ? 野菜切るだけじゃなくサラダを作ってくれたの。ああ、レイシーさん達と一緒に頑張ったのね。うん、すごいよ。ありがとう」 真夢紀が精一杯背を伸ばしてしらさぎの頭を撫でると、からくりは無垢な笑みを浮かべ、しかしすぐに真面目な顔で質問する。 「え? バーベキューを作りたいの? だったら既にある火を借りて…あー、いつもは火種を使うから勝手が違うもんね。バーベキューをするつもりでしょ?」 高速で食い尽くされているカレーを確認してから、残った材料の確認を始める。 「マユキ、これバーベキューじゃないです。ニクじゃなくてサカナやカイやきます」 「場所によってはお肉の代わりにお魚焼く事もあるの。間違いじゃないから」 真夢紀は手際よく野菜を切り余っていた魚を確保すると、レイシーが使っていた釜を借り、しらさぎに見本に説明をしながらカレーの次の料理にとりかかる。 みゅー、と。自らが獲った全ての魚を使ってからくり達の仲を取り持ったミヅチは、主と合流してようやく安堵の息を吐く。 「ご苦労」 からす(ia6525)が声をかけると、魂流は主の足下で丸くなって体を休めるのだった。 |