付け替え自由な首から上
マスター名:馬車猪
シナリオ形態: ショート
EX :危険
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/07/03 07:28



■オープニング本文

「男2人分近くの背丈を持つアヤカシが3体ですか?」
 開拓者ギルド係員はわざとらしく首をかしげる。
 それを依頼報酬増額のための交渉術と見たのか、依頼人は係員をにらみつけて説明する。
「3回確認したが、そのたびに違う奴だった。アヤカシの戦力が大きいのは分かるが、ばらばらに動いているのなら危険度はそれほどではないはずだ」
「なるほど」
 係員はうなずきつつ3枚の似姿を見比べる。
「新種のアヤカシの可能性も皆無ではないですけど」
 似姿を重ねて3つの頭を隠すと、角度と書き手の癖は違うもののほとんど同一の人型になる。
「おそらくこれは単独の首無し(ヘッドレス)です。犠牲者の方の首を使うか、模型か何かを首の上に載せているのではないでしょうか」
「は?」
 依頼人の顔に一瞬動揺の表情が浮かぶ。即座に気を取り直して表情を元に戻すが、係員は依頼人の隙を見逃さなかった。
「アヤカシの戦力を過大評価すると、避難を強いられる住民の数が増えてしまうのかもしれませんね。早めの討伐ということで話を進めましょうか?」
 係員は料金関連資料を差し出す。
 そこに書かれていた数字は決して暴利ではないものの、係員の態度からすると値切りは非常に難しそうだった。
「その方向で頼む」
「承りました」
 係員の態度は、最後まで丁寧だった。

「こちらは急ぎの依頼です」
 依頼に興味を持ったらしい開拓者を呼び止め、ギルド係員は詳しい説明を行っていた。
「街道から少々離れた小さな丘にかつて大型の熊が隠れ住んでいた洞窟があるのですが、そこに首無しが住み着きました」
 係員が示した地図が正確だとすれば、丘から50メートルほどは何もない荒野で、洞窟は高さ3メートル強、奥行き20メートルほどらしい。
「首無しは高い再生能力を持つアヤカシです。腕力と耐久力は格からするとかなり高めですが、狙いの正確さは下の下です。頭がないせいなのかどうかは分かりませんが、偵察能力も低いです。ただ知能そのものは獣以上人以下なので、多少の戦術は使ってくるかもしれません」
 強いことは強いが能力が偏っているらしい。
「既に十数名の被害が出ています。遺体はほとんど見つかっておらず、首無しが腹に収めたか、あるいは巣の中にある可能性があります。依頼内容に遺体回収は入っていませんが‥‥」
 できれば回収し、弔うなり遺族に引き渡すなりして欲しい。
 係員は頭を下げて開拓者達にお願いをする。
「アヤカシの住処の近くにある街道は主要街道ではありません。しかしアヤカシの影響で被害者が出た上、人と物の流れが止まり周辺に深刻な影響が出つつあります。準備期間が短く誠に申し訳ないのですが、早期の討伐をお願いいたします」


■参加者一覧
葛切 カズラ(ia0725
26歳・女・陰
鴉(ia0850
19歳・男・陰
鳳・陽媛(ia0920
18歳・女・吟
福幸 喜寿(ia0924
20歳・女・ジ
銀雨(ia2691
20歳・女・泰
夏葵(ia5394
13歳・女・弓
オラース・カノーヴァ(ib0141
29歳・男・魔
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ


■リプレイ本文

●見張りは邪魔
「なっちゃん、弓でどうにかならないかな?」
「なっちゃん‥‥」
 期待に満ちた視線を福幸喜寿(ia0924)と鳳・陽媛(ia0920)から向けられ、夏葵(ia5394)は困った顔になる。
「もう少し進めば射程内、だけど」
 ここはアヤカシが巣くう洞窟から200メートルほどの距離にある小屋の陰だ。
 洞窟の前では屍人(ゾンビ)が体から腐肉をこぼしながらうごめいており、見張りの役割を担っている気配があった。
「夏葵の弓の腕が非常識な領域に踏み込んでいるのは分かるけどよ、ここは正攻法でいこうぜ」
 銀雨(ia2691)はギルドの倉庫からここまで運んできた荷車をその場に止めると、草鞋の紐を締め直した。
「人魂を飛ばせる距離を考えると私も行くしかないわね。先導をお願いできるかしら」
 葛切カズラ(ia0725)がたずねると、銀雨は即座にうなずいた。
「生き残りがいる可能性は0じゃないからな。とにかく急いで確認するしかねぇ。カズラだけでなく全員で行きゃいいだろ」
 銀雨はそう言い残すと、地形を利用しながらアヤカシの死角を移動し、少し大回りをして洞窟に接近していくのだった。

●洞窟の背後にて
「駄目ね」
 カズラが首を振ると、銀雨は一言そうかとつぶやき唇をかみしめた。
「念のためもう一度頼む」
「アヤカシに見つかるかもよ?」
 口から息を押し出すようにして頼むと、カズラは懸念を口にしつつも符に力を込める。
「生存者がいないなら正面から押しつぶせばいい。そうだろ?」
「‥‥そうね」
 カズラは小さく息を吐くと、人魂を発動させた。符から変じたのは、その体躯と比べると非常に大きな目を持つ謎生物だ。
 普通の女性なら見た瞬間腰を抜かしそうな迫力があるが、大量の修羅場をくぐり抜けて来た銀雨にとっては単に珍しい造形でしかない。
 謎生物は洞窟の前でうろつく2体のアヤカシの動きを観察し、両方とも一方を眺めた瞬間に逆側から洞窟へと侵入する。カズラは謎生物の視覚情報を受け取り、眉をしかめながら洞窟内を確認していく。
「駄目ね。動いているのは全てアヤカシで、動かない生身の体も腐敗が始まっているわ」
「そうか」
 銀雨はまぶたを閉じて犠牲者の冥福を祈る。
 数秒後に目を見開いたときには、荒れ狂う怒りが紫の瞳に宿っていた。
「なら遠慮はいらねぇ。始めるとしようぜ」
 彼女の言葉を合図に、開拓者達は一斉に洞窟の前に飛び出していく。
 最初に攻撃をしかけたのはオラース・カノーヴァ(ib0141)だった。
 アヤカシが視界に入ると同時に魔杖を突き出し、人為的に引き起こした吹雪を屍人に叩きつける。
 格としては最も下に属するアヤカシと、熟練の域を超えかかっている魔術師とでは、象と蟻ほどの力の差がある。
 屍人は吹雪が吹き始めた瞬間に、瘴気が宿る骨や肉ごと粉々に砕かれていた。
「大きいのが小さいアヤカシを引き連れて来ます!」
 陽媛が緊張に強張った声をあげる。
 瘴索結界によって感じられるアヤカシの気配は、不自然なほどに整然と並んだままこちらに向かってくる。
 陽媛は神楽舞を素早く喜寿に行使しながら、緊張に耐えそのときを待つ。
「っ‥‥」
 首無しが洞窟から姿を見せた瞬間、空気が重くなった。
 人間に非常に似通っている癖に、人間とは絶対に同一視したくない歪んだ肉体。しかしその身に秘められた力は見ただけでも明らかで、太くたくましい四肢は凄まじいまでの暴力の気配を漂わせていた。
 だが、その程度で恐れ入る開拓者はこの場にはいない。
「テメェが穴から出てきた時点で、チェックメイトだぞっと♪」
 笑みさえ含んだ声で、鴉(ia0850)はアヤカシを挑発する。
 死に神が描かれた札が放たれ、黒々とした闇色のカラスの烏に変じて首無しを襲う。
 巨大な体格を持つ首無しは丸太ほどの太さと鉄並みの強固さを持つ腕を盾にカラスを受け止めようとする。
 しかしよく練られた力で形作られたカラスは実体を持たず、巨大な腕をすり抜けて首無しの腹にめり込み、食らいついていく。
 頭どころか口さえ持たない首無しは、己の存在が大きく削られる苦痛にさらされ、全身を震わせることで悲鳴に替える。
「相手はうちがするでぇ。お手並み拝見さっ!」
 鴉に向かって腕を振りかぶる首無しの前に、喜寿が飛び込んでいく。
 首無しの握りしめられた拳は喜寿の頭ほども有り、かなりの高速で振るわれたそれは、かすっただけでも皮膚を削り肉をえぐり飛ばす威力があった。
 が、喜寿はダマスクスナイフを振るい、絶妙の機をとらえてアヤカシの拳に触れ、その勢いを下へ下へとずらしていく。
 喜寿が踊るような足取りで位置をずらすと、首無しの拳は見当外れの地面に命中し、激しい地響きと共にめり込んでいた。
「ナイフさばきも少しは上達したーっ、って言いたいところやけど、相手が特殊すぎるわぁ」
 首無しの背後から左右に飛び出してくる狂骨と屍人に意識を向けながら、喜寿は素早く後退する。
 1体1でなら首無しの攻撃を100回連続回避し続けられる自身があるが、狂骨や屍人に囲まれ、回避を邪魔されながらではそうはいかないからだ。
「こうも密集すると面倒だな」
 琥龍蒼羅(ib0214)は一太刀で狂骨の背骨を開きにし、次の一太刀で屍人の腰を両断しながら、わずかに眉を寄せていた。
 洞窟の入り口付近で乱戦が展開されているため、敵味方が密集し視界も効かない。
 ただしそれは、開拓者にとっては面倒ではあっても不利に働く要素ではない。
「タイミングをずらして右から2体来ます」
「お任せよ。魚の様に釣り上げ鴨の様に撃ち落すってね」
 陽媛からアヤカシの動きを伝えられたカズラが、謎型奇怪生物を手元に出現させ、鏃型に変形させながら突っ込ませる。
 開拓者を包囲して追い込もうとした2体の屍人に、連続で放たれた鏃が次々に命中してその身を削る。
「首のない屍人が‥‥」
 陽媛の表情が曇る。犠牲者がどのような目にあわされたか想像してしまったのだ。
「後でちゃんと弔ってやんよ、俺は死神だからな」
 陽媛の憂いを払うかのように涼しげな声が響く。
 鴉が放った2羽のカラスは2体の屍人にそれぞれ命中し、その身に潜んでいた瘴気を吹き散らして元の屍へと戻す。
「ちぃ、しぶとい」
 洞窟の中にいたアヤカシが全て外へ出たことを陽媛から伝えられ、銀雨は洞窟の入り口へ移動して首無しの退路を塞いだ。
 既に狂骨と屍人はほとんどが倒されている。首無しはオラースが行使したアイヴィーバインドにより動きを鈍くされ、喜寿、蒼羅、そして銀雨自身によって一所へ押し込まれ、辛うじて包囲を抜けかかったとしても見晴らしの良い場所から飛んでくる矢により足を地面に縫い止められる。
 夏葵は天頂から降る陽光を妖しく照り返す白面を被ったまま、次の矢をつがえて首無しの逃走に備えている。
「情報通り、狙いが甘い」
 首無しからの横殴りの一撃を紙一重でかわすと同時に、蒼羅は思い切りよく首無しの間合いに踏み込んだ。
 すれ違いざまに居合いで放たれた斬竜刀は首無しの左肩を捉え、間接を粉砕して左腕ごと切り飛ばす。
 鞘に刃を収める蒼羅の周囲には、紅い燐光が静かに舞っていた。
「派手な技ぁ使いやがる」
 銀雨は口元だけで凶悪な笑みを浮かべると、己の力を解放した。
 体内で荒れ狂う大量の練力を、意志の力で導き、重ね、まとめ上げる。
 普段は青白くみえることもある銀雨の体が赤に染まり、全身の筋肉が引き絞られる。
「つぁりゃっ!」
 気力を爆発させ、活性化した体の力と方向性を一致させる。
 銀雨は短く跳躍すると同時に高速で右足を跳ね上げ、それ以上の速度で首無しへと振り下ろす。頭部を持たない首無しは急所を潰されることは避けられたが、形の良い赤い踵に胸をえぐられ、肺を押しつぶされ、脊椎を砕かれる。
「ま、まだ動いてるーっ」
 蒼羅と銀雨が大技を放ったことで生じたわずかな隙をとらえ、上半身が半壊した首無しが包囲を脱しようとする。
 喜寿がその前に立ちふさがり辛うじて攻撃を防ぎ続けているが、防御を捨てて巨体を押しつけるようにして前進して来ているので徐々に余裕が無くなってくる。
「白面九尾の威をここに、招来せよ! 白狐!」
「いいぜ、死ぬまで殺してやるぞっと」
 大型の九尾白狐と漆黒のカラスが、首無しの胸に開いた大穴から潜り込んで中を食い荒らす。
 続いて飛んできた矢が健在だった両足の関節を打ち抜き、すぐに体勢を立て直した銀雨が残った腕を蹴り潰す。
「断ち斬れ‥‥斬竜刀」
 蒼羅が大型野太刀を振り下ろすと、首無しは数秒その動きを止め、やがて左右に分かれ地響きを立てて大地に沈んだのだった。

●埋葬
「お疲れ、さまでした」
 街道の脇に立てられた小さな墓の前で、陽媛は弔いの言葉を捧げていた。
 胸の中には様々な思いがあるのに、それ以上言葉にならない。陽媛はぎゅっと唇を噛み締め、うつむくしかなかった。
「さ、もう行こうや。なっちゃんも」
 喜寿が夏葵の背を撫でると、夏葵は泣き顔を布巾に押しつけたままこくりとうなずいた。
「火葬するための燃料までは支給されなかったからな」
 屍人の瘴気が霧散した後に残った遺体を埋葬したオラースは、遺体から回収した遺品を整理しながら呟いた。
「仕方がないさ。腐臭をまき散らしながら街中を移動する訳にはいかない」
「遺体は全てご遺族の元へ運びたいですけど、現実的には限界がありますよね」
 鴉とカズラは無事だった骨を荷車に乗せながら応える。
 埋葬と遺品と遺骨の分類は1時間ほどで終わり、開拓者達は遺骨を揺らさないように気をつけながら、帰路につくのであった。