大重量を食い止めろ!
マスター名:馬車猪
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/08/06 04:55



■オープニング本文

 アル=カマルにおいて最も重要なもののひとつである大規模農地。
 その農地を潤す水路に、巨大なアヤカシがゆっくりと向かっていた。
 がしゃどくろ。
 全高5メートルに達する大型アヤカシであり、その巨体から繰り出される一撃は経験を積んだジンにとっても脅威だ。
 襲撃してきたがしゃどくろに対し、大規模農地近くに常駐していた部隊が迎撃に向かった。
 大部族の精鋭砂迅騎のみで構成された部隊は、部隊に被害が出ることはあっても確実にアヤカシを殲滅して農地を守り抜くはずだった。
 が、結果は惨敗。水路を背に戦わざるを得なかったため砂迅騎は機動力を活かせず、辛うじて撃退はしたものの全員重傷を負ってしまう。
 砂迅騎部隊はがしゃどくろに大きなダメージを与えたが、がしゃどくろは再生能力を持つため5時間もすれば全回復すると予測される。
 今から現地に急行すればがしゃどくろが再度用水路を襲う前に現地に到着できる可能性が高い。最悪の場合は農地を破壊してもされても構わない。水路だけは守り抜いて欲しい。


■参加者一覧
風雅 哲心(ia0135
22歳・男・魔
玲璃(ia1114
17歳・男・吟
メグレズ・ファウンテン(ia9696
25歳・女・サ
将門(ib1770
25歳・男・サ
朽葉・生(ib2229
19歳・女・魔
ヤリーロ(ib5666
18歳・女・騎
アナス・ディアズイ(ib5668
16歳・女・騎
ムキ(ib6120
20歳・男・砲


■リプレイ本文

●初弾
 太陽に熱せられた大気が真正面からぶつかってくる。
 駿龍はムキ(ib6120)に命じられるままに飛行を続け、砂漠を横断し、小型の運河と表現しても違和感のない用水路を越え、緑豊かな畑に到達した。
「崇、もう一踏ん張りだ」
 漆黒の魔槍砲を構え、前方の大型アヤカシに狙いをつける。
 ここまで高速を維持し続けるため地面から離れて飛行してきたのに、がしゃどくろの眼窩はムキと崇の真正面にある。
 距離感が狂いかねない大きさの髑髏が、横一列に4体。
 それに立ち向かうのはムキと崇の1人と1体。
 客観的にみれば英雄譚じみた光景だが、当の本人達にそういう意識は全く無い。
「俺が相手じゃ不足かもしれねぇが、付き合ってもらうぞ」
 死十字の銘を持つ魔槍砲に練力を流し込み、爆発的な攻撃力を一気に開放する。
 熱い大気を切り裂く一撃は戦闘の巨大髑髏の額で炸裂し、新たな亀裂を生じさせることに成功する。
 しかしがしゃどくろの動きに変化はない。これまで通り大股で歩き続け、開拓者の全力疾走並みかそれ以上の速度で堤防に近づいていく。
「おいおいおい。足を緩めることさえしねぇのかよ」
 肌と肌が触れあいかねない距離にまで詰め寄られて動揺する崇を宥めながら、ムキは口元を歪めた。
「付き合ってもらうぜ」
 練力による高速再装填の後、横を通り過ぎようとしたがしゃどくろに対し再度のメガブラスターを放ち、ほぼ横一線のがしゃどくろのうち3体を撃ち抜く。崇も主人の言いつけ通り真空刃を放とうとし、手綱によっていきなり急上昇を命じられて混乱しながら中空へ退避する。
 ムキ主従が1秒前までいた空間を、城壁を破壊するに足る威力を秘めた拳が撃ち抜いた。

●第一の壁
 漆黒の駆鎧が、農地を吹き飛ばしながら猛進する。
 外付け装備を全て外し、最短ルートを選んだ結果どれだけ気をつけても野菜どころか畑ごと粉砕してしまう展開を甘受することで、漆黒の駆鎧は地上班として最初にアヤカシを捕捉するすることに成功しつつある。
「2体か」
 北辰の銘を持つ駆鎧の中で、将門(ib1770)が感情のこもらぬつぶやきを漏らしていた。
 それとほぼ同時に駆鎧が全力稼働を始め、体の各所からオーラ混じりの蒸気が噴出して機体についた砂塵を吹き飛ばす。
 続いて濃厚な朱金色のオーラが黒の装甲を覆い、ひときわ濃い朱に彩られた拳ががしゃどくろの膝に正面から激突する。
 防御を捨てて全力移動していた両者が真正面から激突することで、通常では考えられない威力が双方に対して炸裂した。
 良く整備され、小さな部品に至るまで磨き抜かれた機体の手首から先が残骸と化す。
 頭部を中心に全体的にひびが入っていたがしゃどくろの膝が音を立てて弾け、前のめりに転倒して緑混じりの土砂が宙に舞う。
 将門はがしゃどくろが倒れるより早く一旦後退して衝突を避け、視界が効かない中聴覚に意識を集中して次のアヤカシを狙う。
「練力切れか」
 自重の乗った蹴りが強固な骨を蹴り砕くと同時に、練力の切れた北辰は力尽きたようにその場に膝をつくのだった。

●第二の壁
 2騎の霊騎が畑を避けながらアヤカシに向かう。
 そのうちの1騎、環に乗る玲璃(ia1114)は、視覚と瘴索結界「念」がもたらす情報によってその秀麗な顔を曇らせていた。
「大型健在2、中破2。他は…今風雅さんが接敵しました」
 玲璃が報告すると、メグレズ・ファウンテン(ia9696)は瞬の速度を緩めながら神槍を投擲する。
 速度最優先で避けようともしなかったがしゃどくろの腰骨に突き刺さり、穴と亀裂だけを残して槍がメグレズの手元に戻る。
「指揮を執る者がいるのか?」
 がしゃどくろの進路上に立ちふさがり、翼竜鱗を構えて激突に備える。
 前に進むことしかしないがしゃどくろと、これ以上アヤカシを堤防に近付けるつもりのないメグレズが激突した。
 盾の中央に埋め込まれた宝珠が全力で稼働して障壁を展開し、速度と大重量を兼ね備えたがしゃどくろを受け止める。
 これが尋常の戦であれば勢いを受け流して比較的容易に防げただろうが、今は不利でもこの場で防ぐしかない。
 瞬ごと後ろに押しやられながら、メグレズは瞬と息を合わせてなんとか倒れることだけは防ぐ。
「ここは通さぬ!」
 気合いと共に咆哮を発すると、メグレズの真横を通過しようとしていた3体のうち1体がメグレズに向きを変える。
 残る2体、片方の膝が砕かれたがしゃどくろと、足首から先を粉砕されたもう1体が地面を這いずりながらメグレズと玲璃の横をすりぬけていった。
 玲璃は、がしゃどくろを追わなかった。
 短時間の攻防で体の内側にまで大きな傷を負った瞬が、がしゃどくろが立てる大きな音に紛れて響く玲璃の歌声に癒され、荒い息を吐く。
 そうしている間も敵味方の動きは止まらず、健在ながしゃどくろ1つと咆哮に捕らわれたがしゃどくろ1は、2騎をじりじりと押し込みながら堤防に向かって行く。
「加護結界を展開します」
 荒れた元畑を巧みな足取りで捉える環の背で玲璃が声を出すと、がしゃどくろを追ってきていたムキと崇が大人しく術を受け入れ、堤防に最も近づいた2体を追っていく。
「他のアヤカシを排除するまではなんとしても持ちこたえる。堤防に向かってください」
 頭上から高速で降り注ぐ4つの拳をなんとか防ぎながら、メグレズが必死の思いで口にする。
 玲璃はもう一度だけ精霊の唄を使い、既に堤防の近くまで迫った2体のがしゃどくろの背を追いかけた。

●別働隊
 高速で大地を走る走龍が地を蹴ると、それ以上の高速で砂が背後に飛び散っていく。
 飛び散る砂の量は意外と表現していいほど小量で、走龍が己の力を効率良く速度に変える能力を持つことがはっきりと分かる。
「次のかけ直しは無しだ。派手な術に驚くなよ」
 風雅哲心(ia0135)は土龍姫を宥めながら、アクセラレートの効果時間が無くなると同時にかけ直して土龍姫の素早さを維持する。
 走龍は地上を行く者としては最速級であり、がしゃどくろと比べるとゆっくりでしかないスケルトン集団との距離を一気に縮めていくことができた。
「それじゃあ、景気よく行かせてもらうぜ。…響け、豪竜の咆哮。穿ち飲み込め――サンダーヘヴンレイ!」
 地面と水平に走る雷が、激しく大地を震わせながら通常サイズの骸骨に襲いかかる。
 生身が無く攻撃が効きにくそうに見えるスケルトンではあるが、哲心の磨き抜いた知覚力によって行使される術に対抗できるはずもない。
 薄汚れた骨は炭に変わることも許されず、強大無比な雷に粉微塵になるまで砕かれ、そのまま微細な瘴気に直接戻っていく。
 行使した雷は4つ。
 それだけで、がしゃどくろの影に隠れて動こうとしていたスケルトンは1体残らず滅ぼされていた。
「土龍姫、ここからは速度ではなく動きの正確さが重要だ。角度には気をつけろよ」
 走龍にその場で旋回させ、用水路と水平に視線を向ける。
「猛ろ、冥竜の咆哮。食らい尽くせ――ララド=メ・デリタ!」
 メグレズが足止めしていた、咆哮に捕らわれたがしゃどくろのうちの1つに灰色の光が直撃し、片方の腕を消滅させる。
 二度、三度と攻撃を繰り返すと、恐ろしく頑丈だったアヤカシもさすがに限界を超え、倒れることもできずただの瘴気に戻り、散っていった、

●最後の壁は
 朽葉・生(ib2229)が4つめの鉄壁を立て終わったとき、足の一部が欠けた巨大骸骨がその場に乱入した。
 攻撃ですらなく、単に2体がぶつかることで1枚の鉄壁が消える。
 しかし高位の魔術師である生の手による鉄壁は極めて頑丈であり、1枚と引き替えに2体の速度を一時的に0にすることに成功していた。
 そこに鷲獅鳥の司が鋭く一撃を加え、生がこの世に生じさせた灰色の光ががしゃどくろの1体を覆う。
 精霊を混合により生じた灰色は、がしゃどくろの中でも特に抵抗力に優れた個体の守りを力任せに打ち砕く。
 巨大な骨が、表面から砂のように崩れていく。巨大ではあるが人型ではあったアヤカシが瞬く間に形を崩していく様は、ひょっとしたらアヤカシ以上に不気味で不吉な光景だったかもしれない。
 がしゃどくろは己の全てが崩れゆく状態で強引に体を動かし、目の前の鉄壁に拳を振り下ろす。
 アヤカシの巨体を完全に隠せる大きさの鉄壁が、たった1発の殴打で限界を超え消えてしまう。念入りに生が3枚重ねていたため即座に堤防がむき出しになることはなかったが、それも2体のがしゃどくろがそれぞれ左右の拳を振り下ろすまでのことだった。
 4枚重ねられていた鉄壁は全て消え、アル=カマルの民の血と汗によって造られた用水路がアヤカシの攻撃圏に入ってしまう。アヤカシの、皮膚も筋も無い無機質な顔面に、破滅を喜ぶ何かが浮かんでいた。
「司!」
 連続で灰色の光を生み出しながら、がしゃどくろの進路を遮るよう鷲獅鳥に命令する。その背に乗る生まで危険にさらす危険な命令だが、他に手段はない。
 司は忠実に命令を実行し、がしゃどくろの巨腕にはじき飛ばされるのと引き替えに貴重な時間を稼ぎ出すことに成功した。

●アーマー
 アーマーケースから解放された2騎のアーマーは、騎士に乗り込まれることでようやく本来の戦闘力を取り戻す。
 アーマーに乗って現場に急行した将門とは異なり、現場に到着してから乗り込んだ2人と2騎は、戦闘参加は遅れたがその分機体の練力が万全の状態で戦に挑むことができた。
 最初に動いたのは、迅速起動の分素早く乗り込みを完了させたアナス・ディアズイ (ib5668)だ。
 気力と練力を叩き込んでリエータを全力で動かし、豊富な練力を惜しみなく使って半壊状態のがしゃどくろに体当たりを仕掛ける。無論のこと無策での体当たりではなく、重くそれ以上に頑丈な菱形の盾に全重量と勢いを乗せ、体のあちこちが欠けてその場で踏みこたえることすら難しくなったがしゃどくろを、見事にはね飛ばした。
 追撃は、しないしできない。
 もう1体のがしゃどくろが、両手を振りかぶったまま転がるようにして前に踏み込んだのだ。
 リエータは残り全ての練力を使い尽くす勢いで加速し、がしゃどくろの前に回り込もうとする。が、一歩足りなかった。
 組み合わされた骨の両腕が、堤防を薄紙のように切り裂く、はずだった。
「ノッカー!」
 もう1騎のアーマーが、巨大な骨と堤防の間に滑り込む。
「耐えなさい」
 ヤリーロ (ib5666)は、パーツの1つに至るまで知り尽くしたアーマーに死守を命じる。一瞬にも満たない間に受け止める体勢をとらせ、機体各所にエネルギーを配分し、後は自らが整備したノッカーを信じるだけだ。
 骨と装甲が接触する瞬間、オーラダッシュの要領で練力を背後に向けて噴出する。組み合わされた拳とギガントシールドが大きな音を立てて衝突し、がしゃどくろとノッカーが真正面から押し合い、骨とパーツが軋む音が響き渡る。
 元に戻すのに何日かかるだろうかと頭の隅で考えながら、ヤリーロは気力も練力も全て注ぎ込んでがしゃどくろの大重量に対抗する。
 ノッカーの肘と踵が堤防に当たり、溢れるオーラが堤防の表層の土を吹き飛ばす。
「なんという…」
 ようやくここまで戻って来た玲璃が、大重量同士の対決を目にして思わずつぶやく。
 攻撃能力に関しては、おそらく玲璃1人でノッカーを上回っているだろう。しかし巨大で頑丈なアヤカシを受け止める能力に関しては、明らかにノッカーが上回っていた。
 感慨にふけっている間も玲璃の動きは止まらず、玲璃に癒されたムキ主従と司が戦線復帰しリエータに投げ飛ばされたがしゃどくろに止めを刺す。
 ノッカーとの正面衝突を避けるために一時退避していたリエータが、がしゃどくろに死角から組み付き、その動きを封じる。
 リエータの攻撃は終わっていない。ノッカーと協力して押さえ込んだことを確認すると、そっと片腕を離してチェーンソーを手に取り起動させる。
 チェーンソーの高速回転する刃を身動きの取れないがしゃどくろの大腿骨に当て、ゆっくりと、確実に削りきっていく。
 ノッカーが力をかける方向をずらすと、半ばまで削られた大腿骨が砕け、がしゃどくろが完全に体勢を崩す。
「っ」
 ノッカーの中でヤリーロが鋭い呼気と共に操作し、ノッカーの背面から外された巨大戦斧が巨大な頭蓋と頸骨を粉砕する。
 不浄な骨が陽光に照らされながら瘴気に戻っていく中、ノッカーは最後の練力を使って駐機状態をとり、主を解放するのだった。

●完勝
 メグレズが大型アヤカシの一撃を受け止めるより早く、哲心達の攻撃術が集中し最後のがしゃどくろが崩壊を始める。
 気を抜かずに周囲を警戒しても、アヤカシの影は見あたらない。確認のため玲璃に目を向けると、瘴索結界「念」でアヤカシの反応がなかったことを身振りで示される。
 アヤカシが目指していた堤防に視線を移すと、そこでは小柄な金髪騎士が外套でアーマーの関節部を覆っていた。
 黒髪の騎士はアーマーの状態を調べて表情を暗くしている。どうやら、砂漠という環境はアヤカシ並みに手強いらしかった。

●その後
 帰りがけ、依頼人に同行していた農耕民に対し、数名の開拓者が畑を守りきれなかったことについて謝罪を行った。
 それまでしきりに感謝していた農耕民達は、始めはぽかんと口を開け、やがて開拓者の意図に気付き激しく困惑した。
 農業の崩壊から地域全体への崩壊すら覚悟していた彼等から見て、アーマー1体が吹き飛ばした畑など誤差の範囲でしかない。
 互いに頭を下げあう不思議な光景は、依頼人が双方を宴に誘うまで続いたという。