大人げない人。駆鎧編
マスター名:馬車猪
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/07/28 03:52



■オープニング本文

「鉄の重鎧に身を包んだ巨人…。実に素晴らしい」
「左様左様。元服前の浪漫が形を為したような」
 家督を譲って悠々自適な暮らしを楽しんでいる老人達が、料亭の奥で好き勝手に飲み食いをしている。
「駆鎧の導入についてはどうなりましたかな?」
「それがのう。息子が初期投資に怖じ気づいて話が進んでおらんのだ」
「なんということだ。それでは駆鎧運動会もアーマーバトルロイヤルも開催できんではないか」
 酒が理性のたがを緩めているせいか、老人達は今にも殴り合いを始めそうなほど頭に血が上っていた。
「こうなれば仕方がない。我等が率先して駆鎧の素晴らしさを広め、天儀での駆鎧一般化、大規模導入に弾みをつけようではないか!」
 隠居とは言え未だに多大の影響力を持つ老人達が、一斉に歓声をあげた。

●アーマー・カーニバル
 某月某日、都の郊外で武闘大会が開催される。
 駆鎧搭乗者は駆鎧の機能を停止した時点で負け。
 浪漫の無い戦い方をしたら負け。
 場外に出たら負け。
 ルールは以上の3つのみである。
 開催者の目的は駆鎧の評価と評判を高めることにあるので、駆鎧での参加者は何かと優遇されるかもしれない。
 試合形式はトーナメントまたはバトルロイヤル。出場者の希望に添うつもりなので、決まったらできるだけ早く主催者に伝えて欲しい。


■参加者一覧
皇 りょう(ia1673
24歳・女・志
サーシャ(ia9980
16歳・女・騎
アーシャ・エルダー(ib0054
20歳・女・騎
グリムバルド(ib0608
18歳・男・騎
狸寝入りの平五郎(ib6026
42歳・男・志
黒嶄(ib6131
26歳・女・砲
雨傘 伝質郎(ib7543
28歳・男・吟


■リプレイ本文

●俺が駆鎧だ!
 高位開拓者の一撃にすら耐える石材が敷き詰められた闘技場。
 そこに登場したのは異形であった。
 胴は古びた木箱。
 十年近く果物を守り運んできたそれには年月に耐え抜いた迫力がある。
 中央に書かれた駆鎧の文字は墨痕鮮やかであり、搭乗者の気迫を強く感じさせる。
 箱には両手、両足、首を出すための5つの穴が空いていて、骨太な四肢と綺麗に禿げ上がった頭が箱から突き出ていた。
 特徴的な三白眼は、本人の目力により閃光を放っているようにも見える。
「見事っ」
 皇りょう(ia1673)は、夏の太陽を反射する禿頭を目にして思わず感嘆してしまう。
 物見高い人々、実に数百人に達する観客が、異様ではあっても凄まじい迫力に飲まれて完全に沈黙している。
「魅せる戦いでは負けかもしれぬ。だが」
 りょうは漆黒の外装の駆鎧に乗り込み、静かに決戦場に足を踏み入れる。りょう機の整備状態も制御も完璧に近く、観客は自らの呼吸音くらいしか聞き取れない。
「我が一族が実戦の中で鍛え上げた剣で応えよう。皇家が当主、おりょう。お相手仕る!」
 試合開始の旗が審判によって振られると、両者は全く同時に動く。
 漆黒の武神号は短距離の助走により高速を得、駆鎧仕様の刀を全力で振り下ろす。
 太陽に祝福された禿頭は、その場を動かない。
 両手両足に力が籠もり、筋肉によってふくれあがる。
 そして、雨傘伝質郎(ib7543)は、天下に対し高々と宣言した。
「あっしが駆鎧でいっ!!」
 りょうの一撃に吹き飛ばされ、そのまま大空の星になってしまっても、彼の名乗りはいつまでも皆の心に残っていた。

●爆発駆鎧
「やってくれたぜ」
 狸寝入りの平五郎(ib6026)は戦慄していた。
 箱から伸びる綱を2騎の龍に引っ張って貰い、りょうの攻撃とタイミングをあわせて上空に消えていく。言うまでもなく縄と龍は観客に気づかれていない。
 実に見事な、観客の心に己の存在を刻み込む活劇であった。
「飲め、お前が一番だ」
「馬鹿者! なんてものを、なんてものを見せてくれたのだ」
 その上空に消えたはずの箱駆鎧野郎は、感動した依頼人とその同志達に囲まれて大量の酒を飲まされている。
 平五郎と本人の龍達が、観客から見えない軌道でここまで運んできてくれたのだ。
「へへっ、旦那方に喜んで頂ければそれで…っとっと、こぼれちまいやすぜ」
 最初は嬉々として飲んでいた伝質郎も、グラスで10杯を越えたあたりで顔色が悪くなる。
 場をしらけさせないためか、最上等の酒を飲み貯めするつもりかは本人にしか分からないが、伝質郎は貴賓室で老人達の相手に専念していた。
「俺は俺のやり方でとことんやるだけだぜ!」
 貴賓室を後にした平五郎は、ほとんど助走せずに高々と跳躍し、重量感のある音を立てて舞台に着地する。
 胴体は伝質郎のものと似通っている。
 しかし両腕両足は胴と同様の素材からなる鎧で覆われており、足裏には総鉄製算盤を装着して速度を増強し、腕部にはクロスボウを内蔵して攻撃力を確保している。
 戦闘力と浪漫を同時に追求するという、最も難しい戦い方を選んでいるのだ。
 鉢金に装着されたVの字の飾りが、不退転の決意と勝利への意欲を主張しているようだった。
「やるねぇ」
 平五郎と向かい合う駆鎧の中で、グリムバルド(ib0608)は不敵に微笑んでいた。
 彼が駆るのはヴェルガンド。平均的な能力を持つアーマーであり、装備もアーマー仕様の剣と盾という堅実な組み合わせだ。
 しかし想いの強さで平五郎に劣るつもりは全く無い。
「第二試合…はじめい!」
 試合開始の旗が振られる。
 グリムバルドが選択したのは待ちだった。
 機体の装甲と盾を巧みに組み合わせて鉄壁の守りを展開する。言うまでもないことだが気弱ゆえの待ちではなく、絶好のタイミングで敵に致命打を見舞うための行動だ。
 対する平五郎が選択したのは果断な攻めだった。
 雷同烈虎を舞台に叩きつけ、極めて頑丈な石畳を破壊する威力を速度に変換する。
 反応がわずかに遅れたヴェルガンドの側面に回り込み、左右の腕の射撃武器を向ける。
 平五郎がアーマーの死角に入り、完璧なタイミングで引き金を引いた瞬間、ヴェルガンドが悠然と外套をひるがえす。
「ぬるいぜ」
 アーマー用の分厚く巨大な外套は、威力はあっても軽いクロスボウの矢をたたき落としてしまった。
「まだまだぁっ!」
 平五郎は射撃攻撃を諦め八尺棍で撃ちかかる。が、そのとき既にヴェルガンドは平五郎に向き直っていて、カウンターの形で超巨大剣が平五郎を襲う。
 横踏での回避も無理、雷同烈虎を用いた防盾術を使われてもそのまま押しつぶせる。
 グリムバルドは圧倒的な優勢を確信しつつ、しかし決して気を抜かなかった。
 だからこそ、次に起こった異様な展開になんとか対応することができた。
「パージ!」
 平五郎の巨大な鎧が内側から吹き飛ぶ。
 発生した炎が火薬によるものか炎魂縛武によるものか、グリムバルドも観客も判断できない。
「行くぜ」
「この試合に賭けるあんたの想いは凄い。だがな、俺も根性だけは負けん!」
 鎧内部に満載されていた焙烙玉が炸裂し、平五郎を吹き飛ばした爆風がそのままヴェルガンドを襲う。平五郎も飛びながらヴェルガンドの関節を狙い、ヴェルガンドは一度に与えられたダメージの大きさに耐えかねてその場に倒れ込む。
「よ…し」
 舞台の端に倒れ伏す平五郎は満足げに微笑み、そのまま意識を失った。
 審判が無情なほど冷静にカウントを進め、あと1カウントで両者ノックアウトになろうとしたとき、ヴェルガンドが背面からオーラを噴出させて最終カウントの前に立ち上がる。
「奥の手まで切らされたか」
 駆鎧を使って生身に勝っても勝利ではない、などという考えは脳裏に浮かびさえしない。
 両者ともに全力を尽くし、勝ったのはグリムバルドなのだ。
「またやろう」
 グリムバルドは騎士の礼をしてから、静かに舞台を去っていった。

●演武
 蹄が石畳を蹴る軽快な音と、アーマーの脚部が石畳を砕く爆音が同時に響く。
 蹄は黒嶄(ib6131)の霊騎である蒼祝のもの。
 踏み砕くのはアーシャ・エルダー(ib0054)の愛騎であるゴリアテだ。
 蒼祝は速度と小回りを活かして有利な位置を確保し続け、ゴリアテが装甲の薄い部分を見せた瞬間に練力を使って高速再装填を行いながらマスケットで連射する。
 一発で分厚い装甲板すら撃ち抜く銃弾が、強烈な音を発生させながらゴリアテの装甲に命中し、しかし装甲を貫くことなく弾かれる。
 アーシャがゴリアテの体勢を変え、装甲を斜めにして受け流したのだ。
 騎馬銃兵とアーマーによる戦いは苛烈にして華麗であり、それ以上に高度な戦術を尽くした戦いである。心得がある兵士や志体持ちにしか分からないであろう戦いだが、観客の中の大部分を占める者達も熱狂して歓声をあげている。
 特に盛り上がっているのが子供達で、黒嶄が動く度に目を輝かせ、ゴリアテが腕を振り上げる度にはしゃいでいた。
 赤と白のもふらさまペイントがほどこされたゴリアテが、大きく手を広げて襲いかかる。
 丸っこい丸ごとアーマーを着込んだ黒嶄が、蒼祝と共に舞台の上で踊るように立ち回る。
 彼等の動きは精妙でありながらコミカルで、強者の観客も子供の観客もそれぞれにさらに盛り上がっていく。
 騎馬銃兵は馬上で連射し、しかしゴリアテは軽い動作で肩をすくめる。
 それはまるで、そんな攻撃は効かないもふ! もふには痛くも痒くもないもふ! と言っているようだった。
「今!」
 黒嶄と蒼祝は完全に呼吸をあわせ、鉄の巨人を飛び越える。くるりと反転し、マスケット内の火薬と練力を混合させて大気を撃ち出した。
 ゴリアテが体勢を崩し、コミカルな動きで、だがしっかりと受け身をとって舞台に倒れ込む。
 黒嶄と蒼祝は、アーシャと共に試合前に打ち合わせしたとおりに前進し、全身で勢いをつけて蹄を振り下ろす。
 が、もふらさまカラーの駆鎧は胸部装甲で見事に受け止め、背面からオーラを吹き出すことで騎馬銃兵をはね除けつつ立ち上がる。
 黒嶄が巧みに手綱を操って場外も転倒も回避するが、ゴリアテが青銅巨魁剣を構え直し振り下ろすのを防ぐことはできなかった。
 大重量の刃は舞台上の障害物として設置されていた大岩を豆腐のように切り裂き、飛び散る小石が蒼祝の足を1秒と少しだけ止める。
 必殺もふスマッシュ! と言いたげな動きで巨大刃が振るわれ、黒嶄と蒼祝の頭上で停止する。
 黒嶄が敗北を宣言し、もふらさま駆鎧がそれを受け入れると、会場を盛大な拍手が包むのであった。

●休憩
「お疲れ」
「黒嶄さんこそ」
 控え室まで戻ってきた2人は互いに健闘を称え合い、よく冷えた茶が入った碗を干す。
 アーシャはアーマーに乗ったまま長時間夏の陽を浴びたことで体力を消耗し、黒嶄は生身で駆鎧とやりあったためダメージも疲労も大量に蓄積している。朋友の蒼祝も依頼人の家臣に診断されている最中だ。
「好評なのは良いのですが」
「出し物として受けているだけで兵器として受けている訳ではないようだから、多分依頼人は目的を果たせないわね」
 2人は数秒見つめ合ってから、それぞれのやり方で依頼人の幸運を祈るのだった。

●準決勝
「なんて戦い方を」
 真正面から押してくる白銀のアーマーに、ヴェルガンドは一方的に後退を強いられていた。
 いつもならもなら多少押されても均衡状態にまで持ち込めていただろう。しかし平五郎との一戦で受けた損傷は、ぎりぎりの場面での粘りを彼から奪っている。
「やるからには全力ですよ〜〜」
 久々のアーマー戦闘に盛り上がったサーシャ(ia9980)は、慢心も油断も無く、全力で押し出しを決めるのだった。

●最終決戦
 二回戦のアーシャとの戦いを制したりょうは、細心の注意を払いながら武神号を舞台に向かわせていた。
 一回戦での消耗の度合いの差は大きく、りょうが順当に勝ちを収めた。しかしもともと極端な実力差は無かったため、専門の技術者による整備を受けても回復仕切れないダメージを受けてしまったのだ。
 ダメージよりさらに深刻なのは、武神号に残った練力量だ。
 現在試合会場周辺は晴れ上がっている。つまり観客は強烈な日光と暑さに苛まれている訳で、放置すれば大量の重病人が発生しかねない。
 依頼人が連れてきていた数人の医者の活躍で今のところなんとかなっているが放置はできない。依頼人は予定の前倒しを厳命し、開拓者側も喜んでそれを受け入れた。そして、短くなった休憩時間では練力の回復が間に合わなくなったのだ。
「全力機動で1分もたないか」
 武人であるりょうは、様々なものが足りない状況でも戦い抜く術を身につけている。しかしそれが相手に通じるかは別の問題だ。特に、相手が最も得意とする戦場では。
 舞台の上で待っていたのは白銀の駆鎧、ミタール・プラーチィ。
 乗り手であるサーシャが戦場に持ち込むことは少ないが、遠雷改造機としては最高性能騎のうちの1つである。
 ミタール・プラーチィもヴェルガンドとの戦いでの消耗はあるが、練力に関してはもともと蓄積可能量が少ないため既にほぼ回復している。
「お互いの戦法がばれた上での本気のアーマー戦は初めてかもしれません」
 銀の機体の中で、サーシャはうっすらと笑みを浮かべたまま熱い息を吐く。
 いくら強くなろうが、その強さを活かしきる戦いに巡り会うのは非常に難しい。
 彼女もまた武人であり、死力を尽くして強敵と戦える場面に浮かれそうになる自分を制御するのは大変だった。
「いざ」
「勝負」
 開始の旗が振られると同時に、銀と黒のアーマーが、完全に同期した動きで舞台の中央で激突する。
 黒嶄とアーシャのように予め打ち合わせした訳ではない。磨き抜いた武術と卓越した思考能力で最も有効な行動を選択し実現した結果だ。
 武神号が繰り出したMURAMASAが、獰猛な唸り声をあげるチェーンソーとぶつかり合い、弾かれあう。
 銀と黒は目まぐるしく舞台の上を行き来しながら、恐るべき速度で刃を交わし、互いを傷を負わせながら決定的な一撃を繰り出せない。
「この一撃で」
 これ以上長引くとダメージではなく練力切れで戦えなくなると判断したりょうが、非の打ち所のない一撃を上段から振り下ろす。
 勢いに負けたチェーンソーが吹き飛びMURAMASAが銀の装甲板を断ち割ろうとする。
「シールドは攻撃を防ぐ物じゃない! 相手を殴り倒すものだ!」
 これまで節約してしてきた練力を全て使う勢いで機体に叩き込み、銀のアーマーは盾で殴りつけるようにしてMURAMASAを止める。
 そして、文字通り最後の練力を使い、チェーンソーをはじき飛ばされた拳を打ち込みつつ、さらにその状態から鉄鎖腕砲を叩き込む。
 武神号がゆらりと揺れて舞台の端から城外に落ちる。地面に倒れることは辛うじて防いだものの、既に立ち上がるだけの練力も残っていない。
 ミタール・プラーチィが拳を突き上げると、熱狂した観客達は一斉に歓声をあげるのだった。

●その後
 最高の盛り上がりを見せたアーマートーナメント。
 依頼人の身内も深く感じ入りアーマー好きにはなったが、残念ながら興行として好きになったのであり兵器として好きになったのではなかった。
 駆鎧普及という目的を果たせなかった依頼人は、新たな宣伝を行うため様々な手を打っているらしい。