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■オープニング本文 開拓者が実質的に統治する城塞都市がある。 豊富な水源と農地を分厚い城壁で囲い、内側は厳しくも公正な統治で完全に治まっている。 周辺の地域は崩れつつあるが、域外との関係を強めつつある城塞都市はびくともしない。 都市の中枢に位置しない者の多くは、そう考えていた。 ●天儀開拓者ギルドの片隅に張られた依頼票 仕事の内容は城塞都市ナーマの経営補助。 依頼期間中、1つの地方における全ての権限と領主の全資産の扱いを任されることになる。 領主から自由な行動を期待されており、大きな問題が出そうなら領主やその部下から事前に助言と改善案が示される。失敗を恐れず立ち向かって欲しい。 ●依頼内容 城塞都市の状況は以下のようになっています 状況が良い順に、優、良、普、微、無、滅となります。滅になると都市が滅亡します 人口:微 流民の受け入れを停止しています 環境:良 人が少ないです。商業施設は建物だけ存在します 治安:普 治安維持組織が正常に稼働しています 防衛:良 都市の規模からすれば十分な城壁が存在します 戦力:微 開拓者抜きで、小規模なアヤカシの襲撃を城壁で防げます 農業:普 城壁内に開墾余地無し。麦、豆類、甜菜が主。10月まで大規模天災等なければ1段階未満上昇 収入:普 周辺地域との売買は極めて低調 評判:普 アヤカシ討伐活動による上昇は周辺勢力との衝突による低下で打ち消されています 資金:微 補修費用と宮殿建設費は支払い済みです 人材:内政担当官僚1名。情報機関担当新人官僚1名。農業技術者3家族。超低レベル志体持ち12名。熟練工1名。官僚見習4名。医者候補1名。情報機関協力員十数名 ・実行可能な行動 複数の行動を行っても全く問題はありません。ただしその場合、個々の描写が薄くなったり個々の行動の成功率が低下する可能性が高くなります。都市内の事柄に関わりながらでは砂漠への遠征は困難です 行動:砂漠への遠征(死亡可能性高め) 詳細:守備隊のジンを連れ行くことも可能です。どの地域をどういう順番で巡っても、物資は万端で守備に穴が開くことはありません 調査可能対象地図。1文字縦横5キロメートル 砂砂砂砂 砂砂砂砂砂砂 砂。砂漠。危険かどうかも不明 砂砂穴砂砂砂 道。道あり。砂漠。比較的安全 砂砂砂都砂砂 穴。洞窟の入り口有り。砂漠。危険 砂砂砂道砂砂 都。城塞都市あり。砂漠。比較的安全 砂砂道砂 行動:城壁大拡張開始 効果:完全実行時資金が一段階低下 行動:安全に耕作できる面積を現状の数割増しにします。1月程度外壁の機能が失われます。資材、設計図、人員の準備は完了。詳細な計画も立案済みです。綿密な準備により開始から2週間は作業効率が上昇します 行動:鉱山開発 詳細:鉄の鉱脈があると思われる洞窟を開発します。先週の段階では洞窟内のアヤカシ掃討は完了。洞窟内の空気は悪く非志体持ちの長時間労働は不可能。洞窟の上の土地には強力なアヤカシが出没しています。都市に換気設備あり 行動:スラム住民受け入れ 効果:人口一段階上昇。収入と資金が一段階低下 詳細:城壁外のスラムの住人のうち、他勢力との繋がりの無い者全員を受け入れます。これは最低限の職業教育のみを行う場合です。実行した場合食糧自給率が低下します 行動:対外交渉準備 効果:都市周辺勢力との交渉の為の知識とノウハウを自習します 詳細:選択時は都市内の行動のみ可能。習得には多くの回数が必要です 行動:周辺の零細部族民を雇用 詳細:周辺地域の零細諸部族の一部が、ナーマの経済圏に組み込まれます。形式上部族民個人とナーマ都市住民との雇用契約になりますが、仮に公表すれば零細部族と周辺勢力の関係が悪化します。流民とは異なり、熟練農民または機織りまたは牧童としての技能を持っています 行動:その他 詳細:開拓事業に良い影響を与える可能性のある行動であれば実行可能です ・現在進行中の行動 依頼人に雇われた者達が実行中の行動です。開拓者は中止させることも変更させることもできます。 行動:からくり 詳細:からくりに対し、領主が密度の濃すぎる教育を行っています 行動:飛行船 詳細:雇われ小型飛行船。魔の森近くの紛争地域への安価な水輸出に従事中。要整備。再交渉可 行動:定住民系大商家との交渉(元飛行船2 詳細:複数の地域で事業を展開する組織と交渉します。融資申込み、飛行船船団雇用、都市の商業の一部委託など、大規模な取引が可能です 行動:水輸出停止 効果:地域外への水の輸送を優先させたため、周辺地域への水の輸出が極端に減っています 行動:宮殿建設 効果:住民の最後の避難場所兼領主の住居を建設中。現場監督も作業員も住民です。機密保持優先でスローペース 行動:市街整備 効果:ほぼ休止中 詳細:上下水道、商業施設、商業倉庫の整備は完了しています 行動:城壁防衛 効果:失敗すれば開拓事業全体が後退します 行動:守備隊訓練 効果:戦力の維持 詳細:非ジン数名。確実に信頼できるジン8名。他ジン4名。以上が任務の一環として訓練中 行動:治安維持 効果:治安の低下を抑えます 詳細:警備員が城壁と外部に通じる道、宮殿の一部を警戒中です。練度は高くありません 行動:流民の流入排除 効果:都市外におけるスラムの発生を抑制 行動:環境整備 効果:環境の低下をわずかに抑えます 詳細:排泄物の処理だけは行われています 行動:教育 詳細:一定期間経過後、低確率で官僚、外交官、医者の人材が手に入ります 行動:牧畜 詳細:何もなければ9月頃後に、城壁外で本格的に牧畜を開始できる見込 行動:砂糖関連 詳細:秋頃収穫見込 行動:捕虜等 詳細:重犯罪を犯した執行猶予中の職人数名長期労働中 行動:情報機関 詳細:数名の人員が都市内での防諜の任についています。信頼はできますが全員正業持ち。専業を雇う予算はありません ・周辺状況 東。やや辺境。小規模都市勢力有り。外交チャンネル有り 西。最辺境。小規模遊牧民勢力有り。やや不穏 南。辺境。ほぼ無人地帯。内部の零細勢力が有力部族から距離をとりつつあります 北。やや辺境。小規模都市勢力有り。不穏。外部への影響力喪失 超小規模オアシス。敵対しない限り、避戦に役立つ目的が得られる可能性があります 各地域とも有力勢力はナーマに対し敵対的中立で緩やかな経済制裁を実施中 ナーマ情報機関によると、東を中心とした複数勢力が、ナーマと開拓者ギルド間の契約内容の調査を開始しました |
■参加者一覧
玲璃(ia1114)
17歳・男・吟
フレイア(ib0257)
28歳・女・魔
ジークリンデ(ib0258)
20歳・女・魔
将門(ib1770)
25歳・男・サ
朽葉・生(ib2229)
19歳・女・魔
鳳珠(ib3369)
14歳・女・巫
エラト(ib5623)
17歳・女・吟
サフィラ=E=S(ib6615)
23歳・女・ジ |
■リプレイ本文 ●宮殿内応接室 複数の地域に大きな影響力を持つ部族の若長が、表情を取り繕うことを忘れて呆然としていた。 「超優良な水源の次は鉄鉱脈ですか」 言い終える頃には、声から動揺が消えていた。 片手で顔を覆って無理矢理表情を元に戻すと、青年は完全に制御された態度で開拓者に向き直る。 「ナーマ様は直接精霊の祝福を受けているのかもしれませんね」 「後継者もそうなるよう環境を整備しているところだ」 「素晴らしい。しかし、どうしたものでしょうか」 青年の瞳に強い困惑の感情が浮かぶ。 「鉱山開発とその後の輸出から貴公等を排除するつもりはないが」 己の背後に控える若手官僚達に見本を示すことも兼ねて、将門(ib1770)は分かり易く交渉を進めていた。 「話が大き過ぎます。控えめに予測しても、おそらく鉱山事業は採算がとれるでしょう。安全の確保も、華々しい戦績を持つあなた方ならどうにかできるのだと思います。問題は」 心底疲れたように息を吐く。 「必要な投資額が大きくなりすぎます。失礼ながら今のあなた方の資力では賄いきれないでしょう。我が方としても長老方全員の承諾を得られなければ手を出せません」 魅力はあるがそれ以上に難しい事業であり、不用意には関われないということらしい。 「可能ならばナーマで鉄製品にまで加工したいと思っています。それならあなた方の負担は許容できる範囲に収まるのではないでしょうか」 予め領主から製鉄業立ち上げの許可を取ってきた朽葉生(ib2229)が、突っ込んだ話を始める。 「具体的な製鉄技術についてはなんとも申し上げられませんが、製鉄に必要な燃料のご提供は難しい可能性が高いですよ」 燃料に木を使うなら、森を消す勢いで消費することになる。緑の少ないアル=カマルでは非常に厳しい。 「いずれにせよ先のことだ。鉱山予定地周辺のアヤカシ排除は完了していないのだからな」 将門が口を挟むと、青年は小さく頭を下げて会話の打ち切りを了承した。 「鉱山に関する融資等の申込みは早めにお願いします」 数人規模の採掘しか行わないなら話は別だが、そうでないなら鉄鉱石を輸出するにしても燃料を輸入して鉄製品を輸出するにしても、関係する勢力に話を通して必要な人金物を揃えるのに月単位で時間がかかる。 地下の鉄という情報の対価として、定住民系大勢力は粉飾抜きの情報を開示した。 ●宮殿奥小会議室 「水が足りなくなると思われます」 「住宅もですよ」 「生活排水の処理に排泄物の処理も」 人口増加時に発生する問題を生が予測させたところ、厳重な防諜策が施された一室に複数の意見が飛び交うことになった。 生は具体的に必要となるものを尋ねようとするが、口を開く前に、円卓の隅で無言のまま手をあげる職人に気付いた。 「発言をどうぞ」 生が促すと、異様に高い技術力と反比例した低い対人能力を持つ職人が聞き取りづらい声で意見を述べる。 「お貴族様じみた暮らしをしないならこのままで良い」 「何を言う!」 大声を張り上げて遮ろうとする現場監督を、生は無言のまま圧力を加えて黙らせ、職人に続きを促した。 「上下水道も用水路も将来の人口増に対応できる贅沢な造りだ。人口が今の倍になっても裕福な暮らしで無くなるだけだ」 空気を読む能力に欠ける職人に対し、生を覗く出席者から殺気じみた感情がこもった視線が向けられる。 職人の発言は正しい。だが他の面々の発言も間違いではない。生活水準が下がれば不満が表に出やすくなり作業効率も下がってしまう。 「ありがとうございます。この件は次回も議題に挙げましょう。続いて製鉄に関してですが」 不穏な流れを断ち切るため、生は結論の先送りを命じて別の懸案を示す。 すると、それまで対立関係にあった職人とそれ以外が、そろって同じ感情をそれぞれのやり方で示してくる。 「農具の補修を行える水準の鍛冶屋をもう1人呼び寄せるという話ではないですよね」 「はい。最終的には高品質な鋼や鉄製品を輸出する出来るようにしたいのです」 出席者達は顔を見合わせてから、両手をあげて降参する。 製鉄業界とのコネどころか小規模な鍛冶屋とのコネさえ持っていなかった領主同様、この件に関しては頼りにならないようだった。 ●契約と法 「事業の失敗時に限り、契約の解釈によってはナーマが不利になり得る、か?」 長い時間をかけて長大な契約書の精読を終え、将門は深く息を吐きながらソファーに座り込む。 眼球と頭を酷使したせいか、体のあちこちが凝っている上飯時でもないのに腹が減っている。 「将門さん?」 領主の居住空間から出てきた玲璃(ia1114)が、これまでで最大級に消耗している将門に気付き、普段は常に常に穏やかな顔にかすかな驚愕の表情を浮かべる。 「一刻もすれば回復する。手を貸そうか」 玲璃が抱えているからくりに視線を向ける。 本来眠りが必須でないはずなのに、顔色は悪く、少し不規則な呼吸で昏睡している。 「いえ、隣の部屋に寝かせて来ますので」 玲璃がからくりの容態が安定するのを確認してから隣の部屋から出ると、将門は先程とは別の契約書を読んでいた。 契約書の枚数は数十分の1で、文字も明らかに今の方が大きい。 「これか。エラトが、ナーマ・スレイダンと天儀開拓者ギルド間の契約の不備を突かれる可能性について言及していただろう。エラトは遠征に向かったから居残りの俺が確認することにした」 玲璃は将門から契約書の原本を受け取り、目を通し、呆れた。 「契約書は皆こういうものなのでしょうか」 天儀開拓者ギルド側の担当者の名前、毎回の報酬、ナーマの意思でいつでも契約を打ち切れる、という3点についての内容しかない。 「法も慣習も、周辺の状況と当事者間の力関係により恣意的に解釈されるものだが…」 ここまで難癖をつけ易い契約は滅多に無いだろう。 「あの子への権力継承についてはどうです?」 「その点に関しては爺さんも徹底的に手を打っている。しかしからくりに人間の同じ権利を認められるか、認められたとしても諸侯になれるかは分からない。仮に認められたとしても人間の諸侯より正当性が劣るとして非難する者もいるだろうし、非難も人間に対してする場合より通り易いだろう」 現領主は軍事力と経済力を背景に押し通すつもりらしいが、実際に押し通すことになる開拓者としては色々言いたいこともある。 「あの子の試練は教育が終わってからが本番ですか」 現状より過酷な地獄の到来を少しでも遅らせるため、玲璃は現領主の食事の世話により力を入れることを決断する。 「将門さん、夕方までここで仕事をされるなら食料の番をお願いします」 「誰にも任せず俺が確保しておく。調理は任せていいな?」 「はい。間に合うようにスラムでの炊き出しを終えて戻ってきますので」 玲璃は将門に後を任せ、目立たない服装に着替えてから門前のスラムに向かうのだった。 ●陳情をうける側 鳳珠(ib3369)は、相反する要求を突きつけられて困惑していた。 1つは農業部門と行政部門から出された、零細部族民の雇用拡大要請。 人は徐々に増えているが技術を持つ者の数はあまり増えていない。部族内で教育を受けてきた者達を可能な限り多く受け入れて経済を回していきたいらしい。 もう1つは、警備部門と防諜部門から出された、零細部族民の雇用縮小要請。 零細部族民はそれぞれの部族の意向で控えめに振る舞っているし、城塞都市ナーマの住民は官僚経由の開拓者の指示に従順に従い排斥の動きは見せていない。 しかし地縁血縁で密接に結ばれた集団と、法の支配のもとで強烈に欲望を追求する集団では友好関係を結ぶ以前に大量の問題が発生してしまう。 具体的には、言葉が通じるのにお互い意図が分からないという形での衝突がかなりの件数発生している。 「欠点を差し引いても利点の方が…しかしこのままでは治安が危険域まで…」 これまでに提出された報告書から現状を読み取り、複雑極まる状況を打破するための解を探す。 考慮すべき事柄が多すぎるためすぐには結論が出ないが、結論を出し現状を改善しなければ都市が破綻に向かうのだから、考えることを諦める訳にはいかない。 「鳳珠さん、今回受け入れた部族民の名簿はありませんか」 フレイア(ib0257)が、鳳珠が作業中の宮殿の資料室に入って来る。 「はい」 目を通し終えた資料の一つを差し出すと、フレイアは礼を言ってから持ち込んだ資料と見比べていく。 「やはり、こちらが有利な形になりますね」 歴史の蓄積の面では城塞都市ナーマの側が圧倒的に不利だが、経済の規模はナーマが圧倒している。何も手当をしない場合、収奪の意図が無くてもナーマ側に有利になってしまうのは避けられそうに無い。 「二毛作が軌道に乗れば経済格差が広がります。現在試行の最中ですから捕らぬ狸の…ですけれど」 鳳珠は、持ち出し厳禁の判を押された報告書をフレイアに示す。 「農業にも緻密な計算と膨大な試行が必要ですか」 報告書には、細かいにも程がある数字がびっしりと書き込まれている。 高位の魔術師としての目で見ていくと、異なる育て方数十種類を同時に試しているらしいことが分かった。 「結果が判明するのは早くて晩秋のようです」 「承知しました」 フレイアは資料を棚に戻してから、届けられたばかりの書状を鳳珠の前で開く。 ナーマから見て北に位置する、地域内の大勢力の配下にある零細勢力からの手紙だ。 手紙の運搬はライ・ネック(ib5781)が行ったのだが、一度ナーマから南に移動してから砂漠を迂回する必要が有ったため時間がかかってしまった。単身での砂漠の突破が極めて困難なほど、アヤカシの出現確率と出現時の規模が大きくなっているのだ。 「これは…」 文章表現は穏やかであるものの、全ての提案を拒絶する内容であった。 「全てでうまく行く訳ではありませんね」 フレイアは気を取り直し、現領主に対する報告書の作成を開始した。 ●地の底で 体積にして自身の数倍、重量にしてそのさらに数倍の荷を背負い、エラト(ib5623)は縄梯子をよじ登っていた。 超越聴覚を使っても、アヤカシのものらしき音は全く聞こえない。。 心身に重圧を与える地下での作業で消耗したせいか、あるいは持ち込んだ革袋分しか新鮮な空気を吸えなかったせいか、体の動きは普段と比べると明らかに鈍かった。 ようやく大穴の縁に手をかけたエラトは、秀麗な顔に汗をかきながら体を引き上げ、巨大な荷物と共にその場に転がる。 貴重な技術者を失う危険を冒せないため、今地下にいるのは開拓者だけだ。 崩落が発生して洞窟が塞がれていたときはアーマーを持ち込んだヤリーロ(ib5666)の力を借りたが、彼女には既に地上に戻ってもらっている。地上の戦力が極端に少ないためだ。 他に前衛のメグレズ・ファウンテン(ia9696)、強力な術を使う後衛として宿奈芳純(ia9695)、索敵担当兼回復担当として嶽御前(ib7951)が同行しているが、今彼等は大穴の底にいる。 エラトは息を整えながらなんとか立ち上がり、登ってくるよう地下に対して合図を送る。 強さが小鬼未満の虫型アヤカシ数体しか相手にしなかったとはいえ、地下の3人も消耗は激しい。しかしエラトにこの場で休むという選択肢はない。 「急がなくては」 既に消耗しつくしたエラトの耳に、地上から激しい戦闘の音が聞こえてきていた。 ●開戦 「引き続き警戒をお願いいたします。これまで通り、アヤカシ発見時には本隊との合流またはナーマへの帰還を最優先に」 砂丘の頂上でバダドサイトによる索敵中のサクル(ib6734)に指示を出すと、ジークリンデ(ib0258)は鷲獅鳥クロムを駆って宙に舞い上がる。 上空からサクルの示した方向に望遠鏡を向けると、自然の地形としては明らかに変な盛り上がりが見つかる。 確認のため、そして場合によっては討伐のために高度を下げていくと、砂の盛り上がりの中に巨人の上半身を見つけることができた。 「アウトレンジ戦法に使えるのはララド=メ・デリタだけですね」 彼我の距離を確認し、ジークリンデは練力残量と敵の耐久力をもとに討伐に必要な練力量を計算する。 ナーマの倉庫から持ってきた練力補給アイテムを使えばなんとかなるだろう。 できれば地上の友軍が仕掛けるのにあわせて攻撃したかったが、敵はこちらが気づいたことを察している。 「合流は阻止すべき。クロム、仕掛けますよ」 灰色の光が、砂の巨人の間近で炸裂した。 ●敵は多勢 砂の大地から染み出すように現れた大小の蠍型アヤカシ。 中型以上の骸骨からなるアヤカシ群に鬼種が合流し、蠍型と呼応して開拓者に襲いかかる。 それらからわずかにタイミングをずらして上空から鳥型アヤカシが飛来し、地上の開拓者の隙を窺っている。。 「一斉射後脇目もふらず後ろに向かって全速前進!」 サフィラ=E=S(ib6615)は、守備隊からの応援4名に命じると一直線にアヤカシに襲いかかる。無論のこと、狙いは蠍の大群でも精鋭の鬼でも無い。 守備隊ご一行とその他2名の退路を塞ごうとしていた小鬼の小集団を数秒で蹂躙し、戦果の確認もせずに真っ直ぐにナーマに向かう。 途中で中書令(ib9408)と合流したフレイアが夜の子守唄を背景音楽に足止めし、城壁近くで罔象(ib5429)がスパークボムで援護してくれなければ、城壁内までたどり着く前に全員アヤカシの腹の中に収まっていただろう。 「にゅー。良かった。エラト達巻き込まれてないみたい」 城壁から遠くにエラト達を確認し、サフィラはほっと胸をなで下ろす。 心ならずも置き去りにする形になってしまったが、サフィラと守備隊の面々が囮の役割を果たしたため、洞窟の出口付近にいたアヤカシの小部隊を蹴散らしそのまま帰路につけたようだった。 「気を取り直して…。いくよ! ヤーウィ!」 「承知しました、マスター」 サフィラは体力の尽きた守備隊を休ませ、からくり1人を引き連れ再び城壁外に出る。 「敵が多過ぎます、一時撤退を提案します」 「にゃーっ! しゃべるまえにはしるっ!」 多種多様なアヤカシに襲われ、城壁内に戻らない限り休憩すらできず、アヤカシの小集団を圧倒しかけても増援が到来して逃げざるを得ない。 戦果は極小で、アヤカシの目撃情報だけが増えていく。 そんな地味で過酷な戦いが都市存続に大きな役割を果たしたのが判明するのは、この翌週である。 ●迫る奈落 鷲獅鳥や炎龍の背から強大な術が降り注ぐ。 地上をいくアヤカシの大群は巨大な駆鎧に押しとどめられ、霊騎や走龍に乗る開拓者達がアヤカシの弱い個所から攻め入り、討ち滅ぼしていく。 その圧倒的な勝利の光景に、ナーマの民だけでなく城門前スラムの住人もこの地の安全を確信していた。 |