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■オープニング本文 ●魔の森にて 開拓者恐るるに足らずと豪語する高位アヤカシ。 欲に突き動かされ開拓者に襲いかかるアヤカシ。 実力差を悟り開拓者が去るまで隠れようとするアヤカシまで、様々なアヤカシが存在する。 基本的に強いアヤカシほど開拓者を恐れず、あるいは眼中にない振る舞いをするが、例外も存在した。 「オアシス、襲う?」 片言で聞き返してくる力だけは強い鬼に対し、ディーヴェは何度目になるか分からない説明を繰り返す。 「オアシスの近くで待機し、命令に従い人間を襲え。分からなければこれに従え。命令されない限り動くな」 側に控えるナール・デーウを指さすと、ナール・デーウは突きつけられた指を嫌そうに眺めながら軽く顎を引く。 「従う」 鬼は予想より素直にうなずき、ナール・デーウの背後に移動しぼんやりとした顔で座り込む。 分厚い筋と強烈な炎で覆われた腕を組み、ナール・デーウは己より上位のアヤカシに対し意見を具申する。 「多すぎはありませんか」 「そう思うなら被害を出さずにジン共を皆殺しにして来い。今はいくら戦力があっても足りぬわ」 獣面に嘲笑を浮かべ、ディーヴェは複数部隊に魔の森外への遠征を命じるのだった。 ●囲まれたオアシス 魔の森周辺が騒がしくなってからしばらくして、ある小さなオアシスの周りにアヤカシが出没し始めた。 現れるのは小鬼が単独だったり怪鳥が一羽だったり、オアシス居住者の若者達だけでもなんとかなりそうな小物ばかりだ。 しかし実際に倒そうとすると砂漠の奥に逃げてしまい、若者達が畑仕事を再開するとまた現れるのだ。 オアシスの住人は業を煮やし、アル=カマル開拓者ギルドに対し援軍を要請した。 敵は弱く少数。敵は逃げ足が速いため軽装で来られたし、と。 オアシスの周囲に無数の禍々しい気配が潜んでいることを、今はまだ誰も気づいていない。 |
■参加者一覧
玲璃(ia1114)
17歳・男・吟
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
秋桜(ia2482)
17歳・女・シ
将門(ib1770)
25歳・男・サ
八重坂 なつめ(ib3895)
18歳・女・サ
椿鬼 蜜鈴(ib6311)
21歳・女・魔
ラティーシャ ブロン(ib6744)
20歳・女・ジ
キャメル(ib9028)
15歳・女・陰
中書令(ib9408)
20歳・男・吟 |
■リプレイ本文 ●見つけるのは誰? 「一度攻略に失敗した拠点を増援無しで攻め続けるのは無意味だ。高位のアヤカシに率いられた者共が、主戦場から戦力を割いてまでそうするのは何故だ?」 慣れた様子で砂漠を歩きながら、将門(ib1770)が確認するように問いかける。 「あ、うん。普通に考えて罠ですよね。ラティはどう思う?」 石突きから穂先まで黒い槍を背負った八重坂なつめ(ib3895)が、いきなりラティーシャ・ブロン(ib6744)に話を振った。 久々のアル=シャムス大陸の気候を全身で味わっていたラティーシャは、一度瞬きしてから軽い口調で答えた。 「誘ってるのかしらね」 「となると、待ち受けているのは大物よな。報告にあった小鬼に然様な知恵はあるまいて」 椿鬼蜜鈴(ib6311)は優雅な動きで扇を閉じ、かなり近づいてきた小さなオアシスに目を向けた。 「なるほどなのー」 キャメル(ib9028)は素直に感嘆、納得して大きくうなずく。 仕草と声は可愛らしくても思考の速度は素晴らしく速く、即座に解決策を導き出す。 「人魂のモデル、何にしよう?」 「無難なのは蠍。ここまでオアシスが近ければ小鳥でもいけると思うわ」 幼少時のキャラバン生活を思い出しながらラティーシャが答えると、キャメルは笑顔で感謝してから小鳥を飛ばす。 「見つけました! けど、小鬼だけ?」 小鳥を通して砂丘の裏側に1体アヤカシを発見する。他のアヤカシを探そうとするが、効果時間切れで映像情報が途切れてしまう。 「音で見つけられればよかったのですけど」 超越聴覚で聴覚を拡張中の秋桜(ia2482)が残念そうにつぶやく。 キャメルが再度小鳥を飛ばすかどうか相談しかけたとき、玲璃(ia1114)は無音のまま小さく片手をあげた。 肘の向きは敵が潜む方向。立てた指の数が敵の数だ。 「水場や畑から可能な限り離したいところですが」 「潜んでいるのが1隊だけとは限らねーし、罠を踏み潰してやろうぜぃ!」 結局ルオウ(ia2445)の案が採用され、開拓者達は1つの砂丘の近くで唐突に進路を変え、地中に潜むアヤカシに対し強襲を仕掛けるのだった。 ●緒戦 鬼達の上半身が砂から現れた時点で中書令(ib9408)の琵琶がかき鳴らされ、真っ先に飛び出そうとした炎鬼の動きを鈍らせる。 そして、ルオウが飛び出し全力で咆哮する。 火炎巨鬼を頭とする炎鬼達は一斉に金棒を振り下ろし、回避能力の面でも装甲の面でも優れているはずのルオウを血で染める。 「やるじゃねーか!」 ルオウからお返しに、蹴りから斬撃を4連続という、人間の域を脱しかけた絶技が飛ぶ。 が、ナール・デーウは傷は負っても致命傷には遠い。 「これは…思った以上に」 たった一度の癒しの技でルオウを完全回復させながら、玲璃は敵の強さをより高く評価する。 「骨は有るようじゃが、好きにはさせぬよ。あわせよ。まずは数を減らすぞ」 蜜鈴はぽん、ぽんと火球を作り出し、敵の隊列の端に連続で炸裂させる。 爆風が晴れるよりも早く秋桜が踏み込んで炎鬼の巨大な両足を傷つけ。やや後方でなつめが全力で得物を振るい生み出した衝撃波が、炎鬼の片足を砕いてその体勢を崩す。そこにラティーシャが滑り込むようにして近づき、貫通力に優れた短剣を無防備な首筋に振り下ろす。 「なんとまあ頑丈な。濃い色ですから見逃し難いのは助かりますが」 これだけ攻撃を浴びせても炎鬼はまだ生きている。 将門は盾役をルオウに任せ、全力で止めの一太刀を振り下ろす。が、炎鬼を滅ぼすために、結局もう一度刃を振ることになってしまう。 「参ったのう。増援が来る前に片付けねばならぬのに」 蜜鈴は威力と引き替えに練力消費が増す術の用意をしながら、形の良い眉を小さく寄せた。 「空から増援です」 彼女の懸念は的中する。目の前の敵以外にも注意を払っていた中書令が、死角から忍び寄る怪鳥と小鬼に耳で気付いて警告したのだ。 「総数20超。上11下に12?」 玲璃が即座に詳細を説明するものの、さすがに数字は少し曖昧だった。 「こちらは任されました」 秋桜が敵増援に向かい、白く塗装された手裏剣を無造作に見える動作で投げつける。 距離と速度のある小型目標に当てるのは難しいはずなのに、3つの手裏剣は1本につき1体の怪鳥を地面にたたき落としただの瘴気に戻していく。 「うん。逃がさないの!」 キャメルは赤色の札を掲げ、ルオウの倍近い背丈の火炎巨鬼に対し束縛用の式を放つ。 直感に従い、やや分の悪い賭かなと思いつつ気力をつぎ込まなかったが、意外なほどあっさりと、2つめの式で術がかかった手応えが返ってきた。 「意外と、効いちゃう?」 ルオウの攻撃を全く避けられなくなった火炎巨鬼が、ルオウの2回目の4連撃の途中で崩壊していく。 「中級の割には抵抗力が…いや、その分他の能力が高いのでしょう。より慎重にならなくては」 中書令は怪鳥や小鬼もまとめて夜の子守唄の餌食にするため数歩移動し、あることに気付いてしまう。 少し離れた場所の砂丘複数からそれぞれ別のアヤカシ部隊が現れ、完全に歩調をあわせてこちらに向かってくるのだ。 どれか一つに向かっても他の2つに包囲される、非常に嫌らしい動きをしていた。 「キャメルさんは回復を。私は加護結界を張り直します」 「はいっ!」 玲璃の提案を受け入れ、キャメルは浅いとはいえ手傷を負い続けるルオウの援護を開始した。 ●大反抗 3体のナール・デーウとその部下達が合流し、1つの部隊として開拓者達に殺到する。 予想外にしぶとい炎鬼の始末に手間取ったものの、開拓者達は全員加護結界の援護を受けた上で待ち受けることができていた。 中書令が、一度発動すればそれだけで勝敗が決まりかねない夜の子守唄を発動する数秒前、炎鬼が一斉に炎を叩き付けてくる。 「一旦下がれ!」 荒れ狂う炎に巻き込まれながら、将門が鬼気迫る勢いで指示を出す。 将門や術者なら高い抵抗力に物をいわせて炎に耐えきることもできるだろうが、中堅以下の前衛系開拓者では正直厳しい。 「バイラオーラに引っ掛かってくれる相手じゃないわね」 ラティーシャはその場での防衛を一旦諦めて後退を開始する。 炎に巻かれながら中書令が琵琶を弾き始めた結果、炎鬼の半数近くが一時的にではあるが意識を奪われ動きを止める。それ故ラティーシャの後退は問題無く成功すると思われたが、眠りこけた炎鬼の面倒を健在な炎鬼に丸投げしたナール・デーウが急接近してきた。 火炎巨鬼3体は大きな手のひらに作り出した炎を一斉に投擲し、開拓者達の頭上で爆発させる。 「ぐ」 同属を眠りから覚まそうとする炎鬼に斬撃の衝撃波を送り込んでいたなつめが、3重の爆風に吹き飛ばされて砂の上に叩きつけられる。 「人の地を汚らわしい脚で穢しおるな。るおう!」 間近に迫った火炎巨鬼に雷を叩きつけながら蜜鈴が叫ぶ。 「わかってらぁ畜生!」 アヤカシの急加速に対応しきれなかった悔しさを闘志に変えて、ルオウは裂帛の気合いと共に咆哮する。 目覚めた炎鬼全てがルオウに強制的に引きつけられていく。が、ナール・デーウのうちの1体が、援護のため前衛の側にいたキャメルに飛びかかる。 アヤカシから見て脅威であるサムライ2人を抜き去り、前方にいるのは射程はあっても物理的な力に劣る獲物のみ。中級アヤカシは己の勝利を確信し、そして精霊力を帯びた忍刀によって後頭部から背中まで切り裂かれてしまう。 「参りましたね。怪鳥相手に力を抜いていたとき、これは遠くにいたはずなのですけど」 怒りに任せて振るわれた反撃の拳を、秋桜は自らの影分身に引きつけることで回避する。 「キャメル様、申し訳ないですが援護をお願いいたします」 約10秒おきに、玲璃が開拓者全員をまとめて癒していっているのだが、それでも癒しきれない傷を負った者が複数いる。 キャメルは奥歯をかみしめてうなずき、残りわずかになった練力を使って癒しのための式を飛ばしていく。 「後一手」 眼前で秋桜と死闘を繰り広げる火炎巨鬼1体と、ルオウを囲むそれ以外のアヤカシを見据えながら、中書令は琵琶をかきならす。 選んだのは夜の子守唄。 火炎巨鬼にはまず効かず、炎鬼にも効かないことがあるとはいえ、一度に複数の行動を妨げるのは非常に有効な妨害だ。 数を減らしたアヤカシの攻撃をルオウが全て引きつけ、その隙に秋桜と将門が全力攻撃で火炎巨鬼を1体1体削り倒して行く。 「これで看板じゃ」 地面と水平に走る稲妻が多数の炎鬼を貫き、ダメージの蓄積が限界を超えた数体が実体を失っていく。 「こちらはとっくに空だ」 将門は蜜鈴に答えつつ、目の前の鬼の腹に刃を叩き込む。が、恐ろしく堅く、それ以上に生命力に満ちたアヤカシは動きを緩めずルオウを攻め続けている。 「痛いの痛いのとんでけーなの!」 最後の練力を使いキャメルが治癒符を発動し、回復がダメージを上待ったルオウの体から傷が全て消える。 「応っ。お前等も、地の底だか空の果てだかに、飛んでいけぇ!」 ルオウの刀が最後に残ったナール・デーウを斜めに切り裂き、ただの瘴気に戻すのだった。 ●戦い終わって 指揮官である4体の中級アヤカシが倒れてからは、拍子抜けするくらいあっさりとアヤカシが駆逐された。 玲璃が瘴索結界「念」でじっくり探しても新たなアヤカシは見つからず、念のためオアシスの住民に尋ねても新たなアヤカシの目撃情報は皆無。開拓者達は、既にこの地からアヤカシの脅威が去ったと判断するしかなかった。 「はい」 「ありがとうございます」 なつめは包帯を巻いてくれたラティーシャに礼を言い、村人が提供してくれた椅子から立ち上がる。 「肩を貸しましょうか」 「動くだけなら大丈夫です」 なつめと同様に深い傷を負ったラティーシャは、わざと軽い口調で謝絶する。 「今回の件で何か痕跡がないかも探しておきたいところね」 貸し与えられた天幕から出て、強い光の中で目を細める。 調査を行ったところ残念ながら調査で新たな事実が判明することはなかったが、中級アヤカシ複数を含むアヤカシ部隊を全滅させたのは、魔の森とその周辺での戦いに好影響を与えるだろう。 |