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■オープニング本文 「子連れの骸骨が1体か」 兵士は手元の手帳にアヤカシの特徴を書き記すと即座に撤退を開始した。 盗賊数人程度なら相手にできる自信があるが、相手がアヤカシなら話は別だ。 この地を治める親方様に遅滞なく報告しなければならない。 お館様が開拓者ギルドに依頼することになるのか、お館様の私兵集団全員でアヤカシに突っ込むことになるのかは分からないが、功に目がくらんで1人でアヤカシに挑むのは戦力の無駄遣いどころかお館様への反逆に等しい。 「万一死んだら被害は私だけでは済まないからな」 全力疾走でアヤカシから離れた兵士は、丘の上で一時停止して息を整える。 背後を振り返ると、先ほどと同じく草原を徘徊する骸骨が見えた。 「む?」 強烈な違和感を感じ、眉を寄せて手帳とアヤカシを見比べる。 何度も繰り返したことで、ようやく違和感の正体に気づく。 「私の距離感が狂っている? いやそうではなくて」 全身から冷たい汗が流れ出す。 喉がひりつき、呼吸が浅く不規則になる。 非志体持ちとしては非常に鍛え上げられた兵士は、錯乱の一歩出前だった。 「違う。私が勘違いしていたんだ。あれは、あれは人骨の3倍近いっ。隣のは幼児の骨ではなく成人の骨だ!」 体積にして27倍。 地面の陥没具合からして重量はそれ以上。 戦闘能力に関しては考えたくもない。 「ひ、ひひっ」 狂気に逃げだそうとする心をこれまで培った経験と訓練で必死に制御する。 「撤退だ、撤退するんだ」 兵士は体をふらつかせながら、転げるような足取りでアヤカシから逃げるのだった。 「がしゃどくろが現れました」 開拓者ギルド係員の顔は、緊張で強ばっていた。 「複数の狂骨(スケルトン)を引き連れ、地方にある町に近づきつつあります。現地の情勢は込み入っていまして、今のところ避難がほとんど進んでいません。皆さんが現地に到着する頃には少しは進んでいるとは思いますが、あまり期待はしないでください」 係員はとある街を中心にした地図を示す。 敵の現在地と予測進路が記入されており、その記述を信じるならば、がしゃどくろが街に入り込む寸前に開拓者達が現場に到着することになる。 「がしゃどくろは全長が5メートル近くある、その腕力を発揮できる巨大武器と再生能力を持つ強力な存在です。また、引き連れている狂骨の正確な数は確認できていませんが、多くても十数体と思われます。がしゃどくろは人間に迫る知性と下級のアヤカシに対して絶対的な命令力を持っていますから、1体の強力なアヤカシとその取り巻きではなく1部隊のアヤカシといえるかもしれません」 知性と暴力と数を兼ね備えた存在は強い。 開拓者達がアヤカシをどのように打倒してきたか知っている係員は、この依頼の危険度を深刻に受け止めていた。 「駆鎧(アーマー)等の持ち込みも可能となっています。難しいかもしれませんが、街に被害を出さずに討伐を行ってください」 |
■参加者一覧
風雅 哲心(ia0135)
22歳・男・魔
乃木亜(ia1245)
20歳・女・志
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
サーシャ(ia9980)
16歳・女・騎
ロック・J・グリフィス(ib0293)
25歳・男・騎
フィン・ファルスト(ib0979)
19歳・女・騎
アナス・ディアズイ(ib5668)
16歳・女・騎
椿鬼 蜜鈴(ib6311)
21歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ●アヤカシの一隊 がしゃどくろは無人の野原を我が物顔に歩く。 小さな小屋に匹敵する大きさの巨大槌を肩にかつぎ、ゆるりとした動きで足を踏み出し、地面に大穴を開けながら街へと近づいていく。 一見動きは緩慢に見えるが、並みの人間の3倍の大きさを持っているため移動速度はかなりのものだ。 がしゃどくろの後ろを2列縦隊で追いかけている狂骨(スケルトン)達もほぼ全力で走っているのだが、徐々に距離が開いていっている。 「ふむ」 椿鬼蜜鈴(ib6311)はぱちりと音をたてて扇を閉じると、煙草を一口飲んでからゆるりと紫煙をはき出した。 「これならさぞや遊びがいがあろうてな」 都市とアヤカシ達を上空から見下ろしながら、蜜鈴は火を消してから煙管を懐に仕舞う。 他の開拓者達は陸路を選んでおり、移動速度の違いから、駿龍を駆る彼女が最初に敵と接触することになっていた。 蜜鈴は騎龍の天禄に指示し、アヤカシの進路上にある物見やぐらに近づいた。 そこには2人の弓兵がいたが、志体持ちではないらしくどれだけ射撃を繰り返しても的外れの場所に打ち込んでしまっていた。 「そこの者共、たいした勇気じゃが勇気も過ぎればただの無謀じゃぞ」 彼女の言葉に容赦はない。 けれどその語調には感心と敬意が少しではあるがこもっていた。 「あ、ありがたい。間に合ってくれたのか」 土気色に近い顔色の弓兵が、脂汗でびっしょりと濡れた顔に安堵の表情を浮かべる。 「邪魔になりおる故、命が惜しくば早うお逃げ」 「後のこと、お頼み申す!」 弓兵達は蜜鈴に敬礼を捧げると、縄梯子を使ってやぐらを降り、街の中心に向かって全力で駆けていく。 「さて」 接近するアヤカシがいる方角へ目を向けると、それまで何も無かった地面の上に、厚さ20センチ、高さと幅がそれぞれ5メートルに達する石壁が出現する。 防壁にするなら強度的に問題があるが、アヤカシの足を1度止める程度の頑丈さはある。 「ほれ天禄、此度の獲物は大きい故、捕まらぬ様にの?」 からかうように声をかけると、天禄は主人の意に従い高度を上げ、アヤカシを見下ろす場所へ主人を運ぶ。 「ほほ。一番槍はろっくに任せそうかの」 がしゃどくろが石壁と激突するとほぼ同時に、人間が用いるには少々大きすぎる矢が、巨大なしゃれこうべのこめかみに突きたっていた。 「狂骨が退治されるまでの足止め‥‥いや、行くからには倒す気でかからせて貰う、空賊騎士の誇りに賭けて」 X(クロスボーン)と名付けられた駆鎧(アーマー)の中で、ロック・J・グリフィス(ib0293)は己と己の機体の錬力残量に神経をとがらせていた。 アヤカシとの距離を詰めるために最初からXに乗り込み、さらにオーラダッシュを連続で使用してきたため、錬力の消耗が激しい。 「街へは一歩も入れさせはしない、確実にその歩み止めさせて貰う」 防塵用外套をはねのけて機械弓を格納、同時に巨大な騎兵槍を構えて突撃を開始する。 「行くぞX、ロック・J・グリフィス、参る!」 がしゃどくろが高速で振るう巨大槌をわずかに身をかがめることでぎりぎりで回避する。 巨大槌がかすった左肩の塗装が一部はげるが、彼とXが受けた被害はそれだけだ。 「ちっ」 ナイトランス・トルネードががしゃどくろの鎖骨周辺を衝撃で吹き飛ばす。しかしロックは舌打ちをして再度オーラダッシュを発動させ、近寄ってきた狂骨(スケルトン)をすり抜けるようにしてがしゃどくろから距離をとる。 「頑丈な奴め」 がしゃどくろの鎖骨周辺は、徐々にではあるが時が巻き戻るようにして修復されていっている。 ロックはその場で旋回して2度目の突撃に備えようとしたが、新たに戦場に現れた駆鎧に気づき、騎兵槍から機械弓に持ち替えた。 アヤカシは動きが止まったXに対し、勢いをつけて上段から巨大槌を振り落とそうとする。 しかし巨大槌が最高速に達するよりも速く、鈍い黄金色の塗装を施された駆鎧が、ノコギリ状の刃が付いた片刃の剣を構えて体ごとぶつかるようにして、がしゃどくろの背後から攻撃を仕掛けていた。 巨大で密度の高い骨が削れる不気味な音が甲高く響く。 がしゃどくろは振り返りざまに肘鉄をお見舞いしようとする。黄金色の駆鎧は素早く菱形の盾を掲げ、見事にその一撃を受け止めていた。 「錬力不足が予想以上に強敵だわ」 フィン・ファルスト(ib0979)はランスロットの銘を持つ駆鎧の中で唇を歪める。 オーラダッシュは錬力消費が激しい。 ランスロットの場合、完全に整備された状態で連続で使用すると、40秒もしない間に錬力切れになる。 そのため移動中もオーラダッシュの使用を制限せざるを得ず、同時に出発したロックより遅れて戦場に到着することになった。 もっともオーラダッシュの錬力消費量に悩まされているのはロックも同様で、錬力の不足によりオーラダッシュを利用した一撃離脱は使用し辛くなっていた。 「肉も無いカラカラの骨に、あたしとランを止められないよ!」 狂骨がランスロットに左右から抱きつこうとする。 動きが鈍ればがしゃどくろの渾身の一撃が命中しかねないが、フィンはランスロットを巧みに後退させて狂骨の攻撃を回避する。 続いて放たれた巨大槌の一撃は間合いが広ぎて回避できないが、フィンは最初から回避は捨てて菱形の盾でその一撃を受け止める。 「これなら十分耐えきれる!」 衝撃が駆鎧を通して伝わってくるものの、想像していたよりかなり弱い。 がしゃどくろの能力が低いからではなく、フィンがランスロットの実力を極限まで引き出せているからだろう。 「錬力が不足したくらいではやらせはしない」 再度放たれた矢が、再生中だったがしゃどくろの鎖骨部分を粉砕して貫通する。がしゃどくろは街を餌食にするより目の前の敵を優先することにしたらしく、街に背を向け、やや動きが鈍くなったXに向かおうとする。 けれどそれは、ロックが仕掛けた罠だった。 「ギリギリ間に合った、いええ、図らずも好機をとらえたという状況ですね」 駆鎧ミタール・プラーチィを駆るサーシャ(ia9980)が戦場に到着する。 ここまでオーラダッシュの使用を控えていた彼女は到着こそ遅れてしまったが、残練力にはかなりの余裕があった。 「淑女ならば一撃必殺!」 ミタール・プラーチィの全長を超える巨大な刃が振るわれる。 がしゃどくろの周辺に位置してxやランスロットの接近を妨げていた狂骨の集団を、駆鎧用装備クラッシュブレードがまとめてなぎ倒す。 数体の狂骨は体をふらつかせながらも立ち上がろうとするが、それに倍する数の狂骨が全身を砕かれて地面に転がっていた。 だががしゃどくろは、巨大剣による衝撃をまともに受けたにも関わらず何事もなかったかのように平然と反撃を行う。 「あらあら、まだ元気なのですね」 サーシャは恐れず焦らず、指先に神経を集中させ繊細な軌跡を描かせる。 ミタール・プラーチィは主人の意図に従い、連続で振り下ろされる巨大槌をその手に持った盾で受け流す。 「あら手強い。防いでも少し手傷を負ってしまいましたね。では、お返しです!」 一時的に護衛を失ったがしゃどくろに対し、サーシャは真正面から斬りかかる。 華麗な外装の駆鎧は自重と加速を刃へ集中させ、がしゃどくろの巨大な頭部を半ばまで叩きつぶしたのであった。 ●狂骨隊がいっぱい 「少々まずいことになりそうじゃ。あやつ、狂骨を複数の部隊に分けて散らしておるぞ」 地上から3メートルほどの高度をふよふよと漂いながら、人妖の鶴祇は主人に現状を報告していた。 「街は」 「直接向かった隊は椿鬼殿が相手をしておられる。他にはがしゃどくろ直援が1隊、迂回経路で街に向かうのが1隊、散開しつつこちらに向かってくるのが1隊」 「引き続き警戒に専念しろ」 獅子の総面で鋭い視線を隠す竜哉(ia8037)が指示すると、鶴祇は素直にうなずいて観察を続ける。 「あのっ」 乃木亜(ia1245)が語りかけると、竜哉は即座に考えをまとめ決断した。 「作戦通り釣り出す。まとめきれなかった分は頼む」 「は、はいっ」 乃木亜が返事をすると同時に、竜哉は風のように駆けだしていた。 「がしゃどくろも咆哮に巻き込む?」 「使えばおそらく効いてしまう。現状で足止めに成功している以上下手に手は出せない」 巨大なアヤカシと3体のアーマーが激戦を繰り広げている前方の光景を見ながら、竜哉は己に付き従うものに返答する。 「力がありすぎるのも面倒かもしれんの」 「使いこなせば済むことだ」 竜哉はがしゃどくろとの距離を目で測りながら、一定間隔で咆哮を使う。 複数の場所へ配置されていた狂骨達は強制的に注意を惹きつけられてしまい、予めがしゃどくろから与えられていた命令に反して竜哉に向かってくる。 「武運を」 偵察に専念するため離れていく鶴祇をそのままにして、竜哉は陣形もなしに突っ込んでくる狂骨の集団に突入する。 背にある斬竜刀は抜かない。 より上位のアヤカシの指揮下にない狂骨の攻撃など、防ぐための武具がなくても回避しきる自信がある。それになにより、今は狂骨の注意を己に集めることが最優先だ。 「まるで鬼遊びの様じゃのう」 駿龍の背に悠然と腰掛けた蜜鈴が、上空から竜哉に近づいてくる。 「街の住人を参加させる訳にはいかないがな」 「確かにの」 くすりと笑い、ホーリーアローで生み出した矢を遠方へと飛ばす。 開拓者達を大きく迂回して街に入り込もうとしていた狂骨は、連続で放たれた矢に完膚無きまでに破壊され砕け散る。 「万一取り零してもわらわが拾うとしよう。おんしは鬼遊びに励むのじゃな」 蜜鈴と竜哉の視線が一瞬だけ重なり合う。 2人はそれ以上の意思疎通を必要とせず、無言でそれぞれの役割を遂行していくのだった。 ●全てをなぎ倒す嵐 「大丈夫だよ。らんたまは、あっちにアヤカシが来たら水柱をお願いね」 乃木亜の言葉に対し、ミヅチの藍玉は胸を張ってピィピィと得意げに鳴いた。 それは母に期待されて盛り上がる幼子の態度そのものだ。 「うん。一緒に頑張ろう」 穏やかに微笑む乃木亜は頼りがいのある姉のようでもあり、慈母のようでもあった。 「さて、お前の初陣だ」 「‥‥いきなり大物が相手か。まぁいい、この程度こなせいようでは仕え甲斐がない。力を貸そう、我が主よ」 力に比例した気位の高さを持つ管狐の言葉に、風雅哲心(ia0135)は静かな微笑みで応じる。 熟練開拓者であるという哲心にとって、この管狐の態度は若造の精一杯の突っ張りのようなものだ。 「来い、翠嵐牙!」 管狐はきらめく光となって哲心がまとう大鎧へ入り込む。 もともと堅い防御を誇る大鎧は新たな力を得て強固さを増し、哲心をあらゆるものから守る。 哲心は管狐に持って行かれる練力の量から、長期戦をするには少し難があると感じた。 念のため練力回復手段は大量に用意しているとはいえ、物資を湯水のごとく使う必要もないだろう。 「あっ。竜哉さんが」 10体強の狂骨をひきつれた竜哉が、速度を調節しながら竜哉のいる場所へ近づいてくる。 「それじゃあ行くぞ」 哲心が宣言すると、竜哉はそれまでと比べて数倍の速度で哲心と離れる方向へ進み、進路を遮る狂骨の頭蓋を踏みつけて高々と跳躍した。 「吹っ飛ばされるなよ! 轟け、迅竜の咆哮。吹き荒れろ。トルネード・キリク!」 哲心を起点にして、それまで無風だった一体に猛烈な竜巻が出現する。 黄ばんだ骨が風の圧力に負けてひび割れ、竜巻によって生じた真空の刃が骨を砕いていく。 術の発動直前に殴りかかることに成功した狂骨もいたが、強固な守りを持つ哲心には傷一つつけられなかった。 「すごい‥‥」 哲心の後方で、術の範囲から辛うじて逃れたアヤカシに水柱をぶつけて喜ぶ藍玉をなだめながら、乃木亜は哲心の術の威力に感嘆の声をあげる。 しかし哲心自身はあまり愉快げではない。 「少々効きが悪いか」 狂骨は1度で全滅させることができたが、オーバーキルという程ではなかった。がしゃどくろ並みの大物に使うには少々力不足かもしれない。 哲心は小さく息を吐いて頭を切り換えると、未だ戦闘中のがしゃどくろを射程におさめるため移動を開始する。 「守らずとも大丈夫じゃったのに」 竜哉の腕の中で、鶴祇がすねたような口調で呟く。 それでも内心嬉しく思っているのか、目元と口元は柔らかくなっている。 「念のためだ」 竜哉は鶴祇を放し、哲心に数歩遅れて走る乃木亜目がけて走り出す。乃木亜の十数メートルほど後ろには、ようやく最後の狂骨を倒したミヅチが主人を追って駆けていた。 「神楽舞を」 「よろしくお願いする。‥‥ただ、そろそろ向こうも終わりそうだ」 彼等の行く手では、4機目の駆鎧ががしゃどくろに対し突撃を開始していた。 ●吶喊 「遅れましたけど、ゴールヌイ、突撃です」 アナス・ディアズイ(ib5668)はようやく駆鎧の宝珠を発動させると、がしゃどくろに向けて駆鎧を全力で走らせる。 駆鎧の練力を節約するため自分の足で移動するという考えは良かったのだが、なにぶん駆鎧の起動には時間がかかる。 全力でがしゃどくろの後方へ移動し、手際よく駆鎧を展開し乗り込んだとはいえ、今まで時間がかかってしまったのだ。 アナスは全力で突進しながら手元の宝珠を起動させる。 良く磨がれた刃が無数に埋め込まれた鎖が勢いよく回転を初め、駆鎧の手を通して微細な振動が伝わってくる。 「良いタイミングで来るね」 がしゃどくろの巨大槌を盾で押しとどめる黄金色の駆鎧の中で、フィンは半ば悔しげ、半ば嬉しげな声をあげる。 駆鎧の中の言葉は外へ漏れないが、同じ戦場にいる駆鎧乗りならば少しの身振りでも案外意志疎通できる。 「短期決戦優先ですからね」 がしゃどくろを挟んでアナスと反対側の方向で移動しつつ、ミタール・プラーチィはやや大振りになるのを承知で目立つように剣を振るう。 巨大なアヤカシは日の光を派手に反射する駆鎧を不愉快に思ったのか、己の損害に構わずランスロットを無理矢理押しのけてミタールを追おうとする。 ロックやフィンがその隙を逃すはずもなく、Xは最後の錬力を振り絞って騎兵槍で攻めかかり、フィンはがしゃどくろの無防備な側面から刃を振り下ろす。両足の膝関節をほとんど粉砕されたがしゃどくろは、完全に体勢を崩して尻餅をついてしまう。 「さぁ、今のうちに!」 ロック達の意図を察し、アナスは防御を全て捨てて攻撃に集中する。 「アヤカシよ、ここで滅びなさい!」 背後からがしゃどくろに接近したゴールヌイが、その無防備な背中に猛烈に回転するチェーンソーを振り下ろす。 尻餅をついた上で背後から襲われては、巨大槌を使った受動防御などできはしない。 がしゃどくろはゴールヌイの全重量がかかったチェーンソーを背骨に押し当てられる。甲高い異音を伴いながら異様に太い背骨が断ち割られ、再度振るわれたチェーンソーが腰骨を両断する。 そして、巨大な骸骨が崩壊をはじめる。 全身を構成していた瘴気が徐々に強度を失っていき、表面から霧散しながら風の中に消えていく。巨大骨と同じように瘴気で構成されていた巨大槌も同様の末路をたどり、がしゃどくろの手から滑り落ちて地面に接触し、粉々に粉砕される。 一陣の風が吹き抜けると、がしゃどくろが倒れ込んでいた場所には何も残っていなかった。 騎士達はしばし駆鎧を休めて錬力を回復させると、街の人々があげる歓呼の声を背に受けながら帰還していくのだった。 |