【城】案内状と招待状
マスター名:馬車猪
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/06/16 01:53



■オープニング本文

 開拓者が実質的に統治する城塞都市がある。
 豊富な水源と農地を分厚い城壁で囲い、内側は厳しくも公正な統治で完全に治まっている。
 敵意をむき出しにしていた周辺諸勢力は様々な理由で揺らぎつつあり、外から見ればこの城塞都市ナーマは順風満帆に見えた。

●感謝祭を前にして
 城塞都市ナーマの住民のほとんどは、この地の民となるまで農業未経験者だった。
 農学者としても食っていける農業技術者に厳しく指導された上で天候に恵まれたとはいえ、初年から豊作という結果は精霊の恵みとしか表現できない。
 さて、大量に収穫されたものがすぐに食卓に上るかというと、そうはいかない。
 ナーマには備蓄していた食料を捨てる余裕などない。今回収穫されたものよりはるかに味で劣る備蓄分を消費しないことには今回の収穫に手をつけられないのだ。
 収穫祭では特別に今回収穫分を食せる予定だが、食事の量は増えても質の改善ははるか彼方であった。

●天儀開拓者ギルドの片隅に張られた依頼票
 仕事の内容は城塞都市ナーマの経営補助。
 依頼期間中、1つの地方における全ての権限と領主の全資産の扱いを任されることになる。
 領主から自由な行動を期待されており、大きな問題が出そうなら領主やその部下から事前に助言と改善案が示される。失敗を恐れず立ち向かって欲しい。


●依頼内容
 城塞都市の状況は以下のようになっています。
 状況が良い順に、優、良、普、微、無、滅となります。滅になると開拓事業が破綻します。

 人口:微 流民の受け入れを停止しています
 環境:優 人が少なく水が豊富です。商業施設は建物だけ存在します
 治安:普 治安維持組織が正常に稼働しています
 防衛:良 都市の規模からすれば十分な城壁が存在します
 戦力:微 開拓者抜きで、小規模なアヤカシの襲撃を城壁で防げます
 農業:普 城壁内に開墾余地無し。麦と豆類中心
 収入:普 周辺地域との売買は極めて低調
 評判:普 アヤカシ討伐活動による上昇は周辺勢力との衝突による低下で打ち消されています
 資金:普 補修費用と宮殿建設費は支払い済みです。収穫祭関連事業に資金を投入済。小規模の支出で一段階低下します
 人材:内政担当官僚1名。情報機関担当新人官僚1名。農業技術者3家族。超低レベル志体持ち8名。熟練工1名。官僚候補4名。医者候補1名。情報機関協力員十数名


・実行可能な行動
 複数の行動を行っても全く問題はありません。ただしその場合、個々の描写が薄くなったり個々の行動の成功率が低下する可能性が高くなります

行動:案内状・招待状送付
詳細:収穫祭に限り、商人、飛空船船長等に関する成功率が上昇します

行動:収穫祭準備
詳細:警備に関しては準備は万全で、国家レベルの大物が来ない限り対応可能です。都市住民主導の催しに関しても問題有りません。収穫祭の場で外交交渉、大規模商談、対外宣伝等を行う場合は準備が必要です

行動:作物の転換
効果:資金が一段階強低下。数ヶ月後に農業が一段階上昇
詳細:大量に水を使う作物、栽培法に切り替えます。水資源の余裕が極めて少なくなります

行動:城壁大拡張
効果:資金が一段階強低下
行動:安全に耕作できる面積を現状の数割増しにします。1月程度外壁の機能が失われます

行動:牧草地展開
効果:1〜3ヶ月後に大規模な牧畜が可能になります
詳細:城壁外の通常の耕作を一時諦め、牧草地を広げることに専念します

行動:地下洞窟調査
詳細:城壁外にある大穴から通じる洞窟を調査します。縄梯子等の設備が整えられているため、洞窟入り口までは消耗無しで移動可能です。アヤカシの活動はナーマ砂漠地帯に比べれば低調ですが、空気が悪く長時間の調査が困難です

行動:スラム住民受け入れ
効果:人口一段階上昇。収入と資金が一段階低下
詳細:城壁外のスラムの住人のうち、他勢力との繋がりの無い者全員を受け入れます。これは最低限の職業教育のみを行う場合で、特殊な技能を身につけさせる場合は資金の減少が激しくなります。実行した場合食糧自給率が低下します

行動:対外交渉準備
効果:都市周辺勢力との交渉の為の知識とノウハウを自習します
詳細:選択時は都市内の行動のみ可能。習得には多くの回数が必要です

行動:城外で捜索を行いアヤカシを攻撃
効果:成功すれば収入と評判がわずかに上昇
詳細:城壁の外でアヤカシを探しだし討伐します。アヤカシの戦力は不明です。アヤカシを多く倒せば良い評判が得られ、新たな商売人や有望な移住希望者が現れるかもしれません

行動:その他
効果:不定
詳細:開拓事業に良い影響を与える可能性のある行動であれば実行可能です


・現在進行中の行動
 依頼人に雇われた者達が実行中の行動です。開拓者は中止させることも変更させることもできます。

行動:水輸出制限
効果:少量の水を輸出中

行動:宮殿建設
効果:住民の最後の避難場所兼領主の住居を建設中。現場監督も作業員も住民です。機密保持優先でスローペース

行動:市街整備
効果:ほぼ休止中
詳細:上下水道、商業施設、商業倉庫の整備は完了しています

行動:城壁防衛
効果:失敗すれば開拓事業全体が後退します

行動:守備隊訓練
効果:戦力の現状維持
詳細:非志体持ちが数名加入し、現在猛訓練を受けています。これ以上の拡張には予算を手当てする必要が有ります

行動:守備隊新規隊員募集
詳細:低調です

行動:治安維持
効果:治安の低下を抑えます
詳細:警備員が城壁と外部に通じる道を警戒中です。練度は高くありません

行動:流民の流入排除
効果:都市外におけるスラムの発生を抑制

行動:環境整備
効果:環境の低下をわずかに抑えます
詳細:排泄物の処理だけは行われています

行動:教育
詳細:一定期間経過後、低確率で官僚、外交官、医者の人材が手に入ります

行動:牧畜準備
詳細:僅かですが予算がつきました

行動:砂糖原料栽培準備
詳細:そろそろ栽培法が確立します

行動:捕虜等
詳細:重犯罪を犯した執行猶予中の職人数名が働いています

行動:情報機関
詳細:数名の人員が都市内での防諜の任についています。信頼はできますが全員正業持ち。専業を雇う予算はありません


・周辺状況
東。やや辺境。小規模都市勢力有り。外交チャンネル有り
西。最辺境。小規模遊牧民勢力有り
南。辺境。ほぼ無人地帯
北。やや辺境。小規模都市勢力有り。前回、自領で開拓者に対する襲撃事件が発生したため謝罪と賠償を行った。事件の犯人が見つからないため厳戒態勢中
超小規模オアシス。敵対しない限り、避戦に役立つ目的が得られる可能性があります
各地域とも有力勢力はナーマに対し敵対的中立で緩やかな経済制裁を実施中
零細勢力がやや動揺中


■参加者一覧
玲璃(ia1114
17歳・男・吟
フレイア(ib0257
28歳・女・魔
将門(ib1770
25歳・男・サ
朽葉・生(ib2229
19歳・女・魔
鳳珠(ib3369
14歳・女・巫
エラト(ib5623
17歳・女・吟
サフィラ=E=S(ib6615
23歳・女・ジ
アルバルク(ib6635
38歳・男・砂


■リプレイ本文

●宣伝
 城塞都市ナーマの宮殿で、サフィラ=E=S(ib6615)が深い眠りについていた。
 天蓋付き寝台の周囲には大量のポスターとビラが広げられており、広々とした寝室には濃い絵の具の臭いが充満している。
「失礼します」
 数回のノックの後、実用的なメイド服で身を包んだヤーウィが入ってくる。
 窓を開け、日光を遮るための布を掲げてから、静かに主に呼びかける。
「おはようございますマスター」
「ふにゃぁ」
 絹製のシーツを頭から被ったまま、サフィラが寝台の上でごろごろしている。
「出発の時間が迫っています。急がねば期間中にギルドまでたどり着けません」
「にゃっ」
 サフィラは勢いよくシーツをはね除けて起き上がる。
 からくりとよく似た、あるいはその逆の美貌には、濃い疲労が浮かんでしまっている。
「よく、ねた?」
 正直なところ寝た気がしないが休んではいられない。
 サフィラはヤーウィに手伝ってもらって身繕いを整えると、砂漠を爆走して営業に出かけていった。
 天儀開拓者ギルドやアル=カマル首都ステラ・ノヴァでばらまかれた収穫祭チラシにポスター。
 見る者を感嘆させる出来であり、豊かな領国に相応しいと評判であった。
 とはいえ、実際にナーマの収穫祭に出向く気になった者は極少数だ。
 なにしろ遠い。遠すぎる。
 相当な財力がなければステラ・ノヴァからナーマまで出向くのも難しいし、儀を越えるのはさらに難しい。
 もっとも、少数とはいえナーマ行きを決めた者も存在した。
「拙い」
 天儀開拓者ギルドで、とある開拓者ギルド同心が顔を青くしていた。
「散々儲けさせてもらってるのにこの誘いを無視なんてしたら」
 チラシを握りしめた両手が、恐怖で細かく震えている。
「不義理駄目、絶対。けど大領主への贈答品なんてどうすりゃいいんだか」
 関係部署に相談し領主の元部下に助言を仰いだ結果、未起動のからくりが手土産とされることになる。

●隊商
 大量の木材と布を背に乗せたらくだ達が城門を潜っていく。
 いずれも式典用のものとしては少々質が足りないが、これらは都市住民主催の出し物に使用されるものなので問題は無い。
 エラト(ib5623)は、城門を背にして滞空していた。
 今回駆り集めたのはフリーの行商人達であり、個々の規模は良くて小規模、多くは零細だ。
 しかし全て集まるとらくだ30頭近くになるため、ある程度安全は確保されている道を通るとはいえ単独での護衛はかなり厳しかった。
 鷲獅鳥の奏も体力面では余力はあるが精神的疲労が溜まっているようで、動きが時折雑になっている。
「今回のようなアヤカシばかりなら良いのですが」
 護衛中にエラトが相手にしたのは、小鬼や怪鳥程度のアヤカシのみ。
 極希に数十で襲いかかってくることもあったが、広範囲の攻撃術を扱えるエラトにとっては雑魚でしかなかった。
 最後尾のらくだが城壁を越えたのを確認し、エラトは門前に広がるスラムを一瞥してから城内に帰還するのだった。

●空の道
 青い空から大型船が降下してくる。
 折り悪く強い風が吹き始めるものの、巧みな操船で船体を殆ど揺らさない。
 それと対照的なのは老朽化著しいもう1隻の小型飛行船だ。
 艦齢の割には機敏な動作とはいえ、強風を避けるために複雑な機動を繰り返す様は、あまり見ていて気持ちの良いものではなかった。
 2騎の駆鎧の誘導に従い、2隻の船が貯水湖の脇に着陸する。
 大型船からは即座に桟橋が降ろされ数人のアヌビスが出てくるが、小型船の方はあちこちに不具合が生じたらしく船員が甲板を走り回っているだけで外部への働きかけは行われていない。
「お会いできて光栄です。いきなりで申し訳ありませんが荷下ろしをしても構いませんか」
 出迎えた将門(ib1770)に対し、爽やかな笑みを浮かべた青年が礼儀正しく、しかし決して卑屈にならずに挨拶する。
 彼の後ろにいる屈強な男達は、良質な木材と織物のサンプルを恭しく捧げ持っていた。
「これは商品ではなく手土産です。貴国の役に立てて頂ければこれ以上嬉しいことはありません」
 見本と同質の荷全てを無償で提供すると宣言する。
「冗談の上手い方だ。当都市は国ではありませんよ。より大きくなることを目指していますがね」
 将門は外交用の笑顔、つまり感情の含まれていない完璧な笑顔を浮かべて青年商人を出迎え、差し出された手に握手で応じた。

●計算
「手土産は、盛大な収穫祭を開催できるだけの資材ですか」
 宮殿の中枢で、エラトはため息に近い息を吐いていた。
 青年商人が持ち込んだ大量の物資は、収穫祭に必要なものがほぼ揃ってしまうほどの充実度であった。
 なお、小型船はほぼ空荷であり、船長が平身低頭しながら輸送業者として雇ってくれと頼み込んできている。
「返礼しなければ借りになってしまう以上出費が嵩み害の方が大きい。おそらくこちらの対応能力を探るのが目的だ」
 将門は新人官吏に作らせた交易収支予想書にちらりと目を向ける。
 天儀については深い知識を持っているが、アル=カマルに関してはそうではない。しかしそんな将門でも分かる程の瑕疵が、この予想書には存在した。
 新人官僚達は、ナーマ外の都市の税や流通経路が不変のものであると考える傾向があるようだ。予想は楽観的ではないが根拠に乏しい。少し税率が変わっただけでも収支と物の流れが変わりかねないことが実感として理解できていないのだろう。
「片方は大氏族と関係があるかもしれん。手数をかけて悪いが、商売の話は進めず応対して欲しい」
 自陣営の能力不足が判明した以上、当初予測より慎重にいく必要が有る。
 エラトはうなずくと、外交における武器である礼服に着替えるため移動していった。

●養生と外交攻勢
「うぬぅ」
 どれだけ不利な状況でも弱みを見せなかった領主が、我慢の効かない子供のような悲鳴をあげた。
「ナーマ様」
 玲璃(ia1114)はとっさに領主の体を支え、予め自分で毒味したはずの料理を銀の匙ですくい口に含む。
 消化の良さと栄養の豊富さを兼ね備えた甘い汁が口いっぱいに広がり、急速に体内に吸収されていく。つまり、全く異常は無い、はずだ。
 玲璃は念のため室外で待機中の環に一応警戒するよう目配せで伝えてから、改めて領主に向き直った。
「お口に合いませんでしたか」
「甘い物は…嫌いではないが、もともと量は食えん」
 領主は飾り気のないグラスで水をあおっていた。
「独裁者がそんなことでどうします」
 フレイア(ib0257)は上品に諫言してから、可能な範囲で領主の好みにあわせた、薬膳の要素が強い食事を盆に載せて持ってくる。
「そうは言うがな」
 決まり悪げに反論じみたことを言いつつ、領主は玲璃作の健康飲料を鼻をつまんで流し込む。
「儂にも、好みというものがある」
「はいはい、承知しております」
 フレイアは子供をあやすように受け答えする。領主は何か言いたげだったが、結局口にはせず無言で食事にとりかかる。
 未だ頑丈な歯で丁寧に噛み砕き、冷たくも熱くもない水で流し込む。
 この場面だけ見れば健康そのものだが、診察した玲璃とフレイアは彼の体のあらゆる場所が弱っているのを知っていた。
「氷室を作り、今回の飲み物を作り置いておきます」
 真剣な表情で玲璃が伝えると領主は恐怖に近い感情を顔に浮かべ、うなり声を上げながら首を左右に振りかけ、結局渋々首を縦に振った。
「そういえば」
 食後の茶の準備をしながら、フレイアは手がけている案件の説明をする。
「近隣の主要勢力以外を切り崩すことにしました。収穫祭でも主要勢力以外の小勢力に招待状を送りましたので」
「演説の際は言及することにしよう」
 未だ衰えぬ眼光が、フレイアの目を射貫いた。

●農業
 城塞都市ナーマ周辺に久々に現れた大物アヤカシは、古びた包帯を全身のあちこちに引っかけた巨大骨格であった。
 朽葉・生(ib2229)は砂色の杖を掲げ、淡々と呪文を発動させていく。
 最初は氷の槍。
 恐るべき強度を持つ槍が50メートル以上の距離を超え、太い骨に直撃し端から砕いていく。発動の頻度は高く、慣れた射手でも難しい水準の連撃だ。
 ある程度近づいてきたら次は雷。
 頻度は低下するものの、氷の槍以上の威力が傷ついた骨に命中し、アル=カマル風がしゃどくろの存在する力を削っていく。
 巨大アンデッドが、城壁拡張予定地にフレイアが予め設置していた簡易防御施設に足をかけたとき、霊騎を駆る鳳珠(ib3369)が側面から仕掛けた。
 鳳珠が浄炎できつい一撃を与えた直後に務が蹄で一撃を与え、既に無数の亀裂が入っていた巨大な骨達が粉々に崩壊し、熱い風に吹かれて消えていく。
「鳳珠さん?」
 深刻な表情で立ち尽くしているのに気付き、生は鳳珠に声をかける。
「いえ、なんでもありません」
 鳳珠は頭を軽く左右に振って気分を変えようとする。
 城壁外での農耕案を推進するつもりだったのだが、城壁から100メートルも離れていない場所が踏み荒らされてしまった現状から考えると、現状のまま推進することに迷いを感じてしまう。
「城壁拡張案の推進は決まりましたが…。途中の防御力低下への備えはより厳重にする必要があるでしょうね」
 鷲獅鳥に乗って降下してきた生は、計画を再度修正する必要が出てきたことに気付き内心頭を抱えていた。
 計画の変更の権限は生達開拓者にあるが、各分野の専門家を揃えて計画を練らないと、穴がある計画が出来かねない。
 各分野の専門家は各分野で主導的な役割を果たしている面々であり、彼等を計画修正のため集めるとそれぞれの分野の進捗状況が悪化しかねない。だが彼等抜きで進めるのが非効率であるのも事実だのだ。
「ただでさえ時間が足りないというのに…」
 生は後の始末を鳳珠に任せ、空路で宮殿に向かっていた。

●外周にて
「すまねぇ。今回も間に合わなかった」
 8人の志体持ちを引き連れ門から出たアルバルク(ib6635)は、鳳珠に歩み寄り頭を下げた。
「死に掛けたら水飲めー。終わったら酒飲めー。ボクは飲めないんだぞー」
 彼の背後では8人の男達が息も絶え絶えになりつつ整列しており、元気な羽妖精から容赦の無い指示を受けている。
「後詰めをして頂けるだけで非常に楽になりますので」
「そう言ってくれると助かる。…おいおめぇら! 普段世話になってる巫女に無様なとこ見せるんじゃねぇ! 総員警戒態勢、アヤカシの襲撃に備えながら虱潰しに安全を確認していけ!」
 発動中の瘴索結界「念」により付近にアヤカシがいないことは確定している。しかしそれを目配せで伝えるとアルバルクが訓練のため沈黙を要請してきたので、鳳珠は静かに見守ることにした。
 恐るべき力を持った開拓者2人に、都市に絶対の忠誠を誓う8人のジン。
 城塞都市の門前に存在するスラムの住人は、今生きた心地がしないかもしれない。
「なあ、ちょいと拙いんじゃねぇか?」
「また増えていますね」
 威厳を保った姿勢のまま、小声で意見の交換を開始する。
 現在玲璃が通告のため赴いているスラムは、1週間前と比べて明らかに人口密度が増している。砂漠の入り口で事実上の妨害を行っているにも関わらずこの人口増。世の中には思った以上に食い詰めている者が多いらしい。
 なお、通告の内容は、受け入れ時の宣誓後外の勢力の為動くなら宣誓前に退去せよ、という警告である。
 それだけ見れば温情とも無防備ともとれる内容だ。
 現在飢えている以上、警告に従う気があろうが無かろ頷くに決まっているのだから。
「今の調子なら半分入れれば奇跡かね」
 城塞都市ナーマの情報機関担当官僚は強く警告している。受け入れ審査を甘くすれば防諜体勢が確実に崩壊すると。
 やがてスラムから出てきた玲璃が、守備隊とアルバルク達に気づいて近づいてくる。
「これは…」
「わりぃが勝手に援護させてもらったぜ。あんたの趣味じゃないろうが、ナーマのおっさんの命令でな」
 アルバルクは悪びれずに伝えると、玲璃を促しスラム離れた場所まで移動してから、警戒の中止を守備隊の8人に命じた。
「そーいえば、そろそろリーダーなんていた方がいいのかもねー。誰かしたいひといるー? 手当が付くよー」
 名簿を眺めながらリプスがたずねると、支給品の革袋で水を飲んでいた男達が一斉に首を左右に振った。
「したくないのー?」
「ありゃぁ書類仕事で半日潰れやすぜ。その後で体力作りに木剣組手に銃、さらにその後通常業務ってのは正直…」
「今は持ち回りですが正直限界近いっす。お役人が受理する報告書を作るのがどれだけ大変か」
 これが謙遜なら打つ手もあっただろうが、どうやら本心からの言葉のようだ。
「分かった分かった。これ以上勧めやしねぇよ。…スラムの新しい住人にジンがいたら役人に報告しとけよ。外の人間なら警戒の、無関係なら懐柔のための予算がつくだろうし」
「えっ。報告する必要があったんで?」
 心底不思議そうな顔をする男を見て、アルバルクは片手で頭を抱えた。
「お前等、ちったぁ頭を使っとけよ」
 士気は緩んでいない。練度も徐々に上がっている。しかし定職について生活が安定したせいか、揉め事への収穫というべきものが鈍っている気がする。
 来週の収穫祭も、気を抜けないようだ。