降り注ぐ雷と鬼の軍団
マスター名:馬車猪
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや難
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/06/10 04:26



■オープニング本文

 無人島が点在する航路を行くにあたり、船長は護衛のための戦力を大増強することにした。
 新たに志体持ちを1人雇い入れ、積み荷を減らして盾と弓と大量の矢を積み込んでからようやく出発する。
 同業者は船長の臆病を笑っていたが、数日後には笑いは凍り付き恐怖に震えることになる。
 海流に流されて戻ってきた船は、巨大な雷に直撃されたかのように芯まで焦げ、船長以下の乗組員全員が甲板で炭になっていたのだ。
 焼け焦げた船を確認した港町の領主は非常事態を宣言し、街の守りを固めると同時に開拓者ギルドに急使を送る。
 依頼内容は付近に存在すると思われるアヤカシの撃滅だ。

●討伐依頼
 遠距離から望遠鏡等を使って偵察した結果、以下のことが判明した。
 海面にはアヤカシを見つけられなかった。
 アヤカシの姿は無かったが、無人島に存在する岩の周辺から大量の雷が空に向かって放たれ、先走って偵察に向かった龍乗りが龍もろとも撃墜された。
 無人島周辺ではしばらく晴天が続く見込み。
 視界が効かないときを選んで攻めるべきかもしれないが、時間をかければ流通が止まり地域全体が困窮しかねない。
 頑丈な小型船を貸し出すので、早急にアヤカシの排除を行って欲しい。


■参加者一覧
鴇ノ宮 風葉(ia0799
18歳・女・魔
海神 江流(ia0800
28歳・男・志
海月弥生(ia5351
27歳・女・弓
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
エルシア・エルミナール(ib9187
26歳・女・騎
不破 イヅル(ib9242
17歳・男・砲


■リプレイ本文

●海戦
 青い空が白一色に染まる。
 城が薄れ、空の海の青さが再び見えるようになったとき、嵐にすら耐えられるはずの船は、表面が焦げ黒くなってしまっていた。
「減らせなかったか」
 揺れる船上で、不破イヅル(ib9242)は油紙を破り火薬と弾丸をマスケットに込めていく。
 瞬間的に再装填するだけの練力の余裕はあるが、今は使う気がない。
 アヤカシの射程外から一方的に射撃していたときですら、有効射程ぎりぎりかつ不安定な足場のせいであまり直撃しなかった。ここは敢えて耐える場面だろう。
「ち、…守り抜く戦いは、趣味じゃないんだけどなっ…!」
 普段は攻撃優先の鴇ノ宮風葉(ia0799)も、今だけは船上の遮蔽物に隠れて耐えている。
 しかし遮蔽物も、船自体も、いつまでもアヤカシの攻撃に耐えることはできない。
 船首に大量に積み上げられた板は炭となって堅さを失い、船首そのものも形が崩れてきている。
「やれやれ。刀を突き出せば雷が流れるのは俗説だったのかもな」
 海神江流(ia0800)は船尾で肩をすくめていた。
 帆柱の先端に金属製の刀を取り付けていたのだが、残念ながらアヤカシの放った雷を引きつける効果はなかったようだ。
「速度はこれ以上上がらないの!」
「限界だ」
 怒鳴るような風葉の質問に、江流は平然とした顔で答える。
 ただし酷使された両手は熱を持ち、気を抜くと筋肉がつりそうになる。
「ごめん。手伝えなくて」
 金の髪を揺らし海月弥生(ia5351)が頭を下げる。
「気にするな。風向きも潮の流れもこっちに有利だ。海月さんは奥の手をぶっ放すときまで待機していてくれ。まあ、多分、なんとかなる」
 敵との距離も狭まっているが、宙を奔る雷の音、着弾と同時に揺れる舟船首から吹き付けてくる焦げ臭さと、こちらの不利を教えるものがあまりに多い。
「いきます」
 ジルベリア風板金鎧で身を固めたエルシア・エルミナール(ib9187)が、無造作ともいえる動きで立ち上がる。
 アヤカシは即座に彼女に狙いを定め、タイミングをあわせて十数条の雷を一点に集中させた。
「手練れのようでありますな」
 エルシアは、胸から上が吹き飛んだ等身大藁人形を甲板に捨てる。
 新しい等身大藁人形を位置をずらして突き出すと、数秒後に再び閃光が集中し、消し炭すら残さず消え去ってしまう。
「威力だけは高位のアヤカシ並みかもね、これ」
 風葉が獰猛な笑みを浮かべる。
「只でさえ即死級の威力が束でかかってくるからね」
 頭上を飛び交う雷を認識していないかのように、弥生は平常心を保ったまま軽く肩をすくめた。
 砂浜までの距離は後十数メートル。妖鬼兵が陣形を組んでいる場所まではさらに十数メートルだ。
 通常なら10秒もかからず駆け抜けられる距離だが、今はその30メートルが恐ろしく遠い。
「実はひとつ案があるのです」
 地元の人間から預かった海図と現実の海を見比べていた鈴木透子(ia5664)が、奇妙な程穏やかな顔で口を開いた。

●決壊
 船首がほとんど炭と化した舟に、妖鬼兵の指揮官は厳しい視線を向けていた。
 兵士を大量に乗せられる訳でもない舟が真っ直ぐに向かってくるのは不自然だが、大量に雷を撃ち込み反撃を許さず舟ごと壊してしまえば何も問題は無い。
 既に半壊状態の舟に最後の一撃を加えるべく、指揮官は大声を張り上げて一斉攻撃を命じようとした。
 だがそのとき、舟がいきなり加速する。アヤカシが目にすることはできなかったが、開拓者達が炭の板まで持ち出して総員で漕ぎ始めたのだ。
 砂浜に乗り上げて勢いが止まると判断した指揮官は、構わず命令を下す。
 舟は、いつの間にか満ちてきていた潮と波に乗り、先端だけでなく竜骨まで崩壊させながらも速度を緩めず砂浜に乗り上げ、そのまま砂浜から跳躍した。
 舟は原型をとどめないまで分解され、大量の木材が砂浜に落下していく。その中に、6つの原型を保った影があった。
「やってみるものです」
 戦場に関する情報を徹底的に集めた結果、一見無茶だが実現の可能性が高い策を導くことができた透子。
 器用に着地した透子に、仲間から呆れと畏怖に似た視線が向けられていた。
「万倍にして返すわ」
 最も早く動いたのは風葉。
「その万倍に上乗せしておこうか…!」
 続いたのは江流。
 風葉は闇のように黒い壁を呼び出し遮蔽物としてから、攻撃のための術の詠唱に入る。
 その隙を突かれぬよう江流は刃を振るい、雷刃を飛ばし手近の二体を葬る。
 そして、ここまで後方で待機し続けていた弥生が超高速で矢を番え、超絶の技巧による大量発射を実行する。
 美しい軌跡を描いて広がって大量の矢は、弥生の傷が癒えきっていないためか勢いは弱い。
 しかし狙いは見事なもので、術を発動させる直前の数十の妖鬼兵の動きを一瞬止めるだけの効果はあった。
 それから数度の銃声が連続して響き、前衛から本陣にかけて数体の妖鬼兵が射殺される。
 単動作による瞬時再装填と呼吸法により威力増加を組み合わせた、現在イヅルが使える最大の技だ。
「無駄弾は、使わない主義だ」
 全てはこのときのため、アヤカシへの苛烈な殺意を強靱な精神力で押さえ込み、練力を温存してきたのだ。
「参ります」
 そして満を持してエルシアが突撃を開始する。
 本来なら妖鬼兵の前衛が我が身を盾として食い止め、大量の雷を集中させエルシアを消し炭に変えていただろう。
 だが弥生により連携を乱され、江流とイヅルにより進入路をこじ開けられた結果、エルシアは一切抵抗を受けずにアヤカシの指揮官の目の前にたどり着くことができた。
 鋭い呼気と共に薔薇の意匠がほどこされた騎士剣が振り下ろされ、肩に矢が刺さっていた鬼の首筋から胸までを切り裂く。
 鬼は最期の力を振り絞って口を開く。
 既に一部瘴気に変わりつつある妖鬼兵が発したのは、悲鳴でも罵倒でもなく攻撃命令だった。
 だが、陣形を崩されたアヤカシ達はそれまでのような見事な一斉射撃を行えない。
 連携が拙くなり、エルシアが透子の建てた黒い壁の後ろに飛び込み、透子達が風葉の壁の後ろに隠れるのを見逃すしかなかった。
 ようやく準備が整い術が発動し、30弱の雷が荒れ狂う。術者の能力に比例した常識外の強度を持つはずの壁を吹き飛ばす。壁の後ろの面々にもかなりの火傷を負わせるが、十中八九まで壁に吸収された雷では開拓者に致命傷は与えられない。
「お返しよ!」
 風葉が吼え、妖鬼兵数十体分の雷には負けるが確実に十体分の威力はありそうな閃光が大地を這う。
 妖鬼兵のそれとは異なり素晴らしい貫通能力を持つサンダーヘヴンレイは、陣形を組んでいたためある程度密集していた鬼の大部分を文字通り消し飛ばす。
 組み付いて開拓者の動きを封じようとしたアヤカシを江流が切り払い、イヅルが最後の一滴まで練力を使い尽くして次席指揮官を確実に射殺する。
 ほんの数秒で約30体から7、8体にまで減ってしまったアヤカシ達は、撤退は不可能と悟り1人でも道連れにするため残る全ての力を振り絞る。
 狙いは、明らかに動きが鈍い弥生だ。
 弥生はアヤカシの雷の射程外にいたが、鬼達は自らの守りをかなぐり捨てて直進し、射程に入ると同時に最後の一撃を放つ。
「ご無事で」
 透子が治癒符による治療を施すと、エルシアが我が身で雷を遮る。
 強固な鎧でも防ぎきれない一撃が彼女を襲うが、十分回復していたため致命傷にはほど遠い。
 その数秒後。
 風葉の一撃が辛うじて陣形らしきものを組んでいた鬼を滅ぼし、士気崩壊を起こし背を向けたものを江流が刃を振り下ろすことで、かつて強勢を誇っていた妖鬼兵はあっけなく全滅した。

●碑
 向かえに来た客船が、アヤカシを警戒して沖合で泊まっている。
 透子は狼煙銃を使いこちらの無事とアヤカシの討伐完了を伝えてから、島の中央に積んだ石の山に手をあわせた。
 この島とその周辺で命を落とした者の中には、遺留品さえ残っていない者も、死んだことを知られていない者すらいる。特に後者にとってはこれだけが墓だ。
 透子は無言のまま立ち上がり、仲間と共に帰路につくのだった。