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■オープニング本文 ある晴れた日、あなたはパートナー(朋友)と共に、とある場所にある手入れが行き届いた森へ出かけた。 そこは小金持ちがピクニックやキャンプに興じる場であると同時に、開拓者向けに解放された場所だった。 町中ではどうしても活動が制限されてしまう龍と心ゆくまで親睦を深めたり、もふら様とのんびりしたり、開けた場所でアーマーの操縦訓練を行ったりするため、開拓者が訪れることがあるという。 あなたは午前中に到着してからずっとパートナーと向き合い、充実した時を過ごす。 日が陰り、あなたが帰り支度を始めようとしたとき、事件が起こった。 地中から複数のハニワが現れ、手当たり次第に攻撃を仕掛けはじめたのだ。 あなたをはじめとする開拓者の活躍により被害は出なかったが、一般客の保護を優先したためほとんどのハニワは生き延びて夕暮れの空へ逃げ出してしまう。 一般客の無事を確認し終えたあなたは、パートナーと共にハニワを追うのであった。 |
■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
鴇ノ宮 風葉(ia0799)
18歳・女・魔
海神 江流(ia0800)
28歳・男・志
皇 りょう(ia1673)
24歳・女・志
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
リンスガルト・ギーベリ(ib5184)
10歳・女・泰
クレア・エルスハイマー(ib6652)
21歳・女・魔
クラリッサ・ヴェルト(ib7001)
13歳・女・陰 |
■リプレイ本文 ●それゆけ開拓者達with頼もしい御供 「無理イイなサンナ。埴輪なアヤカシに襲われた直後ニ、中身はゼンゼン違うケド見た目ガ似ているワタシが出てイったらドーなりマス?」 土霊−ツチダマ−は主人の命令を実にあっさりと拒否、ではなく突っ込みを入れていた。 「大きさが違うだろうが。雰囲気も形状も」 「狼狽しテイるフツーの方々に気づケルとでモ?」 ツチダマは人間くさく肩をすくめる。 海神江流(ia0800)は久々に己のこめかみに血管が浮き上がるのを感じたが、ぐっと我慢して説得を続けようとする。 「そんナだからいつもワタシに将棋で負けルンですヨ」 「勝ってるのは僕だ。今回も僕の判定勝ちだろう!」 が、ツチダマのからかいについつい激しく反論してしまう。 「海神、つっちー、あんた達の仲がいいのはよーく分かったから仕事しなさい。これつっちーので良いのよね?」 鴇ノ宮風葉(ia0799)が編み笠と縦縞マントを差し出すと、ツチダマは機嫌の良さそうな機敏な動作で受け取った。 「ありがトウごさいマス、ダンチョ。さすがゴ主人とは違いまスネー」 「お前な‥‥」 ハニワ出現時のどたばたで落としてしまった装備を改めて装着するツチダマに、江流がジト目を向けていた。 漫才にしか見えないやりとりを交わす主従を見、風葉はくすりと微笑んだ。 ハニワが襲いかかってきたときには打ち合わせ無しに見事な連携を見せ人々を護りきったくせに、余裕ができるとすぐにじゃれあいを始めてしまう。頼りになると同時に愉快な主従だった。 「地ニ足ガつカナい連中はゴ主人にオ任せシまスネ」 「お前も避難する連中を脅かすんじゃないぞ」 編み笠とマントで己の姿をごまかしたツチダマは避難しつつある人々の元へ、江流は逃げ去ったアヤカシ達の元へ、阿吽の呼吸で駆け出すのだった。 ●急上昇急降下 「だんちょ達間に合うのかな。案外速いぜこいつら」 滑空艇シュバルツドンナーの出力を全開にしながら、ルオウ(ia2445)は小さく眉を寄せた。 上空にいるハニワの姿が徐々に近づいてくるが、その速度は当初予想していたより遅い。 「力の大部分を行動力につぎ込んでいるのであろう。空戦ではやっかいなタイプじゃぞ」 リンスガルト・ギーベリ(ib5184)は前方から吹き付ける強烈な合成風から身を護るため、背中の翼を閉じ身をかがめながらルオウと並んで飛んでいた。 「一撃離脱も高速離脱も自由自在ってことか。せいぜい注意するよ」 「うむ。抜かるでないぞ」 リンスガルトとルオウは滑空艇の翼をわずかに上下させて合図を送ると、キーベリは急降下を開始し、ルオウは進行方向を地面と水平に変更して前進を続行する。 「2、4、5。思ったより少ないか。これなら咆哮で良かったかもな」 斜め下方に位置する5体のハニワを確認し、ルオウは秋水清光を音も立てずに抜き放つ。 冷たい美しさをたたえた刀身は夕日を照り返し、禍々しい朱に染まる。 「行くぞ」 高度を速度に変換し、さらに速度を増しながらハニワ編隊へ背後から襲いかかる。 最後尾のハニワはあえて見逃し、編隊の中央に位置し先頭を飛んでいたハニワに刃を振り下ろす。 追いすがる形とはいえ高速戦闘。並みの者なら当てるのも困難だったかもしれないが、ルオウの振るった刃はハニワの体を見事に両断していた。 「ちっ」 落下していくハニワの残骸を横目に、ルオウは機体をバンクさせて回避行動に移る。 アヤカシから連続で放たれる呪声はルオウ自身にとってはそよ風に等しい。 しかし航続距離こそ優れているものの、耐久力は通常の滑空艇の水準にあるシュバルツドンナーには、ハニワの放つ呪声は十分に脅威であった。 「後1度なら突撃できるが」 2度は無理だ。ルオウはハニワの呪声の射程外で、相手の進路をふさぐよう機体を操っていく。 「‥‥来たか」 ハニワ編隊の背後から近づくものに気づき、ルオウは小さく息を吐く。 「よくやった蒼月。後は攻撃は考えずとも良い。私を盾にしてでも飛び続けることを優先せよ」 皇りょう(ia1673)は己の駿龍の背を優しく撫でると、阿修羅の銘を持つ太刀を鞘から抜いた。 「我に武神の加護やあらん!」 それは既に人と龍ではなく、一つの美しい刃のようだった。 りょうと蒼月は押し寄せる呪声の連打を真正面から打ち破り、精霊の力を宿した一撃を連続で放つ。 強烈という表現でも足りない凶悪な攻撃は、それぞれただの一撃で2体のハニワを粉微塵にする。 「ううむ、近くで見ても全然可愛くないな。人形というからにはもうちょっと‥‥」 ぽそぽそと呟かれたりょうの言葉は強風に吹き飛ばされているが、長年の相棒である蒼月は主人の意図を察したらしく、慰めるように小さく鳴いた。 「すまぬ。まだ戦闘中だったな」 蒼月が向きを変えると、残り2体にまで撃ち減らされたアヤカシが、下降して高度を増しながら逃走しようとしていた。 「間に合いましたか」 クレア・エルスハイマー(ib6652)は炎龍シルベルヴィントを駆りながら小さく息を吐いた。 シルベルヴィントも良い龍なのだが、滑空艇や駿龍と比べると、移動速度の面では一歩及ばない。 しかしクレアの騎龍であるシルベルヴィントは、その現実を易々とは認めない。 全力で翼を動かし、クレアが術を放つのに絶好の位置に己の身を滑り込ませる。 「負けず嫌いね」 クレアは優しい笑みを浮かべ、霊杖に手を伸ばし呪文の詠唱を開始する。 「我は撃つ大空の刃!」 真空の刃がハニワの背を切り裂くが、ハニワはぎりぎりで耐えきって降下を続行する。 「シルベルヴィント」 クレアが細々と説明をするまでもなく、クレアの騎龍は主の意を察してハニワを追い、ぎりぎりまで接近して火炎を放つ。 既に壊れかけだったハニワが炎龍のブレスに耐えられるはずもなく、瘴気を霧散させながら推力を失って自由落下を始める。 「我は招く魔界の嵐!」 最後に残ったハニワを渦巻く炎で包み、その存在を焼却する。 瘴気は完全に払われる。しかし瘴気がとりついていたハニワの体は半壊しつつも健在で、先に倒されたハニワを追うようにして落下していく。 「っ」 シルベルヴィントが翼をたたみ、自由落下に近い形で急降下を開始する。 クレアがエルファイヤーを連続で放つが、陶器としては大型のそれを、地面に到達しても無害なほどに細かく砕くのはかなりの難事だ。 「クレア殿!」 「りょうさん達は先に落ちた物を追ってください!」 ルオウとりょうは返事をする間も惜しみ、クレア達を追い越して降下していく。 「シルベルヴィント、やりなさい!」 クレアの許しを得た炎龍が、歓喜の咆哮と共に突撃を開始する。 炎じみた性質を持つ気をまとい、シルベルヴィントは落下を続けるハニワに体全体をぶつけるようにして激突する。 既に全体に細かなひびがはいっていたハニワは完全に限界を超え、粉微塵に分解されて高空の強風にさらわれていく。 「アヤカシを憑依先ごと砕くには、まだまだ力不足ですね」 甘えるように喉を鳴らす炎龍の背を撫でながら、クレアはさらに己を磨く決意を固めるのだった。 ●上から下から 時間はしばしさかのぼる。 「ふん、妾から逃げ果せるものか! しばし踊ってもらうぞ!」 ほぼ垂直に急降下しながら、リンスガルトは口元に獰猛な微笑みを浮かべていた。 「はっ」 凄まじい相対速度差をものともせず、宝剣クラレントを2連撃でハニワの腹に叩き込む。 ハニワはその攻撃には耐えたものの、速度の維持には失敗してしまい編隊が大きく乱れる。 リンスガルトは急降下の勢いを可能な限り保ちつつ高度を上げていき、くるりと機体を反転させてアヤカシ達の前に立ちふさがる。 「アヤカシ共! 見るがよい、妾は手負いじゃ! 我が血肉を貪りたくば、見事追い詰めてみよ!」 優美な白い繊手を振るうと、リンスガルト本人がつけた傷から紅い血が飛び散り、吹き付ける強風に巻き込まれ散っていく。 それがアヤカシの情欲、あるいは食欲をあおったのか、アヤカシ達は編隊を崩してリンスガルトを包囲しようとする。 リンスガルトは滑空艇Suを弧を描くように移動させ、ハニワの射程外ぎりぎりの距離を保ちながら誘導を開始する。 「練力の消費が大きいの。しかし急反転抜きでは敵の射程内に入らざるを得ぬ」 高速で進路変更した結果、追いかけてくるアヤカシを引きずり回すことができている。 だが高速での進路変更の際には錬力の消費が増えるため、錬力の減少速度の上昇は避けられない。 リンスガルトはSuの錬力残量に精神力を削られながら、少しでも長くアヤカシを引き留めるため大空に複雑な軌跡を描く。 さすがに限界が見えてきたとき、ハニワの群れのほぼ中央で、巨大な爆発が発生する。 爆発は、起点から約30メートルの全てを吹き飛ばし、ハニワを無数の破片に変えてしまう。 「よくやりました、禍火」 朝比奈空(ia0086)が声をかけると、彼女が駆る炎龍は獰猛な気配の中に喜色を滲ませて反応する。 「できれば残りもまとめて消し飛ばしたいところですが」 空が静かに手を振ると、それだけで意図を察した禍火が斜め前方に移動してハニワの射程距離から逃れる。 「無理は避けましょう。‥‥灰へと還りなさい」 戦場の端を飛んでいたハニワが不可思議な光に包まれる。 光は一瞬で消え、アヤカシの残骸だけが残る。 残骸が少し落下した時点で形が崩れ、落下の勢いと吹き付ける向かい風に吹き散らされ、あっという間に霧散していった。 「よし。ならば妾も攻勢に移るぞ」 リンスガルトはSuの動力を切り替え、滑空状態でハニワに近づいていく。 空がメテオストライクでもたらした大規模破壊に混乱中のハニワは有効な待避行動をとれずSuの接近を許してしまう。 「ハニワアヤカシ、全滅じゃ!」 宝剣クラレントが、丸々としたハニワを真横に両断するのだった。 ●ハニワ流星雨 「天気は晴れのち晴れ、所により埴輪が降ってくるでしょー‥‥って、言っても直接見なけりゃ信じて貰えないでしょーねぇ‥‥」 上空から振ってくる多数のハニワとハニワの欠片を見上げ、風葉はやれやれと肩をすくめた。 ここから離れた場所で、りょうがハニワを騎龍の爪で掴ませるという絶技を披露しているが、落下中の数が多すぎて防ぎ切れていない。 「埴輪を埋めたりその上を行楽地にしたり、人間の考えことはときどき全く分からんのぉ」 風葉の足下でくつろぐ管狐は、のんびりと上空を見上げている。 「あら、変化があった方が楽しくて愉快じゃない? そろそろ始めるわよ。あんたものんびりしない!」 「若ぇ内は地力で何とかするもんじゃきぃ‥‥とばかり言うてはおれんか。やれやれ、こんな老体をこきつかいおって」 三門屋つねきちを名乗る管狐は、するりと風葉の得物に入り込む。 「ばーんっ!」 落下してくるハニワを指さし、風葉は銃声を真似た擬音を口にする。 ただでさえ強力な風葉の精霊砲はつねきちによりさらに強化され、胴体部分を文字通り消し飛ばす。 「参ったわね。アヤカシ相手ならともかく無機物相手を相手にするなら効果範囲が足りないかも」 風葉がハニワの手足に狙いを定めようとしたそのとき、地表から放たれた雷光がそららを砕いて無害化していた。 「後始末はしてやる! お前は僕に遠慮しないでいつも通り暴れてろ」 青い片手剣を手にした江流が、風葉に背を向けたまま上空を見据えている。 風葉は一瞬だけ嬉しそうな表情になる。けれどすぐにいたずらっぽい表情で宣言する。 「次からは一つ残さずぶっ壊したげるっ。‥‥塵一つ残したくないけど、海神の為に微妙に残しといてあげよっか?」 「はっ、言ってろ!」 江流の憎まれ口を実に嬉しそうな顔で聞き、風葉は連続で精霊砲を発動させる。 上空の戦いで破片と化したハニワの場合は精霊砲だけで充分で、次々に消し飛ばされて砂未満の破片となり大地へ降り注ぐ。 「雷鳴剣雷鳴剣っ! おいちょっと待てそこのお転婆娘! 砕けるのに放置してんじゃねーぞ」 「へへーんだ」 連続で雷鳴剣を放ち練力切れに陥りつつある江流が抗議すると、風葉は笑顔のままぺろりと舌を出す。 「っと、上もそろそろ終わりか」 江流は剣を手にしたまま上空を見上げる。 そこでは、Suの練力残量の関係で降下を開始したリンスガルトと別れ、地面へ向かって逃亡中のハニワの真上に移動しつつある空の姿があった。 「これは大丈夫だよ‥‥な?」 雷鳴剣を行使するだけの練力がなくなった江流が少しだけ不安そうな口調で呟くと、空のララド=メ・デリタが炸裂してハニワのほとんどを吹き飛ばす。 そう、ほとんどであって全てではない。 消去し損なったハニワの頭は妙な勢いがついたまま宙を飛び、誰がいるか分からない森の中へ落下しようとする。 開拓者達の顔に焦りの色が浮かんだそのとき、短砲身の発砲音が響き、ハニワの頭が破裂するようにして粉微塵になる。 「オ待タセしマシたー!」 発砲したのはツチダマだった。 避難を完了させてから大急ぎで戦場に向かい、途中で落下してくるのに気付いたハニワ頭に対し発砲したのだ。 ちなみにもともとの命中率から考えるとこの結果は単なる幸運以外の何ものでもない。 「ご苦労様。避難は済んだ?」 「ばっチりデス、ダンチョ」 「ならばよし」 本来の主人を放って風葉の相手をするツチダマを見やり、江流は大きくため息をつくのであった。 ●晴れ所によりハニワ後晴れ 「とんだ休日になったな」 りょうは蒼月と共に夜空の飛行を楽しみながら、満点の星空を見上げていた。 いつも通りの男口調ではあるが、蒼月以外の目がないせいか表情が非常に柔らかい。 「ハニワも普通に出土すればじっくり眺めることができたのだが」 敵の増援を警戒して戦闘終了後にも飛んでいたのだが、今ではすっかり趣旨が変わり、蒼月とゆったりとした時間を楽しむために飛行していた。 「これからもよろしく、蒼月」 淡い光に照らされ、ふたりはどこまでも飛んでいくのだった。 |