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■オープニング本文 突然だが、あなたは宴席に招かれた。 かつて華麗に解決した依頼の関係者、あるいは深いつきあいをする異性、あるいは上司かもしれないが、とりあえず今は関係無い。 問題なのは、宴席に朋友を連れていけないことである。 ●今回の主人公は我々だ! あなたの朋友は、控え室、あるいは厩舎で時間を潰していた。 宴席は盛り上がっているようなのだが、あなたの朋友のいる場所は非常に静かだ。 が、その静けさは唐突に破られた。 窓から外を眺めたとき、遠くの道に数体のアヤカシの姿があったのだ。 小鬼や四つ足のアヤカシが数体。 あなたに伝えれば簡単に蹴散らしてもらえるのは朋友も分かっている。そして、今知らせると盛り上がっている宴が終わってしまうのも分かってしまう。 朋友はそっと控え室、あるいは厩舎から抜け出すと、こっそりアヤカシを打ち倒すために出かけるのであった。 ●困惑するアヤカシ達 高台にある料亭に攻め込もうとしていたアヤカシ達は困惑していた。 人間が迎撃に出てくるのは覚悟していたのだが、明らかに人間ではないもの達が飛び出してきたのだ。 「このまま攻めい! 奴らを打ち倒し、人間共を食らい尽くすのだ!」 鬼としては特に知性の高い個体に率いられたアヤカシの群れは、崖の上にある料亭目がけて突進を開始した。 |
■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191)
20歳・女・泰
水月(ia2566)
10歳・女・吟
フェルル=グライフ(ia4572)
19歳・女・騎
からす(ia6525)
13歳・女・弓
御陰 桜(ib0271)
19歳・女・シ
蓮 神音(ib2662)
14歳・女・泰
針野(ib3728)
21歳・女・弓
御調 昴(ib5479)
16歳・男・砂 |
■リプレイ本文 ●主抜きで 質の良い止まり木の上で、迅鷹のサンがうつらうつらと舟をこいでいた。 遠くから主であるフェルル=グライフ(ia4572)の声が届くと、嬉しそうな気配をほんわりと漂わせてより深い眠りに落ちていく。 「わふ?」 御陰 桜(ib0271)忍犬である桃(もも)♀がぴんと耳を伸ばし立ち上がる。 そのわずかな動きに気付き、サンが不安そうな身振りで周囲を警戒し始め、座り込んだ体勢でも厩舎の屋根に頭がつく鷲獅鳥が目を開く。 桃は一堂を代表して厩舎から顔を出し、遠くの坂を登ってくるアヤカシに気付いた。 わんわん、きゅーきゅー、ぐるると情報交換が行われ、三者三様の行動を開始する。 首筋に特徴的な模様を持つ忍犬は、主人の手を煩わせずにアヤカシを討伐した際に得られるであろう御褒美を想像して瞳を輝かせている。 あどけなさの残る顔立ちの迅鷹は、守るために主のもとへ向かおうと足を踏み出し、しかしアヤカシの戦力は主を呼ぶまでもないことに気付いてしまい、思い悩んだ末に自らの力で決着をつけることに決める。 そして最も大きな体格とそれに比例した力を持つ御調昴(ib5479)の朋友は、体の端がかすめるだけで厩舎が壊れてしまうため、最大限に急いではいるがじれったくなるほどゆっくりと、快適ではあるが窮屈な厩舎を抜け出していくのであった。 ●初陣 「は、はりちゃんはお仕事中なの。邪魔したらだーめーなーのーっ!」 人妖のしづるは小さな体に精一杯の気合いを込め、坂道を駆け上がってきたアヤカシの群れの前に立ちふさがった。 主であり庇護者でもある針野(ib3728)は重要な仕事の最中だ。 しづる1人なら助けを求めたかもしれないが、頼りになる仲間がいる今は、敢えて前に出るべきと判断した。 「少しは知恵の回る者が居るようだが」 見た目は銀髪緑眼の美女、体の各所に人形としての特徴を持つ翠蓮が、しづるをかばうように前に出る。 アヤカシの群れの先頭にいるのはほぼ非武装の小鬼だ。 最も高速な兵で奇襲を仕掛けるつもりだったのかもしれない。 「しょせんは浅知恵よ。主たちの宴を邪魔しようとは不届き千万。我が主より賜りしこの青銅巨魁剣で一匹残らず叩き斬ってくれる」 掲げた剣は水月(ia2566)から賜った青銅巨魁剣。 巨人が装備していてもおかしくない、青い刀身を持つ巨大剣だ。 小柄な小鬼達は狭い道を苦にしない。横1列に並んだ4体が一斉に翠蓮に襲いかかる。 「この程度の力量で俺に向かってくるとは…片腹痛いぞ!」 絶妙のタイミングで繰り出された突きが左の小鬼の胸を貫き瘴気に戻し、引き抜きざまに放たれた第二撃が中央の小鬼の右手に浅くない傷をつける。 小鬼の顔に狼狽と恐れが浮かぶが、背後からもアヤカシが押し寄せてきているので止まれない。 本来の技量からすれば奇跡的な拳が2体同時に繰り出される。 翠蓮はとっさに青銅巨魁剣を盾にして防ごうとするが、鋭い衝撃を全て受け流すことはできないはずだった。 「これは…」 衝撃は感じられなかった。 これが事実上初の実戦だからか、一瞬意識が目の前の敵からそれてしまうが、背後からしづるが飛ばした術で手傷を負っていた小鬼が内側から崩され、消えていく。 「そうか術か。援護に感謝する!」 普段より厚い守りはしづるの法術のお陰だ。 翠蓮は気合いを入れ直し、次々に現れる小鬼の群れを坂の出口で押しとどめるのだった。 ●坂の攻防 サンは慎重ではあるが決して臆病ではない。 厩舎を飛び出してから真っ先にアヤカシの頭上を抑え、敵勢全てを冷静に観察する。 小鬼の投石が時々飛んでくるが、ほんのわずかに速度を緩めることで苦もなくかわしていく。 「畜生が! 降りてこい!」 下から響く罵声を聞き流しながら偵察を続けていたサンは、アヤカシの群れに埋もれるようにして歩いているそれに気付いた。 もふらにしか見えないものが数体、いや、数柱。 捕らわれた精霊を助けるために急降下し、棍棒や手槍で武装した小鬼を全力でかわしながら一気に近づく。 が、出迎えはもふらの感謝の言葉ではなく、嫌らしい笑みを浮かべたふらもの頭突きであった。 サンは真後ろに吹き飛ばされながら目をぱちくりとさせ、目の前の相手がアヤカシであることに気付いて真剣な目つきで激しく翼を上下させた。 上昇、急降下、超加速、そして激突。 サン渾身の体当たりは、ふらも数体を吹き飛ばし宙に舞わしていた。 「…」 サンの後方十数メートルを、薄い桃色の迅鷹がゆっくりとした速度で追いかけている。 低空の低速飛行はかなり高度な技術が必要なのだが、迅鷹の花月は超高位開拓者である水鏡絵梨乃(ia0191)の朋友にふさわしい実力を発揮して複雑な地形も大量のアヤカシも軽々と回避していく。 それだけではない。 花月は、サンの背後から石を投げ、あるいは槍を繰り出そうとしていた小鬼の腕に深手を負わせて戦闘能力を失わせていく。 調子よく攻め続けるサンに視線を向けながら、予想以上の強さと予想外の猪突猛進ぶりに感心半分困惑半分の感情を抱えアヤカシに対処していく。 具体的には、花月達の速度についていけず無防備な背中をさらしてしまった小鬼を後頭部から襲って砕き、珍しく知恵を働かせて隊列を組んで向かってくるアヤカシから距離をとることで勢いを逸らし、戻ってきたサンが背後から襲えるだけの隙を作り出す。 坂の出口を2人に抑えられ、頭上からは2羽の迅鷹に蹂躙されるアヤカシ達は、進むも退くも出来ず戦力をすり減らしていった。 ●奇手・組み体操ふらも 目つきの悪い、内面はさらにろくでもないもふらさまもどきが坂に向かわず崖に向かう。 組み体操の要領で自らが足場になることで同属を上に押し上げていき、坂ではなく崖から敵地へ攻め入るつもりだった。 崖上で行えるであろう殺戮を想像し、もふらさま風の顔に殺戮の期待による歪んだ笑みをうかべるふらも達。 だが崖の上に足をかけた瞬間、無造作に繰り出された犬の前足、というか肉球が頂点のふらもを崖とは反対方向に押した。 不安定な足場で耐えることなどできるはずもなく、凶悪な表情を浮かべたふらもがころころと組み体操の上を転がり地面にまで落下する。 「わん」 馬鹿でしょお前等、という視線を向けながら桃は淡々と積み木崩しならぬふらも崩しを繰り返していく。 打ち所の悪かったふらもは一撃で、幸運にも着地に成功したふらもでも数度繰り返せば体を保っていられなくなり単なる瘴気に戻っていく。 ふらもが2手に分かれて2つの組み体操を行ったときも、桃は見事な分身を披露して同時に2つの組み体操を崩す。 そんな真剣ではあるが滑稽でもある光景を、1人の猫又が崖の上から眺めていた。 「まったく、今頃はあの小娘、美味いものを食っておるのじゃろ」 演技無しの笑顔を浮かべる蓮神音(ib2662)を顔を思い起こし、黒く美しい毛並みの猫又が優雅にため息をつく。 「まぁ、下僕にもたまには休みをやらんといかんからの。主を務めるのも大変じゃ」 猫又くれおぱとら。 形の上では彼女?が朋友だが、くれおぱとらの意識としては自らが主で開拓者が僕である。 「わふ」 不毛な組み体操を繰り返すふらもの相手をしながら、忍犬が「どうする?」と雰囲気で問いかけてくる。 「まぁ見ておれ」 徐々に朋友達が押し込んではいるものの、決着には時間がかかりそうな坂に一瞬視線をやってから、くれおぱとらはきらりと緑の瞳を光らせた。 ほぼ無音で崖の縁に駆け寄り、もこもこしたふらもを軽く蹴りつけながら、組み体操ふらもを足場にして崖下まで到達する。 近くの池から活きの良すぎる魚が飛び出して食いつこうとするが、そんな見え見えの攻撃では猫又の影に触れることすらできず、地面に落ちて動きがとれなくなる。 「何ぃっ?」 小鬼にしては身のこなしが洗練されているアヤカシが驚愕の声をあげる。 背後で指揮をとる鬼に警告しようとするが、猫又の方が圧倒的に素早い。 「妾の瞳を見るのじゃ!」 アヤカシよりも妖しく瞳がきらめき、小鬼の貧弱な精神をぶち抜いてまともな行動をとれなくさせる。 「燃え尽きるがよい!」 口元に生じさせた黒い炎塊に気合いの声を叩き付け、獰猛な黒炎としてアヤカシの指揮官に叩き付ける。 鬼が悲鳴をあげると、それまで拙いながらも部隊として動いていたアヤカシ達の動きが、目に見えて乱れてただの多数のアヤカシに堕していった。 ●止めの2矢 生と死が交叉する坂を、金色赤眼の管狐が四肢を使って下っていた。 管狐の名は招雷鈴。 からす(ia6525)の朋友である招雷鈴が、いつの間にか体が実体化していたことに戸惑ったのは一瞬だけだった。 普段なら膳を要求するなり酒を調達するなりしたかもしれないが、アヤカシの気配を感じたからにはするのはただ1つだ。 見敵必殺。 アヤカシにかける情けなど存在しない。 坂を下りた招雷鈴は高らかに開戦を宣言する。 「サア! 我ガ名我ガ姿ヲその眼ニ焼き付け派手ニ散ルガイイ! 我ガ名は招雷鈴!」 隠密行動のため使用していた擬態が解け、鮮やかな金の毛皮がきらめく。 そして、大地と水平に雷が迸り、赤い瞳を向けられたアヤカシが倒れることすら許されずにただの瘴気に戻っていく。 「弱イ弱イ弱過ギルワ! その程度ノ動きデ攻め入る等ト片腹大激痛!」 素早く移動し次々にアヤカシを討ち取りながら罵倒する。 しかし招雷鈴は内心眉をしかめていた。 敵は招雷鈴にとっては弱いが予想以上に数が多い。 負けることは絶対にあり得ないが、このままでは追撃戦に膨大な時間が必要になるかもしれなかった。 招雷鈴が蹂躙のためのヒット&アウェイから足止めのための戦法に切り替えようとしたとき、頭上から静かであるにも関わらず恐ろしく重い音が響く。 「ヌウ…」 アヤカシの軍において下士官を務めていた小鬼をことごとく潰しながら、招雷鈴は少しだけ悔しげな声をもらす。 「〆ハ譲るゾ」 その言葉が届いたのかどうかは分からないが、鷲獅鳥ケイトの獰猛なうなり声が戦場に響き渡り、声を追い越す勢いで鍛え抜かれた巨体がアヤカシの隊列に突入した。 指揮官に重傷を負わされ、下士官相当のアヤカシのほとんどを失った隊列は、ほとんど隊列の意味をなさないほど乱れきっていた。 ぶつかった小鬼やふらもが体を回転させながら宙に舞い、次々に池に落ちては消えていく。 水面から立ち上る瘴気が多いのは、水面下に潜む魚型アヤカシまでついでに倒してしまったからだろうか。 敵のあまりの脆さに不満を感じながらも、ケイトは決して攻撃の手を緩めない。 視線を向けただけで後退していく近くのアヤカシはひとまず放置し、後方で武器を捨て逃げようとした小鬼達に真空刃を飛ばして確実に処理していく。 大活躍しつつも退屈し始めたケイトは、アヤカシを叱咤する聞き覚えのない声に気付き獰猛な唸りをあげる。 「固まれ! 一丸となって1匹ずつ殺すのだ!」 指揮官である鬼は戦慣れしているようで、悲鳴をかみ殺しつつ的確な命令を下し戦力を再編し、1つの部隊として朋友達に対しようとしていた。 しかし全ては遅すぎた。 「貴様らもここまでだ。覚悟!」 坂からアヤカシを駆逐した翠蓮が、しづると共に現れ。 「その首もらった!」 猫又が護衛のアヤカシを燃やしていき。 「わふ」 ふらもが組み体操を行えないほど数を減らしたのを確認した桃が坂を下り始め。 サンと花月が逃げようとした少数のアヤカシを追い、確実に倒していく。 「行ケ!」 雷と共に招雷鈴が促すと、ケイトは一息でアヤカシ指揮官との距離の0にし、反撃どころか反応すら許さず爪で引きちぎる。 残りのアヤカシが掃討されるのに、それから1分もかからなかった。 ●おかえり 厩舎に戻った花月は、華やかな柄の器に載った羊羹を何の疑問もなく食してから、援護に来なかった絵梨乃の一撃をくれてやるため料亭に向かった。 羊羹の味は非常に花月好みだったので、一応は加減をするつもりらしい。 対照的な行動をとるのはサンとその主だ。 「ありがと…♪」 フェルルがそっと抱きかかえると、サンは誇らしさと喜びがに溢れた顔で、甘えるような鳴き声をあげつつ主人にじゃれる。 「お疲れ様。ゆっくり休むといい」 「ウム」 招雷鈴とからすは最低限の言葉をかわすと、それぞれの持ち場に戻る。 管狐は主に渡された薫り高い杯を干すと、疲れを癒すためそっと眼を閉じる。 「桃〜お待たせ〜♪ ずいぶんと頑張っちゃったのね」 「わん」 なんのことかなととぼける桃を、桜はもふもふしてやる。 「はぁ、帰ったらとりあえずお風呂ね」 「わん♪」 すまし顔とは裏腹に、尻尾は機嫌良く振られていた。 「ちょっ、ま、シヅ大丈夫っさー!?」 引っ込み思案な人妖が自ら戦いに出たのに驚くやら心配するやらで、針野はしづるの無事を確認しても混乱しかけていた。 しづるはぎゅっと主に抱きつくと、戦闘が終わっても残っていた緊張が、ようやく体から抜けていくのを感じた。 「えへ。シヅ、おなかすいちゃった」 見上げたしづるの瞳には、ほんの少しだけ涙が浮かんでいた。 それぞれ朋友と主が絆を深めているとき、猫又は我が道を行き拝借していた座布団の上で体を丸めていた。 「ふふふ。これでどちらが主人か、あやつも…」 眠りに落ちる寸前、くれおぱとらは己の頭を優しく撫でる手を感じた気がした。 |