肌色写生大会。全年齢版
マスター名:馬車猪
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/05/19 02:18



■開拓者活動絵巻
1

ちぜ






1

■オープニング本文

●秘密の屋敷にて
「御慈悲をっ」
 身なりの良い、顔立ちだけならかなりの美貌を誇る青年が、恐ろしく手のかかった絨毯に土下座して身も世もなく泣き叫ぶ。
「貴様の罪は複数ある」
 天儀の、ジルベリアの、アル=カマルの貴族達が、円卓についたまま冷たい視線を向けていた。
「ひとつはメイドに無理矢理迫ったこと」
「論外じゃな」
「女が欲しいなら己の甲斐性でものにせい」
 一角の人物達が呆れながらコメントする。
「ひとつは雑な証拠隠滅」
「その程度のこともこなせぬようでは地位を保つことさえできぬわ」
「後継の座から外すよう貴公の一族には伝えておこう」
 己が持つ強大な権力を隠しもせず、無造作に加害者の処置を決定する。
「最大の理由は」
「我等の心の聖地でことにおよぼうとしたことだ!」
 並みのアヤカシなら泣いて逃げ出すレベルの鬼気が大広間を満たす。
「分かっておらぬ。分かっておらぬぞ!」
「ここは手折る場所ではないというのが分からぬのか!」
「萌えメイドさんノータッチっちゅーのは一般常識だろうが!」
「いやノータッチなのはここでだけじゃね?」
「よろしいならば決闘だ」
 男達は駄目人間としての本性を露わにする。
 自業自得で貴族としての将来を終わらせた青年は、失意のあまりうめき声を上げることすらできなくなっていた。
「どうして私がこんなところにいるのでしょう?」
 そんな混沌の場所に無理矢理連れ込まれた開拓者ギルド係員は、オブザーバー席で虚ろな目をしていた。
「うむ。早速本題に入ろう」
 屈強な衛兵に連れ出される青年を完全に無視し、一同の代表者である老人が真面目な顔で説明する。
「次の定例会で露出度高めの写生大会をすることになっていてな」
 とある貴族が所有する庭園で、写生する側も写生される側も薄着という珍奇なイベントが行われるらしい。
 貴族の誇りにかけて健全らしいのだが、先程いた男が不祥事を起こしたため、モデルさん達が参加を辞退してしまったのだ。
「反省を表すために中止というのも考えたのだが」
「ジルベリアやアル=カマルからわざわざ来てくださった方もおられてな。その方達には楽しんでいただきたいのよ」
 実際の参加者は珍しい物好きの穏和な老貴族達と、色を知るには早すぎる貴族階級の少年少女のみになる。
「とまあそういう訳で、モデルの募集をお願いしたい。写生する側に回っても構わんし、温室内の模様替えをしてくれても良い。自慢の美貌や筋肉を見せつけるのもよかろう」
 イベントを盛り上げるためなら何をやってもいいらしい。
「ただ、依頼をうけた者には他言しないよう言い含めてくれ。誇りと自信をもって開催するイベントではあるが、こういうのものは大っぴらにすべきでないのでな」
 最後だけ常識人っぽく振る舞るまう男達に生暖かい視線を送りつつ、係員は依頼を受け付ける旨を伝えるのであった。


■参加者一覧
神町・桜(ia0020
10歳・女・巫
鴇ノ宮 風葉(ia0799
18歳・女・魔
エメラルド・シルフィユ(ia8476
21歳・女・志
シルフィリア・オーク(ib0350
32歳・女・騎
ネプ・ヴィンダールヴ(ib4918
15歳・男・騎
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
灯冥・律(ib6136
23歳・女・サ
にとろ(ib7839
20歳・女・泰


■リプレイ本文

●温室の罠
 エメラルド・シルフィユ(ia8476)が最初に感じたのは、夏と見紛うほどの暑さだった。
 春の暖かさに慣れていた肌に汗がにじみ、抜けるように白い肌が淡い桜色に染まる。
 それは蠱惑的に過ぎ、色を理解していなかった男児達の顔を真っ赤にさせていた。
「金は、あるところにはあるのじゃのう」
 神町・桜(ia0020)は遠い目で温室の中を見渡していた。
 温室の中には見事な泉とそれを囲むように瀟洒な東屋が設けられており、どれだけ金と人手が必要だったか考えると比喩ではなく頭が痛くなってくる。
「着替えはここかの」
 東屋の1つに入ると、中にはオーダーメイドの衣装が大量に用意されていた。
「これを、着るの?」
 凛々しいジルベリア騎士の口から、数年ぶりに弱音に近い声が漏れるのであった。

●写生大会開幕
 シルフィリア・オーク(ib0350)の、女性らしい柔らかさを保ちつつ一切無駄な肉がついていない肢体が優雅に華やかに舞う。
 その身を隠すのは胸元と下腹を覆う絹のみ。
 素晴らしい曲線を描く二の腕と両足は薄い紗で覆われているが、それは魅力を増す役には立っても隠す役には立っていない。
 眩しいほど白く、色気がしたたるほど艶やかな肢体が躍動する度に、紗を留めたアクセサリの小さな鈴が涼しげな音を立てていた。
「すごい…」
 比較的厚着の幼女が憧れの視線を向け。
「な、何これ」
 初めての感覚に悶える男児が何かを隠すようにその場に座り込む。
 開拓者を除く参加者は子供か老人であるため、モデルに不躾な視線を向ける者はほとんどいない。
 つまり、少数派問題行動を起こす者がいた。
「おおっ」
 目をぎらつかせた少年が、踊り続けるシルフィリアの足下近くに座り込もうとする。
「はいはい。春だからって動物っぽい行動しない」
 小さな手の長い指が少年の首を掴み、猫のようにつまみ上げてから放り投げる。
 薄い礼服を着崩した少年は、泉の浅い部分に落下し盛大な水しぶきをあげた。
「全く…」
 鴇ノ宮風葉(ia0799)はふんと鼻をならしてからイーゼルの前に戻る。
 立てかけられているのは油絵用のカンバスではなく水彩画だ。
 端の方には、今日初めて絵筆をとった拙さがある。
 しかし中心に近づくと筆づかいからも色づかいからも拙さが消え、描き手の世界観が見事に表現されていた。
「芸術の秋にも開放の夏にも程遠い…ねぇ」
 風葉は己の眉間を揉む。
 堂々と己の美を誇るシルフィリアには、美と艶はあっても淫靡さはない。
 それをさらに純化した風葉の絵に至っては、美はあっても欲が無い、宗教画か術発動のための陣にも見えた。
「すみません、顔をもう少しあげてください」
 筆を動かしているのは風葉だけではない。
 生真面目な顔の貴族の少女が要請すると、モデルの猫耳美形は顔を赤くしたまま少しだけ顔をあげる。
 少女はモデルの細い腰と、健康的ではあるが少ししかくびれていない己の腰を見比べ、少しだけ表情をひきつらせた。
 モデルが単に自分より美人なだけなら発奮して己を磨くのをさらに頑張るようになったかもしれない。
 だがこのモデルは、どれだけ美しくても男なのだ。
「鴇ちゃん!」
 ネプ・ヴィンダールヴ(ib4918)は、見た目は良くても体力の消耗が激しい姿勢を維持したまま歓声をあげた。
「もう描き上がったのですか?」
 苦しい姿勢でも髪1本すら動かさない。
 小柄だろうと色っぽかろうともう男でもいいんじゃないかなと思われようと、ネプの身体能力は非常に高くモデルとしては非常に向いていた。
「一枚はね」
 風葉は会場に不埒者がいないことを確認してから、貴族の少女が描いたネプの絵を眺める。
「んー」
 シルフィリアと同傾向の、薄い布を多用したドレスをまとった狐獣人。
 教養を身につけるために努力を重ねているようで、歳を考えれば出来は良い。
「とりあえず深呼吸3回」
「は、はい?」
 少女は戸惑い混乱しつつ、風葉の言葉に圧されるようにして何度も呼吸を繰り返す。
「あんたまで頭の中を春にしないで良いでしょ」
「春…。発情の季節、なのです?」
 ネプは、風葉と少女に視線を向け首をかくりとかしげた。
 顔を真っ赤にする少女を横目で見つつ、風葉は唇の端を器用に釣り上げる。
「ネプ君、もうちょっとポーズを頑張っても良いと思うわよ?」
 絵描きに了解を得てから、風葉はネプが持ち込んでいた、無骨ではあるが獰猛な機能美を持つ大槍を構えさせる。
 無骨な槍を振り上げる絶世の美人という構図は非常に華やかであり、少女だけでなく老婦人や少年達も集まってきて一斉に筆を動かし始める。
 話は変わるが、見栄え最優先のポーズは基本的に体力を使う。己の身長よりずっと大きな武器を構えるならなおさらだ。
「鴇ちゃん、これ、厳しいのです…」
 飼い主を見上げる子犬の目で許しを乞うが、ネプと同じ衣装をきっちりと、つまり敢えて色気を感じさせない形で着こなす風葉は反省しなさいと目だけで告げるのであった。

●自由な巫女さんと戦乙女
 桜とエメラルドが東屋から現れたとき、会場全体が静まりかえり、数秒の後に大きな拍手が沸き起こった。
「視線が、多すぎる」
 エメラルドは全身に突き刺さる視線を感じ、特に視線の集中する己の胸を隠そうとする。
 膂力と精密さを兼ね備えてはいるがほっそりとした腕では、形の良い大きな双球を隠すことはできない。
 ニンフをモチーフにした可憐ではあるが露出度の高い衣装を身にまとっているからなおさらだ。
「着替える前と露出度は変わっていないような?」
 こちらは布地の量では戦装束でもある巫女服とあまり変わりがないものの、腋が見えるという恐るべきアレンジを施された衣装をまとった桜が冷静な顔でコメントしていた。
「あれは私の家系に伝わる戦装束だから良いのです!」
 凛々しい戦乙女が涙目に抗議する様は、奇妙な微笑ましさを感じさせる。
 桜が集まってきた幼児達の面倒を見ていると、暑さに我慢できなくなり額に浮かんだ汗を白い布でぬぐった。
「何やら暑くなってきたのぅ」
「まあ、確かに」
 精神力で羞恥心をなんとか克服したエメラルドが、まだ少し赤い顔でうなずく。
「古の妖精達の如き、美しき戯れの場へようこそ、ってね。こちらは準備が出来たわよ」
 泉の中からシルフィリアが語りかけてくる。
「おぬしの謀か」
 ニンフをモチーフにした水着を用意したのも、水着でないと過ごしにくいレベルの温度設定にしたのも、シルフィリアの手配の結果だ。
「ま、よかろう。お主達、服装を変えても良いかの?」
 桜が脇の切れ込みから既に着込んでいる水着を見せると、純情な少年達は顔を赤くしながらうなずいた。
「よし。ではぬしも付き合え」
「ちょっ、ま、まままってください! 脱がさないで!」
 するりと水着姿になった桜が、エメラルドのパーカーとパレオ部分を取り去ろうと手を伸ばす。
 エメラルドは必死に防戦するが、胸を隠すために片手が塞がっているので有効な防御が行えない。
「早く着替えないと水で張り付いて色っぽくなってしまうわよ」
 シルフィリアがぱしゃぱしゃと水をかけると、エメラルドの肌に半透明の薄絹が張り付き健康的な白い肌を艶やかに彩る。
「ぼ、暴力はんたーい!」
 涙目で抗議するエメラルドに大勢の少年が撃沈され、それぞれの故国に戻った後も悶々とする日々を送ることになるのだった。

●よい子は真似しちゃ駄目
「靴下を脱いじゃぁ駄目でしょぉっ!」
 アル=カマルから来たらしい浅黒い肌の老人が血涙を流す。
「えー」
 にとろ(ib7839)は眠たげな目に困惑と反論の意図を浮かべていた。
 服装は、パーフェクトに全裸だ。
 徹底的に手入れをしてきたのかもしれないし、手入れをしなくても無駄毛がない体質なのかもしれない。
 硝子越しの陽光を浴びて輝く肌はつるりとして、名工が丹精込めた作品のように美しく、しかし堂々とし過ぎているため色気をあまり感じさせなかった。
「否、靴下など無用。大事なのはネクタイじゃ」
「違う違うちがーうっ! 全ての基本は下着だ」
 それぞれ靴下、ネクタイ、肌着を両手に持ち、眼光鋭くにとろとの距離を詰めてくる。
「私はモデルをしてるのに…けーやく違反?」
 一見理に適っていない、しかしにとろの戦闘センスと身体能力によって優れた効果を発揮する構えをとる。
 形の良い臀部のやや上から銀の猫シッポがぴんと立ち上がり、静かに老人達を威嚇していた。
「逃がしはせぬ」
「我等の浪漫のため」
「着た上でモデルになってもらおうか!」
 血走った老人達の目には、狂気はあっても色欲はない。
 人の世で味わえる快楽のほとんど味わってきた彼等は、いまさら若い娘の色香に惑わされることなどあり得ないのだ。
「ふーっ!」
「靴下…」
「ネクタイ…」
「下着…」
 全裸の新進気鋭美少女開拓者対3人の高位貴族。
 これだけ聞けば淫靡または陰惨な展開を予想しそうだが、実際に行われているのは本人達は真剣でも客観的には非常に馬鹿らしい意地の張り合いであった。
 4人の息詰まるにらみ合いは、新たな人物の登場で強制的に中断させられる。
 灯冥・律(ib6136)が暴徒鎮圧用開拓者ギルド備品と朱書された大型両手剣の平の部分で3馬鹿を張り倒したのだ。
「少しは自重してください。お孫さんやひ孫さん方が困っているでしょう。あなたも悪ふざけに付き合わないの」
 じろりと睨むと、にとろは拗ねた猫のように身を翻す。
「いや、別に悪ふざけでは」
「我等は常に本気だ」
「うむ」
 3人の老人達は、それぞれの一族に属する子供達がいるのも忘れて駄目人間の本性を現していた。
「そこに座りなさい」
 律は緑の芝生に巨大剣を突き立て、冷たい声で命令する。
 これは洒落では済まないと判断したらしく、老人達は深い教養と重厚な人生経験を感じさせる動きで見事な正座の姿勢をとる。
 自然と律を見上げる形になる目の前には、股間から腰までの距離が極端に短い、いわゆるローライズのセパレート水着があった。
 世の女性達が嫉妬で狂いそうになるレベルのしっとり肌が激しく自己主張している。
 が、老人達の目には落胆の色しかなかった。
「惜しいな」
「うむ」
「形は良いのだがな。適度に隠れていないとそそるものがない」
 本人達は内緒話のつもりだったが、志体を持ち鍛錬を怠らない律が聞き逃すことはありえない。
 若い男なら歯ぎしりするほど羨ましい場所での説教は、日が暮れるまで続いた。

●森のくまさん?
 美と色気と変態紳士が闊歩する混沌の会場で、唯一穏やかな雰囲気に満たされた場所があった。
 金糸で金と大きく書かれた赤い前掛けを身にまとい、成人男性でも持ち上げるのが精一杯なはずの大きなまさかりを軽々と構え、妙にリアルな熊着ぐるみにまたがりリィムナ・ピサレット(ib5201)が登場する。
 天儀に古くから伝わる伝説の再現に、母親や乳母に付き添われて参加した幼児達が目を輝かせる。
 大胆に肌を晒すのは元気さの現れであり、母親達からの視線も暖かかった。
「いっくよー!」
 リィムナがくまさんの背から飛び降り互いに向かい合う。
 それは子供達が知る話の内容そのものの光景であり、誰からともなくわっと歓声が上がった。
 コミカルな、しかし実際には見た目優先で非常に疲れる動きでくまさんが前足を繰り出してくる。
「とうっ!」
 それをリィムナが軽やかに回避し、むんと力を込めてまさかりを振り上げる。
 その際に全く隠されていない臀部と尻えくぼが見えてしまい、くまさんの中の人は紳士的に目を逸らしてしまった。
「すきありっ!」
 まさかりはフェイント。
 すもうの体勢で組み付いたのもフェイント。
 本命は、鋭く繰り出された金的であった。
 くまさんは股間を押さえ、しかし必死に何でもないことを幼児達にアピールしつつ母親の1人の伺いの視線を向けた。
「あれ?」
 了解を得たくまさんはひょいとリィムナを抱え上げ、しつけのためのおしりペンペンを開始する。
 金的の恐ろしさを分かっていない幼児達に問答無用で理解させる、すばらしく実践的な教育であった。
「お手柔らかに…ぐすん」
 テンションがあがってやらかしてしまったリィムナは、涙目になりながらも教育的指導を受け入れるのであった。

●平和
「なんだか氏族だの国だのと日ごろ争っているのが嘘に思えますね」
 出身や種族、国、年齢に関係なく集められた人々を改めて見て、律は切ないため息をつく。
 この集まりは例外中の例外の存在であることは分かっているが、この光景を見ると夢を見てしまうのだ。
「って、何をしているのですか」
 律の視線の先では、うさぎ飛びの姿勢から足をやや開き、かかとは地面につけ、手はひざへ持っていった姿勢で体の力を抜いているにとろの姿があった。
「きゅうけいー」
 モデル業は非常に体力を使う。
 人目につかない場所で、にとろは全力で体力回復中だった。
 写生大会はそれ以降トラブルが起きることなく深夜まで続き、好評のうちに幕を閉じた。