都はずれで宴会を!?
マスター名:浅野 悠希
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/12/29 18:09



■オープニング本文

年末年始の醍醐味と言えば、宴会が出来ること!
クリスマスという華やかな祭りから始まり、懇意にしていた友人たちとの忘年会、新年会と何度開いても飽きない宴。
集まる人が違うと、それだけ雰囲気の違った宴になることでしょう。
けれども、ここに1つ寂しい店がありました。
都のはずれ、人通りの少ないところで店を構えるのはご夫婦が趣味で始めた飲食店。
味は悪くないのですがとびきり良いということもなく、立地条件も相まってこの時期になっても予約は埋まらず……
普段はご近所の方が来店されるので収益もありますが、何かと入り用なこの時期は家で宴を開くのだと来店してくれる様子がありません。
とは言え、店を空けて街の中心にまで宣伝しに行く時間も味への自信もなく困り果てているようです。
お店の規模は20人そこそこも入れば満席の小さな店内。
見ているこっちが楽しくなるくらいの宴を開いてくれるお客様か、こんな店を盛り上げてくれるお手伝いを募集しているようです。とは言っても、元の収入が少ないため謝礼はまかない程度しか出せないそうですが……。
このままでは、2人きりでゆっくりとした年末を過ごした代わりに収入のない苦しい新年を迎えかねません。
まだ友人との宴を開く場所を決めていない方がいれば、ご協力頂けないでしょうか?


■参加者一覧
天津疾也(ia0019
20歳・男・志
犬神・彼方(ia0218
25歳・女・陰
明智珠輝(ia0649
24歳・男・志
王禄丸(ia1236
34歳・男・シ
嵩山 薫(ia1747
33歳・女・泰
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
神鷹 弦一郎(ia5349
24歳・男・弓
難波江 紅葉(ia6029
22歳・女・巫


■リプレイ本文

 年末と言えば、どこも賑わっているもの。飲食店ともなれば大忙しのこの時期に寂しい店があることを知った8人は、思い思いの手法で店を盛り上げるべく策を練ってやって来た。立地条件も悪く趣味で始めた店とは言え、昼飯時すら閑古鳥の鳴く店は商家の息子である天津疾也(ia0019)にとっては特に物悲しいものに見えたのだろう。
「せっかくの年の暮れやのに、寂しい店内では決まりもつけへんな。やっぱパーっとやってパーっと終りを迎えへんと」
 うんうんと力強く頷きながら、客引きをどの辺りで行うか打ち合わせを始める。しかし、今日の目玉が何かわからなければ裏通りまで客を引っ張って来ることも出来ない。難波江 紅葉(ia6029)も料理を担当するようで、店主に今ある材料を確認しつつ市場で仕入れるものを決めているようだ。
「料理の基本は食材からっていうからねぇ。良い物を予算内で仕入れてこようか‥‥他に要るものはあるかい?」
 その言葉に、犬神・彼方(ia0218)は店を盛り上げるためでは無く、自分が食べたい物を真剣に考え始めた。
「料理‥‥そぉいや鍋料理あれば食いたいな鍋料理ー牛、折角だぁし作ってよー鍋ーなぁべー鍋料理たべたーい」
 まるで子供のようにリクエストされ、牛と呼ばれた王禄丸(ia1236)は溜め息を吐く。どこかで言われる予感はしていたのだろう、懐から小さな包みを取り出した。
「これも鍋の一種だろう。野菜でも肉でも何にでも合うから、どんな材料でも合わせられる万能香辛料だ」
 包まれていたのは茶色い粉末で、様々な漢方薬を混ぜたような独特の匂いに、嵩山 薫(ia1747)は驚いた顔をする。
「小豆蒄を用いた煮込み汁、知っていたの?」
 この地では大変珍しいとされている料理を、自分以外に知っている人がいるだなんて。けれども、それを見聞きしたことのない人にとっては一体何の粉かわからない。ルオウ(ia2445)は興味津々といった様子で、その不思議な粉の香りを嗅ぐ。
「とりあえず、どんな料理になるのか食わせて欲しいかな。宣伝する材料にもなると思うし」
 屈託無く笑う様子はそれを口実に味見をしたいようにも見え、明智珠輝(ia0649)もそれに便乗する。
「そうですねぇ、看板メニューがあれば客寄せもしやすいですし、私もチラシが作りやすいですね。どんな料理なんですか?」
「さる店に伝わる秘伝の薬膳料理よ。寒い季節にはきっと美味しいわよ?」
 嬉しそうに出来上がりを待つ2人を微笑ましく眺めながら、神鷹 弦一郎(ia5349)は店の入り口からゆったりと店内を見回す。
(‥‥うん、飾り付けがいがありそうだ)
 こうして各々が準備を始め、夕刻となった。表通りではすでに宴が始まっている店もあり、近所の家からも美味しそうな匂いが漂ってくる。さて、肝心の裏通りの店はと言うと――。
「おう、ここかい? 異国の薬膳料理を食わせてくれる店ってのは」
 世にも珍しい薬膳料理が食べられる。そんな客引きの言葉と珠輝が描いた「本日・今宵限りの世にも奇怪な宴が! 見るもよし、加わるもよし! 宴会はこちらのお店で!」という怪しい触れ込みに酒を喰らう王禄丸の絵が付いたチラシは街を歩く人の興味をそそり、外から店内を窺う人が出るほどの繁盛っぷり。いつもは近所の人が家族で立ち寄ってくれる程度なので店の半分も埋まれば良い方なのに、予想以上のたくさんの客に店主は驚くばかりだ。
「さぁって宴会だ宴会だ! 盛り上げっぞー!」
 満席となり、客の食も進んだところを見計らって彼方が1番に名乗りを上げる。陰陽師らしく式を出すつもりだが、見慣れぬ一般人には不思議な物に見えるだろう。
「‥‥千変万化の我が式をご覧あれ、ってぇな!」
 かけ声と共に手から飛び出したのは黒い犬。細い客席を走るうちに猫、狐と姿を変え、もう1度彼方の元へ戻って来たときには蛇の姿をしており、コロコロと変わる式に客も大盛り上がりだ。その様子を一目見ようと入り口や小窓から覗き混んでいる人にニヤリと笑みを浮かべて忠告する。
「今度ぉは、そっち行くぞー。危ねぇかも知れねぇなぁ」
 一体次は何に化けるのかと式が通る道を作って待っていると、ヘビは虎へと化け裏通りには悲鳴がこだまする。色々な動物を模した式を順に出して変化しているように見せていたのだが、それに気がつかず肉食獣に襲われると思ったのだろう。腰を抜かして座り込む者も数名出たほどだ。
 そこへ謝りながら酒を運んでくる紅葉は、料理の手伝いをしながら少し呑んでいたのか上機嫌な様子で中に入れない客に立ち呑みを勧め始める。
「酒を呑んで楽しめればそれでいいさね。あとは騒げれば尚更ってとこかねぇ」
 奇怪な宴と聞いておっかなびっくり覗き混んでいた客も、宴といえばそうに違いないと笑いながら酒と簡単なつまみを注文し始める。店の外なのであまり騒ぐことは出来ないだろうが、先ほどのように芸を楽しみながら呑むのも晴れた空の下なら格別だろう。
「月を見ながら冷えた酒を呑む。これほどの極楽はないねぇ」
 この季節は熱燗も捨てがたいねぇと酒が呑めれば幸せだと言いたげに赤から藍色に染まる空を見上げる。きっと今日も、綺麗な月を見せてくれるに違いない。中も外も問わず色々な卓を見てまわって一緒に酒を呑む紅葉は、店を盛り上げる傍らで自身も楽しんでいるようだ。
 料理は趣味であり得意とする王禄丸にとって、今回の依頼は打って付けと言わんばかりに厨房に籠もりっきりだ。とは言え、狭い店内のカウンター前にあるような調理スペースは大柄な彼にとって些か狭いようで、出入りするほうが大変なのかもしれない。買い出しのときも方々に走り回ってくれたルオウが、率先して配膳を行ってくれるため、王禄丸も料理に専念出来ていた。
「ニィちゃん、そのドロドロしたのが薬膳料理か? 香りはあれだが、色味が不気味だねぇ」
 一般家庭で扱う材料と道具、そこから人を惹きつける料理を簡単に作り出すために特殊な香辛料を用意していたが、見慣れぬ人にとっては確かに汁気の多い煮物をご飯にかけているようにしか見えない。けれども、野菜の煮物にしては煮汁は透き通ってない。茶色くトロミがあり、もう一方の小鍋には赤茶色く見つめていると目が潤んできそうなくらい刺激物がたっぷり入っていることを感じさせる怪しげな煮物、もしくは鍋。異国では「かれえ」だか「かりい」だかと言う名で呼ばれているらしいが、鰈なのか雁なのか。全く持って魚か鳥かよく分からない名前よりも、その色味と形状に問題があった。
 野菜や肉と中身は普通なのだが、色鮮やかでないため食欲はそそらない。けれども、不思議なことにこの薬膳料理は香りが特徴的で、その匂いを嗅ぐだけでご飯が進むのだ。2色用意されているのも、ごく普通の辛味の物には福神漬けとらっきょうを添えて、トラウマを引き起こしかねない激辛の物には添え物など甘えたことを抜かすなと言わんばかりにドンと単品で出している。
 店の入り口に貼った「辛党来れ!」のチラシのおかげか、興味を持っても中々挑戦する勇気が沸かないのか、客のほとんどは普通の物を頼んでいる。けれども、酔いがまわればノリで頼んでしまう人が出るかもしれない。
 そういう惨事も宴の華になると考えたのか、店内にも大きく「激辛薬膳鍋、挑戦者求ム!」と大きく張り出し、横にはおまけのように「普通の辛さもあるよ」と小さな文字で書かれてあった。
 先ほど芸をやっていた彼方も店内に充満する香りに辛抱たまらず、少し休憩だと小さな器で食べている。
「‥‥うん、まぁ、鍋料理なぁら何でも好きだけど何故これやった」
 この料理を良く知っている彼方は、危うくこれが依頼であるということも忘れて食べに走るところだった。おかわりしたいのを堪えて食べ終わったら手伝いに戻らなくてはと心の中で自分に言い聞かせて、最後の1口を噛みしめる。
 注文を取っているのは主に疾也。やはり商家の育ちで接客に対する計算が速いのか、盛り上がってきた波の勢いを盛下げないよう手早く行っている。客引きの際も、店の規模を考えて少人数の、しかも飲んで憂さ晴らしをしたそうな‥‥所謂お金を落としてくれそうな客ばかりを捕まえてきた。こればかりは、長年育ってきた環境による特技なので他人が簡単に真似することは出来ないだろう。
 邪魔にならないよう客席を見て回り、酒や食べ物が無くなりそうな卓には味の感想を聞きつつ次の注文を取ったりと、商売が絡むと本領発揮するようだ。
 そうして新たな注文が入った席には、割烹着を着た珠輝がお酌にまわっている。
「飲み狂ってください、ご主人様‥‥!」
 事前に店主から盛り上げるためには客と一緒に飲んでくれても構わないと聞いているが、今日はお手伝いをする側。勧めてくれた客には口移しならばと冗談を交えつつ、通じなさそうな相手には軽くお付き合いしつつ、客によって接客方法を変えて盛り上げ役に徹していた。
 酒は人と人とを繋ぐ潤滑油。そんな信念のある珠輝は存分に潤滑油を注ぎまくり、いつしか隣同士の卓が意気投合して盛り上がる様子も見えた。
 そうして、紅葉や珠輝が仕事中にも関わらず酒を飲んでいる姿を見れば、ルオウも飲みたくなってきたのだろう。カウンターに置いて王禄丸が注文の合間に飲んでいた酒を拝借し、一緒に飲もうとしたのだが薫に取り上げられてしまった。
「ダメよ。貴方にはまだ早いでしょう?」
「えー? もう子供じゃねえよー!」
 ぶつぶつ文句を言っているが、年の近い娘がいる薫には見過ごせないものだったのだろう。‥‥いや、もしかしたら自分が飲みたいので止めたのだろうか。手伝いには酒好きが多く集まっているので、仕事を忘れて飲む人が出なければ良いが。
 そうして、1杯煽った薫による宴会芸が始まった。接客をしていた疾也や珠輝、そしてルオウや王禄丸に加え客までも巻き込み、お手玉を同時に投げてもらう。長槍を構えているが、女性に何が出来ると高をくくっている客を驚かせるように連々打を使ってお手玉を貫いたり打ち落としたりと、その鮮やかさに歓声が上がる。
「私も所詮は無粋な武術家。宴会芸になりそうな技なんて武芸ぐらいなものね」
 外では優雅に紅葉が舞って見せ、中でも彼方の演舞が始まる。中も外も上機嫌な客で賑わう様子を見て、弦一郎は店主と静かに飲んでいた。最初に店内を飾りつけていたときは皆の意見を取り入れすぎて素晴らしく混沌となり店主を心配させてしまったようだが、なんとか微調整も完了してこうして盛り上げることに成功した。
 皆が料理に、接客にとにこやかに手伝ってくれているのに対し、弦一郎は物静かに見守っているものだから、このメンバーのリーダーとでも勘違いされてしまったのか、店主はひっきりなしに感謝の言葉と共に店をかまえた思い出話などを語ってくれる。
 訂正は、この仕事が終わってからにしよう。そう思いながら弦一郎は店主の酒に付き合い、夜遅くまで店が賑わう様子を店主は幸せそうに見つめているのだった。