【希儀】闇色の狐
マスター名:朝臣 あむ
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/11/28 02:36



■オープニング本文

 深い森の中。闇に紛れるようにして歩くのは、開拓者ギルドから派遣された天元 征四郎(iz0001)だ。
 希儀の北西部に向かった先遣隊が消息を絶って丸2日。
 何らかの方法で連絡を取る事も可能である筈の彼等が、何故連絡を寄越さないのか。もしかしたら連絡出来ない何かが起きたのか。
 そう判断し、開拓者ギルドは開拓者等に依頼を出した。
 但し、詳細は一切不明。
 わかっているのは、彼等が希儀北西部へ向かったという事と、其処に狐の縄張りがあるという事だけだ。

●2日前
 北西部で狐の群と遭遇したという報告が入っている。至急その事について調査して欲しい。
 こんな依頼が。開拓者ギルドから出された。
 確か報告では狐の縄張りに足を踏み入れた開拓者が、彼等を傷付けない為に撤退を謀ったとか。
「縄張りの存在が分かってるんだから態々調べる事もないだろうに。上は何を気にしてるんだか」
 そう零したのは今回の依頼に参加した開拓者、東吾(とうご)だ。彼の開拓者としての経験は浅くない。
 寧ろ、この中では古参の部類に入る程。
 その彼に今回同行する別の開拓者が口を開く。
「この地に関する資料が見つかったらしい」
「資料?」
「文字は解読中らしいが、狐と狼が描かれていたそうだ。そして、その双方は追い駆けっこをしている……そんな風に見えるらしいぞ」
 狐と狼の追い駆けっこ。
 何とも微笑ましい表現だが、そんな微笑ましい物を態々資料として残すだろうか。
 訝しげに眉を寄せる東吾を他所に、彼等は更に奥へと進んでゆく。
 そして報告にあった北東部・廃墟。
 其処に到達した彼等は、静まり返るその場の雰囲気に息を呑んだ。
「……何か、おかしくないか」
 直感、とでも言うのだろうか。
 其処彼処から見られている気配はあるのだが、生き物の姿が確認できない。
 まるで監視されているような居心地の悪さに、誰もがこの場を離れたいと思い始める。
 しかし。それでは意味がない。
「狐の存在を確認しよう。可能なら群を統率している存在の確認もした方が良いな」
「殺傷は出来る限り避けた方が良いんだろう?」
 東吾の問いに、彼等を統率する立場の男、平治(へいじ)が頷く。それを受け、彼等は廃墟の捜索を開始したのだが――
「う、うわあああああ!」
 突如響いた声に、東吾と平治が駆け出す。
 そうして瓦礫の向こう側に居るであろう仲間の元に飛び込んだ。
「大丈夫か!」
「如何した!」
 東吾と平治は直ぐに状況を把握した。
 踏み込み過ぎないよう距離を取り、己が武器に手を伸ばす。
 そんな彼等の前に在るのは、首を失った人間の亡骸。ドクドクと溢れる血は、彼がつい先程まで生きていた事を物語る。
「……、……まさか、なんで……」
 悲鳴が届いてからそんなに経っていない。
 ほぼ一瞬で首をもぎ取ったというのだろうか。否、此れはもぎ取ったというよりも、
「食われたのか」
 平治の声に東吾が息を呑む。
 此処は狐の縄張り。だが狐達が其処まで獰猛だと言う報告は受けていない。
 ならば他に何か居ると言うことなのだろうか。
「東吾、注意しろ。コイツを殺った奴は必ず何処かに潜んでる。存在を確認次第報告に戻るぞ」
「……ああ、わかって――平治、前!」
「っ、――ッ!」
 一瞬の出来事だった。
 物陰から飛び出してきた黒い影が、平治の頭を奪った。それこそ、寸分の狂いもなく、頭だけを見事に。
「あ……ああ……」
 目の前で倒れる平治だったモノ。それを見ながら、ジリジリと東吾の足が下がる。
 そしてそんな彼をジッと見詰める存在があった。
「……狐……だよ、な……」
 東吾を見据える血のように紅い瞳。そして其れを映えさせる様に風に靡く美しい黒の毛並み。
 まるで神話に登場する生き物のような狐の背には、無数の狐が控えている。
「コイツが、親玉……」
 そう口にした時、東吾はある言葉を思い出した。
 それは、
「追い駆けっこをする、狐と狼……まさか、コイツが――」
 コイツが、追われている狐?
 そう言おうとしたが言葉は出て来なかった。
 否、出せなかった。
 空に向かって飛び散る鮮血。其れを見ながら、東吾は自身の喉に喰らい付く狐を見ていた。
 美味そうに喉を鳴らし喰らい付く、その顔を……。


■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067
17歳・女・巫
北條 黯羽(ia0072
25歳・女・陰
志藤 久遠(ia0597
26歳・女・志
Lux(ia9998
23歳・男・騎
ヘルゥ・アル=マリキ(ib6684
13歳・女・砂
レト(ib6904
15歳・女・ジ


■リプレイ本文

●銀稲荷(しろがねいなり)
 進軍を続けた開拓者。その誰もが追い返された狐等の縄張り。人は其処を「銀稲荷」と名付けた。
「その銀稲荷とやらに向かった開拓者が行方不明、ね。先では追い返したってぇのに、どんなコトに引っ掛かっちまったのやら」
 呟き、表情を顰めるのは北條 黯羽(ia0072)だ。
 彼女自身、狐と言う生き物は嫌いではない。寧ろ親近感がある程。その理由に「術式をよく使う」と言うのと「自身が犬の一家に紛れている狐だから」と言うのがある。
「狐……人間だろう?」
「征兄ぃは相変わらず、そう云った話題に疎いのう」
 そう零す天元 征四郎(iz0001)に、ヘルゥ・アル=マリキ(ib6684)がチッチッと指を揺らす。その仕草にレト(ib6904)が息を吐いた。
「そう言うのは疎いって言うんじゃなくて、洒落っ気がないって言うんだ」
 この声に「違いない」と言葉を返し、ヘルゥは同行者を見回した。その足は止まる事なく前へ進んでいる。
「姉ぇ達も元気そうじゃし、またこうして皆と一緒に戦えるのは嬉しいぞ♪」
「皆さん、顔見知りなんですね……」
 柊沢 霞澄(ia0067)の声にヘルゥは元気に頷く。そしてそれに続きレトが霞澄やLux(ia9998)に挨拶すると、先を進んでいた志藤 久遠(ia0597)の足が止まった。
「地図によればこの先が銀稲荷ですね。たまたま連絡出来なくなっただけ、などと考えるのは楽観に過ぎます。とは言え、救助は諦めずに行きましょう」
 消息を絶った先遣隊。その無事を祈っているのは久遠だけではない。
「ああ。生存しているようなら連れて帰るのが仕事ってモンさね」
 黯羽の声に霞澄が胸の前で手を組んだ。その表情は愁いを帯び、悲しげだ。
「開拓者が帰ってこないとなると、単に数が多いだけでは無い気がします……他の脅威が存在するのか、よほど強力なリーダーが率いているのか……」
 何れにせよ、油断は出来ない。そう零し、霞澄が大きく息を吸った時だ。
 彼女の緊張を解す様に、少しだけ強い力で背が押される。仕草に振り返るとLuxがニッと笑んで前を見据えた。
「ほら、こういうところに住んでる人が居て、入ってきた人間に言うんですよ。「合言葉は?」「開拓者」とかなんとか?」
「それで門を開けてくれるんですか……?」
「かもしれないですよ」
 クスリと笑った霞澄にLuxは笑みを深め、前を見る。
 彼とて分っている。先遣隊の生存率の低さと、この地の危険性は。それでも肩の力は抜くに越した事はない。
 何せこれから自分等は、命を奪われる可能性のある地に足を踏み入れるのだから。
「嫌な感じが拭えんのじゃ。先遣隊にはそれなりの戦士もおったじゃろうからな」
 ヘルゥの言うように先遣隊には腕の立つ者が含まれていた。それこそ、並みの開拓者以上の。
 しかしそんな彼等が消息を絶ったと言うことは、それ相応の何かがあっての事だろう。
 そもそも、
「狐、ね。どんな奴等なんだろうね」
 単純に狐と言っても色々な種類があるだろう。それこそケモノ化したモノから、狐の姿をしたアヤカシまで様々に。
「何にしても、皆が言うように気は抜けないか」
 そうレトが呟いた時だ。
「……既に、囲まれている?」
 不確かな声を発したのは久遠だ。
 銀稲荷の近くで足を止めたのだからその可能性は高い。しかし確証が持てない。
 其処へ黯羽の声が響いた。
「行くさね」
 久遠の背を叩いて促す彼女の傍には、人魂で作りだした式が居る。つまり彼女が進める先にはまだ狐がいないと言う事だ。
「難しいことは追々考えて、じゃあ行こうか!」
 進めば疑問も解けるかもしれない。
 レトは勢い良く声を上げると、皆と共に銀稲荷に足を踏み入れた。

●現実の光景、そして……
「なん、だよ……これ……」
「レト姉ぇ」
 動揺のあまり声を上げたレトに、ヘルゥが寄り添う。
 瓦礫に近い廃墟。其処に足を踏み入れた途端、錆びた鉄の匂いがした。その匂いは開拓者として経験のある彼等なら理解している。
 だが、此処まで凄惨な光景は想像していなかった。
「酷い……」
 目を伏せた霞澄に続き、久遠も目を伏せる。
 彼等の前にあるのは胴体と首が離れた元人間だったモノの姿。それも1人や2人ではない。
 先遣隊として遣わされた人間の半数が、其処に横たわっていた。
「何するんです?」
「遺品を持ち帰ってやるさね。戻ったらギルドに渡して遺族に……ってな」
 黯羽の言葉に「成程」と頷き、Luxは周囲を見回した。
 此処は銀稲荷を少し入った場所。先程、久遠が心眼「集」を使い周辺の状況を探ってくれた。
 結果、其処彼処に生き物の気配はするが、近付いて来ない。そんな状況が続いている。
「これだけの事をして、何故襲ってこない」
 ボソリと零した声。そして足元に目を落とした時、地面を伝う血痕が見えた。
「……まだ新しいですね。生存者がいるのかもしれないですよ」
 しゃがみ、指で血痕に触れる。と、まだ僅かに湿った感触がある。
「何かを引き摺った跡もありますね。これを辿れば潜んでいる先遣隊と合流する事も?」
 血痕の傍にある重い何かを引き摺ったような跡。明らかに何かの意思で出来た痕跡だが、それを先遣隊の残した物と判別するには危険だ。
 久遠は思案気に眉を潜め、警戒の為に人魂を飛ばす黯羽を見た。
「物陰にチラホラ見えるぜぇ。だが襲う気配はない……何故だろうなぁ」
 話では縄張りに足を踏み入れると同時に襲い掛かってきたと言うではないか。では何故今は襲ってこない。
「統率するモノがいるのでしょうか……」
 無難に考えてそうだろう。
 霞澄は亡くなった人達へ僅かな祈りを捧げ、そして血痕が続く先を見た。
「皆で行ってみるのじゃ」
「そう、だな……単独行動は危険だけど、皆で警戒しながらなら大丈夫だろ」
 レトは征四郎と共に亡くなった人へ布を掛け、支えてくれていたヘルゥに礼を言って歩き出した。
 その間も、黯羽の人魂が周囲を探り、適所で久遠が心眼「集」を使って情報を合わせて行く。
 そうして銀稲荷の奥、開けた場所で彼等の足は止まった。
「――ッ」
 こうして悲鳴を呑み込むのは何度目だろう。
 光景に耐え切れない者達は目を逸らし、それを庇うように気丈な者達が前に出る。
「テウメッサか」
 零された声に皆が征四郎を見る。
「文献に残されていた絵。其処に記されていた名だ。黒き毛皮を纏う狐と、それを追う狼。狐はテウメッサ、狼はライラプスと呼ばれていたらしい」
 テウメッサとライラプス。
 耳に慣れない音だが、目の前の存在はこの音に反応するよう、僅かに動いた。
 一心不乱に喰らう人の頭から、顔を動かして。
「黒い毛に紅い目……まるでアヤカシじゃな。北側はケモノの楽園と聞いておったが、アヤカシもおるのかの?」
 ヘルゥはそう言いながら己が武器に手を伸ばす。と、その時だ。
「囲まれました!」
 久遠の叫びに皆が戦闘態勢を取った。直後、無数の狐が建物の影から姿を現す。その数はザッと……
「2……いや、30?」
 黯羽の呟きに久遠が表情を顰める。が、次の瞬間、抜刀した彼女の刃から風が放たれた。
 凄まじい勢いで狐を薙ぎに向かう風の方向は、退路を塞ぐべく狐が迫る後方だ。
「兄ぃ、姉ぇ、まずは退路の確保じゃ! 前衛の敵は私に任せるのじゃよ!」
 久遠に背を預け叫ぶヘルゥ。彼女は全体の様子を視界に据え、そして退路確保の為の指示を飛ばす。
 この声に霞澄の目が退路を捉えた。
「深追いは避けましょう……」
 そう言いながらも気になるモノが在る。それは狐と対峙する開拓者等を見守る存在――テウメッサだ。
 テウメッサは一定の距離を保ったまま動こうとしない。ただジッと彼等の動きを見ているだけだ。
「テウメッサがリーダーなのでしょうか……」
 ならば何故襲い掛かって来ない。
 まるで開拓者の実力を見定めるように動かない相手に誰もが疑問を抱く。だが、其処に気を向けてばかりもいられなかった。
「くそっ、何だってこんなっ!」
 レトは狐の爪を寸前の所で回避して息を吐く。テウメッサの傍に在る遺体。その数を合わせれば、先遣隊として派遣された全ての開拓者と数が合う。
「ちくしょー!」
 深紅に彩られた曲等が狐の胸を裂く。それでも彼女の中に湧き上がる感情は消えない。
「黯羽姉ぇ! レト姉ぇの援護を頼むのじゃ! 売られた戦を無視する程、アル=マリキの者は臆病ではないぞ!」
「了解だぁ」
 一心不乱に狐を相手にするレトは若干危ない印象がある。それをヘルゥは見越して黯羽に援護を頼んだ。
 黯羽とて気持ちはレトと同じ。
「踏み込んだ時に不戦の気構えをしたヤツも居たみたいだが、俺は優しくねぇので襲われたからには反撃して、ぶっ潰すぞ」
 密かにそう囁き、白銀に輝く呪術武器を構える。そうして紡ぎ出したのは氷の龍だ。
 空高く舞い上がった龍が、一直線に狐の群へ喰らい付いてゆく。その様子にテウメッサの耳が揺れた。
 次々と倒れて行く狐。それを見止めるように顔を動かしたテウメッサの足が動く、そう思った時、彼等は思わぬ行動を目にした。
「アイツ、逃げるのか」
 盾を構え狐の動きを牽制していたLuxの声に、誰もが呆然とする。しかしその呆然が長く続く事は無かった。

 ウォオオオオオオンッ。

 遠く響く狼の遠吠え。
 そう言えば、先の報告に狼の遠吠えがあった。そして文献にも狐を追い駆ける狼の姿が描かれている。
 これは偶然だろうか。
「狐を追い駆ける狼……もしたら、味方なのかもしれませんね……」
 確証はない。それでもテウメッサの動きを見ているとそう思ってしまう。
 霞澄の声に思案に耽る間もなく、狐はテウメッサに続くでもなく襲い掛かってくる。その数は徐々に増え、僅かに彼等が押されている感じだろうか。
「先遣隊は全滅。親玉らしきテウメッサは逃亡……でも、テウメッサという存在の確認は出来た」
 剣を狐の喉に突き入れたLuxは唸るように呟く。その表情は若干厳しい。
「撤退、しましょう……」
 霞澄の声に誰もが落胆の色を浮かべる。
 しかし、これが正しい選択だと、誰もが理解していた。そして撤退の行動をとろう。
 そう動いた時、久遠の手が征四郎の腕を掴んだ。
「どちらへ」
「遺品の回収が済んでいない」
 確かに先程は遺品の回収を行った。だがそれは敵がいなかったからだ。しかし今は違う。
「皆、同じ気持ちです。ですが征四郎殿も、今こんなところで万が一があるわけにはいかないでしょう?」
 五十鈴殿の為にも。
 そう言葉を切った久遠に征四郎の足が皆の元に戻る。それを見止め、Luxが叫んだ。
「逃走可能な経路に目印を残しておきました。そこを目指しましょう」
 此処に来るまでの間、単純に進行していた訳ではない。自身の名前をわかり辛く目印として記していた。
 それこそ記号のように。
「ではLux殿、道案内をお願いします」
「お任せを」
 言って示された方角に向かい、久遠の風が立ち塞がる狐の壁を貫く。其処へ黯羽の氷龍が重なると、狐達は一瞬怯んだように間合いを開けた。
「今じゃ!」
 接近する狐に銃口を向け、ヘルゥが叫ぶ。それに続き、レトが皆の背を護る様に殿に立つと、全体が一気に動き出した。
「まずは、あの建物を目指しましょう。その次があの角です」
 記憶している道を丁寧に説明して誘導するLux。そのお陰もあってか、一行は迷う事無く銀稲荷の入り口まで辿り着く事が出来た。
 勿論、その間にも狐の襲撃は続いている。
「大丈夫ですか……」
 殿に立つレトに、霞澄の手から放たれた精霊力が降り注ぐ。まるで辛い気持ち、それさえも拭ってくれるような暖かな力に、レトの気持ちが奮い立つ。
「アタシ達が無事に戻らなかったらこの死が無駄になっちまう! 必ず帰るんだ!」
「さあ、この森に入ればあとは帰路を辿るだけ……その帰路も慎重にいかなければ、ですがね」
 狐の縄張りは銀稲荷。其処を抜ければ狐は追ってこないのではないか。
 そんな思いがあっての呟きだった。
「レト姉ぇ、もう少しじゃ!」
「わかってるよ!」
 レトの鞭が森の木に巻き付く。そして同時に地を蹴った彼女の体が飛躍すると、ヘルゥが彼女を援護するように銃を迫る狐に向けた。
「この技は下がる時程難しいと教わっておる。腕の見せどころじゃな」
 森に飛び込んだレトがヘルゥの脇を過ぎる。と同時に、狐が彼女の間合いに飛び込んだ。
 ドンッ。
 目の前で吹き飛んだ狐を視界に、ヘルゥは駆け出した。その背に狼の遠吠えを受けながら。

●新たなる情報
 宿営地に戻り報告を終えた開拓者等は、告げられた新たな情報に何とも言えない表情を浮かべていた。
「黄金の丘の遺跡、封印施設……じゃあ、其処には別の開拓者が向かってるんだな?」
 レトの声に征四郎は聞いてきた情報を元に頷く。
 文献を読み解き、テウメッサの対処法が見付かったと言うのだ。そしてそれを実行する為に新たな開拓者が派遣されたらしい。
「先遣隊の動きは……」
 テウメッサの縄張りの可能性があった廃墟「銀稲荷」。もしもっと早く対処方法が分かっていれば、被害は最小に抑えられたのではないだろうか。
 霞澄はそんな言葉を呑み込み、視線を落とす。そんな彼女の肩を叩き、ヘルゥは征四郎を見上げた。
「遺品は渡して貰えたのかのう?」
「ああ、間違いなく」
「なら、俺らがした事は無意味じゃないさね。それに、先遣隊の動きもな」
 黯羽の声に霞澄は僅かに頷く。
「少なくとも、あの地が危険だって確証は取れましたからね。でも、テウメッサが居なくなったら、あの狐とかもいなくなっちゃうんですかね?」
 Luxの疑問は尤もだ。
 テウメッサの縄張りであればその可能性もあるだろう。しかし確実にいなくなる保証は無い。
「難しい問題ですね。ただ今は、黄金の丘に向かった方達の無事を祈りましょう。あの黒い獣は、並の強さではないでしょうから」
 そう零した久遠の声に、皆は無言で頷き、唇を引き結んだ。