サイコロで懲らしめろ!
マスター名:朝臣 あむ
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/11/19 23:27



■オープニング本文

「さあさあ、賭け金は以上で良いかい?」
 畳敷きの大広間。そこに集まった人々を前に優男が一人、飄々と問いかける。
 ここは北面の飛び地、五行の東北部にある都市楼港。
 軍事都市と名高い楼港の膿の部分、歓楽街‥‥その名も不夜城だ。
 ここは、法外の遊びが横行する遊び人には堪らない場所である。
「よし、異論者はないな。なら次は前回の配当だ。失敗に賭けた奴は、全額は没収になる」
 ジャラリと男の持つ布袋が音を立てる。
 中には一獲千金を夢見る者にとって、喉から手が出るほど欲しい程の額が入っている。
「大穴以外は隣室で配当を受け取ってくれや。負けた奴はとっとと帰ってくれ‥‥ああ、新参者に忠告しておこうか。俺を襲って金を奪おうとした奴は、怖い兄さん方が容赦しねえぜ」
 ニヤリと笑うと、男は脇に控える人物に布袋を渡した。
 その袋を持って部屋を出てゆく姿を見送り、男の目が大広間に戻る。そこに小汚い服を着た老人が近付いて来た。
「明志、次は勝たせてもらうぞ」
 白髭の老人は、コの字に曲がった腰の後ろで手を組み、明志と呼んだ男を見上げた。
「そりゃ構わねえけど、あんま大穴にばっか賭けてんじゃねえぞ。この前、借金取りがあんたを探してたぜ」
「知っておるよ。じゃがそれも、次の賭けで返せる筈じゃ」
「そうかよ」
 呆れた風に笑う明志に、老人は言葉を続ける。
「それよりも、あんたも気を付けるんじゃぞ。賭けごとに目を着けた役人が、血眼になって首謀者を探しておる」
「知ってるよ。けどまあ、忠告ありがとうな。親身に受け取っておく」
 明志の言葉を受けて老人は部屋から去って行った。
 後に残ったのは明志と彼の部下だけだ。残りの連中は隣の部屋に移るなり、別の店に移るなりしたのだろう。
「役人、ねえ‥‥」
 窓辺に寄れば、真夜中だと言うのに人の往来が途絶えぬ遊郭街が臨める。
 その中に目立つ集団があるのだが、それが老人の言っていた役人だろう。
「天護隊でしょうか」
「多分な。まあ、奴らの中にも賭けに乗ってる奴がいるんだ。簡単に手は出ねえよ」
 提灯を手に女や酔っ払いに絡む姿を見ると、酒でも入っているのだろうか。
 朝廷や上の連中に知れれば大変なことになるだろうに。
「けどまあ、そろそろ潮時だな」
 そう呟くと、明志は煙管を手にして中に火種を落とした。
 彼が行っている賭けごとの対象は命‥‥それも、自分の命ではなく開拓者の命だ。
 アヤカシ退治に向かう開拓者の情報を不正に入手し、それを元に開拓者の安否や成否を賭ける。始めこそ少なかった参加者も、当たった時の配当のデカサ故に増えすぎたと言うことだ。
「どうせ終いを迎えるなら、もう一騒動欲しいな」
 呟いた明志は、煙管を口に運ぶと騒ぎを起こしそうな天護隊を眺めて楽しそうな笑みを浮かべた。

 翌朝、明志の姿は開拓ギルドにあった。
「だから、何が言いたいんだね」
 苛立った表情を浮かべ、受付け越しに明志を見るのは開拓ギルドの役人だ。
 飄々と何を言いたいのか伝わってこない彼の言葉に対し、苛立ちが募り始めている様子。
「ですから、昨今流行っている博打を止める術を持って来たと言ってるんです」
「胡散臭い!」
 腕を組んで明志を見る役人の目は完全に不審者を見るものだ。
 しかし彼は気にした風もなく言葉を続ける。
「そちらさんも困ってるんでしょう。なら、手を打ちましょうや」
 楼港で流行る博打の現状は、天護隊が対策に乗り出していることからも明白だ。
 誰もがこの博打を止めねば楼港の品位に関わると心の底では感じているはず。彼の言葉はそこに付け入ってゆく。
「目には目を、歯には歯を‥‥博打には博打で対抗しましょう。ここはひとつ、博打を打って火種を消すんです」
「博打‥‥だと?」
 確かに普通の方法では博打を止めることなどできないだろう。
 考え込んだ役人に、明志はあらかじめ用意しておいた複数のサイコロの内、ひとつを役人に放った。
 それが受け取った手の中で6を示して止まる。
「勝敗は単純明快。サイコロを振って、出目が大きければ勝ち、少なければ負け。勝負は全部で八本。勝ち数の多い方が勝つ、わかりやすい遊びでしょう?」
 残ったサイコロを手の中で転がす明志に、手に落ちたサイコロを見ながら役人が眉間に皺を刻んだ。
「そんな勝負、誰が受けるものか。そもそも、それで博打が無くなる保証などないだろ」
「そんな事はありません。この勝負に勝てば、確実に博打はなくなりますよ」
 ニヤリと笑ってみせる彼に、役人の眉間に深く皺が残る。
「カラクリは簡単ですよ。俺があの博打の首謀者なんです。だから、俺に勝てば博打は無くなります。もし続けようとする奴がいれば、それは俺がどうにかしましょう」
「しゅ、首謀者だとっ!!」
 声を上げて驚く役人に明志は笑う。
「こっちは俺一人で八回サイコロを振ります。誰がどの順番でサイコロを振るのか。事前に決めておいてください」
「ま、待て!」
 伝えるだけ伝え終えて帰ろうとする明志に、役人は慌てて身を乗り出した。
「何でしょう?」
 既に身を返していた明志の顔だけが振り返る。そこに役人は指を突きつけた。
「貴様は何故、このようなことをする!」
 よく考えれば、このまま博打を続けた方が危険性はあるものの明志にとっては有益だ。
 しかしそれを置いて博打を仕掛ける意味が分からない。
「簡単な質問ですよ」
 明志はきちんと向き直ると、役人の目を見て言い放った。
「始まりはとても面白いのです。けれどその楽しみは徐々に減り‥‥中に進めば進むほど寂しくなり、やがて終焉の美しさを求めている自分に気付く。後は適当に流れ、こうしてここに足を運んだ。これで分かるでしょう?」
 困惑した表情を浮かべた役人に、明志は口角を上げて手の中のサイコロを転がした。
「質問は以上のようですね。では、失礼‥‥本番を楽しみにしていますよ」
 明志は再び頭を下げると開拓ギルドを出た。
 そこに部下の一人が駆け寄る。朝早くから楼を抜けだした明志を心配してやって来たのだ。
「明志さん、無事だったんですね」
 昨夜の様子を考えるとどうにも落ち着かなかったようだ。
 ホッと安堵の息を吐く様子を眺めて、彼は笑う。
「無茶はしないさ。昨夜も言っただろう。最後の遊びを仕掛けてただけだよ」
「‥‥でも、良いんですか?」
「何がだい?」
「明志さんはサイコロの目くらい簡単に狙えるでしょ。それじゃあ、勝負にならないんじゃ」
「俺の出す目はすでに決めてあるさ。後はあちらさんが気付くかどうかで勝負が決まる。実に楽しみじゃないか。まあ、狙った目で出せれば‥‥の話だがね」
 そう言って放った2つのサイコロは、宙を回転して手の中に戻って来た。
 その数字が揃って6を示す。
 こうして開拓ギルドの威信をかけた大博打が幕を開けることとなるのだが、果たしてどうなることやら‥‥。


■参加者一覧
葛城 深墨(ia0422
21歳・男・陰
王禄丸(ia1236
34歳・男・シ
雷華 愛弓(ia1901
20歳・女・巫
野乃原・那美(ia5377
15歳・女・シ
陛上 魔夜(ia6514
24歳・女・サ
萩 伊右衛門(ia6557
24歳・男・シ
斗郎(ia6743
19歳・男・泰
与五郎佐(ia7245
25歳・男・弓


■リプレイ本文

●いざ敵陣へ!
 軍事都市、楼港の城壁外に存在する歓楽街。通称、不夜城に開拓ギルドの面々が足を踏み入れていた。
 昼前と言うこともあり、夜とは違った明るく活気に満ちた雰囲気が漂う。そんな中を物珍しそうに見回していた雷華愛弓(ia1901)が、青い目をキラキラさせて呟いた。
「なんだか凄く賑やかな場所です。わくわくしますね」
 歓楽街に足を踏み入れた直後から、目に付くもの全てが物珍しいと視線を巡らせている。
 その隣では雷華と同じように心弾ませる野乃原那美(ia5377)がいた。
「仕事で博打が出来てお金がもらえるなんて、うふふ、楽しみ」
 若干、心弾む方向が違うようだが、こちらもそれなりに楽しそうだ。その後方では数名の人物が、不夜城の雰囲気に呑まれるでもなくこの場を歩いていた。
「博打ですか‥‥ううむ」
 呟く陸上魔夜(ia6514)の声に、隣を歩く萩伊右衛門(ia6557)が視線を向けた。物思いに耽る陸上とは違い、萩はこの場の雰囲気に馴染んでいる。
 彼は何やら考え込んでいる陸上の肩を叩くと助言を零した。
「今更、気負っても仕方がない」
「そうそう。どんなに気負っても、出る目は何も変わらない」
 萩の言葉に同調して葛城 深墨(ia0422)が頷く。その声に思考を断ちきると、陸上は僅かに頷いて見せた。
「そうですよね。これも、見聞を広げる為。一天地六の運否天賦‥‥ここで試してみましょう」
「ああ、博打なんてのはその位の心構えで良い」
 陸上の言葉を聞いて萩が呟いた。その声に葛城も同調して呟く。
「ん、俺も負けないように頑張るかな」
 そんなやりとりをする遥か前方では、目的地目指して進む王禄丸(ia1236)の姿がある。その隣には、神妙な面持ちで歩く与五郎佐(ia7245)がいた。
「随分と怖い顔をしているな」
 王禄丸の声に与五郎佐の顔が上がる。
 自分よりも遥かに高い顔を見上げて、彼は言った。
「やはり不正に開拓者の情報を流している者は、捨て置けないでしょう」
 言いきった彼の心情は分かる。王禄丸は1つ頷くと前を向いた。
「俺とて許せぬ心は同じ。だがその心のままに動く訳にもいかないだろう」
「それは、そうでしょうが‥‥」
 与五郎佐は納得いかなげな様子で呟く。その様子に王禄丸は僅かに顔を俯かせた。
 こうして計7名が不夜城の中を歩いている。それを楼の一角で、高見から眺める人物がいた。
「漸く来たか‥‥おい、誰か奴さん方を此処に案内してやってくれ。くれぐれも失礼の無いようにな」
 そう口にして、動き出した部下の1人を呼び止めた。
「お前さんには別件を頼もうか。天護隊のお得意さんから例の物を借りてきてくれ」
 そう言って腰を上げると、明志は勝負を行う広間へと足を進めた。

●真剣勝負・前半戦!
 大広間に通された面々は、博打の首謀者を前に一列に並んで腰を下していた。
「遠いところ御苦労さん、俺は明志。あんたらの命を賭けに使っていた痴れ者だ。以後宜しくしてくれると有難いね」
 飄々と言い放つと、明志は片手を上げた。
 それを合図に広間の中央にサイコロと茶碗が乗った台座が運ばれてくる。
 台座にあるサイコロは2つ。1つは開拓者側、そしてもう1つは明志側に置かれている。
 彼は台座が定位置に置かれるのを確認すると、腰を上げて前に進み出た。
「さて、あまり前置きが長くても面倒だろう。さっさと始めようか」
 そう言って台座の前に腰を据える。その姿に進み出たのは葛城だ。
「一番手は俺だな」
彼はよっこいせっと腰を上げると、明志と同様に台座の前に腰を下した。
「お手柔らかに頼もうか」
 明志はサイコロを手に取ると、彼の目の前でそれを振り下ろした。カラカラと心地良い音をたてて転がるサイコロを見て、今度は葛城がそれを手にした。
「あまり運は良い方じゃねぇけどな‥‥っと」
 陶器を叩き転がるサイコロ。その目が数字を上に動きを止めると、葛城の顔に笑みが浮かんだ。
「おっ! ついてるねぇ」
 ニッと笑った葛城が出した目は1だ。
 対する明志の目は6。彼が開拓ギルドへ勝負を持ちかけた際、1と6が出た場合の勝者は1と決めていた。
「良い詠みだ。いや、それとも運か?」
 明志はそう呟くと煙管を口に運んだ。その表情は実に楽しそうだ。そこに二番手が名乗りを上げる。
「ふっふっふっ‥‥私と勝負だなんて元締めさんも運が悪いですね」
 自信満々に台座の前に腰を下したのは、雷華だ。彼女はサイコロを手にすると、ぐるりとそれを見回した。
「イカサマは無いようですね。となればいざ尋常に勝負です」
 事前に読んだ博打に関する書物の知識を披露してサイコロを握り締める。そんな彼女に喉奥で笑うと、再び明志からサイコロが放たれた。
「目隠し猪の愛弓と呼ばれてきた私の実力、思い知るが良いのです!」
 明志の放ったサイコロが動きを止めるのと同時に、雷華のサイコロが放たれた。
 転がるサイコロを神妙な面持ちで見つめていた彼女の顔が突如明るくなる。
「凄いです。これが有名な初心者の幸運、という物なんでしょうか!」
 嬉々として振り返って皆に問いかける。そこに拍手やら感嘆の声が返ってきて、雷華は嬉しそうに笑顔を返す。
 出た目は雷華が6、明志が5だ。
 またもや明志の負け。だが彼には慌てた様子など微塵もない。
「よし、次は僕だね」
 このまま一気に畳み込む。そんな勢いで勇んで立ち上がったのは野乃原だ。
 彼女は明志の前に腰を下ろすと、懐からサイコロを取り出した。
「ほう、自前の賽か」
「使っても良いよね?」
 伺うように首を傾げる仕草に、明志はすんなり頷いて見せる。
「よし、それじゃあ楽しい博打と行こうか!」
 元気良くサイコロを握り締めて、コロンッとそれを放った。
 それ続いて明志もサイコロを振るう。
「よし、僕の方が大きい! んふふ〜、僕の勝ちだね!」
 野乃原が出した目は5、対する明志は3だ。
 その場で飛び上がって喜ぶ姿に、明志は微かな笑いを零した。
「嬢ちゃん、見えちまうぞ」
 囁きながら煙管で服の裾を示す。それを受けてバッと服を押さえると、野乃原はムムッと眉を寄せた。
 そこに声が響く。
「明志さん、って言いましたっけ?」
 目を向ければ与五郎佐が穏やかな表情で近付いてくる。しかしその目は笑っていない。
 彼は明志の前に腰を据えるとサイコロを手に取った。
「僕達が勝ったら不正に開拓者の情報を流している者の事、話してもらえますよね?」
 彼の問いかけに、明志は僅かに目を細めて紫煙を吐き出した。
「勝負の条件に、負けたら情報を流すってのは無かったはずだが?」
「負けたら賭けを止めるんでしょう。なら同じ事じゃないですか」
「賭けを止めるのと、情報を与えるのは違うさ。さあ、次はお前さんの番じゃないのかい?」
 サイコロに向けられた視線に、与五郎佐の視線が落ちる。今この場ですることはサイコロを振ることだ。
「そうです、僕の番です」
 気持ちを入れ替えるために、パンッと手を打ち鳴らす。
「運には自信があるんです‥‥それい!」
 両手の中で転がしたサイコロが落ちる。
 器の中で転がったサイコロが止まるのを待ってから、明志もサイコロを振るった。
「よぉし! 流石は僕だ!」
 両手を叩いて喜ぶ与五郎佐に明志は笑みを零して煙管を置いた。
 陶器の中に納まるサイコロの目は、1と4。4を出したのは与五郎佐なので彼の勝ちだ。
「このままだと次で勝負がつくか。となると‥‥」
 トンッと明志の手が煙管を叩いた。
「お前さんの申し出、呑むことにしよう」
「え?」
 きょとんとした与五郎佐と同様、他の開拓者も驚いたように目を見張る。
「俺の負けが確定した後、俺が負ける度に、俺にとって不利な情報を流そう」
「明志さん!」
 この言葉に、今まで出入り口に立って勝負の行方を見守っていた部下が声を上げた。その声を、片手で制して彼は言う。
「奴さん方は忙しい最中、足を運んでるんだ。なら楽しませるための演出は当然だろう」
 そう言って不敵に笑った明志は、残りの勝負の為に煙管を灰皿に置いた。

●真剣勝負・後半戦!
「この雰囲気の中、振るうのか」
 明志の提案で異様に緊迫した雰囲気になった広間で、前に進み出たのは萩だ。
「これは面白そうな相手だな」
「どういう意味だ」
 元々八の字の眉が、明志の言葉で僅かに寄って下がる。その表情を見て明志はサイコロを手にした。
「いや、博打慣れしてそうだ、ってな」
 そう言い終えると、彼の手がサイコロを放った。
 転がるサイコロを見ながら、萩はサイコロを握り締める。そして、そこに念を送り込んでから、一気に放った。
「これでいいか?」
 静かに問う声に明志が頷いて見せる。そのすぐ傍では、サイコロの目が決まろうとしていた。
「‥‥俺の勝ち、か」
 出た目は2と3。そして呟いたのは萩だ。
 という事はこの勝負、開拓者の勝利ということになる。
 静まり返った広間で、手を叩く音が響いた。
「お見事! その一言に尽きる!」
 拍手をして全員を称賛する明志に、物申す声が響いた。
「褒めてもらわなくて結構です。それよりも、約束は覚えてますか?」
 与五郎佐だ。明志はその声に手を止めると、口元に笑みを湛えたまま頷いた。
「ああ、ここからは負ける度に情報を一つ流そう。まずは何が良い」
 問いかける声に、今まで天儀酒をチビチビと飲みながら勝負を観戦していた陸上が立ちあがった。
「先ほど与五郎佐さんが問いかけていた、情報提供者のお話でもしていただきましょう」
 ゆっくり進み出て腰を据える陸上に、明志はすんなりと頷く。
「良いだろう。それじゃあ、始めようか別嬪さん」
 サイコロを先に放ったのは明志だ。
 それを眺める陸上の手がサイコロを拾い上げる。
「勝負は時の運と言いますが、さて‥‥」
 カランッ、と零れ落ちたサイコロ。それが小さな音をたてて緩やかに止まる。
「運は私に向いていた、と言うことでしょうね」
「そのようだな」
 陸上の静かな声に同調して頷く。そこにあるのは、4と6の目だ。
 陸上の目が6、明志が4。
「では、約束を果たして頂きましょう。情報提供者はどちらの方でしょう」
「開拓ギルドのお役人だ」
 何の迷いもなく答えた声に、広間の中がざわめきに包まれる。
「ちょ、ちょっと待ってください。ギルドの役人って、誰ですか!」
「誰? そんなのは挙げきれないな。1人や2人じゃない、それだけ言っておこうか」
「そんな‥‥」
 与五郎佐は力なく呟くと、ガックリ肩を落とした。それを横目に王禄丸が呟く。
「つまり、この者を捕らえた所で、全てを解決するには時間がかかり、その間に新たな博徒が生まれる可能性があると言うことか」
「奴さん、良い冴えしてるねえ」
 王禄丸に頷いて見せる明志は、あることに気付いた。
「そう言やあ、奴さん方、一人足りないようだが?」
 数えてみれば、確かに1人足りない。となると誰かが余分にサイコロを振らなければならない。
「誰が振るか決めてるのか?」
「僕が投げる!」
 元気の良い声が響き、前に飛び出して来た。声の主は野乃原だ。
 彼女は仲間の返事も聞かずに、勝負の定位置につくと自前の賽を取り出した。
「あー‥‥この嬢ちゃんで良いのかい?」
 その問いに、皆が顔を見合わせて頷く。
「野乃原さんにお任せするよ」
 皆を代表して答えた葛城に頷いて、明志はサイコロを手に取った。
「問いがあるのか、ただ単に転がしたいだけか‥‥まあ良いだろう」
 言うが早いか、明志はサイコロを放った。それに習って野乃原も放つ。
 2つのサイコロがぶつかり、互いの出る目が分からなくなる。そして静かにそれは動きを止めた。
「あ、しまった! ちぇー‥‥」
 不貞腐れたように唇を尖らす野乃原は、サイコロの目を見つめている。
 そこにあるのは5と2の出目だ。
 彼女の表情からも分かるように、これは明志の勝ちである。渋々と言った様子で席を離れる野乃原を見送って、明志の目が王禄丸に向かった。
「最後は奴さんか」
「明志とやらに問おう。本当に博打を止めさせる術があるのだな」
「ああ、俺ならできるさ」
 自信ありげに笑う明志に、王禄丸は1つ頷いて腰を下した。
 大きな牛の仮面が若干邪魔だが、それでもサイコロを手に取り握り締める余裕はある。
「可能ならば、類似したものも含め、人の命を馬にした賭けごとを止めてもらおう」
「それが奴さんとの約束か」
 了解した。そう口にして明志と王禄丸の双方が、同時にサイコロを振るった。
 軽やかに転がるサイコロを見ていた、王禄丸の仮面から低い唸り声が響いてくる。
 陶器の中で止まった目は6と5。
「俺の勝ちだな」
 明志の声に王禄丸が頷いた。
「では先ほどの約束は無効‥‥」
「いいや、出来る限り手は尽くしてみよう」
 そう言って笑った明志に、王禄丸は感心したように頷いたのだった。

●決着・その後‥‥
 全ての勝負がついた。
 後は首謀者である明志の捕縛をするか否かだ。
 楼の周辺には葛城が事前に仕向けていた役人が控え、何人も抜け出せないように包囲している。そして野乃原と与五郎佐は明志が逃げないように注意を払っている。
 どう考えても分が悪いのは分かりきっているのに、明志は依然落ち着いた様子で新たな火種を煙管に落としている。
「勝負はついたが、まだ何か用でもあるのかい?」
 悠然と問いかける声に皆が目を瞬く。そこに騒々しい物音が響いて来た。
 ドタドタと階段を駆け上がる音に、皆の視線が出入り口に向かう。
「御用改めである!」
 駆けこんできた白の羽織りの背に黒の菊水門を刻んだ者たち。それを目にした萩が呟いた。
「天護隊か」
 彼らは広間の中を見回すと、真っ直ぐ明志に向かった。
「やあ、御苦労さん」
「貴様が昨今の博打の首謀者か!」
 片手を挙げて飄々とする明志に、数名の隊士が掴みかかる。それをすんなり受け入れると彼はのんびりと立ち上がった。
「そちらの奴さん方は俺の悪行を止めに来てくれた開拓者の方々だ。手を出すんじゃねえぞ」
 殺気を込めて細められた瞳に、問いを向けた天護隊の1人が表情を怯ませる。そうして明志は一度開拓者を見やってから、連行する天護隊に連れられ広間を出て行った。
 こうしてあっという間に大捕り物は終結したわけだが、不可解そうな表情を浮かべる人物が1人。
「あの役人、俺が呼んだのと違う」
 呟いたのは葛城だ。
 その声に与五郎佐が声を上げた。
「まさか、偽物!?」
「‥‥ううむ、してやられたか」
 王禄丸が若干楽しそうに呟く。そのすぐ傍では、再び酒を口に運ぶ陸上の姿がある。そのおこぼれを貰ってほのぼのとしているのは雷華だ。彼女はお酒をちびりと口に運ぶと、ぽつりと呟いた。
「ふう、結局、何で元締めさんになったのか聞けませんでした」
 遠くでは天護隊らしき者達の威勢の良い声と、野乃原が別の店で暴れ始めたらしい音が響いていた。
 この後、不夜城では人命を扱った博打がすっかり成りを潜めたとか。