志摩軍事介護日記
マスター名:朝臣 あむ
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/09/10 23:52



■オープニング本文

●神楽の都・開拓者下宿所
 開拓者ギルドのすぐ近くに在る下宿所。
 其処は今、武天の戦いの為に開拓者たちが出払い閑古鳥が鳴いている。
 志摩・軍事は、そんな下宿所で1人、縁側に腰を下ろして空を眺めていた。
「おっす! 志摩、具合は如何だ?」
 嫌味なほどに元気よく顔を覗かせた山本・善治郎。
 彼は縁側をズカズカ歩くと、志摩の隣にどっしり腰を据えた。
 その上で、笹の葉に包まれた握り飯を差し出す。
「これ今日の飯な。って言うか‥‥起きてて大丈夫なのか?」
 山本はそう言うと、改めて志摩を見た。
 今の彼は満身創痍。
 着流しから伸びる腕や、覗く肌の至る所に包帯を巻き、見るからに痛々しい。
 この怪我、現在行われている武天での戦いの際に負ったモノらしく、色々と無茶をした産物らしい。
 具体的に何があったかは語らないが、どうせ無茶をしたに決まっている。
「もう暫くは安静が必要だって言うから大人しくしてるんだぞ? 本当はギルドの方で身柄を預かりたい位なんだからな」
「‥‥其処まで迷惑はかけられねぇ」
 言って、志摩は山本から握り飯を受け取った――が、直ぐにそれを取り落としてしまう。
「チッ‥‥握力が弱ぇ」
 苦笑気味に呟くが、それは握力が弱いのではない。
 実際には痛み故に動かせないのだ。
 しかし軽口を叩くと言う事は、それを人に悟らせたくないと言う事でもある。
「しょうがないおっさんだな‥‥」
 山本はそう呟くと、彼と同じように空を見上げた。
 その上でふと思い出す。
「なあ、2日だけ世話してくれる人を募集しないか?」
「あ?」
 山本の提案はこうだ。
 最低でも志摩はあと2日安静にしていなければいけない。
 本来なら床を抜けるのも禁止されている状態なのだから、身の回りの世話をする者がいてもおかしくない。
 だからその世話をしてくれる人を募集して、きっちり2日間で動けるようにしてしまおうと言うのだ。
「よし、そうと決まれば、詳細を決めないとな」
「お、おい‥‥俺は一言も良いなんて――」
「まず服装は、男性は執事服で、女性はメイド服。仕事の内容は家事全般と志摩の世話‥‥と」
 サラサラと文字を刻んで行くのは良いが、服装まで決める必要があるのか?
 そんなツッコミをしたいが、それすら億劫な志摩は結局黙っている事にした。
 そこに更なる言葉が降り注ぐ。
「何か食べ物で要望とかあるか?」
「‥‥食いもん?」
 ピクリと眉を動かした志摩に、山本は大きく頷く。
「やっぱ体力回復には食べ物だろ。何が食べたいんだ?」
 そう言われて浮かぶものは1つしかなかった。
「‥‥生肉‥‥」
「へ?」
「生肉、食いてぇ‥‥」
 しみじみ呟き、項垂れた志摩に、山本は目を瞬くと、今の要望も盛り込んで依頼書を作成したのだった。


■参加者一覧
礼野 真夢紀(ia1144
10歳・女・巫
鞍馬 雪斗(ia5470
21歳・男・巫
千見寺 葎(ia5851
20歳・女・シ
リンカ・ティニーブルー(ib0345
25歳・女・弓
白藤(ib2527
22歳・女・弓
久藤 暮花(ib6612
32歳・女・砂


■リプレイ本文

 空気の澄んだ清々しい朝。
 志摩 軍事(iz0129)は、朝日が昇るのとほぼ同時に目を覚ました。
「あー‥‥ダリぃ‥‥ッ、――」
 声を零して起き上がろうとした瞬間に走った激痛。それにより布団に逆戻りした彼は、深く長い息を吐いて天井を見上げた。
「管理人さん、おはようございます!」
 勢い良く開かれた戸と、駆け込んできた少女に目を瞬く。
 膝丈よりも僅かに上のメイド服を着た少女――礼野 真夢紀(ia1144)が元気に窓を開け放ってゆく。
「管理人さんが重体と聞いて来ました。下宿人としてお手伝いします!」
 そう言った彼女は、完全なメイドスタイルだ。
 白いエプロンに髪に装着されたヘアバンドは、ジルベリアのメイドそのもの。
 志摩はそんな彼女を見て、カクッと首を倒した。
「‥‥間に合ってる」
 明らかに面倒。そう顔に書いた彼に真夢紀の口端が下がる。
 だが彼女には直ぐに援軍が訪れた。
「どこが間に合ってるんだい?」
 入り口に立つメイドがもう1人。その姿を見て、志摩の眉間に皺が寄った。
「何でお前さんがメイド‥‥」
「ギルドで依頼を見たのさ。義貞さんが安心して仕事に打ち込めるようにしてあげたくてね。気が優しくて、素直な子だけにさ、気にしているだろうからさ」
 そう言ってメイド服に着けた「恋愛成就のお守り」を見せるのはリンカ・ティニーブルー(ib0345)だ。
「お前さんの場合、俺じゃなく義貞の方が‥‥ああ、山本の依頼か――っ、‥‥」
 漸く思い出したらしい。
 叫ぶと同時に蹲った彼に、真夢紀とリンカが顔を見合わせる。
 そこに執事服を纏った白藤(ib2527)が顔を覗かせた。
「うわぁ‥‥本当に酷い怪我ですねぇ‥‥あ、そうだ。さっき治療道具の確認させて貰いましたよ」
 彼女はそう言って、治療に足りない物を記したメモを振って見せると、中に入って志摩の姿勢を正す為に手を伸ばした。
 そこに別の手も伸びてくる。
「手伝います」
「葎‥‥お前も来たのか‥‥」
 予想外の人物の登場に、志摩の目が瞬かれる。
 千見寺 葎(ia5851)はそんな彼の視線を受けて僅かに苦笑を浮かべると、僅かに視線を向けて囁いた。
「‥‥軍事さん。僕が言うのもいまいちでしょうが‥‥どうぞ、戦でもご自愛をお忘れなく。あの彼女も知ったら‥‥大変ですよ。お腹も空かせているでしょうから、より」
――あの彼女。
 葎と志摩に面識があり、彼女にそう言わせることが出来る人物は1人しかいない。
 志摩は僅かに苦笑すると、少しだけ頷いて彼女の頭を撫でた。
 その上で白藤と葎の服を見る。
「‥‥所でお前さんら、何で執事服なんだ?」
 真夢紀やリンカはメイド服を着ている。
 なのに何故、彼女らは執事服なのか。
「メイド服は脚の間が頼りないと言いますか‥‥」
「‥‥軍事さんのご趣味でしたら、ご期待に添えず申し訳ありません‥‥」
 白藤は苦笑気味に。
 葎はもごもごと口中で呟いて返す。
 2人の執事姿はカッコイイ上に似合っている。故に、女性からは絶大な人気があるだろう。
 だが出来る事なら、女性にはメイド服を来て欲しかった――
「って、ちょっと待てぇ! これは俺の趣味じゃねえ!」
「そう、なのですか‥‥?」
 葎はきょとんと目を瞬いて首を傾げる。
 その様子に大きく頷きを返して、彼は蹲った。
「はいはい、あまり騒いだら駄目ですよ〜」
 そう言って志摩を布団に寝かせたのは久藤 暮花(ib6612)だ。
 彼女は依頼書通りのメイド服を着ている。その姿はメイド長‥‥そんな感じだろうか。
 そこにもう1名、メイドが加わった。
「沢山の人が負傷してる‥‥困ってるなら、お互い様‥‥だよな」
 若干自分の服装に言いたい事はあるが、此処は我慢だ。
 鞍馬 雪斗(ia5470)は布団に横になる志摩を見て、密かに息を吐いた。
 雪斗は一見すれば清楚な女性だが、実の所男である。しかし彼の服装は何故かメイド服。
 やはり溜息しか漏れてこない――と、そこに微かな笑い声が響いてきた。
「義貞さんが今のみんなの格好を見たら、どんな顔をするかな」
 クスクスと笑って目を細めるのはリンカだ。
「‥‥志摩さんもてるですの」
 真夢紀は集まった面々を見て呟いた。
 それに暮花も便乗して頷くと、ふと現状を顧みる。
「これは介護というよりも看病ですね‥‥兎に角少しでも志摩さんの容態が良くなるよう、メイドと執事一同、最善を尽くさせて頂きます〜」
 言って深々と下げられた頭に続き、他の面々も頭を下げる。
 志摩はその様子を視界に留めると、何とも言い難い不安を胸に、我が身を開拓者たちに委ねるのであった。


「生で食べれるくらい、鮮度の良い肉はありますか?」
 真夢紀は肉屋の店頭でそう問いながら、料理に使うための肉を選別していた。
「そうだなあ、これとこれなんてどうだ?」
 言って店主が差し出したのは、色も艶も良い真っ赤な肉だ。
 確かに見た目にも鮮度が良く伝わってくる。
「ではそれと‥‥焼き物用にコレもください」
 真夢紀は下宿先を出る際に志摩から預かったお金で会計を済ませると、次の店に行こうとその場を離れた。
 その目に、暮花と白藤の姿が飛び込んでくる。
「お2人も買い出しですか?」
 真夢紀はパタパタと駆け寄ると、僅かに首を傾げて2人を見た。
 これに暮花が持っている包みを掲げて見せる。
「果物を買おうかと思いまして〜」
 既に数種類は買ったらしく、色とりどりの果物が彼女の腕に納まっている。
「私は料理が駄目なので、足りない治療薬を補充に‥‥ですね」
 白藤が言う通り、彼女の料理の腕は致命的だ。
 それは彼女の幼馴染が暗黒物質と言う程に酷い。故に今回は料理ではなくそれ以外のお手伝いで参戦となる。
「あ、あの鶏屋さん‥‥すみません、次のお店に行きますので!」
 真夢紀はそう言うと、生きた鶏が並べられた店屋に駆け込んで行った。

 その頃、葎は1人で神楽の都からそう離れない森の中にいた。
「本当に、熊はいるのでしょうか‥‥」
 呟き、事前に仕入れた情報を思い出す。
 ここを猟場にする猟師に、熊の出現情報と仕留め方を聞いた。
 その大きな理由は、志摩が熊の生肉を欲したからだ。
「‥‥たまの機会ですから、お好みの物を食べて頂きたいですし」
 呟き、聴覚を研ぎ澄ます。
 風の音。そこに混じる僅かな唸り声に葎の足が動いた。
 風のように走り、無音で森の中を駆ける。
「――居た」
 木々の間に見えた黒い影。
 一匹だけで木の皮を剥ぐ姿に漆黒の苦無を取り出す。そして子の有無を確認すると、彼女の足が加速した。
 一瞬にして接近し、熊が反応するよりも早く、彼女の刃が目標の喉を掻き切る。
 そうして倒れた存在を視界に留め、葎は耳に嵌めた耳飾りに手を添えた。
「‥‥落ちてない‥‥良かった」
 素早い動きに無くしてしまうかもしれない。
 そんな危惧があったのだろう。安堵の息を吐き、改めて熊を見る。
「折角の鮮度ですし、急いで持ち帰りましょう」
 彼女はそう言うと、熊を背負って早駆を使用し森を去って行った。


 リンカは買い出しから戻って来た白藤と共に、洗い物の選別に入っていた。
「これは‥‥だいぶ痛んでるね。このまま洗濯してしまっては破れてしまったり、傷みが酷くなってしまったり‥‥というのも少なくないだろうね」
「リンカさん、こんなのもありましたよ」
 白藤は着物を取り上げるリンカに、畳に転がっていた布を拾い上げて見せた。
「まさか‥‥治療で使った包帯やさらしかい?」
 どう見ても清潔とは無縁の代物に、リンカと白藤の眉間に皺が寄った。
「あ、あのな、嬢ちゃんたち‥‥そこは良いんで、他を――」
「三途の川見るのと、安静にして完治するの‥‥どっちが良いです?」
 ニコリと笑んで小首を傾げた白藤に、悪寒が背を駆け上がる。
 志摩はゴクリと唾を飲むと、大人しく布団の中に戻った。
「さて洗濯物は早い内に済ませておきましょうか。今日は絶好の洗濯日和だー‥‥ってね!」
「そうだね。さっさと片付けて掃除もしてしまおう」
 言って2人が部屋を出て行こうとした時だ。
 入れ替わりに雪斗が入ってきた。
「志摩さん、包帯の交換をしに来たよ」
 彼はそう言うと、志摩の隣に腰を据え、着物を脱ぐように促した。
 その様子にリンカが声を掛ける。
「ああ、白藤さん。折角だし、今着てる服を持ってきておくれよ。先にはじめてるからさ」
 この声に頷くと、白藤は雪斗共に志摩の包帯を替える手伝いに入った。
「これは‥‥随分と古い傷もあるな」
 雪斗はそう口にしながら、新しい傷に薬を塗って行く。
 彼の言う通り、志摩の体には至る所に傷があった。それは新しい物から古い物まであり、中にはどれが新しい傷かわからない物まであった。
「さて、ちょっとした気休めだけど‥‥」
 言って雪斗の手が志摩の前に翳される。
 現れた仄かな白い光が志摩を包み込み、暖かな癒しが降ってくる。
 それに目を伏せると、志摩は「すまねえな」と声を漏らした。
 その様子に包帯を巻きながら雪斗が呟く。
「ただ傷を塗ると言うよりは、マシだと思うよ」
 何処まで効果があるかはわからないが、雪斗の気遣いは有り難い。
 素直に感謝する志摩の耳に、ふと長い息が届いた。
「どうした?」
 目を向けた先に居るのは白藤だ。
 彼女は悩ましげな表情で雪斗を見ると、再び息を吐いた。
「‥‥鞍馬さんのメイド服がロングなのが残念で‥‥」
「え?」
 いきなり何を言い出すのか。
 しかし意外や意外。この声に志摩が同意した。
「確かに、ロングである必要はないな」
「はあ?」
「‥‥きっと、短いのも似合うのに‥‥」
「だな‥‥」
 しみじみと呟き、頷き合う白藤と志摩。
 そんな彼らに雪斗の手がわなわなと震え――
「うぎゃああああ!!」
「余計なことを言った罰です」
 彼はそう言うと、志摩に巻いた包帯をキツク締め上げたのだった。

 その頃、真夢紀は市場で買ってきた食材を元に料理に励んでいた。
 気持ち良いくらいにテンポ良く響く包丁の音。それを耳に、雪斗が顔を覗かせた。
「手伝うよ」
 そうは言うが、料理は殆ど完成していた。
 買ってきた肉の一部を細切りにし、残り半分は生で刺身状態に、そして残る半分は表面だけ焼いてタタキ状態に。
 正直、手を出せる部分が無い――と、彼の目に見た事のない箱が飛び込んで来た。
「‥‥これは?」
「氷式冷蔵庫です。氷霊結を使用した‥‥保存用の箱ですね」
 大きめの木箱に水を張り、氷霊結で凍らせて作った保存庫。それに雪斗は成程と頷く。
「こういう時、巫女で良かった‥‥そう、思います」
 言って、西瓜も収納すると、彼女はうどんをお盆に乗せた。
「これも美味しそうだね。確か朝は、ご飯に豆腐と若布の味噌汁、鯵の一夜干し焼いて胡瓜と茄子の糠漬けだったか」
 そして昼を迎えた今は、薬味たっぷりの冷やしうどん。上に乗っているのは志摩希望の生肉だ。
「ではいってきます――」
「あの‥‥」
 お盆を持って出ようとした真夢紀の前に、葎が顔を覗かせた。
 その手に持つのは、大きな肉の塊。
「捕って来たのですが‥‥使えますか?」
「もしかしてそれ、熊肉?」
 雪斗の問いに葎の首が縦に揺れる。
「‥‥本当は生食できないみたいだけど、本人の希望だし鍋と刺身を出してみるか」
 そう言うと彼は葎の手から肉を受け取って調理に入った。


「いい具合にふかふかになったね」
「私も手伝うよ」
 笑顔で干した布団を抱えるリンカ。
 そんな彼女に手伝いを申し出た白藤も布団を抱えると、2人は志摩の部屋に向かった。
「あ〜ん」
 部屋に入ると同時に目に飛び込んで来た光景。
 それは暮花の差し出した肉に、志摩が食いつく瞬間だった。
 ただしその表情は微妙だ。
「こ、これは‥‥志摩さん、腕力もないですし‥‥良い案、ですね」
 クスクスと笑って白藤が布団を部屋の隅に置く。
 そうして改めて2人を見ると、ある事に気付いた。
「久藤さんと志摩さんって年が近い?」
「そう言えばそうですね〜。同年代の方とこうやってお話しするのは久しぶりなので何だか緊張しますね〜」
 暮花はそう言って、残りの肉を志摩の口に突っ込むと、よいせっと立ち上がった。
「さあ、花さん特製のハーブティーを淹れましょうね〜」
 ニコニコと穏やかに紡がれる声に、白藤やリンカが手伝いを申し出る。
 その様子を見ながら肉を噛み下していると、不意に顔を覗き込まれた。
「‥‥暑く、ありませんか?」
 そう言いながら心配そうに見るのは葎だ。
「あの、何でもします‥‥食事介助でも、何でも‥‥」
「有難うよ。だが今のままで充分良くして貰ってる。これ以上して貰っちゃぁ、罰が当たるだろ」
 志摩はそう言うと、彼女の頭をポンッと撫でた。
 これに彼女の目が落ちる。
「ないとは、思いますが‥‥彼女達の料理を無為に零すのは‥‥いけません。それと‥‥えっと。今くらいは頼って下さい、ね」
 言って見上げられた視線に、眉が上がる。
 だが直ぐに口角を上げると、わしゃりと髪が撫で乱された。
 そこに大きな鍋を持って雪斗がやって来る。
「さて、希望の生肉は食べれたようだけど、一応、全部生食ってのも難だしね。大丈夫そうかい?」
 彼が用意したのは熊鍋だ。
 それに続いて真夢紀も姿を現すと、部屋に大きめの宅が置かれ、全員分の夕餉が置かれた。
「食事は1人ではなく、皆で一緒が良いと思ってね」
「焼肉も用意しましたから、皆さんで食べましょう」
 真夢紀はそう言って、焼いた肉を盛った皿を置いた。
 それに合わせて暮花が用意したお茶を振る舞う。
「花さん特製のハーブティーですよ。少し苦いかもしれませんが、天儀のことわざにあるように『良薬は口に苦し』。試しに一口飲んでみて下さい〜」
 暮花のお茶は、自家製のハーブを使用した物で、三種類のハーブを調合した、リラックス効果や疲れを癒す効果のあるお茶だ。
「さあ、志摩さんは何を食べますか〜?」
「折角だし、交代で食べさせてあげるってのは如何でしょう?」
 白藤はそう言うと、まずは自分が――と、彼の前に箸を差し出した。

――真夜中。
 志摩が抜け出さないかと見回りをしていた雪斗は、縁側に腰を据える存在を見て苦笑した。
「まさか、本当に抜け出してるとはね」
 そうは言うが無理に返す気はない。
 気分転換は誰にでも必要だ。それに彼は夕餉を人一倍食べていた。
 胃が凭れてまだ寝る気になれなくてもおかしくはない。
「‥‥ンなとこで突っ立ってねえで、こっちに来たら如何だ」
 星空を見上げたままの声に、雪斗の口角が上がる。
「バレてたか」
「まあな‥‥」
 チラリと向けられた視線に雪斗は静かに彼の隣に腰を下ろす。
 そうして見上げた星は綺麗だ。
「だいぶ楽になった‥‥お前さんらには感謝だな」
 志摩はそう呟くと、今暫くの間、何かを考えるように空を見上げていた。