大福丸の大冒険
マスター名:朝臣 あむ
シナリオ形態: ショート
EX :危険
難易度: やや易
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/07/04 14:44



■オープニング本文

 シトシトと降る雨。
 それを縁側で見上げる小さな瞳は、真っ白な仔もふらのものだ。
 仔もふらは数度目を瞬くと、自らが広げた和紙の上に咥えた筆を落とした。
 つらつらと丁寧に綴られる文字はかなりな達筆。しかもその動きは滑らかで、ある意味達人の域に達しているのでは‥‥そう見える光景だった。
「お? 大福丸じゃないか。今日も留守番か?」
 ぽんっと仔もふらの頭を叩いたのは、開拓者ギルドで受付をしている男性、山本善次郎だ。
 彼は仔もふらの書く文字に目を向けると、感心したように息を吐いた。
「相変わらず良い文字書くよな。義貞の字なんてミミズだぞ、ミミズ」
 ゲラゲラ笑うその声に、仔もふらは「もふ」と頷く。
 そうして再び筆を走らせると、最後まで文字を刻み終えた。
「それ、義貞の故郷に送るんだろ? 毎度ご苦労さま」
 ぽふぽふと頭を叩いて労う山本に、仔もふらこと大福丸は気持ち良さそうに目を細めている。
 義貞の成長を知りたいという、彼の祖父に宛てて書いた日記は、ある程度溜まると手紙として送られる。
 そろそろ手紙を送る時期なのだが、そう言えば手紙を配達してくれる者の姿が見えないか。
「あ、そうだ」
 山本は丁寧に和紙を畳む大福丸に、思い出したと言わんばかりに声を掛けた。
 これに仔もふらの目が上がる。
「手紙の配達人から伝言があったんだ。なんでも一週間ほど来れないって」
「!?」
 大福丸の目が見開かれた。
 一週間分も遅れて手紙を来れば、義貞の祖父は心配するに決まっている。
 そうなれば老体に鞭を打って神楽の都に来てしまうかもしれない。それだけは避けなければいけない。
 大福丸は畳んだ和紙を咥えると、義貞の部屋に急いだ――とは言ってももふらの足だ。
 かなり遅いのだが、それでも大福丸にとっては急ぎ足だった。
 彼は義貞の部屋に置いてある手紙を風呂敷に包むと、それを器用に首に巻いて「もふ」っと息を吐く。
 そうして山本を振り返ると、勇ましい(かもしれない)顔で頷いて見せた。
「え、ちょっと待って‥‥その格好、まさかとは思うんだけど‥‥」
 大福丸は山本の考えを汲んだのだろう。
 大丈夫だというようにコクコク頷くと、勇ましい第一歩を踏み出した。
 そして彼の脇を通り過ぎてしまう。
「や、大丈夫じゃないから! あ‥‥」
 振り返った時には遅かった。
 どれだけ素早い動きで居なくなったのか。大福丸の姿はない。
「あっちゃぁ‥‥迷子確定、かな‥‥」
 止めなかった自分も悪いが、向う見ずな大福丸も大福丸だ。
 とは言え、いなくなってしまったものは探さなければいけない。
 そう、大福丸が神楽の都を出てしまう前に――。

●開拓者ギルド
「――と言う訳で、義貞に依頼だ」
 突然ギルドに呼び出された義貞。
 何が何だか訳が分からないと言った様子の彼に、山本は事の成り行きを丁寧に説明した。
「つまり、大福を探せばいいんだな。ん〜‥‥でも、なんで大福は家出なんてしたんだ?」
「お前‥‥人の話聞けよ」
 山本は手紙を配達する人がいないので、代わりに手紙を届けに行ったのだと説明した。
 にも拘らず、なぜこう人の話を聞いていない反応を返すのか。
「とにかくだ。お前が飼い主だろう。ちゃんと探し出してお前が手紙を出せ」
「えー‥‥俺、これから新しい依頼を――」
「黙れ」
 珍しくピシャリと言い放った声に、義貞の目が瞬かれる。
「本来はお前が出さなきゃいけない手紙を、大福丸は出してくれてたんだ。探すくらい訳ないだろ」
「そ、それは‥‥」
 仕送りは自分で出していたが、こまめに手紙を出すことはしていなかった義貞に、言い返す術はない。
「他にも開拓者に声を掛けといたから、協力して探せよ」
「‥‥うん」
 渋々頷いた彼に、山本は満足そうに頷くと、大福丸が行きそうな場所を書き出した。
「あ、そうそう、報酬なんだけどな」
 山本はまるで今思い出したように口にすると、ニッと笑って義貞を見た。
 その表情に嫌な予感が過る。
「お前の実費だ。ガンバレ」
「ええええええ!!!!」
 爽やか笑顔で言い放った山本に、義貞は盛大な声を上げて反論したが、結局最後は押し切られてしまった。
 こうして義貞の実費で、大福丸の捜索が行われることとなったのだが、はたしてどうなることやら‥‥。


■参加者一覧
リリア・ローラント(ib3628
17歳・女・魔
レティシア(ib4475
13歳・女・吟
南風(ib5487
31歳・男・砲
透珠刄(ib6471
24歳・女・泰
久藤 暮花(ib6612
32歳・女・砂
サフィリーン(ib6756
15歳・女・ジ


■リプレイ本文

 神楽の都の入り口。
 そこに集められた開拓者たちは、依頼主の登場を今か今かと待っていた。
「大福丸さん、ちゃんと見つけられるといいなぁ‥‥」
 透珠刄(ib6471)はそう言うと、篭手を嵌めた手を動かす。
 その顔に僅かな不安が覗いているのは、彼女のこれまでの経歴の所為だろう。
「迷子になってなければいいけど、直ぐに見つかるカナ?」
 不安は顔にも声にも表れる。
 それを見て取ったリリア・ローラント(ib3628)は透珠刄の手を取ると、空いた手を頬に添えて首を傾げた。
「神楽の都も広いですから、ねぇ‥‥」
 そう口にする彼女自身、未だに都の中で迷子になる事がある。
 だがそれは秘密だ。
 密かに言葉を呑み込んで視線を動かすと、こちらを見ていた人物と目が合った。
 ピクピクと動く獣耳に、ふっさりとした尻尾が特徴の神威人は、視線に気付くと片手をあげて見せた。
「七日やそこら手紙が遅れても、どうってことはないと僕は思うけどね」
 でもまあ、と言葉を切り、南風(ib5487)は自らのしっぽを揺らす。
「リリアは、大福の顔を知っていると言ってたね?」
「はい‥‥」
「ふむ、それならば‥‥」
 南風はそう呟き、隣に立つレティシア(ib4475)を見た。
 その視線に彼女の青の瞳が上がる。
「やってみたいことがあるのだろう?」
「あ、はい‥‥」
 先程、南風にコッソリ相談をしていた。
 そして彼はその相談の答えを見つけてくれたのだ。
「あの、大福丸さんの特徴を教えてくれませんか?」
「大福丸さんの、特徴ですか?」
 これから捜索をするのだから、特徴を知らなければ探すことも出来ないだろう。
 リリアはレティシアの声に快諾の頷きを向けると、身振り手振りで説明を始めた。
「えっと、真っ白な仔もふらさまで‥‥これくらいの、大きさ、の」
 リリアの説明は少しばかり足りない部分もあったが、レティシアにはそれで充分だったようだ。
 「うんうん」と頷いて伝えられる特徴を、しっかり記憶してゆく。
 そんな彼女の隣では、サフィリーン(ib6756)が興味深そうに大福丸の話を聞いていた。
「仔もふらさま‥‥ん〜‥‥どんな子かな?」
 好奇心に満ちた瞳を向る彼女はもふらさまに会ったことがない。
 だからこそ期待が膨らむのだが、話を聞いていると更にドキワクしてしまう。
 そして一通りの説明が終わると、レティシアが紙に何かを描きはじめた。
 そして――
「できました!」
 言って、レティシアが掲げたのはリリアの説明を聞きながら描いた大福丸の絵だ。
「凄い、です‥‥似てますっ!」
 ぐっと拳を握るリリアに、レティシアがホッと息を吐く。
「よくできてるじゃないか」
「これが、仔もふらさま‥‥可愛い♪」
 南風の声にサフィリーンも絵を覗き込む。
 それに続いて久藤 暮花(ib6612)が絵を覗き込むと、彼女の眠そう瞳が瞬かれた。
「これは、凄いですね〜‥‥」
 紙に書かれているのは大福丸の絵だけではない。
 絵のすぐ傍に「筆談する迷子のもふらさま捜索なう」と書かれている。
「これは〜、持って聞き込みをする感じですか〜?」
「いえ、こうします」
 レティシアは、暮花の声に応えると、絵に紐を通して自分の首に下げた。
「なるほど〜、それなら目立ちますね〜」
 そう、暮花が感心した時だ。
「おーい、待たせたー!」
 大きな声を上げて駆け寄ってくるのは、大福丸の飼い主、陶 義貞(iz0159)だ。
 サフィリーンは義貞が皆の前で足を止めるのを待つと、スッと前に出て手を差し伸べた。
「私、アル=カマルから来たサフィリーンです 宜しくね♪」
「お、おう‥‥アル=カマルって、新しい大陸、だよな?」
「そうだよ。私、ちゃんとお手紙届けられるように一肌脱いじゃうから」
 よろしくね。そう改めて言われて、義貞が彼女の手を取る――と、レティシアも義貞の顔を覗き込んだ。
「大福丸さんは、お目付け役なんですよね?」
 私もお目付け役の友朋がいるんですよ。そう言って笑う彼女に義貞は目を瞬く。
「私の事も、義貞君の事も。もう少し信用してくれても良いのですけどね」
 クスリと笑んだレティシアに、義貞は同意の頷きを返す。
 その上でいつか会わせて欲しいと言葉を向けると、皆に改めて自己紹介を行った。
 そこにリリアの声が掛かる。
「義貞さん。‥‥どうして、大福丸さん、おひとりで‥‥?」
「え‥‥あ、いや‥‥」
 どうやらリリアは大福丸が1人で行ったことに疑問を持ったらしい。
「本当、ごめんな。大福が1人で突っ走んなきゃ迷惑かけなかったんだけどさ‥‥」
 珍しくしおらしく謝罪する彼に目を瞬くリリア。
 だがそこに思いも掛けない声が届いた。
「あまり細かい事を考えずに猛進してしまう所は飼い主さんに似ているのかしら〜?」
「え?」
 ザックリ的を射た言葉に、義貞の目が瞬かれる。
 そして暮花に目を向けると、彼女は穏やかな笑みを浮かべて小首を傾げた。
「陶君の代わりにお手紙をご家族の方に届けようという考えはとても立派ですぅ〜。兎に角大変な事が起きないうちに早く見つけましょう」
 確かに迷子のまま放っておくわけにはいかない。
 義貞は神妙な面持ちで頷きを返すと、大福丸の捜索が開始された。

●だいそうさく☆
「彼は使命感に燃えている。迷子になることが問題なら、手紙を届けるとこまで付き合ってやってやろうじゃないか」
 都の内部に足を運んだ南風は、のんびり呟きながら辺りを見回した。
 その目に映るのは、僅かに覗き始めた青空だ。
「しかし、雨が上がって良かった良かった」
 あのまま雨が降った状態で捜索するのは些か効率が悪いと思っていただけに、雨が止んで良かったと思う。
 そうして視線を前に戻すと、元気な声が聞こえてきた。
「透珠刄さんは、もふらさまを見るの、はじめて、なんですねっ!」
「うん、だからちょっとわくわくだったりする」
 サフィリーンと同じく、透珠刄もまたもふらさまを見たことがない。
 大福丸の容姿は、レティシアが描いた絵で把握しているので大丈夫だろう。
 あとは‥‥と、彼女の目が周囲に向いた。
「大福丸さんは甘味が好きなんですよね。それなら甘いものを買って誘き寄せれば‥‥」
 そう、透珠刄が口にした時だ。
 ぐきゅるるるん♪
 誰かのお腹が盛大に鳴り響いた。
 その音に、南風の手がリリアの頭に触れる。
「腹が減ったのかい? それなら何か食べて行くのも悪くない」
「い、いえ。いえいえいえっ。お腹すいてなんて、そんな、そんな‥‥」
 きゅるるんるん♪
 慌てて否定したのになんたる無情。
 再び鳴り響いた音に、南風の足が甘味屋に向いた。
「道は長い、そう急ぐこともないさ」
 言って、甘味屋の暖簾を潜ると、再びリリアのお腹が鳴った。
 それもそのはず、店内には食欲誘う甘い香りが充満しているのだ。
「‥‥あんみつ、食べたいです」
 もごっと呟かれた声。
 その声に頷くと、南風は店主を呼んであんみつ3つと、持ち歩けるような菓子を数個包んでもらうことにした。
 これに透珠刄も便乗する。
「そこのお饅頭と、大福と、金平糖もくださいっ!」
 少しだけ多めに包んでもらうお菓子は自分の分も含んでいる。
 やはり女の子。甘いものが好きと言うことだろう。
「はい、あんみつ3つとお菓子だよ」
 程なくして出されたあんみつは、想像以上に美味しかった。
 甘みを抑えた上品な味が、口の中で広がる様子は何とも言えず次の匙を誘う。
「美味しい、です‥‥♪」
 ほくっと表情を綻ばせたリリアに店主は笑顔で頷く。
 その上で店主はあることを問うてきた。
「あんたたち、何か探してるのかい?」
 入店と同時に中を見回していた姿を見ていたのだろう。
 問いかける声に、透珠刄は匙を置いて頷きを返した。
「もふらさまを探してるんです」
「読み書きができるもふらさま。‥‥甘味が、好きだって聞いて‥‥」
 透珠刄に続いてリリアが言うと、店主がぽんっと手を叩いた。
「大福ちゃんだね! それなら今日は風呂敷包みを背負って顔出しにきたねえ」
「一足遅かったか‥‥次は何処で行くと言っていましたかね?」
「確か‥‥ああ、あった。これだよ」
 南風の問いに、店主は1枚の紙を探し出してくれた。
 そこには大福丸の文字で「北面へ行く」と書かれている。
「手掛かり、ありました、ね」
 リリアはそう言うと、店主に頭を下げて店を出た――と、その背後から声が飛んでくる。
「ちょっと! もふらさまの足で北面だなんて大変だからね。無事見つけて上げてくれよ!」
「あ、はい! ありがとうございましたっ!」
 透珠刄は元気よく頭を下げると皆と共に北面に向かう門へと足を進めた。

 その頃、一足先に門へ向かっていたサフィリーンとレティシア、そして暮花は、途中にある店屋や行き交う人々に情報を求めながら、目的の場所を目指していた。
「真白もふもふ、もふらのこ、お手紙持って、何処行くの〜♪」
 軽やかなステップと歌を紡ぐのはサフィリーンだ。
 彼女は楽しげに周囲を見回しながら、レティシアと手を繋いで歩いている。
 その姿は仲の良い姉妹さながら。
 見ている方もついつい目を向けてしまう。
 向けてからふと、レティシアの首から下げられている絵に目が向かう。そうして大福丸を目撃した人たちは、彼女たちに声を掛けてくれた。
「思ったよりも、情報が集まってますね〜」
 暮花は2人の様子を微笑ましく見ながら、大福丸が隠れていないかどうか、草むらや岩陰などを確認していた。
 そこに盛大な声が響く。
「それは、本当ですか!」
 声を上げたのはレティシアだ。
 彼女は頬を僅かに紅潮させて通行人から話を聞いている。
 そして話を聞き終えたのだろう。
 いそいそと戻って来た彼女に、暮花の首が傾げられた。
「なにかありましたか〜?」
 声の感じからして重大な情報かもしれない。
 そう思い問いを向けると、レティシアは神妙な面持ちで口を開いた。
「葛きりが絶品と評判のお店があると聞きまして、もしかしたらそこに大福丸さんが!」
「葛きり?」
 それはなに? そう首を傾げたサフィリーンに、レティシアが簡単に、そして、美味しそうに説明をする。
 すると途端にサフィリーンの目が輝いた。
「美味しそう、えっと‥‥大福丸さん、そっちに、いないかな?」
 じぃっと視線を向けた先に居るのは暮花だ。
 彼女はレティシアとサフィリーン。2人の視線を受け、少し考えた後で頷いた。
「そうですね〜、では、行ってみましょうか〜?」
 折角の情報だし、行く分には問題ないだろう。
 そう判断してのことだった。
 この声に2人は「やった!」と声を上げて店屋に率先して向かう。
 そうして店屋に入ると、暮花が注文を行ったのだが、そんな彼女の傍で、サフィリーンはある物を見つけて食い入る様に視線を注いでいた。
「この黒っぽくてぷるんとしたのは何かなぁ‥‥」
「それは水饅頭ですね」
「ミズマンジュウ?」
 彼女が視線を注ぐ先には、透明な生地で餡を包んだ、夏らしく見た目にも涼しいお饅頭が置かれている。
「いいないいな」
 先程と同じようにレティシアに説明を聞いたサフィリーンは目を輝かせたまま呟く。
 その声に暮花が注文を追加してくれたのは、言うまでもないだろう。
 こうして店の外に出ようとした所で、三人はあるものを目撃した。
「いまのって‥‥」
 白く小さな何かが、門に向かって歩いて行くのが見えたのだ。
 3人は顔を見合わせると、急いでその場を駆け出した。
 そして――
「いたよ!」
 サフィリーンはそう声を上げて駆け寄ろうとした。
 しかしそれをレティシアが引き止める。
「待ってください。もし大福丸さんが心細くて誰かを待っているとしたら、それは義貞君だと思います」
 きっと1人は心細いはず。
 それなら最初に駆け付けるべきなのは義貞ではないだろうか。
 レティシアはそう言うと、義貞を含めた仲間が合流するのを待つことにした。

●だいふく☆
 1人で都の中を捜索していた義貞は、呼びに来てくれた透珠刄のお陰で無事、大福丸と顔を合わせることが出来た。
「‥‥よ、よお」
 ぎこちなく声を掛ける彼に対し、大福丸は不思議そうに目を瞬いている。
 そこに思いも掛けない衝撃が、大福丸を襲った。
「大福丸さーんっ」
 もふっと抱き着いたのはリリアだ。
 もふもふと大福丸の毛を堪能しながら、彼の身辺を確認する。
「怪我とかしてないですか? 大丈夫ですか?」
 そわそわと顔を覗き込んだ彼女に、大福丸はたじたじだ。
 それでも声を発しないのは、何と言うか流石である。
 そしてその様子を見詰めていた透珠刄が、おずっと手を伸ばして毛を撫でた。
「柔らかい‥‥じゃなくて、大福丸さんはなんでここにいたの?」
 彼女はそう問いながら首を傾げる。
 それに対し、大福丸は風呂敷包みを下ろすと、口に筆を咥えて器用に文字を刻み始めた。
――狭蘭の里に手紙を届けに行く。
「頑張るんですね、ぜひ応援したいです」
 レティシアはそう言って、大福丸をもふる。
 頑張ったご褒美と、これから頑張るご褒美と言ったところだろうか。
「うん、ボクも最後まで、頑張るところを見届けたいなって思う」
「さっき、地図も買ったし、みんなで行けば大丈夫だよ。お手紙と義貞さんを届ける‥‥なんてなったら素敵だね♪」
 透珠刄に続き、サフィリーンもそう言って頷き合う。
 これは狭蘭の里まで行く流れになるのだろうか。
 そう思った時、待ったがかかった。
「それなんだがな、山本に助言を請いに行ったところ、そう簡単に歩いて行ける場所ではないそうだ。精霊門を使っても歩いて辿りつくには1日以上かかる」
「そんなにかかるのか‥‥」
 透珠刄は耳を項垂れさせて呟いた。
 その肩を南風が叩く。
「狭蘭の里への手紙は山本が責任を持って届けるそうだ。代わりに、皆で青空の元、甘味など如何だろう?」
「甘味‥‥私たちの分も、ありますか‥‥!」
 リリアの目が輝いた。
「あぁ。大丈夫だ。お嬢様方の分も買ってある」
 南風はそう言って頷いて見せた。
 そんな彼の傍では、大福丸がサフィリーンに抱かれ甘味に目を輝かせていた。
「えへへ、ふわふわで可愛い♪ 歩き回って疲れてない?」
「では〜、疲れが取れるように、冷たいお茶でもいかがですか〜? 緑茶に花さん特製ブレンドティーもありますから、あとでお出ししますね〜」
 暮花は穏やかな笑みを浮かべてそう言うと、義貞と大福丸を見た。
「大福丸ちゃんも陶君もよく頑張りましたね〜。でも――」
 彼女はそう言葉を切ると、拳を作ってそれぞれの頭を小突いた。
 これに両名の目が瞬かれる。
「これからはちゃんと相手に言いたい事を伝え物事をじっくりと考えてから動くこと、良いですね?」
 今回の騒動は、お互いの言葉足らずが原因――と、彼女は言う。
 その声に義貞と大福丸は顔を見合わせ、バツが悪そうに暮花に頷きを返したのだった。