必殺技が欲しい!
マスター名:朝臣 あむ
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/02/09 22:08



■オープニング本文

 神楽の都に密かに流行り始めた話がある。
 それは子供向けに作られた本で、子供なら一度目にすると次もまた読みたくなる。そんな話らしい。
 そしてその本の題名は「天儀戦隊侍じゃぁ!」。
 赤い流しを着た侍が、悪の組織を打ち破ってゆくという物で、単純明快な物語が子供たちの人気を集める理由になっている。
 本は既に壱巻から参巻まで出ているという。
 何処までこの人気が続くかわからないが、神楽の都の子供たちは、この「天儀戦隊侍じゃぁ!」に夢中のようだった。

●天儀戦隊侍じゃぁ!
「悪の組織を打ち破る!」
 華麗に舞った赤侍。
 その身に赤き炎を纏い、振り被った刃からは溢れんばかりの殺気を滲ませる。
「受けてみよ‥‥――炎獄波動轟烈ソード!!!」
 振り下ろされた刃から炎が放たれ、轟音が上がる。
 敵は怯み逃げようとするが、炎の勢いの方が強かった。
「ば、ばかなああああああ!!!」
 声を上げ、炎に包まれた敵。
 炎は敵の姿を消すまでその場に留まった。
 そして炭1つ残さずその存在が消えると、赤侍は刀を鞘に戻した。
「これでまた、悪を闇に葬った」
 そう言い残し、赤の外套を纏い去って行った。
 後に残されたのは、赤侍が守り切った大地のみ。
 赤侍はこれからも、弱い者の味方で悪を葬り去ってゆく!
 行け、赤侍!
 行け、天気戦隊侍じゃぁ!!
 みんなの平和を守るため!!!

●神楽の都・開拓者下宿所
「くぉ〜! カッコいい!!!」
 ゴロゴロと畳に転がった陶・義貞(スエ ヨシタダ)は、本を抱えて叫んだ。
 この本を読むのはこれで何度目だろう。
 その度に興奮して雄叫びを上げている。そして今回も、例に漏れず雄叫びを上げると起き上がった。
「俺も‥‥俺も、何か必殺技が欲しい‥‥必殺技、必殺‥‥」
 呪いのようにぶつぶつと呟く異常さ。
 そもそもこうしたものは物語だからこそ、恰好良く見える場合もあるのだが、彼にそうした考えはないようだ。
「俺の〜、必殺技〜‥‥」
 奇妙な声を上げて抱えた本の表紙を見詰めた時だ。
 不意に何かの視線を感じた。
 ぐるりと視線を巡らし、部屋の入り口を見た時点で目が瞬かれる。
「‥‥気持ち悪いよ、お前」
 襖を開けたままの状態でこちらを見るのは、開拓者ギルド受付の、山本・善治郎(ヤマモト ゼンジロウ)だ。
 彼は義貞の今までの奇行を呆然と眺めていた。
 まあ、ただ単に声をかけるタイミングが無かっただけとも言うのだが、気持ち悪かったのは事実のようだ。
「別に何の本を読もうがお前の自由だけどな‥‥読み終えた後に、にやにやゴロゴロするのはどうかと思うんだ。それに必殺技なんてそう簡単に出来るわけでもなくだな」
 そっと目を逸らし放たれる言葉に、義貞は目を更に瞬く。
 そして何を思ったか、山本に駆け寄ると彼の肩をガッシリ掴んだ。
「山{の兄ちゃん、必殺技ーッ!!!」
「お前は人の話聞けよっ!!」
 思わず突っ込んだ山本に、当の義貞は目を輝かせて彼の顔を見詰めている。
 これは確実に聞いてない。
 しかも聞いてない上に物凄く期待している目だ。
「兄ちゃん、必殺技‥‥俺も欲しい!」
 キラキラ純度を増す目。
 こうなってくると山本にこの純粋な目を直視する勇気はなかった。
「俺、開拓者じゃないからさ‥‥こういうのは、開拓者の皆さんに任せるべきだと思うんだ」
「開拓者の、皆さん?」
 きょとんと首を傾げる彼に、山本は肩を掴む手を取ると視線を戻した。
「そう、開拓者の必殺技は、開拓者から学ぶべきだと思うんだ!」
 真剣な眼差しで説かれる言葉に、義貞は神妙に頷いた。
 確かに開拓者同士であれば、スキルの問題も考慮した必殺技が編み出せるかもしれない。
 巧くいけば、それを試す場も用意してくれるかもしれないのだ。
「でも俺、そこまで頼める金ないし‥‥」
 現実問題は依頼のお金だ。
 だが山本はある奇策を取り出した。
「『お年玉』‥‥ギルドの人たちや、志摩からもらってたよな?」
 ギクッと、義貞の肩が強張る。
「な、なんの事‥‥」
「俺もあげたんだから、誤魔化しは無しだ」
 ニンマリ笑った山本の言うとおり、義貞は結構な人数からお年玉をもらっていた。
 そしてそれは、仕送り分とは別に保管してあったりする。
「で、でも、あのお金はいざって時のためにとってあるお金だし‥‥無駄遣いは」
 普段無鉄砲なくせにこういう所でしっかりしてる。
 山本は僅かに感心しつつ、彼の頭をポンッと叩いた。
「何も全額出せとは言わないって。修行代金として俺の方からも何とか工面するからさ。自分が学ぶ分くらい出せってことだ」
 全額ではなくても、半分くらいは出せ。
 そう言う山本に、義貞は渋々だが頷いた。
「それじゃあ、さっそく依頼書作るか。希望があればこの場で言ってくれよ」
 言って、彼は紙と筆を手にすると、サラサラと依頼書の作成に入ったのだった。


■参加者一覧
高倉八十八彦(ia0927
13歳・男・志
ペケ(ia5365
18歳・女・シ
からす(ia6525
13歳・女・弓
宗久(ia8011
32歳・男・弓
東鬼 護刃(ib3264
29歳・女・シ
九条 炮(ib5409
12歳・女・砲


■リプレイ本文

 陶・義貞の下宿先。
 その敷地内に建てられた道場に、開拓者たちは集まっていた。
「ほっほぅ、若くして精進するのは良い事じゃの?」
 言ってニンマリ笑うのは、東鬼 護刃(ib3264)だ。
 彼女は道場の隅に立って、依頼人の義貞を見た。
 そんな彼女の傍には、茶の用意を始めたからす(ia6525)がいる。
「ああ、悪い発想ではない。ああした発想は、そのまま技術の向上となる。きっと効果的な鍛練になるだろう」
 そう言いながら、湯の温度を確認すると茶葉にそれを落とした。
 そして人数分の湯呑に茶を注ぐ。
「まずは、落ち着いて話をしようではないか」
 からすはそう言い、譲刃と同じ道場の入り口を見た。
 そこに立つのは、高倉八十八彦(ia0927)と義貞だ。
「遊びに起きたよー」
「いらっしゃいだー!」
 そう口にした義貞は、ある違和感に気付いた。
 それは八十八彦の腰にある刀だ。
「それって‥‥」
「わしも志士になったけえ、わしも参考にするんじゃ」
 言って、霊刀「カミナギ」を叩いて見せる。
「そっか、じゃあ、お揃いだな!」
 無邪気に笑う義貞に、八十八彦も嬉しげに笑い返す。
 そこに九条 炮(ib5409)が声をかけた。
「良いですね〜浪漫ですね〜」
 ニコニコと頷いて見せる炮は、2人の顔を交互に見比べる。
「必殺技があると個性が光り易いですし、なにより個人の代名詞として使われると格好良いですよね〜」
「おう、必殺技が出来たら、バンバン使うんだ!」
「はい〜。未熟の身では在りますが協力させていただきます」
 そう言って胸を叩くと、彼女はニッコリ笑って見せた。
 そこに譲刃の声が響く。
「茶が冷めてしまうぞ。話ならばここで如何じゃ」
 その声に3人は顔を見合わせると、茶の席へと向かった。

 茶の席は和やかな雰囲気に包まれていた。
 話題は勿論、義貞が出した必殺技を作りたいと言う依頼についてだ。
「これが、件の本ですか」
 ペケ(ia5365)はそう言いながら本を捲る。
 中身は事前に聞いていたものと変わりなく、赤い流しを着た侍が、悪の組織を打ち破ってゆく単純なお話だ。
「必殺技が欲しいと。必殺りたいと」
 本を閉じたペケはそう問いながら義貞を見た。
「んむ、私に任せるですよ」
 真剣な表情の義貞に、ペケは大きく頷いて見せる。
 そこに宗久(ia8011)が顔を覗かせた。
「あ、天儀戦隊侍じゃぁ? 俺も読んだことあるよ、面白いよね突っ込み所がイロイロあって」
「おう、すっげえ格好良い!」
 微妙に話が噛みあっていないが、義貞は仲間がいたと目を輝かせている。
「ああ、確かに格好良い。だがスエスエ、君は大事なコトを忘れているよ」
「大事なこと?」
 唐突な言葉に、義貞の目が瞬かれる。
 ここで突っ込むべきは名前なのだが、義貞には宗久の言う『大事なこと』が気になるようだ。
 神妙な面持ちで言葉を溜める宗久。そして生唾を飲む義貞。
 奇妙な沈黙が続き、やがて――
「そう、それは、変身シーンだよっ!」
 キリッと放たれた言葉に、義貞が「おお!」と声を上げる。
 だが他の皆は冷静だった。
「『魔砲泰拳士リリカル天儀たん』?」
 宗久の懐から出ていた本を、八十八彦が引き抜いた。
 それを他の面々も覗き込む。
「ふふふふ‥‥メイド服に魔女っ子スリットが入った泰服も良いよね」
 この発言で大体の内容がわかった。
 周囲は呆れ顔。しかし、義貞だけが妙に目を輝かせて、その話に食い入っている。
 そして‥‥
「変身、俺もしたいっ!!」
 ちょっと待て――ッ!!!
 そんなツッコミが聞こえてきそうだが、対する宗久も負けてはいなかった。
「さあ、よしむー! 早く衣装を選び、そして天儀を救う旅に出なければ!」
 義貞の肩を抱き、あらぬ方向を指差す宗久に、語りかけられている本人はその気だ。
 指差す方向を見て、拳を握り締めている。
 しかも宗久は変身シーンの講義にまで入ろうとしているではないか。
 流石にこれは止めなければマズイ。そう思った譲刃が「こほん」っと咳払いをした。
「わしも義貞をからかう――もとい、必殺技編み出す手伝いをしてやるかの」
 彼はまだ夢の中。その姿に苦笑し、譲刃は首を傾げた。
「義貞、必殺技はどうしたのじゃ?」
「あ」
 スッカリ忘れてたらしい反応に、譲刃を含めた全員が苦笑する。
 だがまあ戻ってくれば話は進められるというもの。
「まずは『いめーじ』が大事じゃけえ」
 八十八彦は、そう言うと必殺技の心得のようなものを説いて見せた。

 一.蜂の様に刺し、蝶の様にかわす。
 二.強烈な大ダメージを与える。
 三.連撃でラッシュして、押し込む。
 四.居合い。
 五.魔法剣。
 六.その他。

「このどれかを基準にして、合致したのがええと思うんよ」
「基準は確かに必要だろう。あとはそうだな‥‥」
 からすはそう言うと義貞を見た。
「私は志士ではないから感覚的な事は伝えられないが‥‥」
 義貞が使えるであろう技術は少ない。
 その中で構成を考え、技を組み合わせてみる。
「受け流しから炎魂縛武と巻き打ちに繋げる――というのは如何だろうか」
 後は‥‥と、次に彼女が目を付けたのは、義貞の2本の刀だ。
「2刀を持つ者なら回転斬りになるだろうか」
「回転切り?」
「ああ、『火炎車』といったところか。相手の隙を突き、攻撃力を高めた素早い攻撃。連撃もできるだろう。そして炎の演出により『魅せる』技としても機能する」
「わしは平正眼からフェイント‥‥もしくは、横踏からフェイントがええと思う」
 こう切り出したのは八十八彦だ。
 正規の構えからのフェイント。もしくは、敵の動きを回避した後からのフェイントだ。
「技名は、んーと、んとー‥‥『心威・胡蝶剣』!」
 ポンッと手を打って披露された必殺技名。それに義貞の目がキラキラ輝く。
「1歩進んで斬り、1歩下がって斬る‥‥間合いを制する『一足一挙動の間合い』ゆうのもあるけど」
 どうじゃろう? そう首を傾げた八十八彦。
 そこにズズズッと茶を啜る音がする。
「必殺技かぁ。俺なら炎魂縛武と2刀フェイントで『映月』とか‥‥あとは」
 そう言うと、宗久は湯呑を置いて立ち上がった。
 そして背を皆に向けながら回避の行動を取る。
「こう、横踏で避けて――心眼で敵の姿を捕捉」
 背後に忍び寄る敵を捕らえ、抜き取った刀で振り返った先の相手を素早く切り捨てる。
「巻き打ちで振り返り、一撃で仕留める――『虚月』とか?」
 実演付きで説明して見せる宗久に、義貞が声を上げた。
「すっげぇ! 他には、他には?」
「ぇ、後は、そうだな‥‥」
 面倒そうに首筋を摩ると、宗久は2刀の刀を構えて、キリッと表情を引き締めた。
 そして――
「二刀流キーック!」
「それはただのキックです」
 即入ったツッコミに、宗久は苦笑する。
 そしてツッコミを入れた炮が、今度は口を開いた。
「『幾つもの攻撃手段を持つ必要は無い、1つを鍛え上げ極め抜いてこそ必殺となる』――これが、先生のお言葉でしたので、先ずは炎魂縛武の研鑽を主軸にするのを勧めますね」
 汎用性、外見の見栄えのある炎魂縛武は、必殺技に組み入れるのは良いのかもしれない。
 それに、と炮は言葉を続ける。
「最善の機に最高の速さで最大の力を叩きつける。とりあえず、当面は巻き打ちで代用するのが宜しいかと」
 そう言って笑った彼女に、義貞はふと首を傾げた。
「炮さんは、必殺技は無いのか?」
「現状では私に必殺技はありません」
 聞かれて炮は、クスリと笑って手を横に振った。
「シングルアクションで連射や一点射を狙うのは命中精度の関係上、必殺の域に達していないので‥‥まだまだ修行を積んでいく必要があります」
 言って彼女は、湯呑を口に運んだ。
「さあ、次は私ですね。陶・義貞さん初めまして、シノビのペケです」
 ペケはそう言うと、義貞を道場外へ連れ出した。
 そこにはいつの間に用意したのか、竹に藁を巻いた巻藁と呼ばれる試し切りの道具が数本、地面に突き立てられている。
「ではでは、まずコレを見てください」
 ペケは2本の刀を抜くと、一本だけ逆手に持って見せた。
「同じ二刀流使いならこの持ち方の意味、解りますよね?」
 チラリと向けられる視線に、義貞はコクリと頷く。
「この持ち方は、左右の攻撃の方向が揃えやすいんです。移動を重視したシノビの2刀流ですよー」
 そう言うと、彼女の足が地を蹴った。
 一瞬にして巻藁に接近した刃が、通り過ぎ様に2本の藁を切り落とす。
 そして静かに足を止めると、地面にゴトリと鈍い音が響いた。
「す、すげぇ」
 今まで多くの技を見てきたが、こうして改めて見るとやはり凄さを感じずにはいられない。
 驚く義貞に、ペケはここからが本題だと言う。
「今のを1つの目標に反転して斬りつけますよ。よーく目に焼き付けてね」
 くるりと反転した身に添って、腕が大き振られる。それが巻藁を斬り付けると、ペケは仁王立ちで彼を振り返った。
「はいっ。今のを炎魂縛武状態で行う自分の姿を想像して見てください」
 そう言った彼女に、義貞が無言で目を見開く。
 その姿に彼女の首が傾げられた。
「あの、聞いてます?」
 そう言って問いかけた彼女の目が下に落ちた。
 その瞬間、ペケの全身が真っ赤に染まる。
「は、はわわっ、見て良いのは技だけです!」
 ペケはそう叫んで、褌を急ぎ締め直す。
「‥‥ゴホゴホ、き、気を取り直して。今のを炎魂縛武で行うのが私のお勧め必殺技です!」
 まだ顔を赤くして言う彼女に、義貞はハッと我に返って頷いた。
「渦巻く炎の旋風斬りというわけで‥‥名付けて『くるりん☆燃え燃え斬り』です!」
 自信を持って放たれた技名に、義貞の目が瞬かれる。
「技名は微妙だけど、技は恰好良い!」
 子供とは残酷である。
 素直な感想を述べる義貞に、ペケは苦笑すると自らの頬を掻いた。
「最後はわしじゃな」
 進み出たのは譲刃だ。
「必殺技得るには厳しき修行乗り越えてこそ辿り着くもの」
 尤もらしくそう言ってみせるが、その後にコッソリ「――と、いうのは建前にしてじゃ」とつけていたのを、義貞以外の面々は耳にしていたのだが、ここは黙っておくらしい。
「最初は迫る物を見極める修行からじゃ。これから投げる物を斬り受けて見せるんじゃぞ?」
「おう! って、何してるんだ?」
 直ぐに修行の移るのかと思いきや、譲刃は地面に茣蓙を敷くと、その上に義貞を立たせた。
「では行くぞ」
 言って薪を投げる。すると義貞は、綺麗に反応して薪を叩き割った。
「ふむ、なかなかの反応じゃ。ではこれはどうじゃ?」
 続いて投げられたのは、皮を剥いた大根だ。その次が人参。
 なんだか投げられるものが徐々におかしくなっているのだが、義貞は真剣そのもので、綺麗に野菜を切ってゆく。
「さてお次は、呼吸じゃ。必殺技を放つには呼吸が乱れてはいかん。薪に火遁で小さく火をつける故、火吹き竹使うて火を消さぬようするんじゃぞ?」
 そう言って薪に火を点けると、彼女は大鍋を持ってきて、その上に置いた。
「火が弱まっておらんか分かり易くする為、大鍋に豚汁の用意しよう‥‥ん?」
「なあ、これって修行じゃない――ぅお!?」
 目の前を横切った手裏剣に、義貞の目が瞬かれる。
 ハラハラと舞い落ちた前髪に、心臓は爆発寸前だ。
「この程度も避けきれんとは‥‥情けないのぉ。相手が放った必殺技を受けきり、他の者が提案した必殺技を叩き込む」
 まだまだ修行が足りんのぉ。
 そう言った彼女に、義貞は口端を下げると、勢いよく息を吹き始めた。
 その姿にクスリと笑って彼の肩を叩く。
「どれ、わしの必殺技を口上の1つと併せて見せてやろう――三途の火坑が焔、確と見るが良いっ!」
 彼女の手から放たれた炎が宙を舞う。
 そしてそれが大鍋を包むと、彼女は満足そうにその中を覗いた。
「さて豚汁はそろそろ良いかのー? ささ、腹ごしらえじゃ」
 譲刃はそう言うと、呆気にとられる義貞を他所に、皆に豚汁を振る舞った。

●必殺技は?
「じゃ、演習ね。全力連射するから避けつつ近づいて一撃入れてね」
 言って宗久は、大型の弓に矢を番えた。
 その姿に、義貞が目を見開く。
「ちょ、俺それじゃ死んじゃう!?」
「あっはは、嘘、嘘だよ。お茶目だよ。怒っちゃイ・ヤ」
 イヤ、目がマジでした。
 そう呟く義貞に、宗久は軽く笑って見せる。
「仕方ないなぁ。それじゃぁ俺の必殺技を‥‥」
 宗久は素早く矢を装填すると、矢に集中した気を籠めて矢を放った。するとそれが、巻藁にぶつかる直前でぶれる。そうして再び矢を構えると、防御をする隙を与えず再度矢を放った。
「2射同時着射に受防意味薄。まあ、弓は状況によりけりなんだけれどね。だから――」
 弓を下げた宗久は、ニンマリ笑って義貞の顔を覗き込んだ。
 そしてコッソリ耳打つ。
「スエスエには派手になって欲しいな!」
 派手に――その言葉に、彼の保護者の姿を思い浮かぶのだが、当の義貞はその声に素直に頷くだけだ。
 そこにからすが赤と白の弓を手に近付いてきた。
「派手はともかく‥‥私の必殺技はこうだな」
 そう口にすると、気配を殺して矢を構える。
 そうして敵と見立てた巻藁に牽制の意味を込め一矢放つと、瞬時に距離を取った。
「場を把握して最善の一撃を加える事が弓術師の必殺技と言える。あとは――」
 そう言って再び矢を構える――と、思っていたのだが、彼女は携帯していた山姥包丁に持ち返ると、間近にあった巻藁を攻撃し、すぐさま弓に持ち替えて一矢放った。
 その弓術士らしからぬ攻撃に、義貞の目が瞬かれる。
「今のって‥‥」
「まず敵を近づかせないのが弓だが、これを持つ弓術師も稀にいる。だから侮ってはならない」
 真っ直ぐに目を見て言う言葉に、義貞は神妙に頷きを返した。
「わしは攻撃魔法も回復魔法も中途半端な、勇者的な志士ゆう感じじゃのう。物語に出てくる勇者的なロマン! を追求したいんよ!」
「勇者か、格好良いな!!」
 じゃろ? そう問い返す八十八彦に、義貞はコクコクと頷く。
 そして選択の時は迫り――
「うーん‥‥『くるりん☆燃え燃え斬り』かなぁ。皆が言う炎魂縛武も混ざってるし、これなら他の技とも組み合わせが出来そうな気がする」
「技が決まればあとは地道に基礎訓練で基礎能力を向上させ、コレと見込んだ技を徹底的に磨きぬくしかないですね」
 炮の言葉は尤もだ。
 どんなに良い必殺技でも、実際に使うことが出来なければ意味がない。
「一朝一夕で必殺技が身に付く人というのは、実現可能な能力があるか、既得の技の応用発展で身に着けているというのが大半ですから」
 頑張ってください。
 そう言った彼女に、義貞は元気に頷いて見せた。

 そして後日、義貞はペケを説得し、なんと技名の変更を実現していた。
 悔しげにペケが変更した技名は――渦炎旋風斬(かえんせんぷうざん)。
 この命名に、義貞は大いに満足し自分だけの必殺技を手に入れたのだった。