【遺跡/試練】知を示せ
マスター名:朝臣 あむ
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/06/12 07:28



■オープニング本文

 四方を山に囲まれた里。
 そこで旅立ちを前に胸を弾ませている少年がいた。
「俺、絶対に天儀一の開拓者になるからな!」
 瞳を輝かせ意気込む少年は、里に生まれた唯一の志体持ち。
 本来ならこの場に残り、里をアヤカシから守って欲しい、そう思っていた。
 しかしそうした思いとは裏腹に、少年は里を出る決意をする。
 そして今日、開拓者になるべく旅立ちの時を迎えた。
「んじゃ、行ってくる! 開拓者になったら、ちゃんと仕送りするからな!」
 里は裕福とは言えない。
 現状を見れば、開拓者になり通常よりも多い仕送りをすれば、里の者たちの暮らしは良くなるだろう。
 だからこそ期待はある。だが不安があるのも確かだ。
 里の者たちは元気いっぱいに旅立つ少年を、複雑な心境で送りだしたのだった。

●北面・楼港
 北面の飛び地、五行の東部に位置する楼港。
 軍事都市として名高いこの地の城塞外に作られた歓楽街「不夜城」で、開拓者を目指す少年――陶・義貞(スエ・ヨシタダ)の新たな開拓者試練が行われようとしていた。
「明志さん。何を見てるのですか?」
 そう声を掛けられたのは、一件優男にも見える男――明志(アカシ)だ。
 彼は然程広くも無い2階の部屋で、窓の外を眺めていた。
「不夜城全体がザワついてやがる」
 眼下に見える歓楽街・不夜城。
 普段から人の往来は多いこの場所に、新たな客が増えている。それは気のせいではなく確実のもので、その影響で実入りが多いのは確かだった。
「やはり新たな遺跡の影響でしょうか」
「かもな。こちらとしては金になれば何でも良い。で、何の用だ」
 明志は手にしていた煙管を口に咥えると、自らを訪ねた部下に視線を寄こした。
「開拓者ギルドから文が。それと明志さんに会いたいと、胡散臭いサムライが来てます」
「胡散臭いサムライ?」
 そう口にしながら差し出された文を受け取る。
「はい、何でも明志さんと旧知の仲と‥‥」
「アイツか。本当にギルドに復帰したんだな‥‥通して良いぞ」
「わかりました」
 明志の声に部下が去ってゆくと、彼は文に目を落とした。そこに声が響いてくる。
「久しぶりだな、明志」
 豪快に襖を開けて入って来たのは、開拓者ギルドで働く志摩・軍事(シマ・グンジ)だ。
 彼はズカズカと部屋に足を踏み入れ、ドカッと明志の前に腰を下ろした。その豪快さに、明志の口から苦笑に似た笑みが零れる。
「相変わらずだな。噂では開拓者に倒された挙句、子持ちになったとか」
「あん? てめぇだって開拓者にしてやられたって聞いたぞ」
「昔の話だ。で、用件は何だ。遊びに来たわけじゃないんだろ」
 喉奥で笑い文から目を上げた明志に、志摩はコクリと頷いて見せた。
「実はな、開拓者ギルドとして依頼に来たんだ」
 そう言って差し出された文を、明志は繁々と見つめる。
「開拓者ギルドからの依頼が2つ、か。重なる時は重なるものだな」
「何だ。お前さんも開拓者ギルドに戻ったのか?」
「まさか。だが、詫びも込めて貸せる手は貸している。ただし、こちらに利がある時だけだがね」
 明志は煙管を口から離すと、長々と視線を吐きだした。
「軍事の持ってきた依頼は、アンタが面倒みている子供の事か?」
「ああ。てめぇなら聞き及んでるだろうが、今開拓者試練をギルドでやってる。その2つ目――知の試練を頼みたい」
「知の試練か‥‥そうだな‥‥」
 ゆったり口に運ばれた煙管。
 明志は煙を吸い込みながら窓の外に視線を向けた。
 その目に入るのは忙しそうに走り回る役人の姿だ。きっと新たな遺跡に関する何かで動いているのだろう。
「試練は何でも良いのか?」
「‥‥如何いうことだ」
 明志の声に志摩の目が眇められる。
「開拓者ギルドから来た別の依頼が、遺跡探索の資金を集めて欲しいと言うものだった。それを手伝えと言う試練でも大丈夫か‥‥そう聞いているんだが?」
「言われなきゃわかんねえだろ」
 苦笑を滲ませ呟く志摩に、明志は口角を上げて笑いを滲ませた。
「長年の付き合いだ。わかっても可笑しくないと思ったんだが、買被り過ぎか」
 そう呟き煙管を離すと、志摩の傍に腰を据えた。
 そして声を潜める。
「別にアンタの子供に汚いことをさせようってんじゃない。依頼にある必要資金の殆どは俺が集めよう。その他に、あったら助かる分だけの資金を、アンタの子供に任せたい」
「資金集めだけじゃ知の試練にならねえだろ」
「問題ない。資金提供を願い出る場所の目処がついているからな」
 そう言って手を伸ばし棚から取り出したのは、歓楽街の地図だ。それを広げて明志に示す。
「歓楽街の入口からずっと奥。この位置にボロの老舗がある。そこの店主の説得にあたり、資金提供を促して欲しい」
「ちょっと待て‥‥この店‥‥」
 志摩の顔が引きつった。
 それを見て明志は笑いを持たせて腕を組む。
「今は遊郭になってるが懐かしいだろ? ここの爺さんは頑固で強い。だが資金提供を申し出て貰えれば、これ以上の人材はいない」
「確かに‥‥あの爺さんが資金を出すと言えば、それに従う人間はゴロゴロだろうよ」
 何か苦い思い出でもあるのか、苦笑する志摩に、明志は見せていた地図を差し出した。
「場所が複雑だからな、これを貸そう。それと、折角の試練だ。謎かけもしておこうか」
 そう言うと、彼は楽しげに声を忍ばせた。
「――傷を生みし孤高。身を内から焦がす清流を好み、堕落を誘う甘美を嫌う。祖、不夜に生まれし清流を欲す」
 紡がれた言葉の意味を志摩は静かに思案する。そこに明志の解説が降り注ぐ。
「傷を生みし孤高は、爺さんの昔の職業だ。それ以外は、爺さんの好み、爺さんが何を持って行けば説得し易いかを述べている」
「確かに、清流がありゃあ苦労はねえ」
 解説を聞いて答えがわかったのだろう。
 ポンッと手を打つ志摩に、明志は注意を添えた。
「道具はあくまで道具だ。相手を動かすのは、物のみに非ず」
「まあ、な‥‥」
「資金は遺跡探索に当てられる。遺跡を探索して何を望む。あんたの子供にも問いは投げかけられるはずだ。爺さんが臨む答えがなけりゃ、依頼は失敗だろうな」
 そう言って含み笑いをすると、明志は煙管を咥えた。


■参加者一覧
志野宮 鳴瀬(ia0009
20歳・女・巫
緋炎 龍牙(ia0190
26歳・男・サ
高遠・竣嶽(ia0295
26歳・女・志
大蔵南洋(ia1246
25歳・男・サ
御凪 祥(ia5285
23歳・男・志
ブラッディ・D(ia6200
20歳・女・泰
シャンテ・ラインハルト(ib0069
16歳・女・吟
将門(ib1770
25歳・男・サ


■リプレイ本文

 歓楽街「不夜城」に用意された部屋で、開拓者たちは今回与えられた謎かけについて考えていた。
「一筋縄にはいかなぬ御方、と言うことなのでしょうね。此れは」
 部屋の中央、円になるように腰を据えた野宮 鳴瀬(ia0009)が呟く。
「‥‥個人的には、謎かけが指す御仁に対する興味の方が大きいですけれども」
 そう口にして、彼女は手にしていた扇子で口を覆った。
「受け取り方によって色々と解釈が変わる謎かけですけど‥‥示す者は源流殿の人となり、とも取れそうですわね」
「この清流とはお酒のことを示しているのだろうか? 生憎とお酒はあまり飲んだことが無いのだけれど‥‥」
 鳴瀬の声を拾い、緋炎 龍牙(ia0190)が呟く。
 顔面を覆うような頭巾を指で引き上げ、中身の減った湯呑を置くと彼の目が皆を見まわした。
「正直なところあまり自信がないのでな、俺は純粋に試練の手伝いと遺跡に関する情報集めに主眼しておこう」
 こうは言うが、別に謎かけに興味がない訳ではない。ただそれ以上に気になるものがあるだけだ。
「俺も清流は酒だと思う。不夜城名産のお酒でもあれば、それを手土産にが良いんじゃないか」
 そう口にしたのは将門(ib1770)。
 彼は黒い瞳を瞬かせると、ふむと首を傾げて見せた。
 それに同意するように声を発したのが御凪 祥(ia5285)である。
「それに関しては俺も皆と同じだ」
 手にした湯呑を座敷の上に置き続く言葉を紡ぐ。
「後は『傷を生みし、孤高』これは爺さんの元職だが‥‥これは開拓者の世話役。義貞の世話をしてると言う志摩さんの様な感じのことしてたんじゃないかと思った」
「私も御凪様と同意見です。何となくですが、開拓者とまでは行かずとも、我らのような事をしていたのではと」
 祥と同じように湯呑を座敷に置いた高遠・竣嶽(ia0295)は、そう口にすると思案気に目を伏せた。
「なんとも厄介な依頼ではありますね‥‥とはいえ、開拓者となれば説得に赴く事もしばしば‥‥良い経験ではございますか」
 口中で呟く言葉は誰かに向けた訳でもない。
 当然拾われることなく話し合いは続き‥‥。
「謎かけの文言から察するに‥‥皆が言うように酒で問題ないであろう。不夜城名産、辛口、濁りのない澄んだ酒ということになるか」
 大蔵南洋(ia1246)は皆の考えを纏めると、静かに腰を上げた。
「どちらへ?」
 声を掛けたのはシャンテ・ラインハルト(ib0069)だ。
 彼女も皆と同じ、清流が酒であろうと考えている。だからこそ静かに耳を傾けていたのだが、腰を上げた南洋の行動には疑問を感じたのか思わず問いを向けてしまった。
「今の条件を満たす酒の有無について、酒屋を巡って話を聞いてみる必要があるだろう」
「でしたら、私も参りましょう」
 南洋の声に鳴瀬も腰を上げ、他の皆も同じように腰を上げた。
 その時、ふと龍牙が今さらながらの疑問を口にした。
「少年は何処だ?」
 彼は義貞と面識がある。だからこそ彼がいないことにも気付いた。
 そして同じく義貞と面識のある竣嶽が腰を上げると、彼女は苦笑を滲ませて窓の外に視線を投げた。
「外が騒がしいようです」
「外?」
 皆の視線が外へと向く。
 そこに見えた2人の姿に皆の目が瞬かれた。
「よーし、新たな試練だー!」
「試練だーっ!」
 ブラッディ・D(ia6200)の声に合わせて声を張り上げるのは、今話題に上がった試練の当事者、陶・義貞だ。
 彼は拳を天に振り上げて気合十分に叫んでいる。
「今度の試練は知‥‥あ、頭使うの苦手だけど、がんばろー‥‥?」
「ガンバロー!」
 小首を傾げたブラッディとは違い、義貞は訳も分からず元気だ。
 頭を使うことは苦手なんだとそれだけでわかってしまう。
「‥‥大丈夫なのか?」
 そう漏らされた祥の声に、皆が心の中で同意したのは言うまでもないだろう。

●酒を探しに
 昼間の不夜城は、夜の賑わいとは違い、落ち着いた雰囲気を漂わせていた。
 開拓者たちはそんな中、目につく酒屋を中心に店屋を巡っていた。
「不夜城名産の酒‥‥それが希少な酒であった場合は、蔵元なり納入先なりに訳を話して融通して貰えるよう乞わねば‥‥そう思っていたのだが‥‥」
 南洋はそう呟き、店頭に並ぶ酒を眺めていた。
 その近くには、共に行動する鳴瀬の姿がある。
「そうですか‥‥では、こちらでも‥‥」
 思案気に呟く姿に南洋が苦笑を滲ませる。
 その目が店頭に飾られた酒を眺めると、再び苦笑が漏れた。

「すっげぇ! 神楽の都みたいに店がいっぱいだ!」
 そう言って駆けだそうとした義貞の首根っこを掴んだのは祥だ。
「落ち着け」
 静かに言われた言葉に、興奮気味の好奇心に満ちた瞳が向かう。
「だってさ、こんないっぱいの店、あんま見ねえもん!」
「‥‥高遠さん。これはいつもこうなのか?」
「大凡間違いではありません」
 ジタバタと暴れる義貞に、竣嶽は神妙な表情で頷く。
 その上で話を続けようとするあたり、彼女は義貞の扱いに慣れてきている。
「手に入れる為に相応の対価が必要というのであれば、可能な限り手に入れたいとは思っていましたが‥‥本当に、あれで良いのでしょうか」
 竣嶽が見るのは、遊郭の前に開かれた商店だ。
 そこに陳列する商品を見て、祥も同じように苦笑を零す。
「だとするなら簡単すぎる」
「んー‥‥とりあえず買っとくか? 他の店も似たようなもんだったし‥‥」
 そう問うのは、祥の手から義貞を受け取ったブラッディだ。
 彼女は他の店を覗いて戻ってきた所で、そんな彼女の言葉に、義貞を除いた3人が顔を見合わせる。
「間違いでも買わないよりは良いでしょう」
 竣嶽のその言葉に店頭へと向かおうとしたブラッディの足が止まった。
「あれ、義貞がいない?」
 先程まで傍にいた義貞の姿がない。
「‥‥高遠さん。もう一度聞くが、いつもこうなのか?」
「‥‥大凡、間違いではありません」
 そう口にした高遠と祥の口から、呆れたような溜息が洩れた。

「‥‥これが、不夜城名産の酒」
 目の前に並ぶ酒を眺めながら呟くのは龍牙だ。
 彼は茶の瞳を眇めると、低く唸って隣に佇むシャンテを見た。
「演奏で客寄せのお手伝い、ぐらいはお引き受けしようと思っていたのですが‥‥必要、ないでしょうか‥‥?」
 笛を抱き小首を傾げる仕草に合わせて、紫の綺麗な髪が揺れる。
 その流れを陳列する酒と共に眺めるのは将門だ。
「文字通り手土産には違いない‥‥いや、実際には土産だが‥‥」
「とにかく買って行こう。これが不夜城名産の酒らしいから」
 そう言って龍牙が酒を手に店主を呼ぼうとした時だ。
「何してんだー?」
 突然の義貞の声と共に、龍牙自信に衝撃が走った。
「きゃあ!」
 シャンテの声に将門が心の中で合掌する。
 そして‥‥。
――ガッシャーン☆
 響き渡った音に店主が飛び出してくると、他の場所で酒を買ってきた開拓者たちも今の音に集まってきた。
「これは‥‥」
 扇子で口元を隠す鳴瀬が呟く。
 そしてその傍では、惨状を目に思わず視線を外した峻嶽がいる。
「なあ、高遠さん‥‥」
「‥‥聞かないでください」
 現状、それは壮絶たるものだった。
「アンタ達、何てことしてくれたんだ! これじゃあ酒も店も滅茶苦茶じゃないか!」
 店主の隣りは尤もで、飛びついた義貞を支えきれなかった龍牙が陳列されていた酒に突っ込んだのだ。
 怪我はなかったことが唯一の幸いだが、半分以上の瓶は割れている。
 それらを眺め、シャンテは手にしていた笛をぎゅっと握りしめた。
「‥‥実利の為の曲、どのような想いを乗せて奏でるべきか、迷います‥‥」
 この後、ほんの僅かの時間だが、店の営業を妨害した詫びとして、開拓者たち全員が店の売り上げを手伝ったとか。

●源流と開拓者
 地図を片手に訪れたのは、話に聞く以上にボロボロになった店だった。
「お会い出来て光栄です」
 そう言って鳴瀬が置いた酒瓶に、源流は僅かに眉を揺らす。
「‥‥頂いておこう。それで、このような店に何用で参った」
 この場に訪れた義貞を含めた総勢9名は、どう見ても客には見えない。それを踏まえた上での問いに、南洋が口を開いた。
「栢山遺跡群探索のための資金援助を願いたい」
 源流の表情が一気に険しくなった。
 その顔を見ても南洋は怯まない。
「遺跡開拓で得れる利益は大きいと思われます」
 そう言葉を切ると、南洋は自らが思う出資者の利益を説いた。
「――成程。宝珠の供給安定が公共の益となる。宝珠採掘権利者が確定していない可能性がある為、応分の見返りが見込まれる‥‥か」
 話を口中で纏めると、源流は息を吐いた。
「わしは利益に興味はない。この店を見てわからんか?」
 確かに、店はボロくとても繁盛しているようには見えない。
「そもそも、お前たちは遺跡を探索して何を望む。信念の無い者に出資する金はない。わかったらさっさと――」
「伝承が事実なら、天儀の獣人の皆さまの故郷、腐敗に侵された地が遺跡の先にある、ということになります」
 シャンテは普段曲に想いを乗せるように、自らの想いを乗せて言葉を紡いだ。
 その声に源流の口が噤まれる。
「遥か時、伝承という名の忘却の彼方であれ‥‥帰るべき場所、彼らのルーツを見つけ出して差し上げたい、と。故郷は、とても大事だと思いますから」
 シャンテの両親は既にこの世にはない。
 だからこそ、故郷を臨む獣人たちの気持ちが彼女にはわかるのだ。
「俺はそんな大層な理由じゃない。未開の地‥‥遺跡に関しては探究心が大半なもので」
 そう口を切ったのは龍牙だ。
「遺産目的ではなく、純粋に旅人として興味を覚えたのですよ。後は、純粋に強くなるのが目的だ」
 本音を隠すことはしない。温厚で真面目な彼らしい言葉だ。
 それに鳴瀬も続く。
「此の身も開拓者なればこそ、未だ見ぬ地に何が秘められているか‥‥口伝ではなく、自らの目で知る事を望みます」
 そう言って扇子を閉じると、鳴瀬は瞼を伏せた。
「俺は‥‥新たな儀は眉唾だが、遺跡は事実としてあった。ならば、その先を見てみたい」
 将門は出発の前に開拓者ギルドで遺跡の情報を集めた。
 自らが今まで知らなかった伝承に少なからず心惹かれた。それを自分の言葉で源流に伝えようとする。
「もし、新たな儀があるならば、その発見者に名を連ねてみたい」
「俺自身は、こちらで遭遇するアヤカシとは違うという遺跡のアヤカシに興味がある」
 祥の言葉に源流の目が彼に向かった。
 その目には問い定めようとする動きがある。
「魔の森対策の一環とかそう言った善意とかではなく、純粋に戦いたいと」
「戦って何を得る」
「何も。持て余した激情を押さえる術として開拓者になったしな」
 冷静に言葉を話す祥を見る限り、そんな激しい無い面があるとは思えない。
 だが、源流はそれで納得したようだ。
「私自身は‥‥遺跡を探索することで人々の役に立つような宝珠、あるいは物品が手に入ればと‥‥何よりもアヤカシに抗する手段や力が手に入れば‥‥」
 歯切れ悪く言葉を繰り出したのは竣嶽だ。
 彼女は思案気に伏せていた瞼を上げると、源流を見た。
「理由は‥‥お話し辛いですけれど、何らかの形で人々の役に立てればという想いは、真だと信じて頂ければ」
 竣嶽の中にもまた、祥と同じく激情が隠れている。
 その全ては言えないが、真実の想いは分かって欲しい。
 そんな彼女に続いてブラッディが腰をあげた。
「えと、えと、俺だって‥‥」
 彼女は源流の前に来ると、拳を彼を見下ろした。
「人に頭を下げるのなんて、キライだけど‥‥っ‥‥」
 彼女の目が腰を据える義貞を捉えた。
 そして、その目が源流に戻ると、その頭が勢い良く下げられた。
「お願いします、どうか‥‥!」
 深々と頭を下げる姿は、義貞のために説得を成し遂げたいと言う想いが伝わってくる。
 源流が買収や色仕掛けを嫌うと判断し、彼女は真っ直ぐにお願いすることにした。
「坊主。他の開拓者たちの想いは聞いた。お前は如何だ」
 源流の目が、座っているだけの義貞に向いた。
「え、俺?」
 この場全員の視線を受けて義貞の目が瞬かれる。
「坊主は何もないのか?」
「お、俺は‥‥」
 戸惑う義貞に、皆の暖かな視線が降り注ぐ。
「陶様。正直に自身の想いを打ち明けては如何でしょう」
「折角だ、熱く語ると良い」
 竣嶽、祥の言葉に義貞の瞳が揺れる。
「遺跡に関してはさっき教えた通りだ。何故志士になりたい、とかでも良いのではないか?」
 そう声を掛けるのは将門だ。
 彼は自らが調べた遺跡の情報を彼に教えていた。
 だから義貞が遺跡について知らないと言う事はない。
「君は開拓者になってどうしたいんだい?」
「義貞、お父さんのためにもここは1つビシッといっとけ!」
 龍牙、ブラッディの声に、漸く義貞の目が定まった。
 彼は立ちあがると、ブラッディの傍に立って源流を見た。
「俺‥‥俺は、天儀一の開拓者になりたい!」
 声大きく叫んだ彼の姿に源流が目を眇める。
「んで、俺を助けてくれた姉ちゃんたちみたいに強い志士になって、故郷の皆や、天儀や他の国の人たちを助けたい! 遺跡は‥‥よくわかんねえけど、探索して皆が喜ぶならやれば良い! だから爺ちゃん、金貸してくれ!」
 そう言って差出された手に、この場の全員が面食らったように固まった。
 そして‥‥。
「っ、クク、金貸してくれ、か‥‥コイツは良い!」
 源流はそう笑うと、ポンッと自らの膝を打った。
「あいわかった。金は貸してやろう!」
「え‥‥随分とあっさり‥‥」
 思わず口にしたのはシャンテだ。
 それに同意して他の皆が源流を見る。
「話の半分は酒で決めていた。それが答えだからな」
「‥‥まさか‥‥」
 竣嶽の驚く顔に、源流は頷きながら顎髭を擦った。
「言っておくが決め手は、お前さんらの言葉と、そこの少年の言葉だ。少年の言葉に知性はないが、人の心を動かす情熱はある。それを引き出したのはお前さんらだ。俺は闇雲に益だけを求める者は好かんしな」
「では甘美とは買収‥‥か」
 呟く南洋に源流は首を横に振る。
「アレは単に酒の好みだ。お前さんらが持ってきた酒は不夜城名物・極辛純米酒。わしは甘い物が苦手だ」
 そう言いながら酒を手にした源流は至極嬉しそうだ。
「単純だったな」
「まったくだ」
 将門の声に龍牙が苦笑を交えて頷く。
 そこにブラッディの元気の良い声が響いて来た。
「義貞、これで知の試練も合格だぞ!」
 義貞の手を取って喜ぶ彼女に、声を掛けられた当人も嬉しそうだ。
 その姿を眺めながら祥がある疑問を口にした。
「――で、爺さんの元職は何なんだ?」
「元開拓者だ。明志と軍事はわしの弟子にあたる。共に迷惑をかけているようで申し訳ない」
 そう言うと源流は酒の蓋を開き、開拓者の人数分の杯にそれを注いだ。
 そして皆の前にそれを置く。
「傷を生みし孤高‥‥やはり、元開拓者でしたか‥‥」
 鳴瀬はそう呟き、源流の注いだ酒を口に運んだのだった。