流行を生め!
マスター名:朝臣 あむ
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/06/04 20:23



■オープニング本文

「な、なな、なんなんだ、これはっ!!!」
 開拓者ギルドで木霊した叫び声。
 その目線の先にあるのは、山のように積み重ねられた人形だ。
「‥‥いったい誰がこんなもの」
 そう言いながら持ち上げた人形に、「うげっ」と顔が引きつる。
 それもその筈、手にした人形は可愛くもなんともない。
 それどころがかなりな割合で気持ち悪い。
「この悪趣味な人形‥‥あれ? この顔、何処かで‥‥」
「おや、山本殿。お疲れ様です」
「ん?」
 職員こと山本の目が動いた。
 それが捉えたのは、人形の山に埋もれるように座る大男だ。
 狩衣に身を包み、手には針と糸、そして――人形を持っている。
「お前が犯人かっ!!!」
「はて、犯人とはいかように?」
 首を傾げる大男から人形を奪い取った山本は、キッとその顔を睨みつけた。
「お前しかいないだろ! ったく、志摩は何だってこんなのを置いて行ったんだ!」
 この大男は、都で先日騒ぎを起こした人物である。
 名を「白馬 王司(ハクバ オウジ)」と言い、一旦は役人に突きだされたものの、キツイお仕置きをされた上で数日後に解放された。
 その時の身元引受人として志摩が身柄を引き受けに行ったのだが、現在当人は留守だ。
「いくら腕の立つ開拓者だからって、こいつは‥‥」
 そう言って手にしていた人形に目を落とす。その目が徐々に見開かれ、白馬と人形を何度か往復した。
「こ、この顔、まさか‥‥なあ、白馬。これってまさか‥‥」
「おお、これですかな。これは、筋肉人形ですぞ!」
「‥‥」
 突っ込む気も失せる。
 だがここは聞かねばなるまい。
「何で、筋肉人形なんか作ったんだ? ってか、この人形の顔、お前まんまじゃん」
「それはですな! 昨今、流行を生みだすのがブームとか。志摩殿が言うには、キモキワブームが来るとかで、路銀稼ぎにどうかと言われましてな!」
 豪快に笑って自信満々に言い放つ白馬に、山本は堪らず頭を抱えた。
「志摩‥‥アイツ、わざと滅茶苦茶なこと吹き込んで行きやがったな。義貞が試練に行ったので安心していたと言うのにっ! これじゃあ、何も変わらないじゃないか!!!」
 ダンッと床に人形を叩きつけた山本は、気持ち悪い筋肉人形の山を見た。
 そして殺気の籠った目で白馬を見据える。
「白馬!」
「はい。何でしょう?」
「それを全部売っぱらって来い! 出来なきゃ、ギルドの敷居はまたがせない! んな気持ち悪い人形を、ギルドに1つも置かせないからな!!!」
「な、なんと!?」
 驚く白馬に山本は言い切った。その勢いで、鼻息を吹く。
 だが彼はまだ、白馬の誤解釈の威力を知らなかった。
「おお、このような大任を私にお任せ下さるとは! 是非ともお任せ下され! この白馬王司! 全身全霊を込め、キモキワブームの生みの親となりますぞ!!」
「え?」
 バサッと脱ぎとられた狩衣。
 腰巻1つになってポージングを取った白馬に、悪戯な風が吹く。
 その直後、山本の悲痛な叫びがギルド内に響き渡ったのだった。


■参加者一覧
倉城 紬(ia5229
20歳・女・巫
九条 乙女(ia6990
12歳・男・志
ルエラ・ファールバルト(ia9645
20歳・女・志
エルディン・バウアー(ib0066
28歳・男・魔
日入 信悟(ib0812
17歳・男・泰
岩宿 太郎(ib0852
30歳・男・志


■リプレイ本文

●販売人参上
 開拓者ギルドの倉庫に、山のように積まれた筋肉人形を前にポージングを取るのは肉体派陰陽師の白馬・王司だ。
「お待ちしておりましたぞ!」
「貴公が白馬王司殿ですな。魅力的な筋肉人形を作ったと聞き、馳せ参じましたぞ!」
 見た目がとても可憐な彼の名は九条 乙女(ia6990)。
 彼は王司の顔を見てから、彼の筋肉に視線を落とした。
「素晴らしい筋肉‥‥時間があれば、王司殿に筋肉の鍛錬方法を聞きたいですぞ」
「構いませんぞ!」
 王司が新たなポーズを取って答える。そこに、乙女の後ろから倉城 紬(ia5229)が顔を覗かせた。
「あ、あの。倉城と言います‥‥宜しくお願いしますっ!」
 おどおどと声かける彼女は男性が苦手だ。
 だが王司にわかる訳もなく‥‥。
「おお、よろしく頼みますぞ!」
 ムキッと笑って顔を近付けたのだが‥‥無言で逃げられた。
「‥‥あの方、白馬王司さんと仰いましたか」
 やり取りを、距離を置いて眺めるのは、ルエラ・ファールバルト(ia9645)だ。
 彼女は、王司と面識がある。
 ただし以前会ったときは、腰巻一枚で人様に迷惑をかけていた彼を、退治しようとして‥‥だ。
「あまり思い出したくはありませんが‥‥仕方ありません」
 沈痛な面持ちで呟き、勇気を持って一歩を踏み出す。と、王司の目がルエラを捉えた。
「おお、お嬢さんはあの時の!」
「‥‥改めまして。志士のルエラ・ファールバルトと申します。今回は、どうぞよろしくお願いいたします」
「これはご丁寧に‥‥」
 王司の声と共に何かが舞い上がり、肉色が目に飛び込んできた。
 ピクピク動くのは、鍛え上げられた筋肉だ。
「ッ!!」
「こちらこそ、よろしくお願いしますぞっ!」
 華麗にポーズを取った王司に、ルエラの足がズザッと下がった。
 そこに別の声が響いてくる。
「最先端の筋肉人形ブームを生んだ筋肉仕掛け人! これほど魅力的なキャッチフレーズがあるだろうか!」
 嬉々として人形に魅入るのは岩宿 太郎(ib0852)だ。その手にはしっかりと人形が握られている。
「よ〜し、マッスルブーム目指していっちょやるか!」
「そうッスね! 漢の魂こもったこの人形、流行しないはずが無いッス!」
 人形を手に拳を掲げる太郎。そんな彼に日入 信悟(ib0812)が同調する。
「目標は筋肉人形の完売! ついでに漢を学ぶッス!」
 意気込む姿に青いバンダナがヒラリと揺れ、人形が掲げられた。
 そして全ての外で、真面目な顔をしてエルディン・バウアー(ib0066)が人形を眺めていた。
「ふむ」
 青い瞳が、ルエラを部屋の隅まで追いつめた王司に向かう。
「こういう人形が好まれる場所、想像がつきますよ」
「それは誠ですかな!」
「ええ、神父は嘘を吐きません」
 エルディンは聖職者スマイルを披露すると、コクリと頷いて見せた。
「それは頼もしい! して、その場所とはいったい何処でしょう!」
「全ては神の導くままに‥‥さあ、私と共に行きましょう!」
 振り撒かれる笑顔に希望が見え、この場の全員にやる気に満ちた。
 それを物陰から隠れて見つめるのは、ギルド職員の山本だ。
「‥‥不安だ」
 こんな呟きを他所に、一行は筋肉人形を売りに向かった。

●劇開幕
 荷台を引きながら都を歩くのは、乙女、ルエラ、そして紬だ。
「この辺りで行けますかな?」
「ええ、この辺りなら問題ないでしょう」
 荷台を止めたのは都の広場だ。
 人の往来も多く、集客にはうってつけの場所だろう。
「紬殿、この台を持つのを手伝ってくだされ」
「は、はい‥‥」
 用意されたのはステージにもなりそうな小さな台だ。
 その周辺には、既に人が集まり始めている。
 そして‥‥。
「さあ、これより人形劇を行います。ぜひとも足を止めて見て行って下さい!」
「見て‥‥くだ、さぃ‥‥」
 ルエラの華やかな呼び声と、紬の恥じらう姿と声に、人々の足が止まる。
 人形劇だけあって、子供たちの足が止まる率が高いが、大人の姿も見える。
「九条さん‥‥準備は‥‥」
「うむ、問題ないですぞ」
 用意されたステージの後ろに隠れ、乙女が答え、これがルエラへの合図となった。
「――これより『開拓者オウジロウの冒険』を始めます」
 ルエラのコールに、観衆の拍手が鳴り響く。
 こうして乙女作の劇が始まった。

 物語は天儀歴10××年――世界はアヤカシによって滅ぼされ、人々はアヤカシの脅威に怯え暮らしていた。
 そんな中、とある村に「オウジロウ」という青年が訪れる。
 彼は村人オジオに助けを求められ、それに応じてアヤカシオージに囚われたヒロイン「オジリア」を助け出すこととなる。
 アヤカシオージを倒したオウジロウは見事村を救い、ハッピーエンドで物語は幕を閉じるのだが‥‥。

「ねえ、あの人形、全部同じじゃない?」
 解説しなくてもわかるだろうが、人形劇の人形は全て筋肉人形だ。
 着ている服は紬を中心に作った物で、作成時には実際に筋肉人形を目にした彼女が顔を真っ赤にして困っていた。
『‥‥こ、これが。あの‥‥はわ‥‥』
 そう言いながら、初めはオロオロと人形の周りを行ったり来たり。
 それでも頑張って手に取ったのは、憧れの存在である乙女がいたからかもしれない。
「倉城さんの作ったお洋服は、本当に丁寧であれだけでも売れそうですね」
 コッソリ囁きかけるルエラに、紬の頬が染まる。
「あ、後で使用すると、思って‥‥その‥‥服の、寸法を書いて‥‥」
 紬の仕事は事実丁寧で、寸法を書いた紙には文字だけでなく図解も添えられていた。
 しかも作った数がまた凄い。
『‥‥できましたぁ〜。一応、50着ですが‥‥』
 そう言って並べられた衣装は圧巻だった。
「人形、無事に売れると良いですね」
「は、はい‥‥」
 真っ赤になって頷いた紬に微笑むと、ルエラは劇に視線を戻した。
 物語は既に佳境。
 アヤカシオージとオウジロウが対決するシーンだ。
「『アヤカシオージよ、貴様には地獄すら生ぬるいですぞ!』」
 そう乙女が叫んだ時、オウジロウの服が綺麗に引き裂かれ、腰巻一枚になった筋肉人形が飛びあがった。
「『ギャアアアアッ!』」
 ゴトリと倒れたアヤカシオージ。
 助け出されたオジリアは、オウジロウに抱きついた。
「残るはヒロインとのきすしーん‥‥うっ‥‥」
「‥‥九条、さん?」
 ブバッ☆
 抱きあう人形の背後で、真っ赤な飛沫が上がった。
 それに合わせてぶつかり合う人形の顔。
 まるで噴火する火山をバックにラブシーンを見せつける人形に、盛大な拍手が上がった。
「凄い演出だな!」
「オウジロウ、カッコイぞッ!」
 劇は予想外の演出で大成功。
 乙女は血の海に沈んでいるが、これで人形の売り上げは完璧のはずだ。
「そ、そうでした。人形を売りませんと!」
 茫然と乙女を見ていたルエラが、思い出したようにステージ横に顔を出した。
「皆さま、劇は楽しんでいただけましたか?」
 ルエラの声に、元気の良い声が返ってくる。
「劇で使用したオウジロウ人形、それにオジリアを含めた全てのキャラクターの人形を販売いたします。数に制限がありますので、一列に並んで仲良くご購入くださいね」
 ニッコリ笑いながら並べられる人形に、劇を見て興奮冷め止まぬ客たちは、一気に行列を作った。
「あれ? このお人形、劇で出たなかったよ?」
「これは金剛力士像に扮したオウジロウです。家を守る守護精霊として、アヤカシの元になる瘴気から身を守るお守りとしても役に立ちますよ」
「へえ、すっごい! 僕、これ買う!」
「あたしも!」
 紬も手伝ったが金剛力士像っぽく細工を施した人形はルエラの作品だ。これもオウジロウ人形同様にどんどん売れてゆく。
「うっ‥‥私も売ります、ぞ」
 青白い顔で起きあがった乙女。そして彼を介護していた紬も、販売に参加した。
 こうして人形劇は大盛況の内に幕を下ろしたのだった。

●秘密の○○
「開拓者の中で隠れた人気! マッスル人形きんにくん! いかがッスかー! 魔除けになるッスよー!」
 背中に「素敵!」「筋肉!」「ワッショイショイ!」と書かれた旗を背負って都を歩くのは信悟だ。
 どうやら彼は1人で人形を売っていたらしいのだが、まだ一体も売れていない。
「そう言えば、エルディンさんと太郎さんが歓楽街の方へ行ってるッスね‥‥俺も行ってみるッス」
 そう呟くと、信悟は筋肉人形売りの声を上げながら、歓楽街へと向かった。

「こういうのを売る時は、頭の中にこびりつくキャッチフレーズが一番!」
 そう言って筋肉人形に自分の髪を植えるのは太郎だ。
 先程からちょんまげ、坊主、角刈りなど、いろいろな髪型の筋肉人形を用意している。
 その隣では同じように髪型を弄る王司がいる。
「キャッチフレーズですか。例えばどんな物があるのでしょうな」
「『トントン相撲ディフェンディングチャンピオン』とかどうだ?」
「チャンピオンですか。それはそそられるキャッチフレーズですな!」
 嬉々として受け入れた王司に、太郎は満足げに頷く。と、そこにエルディンが声を掛けて来た。
「だいぶ準備ができましたね。そろそろ行きましょう」
「‥‥なあ、マジに行くのか?」
 筋肉人形を荷台に積みながら呟く太郎のテンションは、すっかり落ちている。
 そんな彼の肩をがっちり掴んだエルディンは、彼の顔を覗き込んで言う。
「筋肉には筋肉を! さあ、太郎殿、王司殿、行きましょう。場所は聞きこみ済みです」
 太郎と王司が人形の準備をしている間に、必要な情報をギルドで仕入れたらしい。
 こうして残る三人も歓楽街へと向かったのだが‥‥。

「ここが噂の場所ッスか!」
 歓楽街の奥まった場所で足を止めた信悟は、店を前にカクリと首を傾げた。
「‥‥なんか変わった所ッスね」
 それもその筈。
 現在彼が立っているのは、歓楽街に用意されたゲイバ‥‥もとい、薔薇系のお店が集まる場所だ。
「漢を目指す者として来てみたッスが、これは‥‥ん?」
 突如、店から誰かが飛び出してきた。
 その姿に信悟の目が瞬かれる。
「ちょっと待てぇッ!!」
 上半身裸に下半身には腰巻1つ。まるで今売り歩いているような人形と同じ姿をした人が、店に向かって叫んでいる。
「太郎殿、往生際が悪いですよ」
「いや、こういうものはその道の愛好者に売るべきものなのは良いんだけども‥‥何故薔薇のかほり漂う店に行く! あんたホントに聖職者!?」
「勿論です」
 ニコニコ微笑みながら店を出て来たのはエルディンだ。
「エルディンさん‥‥ってことは、あの腰巻は‥‥太郎さんッスか!?」
「おや、信悟殿もお見えになりましたか」
 キラーンッと青い目が光り、背筋に寒いものが走る。だが合流したからには協力せねばなるまい。
「えっと、手伝いに来たッス?」
「ようこそ、大人の世界へ」
 そう言って信悟の腕を掴んだエルディンに、太郎が目に見える場所で合掌する。
「来ちまったのか‥‥ご愁傷さん」
「え、えええ???」
「さあ、華々しい大人への第一歩です。潔くパアッと行ってしまいましょう!」
「ち、ちょっと待つッスー!」
 パァッと舞い上がった洋服たち。
 後に残されたのは腰巻姿の男、2人だった。
「――今10個お買い上げいただくと、こちらの太郎殿と信悟殿のどちらかがサービスで2時間無料アルバイトします!」
 正座して筋肉人形が売れる瞬間を恐怖と共に待つ信悟と太郎。その目の前で、エルディンがこれ以上ないほど輝かしい笑顔で筋肉人形を売っていた。
 その直ぐ傍では、既に渾身的に働く王司の姿もある。
「‥‥抱き合わせ商品に人身御供とは‥‥恐るべし」
「太郎殿、ご指名ですよ♪」
 目を向ければムキムキマッチョのお兄さん‥‥いや、仕草はお姉さんが、腰をしならせ立っていた。
「うふん、お願いね♪」
 バチコンッ☆と向けられるウインクに、今にも後ろに倒れそうだ。
 だがここはグッと踏ん張る。
 全ては筋肉人形を売りきるために!
「えぇいやってやる! やってやるぞっ!!」
「クククッ‥‥素晴らしい。太郎殿の渾身的な自己犠牲慎、私は忘れません。お笑い話として教会で語り継ぎましょう!」
「語り継ぐなっ!」
 そんな太郎の叫びを楽しそうに聞いていたエルディンにも、お姉さんが近づいてくる。
「おや。残念ですが私はそういうサービスは無理です。見ての通りの優男ですから」
 申し訳ありません。そう言葉を添えて笑顔を放つ。
 もう特技と言っても過言ではない笑みを見ながら、人身御供になるのを待つだけだった信悟が立ちあがった。
「やるッス! 俺も筋肉人形を売るッスよ!」
 そう言って立ちあがったのはテーブルの上。
 天井が高いことを確認して、翼を広げるようにブワッと両手を広げた。
「荒ぶる鷹のポーズッス!」
 この場の全員の視線を受けながら、華麗に舞い上がる。
「ホォォ! 信悟流大回転荒鷹陣ッスゥ!」
 クルクル回転しながら舞い降りた身が、見事に着地を果たす。もうこの際、身に付けた腰巻が舞い上がったことは華麗にスルーだ。
「きゃあ、可愛い♪」
「良いわあ、このボウヤ♪」
 次々と集まるお姉さま方に、信悟がニカッと笑った。
「これから流行に乗るこのきんにくん! 俺と一緒にいかがッスか!」
「「「買ったぁぁ!!!」」」
 野太い声がハモリ、エルディンの「毎度あり〜」の軽快な声が妖しい店の中で響いたのだった。

●成果は‥‥
「完売おめでとう。これは少ないですが貰って下さい」
 そう言うと、山本は売上金の一部を開拓者たちに手渡した。
「あの手の筋肉を愛する方々‥‥と申しますか、理想の肉体美を追い求める方々が、あの像をかなり買われたようですね」
 ため息交じりにルエラが呟く。
 人形劇で売っている間は良かった。だが、戻ってから残りの人形が売れた経由を聞いて少し憂鬱になったようだ。
 そんな彼女の隣では、残念そうに売上金を受け取る乙女の姿がある。
「王司殿に筋肉鍛錬の方法を聞きそびれましたぞ」
「‥‥きっと、次の機会が、あります‥‥」
 腕をプニった乙女に、紬は穏やかに微笑む。
 そんな微笑ましい2人の姿を見てから、山本の目が室内を見回した。
「そう言えば、白馬は? それに他の2人も‥‥」
「彼らは延長サービス中です」
 売上金を数えながらエルディンが答える。その声に、山本は不思議そうに首を傾げた。

――歓楽街。
「俺、帰ったら買ったばかりの輝かしい褌穿いて清々しい気分で朝を迎えるんだ!」
 そう言いながらマッチョなお姉さんたちに囲まれる太郎の直ぐ傍では、力尽きた信悟が座り込んでいた。
「‥‥漢を目指すのは‥‥大変、ッス」
 初めこそ頑張っていたのだが、今では体力の限界を超えて動けない。
 そこにお姉さんたちが可愛いと揉みくちゃにされるから下手に動けもしない。
 そんな2人を他所に、王司だけは元気だった。
「まだまだ働けますぞー!」
 華麗に取ったポージング。それに上がる拍手に王司は満足げに次のポーズを取り、これが朝まで続いたとか‥‥。