【試練】試される勇気
マスター名:朝臣 あむ
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/05/22 15:08



■オープニング本文

 四方を山に囲まれた田舎の里。
 その里の入口に集まった人々を見まわして、少年は清々しい笑みを浮かべた。
「俺、絶対に天儀一の開拓者になるからな!」
 瞳を輝かせる少年の名前は「陶 義貞(スエ ヨシタダ)」。
 彼は里に初めて生まれた志体持ちだった。
 本来なら里に残りこの場を護って欲しい‥‥そう思っていた。
 だが少年にとってこの里は小さかった。
 彼は開拓者に憧れ、里を出る決意をしたのだ。
「んじゃ、行ってくる! 開拓者になったら、ちゃんと仕送りするからな!」
 そう言い残して少年は里を出た。

●東房国・霜蓮寺
「忙しいところすまねえな」
 そう言って部屋の中央に胡坐を掻くのは、開拓者ギルドで働く志摩(シマ)だ。
 彼は前に腰を据える霜蓮寺のサムライ、嘉栄(カエ)を見て僅かに頭を下げた。
「来客と言うので来てみれば‥‥お久しぶりです。随分と荒れていたと聞いておりますが、本当に荒れた風貌におなりで」
「うるせぇ」
 昔の志摩を知る嘉栄にとって、無精髭を生やした彼の姿は荒れたものに見えるのだろう。
 志摩はそんな言葉に苦笑しながら、一枚の文を差し出した。
「開拓者ギルドから依頼だ」
「霜蓮寺にですか? 珍しいこともありますね」
 そう言いながら手にした文には、確かに開拓者ギルドの印が押してある。
 嘉栄は中を確認すると、思案気に眉を潜めた。
「開拓者の試練‥‥見たところ、随分と大掛かりなものですね。それほどまでに、この試練を受ける少年は適正に欠けているのでしょうか?」
 文には、開拓者ギルドで預かっている少年――義貞の事が書いてあった。
 彼が田舎から出て来て早々に起こした事件から、最近のことに至るまで、文には事細かに記されていた。
 それを読んだ嘉栄は、顔を上げると苦笑を滲ませたままの志摩を見て首を傾げた。
「適正に関しちゃ問題ねぇ。それだけあの坊主が期待されてるのか、それとも信用されてねえのか。どっちかはわからねえ。だがギルドとしちゃぁ、きちんとした試練を経て開拓者にしたいんだろう」
「確かに、ギルドから出す開拓者は慎重にしなければなりません。しかもそれが年若い者であれば、特に気をつけねばならないでしょう」
 義貞は現時点で14歳。天儀では酒を飲めるようになったが、それでも子供であることに変わりはない。
「まあ、ギルドの考えは憶測しか浮かばねえ。こっちはギルドが考えた、与えるべき試練を与えるしかねえんだ。んで、頼めるのか?」
 志摩の問いを受け、嘉栄は文に視線を落とした。
「霜蓮寺への試練の要請は『勇気』ですか。お引き受けすること自体は構いません」
「そうか!」
 志摩の顔に安堵と歓喜が浮かぶ。
 だが嘉栄の思案気な表情を見て、直ぐに彼の表情が険しくなった。
「問題でもあるか?」
「勇気を試すのに適した場所が――」
「『新月の祠』があるだろ。そこを使いたいんだが‥‥ガキには酷か?」
 新月の祠とは、霜蓮寺の僧が精神修行に使用する場所である。
 山奥に存在し、入口を塞げば光が一切入らなくなる。
 僅かな時間でも、暗さと静けさに気がおかしくなってしまうのではと思えるような場所だ。
「新月の祠は、大人であっても恐怖を覚える場所です。10代前半の少年が耐えられるとは思えません。現に貴方も――」
「ンだあっ! その話は良い!!」
 ダンッと床を叩く志摩に、嘉栄の口に笑みが乗った。
 それを見て志摩が大仰に息を吐く。
「あー‥‥とにかく、やっぱ、無理か?」
「完全に無理とは言い切れないでしょう。私は13の頃よりあの場で修業しておりましたし、本人次第ではないでしょうか」
「‥‥13‥‥」
 ポツリと呟く志摩に、嘉栄はコロコロ笑う。
「新月の祠での試練は問題ないでしょう。ただ、そこに行くまでが問題です」
「行くまでが、って‥‥祠は確か、山奥の森の中だっただろ」
「そうなのですが、最近あそこにも魔の森が迫ってまして、未熟な少年を1人で行かせる訳には行きません。それにいつ魔の森に侵食されるか分からない場所です。祠の中から無事出てきたときに、アヤカシに襲われる危険もあります」
 嘉栄によると、祠のある森は現在濃い瘴気に覆われているらしい。そこには魔の森の影響を受けたアヤカシも出るとか。
 流石にそんな場所へ開拓者になってもいない少年を1人で行かせる訳にはいかなかった。
「なら、ギルドから開拓者を出す。それで問題ないだろ」
「開拓者を? ですが、霜蓮寺にその様なお金は‥‥」
「それに関しちゃ問題ねぇ。今回はギルドからの依頼だ。こっちで人員を確保して坊主の護衛にあてる」
「それでしたら問題ありません。勿論、貴方も行かれるのですよね」
 文には志摩が少年の保護者をしていると書かれていた。当然、一緒に試練に立ち会うと思っていたのだが‥‥。
「あー‥‥それなんだが、俺はこれから北面に行く予定があってな。そこで次の試練の準備をするんだ」
「北面?」
 眉を潜めた嘉栄に志摩は頷きを返す。その上で真剣な表情で嘉栄を見た。
「ちと知り合いがいてな。なもんで、出来ればお前さんに道案内を頼みたい。お前さんなら適任だろ?」
 嘉栄は考えるように視線を落とすと、少しだけ苦笑を滲ませて頷いた。
「わかりました。統括には私から話をしておきましょう。あの辺りに出現するアヤカシの情報は心得ておりますし、お役にたてるでしょう。それに‥‥」
「それに?」
 言葉を切った嘉栄に志摩は首を傾げた。
 その姿に、嘉栄の顔に笑顔が浮かぶ。
「それに、貴方を虜にした少年も気になりますので」
「と、虜!? 阿保かぁッ!!!」
 素っ頓狂な叫び声を上げた志摩に、嘉栄はコロコロと笑い声を零したのだった。


■参加者一覧
恵皇(ia0150
25歳・男・泰
緋炎 龍牙(ia0190
26歳・男・サ
高遠・竣嶽(ia0295
26歳・女・志
中原 鯉乃助(ia0420
24歳・男・泰
酒々井 統真(ia0893
19歳・男・泰
神鷹 弦一郎(ia5349
24歳・男・弓
ブラッディ・D(ia6200
20歳・女・泰
ハイネル(ia9965
32歳・男・騎


■リプレイ本文

 東房国・霜蓮寺。
 新月の祠での試練を控え、山の入口に集まる開拓者。その中心で神妙な面持ちで山を見つめる少年――義貞がいた。
「義貞ー! また会ったな、今回はよろしくな! お父さんの分まで、しっかり力になってやるからな!」
 そう言って義貞の背中を叩いたのは、ブラッディ・D(ia6200)だ。
「緊張してるのか?」
 山は木々が生い茂り、陰鬱な雰囲気を醸し出している。目的の場所はその先にあるのだ。
 開拓者でもない少年が足を踏み入れるには、それだけで勇気が必要だ。それだけに、緊張していてもおかしくない。だからこそ声をかけたのだが‥‥。
「〜、試練だぁーっ!!!」
 行き成り上がった雄叫びの様な声。その声に全員の視線が義貞に集中した。
「俺、絶対に天儀一の開拓者になるんだ! 兄ちゃんに姉ちゃん、よろしくな!」
 瞳を輝かせ、大興奮に叫ぶ義貞に誰ともなしに苦笑が漏れる。その中には、義貞が目指す志士の目標となった人物もいた。
「相変わらずの様子ですね」
 そう言って微笑を滲ませるのは高遠・竣嶽(ia0295)だ。
「あの陶様がついに開拓者に、ですか‥‥危険も多いこの世界に身を投じる者を見るのは複雑な気持ちではありますが‥‥」
 呟きながら見止めた義貞の、なんと楽しそうなこと。やる気に満ち溢れ、元気の有り余る姿に思わず笑みが零れる。
「本人の意思とあらば遮る権利はございません。私は黙って見届けるのみですね」
「よお、天儀一の開拓者になりたいらしいな。だが、そいつは無理な話だ」
 義貞と同じように元気な声が、義貞に降り注いだ。
 それに合わせて義貞の目があがる。
「ムッ‥‥なんでだよ、おっちゃん!」
「お兄さん、だッ!」
 ガンッと見舞われたげんこつに、義貞がその場に蹲った。見上げれば自称「いい男」の中原 鯉乃助(ia0420)がいる。
「おっちゃ‥‥ぐああ‥‥ごめ、‥‥お兄さん、お兄さん〜!」
 げんこつのまま擦りつけられる拳。それに身悶えながらギブを連発する義貞に、鯉乃助は「よし」と頷き彼の顔を覗き込んだ。
「なぜ天儀一になれないか。それは、おいらが天儀一になるからだ!」
「ええ!?」
 素っ頓狂、そして共学を含む叫び声に鯉乃助は満足げに頷く。だが、こんなことで義貞の夢が挫けるはずはなかった。
「兄ちゃんが一番なら、俺はもっと一番になる!」
「もっと一番か、そいつはすげぇ」
「おい、冗談はそんくらいにしとけ」
 ゲラゲラ笑う鯉乃助の肩を酒々井 統真(ia0893)が叩いた。
「だな。けど、こういうでっけぇ夢持ってる子供は好きだぜ。泰拳士じゃなく志士になりてぇってのが残念だ」
「まあな」
 苦笑滲ませる統真に鯉乃助は真面目な表情を作ってチラリと義貞を見た。
 折角開拓者になると言うのだ。どうせなるなら自分と同じ道に進んで貰いたいのが心情だ。
 そこに別の方向から、同意する声が響いた。
「まったくだ」
 そう言って2人の輪に加わったのは、同じ泰拳士の恵皇(ia0150)とハイネル(ia9965)だ。
 ただしハイネルは騎士であり、2人の言葉に同意するように頷く。
「私も、残念ではある」
「その割には顔色イマイチか?」
 統真の声にハイネルは苦笑を滲ませ義貞を見た。
「いや、理由が何であれど、平気で人を斬る。私にようになって欲しくは無いと、そう思っただけだ」
 その言葉に他の3人が義貞を見る。
 元気に溢れ、希望に満ちた開拓者未満の少年の今後を思い、それぞれの思考が巡る。
「試練を成功させるには、まず俺たちに試練があるってことだな」
 恵皇の声に皆が、神妙な面持ちで頷いた。
 そして少し離れた場所では、緋炎 龍牙(ia0190)と神鷹 弦一郎(ia5349)が感慨深げに皆を眺めていた。
「開拓者になる試練か‥‥ふふ、それは張り切らないといかんな」
「‥‥何が出てくるやら。怖いもの見たさ‥‥とは良く言ったものだ」
 弦一郎と龍牙はそう口にすると、義貞に歩み寄った。
「アヤカシもいるだろうが、まあ、行き帰りは俺たちに任せるといい」
 そう言って肩を叩いた弦一郎に義貞の目があがる。その目が彼と、その傍にいる龍牙を捉えると笑顔に変わった。
「だって、兄ちゃんたち強いもんな!」
「強いかどうかは定かではない。俺もまだ新米でね。ま、お互い頑張るとしよう」
「おう!」
 龍牙の声に、義貞の元気が倍増する。そして彼のテンションが最高潮に達すると、目の前に刀が差し出された。
「俺の友人から、初試練を記念してプレゼントだってさ」
 そう言ってブラッディが差し出したのは、刀「河内義貞」だ。
「アンタと同じ義貞って名前がついてる刀、良ければ受け取って欲しいな」
「‥‥え、でも‥‥」
 流石の義貞も、刀を貰うことには躊躇いを覚えたようだ。逡巡する姿を見て、今まで黙ってやり年を見ていた嘉栄が、彼の背を押した。
「折角です、貰っておきなさい。志摩殿には私から伝えておきましょう」
 微笑む嘉栄の顔、そしてブラッディ、この場の開拓者たちを見回して、義貞は手を伸ばした。
「ありがとう! 俺、絶対に試練を成功させるからな!」
 そう言って刀を手に表情を引き締めた義貞を見た後、開拓者たちは山に足を踏み入れた。

●いざ、祠へ
 山道は、想像以上に通り易く整備されていた。
「これなら迷う必要はないな」
 修行僧が祠へ向かう際に整備するらしい道を歩きながら龍牙が呟く。その背後には義貞が歩き、周りを開拓者たちが囲んで進んでいた。
「神鷹、アヤカシの気配はあるか?」
 義貞の傍で歩みを進めるハイネルの声に、弦一郎の視線が巡る。精神を集中させ、周囲の音を敏感に感知する。そんな彼の眉が潜められた。
「聞いてはいたが‥‥結構いるな」
 奥へと進むにつれ濃くなってゆく瘴気。それに比例するように増えるアヤカシの気配に、彼の目が木々に向かった。
「あの先に複数のアヤカシの気配がある」
「んじゃ、次は俺が行くか」
「俺も行くよ」
 弦一郎が示す先を見て、鯉乃助とブラッディが名乗りを上げた。
 先程から何度も繰り返される行為。アヤカシの存在を弦一郎が探知し、怪しい場所を泰拳士の面々が見に行く。
 その上で倒せるものは倒し、倒せないもの、こちらに気付いていないものなどは道を迂回してやり過ごしている。
「なあ、何で真正面から戦わないんだよ」
 苛立ったように呟く義貞に、この場に残った面々の視線が向けられた。
「陶様。彼らがしていることも、戦いの1つなのです」
 そう言って義貞を嗜めるのは竣嶽だ。
「陶様には、状況も見定められずに命を散らす開拓者となって欲しくありません。彼らの行動をしっかりと胸に刻んでください」
 厳しい口調ながら、優しさを含む言葉に、義貞の口が噤まれた。その表情は険しい。
 言っていることは頭では分かる。だが納得できない部分もあるのだろう。そんな彼の頭を恵皇が叩いた。
「目的のために逃げるのも勇気なんだよ」
「逃げるのも勇気‥‥?」
 頭を撫でる大きな手を受け、義貞の目が山の中へと向かった。
 その時だ。
「悪ぃ、手貸してくれ!」
 鯉乃助とブラッディが戻って来た。
 その後ろから、狼に似たアヤカシが見える。
「怪狼か!」
「数がいるな。止むを得ない、下がっていろ‥‥」
 統真の声に皆が武器を手にし、龍牙が義貞の肩を掴んで背に隠した。
「俺も――」
「前に出るなよ、少年? そこから先輩方の動きを見ておくといい。開拓者になった時に参考になるだろう」
 開拓者と共に前に出ようとした義貞を、弦一郎が制した。
 そして彼もまた、即射で弓を構える。狙いは勿論、前衛の泰拳士たちが立ち向かう怪狼だ。
「仲間を呼ばれると厄介だ!」
「わかってらぁ!」
 恵皇の声に、素早く怪狼の間合いに入り込んだ鯉乃助が拳を叩き込む。その動きに対象がよろけるが、すぐさま体制を整え突っ込んできた。
「今のは小手調べ、この一撃で終いだ!」
 ゴスッと討ち込まれた拳に怪狼が崩れ落ちる。
「防御を下げて一気に、か。なら俺は‥‥」
 動き回る怪狼を見据えて拳に気を集中させる。そうして一瞬の隙を突いて恵皇の足が動いた。
「最大の武器である極神点穴を使って拳ひとつでK.Oさ!」
 相手の懐に入り、迷うことなく1点を突く。そして彼の言葉通り、怪狼はこの一撃で倒れた。
「あと少し!」
 統真が残りの怪狼を確認して拳を叩き込む。
 次々と倒れる中で、一匹だけ踵を返したモノがいた。
「逃がさん! ゆくぞ、緋炎流奥義‥‥虎砲ッ!」
 メキメキと盛り上がる地面。一直線に駆けた波動が見事怪狼に達する。
 そして最後の一匹が倒れ、辺りが静けさに包まれた。
「これで全部か?」
 周囲を探りながら呟く統真に、弦一郎が再び周囲を探って頷いた。
「仲間を呼ばれた気配もない‥‥これなら先に進めるな」
「なら、さっさと先に進もう」
 ブラッディの声に皆が歩き出す。
 勿論、義貞も同時に歩き出したのだが、そんな彼の表情に僅かな変化があったことに、誰も気付いていなかった。

●試練の合間に
 山の中腹。
 二本の分かれ道の内、細い道を進んだ先に、新月の祠はあった。
「少年、いや義貞。次はお前の番だ。俺達はお前が無事に出てくるのを信じて待っている」
 恵皇の声に義貞の目が祠に向かう。
 入口は小さく、見た目にも暗いことが良く分かる、少し不気味な場所だ。
「試練は今より明朝まで。もし耐えられないようでしたら、自ら祠を出てきてください」
 嘉栄の声に義貞の目が皆を振り返った。
 その表情は真剣そのものだ。それを見止め竣嶽が声をかける。
「自信を持って、ただし慢心はせずに取り組んでください」
「俺、絶対に開拓者になるんだ」
 義貞は皆の声に頷くと、ブラッディから貰った刀を握り締めた。
「声をかけないのですか?」
 皆から外れ、静かにやり取りを見つめていたハイネルに嘉栄が声をかけた。
「祠には、己の意思で入らせたいものだ。誰にせかされるでもなく‥‥」
「確かに、そうですね」
 そう答え、嘉栄は微笑を零した。

 義貞が祠に自らの意思で入って僅か。
 辺りは闇に包まれ、開拓者たちは松明に火を点け順番に警護にあたっていた。
「義貞、大丈夫かな。やっぱ応援しといたほうが良いかな」
 そわそわと祠の入口を見たり視線を泳がせたりしているのはブラッディだ。
 祠は現在、入口を岩で塞がれ、中を完全な闇が支配している。義貞はその中で試練に立ち向かっているのだ。
「どんだけきっつい拷問に耐えられる奴でも、光も音もないのには耐えられない、つーのは聞いたことあるな」
「そうなのか!」
「聞いたことがあるだけだって」
「なら、応援しないと! でも邪魔しないように静かに‥‥心の中でっ!」
 統真の言葉を受け、真剣に目を閉じて祈り始めたブラッディに、竣嶽が笑みを零す。
「無事に終わると良いですね」
 そう言葉を零し、彼女の目がふと傍で同じように時間の経過を待っていた嘉栄へと向かった。
「そう言えば、月宵様はアヤカシの殲滅に尽力されているとか。東房国も、冥越同様にアヤカシが多いのでしょうか」
 嘉栄がアヤカシ殲滅に尽力していると聞いてから、いつか手伝いをしたいと思っていた。
 そんな思いを汲み取り、嘉栄が頷く。
「そうですね。他国に比べれば多い方だと思います。機会がありましたら、ぜひお力をお貸しください」
「確かに、多そうな印象を受けた。俺も東房国は初めて来たが、この山だけでかなりのアヤカシが居そうだ」
 竣嶽へ言葉を返した嘉栄の声を拾って、弦一郎が呟く。そしてその声に嘉栄が答えようとした時、警護にあたっていた恵皇たちが戻って来た。
「アヤカシを発見した。こっちに向かってる」
「義貞はまだ祠だな?」
 鯉乃助が祠の入口を見て問う。その声に誰ともなしに頷くと、統真が前に出てきた。
「義貞はまだ中だ。どんだけ不利でも逃げる訳にもいかねえ。やるっきゃねえ!」
 その声に視線が森の中へ向かう。そして白く不気味な影が無数浮かぶと、皆の目が見開かれた。
「‥‥凄い、数だな」
 龍牙が忍者刀「闇喪」を手に呟く。
 どう見ても10はいるだろうか。
「怨霊、それに餓鬼が混じっていますね。幸いなことに怪狼の姿は無いようです」
「今まで後方にいた分、前に出て敵の攻撃を受けることに致しましょう」
 嘉栄と同様に、自らの武器、刀「泉水」に手をかけ竣嶽が呟く。
 そして彼女の刃が風を斬るのと同時に、戦いの幕が落とされた。
「防御を底上げして討つ!」
 統真の拳が怨霊の群れに突っこむ。すると怨霊は難なくその場に崩れ落ちた。
 アヤカシの数は圧倒的。しかし勢いは開拓者の方が上だったようだ。
「追撃要請、地吹雪!」
 盾で相手の体勢を崩し、繰り出されたひとの光。それが餓鬼の首筋を掠めると、相手に隙が生まれた。
 そこに嘉栄の一撃が加わり、餓鬼が崩れ落ちる。
「追撃、感謝」
 几帳面に嘉栄へと礼を述べるハイネルに、彼女は苦笑を滲ませ頷くと、別のアヤカシへと向かった。
 その直ぐ傍では竣嶽が怨霊を斬り崩し、刃を納める姿があった。
 一見すれば隙が生まれたようにも見えるが、それこそが狙いである。
「――深雪」
 呟きだされた声。
 その声と同時に襲ってきた怨霊へ彼女が動いた。
 踏み出した足が怨霊を前に誘い、誘われた怨霊の一撃が見舞われる。しかしそれを寸前で交わすと、一閃が闇を裂いた。
「決着は、早そうです‥‥」
 そう口にした竣嶽の後ろで、怨霊が地面に倒れた。
 こうして松明の明かりの元、アヤカシと開拓者の攻防は続いた‥‥。

●朝、試練終了
 日の光が地上を照らす頃、祠の前を襲ったアヤカシは全て倒されていた。
「そろそろ時間です」
 そう言った嘉栄の言葉に、皆の視線が祠に集まる。
 そして‥‥。
「うお、眩しいぞ!!」
 騒がしい声と共に元気いっぱい飛び出してきたのは義貞だ。
「よっしゃ、試練終了だな。良く頑張った!」
「偉いぞ義貞!」
 ワシャワシャと鯉乃助とブラッディが義貞の頭を掻きまわす。
「うわっ、頭が爆発する!」
「ちゃんと出来たから褒めてやってるんだ。大人しく褒められろー!」
 更に頭を掻き回されて義貞は困惑気味だ。
 そこに別の声が響いて来た。
「壁を越えたか。最初に越える壁がでかけりゃ、伸びしろも跳ね上がる。良く頑張ったな」
 ニッと笑って頷いて見せるのは統真だ。
 そんな彼に続いて弦一郎が微笑みかける。
「さあ、後は帰り道だ」
「だな。義貞が無事帰るまでが試練だ。帰り道も頑張るぞ」
 恵皇はそう言うと元来た道を振り返った。
 そこに昨夜闘ったアヤカシの姿は無い。時間と共に全て瘴気に戻ったのだろう。
「おう、帰り道は俺も闘うからな!」
「帰りも、行きと同じく、気を抜かないことだ」
 一晩、試練にあたっていたと言うのに元気いっぱいな様子の義貞に、ハイネルが注意を促す。
 その姿を見てから、竣嶽は安堵に近い息を吐いて空を見上げた。
「成し遂げましたか‥‥」
「まずはひとつ、だな」
 感慨深げに呟く竣嶽の傍で、龍牙はポツリと呟いたのだった。