秋深し、栗と狐…猫?
マスター名:朝臣 あむ
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/10/20 15:39



■オープニング本文

 舞い落ちる紅の葉。
 青く澄んだ空に伸びる白い雲を眺めながら、ギルド職員の山本・善治郎は頬に落ちた紅葉を摘まみ上げた。
「志摩たち、無事で帰ってくれば良いけどな」
 想うのは遠く離れた地で闘い続ける開拓者の姿。
 無事でいるのか、今どの様な状況なのか。神楽の都で留守番をする山本には直に知る事の出来ない出来事だ。
「まあ、向こうは向こうで頑張ってるだろうし、こっちはこっちで頑張らないとな」
 そう言って視線を落とした先に居るのは、志摩 軍事(iz0129)が残して行った少女――紫(ゆかり)だ。
「山本のおじさん、本当にこの先で良いのか……です?」
「うん、この先で間違いないよ」
 言って山本が足を止めたのは紅に染まる山の手前で、山道が頂上へと延びるこの場所は、つい最近一般人の立ち入りが禁止された。
「開拓者になりたての紫ちゃんは危険な場所には行かせられないって置いてったけど、おかげでこっちは大助かりだよ」
「……『あたし』は……別に」
 ぷくっと頬を膨らませてた彼女が纏うのはシノビ装束だ。
 彼女の傍を離れる際に志摩が買い与えたもので、脇には小さな刀が差してある。
「この先に居るのは狐に似たアヤカシらしい。先に先輩の開拓者も行ってるから、まずは合流してどう戦えば良いかを聞くんだよ」
「……わかった、です」
 コクリと頷いた彼女はここ数日、こうした簡単な依頼をこなしている。
 志摩たち熟練の開拓者の殆どが決戦の地へ向かって以降も、開拓者ギルドには困った人たちの声が届いている。
 当然ギルドはそうした人たちの声を無視する事は出来ないし、放っておくことも出来なかった。
 故に紫の様に都に残って悩み事を解決してくれる開拓者は心強い。
「志摩、さん……たちが安心して戦えるように、頑張る」
 キッと表情を引き締めて顔を上げた彼女の足が動く。そうして山道に踏み入ると、彼女はあっという間に山本の視界から消えた。
「この依頼が無事に終わったら、紫ちゃんにはもう少し難し依頼を任せても良いかもな」
 山本はそう呟くと、手にしていた紅葉を青い空に向かって放った。


 山道を駆け上がり、山頂付近で待っていた開拓者と合流する紫の姿を、茂みに隠れて見ているモノがあった。
 狐のような耳を下げ、猫又の様に3本に分れた尻尾を持つ生き物は、息を潜めて彼等の様子を窺っている。
「待たせた、です……えっと、あたしは如何すれば――」
 頭を下げる紫に指示を与えて行く開拓者。
 此処に存在するアヤカシに対処すべく動いて行く姿を見て、潜んでいた存在は危機を感じた。
 グルグルと喉を鳴らし、牙を剥き出しにして戦闘態勢を整える。そして紫と開拓者が手分けしようとした瞬間、それは飛び出した。
「!」
 突然の出来事に驚いて体勢を崩す紫。
 其処に容赦なく襲い掛かって来たのは大型犬ほどの大きさをしたアヤカシだ。
 アヤカシは戦闘態勢を取りきらない紫に向かって口を開くと、頭から喰らい付かんばかりの勢いで飛び掛かった。


■参加者一覧
千見寺 葎(ia5851
20歳・女・シ
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
玄間 北斗(ib0342
25歳・男・シ
叢雲 怜(ib5488
10歳・男・砲
雁久良 霧依(ib9706
23歳・女・魔
鎌苅 冬馬(ic0729
20歳・男・志


■リプレイ本文

「紫ちゃん、下がって!」
 叫ぶ声に紫の目が飛ぶ。その目が捉えたのは錫杖を構えた雁久良 霧依(ib9706)だ。
「さ、下が……っ」
 下がる? どうやって? そう目を泳がす彼女に更なる声が飛ぶ。
「せめて刀で庇って下さい!」
 逃げる事は出来なくても身を護る行動はとって欲しい。そう叫んだ千見寺 葎(ia5851)は、先に叫んだ霧依と共に急いで術を紡ぐ。
 だが敵の動きの方が僅かに早い。
「限界だな……入るぞ」
 チラリと霧依と葎を見やって駆け出した琥龍 蒼羅(ib0214)は、紫の前に飛び出すと鞘に納まったままの刀で3本の尾を持つキツネ型アヤカシの牙を受け止めた。
「!」
 難なく受け止められるアヤカシ――狐猫の攻撃に、辛うじて抜き取った忍刀を手に紫は息を呑んだ。
「……すごい」
 頬を紅潮させる彼女の目に映るのは、敵の牙を受け止める蒼羅の姿だけではない。
 葎が放った自身の影や霧依が放った蔦も見えている。それらはアヤカシの体を頑丈なまでに固定して動かない。
 しかもこれだけの連携を完成させたきっかけともなる一打が、実は蒼羅が到達するよりも前に放たれていた。
 それは近くの木に深々と沈み込む弾丸だ。
「これが……熟練の開拓者……」
 今まで何度か先輩開拓者と仕事をしたが、彼らは今までの開拓者とは桁違いだ。それこそ歴戦の戦士たる風格がある。
「紫ちゃん、大丈夫なのだ?」
 敵が固定されているその間に近付いた玄間 北斗(ib0342)が、腰を抜かして座り込んでいる紫に手を伸ばす。
「だ、大丈夫、です……って、あれ? おじさんはあの時の……」
「お久しぶりなのだぁ〜」
 ニッコリ笑って頭を撫でる仕草に紫の唇が引き結ばれる。そうして彼の手を取って立ち上がると、彼女は不思議な双眼を持つ少年が立っている事に気付いた。
「あんた……んじゃねぇ、んと……アナタも開拓者だ、です?」
 持っている短筒を見てハッとなった。
 急いで近くの木に埋まる弾丸を見て紅潮した頬が更に赤く染まる。そうして目を向け直すと、叢雲 怜(ib5488)は如何したのかと問うような視線を向けて来た。
 短筒を持っているのは勿論、此処に居る以上はそうなのだろう。紫が感心したように頷く。
「志摩さんが言ってた通りだ。開拓者は強いだけじゃねぇ……!」
「? 彼が何か言っていたのか……?」
 いつの間に傍に来たのだろう。
 思わず拳を握った紫の背後で、アヤカシの動きを注視していた鎌苅 冬馬(ic0729)が問い掛ける。その声に「あ」と声を零してから、彼女は慌てた様に口を押えた。
「え、と……開拓者は強いだけじゃなくて、綺麗だったり、可愛いかったりする人が多い……って」
 はは、と笑い声を零す彼女に葎は苦笑して口元を押さえた。その上でそろそろ解けるであろう影縛りの効果に目を細める。
「はいはーい、無駄口はそこまでなんだぜ」
 銃を手の中で回して引き金に指を添える怜に習うように、蒼羅も刀を鞘から抜き取って戦闘の体勢を整える。
 そうして紫も気を引き締めた所で北斗が囁いてきた。
「身軽さを活かした早駆や、打剣の手裏剣術あたりから覚えてみてるのだ?」
 前に手裏剣に興味を示していた。故の提案だったのだが、その辺は彼女も考えていたらしい。
「早駆と打剣は使える、です」
「ふふ、なら大丈夫そうね。私は後衛として援護させて貰うわよ♪」
 霧依はそう言うと錫杖を地面に突くようにして音を鳴らした。これが合図となって戦場が動き出す。
「シノビやシノビ経験者が多数参加しているから、一寸離れた位なら十分助けあえる距離なのだ〜」
 だから安心して動くと良いのだぁ。
 北斗はそう言うと彼女の背を軽く押した。
 その動きに紫の足が前に出る。そして自らの忍刀に目を落とすと静かに握り締めた。


 鋭い爪を伸ばして襲い掛かる狐猫に、紫は瞬間的に脚力を強化して飛び退いた。だが回避される事は想定済みだったのだろう。
 地面に着地するのと同時に方向変換して来た狐猫に、紫の口が大きく開く。
「な、なんでだよ!」
 慌てて刀を振り降ろそうとするが、其処は半人前の開拓者だ。咄嗟の出来事に対応できずにもたついてしまっている。
「敵の行動をよく観察して。慌てたら負けよ」
「は、はい!」
 霧依の飛ばした蔦が狐猫の足を絡め取る。その間に刀を構え直すのだが、やはり敵の方が一枚上手だ。
 紫が体勢を整える前に蔦を振り払って飛び込んでくる。
「は、早駆……!」
 何とか回避する様子を見せるも、なんともおぼつかない足取りだ。
 見兼ねた蒼羅が彼女の前に出て攻撃を受け止めるが、これでは練習にならない。
「あ、ありがと――」
「礼は良い、その間に動け」
「! は、はい!」
 慌てて頷く彼女に「やれやれ」と苦笑しつつ目は離さない。
 それは此処にいる全員がそうだ。
「次は右……左……紫ちゃん、間に合ってないのだ」
 超越聴覚で鋭くした耳。其処に響く音を頼りに紫の動きを追う北斗は、彼女の動きが遅くなっている事に気付いた。
「疲れが出て来てるのだ」
「無駄な動きが多いと思うのだぜ」
 チラリと見た先には怜が居る。
 彼は紫の傍に移動すると、耳打ちするように言葉を零した。
「俺達砲術士はシノビみたいに近接戦闘をあんまやらないけど……相手の目線や足の運びとかをよく見て、次にどう動くかを直感的に予想できるようになれば戦い易くなると思うの」
「直感的に予想?」
 言われてみれば蒼羅もそうだが、葎や霧依、怜などは何度も敵の前を行く行動を取っていた。
 先を読む力がないから無駄に動いて体力を消耗するし怪我を負う。これは短期決戦なら問題ないが、長期戦に突入すれば大きな問題にもなってくる。
「先を読むのは敵も同じだ……わかるだろう?」
 冬馬に言われて思わず頷いてしまう。
 敵も紫の動きを読んでいるから攻撃を避けた直後に反撃してくるのだ。
「なら、あたしだって」
 熟練の開拓者とまではいかないが自分も開拓者の端くれ。出来るようにならなければいけない。
「接敵状態になったら、回避に専念しつつ、敵の動きをしっかり見極め、敵の情報を把握する事……大丈夫、紫ちゃんなら出来るのだぁ〜」
 大丈夫。そう言われる言葉が心強い。
「もう1度お願い、です!」
 言うや否や駆け出した彼女に、葎の口元に何とも言えない笑みが浮かぶ。
「紫さんは前衛攻撃型のようですね」
「全然、避ける気配がないのだぜ」
 北斗の言葉を聞いていなかったのだろうか。
 攻撃を回避するよりも生傷を増やしてでも受け止める姿に怜も苦笑する。とは言え、全くの考えなしでもないようだ。
「っ、……あんまり動くんじゃねぇ!」
 柄を持つ手に力を込めて刀を振り降ろす。それが狙うのは狐猫の脚だ。
 それを見止めた怜が透かさず銃を構える。そうして放った弾が紫を避けるようにして狐猫の脚に当った。
『キャィン!』
 銃弾に次いで刀で叩かれた脚に狐猫が悲鳴を上げる。そうして地面に転がると、紫の目が喜びに輝いた。
「やった!」
「まだです!」
 喜んだのも束の間。崩れ落ちた先で尻尾を揺らす敵に葎が叫ぶ。それに慌てて刀を構えるが、今度は単純な攻撃ではなかった。
「これはマズイのだ」
 咄嗟に印を刻んだ北斗に続いて蒼羅も前に出ると、紫を庇うように前に立ち手にしていた刀を鞘に納めた。
 直後、不思議なことが起こる。
「あれ……敵が、倒れてる?」
 まるで時間が飛んだかのような錯覚が彼女を襲った。
「大丈夫なのだ?」
 声に目を向ければ北斗が自分を抱えて立っている。しかも先程まで自分が居た場所には刀を鞘に納める蒼羅の姿まであるのだ。
 彼は足元に倒れる狐猫に目を向けると、やや疲れた表情で息を吐いた。
「終わった、な」
「何が……」
 やはり状況が理解出来ない。
 そう表情に浮かべながら北斗に下ろして貰う。そして礼を言おうと顔を上げると、霧依が近付いて来た。
「お疲れさま、怪我を治すわね」
 微笑んで差し出された水に「ありがとう、です」と礼を言って頭を下げる。その上でもう一度北斗を見ると、霧依がポツリと呟いた。
「玄間さんって言ったかしら。彼、夜を使ったのね」
「夜?」
 確か一瞬だけ時を止める事が出来るシノビの技だっただろうか。
 もしそれが使われていたのなら先程の不思議な現象も納得がいく。だがあの技は相当な訓練が必要だったはずだ。
「やっぱり、凄い……それに、あの人の技もっ」
 ゴクリと唾を呑み込んで蒼羅を見詰める。
 その視線に気付いたのだろう。彼の首が緩やかに傾げられた。
「あ、あの、さっきの技は何だ、です?」
「……蒼龍閃だ。俺だけの抜刀術」
「抜刀術?」
「刀を鞘に納めた状態から放つ一撃です」
 目を瞬いた紫に葎が補足する。そして霧依の回復が終了すると、怜が楽しそうに笑顔を浮かべて顔を覗き込んで来た。
「お疲れさまだね。ここからは栗拾いなのだぜ♪」
「え、栗? 栗って……うわあッ!」
 勢い良く引かれた手に思わず声が上がる。
 良く見れば山は紅葉しているだけでなく、秋の実りも充実させているようだ。
 足元には毬栗が沢山転がっている。
「これ、拾って良いのか……です?」
「許可は貰ってるわ。はい、手袋を使って拾ってね♪」
 手袋を受け取って目を輝かさせる紫を見ながら、葎は密かに息を吐いた。
「どうかしたのだ?」
 紫同様に栗拾いに乗り出そうとしていた北斗が葎の変化に気付いて問い掛けた。これに彼女の首が緩やかに振られる。
「……彼らと共に世界が続けば、戦いが続くと約束されているというのも……」
 複雑な思いです。そう言葉を噤んだ彼女に声を返さず、北斗は倒れて瘴気に還って行くアヤカシに目を向けた。


「すごっ! 器用だな、です」
 サバイバルナイフで素早く栗を取り出して見せる北斗に、紫の感心した声が響く。
「一本持っているとなにかと便利なのだぁ〜」
「あたしなんか足で割るしか思いつかない、です。そっか、ナイフはこうやって使うんだな」
 差し出されたナイフに興味津々の様子。それを見ながら霧依が思い出したように何かを取り出した。
「そうそう、紫ちゃんに開拓者の便利道具を教えてあげるわ♪」
「便利道具?」
 そう言って首を傾げる彼女にまず見せたのは「呼子笛」だ。
「ああ、確かに便利だな」
「遠く離れた場所にいる相手に合図を送る時などは重宝する」
 冬馬に続いて零した蒼羅は、拾った栗を麻袋に入れながら頷く。そうして新たな栗に手を伸ばした所で、次に取り出された「手帳」と「ペン」を見た。
「これは調査系の依頼で大活躍するのよ♪」
「調査系……あたし、苦手かもしんない、です」
 手帳とペンをじっと見ながら苦笑する紫。そんな彼女の肩に触れながら、葎が囁く。
「まずは挑戦してみる事が大事ですよ。もしかしたら調査系の依頼が得意かもしれませんし」
 食わず嫌いならぬ、試さず嫌いなんて勿体ない。そう語る彼女に「うー」と眉が下がる。
「焦る事は無いのだ。ゆっくりでも良いから自分の早さで出来ることを探していくと良いのだぁ〜」
 ポンッと頭に触れた手。その温もりに目を落とすと、自分が拾った栗に目を落とした。
「ゆっくりか……って、え!?」
 グイッと引かれた腕に目を上げる。
「紫ちゃんも、もっと一緒に拾うのだぜ♪」
 無邪気に笑って大量の栗が入った麻袋を見せる怜。それを見た紫は自分の麻袋に目を落とした。
「ま、負けてる」
 戦闘で負けるのは許せるが、努力で勝てる事まで負けるのは許せない。
「勝つです!」
 グッと拳を握って栗拾いを再開した紫。それを見て笑顔を深める怜にはある計画がある。
「拾った栗は持ち帰って、大人のお姉ちゃんたちに栗ご飯にして貰ったりして食べるのが楽しみなのです♪」
「栗、ご飯?」
 思わず「ぐぅ」っとお腹が鳴った。
 それに慌ててお腹を押さえると、葎が小さく笑って自分の麻袋を差出してきた。
「お腹、空きましたね。山を下りたら山本さんと一緒に食べると良いですよ。折角ですし、山の持ち主に渡す分を抜いて、私の分も貰ってくれませんか?」
「え……律さんは、食べないですか?」
 てっきり、山を下りたら皆で栗を食べると思っていた。
 なので驚いたのだが、葎の方は驚かれた事に戸惑ったようだ。
「……私は」
 言葉を濁して視線を外した彼女に、ハッとする。その表情に何とも言えない笑みを浮かべると、葎は彼女の目を見た。
「もし余ったら、ギルド職員の方々や……依頼を共にする方に、栗おこわやおにぎりを振舞うのも喜ばれますよ。こんな状況ですから、疲れていたり、忙しかったりする人が多いでしょう。だからまして、心和やかになる出来事はあって損はありません」
「……葎さんが教えてくれれば良い、です」
 ポツリ。零された声に言葉に詰まる。
 何と返せば良いのか。素直に出来ないと言うべきなのか。そう思案していると、霧依が助けるように手を伸ばしてきた。
「お姉さんを困らせたらだめよ〜♪」
「!」
 背後から引き寄せるようにして抱き締める腕に目を見開く。そして目をパチクリさせていると、葎の申し訳なさそうな声が響いてきた。
「栗料理の作り方が分からなければ、山本さんが教えて下さると思います。開拓者に声を掛けて教えてもらうのも、交流ができて良いと思いますし……色々、試してみてください」
 言いながら離れる準備をする彼女に唇が尖る。だが紫はそれ以上無茶を言わなかった。
「では、私はそろそろ行って参ります。暖かくして過ごして下さいね」
 有難うございます。そう告げると、葎は皆よりも一足早く山を下りて行った。
「偉かったのだ」
「だって……葎さんの目、もう行くって決めてた、です」
 ぽふぽふと頭を撫でる手を受けながら紫は複雑そうに呟く。と、其処に霧依の手が伸びて来た。
「んふふ、可愛い♪」
 北斗の手が触れた時とは全く違う感触。何かを頭に乗せられた感触に紫の目が上がる。
「鏡で見せてあげる♪」
 言って目の前に差し出された手鏡に紫の頬が紅くなった。そして慌てて頭に乗せられた猫耳カチューシャを取ろうとするのだが、霧依が遮ってしまう。
「栗拾いが終わるまで紫ちゃんはそのままよ♪ さあ、気合を入れて拾っちゃいましょう♪」
「な、何であたしだけこんなの着けるんだよ!」
「お姉さんを困らせた罰よ♪」
 霧依はそう言うと楽しげに栗拾いに戻って行った。