【大祭】美褌男児決定戦
マスター名:有坂参八
シナリオ形態: イベント
EX
難易度: 易しい
参加人数: 12人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/11/21 20:02



■オープニング本文

●安須大祭
 石鏡、安雲の近くにある安須神宮にて二人の国王‥‥布刀玉と香香背は賑々しい街の様子を見下ろしてはそわそわしていた。
「もうじき大祭だね」
「そうね、今年は一体何があるのかしら」
 二人が言う『大祭』とは例年、この時期になると石鏡で行なわれる『安須大祭』の事を指している。
 その規模はとても大きなもので石鏡全土、国が総出で取り組み盛り上げる数少ない一大行事であるからこそ、二人が覗かせる反応は至極当然でもあるが
「はしゃいでしまう気持ちは察しますが、くれぐれも自重だけお願いします」
「分かっていますよ」
 だからこそ、やんわり淡々と二人へ釘を刺すのは布刀玉の側近が滝上ケ耶で、苦笑いと共に彼女へ応じる布刀玉であった。人それぞれに考え方はあるもので、石鏡や朝廷の一部保守派には派手になる祭事を憂う傾向もあり、一方で、辛気臭い祭事より盛大なお祭りを望むのが民衆の人情というもの。
 様々な思惑をよそに、お祭りの準備は着々と進みつつあった。

●褌についての悶着
『天儀一、褌の似合う男を決める! ベスト・フンドシスト・コンテスト開催!』

 ‥‥万屋の娘、九藤朝子は、眉間に皺を寄せながら、目の前に差し出された企画書の字面を見ていた。机を挟んだ対面には、同じ商店街の組合に所属する、源六という名の大男が『どうだ?』と言わんばかりの顔でふんぞり返っている。
 安須大祭を前にして情けなくも風邪を引いた父親に代わり、呼び出されて来てみれば‥‥これは一体なんの冗談だというのか。
「あの、源六さん‥‥マジでやるんですか、コレ」
 頭痛のような感覚に襲われながら、朝子は恐る恐る、目の前で得意顔をしている源六に、そう切り出した。
「大マジよォ、九藤のお嬢! こんなこと冗談で言うなんざ、それこそ頭が湧いてらぁ」
 大男、源六は、耳にびりびりくるような大声で答えた。その表情のあまりに真剣なのを見て朝子は、来るんじゃ無かった‥‥と心中でため息を漏らした。

 この男、八坂源六は褌職人である。男性の下着として天儀で愛用される褌、その最高級品をこしらえる職人として、その筋では一目置かれた人物だ。
 ところが、最近その褌の売上が、あまり芳しくないらしい。調べてみると、近頃巷ではジルベリアから輸入された『ぱんつ』なる下着を着用する者が増え、褌の需要が落ちているようなのだ。

「『ぱんつ』を否定する気はねェが、褌が蔑ろになるってぇのは我慢がならねェ。そんで安須大祭に合わせて大々的に宣伝しようってワケだ。これで褌の復権は間違いナシ!」
「はぁ。ま、まぁ商売としちゃ悪くない考えでしょうけど‥‥そこにウチの万屋が、どういう関係を?」
「万屋さんにゃ、すぽんさーになって欲しいんだよォ。あと、朝子のお嬢に特別審査員になって欲しい、と」
「絶対、嫌ッ! なんで女のアタシが審査員なんですか!」
 ばん、と机を叩いて朝子が抗議する。家業の手伝いとは言え、男の褌姿を拝むだけの仕事などまっぴらゴメンだ。
「男が男を審査するだけじゃつまんねェだろうよォ。だいたいアンタの親父さんに話通したら二つ返事でいいよって言ってくれたぞ」
「あのぼけ親父っ‥‥怪しいと思ったけどやっぱり仮病かっ」
 今更自分が嵌められたことに気づき、くやしがる朝子。源六は、何が不満なのかわからない、という感じで朝子に言葉を反す。
「いいじゃねぇか。この商店街も盛り上がるし、万屋の宣伝にもなるし、いい男との出会いになるかも知んねぇし、いいことずくめだぜ」
「彼氏との出会いが褌こんてすとなんてイヤーっ!」

●コンテスト――開催
 とまあ、審査員の顔ぶれについて若干の悶着があったものの、結局この『褌の似合う男コンテスト』は開催されることが決定した。
 後日、商店街の一角に盛大な舞台が設けられ、そこには高々と、『ベスト・フンドシスト・コンテスト』と書かれた垂れ幕が掲げられていたのである。

「おお。なんだかんだで、見栄えする会場ができたじゃねェか」
 会場を見渡して、源六が満足気な顔をしている。その横には、仏頂面の朝子も居た。
「朝子のお嬢も、審査員、よろしく頼むぜ」
「はぁ‥‥やりますよ、やればいいんでしょ」
 結局、源六や父親からけしかけられた話を断りきれなかったらしい。朝子は憤りと達観が入混じった顔で、審査員席についた。
「よーし、後は参加者だけだな」
 気を昂ぶらせながら、源六がつぶやく。既にギルドにも、知り合いの開拓者を通して根回しをしてある。これで、開拓者の参加者も来てくれる‥‥ハズだ。
 すべての準備を終えた源六は舞台上に上がり、声高らかに叫ぶ。
「さあ集え、褌の似合う天儀男児共! 今日は男を上げる、千載一遇の機会だぜぇー!」

 ‥‥背後の審査員席では、特別審査員の少女が頭を抱えていた。


■参加者一覧
/ 無月 幻十郎(ia0102) / 華御院 鬨(ia0351) / 相川・勝一(ia0675) / 荒屋敷(ia3801) / 平野 譲治(ia5226) / 此花 あやめ(ia5552) / 白漣(ia8295) / 瑠枷(ia8559) / 久我・御言(ia8629) / エルディン・バウアー(ib0066) / 岩宿 太郎(ib0852) / ベルナデット東條(ib5223


■リプレイ本文

●コンテスト当日!
 青々と澄渡る快晴の空の下、男達が凌ぎを削ってその褌美を競う‥‥そんなコンテストが始まる、そのほんの少し前。
「『ここで真の漢に出会える!』と聞いて参じたのだが‥‥」
 志士、ベルナデット東條(ib5223)は、会場に高々と掲げられる『ベスト・フンドシスト・コンテスト』の看板を目にして、眉間に微かに皺を寄せつつ首をかしげていた。
「‥‥会場を間違えたか?」
 目の前では主催者の褌職人・八坂源六が大声を張り上げながら、他の係員達に指示を出していた。もちろん、褌姿で。
「おうおう! 開場まで時間が無ェ、急いで仕上げるぞ!」
「おうよ、任せなぁ八坂の旦那ー!」
 忙しく立ち回る係員の中には、シノビの少年、瑠枷(ia8559)もいる。源六の褌への想いと、その男気に惚れ込んで、コンテストの手伝いを申し出たのだ。シノビの身の上を活かして、会場の設営を急ピッチで進めていく。
 そんな光景を眺めていたベルナデットと、源六の目が、ふと合った。
「おっ、嬢ちゃん観客かい!? お嬢みたいな可愛娘は一番前の特等席にご招待だ、さぁ入った入った!」
「いや、私は‥‥」
 ベルナデットの言葉など聞く耳持たずに、強引に席に案内する源六。まあ、折角だから楽しむか‥‥と、ベルナデットはなされるがまま、会場へと入って行く。

「べすと、ふんどしすと‥‥ここで間違いないかなっ?」
 会場に連れ込まれるベルナデットの背中を見ながら、此花 あやめ(ia5552)は逆に、お目当ての会場を見つけたと、一人嬉しそうに微笑んだ。幼馴染の相川・勝一(ia0675)がこのコンテストに参加すると聞き、いてもたってもいられずに応援に駆け付けたのだ。
「きっと驚くだろーなー、反応が楽しみ♪」
 自分が今日ここに来る事は、勝一には伝えていない。幼馴染の勇姿を想像し、期待に胸躍らせながら、あやめはベルナデットの後を追った。

 そしてベスト・フンドシストの称号に、あるいは男達の闘いに惹かれる参加者達も、一人、また一人と現れる。
「おや。美褌男児コンテスト、ですか‥‥」
 神父、エルディン・バウアー(ib0066)は、開場に入っていくあやめやベルナデットの姿を見て、きらりと目を輝かせた。そのまま確かな足取りで、彼も開場に足を踏み入れる。

 祭りの様子を見ながら町をぶらついていたサムライの荒屋敷(ia3801)も、ふと会場の前で足を止めて、舞台上を見つめていた。
「おっ、あの娘‥‥♪」
 その視線の先には、特別審査員の九藤朝子が居る。審査員席に座って仏頂面でいた朝子は、来場者が少しずつ入ってきたのを見て慌てて姿勢を正した。
「よーし‥‥いっちょ天儀男児の生き様って奴を見せてやるかっ!」
 その姿に何か惹かれるモノがあったのか、荒屋敷もコンテストへの出場を決意するのであった。

●控え室にて
 一方、こちらは舞台裏の控室。

「さてさて、美褌男児ってわけじゃぁないが‥‥お祭りだし楽しみましょうや、はっはっはっはっは」
 いかにも天儀男児という風体で、快活に笑いながら現れたのは、サムライの無月 幻十郎(ia0102)だ。
 その隣には、陰陽師の少年、平野 譲治(ia5226)もいる。
「正義の名に懸けてっ! おいらは負けないなりよっ!」
 元気よく握りこぶしを上げながら、高らかに宣言する譲治‥‥なにやら勘違いしているような節も見受けられるが。
 とにかく幻十郎も譲治も、コンテストのなにやら楽しげな空気につられてやってきたようだ。

「褌という言葉を聞いてつい参加してしまったけど‥‥僕は何をしているんだろう」
 少年、相川・勝一は、つい褌というキーワードに反応して参加を決めてしまった自分を振り返って、遠い目で虚空を見つめていた。
「でも、褌将軍の一人としてはこの勝負、負けられない‥‥!」
 しかし褌に惹かれるが故に得た自らの称号を思い出し、勝一は闘志を燃やす。ぎゅっと白褌を引き締め、開会の時を待つのだった。

 一方、控え室の隅っこでは、白漣(ia8295)が端正な作りの顔を赤面させながら縮こまっていた。
「ふ、褌なんて恥ずかしいっ‥‥」
 友人の華御院 鬨(ia0351)と共に参加してみたはいいが、考えて見れば人前で褌姿を望んで披露するなど、割と正気の沙汰ではない。
 一方、普段から女形を演じる鬨の方は、大舞台を前にしても極めて落ち着いた態度を保っている。パッと見では女性にしか見えない仕草と表情で、白漣に優しく語りかける。
「白漣はん、ここは男を見せるところどすえ」
「男を‥‥」
 恥も外聞もあれどしかしそこはそれ、白漣も一端の男の子。覚悟を決めて、ぐっと顔を上げた白漣は、自分に言い聞かせるように叫ぶ。
「そうだっ‥‥僕は男ですっ! こんな顔でも男です! その僕に褌が似合わないはずが無い! 鬨さん‥‥僕、がんばりますっ!」
 決意を固める白漣の横で、鬨がくすくすと笑う。
「白漣はん、顔が真っ赤どす」

「美褌男児決定戦‥‥これほど心惹かれる戦いがあったとは‥‥!」
 志士の岩宿 太郎(ib0852)は、未知の戦いに武者奮いしながらも、しかし頭を抱えていた。
「しかし‥‥俺の全てを賭ける一品とは‥‥! 『岩宿太郎』の全存在を搾り尽くした濃厚なスープのような褌は‥‥!!」
 手の内に褌は数あれど、この戦いを共にする一枚を選べず苦悩する太郎。
 一方、隣で久我・御言(ia8629)は余裕の笑みを浮かべている。
「‥‥ふ、実に罪深いコンテストだ。褌姿、つまり素の自分をさらけ出し、比べよう等と‥‥」
 イケメンと言うに差し支えない自分の顔面を鏡で確認しつつ、御言は自信ありげに髪をかきあげる。
「もし私の鼻の高さが少し低ければ‥‥いや言うまい」
 自分で言うのも慎ましさに欠けるが、顔立ちは良い方だろう。御言は自らの命運を預ける褌を握りしめ、不敵に微笑んだ。

●コンテスト開始!
 あやめやベルナデットが会場入りしてから半刻とたたずに、会場は満員御礼となった。 コンテストに出場する開拓者がどれ程の美褌男児か見届けようと、観客席には老若男女問わず大勢の見物人が集まっている。
 お祭り好きな天儀男児はもちろん、奇抜な内容に心を踊らす子供たち、とりあえず見に来てみた老人、そして多少の助平心を抱いた女性達。
 客席を見渡し、主催者の源六がニッと笑う。
「大入りだな! 朝子のお嬢も、鳩座の旦那も、準備はいいかい?」
 源六の後ろには、審査員として連れてこられた朝子と、開拓者の御剣鳩座が控えている。
「まさか、こんなに人が集まるとは‥‥なんかもー、諦めがついてきたわ」
「参加者の準備も整ったようですし、いつでも始められますよ」
 達観の表情で乾いた笑いを浮かべている朝子をみて、鳩座は苦笑しているが、源六の方は気にした風も無く、全ての準備が終わったことを聞いていよいよ舞台上へと上がっていく。
「さぁさ、お集まりの皆さん、お待たせしました! 役者も揃ったことだし、そろそろ始めさせてもらいますぜ!」
 源六が司会者よろしく、壇上から観客に呼びかけると、拍手と歓声が返ってきた。客のノリは、だいぶいいようだ。
「よぉーし、早速ベスト・フンドシスト・コンテスト、参加者入場だぁッ!」

 源六の合図で、壇上へと登っていく参加者たち。
 ある者は最初から褌姿で、またある者は、マントで自らの身体を隠しつつ。
 湧き上がる歓声に緊張しながら入ってくる者もいれば、逆に威風堂々に胸を張る者もいて、その反応は様々だ。
「しょーちゃーん、頑張ってー!」
 入場者の中に幼なじみの姿をみつけたあやめは、手を振りながら勝一にエールを送る。勝一の方は、まだ観客席のあやめには気づいていないようだ。
「ほう、みな開拓者というだけあって、中々出来そうな御仁ばかり‥‥」
 ベルナデットも、近場の出店で買ってきたゴマ団子を悠然と頬張りながら、参加者の顔を一人一人確かめていく。志体をもち、時に闘いの修羅場をくぐり抜けてきた漢達の褌姿は、言葉にできぬ美しさ‥‥さしずめ『オォラ』とでも言える独特の空気を醸し出すのだ。
「いい具合に色男が揃ったなァ。じゃー早速、アピールタイムと行こうかッ!?」
 壇上に上がった参加者は、順に観客と審査員に向けてアピールする手はずになっている。
 源六の宣言をもって、いよいよ闘いの火蓋が切って落とされた。

「ならば、私が一番手となろう」
 そう言って最初に前に出たのは、御言だった。自らの命運を預ける褌をアピールするように、腰に手を当てながら構える。
「私が身につけたる褌は‥‥このエターナルフンドーシ!」
「エターナルフンドーシ! 百年履き続けても汚れないと言われる、あの‥‥!?」
 その褌の名を聞いて、源六が思わず椅子から立ち上がった。驚く褌を尻目に、御言は朗々と語り続ける。
「大会は褌の良し悪しを見る訳ではない。だが! 私の美貌にこれほど釣り合う品は皆無‥‥よって私は、この褌で挑む!」
 一言一言しゃべるたびに違うポーズを決めつつ、御言は褌と共に自らの美貌をアピールしていく。
「さあ、諸君! 公明正大にじっくりと穴が開く様に見聞してくれたまえよ! この久我御言、逃げも隠れもしない!」
 最後にビシッ! と決め台詞を言ってのけると、会場からは主に女性を中心として歓声が湧き上がった。
「その美貌に恥じぬ高潔さと褌姿‥‥これはポイントが高いぜ」
 と、審査員席から源六のコメント。朝子はついていけずに呆然としている。
「え、あの‥‥ぽいんととか、あるんですか‥‥」

「次、相川・勝一‥‥行きます!」
 御言が華麗に一礼して一歩下がると、次は隣の勝一が前へ歩み出た。
「あっ、しょーちゃんの番だっ」
 いよいよの幼なじみの登場に、観客席にいるあやめは鼓動を早めながら、勝一を見守る。
(「ボクが応援するんだからだいじょーぶ、カッコ良いトコ見せてねっ♪」)
 勝一は壇上でも服を来たままだったが、舞台の中央でここぞとばかり、ばっと服を脱ぎ捨てて『庶汰』の褌姿を披露する。
 勝一は長巻を構え、舞台上で粛々と剣舞を舞った。その姿に、きゃーっ♪と、客席から淑女な方々の声があがる。
「きゃー、しょーちゃん、頑張ってー!」
 つられて思わずあやめも、舞台上の勝一に歓声を送った。その歓声で、勝一はようやく客席のあやめの存在に気づく。
「この声は‥‥あ、あやめちゃんどうして!? うわっと、危ない!」
 一瞬動揺して、危うく褌の腰紐を斬りそうになってしまう勝一。だが、なんとか持ち直して、真っ赤になりながらも剣舞を続ける。そんな勝一を見つめながら、あやめは
(「邪魔しちゃったかな‥‥だって、しょーちゃんカッコ良いんだもん☆」)
と、終始彼の姿に目を輝かせていた。
 勝一が最後に『成敗!』とポーズを決め、剣舞を終えると、客席からはやはり黄色い声援が上がる。額の汗をぬぐいながら、勝一はほっと大きく息を付いた。
 審査員席を振り返ると、源六達も彼の剣舞に見入っていたようだ。
「ふぅ、なんとかなった‥‥かな?」
 勝一はやり遂げた顔で胸を撫で下ろし、最後にあやめに目配せをして元の位置へ戻っていった。

『ウオオオオオッ!?』
 続いての鬨が舞台の前に立つと、会場に男達のどよめきが走った。
「皆はん‥‥華御院どす」
 ただでさえ女性にしか見えない顔立ちの鬨が、まるで女性のような仕草を取りながら前に出た為である。
「うちは、男らしくはありやせんが、その代わり、女らしいどす」
 わざと多少ぶかぶかな褌で局部が目立たないようにし、胸は腕で隠しながら‥‥恥じらう振る舞いで壇上に立つ鬨。女形役者の技術を最大限に生かし、完璧な少女を演じるその姿は、もはや褌コンテストというより大人向けの見世物さえ思わせる。
 もちろん、会場のオヂサンやお兄さん達は大喜びです。
「ぬぅっ、あれが男だとは‥‥信じられん」
「‥‥源六さん、鼻血出てます」
 後ろの審査員席では源六がぐっと親指を立てている。朝子は源六に呆れつつも、純粋に鬨の女を超える女らしさに驚いているようだ。
「思ったよりも、審査員の方々にも受けがよろしいようどすな」
 せくしーなポーズを決めつつ、役者として会場全体を魅了できたことに満足する。
 彼女‥‥もとい彼がアピールを終えて下がるときには、男性方の残念そうな溜息が会場に響いた。

 続いて前にでたのは、幻十郎だ。
「それじゃぁ、俺もここらで一つ、盛り上げるとしようか」
 筋骨隆々の立派な体躯に、真白の褌が眩しい。
 日頃から褌を着用している幻十郎にとっては、ぱんつよりも褌の方が自然体である。それだけによく似合う彼の褌姿には、会場からも『よっ、天儀男児!』などと歓声が上がっている。
「わぁ、すっごい‥‥けど、しょーちゃんも大きくなったらあーなるのかなぁ」
 あやめは幻十郎の姿に気圧されつつ、勝一にはムキムキよりはイケメンになってほしいなぁ、等とも思ったり。
 壇上の幻十郎はどこからか笛を取り出すと、その音を二三度確かめて、会場へ呼びかける。
「特技って程じゃないが、嗜み程度には吹けるもんで。一曲奏でさせて頂こう」
 幻十郎が横笛で囃子を吹き始めると、一気に楽しげな空気が会場を包む。
 それを後ろから見ていた譲治も、楽しげな曲調に乗せられ、踊りながら前に出てきた。
「おおっ、おいらも踊るのだっ!」
 曲に合わせて、飛んだり、はねたりを繰り返す譲治を見て、幻十郎もより軽妙な曲へ変調させていく。
「みっなしぺらたりっ♪ ひーっとうっきとっりっ♪ にーんさんっ♪」
 譲治独特の、不思議な擬音を交えた歌を唄いつつ。
 褌姿の囃子と踊りは、多少の珍しさこそあれ、なんとなく祭りの雰囲気には合っている。客席からも、壇上の二人に合わせて手拍子の音が聞こえてきた。
「源六さんよ、折角お客さんも乗ってるし、太鼓叩いたほうが盛り上がるかな!?」
 瑠枷が源六に耳打ちする。もとより裏方としてコンテストを盛り上げる為に、様々な楽器を持って待機していたのだ。
「よし、行ってくれ。黒子衣装は忘れずにな!」
「ゲッ、やっぱりあれつけるのか‥‥!?」
 しばらくして、瑠枷も幻十郎の後ろで、太鼓を鳴らしながら演奏に加わった。
 ただし、覆面頭巾に黒褌のみという特別仕様の黒子衣装でだ。
「黒子なのにどうしてこうなった!?」
 源六曰く、褌コンテストなんだから当然黒子も褌姿、とのことである。
 ともあれ、褌姿に、笛と太鼓に踊りまで加わった変わり種の演芸に、観客も大盛り上がりである。
 演奏が終わると、幻十郎と譲治の二人には喝采が浴びせられた。

「さて、次の美褌男児は誰だい!?」
 会場が盛上がりが冷めぬ内に源六がそう叫ぶと、エルディンと荒屋敷が同時に前に歩み出た。
「次は、私が参りましょう」
「よし、次は俺が!」
 ‥‥瞬間、散る火花。芽生える謎のライバル心。
 エルディンは羽織っていたハロウィンマントをさっと取り去り、極楽・もふんどし一丁の姿となる。
 対する荒屋敷は手にした白鉢巻を締め、褌に差していた木刀を抜いて構えた。
「むっ、何やら会場に熱気がこもってきたが…?」
 観戦していたベルナデットは、敏感に二人の殺気を感じ取った。
 もしやすれば、思わぬ余興が拝めるかもしれない。既に壇上の二人は一触即発の状態だ。
「こんなところで譲り合って順番に、なんてのも興冷めだ。いっちょ一勝負するか?」
「ほう、よろしい。その勝負、受けましょう」
 言うやいなや、荒屋敷は木刀をエルディンのもふんどし目がけて振り下ろす!
「俺みてえな色男が相手してやんだ、覚悟しやがれえ!」
 荒屋敷の剣気に怯みながらも、エルディンはアクセラレートで加速し、相手の隙を伺う。
「愛すべきもふら褌を切ろうというのなら、それなりの対処をせねば」
 たとえるならば、力の荒屋敷と、技のエルディン。
 睨み合う二人を見ながら、ベルナデットは手に汗握って二人の戦いを観戦する。
「あの動き、参考になる‥‥だが、どうもお互い狙っている場所が‥‥」
 二人の動きは明らかに、互いの褌を狙い合っている。この公衆の面前で、万が一褌をはぎ取られるようなことがあれば‥‥
「…頼む。最悪な展開だけは起きないでほしい‥‥!」
 ベルナデットが言う最悪の展開が起きれば、それはもうステキな、もとい、大変なことが起きるだろう。観客が暴動を起こすかもしれない。ベルナデットは、いざという時は自分が暴動を止めねばとまで覚悟した。
 勝負の続く壇上では、荒屋敷が猛攻にでている。サムライと魔術師、接近戦ではどちらが有利かは言うまでもない。
 何度も木刀がエルディンのもふんどしを掠め、腰紐が緩み始めた。
「とどめだっ!」
 荒屋敷の一閃で、エルディンの褌の腰紐が、とうとう斬られてしまう!
「ああっ、まずいっ!」
 会場がどよめき、ベルナデットが悲鳴をあげて目を覆った。
 しかし、当のエルディンは不敵に笑みを浮かべていた。沸き立つ会場(の中の女性客)に向けて、スマイル&ウィンクする余裕さえ見せている。
「暴れるだけ暴れればいいのですよ……ふっ」
「‥‥なにっ‥‥!?」
 エルディンは荒屋敷をぎりぎりまで引きつけ、アムルリープを唱えて眠らせた。
 そのまま倒れこむ荒屋敷の褌の紐を、そっと緩める。
 クロスカウンター‥‥互いの褌が、今はらりと落ち‥‥
「イカン! 瑠枷坊、緊急回避!」
「合点!」
 源六が叫ぶと、韋駄天の如く飛び出した瑠枷が、荒屋敷とエルディンを掴んで裏へ引っ込めた。
 開場には残念そうなため息が漏れる。いやため息って何だ。
「イヤァ、さすがに公の催しだしなァ、ポロリはまずいよ」
「ていうか褌を剥ぎ取りあうとか、どんな闘いですか‥‥」
 赤面して目を逸らしながら、朝子が弱々しく呟く。
「‥‥あ、危なかった‥‥」
 客席から見守っていたベルナデットも、最悪の事態は免れたと、思わず胸をなで下ろした。

 決定的な瞬間を見逃し、やや盛り下がる会場。
 はっとなった白漣が、沈黙をフォローするように前に飛び出した。
「はいっ、次は僕の番ですよ!」」
 白褌を身につけた白漣は、腹をくくったとは言えやっぱり少し恥ずかしいらしく、かなり赤面している。それでも一生懸命に声をあげて、観客席に向かって呼びかけた。
「皆さんは‥‥白褌がどんな人に似合うかわかりますか?」
 唐突に聞かれ、戸惑う会場。ポツポツと『ハンサム!』『マッチョ!』『角刈り!』『うほっ!』等と答えが返ってくるが、白漣はうんうんと頷いてから、
「そう、笑顔が似合う人に似合うのです!」
と、満面の笑顔を会場に向けて叫んだ。
 ぱあああああっ、という効果音まで聞こえてきそうな、純真無垢な白漣の笑顔。
 なんの根拠も無いのに何故か納得してしまう、そんなステキな笑顔に、観客も思わず釣られて笑顔になる。
「‥‥いいわね、白褌に笑顔」
 朝子も思わず、ポツリと呟く。
 真っ白な褌と合わせて、壇上の白漣の笑顔は、眩しい程に輝いていた。

 そして最後の一人として前に出たのは、太郎だ。控え室では褌選びに苦心していた彼だが、今身に纏っているのは、ごく一般の店で売られている市販褌(ルビ:ぼろぞうきん)である。
 あからさまにくたびれてボロボロな褌を前に、ざわめく会場。太郎はそれを制して、高らかに語り始める。
「皆様がご覧になっているこの褌! 他人から見ればくたびれた布切れだが! 魂ウォッシングにて! 汚れを味という輝きに変えた、俺の古フンドーシ!! これこそが、俺の全てを賭ける褌だ!」
 それは彼にとって全ての始まり。開拓者になってから初めての報酬で買った、最初の褌。いつも一生懸命に洗濯した、愛用の褌。それこそが、彼が見出した究極の褌だった。
「褌が衣装として輝くのは祭り! 従って、ボロボロ褌の男がボロボロな自作神輿担ぎボロボロな作法で舞わせていただきます!」
 そう言って、後ろからハリボテの自作神輿を取り出してきて担ぎだす太郎。
「このボロボロな味を粋とし愛する心が俺の褌愛だソイヤァァァ!!」
 そんな彼の謎の男気溢れる姿に、会場も湧いている。源六にいたってはよく分からない感動に落涙していた。
「感動した‥‥大事なのは質じゃねぇ、褌を愛する心だってことなんだな‥‥」
 一人堂々と神輿を担ぐ太郎に、会場からは拍手が送られ続けた。

●コンテストの行方
 ベスト・フンドシスト・コンテストは盛況の内に終り、最後にコンテストの受賞者が発表された。

【ベストフンドシスト賞】岩宿太郎(紅組)
【ナイスフンドシスト賞】無月幻十郎(白組)、久我御言(紅組:自動振分)
【イケメンフンドシスト賞】白漣(白組)

 そして安須大祭における紅白対抗戦の得点として、【白組】には千五百点、【紅組】には二千五百点の得点が加算された。

 受賞理由について、太郎はその褌愛を貫く男気に。
 御言と幻十郎はそれぞれ、威風堂々した天儀男児の風格に惚れ込んで賞を贈ると、源六はコメントした。
 特別賞の白漣については‥‥その賞を贈った朝子が照れながら曰く、すてきな笑顔を讃えて、とのこと。

●戦い終わって
 コンテストが終わり、控え室から続々と出てくる開拓者達。勝一の姿を見つけたあやめが、嬉しそうに彼に抱きついた。
「しょーちゃん、お疲れ様ーっ☆」
「うわっ‥‥あやめちゃん!」
 彼を労うために、出待ちしていたらしい。勝一の方は、幼なじみの不意打ちに顔を真赤にしている。
 勝一のあとに続々と出てくる開拓者達にも、審査員だった源六が礼を述べた。
「いやぁ、みんなお疲れさん! お陰さまで今日のコンテストは大成功だったぜ!」
 参加者たちのアピールによって観客も褌のすばらしさを再認識したらしく、会場横で販売していた褌も中々の売上が出た‥‥と、源六は満面の笑顔で語る。
「それは良かった。よろしければ、後で私に似合う褌も作ってほしいところだ」
 御言がそう言うと、源六もおうよ任しとけ、と豪快に胸を叩く。
「この着け心地、うん、すばらしい。ジルべリアの方々にも試してもらいたいもんだ」
 幻十郎もいつのまにやら源六の褌を買ってきていたらしく、既に着用してその感触を確かめている。普段から褌を着用しているだけに、もふんどし以外にも手持ち褌の種類がほしいと思っていたらしい。

 戦いを終えた男達がイキイキとしている一方で、彼らの褌姿を一日中拝んでいた朝子の方は、だいぶ疲れた顔をしている。
「なんか、しばらく褌が夢に出てきそう‥‥」
「九藤殿‥‥疲れている様だが、やはり無理やり審査員にさせられていたのか」
 参加者の様子を見に来ていたベルナデットが、思わず朝子に同情の視線を贈る。
「ま、まぁ、思うより色んな人がいたし、がちむち祭りとかじゃなかっただけ、楽しめたって言えるのかしら」
 と、フォローする朝子。
「愉しんで頂けはったのなら、役者冥利につきというもんどすな」
 鬨は朝子に言いつつ、観客の手応えも上々だったことを思い出して、満足気に微笑んでいる。共に参加した白漣も、賞状と景品を握り締めながら嬉しそうな顔をしていた。

「ああ、そういえばっ!」
 帰り際に、荒屋敷が突然何かを思い出したように叫び声を上げる。
 朝子に交際を申込むつもりでコンテストに参加していたのが、エルディンとの勝負に熱くなってすっかり目的を忘れていたのだ。
「これで玉砕したら、褌外して商店街走り回る覚悟も決めてたのに!」
「どんな覚悟だよ!」
 と、荒屋敷につっこむ瑠枷。
「んー、対決、楽しそうだったなりね。おいらも混ざってみたかったぜよっ」
 譲治はまだまだ遊び足りないらしく、二人の決闘を思い出しながら、名残惜しげに口をはさむ。
「三つ巴戦ですか、それはそれで楽しそうですね。壇上では、相打ちだったわけですし‥‥なんでしたら、この場で続きをやっても」
 エルディンが持ち前の聖職者スマイルで、譲治に言葉を返す。収拾がつかなくなりそうなので勘弁して下さい。

 ‥‥

 こうしてベスト・フンドシスト・コンテストの興業は成功に終わり、源六の褌は上々の人気を取り戻したようだった。
「しかし、使い古したボロボロの味を粋とする心こそ褌愛、か‥‥今回は、学ばされたぜ」
 源六は優勝者の太郎の姿を振り返り、そう語る。褌を日々愛し、履き続けることによってこそ、男は真のフンドシストになれるのだと、源六もまた悟った。
「まだまだ修行が足りねえな。次のコンテストまでには、俺も一端の美褌男児にならねばっ!」
 拳を握り、褌職人としての決意を新たにする源六。
 その隣で、話を聞かされていた朝子が、やっぱり引きつった顔で頭を抱えるのだった。
「次、あるんですか‥‥」
「あったりめぇよぉ! 次は美褌女子コンテストにでもするかっ!?」
「頼むからやめれっ!」
 次のコンテストが本当にそうなるなら、色々な意味で盛り上がりそうです。
 とりあえず朝子は、今度こそ審査員は勘弁してほしいと切に願った。