心の剣、修行中
マスター名:青空 希実
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/04/29 23:15



■オープニング本文

「あの、すみません。依頼をしたいのですが‥‥」
「はい、どうしましたか?」
 刀を帯びた少女が、受付の新人ギルド員に声をかけて来た。
「私、強くなりたいんです!」
「‥‥はぁ」
 新人ギルド員に、疑問符が浮かぶ。師匠に学び、修行をすればよいではないか。
 少女の装備は初々しい、よくある手合いかと新人ギルド員は心の中で呟く。

「私、花梨って言います。武天の生まれで、ずっとサムライの修行をして来ました。
ようやく独り立ちを認められて、先日、初めての依頼を受けたんです」
「なるほど、困っている方を助けてくれたのですね! ありがとうございます!」
「その‥‥荷物運びの依頼だったのですが‥‥」
 少女の台詞に、嬉しそうな新人ギルド員。力いっぱいお礼を叫んだ、少女は駆け出しの開拓者だったか。
 急に少女の顔が曇る。
「何か、あったのですか?」
「途中でケモノに襲われて‥‥。私、守ろうとしたんです!」
「‥‥守れなかったんですね」
「いえ、同行していた先輩のおかげで、荷物は無事でした。私が怪我をして、迷惑をかけたぐらいで‥‥」
「そうですか」
 少女は落ち込んでいるらしく、辛そうにうつむく。新人ギルド員は、かける言葉が浮かばない。
「私、開拓者に向いてないのかな‥‥」
「そんな事、言わないで下さい! 僕も志体さえあれば、あなたと同じように開拓者になりたかった‥‥」
「でも、困っている人々を助けたいんです」
「その気持ち分かります、僕も困っている人を助けたいです!」
 新人ギルド員は、思わず新人開拓者の手を握る。
 新人ギルド員は志体を持たない。志体がなければ、開拓者にはなれない。だからギルド員を志した。

「私に修行をつける依頼を、出して貰えませんか? もっと強くなりたいんです!」
「えっ、でも、それは依頼とは‥‥」
「良いんじゃないか?」
「先輩!?」
 思い詰めた少女の、突拍子もない提案。困った顔で答える新人ギルド員。
 じっと成り行きを見ていた、ベテランギルド員が声をかけた。新人ギルド員は驚きを浮かべる。
「武芸を磨くだけが、修行じゃない。心の修行って言うのもある」
「心の修行‥‥?」
「依頼人の立場になるのも、良い経験だ。俺が責任を持って担当してやろう」
「ありがとうございます、宜しくお願いします」
 少女はベテランギルド員の言葉を、反すうする。自分は腕を磨くことばかり考えていた、心の修行など思いつきもしない。
 少女はベテランギルド員に、深々と頭を下げた。
「喜多、お前も依頼人だ。娘さんと修行に行ってこい」
「えっ‥‥?」
「困っている人を助ける、ギルドの一員。その意味、本当に分かっているのか?
ゆっくりでも良い、成長を目指せ。自分に足りないものを考えろ」
「はい、弥次先輩、行ってきます!」
 驚いたままの新人ギルド員に、ベテランギルド員は笑う。半人前でも良い、一歩ずつ踏み出せと。
 拳を握りしめ、新人ギルド員は元気よく返事をした。

 そしてギルドに依頼が張り出される。
『強くなるために、修行をつけて下さい。場所は、武天の道場です』


■参加者一覧
純之江 椋菓(ia0823
17歳・女・武
剣桜花(ia1851
18歳・女・泰
バロン(ia6062
45歳・男・弓
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
晴雨萌楽(ib1999
18歳・女・ジ
杉野 九寿重(ib3226
16歳・女・志
羽喰 琥珀(ib3263
12歳・男・志
繊月 朔(ib3416
15歳・女・巫


■リプレイ本文


 庭に花梨の花が咲く。道場では、顔合わせが行われていた。
「私もまだまだ未熟者ですが、お二人の助けになれるよう、頑張ります。よろしくお願いしますっ!」
「二人が少しでも強くなれるように‥‥あたいも精一杯、協力させて貰うよ」
 純之江 椋菓(ia0823)の、元気な声が響く。ほほ笑みを浮かべて、モユラ(ib1999)も追随。
「花梨さん、喜多さん、よろしくお願いします。私に出来ることは、全力でやりますのでがんばりましょう!」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
 二人の隣に並ぶのは、狐耳の繊月 朔(ib3416)。花梨は礼儀正しく、先輩達に頭を下げる。
「いやー、頼もしいですね!」
「おぬしは、挨拶もできんのか?」
「‥‥すみません。皆さん、よろしくお願いします」
 感動の喜多の肩に、鋼の感触の右手が置かれた。視線をずらせば、静かにバロン(ia6062)が佇む。
 見た目通りの頑固親爺らしい。視線に気圧され、喜多の声が小さくなった。
「遅くなりましたが、よろしくお願いします」
 自分が怒られたかのように、杉野 九寿重(ib3226)の犬耳が立った。背筋も伸びる。
「おっかねー」
 羽喰 琥珀(ib3263)は、バロンを盗み見る。虎しっぽは、うな垂れた。
「これも修行だ」
「そうですよ」
 口数の少ない、琥龍 蒼羅(ib0214)の重い意見。修行には熱心な剣桜花(ia1851)も、同意するかのように続く。


「剣は心を映し出す鏡。迷いや悩みは、自ずと太刀筋にも現われる物だ」
 蒼羅は、木刀を手に立つ。抜刀の姿勢すら見せない。
「行きます!」
 花梨は右手を上に握り、右足を前に。軽々と交わされては、ひたすら狙う。
「‥‥動きに無駄が多い。まずは、そこを修正する必要があるの」
 バロンは、独りこぼす。
「あ‥‥」
 乾いた木の音。花梨の木刀が、床に転がった。
「拾え」
 拾えない。ケモノに襲われたときの、記憶が重なる。
「誰かを助ける為に、開拓者になる事を望んだのだろう。その気持ちは、一度の失敗で消える程度の物なのか?」
 木刀を前に、蒼羅は問いかける。
「‥‥」
 うつむいたまま、答えない花梨。自分の気持ちが分からない。
「‥‥少し休憩じゃ。これでは訓練にもならん」
「そうだな。‥‥剣を捨てる者に、開拓者を続けろとは言わん」
 バロンが口を挟み、軽いため息を吐く。蒼羅が、花梨の背に投げかけた言葉。
「なんだよー、あれ!」
「あの言い方は、どうでしょうか」
 琥珀は口をとがらせる。椋菓も表情を曇らせた。
「死ぬのが嫌なら、開拓者を辞めるべきでしょうね」
「ちょっと待って下さい!」
 桜花も難しい顔で呟く。聞き咎めた朔、狐耳の先が天を向いた。
「あ‥‥」
「皆さん、こっちへ」
 外に抗議しようと行きかけた九寿重とモユラ。入口から手招きを送る。顔を見合わせ、皆が寄ってきた。


 何やら声が聞こえた。
「自分が怪我をして仲間に迷惑をかけた、と言う事だったな」
「闇雲に剣を振るうだけでは、力は強くなるだろうが。それだけよ」
 縁側に腰掛け、木刀を肩に蒼羅の台詞。あぐらをかき、バロンは瞑想にふける。
「だが心配は要らぬ。どんな才より得難き物を、二人は既に持っておる」
「最初から、何でも出来る人間などいない」
「うむ。二人だけではなく、ここに集いし若人達の成長の為。今は心を鬼にして、厳しく指導しようぞ!」
「心得ている」
 閉じた目を開き、バロンは花梨の花を見上げた。壁に寄りかかりながら、蒼羅は呟く。
「‥‥聞きました?」
「しばらく、頭を冷やしましょうか」
 口を閉ざした若者たち。一様に道場の中へ引っ込む。
「協力、感謝するぞ」
「だてに年齢を重ねていないさ」
「わしからすれば、お主もひよっこよ」
 バロンと蒼羅は、盗み聞きを知っていた。あえて思いを口に出した理由。
 花梨や、喜多だけでなく、皆に感じて欲しかった。



「まずは、考えを整理してみてはどうでしょう? 何を考え、悩み、目指すのか‥‥声に出したり、書き出したり」
「それならば、これをどうぞ」
 椋菓は、人指し指を立てて提案。いつも手放さない筆記用具を、朔は快く貸し出した。
「とりあえず、座ろーぜ」
「あ、はい」
 琥珀は、床をぽんぽんと叩く。花梨も、腰を降ろした。
「ちょいと、欲しくないかい?」
「ああ、お茶ですね」
「僕がいれますよ」
 シルクのストラを揺らしながら、九寿重は和やかに答えた。喜多は、モユラの万屋湯呑を受け取る。

「行いを修める、と書いて修行と読みます。絡んだ糸を解すように、自身を明らかにしていくことが、心の問題を晴らす近道」
「深い言葉ですね‥‥」
「師の受け売りですけどね♪」
 筆を持つ手は動かない。羨望の眼差しに、単衣姿の椋菓はお茶目な笑顔。
「一歩を踏み出せず、伸び悩む。私自身も未熟なので、心境は共感できますね」
「あー、分かる。俺も花梨みたいに、迷惑かけた経験あるからさー」
「みんな始めは新人、ここは全力で応援したいですねっ!」
 九寿重も正座しつつ、話に犬耳を傾ける。目を細めた琥珀にも、若気の至りが。生来の頑張り者の朔、ぴこぴこと狐耳が動く。
「はい、お茶ですよ」
「ありがとうございます♪」
 幸せそうにモユラは、喜多から受け取る。
「命を賭けてでも、成し遂げたいことがあるのであれば‥‥強くなるしかありません」
 お茶をすすりながら、雑談を聞いていた桜花の一言。
「誰だって迷う時がある。迷わなきゃー、強くなれない。あたいだって、そうさ」
 モユラは現在、陰陽四寮の青龍寮にて勉強中の身。
「皆さんでも、失敗があるのですか?」
 喜多は疑問をぶつける。依頼の報告を受けるだけの身には、想像できない。興味深そうに、花梨の視線も向けられた。
「アヤカシに魅了されて、なーんも役に立たなくってさ。世話が焼けるって、言われたんだよなー」
 琥珀は頭をかきかき、告白。虎しっぽが照れている。
「小さな失敗から気付くのは、良い事なのです。学び、また踏み出せる様に」
「人生には、越えなければならない壁が、いくつもあります」
大真面目に諭す九寿重。頷き、桜花は目を細めた。
「転ぶ事を恐れては、足を踏み出す事ができません。諦めずに立ち上がり続ければ、いつか目指した場所へもたどり着けます!」
「ドジしても、生きてりゃ次に活かせるんだからさ。もーちょい前向きに、明るくいこーぜ」
「花梨も、道場稽古を一生懸命頑張る。と、自らに課しているならば、その努力が報われますよ」
「なるほど!」
 椋菓と琥珀、九寿重は、花梨に言ったつもりだった。なぜか、喜多の熱血の返事。
「十六や、二十で向いてるか、答えなんて出やしない。それこそ、シワくちゃの爺様、婆様になるまでね」
 苦笑を浮かべながら、モユラはまとめた。
「良い傾向じゃ」
「出番は無いか」
 入口の影から、窺っていたバロンが好々爺の顔をした。蒼羅の口も、わずかに笑みをたたえる。
 単なる戦術だけではなく、心身を鍛え、道を説く。それこそ若者に伝えたかったもの。


 道場宗主の縁戚の九寿重。あることに思い至った。
「道場の稽古と実際の戦闘の場では、慣れてないと違和感が有るのです。そこに自信消失の源があるのかもしれませんね‥‥」
「道場の中は近い、しかし実戦では距離が離れることも多くあります」
 桜花は顎に手を当て、思案顔。
「なら話は簡単、外に出て練習!」
 野外活動が大好きなモユラは、すぐに花梨を引っ張りだした。
「おーい、忘れもん」
 琥珀が木刀をふる。花梨は慌てて受け取った。
「いくよ、呪縛符。素振りで重い木刀使うのと、同じ原理さ」
 モユラの前で揺らめく瘴気、蛇が姿を現した。花梨の腕に、肩に、足に。蛇が絡みつく。
 庭におりたつ朔。よいしょと、霊刀「カミナギ」を構えた。
「巫女だと思って、遠慮しないでいいですよ。私もそれなりに、経験を積んできましたからっ」
「二人とも頑張ってください!」
 縁側に腰掛け、椋菓は見物に回る。喜多は手に汗を握った。
「負荷か‥‥」
「お手並み拝見じゃ」
 蒼羅は横目で、庭の様子をうかがう。あぐらのまま、バロンも注視した。


「あ、1本取られちゃいましたねっ」
「その調子! も一本、いってみよー!」
 朔の木刀が庭に転がった。モユラは音頭をとる。
「今度は、俺が相手になろう」
 六花の腕輪を着けた手が、木刀を握っている。花梨の前に、蒼羅が立ちふさがった。
「花梨。意思を、志を、刀で示して見せろ!」
「はい!」
 花梨の瞳に、迷いはなかった。外れても、交わされても向かっていく。
「‥‥良い目に、なってきたのう」
 バロンの口中の台詞は、誰にも聞こえない。


 あかね色のお日様が、山に隠れかけた。稽古も終わり近づく、道場の中で反省会。
「最後の実戦形式の訓練。喜多さんには、その準備をして貰いたいんだ」
「それが僕の仕事ですか?」
「つまり敵役の桜花さんのことを、調べてもらうのさ。どんな手が得意か、どう戦えばいいのかを、花梨さんに教えてあげて」
「これができんの開拓者の俺達じゃなく、ギルド員のオメーだけなんだから。頑張って調べてこいよー」
 理解していない喜多に、モユラはかみ砕いて説明。いらいらしながら、琥珀も続く。
「実際、こう言った集団でのアヤカシ退治を目的とした依頼は多い。上手く対応できるようになれば、自ずと花梨も自信がつくだろう」
「はぁ‥‥」
 珍しい蒼羅の長口上に、渋々といった様子の喜多。自分の求めている仕事ではない。
「いいですか? これが本物の依頼なら開拓者8人死亡、村の1つか2つ壊滅でしょう。そうなれば、貴方の責任ですよ!」
「ギルド員の方の、地道な仕事がとても助かるのです。調べ物など事前の情報がしっかりしてると、それだけで依頼の成功度が変わってきます」
 桜花は、やる気のない喜多を睨む。今にも、泰拳士の蹴りが飛んできそう。朔の狐耳も、批難の気配を現した。
「一緒に花梨さんの修行の、お手伝いをしましょう。どんなものが必要か、どう対応をすればいいのか」
「日々培ってきた成果が有ってこそ、現場で力を発揮出来る様になるのです」
椋菓がぎゅっと、拳を握った。目標に向かい一直線、遂げるまで進むのが信条。道理をわきまえる、九寿重の主張も加わった。
「喜多、お主らギルド員の支えあればこそ、我らは安心して戦える。明日は、ギルドへ出向くのじゃ」
「分かりました!」
話はまとまったと、バロンは判断。多くの言葉が、喜多の心を揺さぶった。


「一つ一つの動作で、止まってはいかん! それでは行動を終えた際に、隙が出来る」
「はい!」
「何をしておる! 動きの終点を、次の行動の始点へと繋げるのじゃ」
「すみません!」
「常に自分にとっての理想の動きを、頭に思い浮かべながら修行に励むのだ!」
 淀みなく襲ってくる矢。矢じりがないとはいえ、猛攻に変わりない。泥だらけで、花梨は矢を弾こうとする。
「おっかねー」
「あたい、前衛職でなくて良かった‥‥」
「今日だけは同意します」
 琥珀は、戦々恐々と庭を見る。隣のモユラと朔の、怯えた眼差し。
「これぐらい当然だ」
「ですよね」
 涼しい顔の蒼羅、桜花も平然としている。
「どれぐらい避けられますか?」
「全部は難しいかもしれません」
 真顔で会話を交わす、椋菓と九寿重。喜多の帰館は、いつだろう。


「危険なので、遠くにいて下さい」
 喜多は道場の外へ逃れた。入口から覗きこむ。
「私の教えたいことは、模擬戦で出しますから。嵩山流剣桜花、推して参る」
 一対八。桜花は龍袍「江湖」をひるがえし、真剣な眼差し。
「花梨さん気をつけて! 正面から来る!」
 後ろからモユラの声がかかり、花梨が硬直した。一瞬の隙。
 ふっと、桜花の姿が視界から消える。瞬脚。
「右です、隙を見せてどうするのですか」
 焦りで見渡した花梨の耳元で、桜花は囁く。
「おどろかすなよー」
「仕切り直しましょう」
 頬を膨らませる琥珀。手裏剣「無銘」が、桜花の足元を穿つ。九寿重の犬耳が、残念そうに伏せられた。
「花梨、集団戦に慣れる事が第一だ」
「はい‥‥」
 蒼羅が花梨を見やる。返事をしつつも、木刀の切っ先は床を向いていた。
「必ずしも派手な行動は不要です、自分の出来ることをっ、です」
「花梨、己の剣は何の為に振るうのかを、常に心に留めよ」
 甘い朔の口調に、安堵しかけた花梨。活を入れるバロンに肩をすくめた。


 桜花は惑わすように動く。前衛を抜けて、後衛の目前に。慌てずにバロンの矢が、足元を捉える。
 後ろに避けた。瘴気が渦巻く、モユラの術の射程の中。瞬脚で離脱。
 今度は蒼羅の木刀を、からかうように掴む。動作を追えない。不機嫌そうに、深雪で追い払う。
 九寿重の床を蹴る音。着地点で剣戟を受ける。好機と見た琥珀の挟み撃ち。木刀が横へ薙ぐ。
 再び姿が消えた、巫女舞を踊る朔の隣に。驚きで、舞いが止まる。
 椋菓が走り込み、振りかぶった。軽快に退き、入口の喜多の側に立つ。
 ただ傍観者と化していた花梨。喜多の姿に、我に返る。そして先輩開拓者たちを見た。
 注がれる視線。この模擬戦は、自分の為にある。動かなくては!



 模擬戦の結果は散々の一言で、片付いてしまう。
「お見事とは言えません。もう少し、周りを見てくださいね」
 ため息をつく桜花の言葉に、しょんぼりとする花梨。
「失敗したって、間違ったって、気にするこたーないよ。知らなかった何かを、知ることができたなら大成功!」
「今日は勝ち負けよりも、仲間と協力することが大事さ。駆け出しでも出来る役割はあり、どの役割も重要だと覚えておいてくれよー」
「仲間と連携して、仲間を信じて、自分の役割を全うする。私たちは基本的に一人じゃありません」
 モユラが、背中を叩く。琥珀がニカっと笑い、朔も慰めた。
「『困った人を助けたい』と願う花梨さんなら、きっと良い開拓者になれますよ。喜多さんも、どうか私達を支えてください」
 椋菓は花梨と喜多の手を、熱く握った。
「自分に何が出来るのか、考える事を怠るな。そのために必要な物を、お主らは既に持っている筈じゃ。‥‥皆、手放すでないぞ」
「至らぬ事がある身ですが、精進を忘れずにいたいです」
 バロンの言葉に、若者たちの顔がハッとなる。九寿重は深く心に刻み込んだ。
「まだ、先は長いか‥‥」
 刀を確かめつつ、蒼羅は独りごちる。
 庭の花梨の花が、静かに見守っていた。努力を忘れない者達を。