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■オープニング本文 ※このシナリオはエイプリルフール・シナリオです。 オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。 ●エープリルフール すぐ隣にあるかも知れない、舵天照にとてもよく似た、平行世界。 どこかで見たことある風景と、どこかで見たことある人々。なぜか地名も、人物も、舵天照の世界と全く同じ。 一つだけ違うとすれば、「相棒たちは全て意思を持ち、擬人化できる技法を持つ」こと。擬人化の技法は、年齢も外見も自由自在。 開拓者と出会って相棒となった日から、グライダーさえも擬人化して、絵を描ける。 練力切れで宝珠に引っ込む管狐も、擬人化すれば勝手に動き、お買い物を楽しめる。 言葉をはなさない鬼火玉も、擬人化すれば自由に人語を操れ、開拓者と歌い踊れる。 食べることができないアーマーも、擬人化すれば、美食家に変身することもある。 不自由があるとすれば、翼をもつ者や、空中に浮く人妖などは、空を飛べなくなること。でも開拓者と一緒に過ごす日常は楽しくて、不満は浮かばない。 これは舵天照に似た、不思議な世界の物語。開拓者と相棒たちの、日常の一幕。 ●南国からの訪問者 「てやんでい、ジルベリア帝国だ!?」 擬人化したダークエルフの青年は叫ぶ。司空 亜祈(しくう あき:iz0234)の相棒の甲龍は、声がうらがえった。 司空家は泰国で、代々料亭を営む。泰国の酒と味比べをしたいと、料亭のお得意様から注文が入った。 神楽の都から泰国までワインを送ってと、料亭からの頼み。しかし、ジルベリアの玄関口のジェレゾから、ワインは届いていなかった。 「金(きん)しゃん、泣いてるです?」 小麦色の肌をした青年は、眼がうるんでいる。心配そうに、猫族の双子が見上げた。白虎の兄と、折れ耳の虎猫の妹。 声を揃える双子は、料亭の若旦那の息子と娘。それぞれ勇喜(ゆうき)と伽羅(きゃら)と言った。 「どっか痛いん?」 流暢に言葉を操る二才児は、三毛猫しっぽを揺らしている。擬人化した猫獣人は、料亭の飼い子猫又の藤(ふじ)。 開拓者に限らず、主を得れば使える擬人化の技法は、年齢も外見も自由自在。子猫又の主は、料亭の跡取り息子だ。 「べらぼうめ、泣いてないぜ!」 擬人化した青年の散歩気分は、打ち砕かれる。可愛い弟分と妹分を、商人の店まで連れてきたことは、後悔していないが。 「現地に直接行った方が、早い? 配達がいつになるか、わからねぇのか。……うん?」 ジルベリア帝国に行ったことのない、猫族一家の子供たち。輝く瞳で、擬人化した青年の服を掴む。 「がう、くっきーなのです♪」 「にゃ、ちょこれーとなのです!」 「けーきや、けーきや♪」 ジルベリア帝国のジェレゾは、港町と聞く。アーマーの工房訪問も楽しそう。 なにより、いつか本場で食べたかった、夢の食べ物。料亭の子供たち、一緒に行く気満々だ。 ダークエルフの青年は青ざめる。一人で三人の子守なんて、絶対無理! |
■参加者一覧
礼野 真夢紀(ia1144)
10歳・女・巫
設楽 万理(ia5443)
22歳・女・弓
杉野 九寿重(ib3226)
16歳・女・志
九条 炮(ib5409)
12歳・女・砲
Kyrie(ib5916)
23歳・男・陰
神座早紀(ib6735)
15歳・女・巫
戸隠 菫(ib9794)
19歳・女・武
宮坂義乃(ib9942)
23歳・女・志 |
■リプレイ本文 ●身長の単位は、ジルベリア基準 走龍は足が速い。設楽 万理(ia5443)は、長距離走にいそしむ相棒を探した。 走るために生きている相棒。ようやく遠くに見付け、万理は叫んだ。 「聞きなさい。フォーエバーラブちゃん」 フォーエバーラブは、方向転換しながら擬人化する。先回りした万理に、さわやかに笑った。 「悪いけど止まれないわ」 「ワインを運んできます。場所はジルベリアから」 「ギルド?」 万理の声に、走龍は向きを変える。走ることが好き。依頼で走れるなら、申し分ない。 手に巻いたサポータで、汗をぬぐう。裸足でギルドへ向けて走り出した。 「義助、また人間になるのか?」 不思議そうな、修羅の娘。宮坂 玄人(ib9942)は、相棒を見上げて尋ねる。 同じく不思議そうな顔をした、駿龍の義助。紅い鱗を震わせ、擬人化の技法を使う。 「玄人、依頼なんだろう?」 「ああ、子供達の保護者とワインの運搬だ。俺はワインの運搬の方へ行く」 「ふーん、ジルベリアか」 紅色の髪をした、修羅の青年が姿を現した。駿龍時と同じ、銀色の瞳が玄人を見下ろす。 180もある玄人。しかし義助は、190を越えていた。 「アタシの出番なのさっ♪」 赤毛のサイドテールを揺らすエルフ。杉野 九寿重(ib3226)の相棒、人妖の朱雀だ。 「ジルベリアは故郷だけあって、色々承知してるのだしっ」 12・3才の強気な少女。一見してジルベリア系の様な、はっきりした顔立ち。 「頑張って引き受けるのだよねっ」 「はいはい、頑張るですね♪」 朱雀は、偉そげに腕組みする。身長の変わらぬ九寿重は、微笑ましげに相棒を見ていた。 「私はワインを受け取りに行きましょう。ワインは予め用意してあるんでしょうか?」 Kyrieの質問に、金はまだと答える。 「ジェレゾなら、ワインの格付け本もあるぜ?」 ザジの碧眼が、片目を閉じた。ジルベリア貴族の夜会服の様な服装をまとい、優雅に一礼する。 装飾過多の服、襟元や袖口のフリルが揺れた。非人間的とさえ言える程の美形からは、軽い口調が飛び出るばかり。 「本や、その出版社の方に話を伺いましょう」 予算内で、高級かつ定番のワインを各種取り揃える、Kyrieの作戦。任せておいてほしい。 「アタシが活躍出来る様にするのさっ」 「朱雀は何をするのですか?」 「ワンコ風に言うなら『人妖・朱雀、ここに推参ですねっ。存分に吶喊して前に出張り、勿論単独相対…。 それから、孤立分断に陥ったり挟撃されたとしても、備えた知恵で窮地を脱する』のだよっ」 口達者な朱雀の宣誓。九寿重のピンと立った犬耳が天を向き、青い瞳がまん丸くなる。 良く見ていた。朱雀は、相棒を良く見ていた。口調も、間の取り方も、そっくり。 「すごいのです、すごいのです♪」 「えっへんっ!」 猫族の双子が口を揃えて、拍手する。胸をはり、朱雀は威張り倒した。 「あらあら、藤さんに小雪さん、また会えて嬉しいわ♪」 緋色の瞳が、子猫又たちを見つけた。黒髪を揺らしてしゃがみこむ、妙齢の美人さん。 神座早紀(ib6735)の相棒、甲龍のおとめ。手を伸ばし、子猫又二人を抱っこしようとする。 肩甲骨までのまっすぐな黒髪が踊った。青い瞳が、甘えたの色を浮かべる。 背が90の白猫獣人は、礼野 真夢紀(ia1144)の人懐こい相棒。舌足らずの小雪だ。 「まゆき。こゆき、ふじちゃといっしょがいー♪」 「お友だちやもん♪」 お手手繋いだ、仲良し子猫又たち。おとめの胸の前で、小雪と藤は顔を見合わせ、にっこり笑う。 「至らない点も数多くありますが、子守を引き受けます。自分も購入とかしたいし!」 真夢紀も、元気いっぱい自己主張。少々、目的を間違っている気が。 「待たせたわね。フォーエバーラブちゃんをつれてきたわよ」 「ふ…ふ…? おじちゃん?」 「お前…」 万理もギルドに到着。舌足らずの小雪、フォーエバーラブを上手く発音できない。 走龍は、まだ18才。普段は人の話を聞かない性格だが、流石に文句が言いたい。 「ごめんなさい。小雪にとって、外見が二十才以上の男性は『おじさん』なんです!」 実年齢1才の小雪は、怖いもの知らず。太平のブローチを付けた真夢紀が、慌てて小雪の口をふさぐ。 外見23才のチャラ男も危機だった。Kyrie(ib5916)の相棒、土偶ゴーレムの†Za≠ZiE†。 「あ、俺様ちゃんは『ザジ』オッケーよ?」 「ざじちゃ!」 「はいはい♪」 小雪は嬉しそうに、白猫しっぽを揺らす。緩くウェーブのかかった赤髪をかき揚げ、ザジは返事を。 「らぶちゃ♪」 「…好きにしろ」 走龍は肩を落とす。…この瞬間、「ラブ」、「ザジ」と報告書に残される事が決定した。 「…さて、お子さん達と金さんは、ジルベリアが初めてとか」 よく響く、重厚なテノール。Kyrieは、ゴシックメイクの効いた顔を傾けた。 「防寒具は多目に用意して、重ね着出来る様にしましょう。風邪を引くといけませんから」 泰国の南部は、一年中暖かいらしい。雪の国で育ったKyrieには、考えにくい環境だ。 「猫族の皆さん、防寒は大丈夫でしょうか?」 ふっと真顔になった早紀は、マフラーを差しだす。不思議そうな藤の首に、巻いてあげた。 「小雪も、暖かい服装が良いよね?」 真夢紀は甲斐甲斐しく世話をやく。小雪の服は、冬用作務衣。猫又時も愛用する、白の外套。 なんせ、長袖作務衣は、もこもこ生地の薄茶色。真夢紀の長姉が贈ってくれた、手作りなのだ。 「あったかーい♪」 小雪は大喜び。首にくるくる巻いた、もふらー。引っ張りだしたショートブーツを履けば、完成だ。 「そういえば、ジルベリアに行くのは初めてだな…」 差し出された依頼書を、義助は斜め読みする。冥越の隠れ里出身の玄人は、白い息を吐きながら続ける。 「雪が降ってるって聞くし、寒さにも気を付けないとな」 「俺には、これがある」 羽織っていた、獣羽織「桜」を見せる義助。落ち着いた鴬色の生地に、桜が描かれていた。 「アンタが選んでくれたやつさ」 義助の目元が緩む。桜が好きな玄人に、ほほ笑みかけた。 「携帯食料としても使える、ショートブレット購入したいなぁ…」 「まゆき?」 「自分でも作れない事ないけど、職人さんの方が手が込んでるし」 小雪の質問。真夢紀の答えは、ちんぷんかんぷん。すでに気分は、ジルベリアン。 「あらあら、子守する子が増えましたね」 「私達は子守で決まりですね」 おとめは口元に手を当て、ころころ笑う。大人しく控えめな神座家次女も、くすりとなった。 「俺は子守りが苦手ではない」 物静かだが、好戦的な部分もある義助。18才の修羅の青年は、自己主張して戦う。 「寧ろ誤解されやすい、玄人の方が…ゴホン」 義助は咳払いをした、口止めされたらしい。赤い瞳が、背後から見ている気配を感じる。 紅葉色のロングコート「Bell」をまとった、玄人の瞳が。 「金殿、こちらは任せて貰えるかね」 短く切った栗毛が広がった。戸隠 菫(ib9794)の相棒、穂高 桐は金を振り返る。 「うん、あたしに心当たりがあるから任せて」 菫は軽く手を振る。人さし指を立てて、知り合いを思い出していた。 「店主がパティシエで開拓者の店なんだけど…、作り方も見せて貰えると思うんだ。 先に行って交渉しておくから、桐は皆の案内お願いね?」 「菫の心当たりまで食べ歩きすがら案内するからな。着く頃には話がついているだろうから」 菫の声に、桐は頷く。割と細工物は好き、道案内ついでにジルベリアの細工材料も紹介しよう。 「お店の都合がついているのはありがたいですね。合流したら、スイーツを頂きます」 甘味大好きなKyrie。銀の瞳を閉じて、歓喜に浸る。仕事の後が楽しみだ。 ●我ら、ぱてぃしえ☆ お店で菫がお出迎え。ジルベリア製の可愛らしいおしゃれ着を手にしていた。 「了解して貰ったよ。ただ、エプロンドレスに着替えてね」 泰国の子供は、着方が分からない。両親がジルベリア人である菫は、伽羅を手伝ってやる。 「店主からも借りて人数分あるから、大丈夫だよ」 菫は真夢紀の手を取り、早紀に手招きをする。二人の顔に、喜びの花が咲いた。 「ふむ、こういうものも面白いね。藤殿も、やってみてはどうか?」 お店の外観に感動する、小雪と藤。白の外套を脱ぎながら、桐は二人を中へ促した。 「あ、お昼ご飯と夕ご飯は、ちゃんとバランスの取れた物を食べる事。約束できますか?」 子猫又たちを前に、真夢紀はお姉さん役。不思議そうな小雪と藤。 「お菓子は素敵ですけど、それでお腹を満たすのは不健全です!」 真夢紀の言葉に、料亭の双子が同意をした。白猫と三毛猫しっぽは、良く分からないまま約束する。 「それと、『一人で行動しない』。必ず二人…小雪と藤さんは『三人以上』で行動をすること。 目についたお菓子が気になって迷子とか、しゃれになりません!」 力説する、真夢紀。待とう従者の外套が、大きく揺れる。 …神楽の都で、小雪がやらかした事があるのかも知れない。 「お店の名物は、シフォンケーキ、シュークリーム、ガトー、タルトかな。クッキーとチョコレートも勿論あるんだ」 菫に紹介され、褐色肌に浮かぶ碧の瞳が、子供達を見下ろす。190もある店員さんは、モデル体型に映った。 黒髪を揺らし、笑いかける。17才で店を構える娘さんは、相当のやり手なのだろう。 「それでね、タルトとシフォンケーキを作らせて貰えるんだって。作り方を教えて貰えるから、皆でやってみよう」 いっぺんに全員は作れない。菫を交えて、交代で教えて貰う。 「…卵白を冷やしながら、徹底的に泡立てるんだな。ふむ」 桐を含む他の者は、見学でお勉強。シフォンケーキは時間との勝負。 泡立てたら型に入れ、すぐに石窯に入れないと美味く膨れない。 焼きあがったら、さかさまにしないとケーキ自身の重みでつぶれてしまう。 そんな一行に手を振り、菫はお店のお手伝い。勇喜を伴い、販売体験。 「あたしは、店主の相棒と接客してるよ…うん、頑張るから」 (…シュークリームは五百文…え?) 店先に立った菫、我が目を疑う。天儀では開拓者長屋、四畳半二間の一月分の家賃だ。 「とても手が掛かるし、材料が高いから? 普通の値段のもあるけど」 菫は店員のからくりに尋ねる。戦慄さえ覚えながら。 「見た事ないような道具も、いっぱいあるのだな?」 桐の声に驚きが浮かんだ。早紀と伽羅は並んで、道具を見せて貰う。 「伽羅さん、これ形が面白いですね。あ、こんなのもあるんですね」 焼き型は面白い。早紀は花びらのようなブリオッシュ型を手にとった。 伽羅が持っているのは、パイ型とケーキ型。他の調理器具にも、興味がある。 「あらあら、これはスパチュラって言うんですって」 おとめは小雪を抱き上げ、机の上を見せてやった。白猫しっぽは大喜び。 「はいはい、藤さんも抱っこですね」 三毛猫しっぽにせがまれ、おとめは視線を落とす。にこにこしながら、交代に子猫又たちを抱き上げた。 (少しは、こっちにも来てくれたらいいのに) 横目で見ながら、早紀はムッとする。おとめを盗られた気がして、少しご機嫌斜め。 解っている、お仕事だ。解っている、子猫又は二人とも幼い。 でも、早紀だって子供なのだ。おとめは、早紀の相棒なのだ。 ●ジルベリア、ん? 擬人化を解いた朱雀は、九寿重の犬しっぽで遊ぶ。九寿重のシルクのストラを真似。 首に上手くしっぽを巻きつけ、ワンコ襟巻にした。 「お前、ソレ好きだな?」 「毛皮もふもふは良い物だよっ!」 足踏みは素早く、移動はゆっくり。余裕のあるラブは、声をかける。朱雀の笑顔が返ってきた。 「そろそろ、引っ張るのは、止めてほしいですね」 おもちゃにされていた九寿重、ちょっと疲れた。朱雀に命ずるが、無視される。 「朱雀、斥候に行ってきて下さいね」 「お互いの死角を補うんだねっ」 朱雀、今度はすぐに反応。さすがに、道中の偵察は大事と知っている。 声を掛けての注意には、適当に耳を傾けていた。…つまり、殆ど聞いていないんだけどね☆ 「ワインは振動を嫌いますから、中で動かない様な包み方で梱包しましょう」 白地のスーツ「シヴェルスク」を着こなす、貴族然としたジルベリア人のKyrie。丁寧にワインを包んでいく。 「フォーエバーラブちゃん、走っては行けません。こら聞きなさい!」 「悪いけど止まれないわ」 短パンとランニング姿の相棒に、命令する万理。203あるラブは、どこ吹く風。 走ってばかりで、言う事をきかない相棒。万理はカリガをはいた足で、大地を蹴った。 器用にラブの背中に飛び乗る。背負ってもらい、直接操るしかない。 「オレ、走る!」 「解っています」 ラブは駆けたくて仕方ない。荷台の前で、素早く足踏みを続ける。 「やっていることが、人間になる前と変わらないわねぇ。乗り心地で言えば、前の方がマシだわ」 背負われた万理は、ぼやく。長細い浅黒マッチョ男を、どうしてくれよう。 ラブと万理のやり取りを見ていた、修羅たち。 「問題はワインの耐久度だな…。勢い余って、地面にぶつからないようにしないと」 「…手綱さばき次第だな」 玄人は、うろん気な目つきになる。しみじみと答える義助。 「大丈夫です。フォーエバーラブちゃんは、常人の全力疾走くらいの速度で、マラソン並みの距離を巡航出来きますから」 視線に気づいた万理が、胸を張る。誇らしげに、相棒を擁護した。 「間違っても割らないよう、慎重に…」 心配だ、非常に心配だ。「義」と書かれた、義助の首飾りが不安げに揺れる。 「流石に弁償するのは、ごめんなのさっ!」 朱雀が、義助の声をさえぎった。荷物が荷物だから、絶対に割らない様にしたい。 口も達者で気が短い、ジルベリア生まれの朱雀。口やかましく、ラブにまくしたてる。 「分かった、気をつける!」 「そこだけは、心配りしておいてねっ♪」 親指を立てる、浅黒マッチョ。ウインクを返す、エルフ。意志疎通、完了! そして、迷子発生。 「たまには真面目にやんないとね〜、…おっ! すげえ美人発見! Kyrie後は任すわ」 ザジの人間の眼球を精巧に模した指輪が輝いた。懐の風宝珠を起動させたかのように、素早く移動する。 「おたく、どこの店に行くわけ? 俺、良いワインの店を知ってるよ?」 「…ザジ、遊んでないで手伝ってください。荷車を引くんですよ」 遠くに行きかけた相棒に、Kyrieはため息。『ファム ファタール』なる人物を探しているとは、聞いたことがあるが。 「そりゃ残念。また、お目にかかることを願って」 女好きで享楽的な性格のザジ。美人さんの手に、うやうやしく口付けして離れる。 「やはりここは真面目にやらないとねっ!」 ワンコを探して、鳥になった朱雀は空を行く。空から、人だかりが見えた。 喧騒が聞える。いわゆる、ゴロツキが一般人をいじめていた。 「アタシの出番だねっ」 人魂を解き、朱雀は屋根の上に着地。赤毛を揺らして、技法を発動する。 力の歪みで、ゴロツキをぶんなげた。神風恩寵で、一般人の怪我を治していく。 「アタシの故郷で悪いことしたら、許さないんだよっ!」 最後はビシッと決めポーズ。屋根の上を見上げた一般人から、拍手を頂戴する。 「朱雀! どこに行っていたのですか!?」 「ん〜、人助けだよっ」 息を切らした九寿重が、仲間と一緒に屋根を見上げる。小首を傾げる朱雀。 迷子だった朱雀は、無事にワンコに保護されたのだった。 ●ジルベリアの夜 「こゆきがふじちゃに、くりしゅますぷてぃぐわたすぅ」 「おおきに♪」 小雪はお土産のクリスマスプディングを抱え、よちよち歩く。おとめは、ハラハラ。 三毛猫しっぽを揺らす藤。同じくよちよち近づき、小雪からお土産を受け取る。 「双子さんも、どうぞ」 「ありがとうです!」 真夢紀が差し出したのは、おやつ満載の袋。オリーブオイルチョコ、もふらさまのオーナメント・クッキー。 口を揃えて、双子はお礼を言う。嬉しそうに、金に見せた。 「殺戮の嬌声は虚ろな花園に響く…冗談ですよ」 キョトンとした双子に、Kyrieは笑う。おすすめや、美味しそうなお菓子を片っ端から食べていた。 「これは素晴らしい…ザジ、貴方も…ってどこに消えたんです?」 ケーキ片手に、Kyrieは相棒を探す。ザジは美人さんのおとめをナンパ中…。 いや、小雪や藤に捕まって、断念したようだ。将来のレディに、ダンスの手ほどきを。 「色々面白いものを、皆に案内するんだよっ!」 お互いに楽しみたい朱雀。双子達に妖霊のランプを手渡し、夜の街に誘う。 「オーロラが見えるかもしれないね」 菫が子供達の背中を押す。大人たちが軽く酒盛りする間、子守を引き受けた。 「まゆき、まゆき、きれい!」 小雪は必死で、空を指差す。夜空に広がる、光のカーテン。色を変え、形を変え。 飽きること無き、光の踊り。もっと近くで見たい。 もふら半纏を着こみ、少し不機嫌な感じで歩きだす早紀。ふと、手を握られた。 横を見ると、おとめが160の身長をかがめていた。微笑み、早紀の耳元にささやく。 「藤さん達は可愛いですけど、私の娘は貴方だけですよ」 早紀の頬に紅が刺した。自分の子供っぽさに、恥かしくなる。 おとめは、早紀をきちんと見てくれている。早紀は子守のつもりで、早紀が子守をされていた。 元々おとめは、早紀の母の相棒だった。母が早世した事により、形見になってしまう。 「…皆に嫌な思いをさせなかったかな?」 「させていないと思いますよ。ただ…」 早紀の問いに、おとめは口ごもる。ちょっと考え、言葉をつむいだ。 「ただ…私のお見合い相手を、探してもらうのですか?」 36才のおとめ。赤狐の襟巻と、ロングコートが困惑したように揺れる。 「…道中も藤さん達を離そうとしないから。帰ったら、真剣にお婆様にお願いしようと考えちゃいます」 苦労性のおとめを、早紀なりに心配しているのだ。話の続きは、天儀に戻ってからになるが。 走龍の健脚は、ジルベリアでも健在。ラブは台車を引きながら、大地を縦横無尽に疾駆した。 「オレ、これ。お前たちも、飲め」 「これなんなのさっ?」 「豆乳みたいですね」 仕事の後の一杯は格別だ。万理の好物の豆乳を受け取り、ラブは朱雀と九寿重に渡す。 女の子には、優しく。ワイン運び道中で、ザジが『ジルベリアの心得』なる物を教えた。 「うばー♪ 毎朝一杯の豆乳が美肌を作るのよ」 万理は旅路の果て、祖国への思いを忘れた。けれど、祖母の教えは守り続けている。 「おたくたちの肌は、最初から綺麗…」 さり気なく、チャラ男…否、ザジが三人に良い寄ろうとした。 「おい、ザジ殿。どのワインが、アンタのお勧めだ?」 間が悪い。ワインを物色していた義助が、ザジを呼びとめる。 「あ、ザジ、預けた格付け本を出して下さいね」 手招きするKyrie、ザジの眉間に少しばかりシワが寄った。仕方なく、隣に移動する。 「玄人に飲ましてやりたいから…いや、俺と飲むんだ」 視線を落とし、ワインと睨めっこする義助。ごにょごにょと口を濁す。 基本的に修羅は、お酒が大好きな種族だ。玄人がお菓子に気を取られている隙に、探さねば。 「ケ セラ セラ、俺様ちゃんにまかせなさーい♪」 ザジは義助の肩をたたき、張り切る。義助にも、『ジルベリアの心得』が必要らしい。 |