【初夢】相棒と白梅の里
マスター名:青空 希実
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/01/18 21:16



■オープニング本文

※このシナリオは初夢シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。

●初夢
 すぐ隣にあるかも知れない、舵天照にとてもよく似た、平行世界。
 どこかで見たことある風景と、どこかで見たことある人々。なぜか地名も、人物も、舵天照の世界と全く同じ。
 一つだけ違うとすれば、「相棒たちは全て意思を持ち、擬人化できる技法を持つ」こと。擬人化の技法は、年齢も外見も自由自在。
 開拓者と出会って朋友となった日から、グライダーさえも擬人化して、絵を描ける。
 練力切れで宝珠に引っ込む管狐も、擬人化すれば勝手に動き、お買い物を楽しめる。
 言葉をはなさない鬼火玉も、擬人化すれば自由に人語を操れ、開拓者と歌い踊れる。
 食べることができないアーマーも、擬人化すれば、美食家に変身することもある。
 不自由があるとすれば、翼をもつ者や、空中に浮く人妖などは、空を飛べなくなること。でも開拓者と一緒に過ごす日常は楽しくて、不満は浮かばない。
 これは舵天照に似た、不思議な世界の物語。開拓者と相棒たちの、日常の一幕。


●白梅の里
 遠い異国、どこかの言い伝え。いわく、そこは美しい梅の花が咲く山、羅浮山(らふさん)。
 薄衣をまとった、美しい女人が住むと言う。年老いることのない女人は梅の精霊、羅浮仙(らふせん)だと。


 天儀の南、朱藩の田舎に白梅の里はある。梅の実が特産品の山里も、雪の季節を迎えていた。里に向かう、開拓者と相棒の一団。
「どういう訳か、今年は梅の花が満開なんだそうです」
 開拓者ギルド本部で「お花見に行く」と言う、不思議な会話を聞きつけた。興味を持ち、黒髪のポニーテールにつられて、ココまで来る。
 真野 花梨(まの かりん)の両親は、先に里に行ったらしい。依頼が終わりギルドで報告していたサムライ娘を、開拓者と相棒が捕まえた形だ。
「お正月と誕生祝いを兼ねて、梅を司る羽妖精が咲かせてくれたのでしょうか? あ、従兄は清太郎(せいたろう)さんと言って、一月六日が誕生日なんです」
 案内人のサムライ娘、空を見上げつつ答えた。仰いだ空には少し雲が浮かぶが、青く天晴れ模様。正月気分を加速してくれる。
「そうですね……白梅の里は、何もありませんよ。遊びはお正月の凧上げや、コマ回し、はねつき、雪遊びくらいしか思いつきませんね」
 無茶ぶりされ、困るサムライ娘。田舎で過ごすことは、神楽の都暮らしには退屈であろうと。
「変わったもの? うーん……あ、従兄のお嫁さん、おめでたなんです! あと半年くらいで生まれる予定だって、言っていました♪」
 変わった事には、違いない。が、開拓者の期待とサムライ娘の思いは、すれ違っている。


「花梨姉ちゃん、久しぶり!」
「あ、良助(りょうすけ)君、元気でしたか? ……白梅の里の親戚が、迎えに来てくれたようです」
 街道の向こうの叫び声、手を振る少年が居た。サムライ娘は手を振り返し、開拓者に説明する。
 開拓者たちを見て、小首を傾げる少年。梅の花を求めてきた観光の言葉に、破顔する。
「清兄ちゃん、姉ちゃんとお雑煮を食べて、花見をして過ごすってさ」
「お雑煮……うちでは、毎年論争ですよ」
 少年の何気ない言葉に、サムライ娘は苦笑する。天儀の雑煮は、地域によって、かなり違うらしい。
「白梅の里の母の実家って、白みそに丸餅を入れるんですよね。武天育ちの父は、澄まし汁に角餅って言い張るんです」
「僕の家も、白みそに丸餅だよ? 姉ちゃんも、雑煮好きだし」
「あ、おりんさん、今年はお雑煮作れませんね」
 サムライ娘を不思議そうに見る少年。少年の姉は、サムライ娘の従兄に嫁いでいる。さきほど話題になった、おめでたさんだ。
「花梨姉ちゃんの家の雑煮、食べてみたいな。ねぇ、作ってよ」
「澄まし汁の方ですか? 良いですよ。梅見物しながら、食べましょうか♪」
 少年の指差す先に、里の入口が見える。訪問者を迎える白梅の木は、嬉しそうに枝を揺らしていた。


■参加者一覧
礼野 真夢紀(ia1144
10歳・女・巫
サーシャ(ia9980
16歳・女・騎
明王院 千覚(ib0351
17歳・女・巫
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905
10歳・女・砲
神座真紀(ib6579
19歳・女・サ
ケイウス=アルカーム(ib7387
23歳・男・吟
ラグナ・グラウシード(ib8459
19歳・男・騎
厳島あずさ(ic0244
19歳・女・巫


■リプレイ本文

●梅の羽妖精
 泰国の服装に身をつつんだ龍獣人は、物憂げに黒髪を揺らした。お茶をすすりつつ、相棒に尋ねる。
「主、正月に旅行か?」
「家にいても何もないからな……」
 あん餅を食べ終わった、ラグナ・グラウシード(ib8459)。雪うさぎの帽子を、頭に乗せる。
 背中に桃色うさたんを背負い、外出準備。普段は駿龍である、相棒のレギに赤い瞳を向けた。
「女性は花が好きに決まっている! ということは…」
「ぬ、出会いの好機!」
 腰まであるストレートの黒髪が、浮足立った。ジルベリアの単位で、195cmもある龍獣人、即座に疾風の脚絆に手を伸ばす。
 19才の相棒と「さびしいおうち」を飛び出した、非モテ騎士。あんこ並の甘い思いを抱く。


「ハユハじいちゃんと一緒に、お正月を楽しむよ!」
「ほっほっほっ、楽しみじゃのう」
 ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)は、小柄な老人に抱きつく。152しかない相棒。
 「白き死神」は、滑空艇のギルド登録名。ルゥミを育ててくれた、老砲術士の現役時代のあだ名だ。
「じいちゃん! あたい、早くお雑煮食べてみたいな!」
「これこれ、年寄りを急かすでない」
 祖父を見下ろし、ルゥミははしゃぐ。孫娘を肩車したハユハ、たしなめながらも笑っていた。
「雪に映える満開の梅……想像するだけでも素敵ですね」
 ふわふわした、ラビットバンドが楽しげだ。明王院 千覚(ib0351)の前を、小さな相棒が飛びはねる。
「千覚姉さま、楽しみですか?」
 98の少年は、懸命に見上げる。千覚の相棒、忍犬のぽちは、6才の芝犬獣人に擬人化中。
「はい、とても楽しみですよ♪」
「姉さまが楽しみなら、僕も楽しみです!」
 犬しっぽが、さかんに振られる。小料理兼民宿『縁生樹』の看板わんこは、つぶらな瞳が愛くるしい。
 仕草も幼くて、千覚の服を引っ張る。家族の次女は、物腰が柔らかく、小さな弟の手を引いた。
 同行人の礼野 真夢紀(ia1144)は、縁生樹の常連さんでお友達。真夢紀にとって、千覚は姉達の友達になる。
 真夢紀が開拓者になってからは、千覚の家族全員にお世話になっているとか。真夢紀には、二人姉がいる。
「マユキ、ウメきれい、いえかざれない?」
 助詞がよく抜けるしらさぎは、起動後7ヵ月のからくり。18才の外見は、真夢紀の姉と変わらないかも。
 体の弱い長姉と、長姉を守る責務を負う次姉。真夢紀は。姉達が大好きで折に触れ2人と文を交わしている。


「すごいなぁ、本当に梅が満開だ」
 おでこに手を当て、ケイウス=アルカーム(ib7387)は村を見渡す。アル=カマルの生まれには、天儀の景色は面白い。
「羽妖精が居たら声かけてみるか」
 25歳前後のヴァーユは、風切の羽根飾をいじりながら、待っていた。短髪と同じ、淡い空色の龍しっぽがときどき動く。
 左の角のケイウスが編んだお守り、紐輪がリズムを刻んだ。主の奏でる音楽を好み、大人しく側に寄り添う駿龍。
 好奇心が強い主は、吟遊詩人。ペンを振りかざし、楽譜「精霊賛歌」に書き連ねていた。
 座右の銘は『淑女ならば一撃必殺』。サーシャ(ia9980)は、相棒の狼獣人に呼びかける。
「新年の用事は済ませましたし、あとはのんびりとするだけですからね〜〜〜」
「はい、主(あるじ)サーシャ♪」
 白狼耳がピクついた。しっぽをぶんぶこ振りながら、アーマー「人狼」ちゃんは返事する。
 去年の年末に、開発されたばかりのアーマーだ。名前も無ければ、世俗に疎い子。
 ジルベリア帝国のそれなりに名家な貴族サーシャにより、命名式が行われた。アリストクラートと。
 通称「アリス」は、里の雪景色を見渡す。冬に咲く花というのは、ジルベリアではあまり見かけない。
「特別に何か奇を衒ったりする必要も有りませんし、のんびりと行きましょうか」
 アリスの頭を撫でながら、サーシャは声をかける。10歳位の女の子は、こくこくと頷くばかり。
 143しか無い背に、白を基調としたフリルエプロンドレス。白狼としては、白い花に興味がわく。


「あずささん、例の物を」
 玄関先のもふらは、相棒の厳島あずさ(ic0244)に命ずる。ものすごく神々しい名前を持つ、神の使い。
 居眠毛玉護比売命は、イネムリケダママモリヒメノミコトと言った。あずさからは、ヒメとか呼ばれる。
「ヒメ、どうぞ」
 もふらは身を震わす。155のぽっちゃり系のもふら獣人になった。モコモコした服を着て、神道系の飾りつけをされている。
 使える巫女は、おごそかに破魔矢「巳」を差しだす。細身のあずさは、白衣に緋色の巫女袴を身に着けていた。
 里の家々に、新年の縁起物をさずけるヒメ。あずさの父は神職で、あずさ自身も信仰心が厚い。
 あずさの相棒として、一応、新年の職務に励む。家の奥で、雑煮の美味しそうな匂いがしていた。


「白梅の里も久し振りやなぁ。今年も色々土地の料理、勉強させてもらわんとな♪」
「春音、眠いですぅ」
 黒髪ポニーテールを揺らす、神座真紀(ib6579)。頭の上の羽妖精に、声をかける。
「春音、この里には梅の羽妖精がおるんやて」
「本当ですぅ?」
 大きなあくびをする、春の羽妖精。眠そうに目をこすった春音は、目が真ん丸になる。
「もし会うたら、遊んであげるんやで」
「もちろんですぅ」
「ええ返事や♪」
 興味津々の相棒、背伸びをすると地面に降りてきた。着地するときには、可愛らしい人間の娘さん。
 小袖を着た、白い肌。頭の簪を気にする左手には、桜色の腕輪。準備万端と笑う、春音。


●お雑煮戦線
「眠いですぅ」
「春音は皆と遊んできとき」
「いってくるのですぅ」
 太い三つ編みは、大きく頷く。子供達を探しに出掛ける、桜色の髪と瞳。12才の春音は、遊び盛り。
 148の身長は、里の子供に混ざりこむ。少しぽっちゃりさんだから、遠くからでも見分けがつくけれど。
 簪「早春の梅枝」を揺らし、料理をやる気の真紀。家から、飛び魚の煮干を持参した。
「あたしはお料理のお手伝いしながら、勉強させてもらうね」
 神座家の雑煮は、あご出汁の澄まし汁。丸餅を焼かずにいれる。具は多彩でブリ、干しシイタケ、里芋、人参、カツオ菜。
「花梨さんの澄ましは、出汁が違うんやろか?」
「お雑煮……うちは味噌味に焼いた丸餅、大根人参菜の花に生麩だけど。余所のお雑煮も食べてみたいね」
「せや、白味噌のも是非学ばんと♪」
 真紀の質問に、精霊のおたまを握りしめた真夢紀が答える。花梨は、昆布とかつおの一番出汁の様子。
「着替えはあって困る事ないでしょうし、お子さんが男の子でも女の子でも。もふらさまなら問題ないでしょうから」
 小袖ともふらのぬいぐるみを、りんに渡す真夢紀。お雑煮の手伝いを申し出る。


 新年の縁起物を授けて回る、神の使いと巫女たち。
「あずささん。回るべきところは、あといくつあるのですか?」
 ヒメは、ご機嫌ななめ。さっきは清太郎の家で美味しそうな、白みそ雑煮をごちそうになった。
 今は花梨の澄まし汁を食べている。威厳より食い気。ヒメは、良助の家に居座るつもりだ。
「疲れました、少々、休息を取ります」
 次は開拓者の雑煮が待っている。出来上がるまで、ヒメは待つことを選んだ。畳に転がり、はしたない。
「……寝ぼすけ、次は神社ですよ」
 あずさに、隙は無い。運ばれてきたヒメの雑煮を、お盆ごと取り上げた。
 と、真っ白な髪が踊った。白梅の木陰から、おどおどと覗く、紅梅の瞳。
 梅の羽妖精と視線が合う。レギの時間が止まった。自分を見てくれている。
「お嬢さん……」
 ラグナが話しかけると、頬を染めた羽妖精は、白梅の木に隠れてしまった。思わず手を伸ばすレギ。
「ぬ……! 主と言えども譲れぬな。ここは我に任せよ」
「何を言う! お前に先は超させんぞ!」
 主の肩を思いっきり掴み、抗議するレギ。気迫を宿したラグナは叫ぶ。羽妖精への愛の為に。


 清太郎の家で、眠そうな、妖精。のんびり屋で、よく寝る春の妖精だから、春寝。
「春音、あくびしとらん?」
「眠いですぅ」
 春の音を告げる妖精だから「春音」と、真紀は本人に説明済み。現実を知ったら、きっと泣かれる。
「おりんさん、おめでたって聞いたで。ぬいぐるみとしおりをお子さんにな」
 真紀はもふらのぬいぐるみと、しおり「四葉のクローバー」を渡す。嬉しそうに受け取る、身重さん。
 見守っていた春音の懐で、友の御守りがかくれんぼ。四葉を発見するために、春音は頑張ったらしい。
「清太郎、俺から誕生日おめでとうの歌だよ」
「清太郎さん、誕生日って聞いてな」
 少しだけ早い春を歌う、ケイウス。三味線を取り出し、曲に乗っかる真紀。清太郎の為に、演奏に心を込める。
「春音も、歌うのですぅ♪」
 人差し指を振りながら、春音も歌いだす。実は、「あいどる」なる称号を持つ、羽妖精なのだ。
 くるっと一回転すれば、本来の羽妖精が現れる。はためく羽から、きらりと輝く幸運の光粉が。
 宙を舞い踊る春音、光粉を里の人々に振り撒く。今年一年、幸運がありますようにと。
「あたいも、羽妖精みたいに踊るんだ!」
 隣でルゥミの背負う春風の羽が、睦月の風に乗る。蝶のような形をした小さな羽が、広がった。
 まとったドレス「シャイニング」は、七色に美しく輝く。裾をつまみ、淑女ルゥミはご挨拶。
「ルゥミ、一緒に練習しようかの」
 ジルベリア帝国の軍服は、長銃を脇に置く。親衛隊のハユハ老は、うやうやしく手を取り、エスコートを始めた。
 滑空艇に結ばれた手綱は、自身の意志を伝えやすくなると言う。手を繋いだルゥミとハユハの絆は、いつでも変わらない。
 空外からの歌声に、不思議がるヴァーユ。障子を開けた。驚いた羽妖精は、慌てて白梅の木に隠れる。
「怖がられるなら離れる。いつもの事だ、別に気にしてねぇ……こらケイウス、笑ってんじゃねぇ!」
 座り直す、195もあるヴァーユ。金の瞳は、ぶしつけな主を睨んだ。




 ご当地自慢の雑煮が勢ぞろい。一通り味見したケイウス、お椀を置いて、感想を述べる。
「雑煮ってこんなに種類があるんだね。俺は白い雑煮が好きだな」
「オレは澄ましの雑煮が好みだねぇ」
 舌なめずりしたヴァーユは、感無量。箸の扱いに苦労したが、美味さに全て報われた。
「じいちゃん、これおいしいよ!」
「ほっほっ、ルゥミ、よかったのう♪」
「うん!」
 伸びる餅と格闘しながら、ルゥミは祖父を見る。べたべたになった孫娘の口元を、ハユハは拭いてやった。
「地方によって特色があるというのは、楽しい事ですね」
 サーシャも、すべてのお雑煮を完食した一人。ツワモノの隣で、アリスは畳に転がっている。
「主サーシャは、食べすぎです」
「なにを言うのですか?」
 サーシャの天貫の腕輪の装飾品、紅玉髄が光ったように見える。紅玉髄の石言葉の一つは、憂鬱の解消。
 すました顔で、お茶をすするサーシャ。ため息と共に、世間知らずな相棒に、糸目を向ける。
「余裕が有るなら、種類を用立ててみるのも一興とは言いました」
 珍しく、サーシャの緑の瞳が見えた。所謂『本気』状態の時は、開眼する。
「余裕が無いなら、一つに絞るべきです。もしくは、少量にしておくべきでしたね」
 見るもの全てに驚き、全てに興味を示すアリス。お雑煮も、お箸も、初体験。
「ごめんなさい……」
 ペタンコになる白狼耳、アリスはうつむいた。隣で食べかけの雑煮が、いくつもお盆の上に並ぶ。
「仕方ありませんね。今日は、はんぶんこですよ」
 小さくて可愛い人物や、動物を好むサーシャ。相棒に顔を近づけると、優しく諭す。
「はい! 今後は気を付けます」
 神妙に返事をするアリス。白狼しっぽが、ピンと天を指していた。
「にいちゃんたち、凧揚げはできるんだ。コマ回し、僕より下手だったのにね」
 子供は正直だ、そして残酷だ。素直な良助の言葉は、レギとラグナの胸をえぐる。
 しょんぼりと雑煮に手を伸ばす、レギとラグナ。とりあえず、雑煮を頂いて、仲直りだ。
「みその雑煮、か。はじめて食べたが、悪くないな」
「餅は焼いて入れるのか? そのまま茹でるのはなく? …面白いな!」
 体験したことのない雑煮に、興味津々。ラグナも、レギも、大騒ぎだ。
「ヴァーユ、裏山のてっぺんにも、行ってみたい!」
 腹ごしらえのすんだケイウス、別の興味が向いていた。相棒の服を引っ張り、外を指差す。
 ケイウスは、先の難儀な事を考えるより、今を楽しく過ごす事を好む。
「わざわざ裏山まで? オレは雑煮をもう少し楽しみたいんだが」
「あの山頂の白梅を近くで見たいし、里を見下ろせるなら良い景色が見られそうだ」
「……ったく仕方ねぇな、わかったよ。行けばいいんだろ」
 眉を動かすヴァーユ。気の向くままに行動する主人に、ぼやきながらも付き合うのが常。


「千覚姉さま、梅のお花……いっぱいだよ。とっても綺麗だね」
 ぽちは、くるくると里の真ん中で回る。柴犬らしい明るい茶髪が、太陽の光を返した。
 どんぐり黒目は、めまぐるしく景色を映す。頭の上の可愛いお耳は、元気なしっぽと一緒に動いていた。
「この早い時期に満開の梅を見せてくれるだなんて、何とも素敵な贈り物を贈ってくれる妖精さんですね」
 森羅万象を、心静かに感じる千覚。千を覚る者の意を、名前に持つ巫女。
「もし御逢い出来るなら、きちんとお礼を……ぽちもお散歩かねがね、一緒に探して下さいね」
「はい! お兄ちゃん、お姉ちゃん……それから、おじちゃん、おばちゃんと一緒に探します!」
「妖精さんに遭えたら良いですね」
 千覚の声に、元気な返事。ぽちの基準で、だれが『おじちゃん、おばちゃん』かは、さておき。
 諜報・伝達活動特科に選別・訓練されたわんこ。気配り上手で、お手伝いもきっちりやる。
 苦無などの小物を入れた、うさぎの縫いぐるみ型リュック。荷物を背負って、探索開始だ。
 同行するしらさぎがまとうのは、少し青みを帯びた白地に銀刺繍の蝶々着物と羽織。足袋に下駄は、真夢紀の次姉からの新年の贈物。
「妖精逢えるとしたら、しらさぎの方ね」
 初めてのお年玉と一緒に、しらさぎは大喜び。面倒見の良い姉(真夢紀)は、姉想いの無邪気な妹(しらさぎ)を見守っていた。


●白梅の里
 裏山の上からなら、届くかもしれない言葉。ケイウスは叫ぶ。
「素晴らしい景色をありがとう!」
 ふと、目の前を横切る人影。照れた羽妖精が、姿を現す。
「名前は?」
 ケイウスの言葉に、羽妖精は首を振る。名前は無いらしい。ケイウスは笑顔を浮かべる。
「この満開の梅みたいに、今年も色々な珍しいものに出会いに行きたいな。もちろん、ヴァーユも一緒に!」
「オレも一緒に?今年は何度無茶に振り回されるのかねぇ」
 不機嫌に揺れる、龍しっぽ。ケンカ?羽妖精が心配そうに、覗きこむ。
「……なんてな。あんたが望むならどこへだってついて行くさ、なぁ『ご主人』」
 ヴァーユは、にっと笑うと羽妖精の頭を撫でた。金の瞳は、主に向けて。


 満開の梅が見れる庭で、子供達は、かまくらに陣取る。重箱につめたおせちが、お弁当。
 千覚は、ささやかなお礼を、白梅の根元に置く。中身はジャムセットと、クリスマスクッキー。
 一言添えるつもりだったが、必要無かったようだ。小さなお客さんは、食いしん坊。一緒に、真夢紀の七輪を囲こむ。
 真夢紀のおせちは、物覚えも良いしらさぎも一緒に作った。飽きた黒豆は、寒天で固めて羊羹に。
「うちでは伊達巻じゃなくて、鰻のかば焼き芯にしたう巻きを代わりにしたりとか。金団に甘く似たりんごを加えて、赤い色が綺麗に見える林檎金団にしたりしますね」
 菊花かぶらの上に、イクラを載せて色取りにしたりも。真夢紀の地元は、主産業農業の海に囲まれた島だ。
「マユキ、モチやけた」
「どっちの雑煮も、美味しいね」
 しらさぎが焼く側から、ぽちが雑煮にして食べつくす。思考が7〜8才しかいかないからくりと、わんこの対決。
「まゆちゃん、どのお茶がいいですか?」
「えーと、千覚さん、これを……」
「千覚姉さま、おかわりが欲しいそうです」
「おかわり、いいにおい♪」
 黒髪を揺らし、千覚は小首を傾げる。ぽちが恥ずかしそうな羽妖精のかわりに、お茶の催促。
 くすりと笑いながら、小首は急須を傾けた。しらさぎがお茶の匂いを嗅ぐ。かまくらに広がる、湯気。
「冷たいお節だけじゃ嫌な時は、ハムやチャーシュー、牛ヒレ肉焼いたりしますよ」
 ぽちが、お肉に興味をしめした。真夢紀のお土産、泰国産「めろぉん」は、食後の果物に。羽妖精、ご満悦だったらしい。


 遊び疲れた子供は、お昼寝の時間。孫娘は眠そうで、老人は膝枕をしてやった。
「ルゥミや、昔話を聞かせてあげようかのう」
「じいちゃん、どんな話?」
 目をこすりながら、ルゥミは尋ねる。甘酒を手にしたハユハは、顔をくしゃりとして笑った。
「ジルべリアの北の山に住む、老砲術士の話じゃ。その朝は、冬一番の大雪が降った翌日じゃった」
「うん」
「老砲術士は、庭に積もった雪の上で遊ぶ、赤ん坊を見つけてのう」
 ハユハは、ゆっくりと話し始める。ルゥミの青い瞳は、懸命に見上げた。
「その子は、雪色の髪をしておったのじゃ」
「ゆきの……色、なん……だ」
 朗々と語る老人、孫娘の言葉があやふやになっていく。くっつきかける、まぶた。
「これも神の導きと、『雪の妖精』を意味する名前を付けてのう。……なんじゃ、もう寝むってしもうたか」
 昔話には、続きがある。老砲術士が、生涯で身に付けた技と智慧を、赤ん坊に与えたこと。
 精一杯の愛情を受けた子が、娘に育ったこと。老人は娘に看取られながら、静かに天に召されたこと。
「遺言は、いつもの口癖と同じ『練習しなさい』じゃったな。……その子が毎日練習しておることを、わしは知っておるよ」
 ハユハは、かわいい孫娘の頭をなでた。雪色の髪を持つルゥミは、幸せそうに寝息をたてる。


「一通りの正月遊戯と一緒に、お雑煮等もいただきましたし。アリスは天儀らしい新年というのも初めてでしょうから、次は初詣に行きましょうか」
「はい、よろしくお願いします。あ……貴方も初詣ですか?」
 サーシャにくっついて、真面目なアリスはご挨拶。あずさに手招きされ、狼しっぽをぶんぶこ振る。
「初詣なんか行きたくないです、神社が来たらいいんです」
 外に行きたくないヒメは、断固反抗。ゴロゴロ転がり、あずさに突撃した。
「……ヒメ!」
 神楽舞の専門家あずさ、眼が微妙に怖い。すぐに神々と意識をつなげるよう、トランス状態の準備をしているためらしいが。
「ちょっと神主と鳥居を持ってきてください」
「ねむりんのヒメの力でできないものを、わたくしごときにできると?」
 座敷には、二人きり。わがままなヒメ、あずさは蹴けっとばす。無言では無いから、まだ怒りの沸点ではない様子。
「……難しいですね」
 丁寧に供物を捧げられ、着飾らせて貰って、大切に育てられたヒメ。仕方なく起き出し、正座した。
 身重のりんから託されたお賽銭。あずさの実家は天儀の神社だから、ヒメも祭祀は大切と心得ていた。


 ラグナ、(´・ω・`)顔だった。レギも、(´;ω;`)顔をした。
 二人して、情けなく梅を見上げる。女の子を泣かせて、平謝りしたばかり。
「今年も……前途多難だな」
「我が悪いのではない……それもこれも、主の非モテがうつったせいだ!」
「な、何だとッ?!」
 非モテは、玉砕以上の恐ろしい効果を持っている。女の子の扱いが下手とか、乙女心が分からないとか。
「帰る」
 とぼとぼと、帰路を取るラグナ。後を追い、白梅の里を出る相棒、北風が吹いた。
 と、白梅の花が降ってきた。見上げると、枝の上から、羽妖精が手を振っている。
「ん? ……またな」
 口元を緩めたレギは、片手をあげる。梅の羽妖精は、少しだけはにかんだ。