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■オープニング本文 開拓者が通ったのは、偶然だった。一瞬であり、永遠にも近い時間。 悲痛なうめき声が、聞えた。血溜まりで、うずくまる人々。抜き身の刀で斬られた傷は、深い。 幼子の泣き声が、遠くなっていく。連れさらわれた我が子を呼ぶ、母親の叫び。男たちは、逃げて行く。 ●浪志組 ―――尽忠報国の志と大義を第一とし、天下万民の安寧のために己が武を振るうべし。 天儀歴一〇一一年の十一月、「浪志組(ろうしぐみ)」が設立された。拠点に戦力を常駐させ、一朝事あらば直ちに出撃できる攻撃的な組織である。 アヤカシや盗人による狼藉が増えつつある、神楽の都。朝廷だけで治安維持できる戦力は、たかが知れていた。 また、開拓者ギルドには戦闘員となる開拓者が常駐していない。事件や依頼ごとに、別途契約を結ばねばならぬという弱点がある。 そこら辺の難しい問題を、一挙に解決するべき組織。期待を背負って、出発したのが一年前。 約半年後に、「【桜蘭】大神の変」という、事変が起きた。色々な思いを巻き込み、色々な犠牲を払い、終結した革命。 大志を抱き、流刑となった者もいる。口を結び、流刑者を見送った者もいる。 大神の変に関わった者は、同じことを口にするかもしれない。 ―――ただ、自分の気持ちに正直だった。 ●消える日常 浪志組には、さまざまな者が居る。年齢も、性別も、職業もバラバラ。 もちろん、出身も天儀だけではなく、種族もバラバラ。泰国出身の白虎獣人、司空 亜祈(しくう あき:iz0234)も、その一人。 「久しぶりに顔を出したら、浪志組が様変わりしていたわね」 浪志組の屯所から出てきた、虎娘。待っていた虎猫獣人の兄と並んで歩く。小さな竹編みの衣装箱を抱えていた。 「僕は開拓者を続けることに、反対はしないよ。でも浪志組の参加は、大反対」 ギルド員でもある兄は、妹を睨む。虎娘は大神の変により、人生が大きく変わってしまった。 「亜祈はさらわれて、殺されかけたんだからね!」 「……分かっているわ、もう皆さんに迷惑をかけないわよ」 地面に視線を落とし、うなだれる白虎しっぽ。からっぽの衣装箱、中身の制服は浪志組に返却してきた。 大神の変の混乱に乗じて、好き勝手やろうとしたゴロツキ。浪志組隊士だった虎娘は、開拓者の力を借りて悪事を暴く。 だが、逆恨みしたゴロツキの親玉に捕まえられた。開拓者によって助け出されたときには、瀕死の重傷。 一命を取り留めた虎娘は、療養のため、郷里の泰国に戻る。そのまま、一夏を過ごした。 「兄上、山科屋(やましなや)さんのお店よ。陰陽符が買いたいの、寄っていいかしら?」 今、万屋の系列である山科屋は、店主が不在。残された妻や息子が、店員と細々と経営している。 山科屋の主人も、大神の変でゴロツキと関わった。亜祈がらみの事件で、ギルドに出頭してくる。 ゴロツキに脅されていたとか、色々と証言が。万屋の上司から弁明書もあり、数年かかるが、軽い刑罰ですむことになった経緯がある。 「うん、良い……危ない!」 「兄上!?」 暖簾をくぐりかけた兄は、妹を突き飛ばす。尻もちをついた虎娘の前で、兄は斬られ、血を吐いた。 強盗は、斬ったギルド員を蹴り飛ばす。野次馬に道を開けるように脅し、店から奪った刀を振りまわした。 希儀の調査で、大勢の開拓者たちが不在の神楽の都。人の弱みにつけ込む悪漢は、どこにでもいる。 店内は、真っ赤な血の海だった。表の通りは、新たに斬られた人々の悲鳴が溢れる。 強盗は二手に分かれて、通りを走る。東通りは刀を振りまわし、そのまま逃走。西通りの強盗は、店内にいた幼子を人質にしていた。 水色に近い瞳を険しくした虎娘、周りに瘴気が渦巻く。陰陽術で生み出される式が、形を成そうとしていた。 |
■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067)
17歳・女・巫
水月(ia2566)
10歳・女・吟
劉 星晶(ib3478)
20歳・男・泰
嶽御前(ib7951)
16歳・女・巫
破軍(ib8103)
19歳・男・サ
龍葉(ib9585)
29歳・男・砲
ルイ (ic0081)
23歳・男・志
楊・白虎(ic0133)
23歳・男・泰 |
■リプレイ本文 ●序 「……? 狼藉者が出たようです」 不思議そうに振り返った、柊沢 霞澄(ia0067)。人々の叫びの原因を悟る、迷うことなく走り出した。 「新大陸に行かなかったことが、幸か不幸かと」 霞澄の声に、ルイ(ic0081)は歩みを止める。狼獣人の瞳が、厳しさを帯びた。子供の泣き声、西側に走りだす。 「怪我人も相当数……まず必要なのは……重傷者の命をつなぐ事です……」 小走りで辿りついた先で、銀の瞳が見開かれる。店先に、血潮が流れてきていた。 「手伝って頂ける方はおられますか……? すぐに治療に当たりましょう……」 「私も」 怪我人の手当てに動こうと、水月(ia2566)もしゃがみこむ。不言実行がモットーのちび……否、女の子は懸命だった。 母親譲りの白髪に落ちる影。視線をあげると、霞澄がいた。水月お気に入りの翠瞳は瞬き、頷いた。 「霞澄さん、以前ご一緒した時に、その人柄や力量は見知ってるの」 立ち上がり、水月は西通りに向かう。希儀に残された、過ぎし日の絆。そして今に続く、新たな縁と絆。 お買い物途中の荷物も、霞澄に預けた。口を結んだ水月の視線の彼方には、泣いている幼子が居る。 後ろで、息も絶え絶えな母が、子を呼ぶ。水月は育った環境の所為か、家族的な触れ合いに対して憧れに似た気持ちを抱いていた。 「安心して任せて、私が追っ手に回るの」 母親に話しかけると、水月はかけだした。道端の怪我人の側を走りながら、ごめんなさいと呟き続ける。 後から来る仲間が、治してくれるはず。これ以上怪我人を増やさない為に、一刻も早く捕まえる事を決意する。 「では私は東通りへ逃げた賊を追います」 仲間達と短く相談した嶽御前(ib7951)。軽く頷くと、東通りに逃げた強盗の追跡に回る。 「東通りに逃げた賊は、刀を振り回しながら逃げているので」 前頭部両脇から生える黒光りする角は、怒るように天を差す。嶽御前の声も、厳しさを増していた。 「……怪我人の救助を、お願いします。俺は、奴らを追いかけます。人質を無事助けて、奴らもきっと目の前に引きずってきますから」 亜祈の肩に手を置く、劉 星晶(ib3478)。黒猫獣人の猫族は、静かな声で告げた。穏和な性格で、意外と世話焼き。 「怒るのは、後に。……怪我人を、お願いします」 忍装束「影」をまとった背中は、西側に向かう。漆黒の髪が、後ろになびきながら。 口元を結び、店に向かう霞澄。辺りを見渡しながら、亜祈に声をかけてきた。 「私が命を繋ぎます……その間に……」 御祓いの力を籠めた、杖「榊」はあらがう。霞澄と共に、輪廻の理にあらがう。生死流転の術。 霞澄の額に、玉の様な汗が浮かび始めた。亜祈も、治療符を発動する。小さな白い小鳥の式だった。 「新大陸とやらには間に合わずか。それもまた……なんだ?」 街を散策中だった龍葉(ib9585)、遠くを探す。何か騒ぎが起きたようだ。近くで悲鳴が上がる。 黒い瞳が見開かれた。目の前で人が斬られる。悟ると同時に龍葉の右手が動き、マスケット「バイエン」を掴んだ。 左の掌をかざし、一瞬にして弾込め完了状態に。同時に、助力を請うた。 「誰か追いつける脚のある者か、拘束・鈍化系の手が打てる者は居るか!?」 強盗は素早いし、身軽い。その上、周りで怪我人が出ている。一人では手に余る状況だ。 「チビ助の奴、人に声を掛けて置きながら、自分が来ねぇとはどういうつもりだ…?」 待ちぼうけ。破軍(ib8103)は、悪態をつく。後ろの騒ぎに気が付いた。 「チッ……また虎娘絡みでトラブルか……毎度毎度飽きねぇな……」 見覚えのある白虎しっぽが、波打っていた。破軍は仕方なく動き始める。人質を連れた強盗が、道を駆け抜けた。 「チビ助に貸しを一つ追加だ……。この鬱憤……発散させて貰おうか……」 犯人の特徴は、見た。口元を隠したバカどもは、武器を隠さないから、丸分かりだ。市街地の地図を頭に思い浮かべる。 「さぁて……鬼ごっこを始めるとするか……」 この先には、狭い袋小路があったはず。追跡開始だ。 ●破 「大丈夫な程度まで回復できたら……次の人達です……」 店内の犠牲者たちの命は、この世にとどまることになったのだ。霞澄は安堵する。 霞澄は、天儀本島人とジルベリア人の両親を思う。他界した両親の所へは、まだ言って欲しくない。 「人は生きていかなければなりませんから……」 霞澄は東通りに動きだす。祈るように握った両手、集められた精霊力。癒しの花束が、犠牲者たちに投げられていく。 「当初一番厄介なのは、人質だろうからな。あれを引き離さないと、なかなかに厳しいと」 水面の月影のように揺らめく、月影の外套。ルイの青い瞳は、人ごみの中で平静を保っていた。 外套の中にしまわれた殺気を、おくびにも出さない。気取られず、死角から近づく。 あと一歩。合図があれば、いつでも動ける。時を待つのみ。 「敵が隙を見せるまで、無心で待機ですね。殺気でばれないように注意しておきます」 ルイと話す星晶。身体の輪郭が徐々にぼやけ、透明になっていく。 「あくまで自然に振舞いますから」 声だけが聞える状態。その声もルイの隣ではなく、建物の裏から聞こえる。配置完了らしい。 「……動物の鳴き声を真似たものを、合図としてはどうだ?」 何かに気づいた、破軍の提案。水月の相棒は猫又。ちょっと口ごもり、無言でこくこく頷いた。 水月には言葉を使わずに、会話を進めようとする、変な癖がある。合図を考えてなかったなんて、言えない。 「にゃごにゃごなの!」 頬を膨らませた水月。ちょっと可愛くない声を出す。今は、怒気を含んでいた。 突然、白い仔猫が、道を占領した。強盗の行く手を阻む。甘えるように、手足にまとわりつく猫の群れ。 「にゃーご♪ にゃーご♪」 可愛いく鳴きながら、仔猫の大行進。雪みたいに真っ白で、ふわふわな毛並み。瞳は瑠璃色の仔猫達。 水月が強盗たちを睨む。強盗の前に、白い壁が出現した。結界呪符「白」だ。 「ソイツを殺したきゃ殺せ…どうせ俺には関係ねぇ…」 人質は生きているからこそ、価値がある。それを知る破軍は、間合いを詰めて行く。獣のような殺意を放った。 「邪魔なら……斬る!」 破軍の紅い目が狂気を含み、薄笑いを浮かべる。強盗の一人が、急に転倒した。勝手にばんざいする、子供を抱えた手。驚く強盗に、声がかけられる。 「人質は返して貰いました」 影縫。素早い動きと一瞬の五感の撹乱により、暗器の動きさえも知覚させない、裏千畳の暗殺術。 星晶の胸元には、泣きじゃくる子供の姿があった。救出した子供を抱え、再び姿をくらます。 「それ以上はやらせんと。手間が増える」 ルイは眉を寄せる間も、歩みを止めない。歩いて歩いて、歩き続けたその先にある終わりにこそ、求める答えがあると旅をつづける。 魔刀「天津甕星」の切っ先を向けた。狙うは強盗の手。新たな人質を得ようとする、魔の手。 容赦はしない、先に仕掛ける。慌てた槍が貫いたのは、ルイのかぶり物。姿勢を低くし、横に飛んだ脱け殻。 着地すると、僅かな土ぼこりが上がった。勢いを前進力に転化する。満ちる練力、走る刃。回避困難な一撃。 「悪の栄えた例なし。あなたたちの悪行も、そこまでなの!」 再び、白い壁が現れ、強盗を二分した。人さし指を付きつけ、水月は言い放つ。藕絲歩雲履をはいた右足が、勢いよく地面を踏んだ。 美味しい料理を食べる事を密やかな楽しみなのに、強盗に邪魔された水月。ちょっぴり、私情が入っているかも。 「負傷者を治療後すぐ追いつきます。先に進んでください!」 淡く輝く、嶽御前の身体。両手に集まる光、空へ手を掲げる。周囲に癒しの光が降り注いだ。 開拓者になってから身に付けた、医術のお陰。斬られたばかりの負傷者の傷は、店内の人々ほど深くない。 龍葉の銃声が聞えた。一瞬、体がすくむ。強盗が遠くなっていくのが見えた。龍葉の声も聞こえる。 「宝珠付きの武器を手にしているようだし、捕える際はそれに留意は必要か」 龍葉は冷静に答える。本懐である刀の扱いより、銃砲が得意な神威人。強盗が壁に気を取られた隙に、手元を狙った。 「卑怯な武器ではあるが、手がないのでな……」 龍葉の左腕部の甲が、なにか音を立てる。人間の子供に怖がられてからは、隠すようにしている、龍の鱗がざわめいていた。 逆鱗と言う言葉がある。強盗は逆鱗に触れた。文字通り、龍葉の激しい怒りに。 仲間達を助ける技術を磨いている、嶽御前の選択。一人の死者も出さず、賊を除き、怪我人も残さない。 素早い舞いによって、精霊を呼び出す。自分に術をかけると、淡い草色に光る盾を手にした。 ベイル「エレメントチャージ」は、大地の精霊の祝福を受ける盾。生命の力がみなぎる盾。 淡く輝く、嶽御前の身体。先ほどの光が、盾に集まる。盾から振りまかれる、癒しの光。 「どうした……鬼ごっこはもう終わりか?」 人質を連れた星晶は、屋根の上に逃げた。立ちふさがるように、破軍が立つ。 一気に間合いを詰める破軍。霊剣「迦具土」の真紅の刀身は、嬉しげだった。強盗の足の甲を貫き、滴る血を吸う。 山をも斬ると言われる破山剣は丈夫だ。柄頭で肝臓を狙う。 艶やかな黒が、空を舞った。正確には、強盗の手を狙った、星晶の鋼線「黒閃」である。 甘ったるい匂いにつつまれる強盗。動かない手足、狂った感覚。傷口から神経毒を送りこむ、技法によるもの。 「此処では死なせないですよ」 無表情だった星晶に、笑みが浮かんだ。大切な者の危機にはどこまでも懸命で、どこまでも物騒。笑ってない笑顔が怖すぎる。 「生憎……まだこっちの鬱憤は溜まっているんだ……ちったぁ楽しませろ……」 深紅の二本の角が、額に見えていた。視線は、氷点下に達している。破軍の頬の大きな傷はいびつに歪み、咆哮をあげた。 「浪志組、だったか? これで終わりでいいかな?と」 腰にさげた魔刀の柄に手をやりながら、ルイは問う。突発的な出来事だった。この後は、自警団に任せておく方がいいだろう。 「どうやって捕まえたと?」 「身軽とはいえ、人ではあるからな。回避動作の終端や、軽業を活かしての屋根等への飛び乗り時を狙い、発砲させてもらった」 「少々、奥の手を使いましたけど」 ルイの質問に、龍葉は静かに答える。それでも、威嚇射撃に留めたのは、優しさなのだろう。 周りの一般人の安全を考えてくれた。無駄撃ちはせず、空撃で追いつめる戦術。 霊刀「カミナギ」を構えながら、嶽御前はにじり寄る。カミナギは、守凪とも書くらしい。 重く静かな舞。わずかに弧を描く霊刀、ゆっくりと持ちあげられる足。神楽舞「縛」は、強盗を見逃しはしない。 刀と盾を手にした嶽御前、後ろには住民がいる。負けない。強盗を迎え撃つ。 龍葉は気づいていなかったが、子供が声援を送っていた。たぶん、その子は龍葉の左腕を見ても、怖がりはしないだろう。 「しかし、どこにでもいるものだなと。こう言う奴らは」 ルイは続ける。大陸の体勢が新大陸に向いているのも、仕方がないこと。だからこそ憂い無く、新大陸を行けるように、治安を守るのも治世というものだろうと。 ●急 黒髪を揺らしながら、歩くルイ。聞こえた言葉に、狼耳の向きを変える。それは先ほどの捕物のうわさ。 瓦版屋らしき者が目撃者を募っていた。頭をかき、少し考えるルイ。 「彼らによって、強盗は素早く沈められたと」 とりあえず、浪志組の名を出しておく。実際はどうあれ、所属する者が現場に立ち会ったのだから、問題はないだろう。 狼耳は、別のことも考えていた。悪漢への抑止法。自警団らしきものが甘くみられれば、また面倒事が起きる。 「……機会があれば、見てみてもいいんだがな」 空を見上げて、ルイは瓦版屋から離れる。まだ足を止めることはできないと、アヌビスは言い残した。 アル=カマルから天儀へと渡って、旅をつづける狼。歩き、歩き、歩いたその先にあるとこを目指して。 「ほらよ……チビ助からの預かりモンだ……」 数日後、開拓者ギルド本部の受付に破軍の姿があった。復帰したばかりのギルド員に、風呂敷包みを投げ渡す。 酒と手髪の包み。破軍の同族、角なき修羅の娘からだった。 『まだ早くは御座いますが、春の香を送らせて頂きます。酒は少量であれば薬となります、体をご自愛下さいませ。』 「力だろうが心だろうが弱い奴から淘汰される……。それが俺達の住む世界の理だ……否が応でも進むしかねぇんだよ」 おもしろくなさそうに言い捨て、破軍は勝手に酒を味わう。酒々「嫁」は、桜の香りを移した辛口のお酒だった。 「浪志組とやらは、来訪後に聞いて知る程度。少々以前に大きな乱があったそうだが……」 「浪志組は……、やり方を急ぎ過ぎたとは思いますが……」 龍葉は、小耳に挟んだ言葉に興味を示す。答えたのは、霞澄だった。 「それでも、その志は、決して間違ったものではないと思っています……」 霞澄は、強い自己主張はしない性格。しかし、亜祈に向けられる視線は、雄弁に語っていた。 「何か迷っておられる様なので……貴女はどうしたいのですか……?」 内気な霞澄は、自分からはあまり話さない。けれど、必要な事は口にする。 「自分に何ができるのか、どうしたいのか……それを見失わない事……それが一番大切だと思います……」 霞澄の耳元で、真珠の耳飾りが揺れる。白い真珠の石言葉の一つは、誠実。 悩み右に振られる、虎しっぽ。水月の視線も右へ。左に揺れる、虎しっぽ。水月の精霊の衣も左へ動く。 水月、亜祈と初対面なので、ちょっと警戒中。でも、しっぽにかなり惹かれる。耳に障りたくて、うずうず。 「亜祈さ……」 星晶は、言葉を切る。どす黒い血だまりと、飛び散る肉片。えぐられた脇腹。止まりかけていた呼吸。 正直、亜祈を救った日の事を思い出すと、今でも恐ろしい。拳を握った。少しだけほほ笑む。 「亜祈のしたいようにするのが、一番だよ」 それでも浪志組に戻りたいのなら、志を尊重したい。誰かの為に頑張る姿も、好きだから。 「大丈夫。求婚する時は、さらっていきますので」 「まぁ、冗談がお上手ね」 さわやかな笑顔で、亜祈は笑い飛ばす。星晶は黒猫耳を伏せた。……半分本気だったのに。 天儀歴一〇一二年、十二月。とある隊士によって、浪志組に救護体制案が、申し入れされたと言う。 |