【希儀】冒険入門・夜戦
マスター名:青空 希実
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/12/04 21:57



■オープニング本文

●世界
 ここは、空に浮かぶ浮遊島に、人々が暮らす世界。浮遊島は大別して「儀」と言う。
 儀では、ずば抜けた身体能力を持つ人が、まれに生まれる。天儀では「志体」、と呼ばれていた。
 志体を持つ人々が目指す存在がある、「開拓者」。「開拓者ギルド」に所属し、困っている人を受ける存在。
 開拓者は依頼を受け、冒険に挑む。「練力」を使い、「技法」を振るう。「体力」の続く限り。
 そして、「アヤカシ」との戦いにも挑む。アヤカシは、瘴気から生まれる敵、人々を食べる敵。
 開拓者は戦える。一人ではないから、志を同じくする仲間がいるから。そして、「朋友」と言う相棒も、力を貸してくれるから。


 はるか西に、新たな儀が発見される。「希儀」、希望の儀が。
 希儀の環境調査に乗り出した一行は、南部に辿りつく。植物の生態を調べることが、目的だった。
 人手が求められる、希儀への訪問。往年の開拓者たちは、子供たちを連れて来ていた。
 環境調査に同行したのは、開拓者ギルドの職員。弓術師の栃木 弥次(とんめ やじ:iz0263)。その息子、修羅少年でシノビの仁(じん)。
 そして、泰国の料亭の若旦那。虎猫獣人で、泰拳士の司空 璋(しくう しょう)。一緒に来た若旦那の子供たちは、双子だった。
 吟遊詩人の白虎獣人、虎少年の勇喜(ゆうき)。父とそっくりな虎猫獣人、泰拳士の猫娘の伽羅(きゃら)。
 ついでに朋友も同行中。ギルド員の相棒、人妖の与一(よいち)。料亭の飼い子猫又、藤(ふじ)。
 開拓者も、世代交代していく。小さな開拓者たちの冒険が、実りあるものになることを願うばかり。


●遭遇
 ギルド員は、声が裏返った。若旦那は渋い顔、宿泊地で双子の子供たちが泣いていた。
「仁と猫又の嬢ちゃんが!?」
「裏をかかれたようだよ」
 ついさっき、夕闇に紛れたアヤカシの奇襲を受けた。父親たちがアヤカシを追って離れている間に、第二弾がきたらしい。
「二人とも、どんなアヤカシか分かるかね?」
「がう、鷲です。かぎ爪で、藤しゃん捕まえたです」
「にゃ、獅子です。仁しゃん、背中に飛び乗ったです」
「アヤカシは、二体なんだね?」
「がう? 一人です」
「にゃ? 一人です」
「……もしかしたら、鷲頭獅子(しゅうとうしし)かもな。」
 若旦那、悩む。そんなアヤカシを知らない。ギルド員が口を挟んだ。
「早い話が、朋友になりそこねた鷲獅鳥(しゅうしちょう)だ。瘴気に侵されて、アヤカシ化したケモノだな。希儀の北東で、鷲獅鳥と戦ったと聞いている」
 ギルド員は、さすがに心当たりがあった模様。人妖は異を唱える。
「瘴気に侵されるなんて、おかしいでやんすよ。希儀は、全体的に瘴気が薄いでさ」
「俺も、そこは引っ掛かるんだ。なにか理由があるのかもしれん」
「何をためらう必要があるのかね! うちの子猫又と君の息子が、連れて行かれたのだよ?」
 お堅い若旦那、しびれを切らした。不機嫌に、虎猫しっぽを振りまくる。眉をひそめる、ギルド員。
「すまんが、お前さんは残ってくれないか? また宿泊地を狙われたら、大変だ。俺は鏡弦があるから、アヤカシの居場所なら分かる」
「ふむ……よかろう。代わりに私の息子を連れて行きたまえ。超越聴覚を使えるから、鷲頭獅子とやらの羽音を拾えるだろう」
「がう!? 暗いのは、嫌なのです!」
「勇喜、仲間を見捨てるのかね? 私は、そんな子に育てた記憶はないよ。一緒に行きたまえ!」
「にゃ! 藤しゃんと仁しゃん、助けてきてです!」
「がるる……分かったです。嫌だけど、頑張るです」
 ギルド員の提案に、若旦那は頷く。父に怒られた虎少年、双子の妹の願いを受け、捜索隊に加わった。
 鼻をすする、泣き虫の吟遊詩人を従えた一行。空を飛ぶケモノの姿を求めて、希儀の草原を踏んだ。


●誇り
 修羅と言う種族がいる。鋭い角と牙と持ち、高い身体能力を誇る者達。
 不敵に笑う、少年。逆手に、漆黒の忍刀を構えた。額の一本角が、楽しげに揺れている。肩に乗った子猫又は、全身を逆立て威嚇していた。
「あかん、さっきより蛇が寄ってきとるで……もう無理や!」
「諦めないってんだ。おいら、約束したんだ、誰かの明日を守れる男になるって」
 修羅の子の瞳が、妖しく輝く。強い存在感。ただ、暗視を使っているだけ。闇夜でも昼間の如く見える、シノビの技法。
 少年の周囲は、崩れた石の遺跡群。そして、蛇のアヤカシ。たしか、「シアナスネーク」と名づけられたはずだ。
「藤さは、おいらが連れて帰る。この程度の相手、蹴散らしてやるってんだ!」
 子猫又に小生意気に言い返す、修羅少年。鬼火の如く、周りに炎が浮かび上がった。ただ、火遁を生み出しただけ。
 いかなる危機にも怯まず、己を武器に戦場を切り進む。それが、戦さの民「修羅」だった。


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
海神 雪音(ib1498
23歳・女・弓
劉 星晶(ib3478
20歳・男・泰
月雲 左京(ib8108
18歳・女・サ
白葉(ic0065
15歳・女・サ
松戸 暗(ic0068
16歳・女・シ
ツツジ・F(ic0110
18歳・男・砲


■リプレイ本文

●草原
「ガキの親父さん――弥次だっけ? おっさんも、救出班で前に出ちまっていいんじゃねーかな。その方がいいだろ、『親父』なんだし」
 ツツジ・F(ic0110)は、めんどくさそうに言い放つ。親父とは、子供に対して過保護なもの。偏見だが、事実。
「司空さん、藤と仁君の二人のために、好物を作っておいてくれないか?」
「仁に、好き嫌いは無いな。なんでも食べるぞ」
「にゃ? 仁しゃん、玉子焼き大好きです、ニラ嫌いです」
 羅喉丸(ia0347)から、若旦那への頼み。弥次は、当然のように答える。驚いた、猫娘の訂正。
「弥次さん、仁の好物を知らないんですか?」
「……どうも、そうらしいな」
 海神 雪音(ib1498)は、問いかけの視線を向ける。奇妙な沈黙、弥次は頭をかいた。
「あー、だりぃ。さっさと行こうぜ」
 うっとうしそうに呟く、ツツジ・F(ic0110)。本来黒髪であったが、家庭に反発して金髪に染めている青年の言葉。
「もう日が暮れる……か。あまり悠長にしているわけにはいかんな」
「……暗くなってきましたね」
 琥龍 蒼羅(ib0214)の頭上には、月が昇り始めている。夜星の時間が近い。
 白葉(ic0065)は、軽装を好む。大きな上着を羽織る、寒がりの勇喜とは大違い。
「私のシノビの能力を活かして、急いで探そう」
 隣で、大騒ぎする与一。押し止めるように頭をおさえながら、松戸 暗(ic0068)は声をかけた。
「もう、大切な人を……食べられるわけには……」
 うつむく、月雲 左京(ib8108)。 アヤカシの襲来により、里と角を失った修羅。唯一生き残った双子の兄は、人間の手により、この世を去る。
「夕暮れ、夜……わたくしにとっては、好都合でございます」
 鬼神の兜が、夕暮れ色に染まって行く。先天的な白子の左京が、好む夜が来る。夜目しか利かぬ緋色の瞳が、最も役立つ時間。
「ふふ…全く、藤を食べようだなんて困ったアヤカシですね」
 指先に付けた毒手「紫爪」を、なめる真似をする。笑ってない、劉 星晶(ib3478)の目元。
「……一匹残らずぶちのめしますので、覚悟しろアヤカシ共」
 大切な者の危機にはどこまでも懸命で、どこまでも物騒な星晶。伽羅がしっぽを逆立て、若旦那の背中に隠れるくらいの殺気。


●廃墟
 目の前で、漆黒の鷲頭獅子が霧散した。仲間と思わしき、鷲獅鳥の一撃が炸裂。
「まさか、天儀から入り込んだのか? ……今は論じている時ではないな」
 瘴気に侵された、鷲獅鳥の謎。羅喉丸は頭を振るい、疑念を捨てた。全力を尽くすべき。一刻を争う。
「確かに鷲頭獅子となった原因も気にはなるが……先ずは藤と仁の救出が最優先、だ」
 額に白十字を抱いた鷲獅鳥が、蒼羅と相対する。蒼羅の相棒の鷲獅鳥より、二周りは小さい。
「アヤカシでは、ありません」
「……鷲獅鳥か?」
 鏡弦を放った雪音の言葉に、蒼羅は少し考える。無謀な個体は、若いケモノと察せられた。
「あまり消極的では、注意を引きつける役目も果たせんな」
 滅多に感情を表に出さず、どんな状況でも落ち着き払っている。倒せるのであれば、倒してしまっても構わないと判断。
 白十字をいだく鷲獅鳥は、雄叫びをあげる。振りあげたかぎ爪、凝縮し、炸裂する真空の刃。
 蒼羅の眉は、微塵も動かない。走る、転がる足元の小石。攻撃の予備動作を見ながら、回避に専念する。
「超越聴覚で周囲の音を拾って、何かあれば教えてください」
 淡々した口調で話す雪音は、表情の変化に乏しい。勇喜は、冷たい印象を抱くばかりだ。
「勇喜様、霊鎧の歌をお持ちでございますか?」
「がう?」
 左京が尋ねたのは、抵抗力を上げるための歌。戦闘経験の少ない勇喜は、意図が分からない。
「勇喜、特にシアナスネークを警戒してください」
「厄介なのは、毒や麻痺……追加効果のある衝撃刃、だな」
 雪音は勇喜に松明を託す。油断なく辺りを警戒していた蒼羅は、補足する。斬竜刀「天墜」の柄を握り締めた。
 天翔ける竜を叩き落とさんとの意気を込めた刀は、鷲獅鳥の翼を狙う。地上に近づき、蒼羅を直接切り裂きにかかる者を。
 速度を追求した、我流の抜刀術を得意とする蒼羅。迫る攻撃を、紙一重のところで避ける。すれ違い様に放つ、居合。
 鬼面「悪来」の中で、蒼羅の黒い瞳が動く。白十字は無理に身体をひねる、野生の勘か。数枚の羽毛と、翼の先端が刀の餌食になったのみ。
「覚悟するんだな、奥義を尽くして相手になろう」
 羅喉丸の身体を、気合が駆け巡る。四方と四隅。八荒。八紘。世界を取りこみ、天地までも己が身に宿す技法。
 口を開けた蛇は、衝撃刃を放った。八極天陣を使った羅喉丸は、地を蹴り、天を駆る。全てが逆転した視界。
 ひねった体は、蛇の頭を飛び越える。着地するのは、とぐろの中心点。羅喉丸の一円に、蛇の身体と瓦礫があった。
 危険は承知の上、迷いは無い。迷えば、救える命を見捨てる事になる。歯を噛みしめた。
 羅喉丸の龍袍「江湖」が、はためく。江湖とは、権勢を省みず義侠を尊ぶ者の意。
 義侠心に厚く、義理堅い泰拳士は、安請け合いをしない。一度約束した事は何としても果たそうとする。
 一歩だけ踏み出される、左足。たわみ、凹む地面。瓦礫を粉砕しながら、凄まじい衝撃波が広がって行く。
「蛇、近いです!」
「私の側についていて下さい」
 勇喜の悲鳴。雪音は迷わず弓を持つ手でかばい、引き寄せた。右手に、ダガー「フォールンスター」を構えた。
 松明の中の光を受けながら、蛇は牙を見せつける。飛びついて来た敵に、容赦なく一撃を加える。
 雪音の喜怒哀楽といった感情は、僅かにしか顔と言葉に出ない。勇喜を守る手は、温かく、力強い愛情に満ちていた。
「シアナスネークを狙い、こちらに引き付けます」
 弓「天」から何度も放たれる矢。光の筋を描き、蛇を射止めて行く。熟練の弓術師、雪音だからこそ可能な、早業だった。


「藤様、仁様、ご無事で御座いますか?」
 羅喉丸の脇をぬい、左京は二人を抱き上げた。邪魔をするのは、餌を奪われた白十字を持つ、鷲獅鳥。左京は、黒い右目で一瞥する。
「丸呑みは、ご遠慮願いますから…。」
 奪う、奪われる。互いに生きる為だとしても、譲れぬものはある。八重歯のような牙を噛みしめ、廃墟を蹴る左京。
「ここまで、あの人との戦闘に慣れているとは……もう少し、己で戦える、力をつけねばなりませぬ……」
 背中への一撃を耐える。二人を抱えたとき隙が出来た。そのまま、離脱を図る。
 二度目の攻撃は、地面からだった。仁が忍刀を構え、追い払った。子供でも、成長していく。
「……此度はいない、己の背を預ける者。どれほどまでに自分を弱くするのでしょうか………」
 魔刀「アチャルバルス」で、左京は蛇を切り開く。退路を切り開く。一人に慣れねば、一人前とは言い難い。
 角なき修羅は、足を止めない。強くなると決めた。多くいた兄姉、妹弟、全て失ったあの日から。
「余裕があればこんな不穏なアヤカシになった原因を調べるために時間を取りたいが、強敵なので早めに倒す……といった所か」
 音無き風が、飛んだ。暗の手裏剣「無銘」が闇を切り裂き、白十字に到達する。
 無知とは恐ろしい。鷲獅鳥は、翼で弾こうとした。武器を知らない、希儀のケモノ。
 当然だが、傷を負う。白十字は怒りの声をあげた。自分の失敗を、失敗と認められない鷲獅鳥。
「アヤカシでは無い……純粋なケモノ?」
 暗の瞳は、冷静に白十字を観察する。少し立ち会ってみて、出方を見ていた。
 叶わないほど強い相手と言うより、わがままな幼子を相手にしている感覚。白十字は、無知だ。そして、無垢だ。
 少なくとも、天儀の開拓者がつれている鷲獅鳥とは、勝手が違う。「ヒト」という、ひっくるめた生き物を、知らないケモノ。
 目の前の獲物は「危険」と悟ったか。白十字は羽ばたき、空に飛び上がる。何度も、怒りの声をあげた。
「……ようやく、諦めたのだな」
 本来、鎌を得意とする暗。アヤカシでは無いとは言え、自分勝手に空飛ぶ相手は、少々戦闘が難しい。
 カラスの濡れ羽色の髪を、掻きあげる。首に下げた、美しき者の鏡が、飛び去る白十字の後ろ姿を映していた。


「藤と仁君を保護できましたね」
 星晶の視線の先で、仁と弥次が再会を喜んでいた。黒猫耳は、地をはう音を捕らえる。続々と蛇が寄ってきている合図。
 泣き声の混じった、勇喜の声。怖くてたまらない。虎耳を抑え、しゃがみこんだ。
 戦場で隙を見せることは、命取りになる。勇喜には、まだ危険性が理解できない。
「…毒か、礫か。さて此度の敵には何を使いましょうか…」
 興味を持った事には何でも手を出すので、割と多芸な星晶。加えて、神出鬼没の行動力の持ち主である。
 蛇の死角から変則的な軌道を描く、毒の爪。猫特有のしなやかさで、勇喜を襲う蛇をいなし、救出する。
「さっさと帰ります。藤と仁君を連れて、皆で帰る事が最優先ですので」
 言葉と裏腹に、物凄く残念そうな、星晶。アヤカシを撲滅できない。後ろで、天狗礫の散華が舞い踊った。
「……よろしく、お願いします」
 青がかかった紫の瞳は、せわしなく動いている。救出活動への不安と、強敵との戦闘への期待。半々に入り混じった感情。
 肩に担ぐ、霊斧「カムド」の宝珠が輝いた。刃と同じ、緑青色の鈍く、冷たい光。落ち着いた、樹木の輝き。
 白葉の前に、蛇の牙があった。右手の一振りで、己が背とほぼ変わらない斧を叩きつける。左手の松明の炎は、僅かしか揺らがない。
 何となく手に馴染む気がするという理由で、斧を得物とする。そして、敵を斬り倒す事が、今の目的。
「……援護します。行って下さい」
 楽しげに踊る毛先、白葉は戦闘狂に変化しつつある。寡黙で無表情な娘は、心からの声を発していたのかもしれない。
 自身を盾にするつもりで、臨む戦い。牽制する左手の松明は、蛇を焼かんばかりに指し示す。
 蛇のしっぽが細かく振られた、襲い来る寒気。たかが蛇の睨みになど、負けはしない。
 示現は、最初の一撃に全てを掛け、全力で振り下ろす技法。右手最上段に構えた斧、集中させる気合。
 白葉の若葉の耳飾りが、激しく揺さぶられる。一気に踏み込んだ。左手を蛇に向けて、振り下ろす。
 と、見せかけ、頭上を空振り。真打ちは、右の斧だ。蛇の胴体を真っ二つにする。
「……まだ?」
 白葉の疑問の声、後ろの蛇の頭は消えていない。子猫又に、かみつこうとした。側にいたツツジは、拳で応戦する。
「俺は補佐かな。前に出る連中が、背中からバックリいかれねーようにな」
 にやりと笑う、ツツジ。短銃「ワトワート」を引き抜く。左手の拳をかんだ蛇に、右手の黒い銃頭を押しつけた。
「これぐらい、どうってことねーよっ。俺は俺で、やらせてもらうぜ?」
 不敵に笑うツツジにも、意地がある。たとえ、至近距離で毒を受けようと、足手まといにならない。女子供に苦しむ顔は、見せたくない。
 静かに、確実に、アヤカシに迫る発射音。銃の持ち手にある、蝙蝠の刻印のごとく。蛇の頭を打ち抜いた。


●夕食
「良く戻ってきたね、料理が出来ているよ」
 得意げな笑顔で出迎える、若旦那。片隅で、距離をとって焚かれる鍋。汁物のようだが、野菜がどんと入っている。
「こっちは、昼間の成果?」
「品質が良い野生種が、見つかったです♪」
 白葉が覗きこむと、伽羅から説明を受けた。月桂葉(ローリエ)、清正人参(セロリ)、棘風蝶木(ケッパー)、花椰菜(カリフラワー)、西洋松露(トリュフ)が入った鍋。
「……鍋?」
「どうみても、闇鍋ですね」
 白葉の質問に、暗は断言する。沸騰する鍋は、それ以外に見方が無い。張り切った伽羅から、差し出される小皿。
「あ、ありがとう」
 子供の期待に答えないわけには、いかない。夢を与えるのも、開拓者の仕事。暗の予想以上に、美味だった。
「……良い歌ね」
 歌う勇喜の周りに、人が集う。歌や音楽を好む白葉は、音に乗る。歌は、戦闘の疲れも癒してくれるようだ。
「よく頑張ったな」
 ぐりぐりと撫でる、羅喉丸の手。褒められた仁は、照れる。黒猫耳を立てたまま、星晶は苦言を。
「一人で敵の背に飛び乗るとは、随分無茶をしたものです。先達としては、もっと慎重に行った方が良いと思いますよ?」
 厳しい視線に、しょぼくれる一本角。黒猫耳を動かし、星晶は目元を和ませる。
「でも、仁君らしいですね。個人的には、偉いと思います。その調子で、君らしいシノビになって下さいね」
 今度はぽんぽんと仁の頭を叩く、星晶の手。開拓者達の手は、とても大きくて、仁はまだ敵わない
「よく、頑張られました。ご立派で御座いましたよ?」
 左京は会話に混ざると、頭を投げてねぎらった。照れて笑うのは、勇喜。鼻をこすって、威張るのは仁。
「……藤様の香がつくと、帰宅後、夜汐が拗ねそうですが……」
「それはあかんで」
 相棒の子猫又の名前を、持ち出す左京。お節介な藤は、左京の腕から飛び降りた。
「……もう一年、か。早いな」
「ああ、仁がうちに来て、二度目の秋だ」
 蒼羅の黒い瞳に、たき火の向こうが映る。じゃれあう、子供たちの姿。隣に座る弥次は、ぽつりと答えた。
 故郷を亡くした修羅の子が、神楽の都に来て、早一年。両親と故郷の人々の仇打ちをして、もう一年。
「仁の好物、覚えました?」
「ああ、玉子焼きとあんこが好きらしい」
 若旦那の手伝いをする雪音から、手渡された箸と。質問に、弥次は苦笑して答える。
 頭の後ろで、手を組んだツツジは横になり、そっぱを向く。真っ当に自立せず、家から逃げた身。
 気が付くと顔の側で、眠たげな三毛猫しっぽが動いていた。ツツジの趣味は昼寝、安眠を求める気持ちは理解できる。
「……てめぇのガキのために、親父がでかい顔するっつーのは、あんま好きじゃねーけど」
 子の窮地に助けに出る父を、「ウザったい」と思う。けれど、助けがなければ、子供たちは死ぬだけだった。
「ま、分からなくはねーな」
 藤を胸元に抱き寄せ、ツツジはぼやく。寝息を立てている子猫又、……守った命を抱きしめながら。