【希儀】冒険入門・調査
マスター名:青空 希実
シナリオ形態: ショート
EX
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/11/16 19:02



■オープニング本文

●世界
 ここは、空に浮かぶ浮遊島に、人々が暮らす世界。浮遊島は大別して「儀」と言う。
 儀では、ずば抜けた身体能力を持つ人が、まれに生まれる。天儀では「志体」、と呼ばれていた。
 志体を持つ人々が目指す存在がある、「開拓者」。「開拓者ギルド」に所属し、困っている人を受ける存在。
 開拓者は依頼を受け、冒険に挑む。「練力」を使い、「技法」を振るう。「体力」の続く限り。
 そして、「アヤカシ」との戦いにも挑む。アヤカシは、瘴気から生まれる敵、人々を食べる敵。
 開拓者は戦える。一人ではないから、志を同じくする仲間がいるから。そして、「朋友」と言う相棒も、力を貸してくれるから。


 今まで、儀は四つだと思われていた。はるか西に、新たな儀が発見される。「希儀」、希望の儀が。
 儀と儀をつなぐには、「嵐の門」と呼ばれる場所を通る必要がある。嵐の門は、番人とも言える存在が守っていた。
 天儀では、封印するための遺跡が、攻略されたばかり。天儀と希儀の間に居た、燃え盛る不死鳥の魔神「ふぇねくす」は、無事に封印された。
 今度は、希儀側の嵐の門の近く。封印の遺跡のある島で、希儀側の封印の状態を調べる必要があった。
 人手が求められる、希儀への訪問。往年の開拓者たちにも、ギルドからお呼びがかかる。
「俺は息子をつれてきたぞ。良い機会だから、開拓者として、本格的に勉強をさせることにしたんだ」
 遺跡探検に同行したのは、開拓者ギルドの職員。弓術師の栃木 弥次(とんめ やじ:iz0263)。
 そして、泰国の料亭の若旦那。虎猫獣人で、泰拳士の司空 璋(しくう しょう)。
「ほう……奇遇だね。私も子供たちをつれてきたのだよ。新しい儀の発見なんて、めったに体験できないことだからね」
 開拓者も、世代交代していく。小さな開拓者たちの冒険が、実りあるものになることを願うばかり。


●泣き虫の子虎
 封印の遺跡は不思議な場所だった、祭壇が無い。吹きさらしの地面は、正方形の石畳が敷き詰められているのみ。
 外周を囲むように、石造りの円柱が立つ。上下がくびれた円柱は縦横四本、規則正しく並んでいた。
 遺跡を調べていた、若旦那の下の子供たち。虎猫娘の伽羅(きゃら)は、しっぽを逆立て、父親の服を引っ張る。
 双子の兄、白虎少年の勇喜(ゆうき)が穴に落ちた。子猫又の藤(ふじ)目の前で、遺跡の東の床が抜けてしまった。
 一本角の修羅少年の仁(じん)は、父のギルド員に助けを求める。空を飛べるギルド員の朋友、人妖の与一(よいち)が、穴の中に入って行った。
「落下したときの怪我は、我が治療したから、問題ないでやんすよ。穴の底は、石造りの部屋でやんすね」
「地下遺跡か……。実は、魔神が残した短剣が回収されていてな。今回の遺跡と、なんらかの関係があると推測されているんだ」
「二部屋くらい、床をぶちぬいているでさ。西側に出口があって、廊下に繋がっているでやんすよ」
 戻ってきた人妖の報告に、考え込むギルド員。あまりに簡素な石造りの神殿に、疑問を抱いていた。
「まず、地下への入口を探さんといかんな。与一は、虎の坊ちゃんについて……与一?」
「どうも、希儀に来てから、調子が悪いでさ。体力が落ちている感じでやんす」
 人妖は墜落するように、ギルド員の肩に座る。大息を吐いた。長く空に浮かぶことも、疲れる様子。
「大丈夫か? 俺は陰陽師じゃないから、お前さんを診てやれん。無理はするなよ」
「我の心配は、いらないでさ。勇喜殿のことは、任せるでやんす」
 ギルド員に笑顔を向け、浮かび上がる人妖。よたよたと、若旦那の肩に座り直す。穴の底から、虎少年の泣き声がきこえていた。
「父上、父上、助けてです!」
「……そのまま、遺跡の地下を探索しなさい。そして、自分の足で、出口を探したまえ」
「がう!? 嫌です、嫌です! 暗いのは、嫌なのです!」
 母譲りの白虎しっぽがふくらみ、振り回された。暗闇が怖い虎少年、泣いてごねる。遺跡探索など、一度もしたことが無い。
「私たちも、地下の入口を探すから。必ず生きて、戻るのだよ?」
「がるる……分かったです。勇喜、嫌だけど、頑張るです」
 若旦那の声は、静かにさとす。ひとしきり訴え、ようやく諦める虎少年。穴の上からでは高すぎて、助けて貰えないと理解した。
「勇喜、遺跡探索に必要な物は、分かっているかね? 与一君に託すから、言ってみたまえ」
 人妖を従えた父の言葉に、虎少年は白虎しっぽを揺らす。涙を拭きながら、元気いっぱい答えた。
「がう、お弁当です!」
 ……泣き虫の吟遊詩人。その前途は、多難である。


■参加者一覧
空(ia1704
33歳・男・砂
八嶋 双伍(ia2195
23歳・男・陰
フェムト・パダッツ(ib5633
21歳・男・砲
神座早紀(ib6735
15歳・女・巫
アーディル(ib9697
23歳・男・砂
戸隠 菫(ib9794
19歳・女・武
啄木鳥(ib9965
18歳・女・泰
メイファ・アルテシア(ib9998
20歳・女・魔


■リプレイ本文

●落下
「他にも、どなたか落ちた方もいらっしゃるようですから、寂しくはなさそうですけど。早めに合流すると致しましょう」
 八嶋 双伍(ia2195)が指差す先では、戸隠 菫(ib9794)と啄木鳥(ib9965)のやり取り。
「あら、啄木鳥さん、いらっしゃい。怪我は無いかな、まずは浄境で治療をしておくね」
 勇喜の隣で、腰を押さえる存在がいた。菫の言葉に、啄木鳥は視線で答える。
「まずは地上から、入り口となる個所を探すわ。崩れやすい個所、壁への仕掛けなどは見落とさないように……」
 メイファ・アルテシア(ib9998)の忠告は、間に合わなかった。フェムト・パダッツ(ib5633)が覗きこんだ瞬間、床が崩れた。
「一緒に落っこち組、その三!?」
 おっこちた。黒豹さんは、しっぽをなびかせて落下して行く。頭を下にして、まっさかさま。
「おやおや、落っこちちゃったんですか、それは大変ですね……」
 双伍の耳に、硬い音が届く。頭から着地したようだ。頭打って転がっているのは、お約束。
「あら、黒猫さんもこんにちは」
「おっ、よく来たな。黒猫」
「猫って言うな! 黒猫違う!」
 のんきに菫が、ご挨拶。のんきに、啄木鳥もご挨拶。タンコブを押さえながら、返事するフェムト。
 うん、黒豹は元気なようだ。不動明王のお守りが守ってくれたのだと、菫に断言されてしまう。
「人生は驚きの連続……、まっ、それが楽しいんだけれどね」
 破邪の剣に、感謝の祈りをささげるメイファ。神への信仰は厚く、聖書は宝物だと言いきるほど。
 アル=カマル出身のエルフは、天儀の神教会に属する。出身の村をアヤカシに滅ぼされたときに、救ってくれた魔術師と共に。


「……さて、入り口はどの辺りにあるのか……此処はどういう役目の場所だったのでしょうね?」
 子供たちに向けていた視線を、石畳へと動かした。眼鏡を押し上げると、双伍は漆黒の呪殺符「常夜」を取り出す。
 生まれいずる、ネズミ。石畳に降り立つと、地面を歩きまわる。自身の目と、人魂を使用して地下への入り口を探した。
「希儀側の封印の遺跡か」
 白い斑紋のある、羽毛が動いた。チュウヒの例にもれず、アーディル(ib9697)も羽毛の先端は黒い。
「落ちた子も心配だが……地下は様子が違うようだし慎重に行くが吉、かな」
 チュウヒは、天儀では、冬の鳥と称されることもある、鷹の仲間。アーディルは、アル=カマル出身の鳥のアヌビスであった。
 金の瞳を細めると、フェムトの落ちた穴を見やる。毛の逆立ったままの子猫又をかかえ、その場を離れた。
「私達が今すべきは、地下への入り口を見つけて早く合流する事。頑張りましょう!」
 アーディルと同じ金の瞳が、物言いたげに、見上げてくる。神座早紀(ib6735)は子猫又をなでて、落ち着かせた。
「まずは入口探しから。石畳の段差や色が違う場所等は、確認するんだ」
 子供たちに、アーディルは声をかける。不思議そうな後輩たちに、先輩としして手ほどきを。
「持ちあげ式の入り口なら、浮き上がっていたりするかもしれないだろう。それから、スライド式……」
 言葉が途切れる、アーディル。天儀と泰国出身の父親たちは、視線が宙をさまよっている。
「あー……横への引き戸なら、動かした跡があるかもしれないしな」
 漢字は分かるが、横文字は苦手らしい。苦笑しながら、アーディルは言い換え、身ぶりを加えた。
「……音が違いますね」
 早紀は石畳を叩きながら、何度も歩きまわった。石畳のど真ん中は、おかしな感じがする。
「この四本の柱……、規則的に並ぶけれど……、何か呪術的な意味があるのかしらね?」
 メイファが着目した、外周の柱。外周の二本目と三本目の柱、その間の空間に部屋が存在する。
「周囲の石柱に開けるスイッチや、仕掛けがあったりするのかも?」
 早紀の言葉に、柱を探す。見つけた。四隅の柱に宝珠が埋め込まれている。



●仮説
「……栃面さん、司空さん、必ず無事に合流させて見せるからね……」
 菫は武僧頭巾を揺らし、空を見上げた。穴の上から、父親たちが離れた気配がする。
「勇喜くん、じゃあ、これからどうしたら良いかな?」
「……遺跡の探索です!」
「うん、まずは周囲の調査だよね。松明をつけて、周囲を観察した結果を手帳に書きこんでいこうね。
それから、『祈りの紐輪』をあげるね。これ、勇喜くんの身を守ってくれると思うから」
 常に明るく、あっけらかんとしている菫。影響を受けたのか、勇喜の声が少し明るくなる。
「それと歩幅は必ず一定に。これは、距離を測るためなんだ」
「いや、空中じゃダメだと思う」
 部屋の端から端を歩いて見せ、実演した菫。真似して与一が歩くも、フェムトに突っ込みを受けた。
「怖いか?」
 声をかける啄木鳥。掲げる松明の下で、虎しっぽが揺れていた。
「余り洞窟内のことはよくわからないから、物には触るなよ」
「罠があったり、単に老朽化して脆いところがあったりするから慎重ね」
 出口を探しながら、探索するのは大事だが、罠がないとも限らない。啄木鳥や菫の言葉に、頷く勇喜。
「迷った時の角の進み方は、左右を交互にね。ちなみに、この角はL字って言うんだよ」
 分かれ道の無い角は、同じ方向に曲がり続ける。菫の説明には、ジルベリアの言葉が含まれていた。
 菫の両親はジルベリア人。だが、菫は天儀で生まれた。両親は天輪宗に帰依し、東房国の安積寺に移住した過去を持つ。


「栃面さんに、件の短剣を見せていただこうかしら?」
「何か探索の手掛かりになる事もあるかもしれないしな」
 メイファは、短剣を凝視する。アーディルもチュウヒの羽毛を動かしながら、見つめた。
「『不死鳥の短剣』、なんだかカッコイイ名前です」
 早紀は、眼に精霊力を集中させる。術視「参」は対象にかけられている術を見破る技法。
 視てみたが、何もわからない。どうも、魔神の落し物だけあって、手ごわかった。
「不死鳥の短剣……ね……。何かがあれば、反応するのかしらね」
 メイファの独り言。封印に関係することなのか、はたまた人妖の容体に関係することか。
「歩数を測って、マッピングしながら進むこと」
 迷わないように、壁に印を付けていたアーディル。勝手に駆け出しそうな伽羅を、とっ捕まえた。
「それから、足場の悪い所は、槍の石突で地面を叩いて通れそうかを確認する」
 仁王立ちになった、アーディル。魔槍砲「アクケルテ」の握り手で、床を叩いて見せる。
 故郷では、商隊の護衛等をしていた。好奇心旺盛な者や、無謀な者を止めるすべを知っている。
「分かればいい、危ないからな。地下は三階位まであるようだ、下に降りられる階段等も探すんだぞ?」
 猫娘は、大人しく頷いた。借りてきた猫状態。アーディルは軽くほほ笑むと、伽羅の頭をなでた。
「曲がり角では、白墨でどちらから来て、どちらへ向かったか矢印をつけておくんですよ」
 松明を伽羅に預け、白墨を取り出す早紀。下方の階でも、同じような講義が行われていた。


「罠や脆くなっている場所は目立つよう、周囲に白墨で印をつけておくんだよ」
 菫の側で、タンコブを作った与一がうつむいている。
「如何にも何かありそうな雰囲気の像とか、そこだけ他と異なる雰囲気の扉とかを見つけたら、良く観察した結果を記録して、後に回そうね」
 言動はストレートで、歯に衣を着せる事が無い菫。なにがあったかは、与一の名誉のために伏せておく。
「初めての依頼。しかも遺跡探索ときたもんだ、わくわくするぜ」
 両手を突き上げ、背伸びする啄木鳥。原動力は自身の鍛練と、純粋なる興味。
「んー? そんなに泣いてると、好きな子守れないぞー?」
 あらっぽく頭をなでられ、勇喜は虎耳を伏せる。啄木鳥の目元は優しかった。
「問題を解決する為、護衛と捜索をしないとな」
 啄木鳥は自分の荷物を取り出し、勇喜に見せてやる。探索用の松明。非常食に菱餅、石清水。それから、勇喜が不思議がった、最後の一品。
「非常食兼治療用にヴォトカだ」
 ショートカットの髪を掻きあげる。消毒薬としても重宝されていると、啄木鳥はニカッと笑ってみせた。


●到達
 剣骸士と呼ばれる、アヤカシが立ちふさがる。二刀流の剣やら、丸い盾に槍を持っている。
「開拓者になったばかりだからって、なめんじゃねぇぞ」
 啄木鳥のまとう、緑と水色の縞模様。サッシュ「リーフ」は、風の精霊の加護を受けている。
 構えた右手、踏み出す右足。脚絆「瞬風」に付けた、宝珠が輝く。滑るように動く、啄木鳥の身体。
「俺は、職業的に『閉鎖空間』はとことん不向きだからな」
 フェムトの呟き。立派なマスケット「クルマルス」を持っている黒豹に、子虎は不思議な視線を。
「武器も、技法も、広いところ向きなんだ。今回はマッピング要員で参加して、さ」
 フェムトは面倒見が良く、女性と子供には若干甘い。進んで筆記具と紙の束を受け持った。
「あまり無理はするなよー」
 突き出される槍を避け、叫びながら啄木鳥は回り込んだ。遅いと鼻で笑う。
 短い呼吸、揺れる前髪。右手で盾を押しのける、右膝に込める練力。肋骨を狙い、膝蹴りを喰らわせた。
 側面からの直撃を受け、剣骸士の骨が震え、脊椎が揺らぐ。啄木鳥の空気撃。
「下がって」
 勇喜を背中に隠し、菫は立ちふさがる。聖槍「ノルン」で太刀打ちするが、二本の剣は厄介だ。
 少しずつ後退し、廊下の角までやってくる。勇喜の叫び、後ろから逆回りした槍が迫っていた。
 アーディルの突きだした、魔槍砲の先端が牽制した。次いで、双伍の蛇の式が大地をはう。
 間に合った。地上組は、落下組を見つけた!
「よかった! 皆さん無事ですか?」
 白猫の面を被り、ほっとした表情早紀の声。仁がとびだし、すぐ隣を神風恩寵が吹き抜ける。
 地上組は早紀の瘴策結界で、瘴気の塊を見つけていた。ただ、人妖か、アヤカシか分からなかっただけで。
「ん……、暗闇の中、よく逃げずに頑張ったね。えらい」
 メイファは頭を撫でて褒める。照れた笑顔をむけて、子虎は後ろにこけた。泣き声が響く。
 フェザーマントの裾が、地面に付いた。メイファは、困ったようにしゃがみこむ。
 泣きぼくろを持つ、エルフ。冷静を装いつつも、予測してない事に内心、慌てていた。
「宝珠を生み出すアヤカシ?」
 フェムトは、足元に転がってきた宝珠を拾う。地上組の報告によると、壁に埋め込むらしい。


「覚えました? 手帳と筆記用具、松明、白墨……」
 年上の男たちと距離をとり、早紀は勇喜に確認して行く。とある事件がきっかけで、男性嫌悪症に陥ってしまった。
「勇喜君、まずは休みましょうか」
 ようやく落下組と合流した、双伍の呼びかけ。昼ごはん、まだらしい。
「ほら、腹が減っては戦は出来ないって言うじゃありませんか。重箱ですから、皆さんにも分けられますよ」
 子供たちは単純。双伍の手元を、嬉しそうに見ている。アーディルの肩で、飛びはねる子猫又。
「調子が悪い、という事は瘴気が少ないんじゃないかと思うのですが……」
 菫にもらった月餅を食べる、人妖。双伍は離れた与一が気になっていた。
「何か呪術的な側面もあるかもしれません」
 与一を掴み、術視をする。考えすぎだったようだ、与一に異常無し。……早紀、男性型の人妖は平気なのだろうか。
 そういえば、可愛いものが好きで、ぬいぐるみをよく集めているとか。人妖は、人形と変わらない?
「なんとなくなんだけど、希儀って瘴気の力を抑え込んでる?」
「……この遺跡は、天儀より『薄い』ですね。与一君にとっては、いきなり高山に登って、呼吸困難になったようなものでしょうか?」
 菫の言葉に瞬きして、首を傾げる双伍。色々な場所を、瘴気回収で周辺の瘴気を調べている。
 未知に対する好奇心から開拓者になった、陰陽師の言葉。人妖の活動に支障はない、次第に濃度に慣れるはず。


●疑問
 一番下の階層は、行き止まりだった。通路は四角く繋がって、四つ部屋があるのみ。廊下や部屋を色々と探してみる。
 アーディルは四方の部屋を、注意深く調べる。南の部屋は赤い鳥。一番奥の壁に、レリーフがあった。
 西の部屋は、縞を持つ虎だった。他の部屋にもなにか動物がいて、目に小さな宝珠がはめ込まれている。
 ただ、周りの印は、何か良く分からない。短剣の柄に似ているような。違うような。
 菫は弥次に不死鳥の短剣をお願いする。懐から出した短剣、赤く点滅する宝珠。
 宝珠は輝く、南側を指して。啄木鳥を筆頭に、南の部屋に向かってみる一行。部屋に入った途端、短剣が震えだした。
 フェムトは、震えがひどくなった方向を、探してみる。赤い鳥の足元に、亀裂を見つけた。短剣を差し込む。
 階段の部屋の位置、中央に隠し部屋はあった。小石を投げて、メイファが罠を確かめる。
 早紀の結界で、瘴気が無いことを確認。漆黒の大理石に包まれた部屋。壁も床も、光を反射するくらい滑らかだった。
 双伍の眼前、中央の祭壇には、淡い光を放つ宝珠が設置されていた。色は、常に変化し続ける。


 一度天儀に戻った開拓者たち。図書館から借りて、いろいろ調べた。
「天儀の古代文字だと思います。『不死鳥九年朱雀翼封神』と書いてあるのではないかと」
 双伍が示すのは、祭壇の掘られていないレリーフの文字。精霊力そのものであるかのような、不思議なレリーフ。
「ただ、不死鳥九年だけじゃ、どれくらい前か想像がつかないな」
「古代暦は複雑過ぎて、わけわかんないぜ!」
 フェムトの黒豹しっぽが、しょぼんとなる。気の良い兄ちゃんは、色々奮闘してくれた。
 戦闘以外には関心がなく、なにごとも力で解決しようとする啄木鳥。渋々手伝っていたが、ついにさじを投げる。
「朱雀翼は『すざく・たすき』と読めるのね」
 啄木鳥から、資料を押しつけられたメイファ。分厚い紙を数枚めくると、勇喜が懸命に覗きこんでくる。
「勇喜くん、開拓者を目指す理由を聞かせて貰って良いかな?」
「がう、おっきくなったら『どんどこ』いって、『ぶんかこーけんけん?』するのです」
「将来旅をして、文化発展に貢献したいそうだね。暗闇が怖いのは、治ったのかね?」
「勇喜君、大丈夫かな? でも苦手だった海も克服できたんですから、きっと暗いのだって克服できます!」
 菫の質問に、勇喜はしっぽを揺らす。難解な子猫語を、若旦那が通訳した。
 早紀は、勇喜の顔を覗きこむ。虎耳が伏せられた、まだ泣き虫は治っていない様子。
「他にも遺跡があるんでしょう? 未知の遺跡……、魔術に関わる物がないか、楽しみね」
 ワクワクしながら、思考を巡らせる。メイファは、魔術への探求に目がない。未知を求めて、天儀を渡り歩くくらいに。
「すでに滅んでいる、新しい儀か……。人妖の体調不良の件。予想になるけど、大元は大樹のせいじゃないのかなと思う」
 アーディルの予想した、大樹の影響。開拓者たちが詳しく知るのは、もう少し後になる。