迅鷹の森、照陽の秀王
マスター名:青空 希実
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/09/20 19:38



■オープニング本文

●緑野
 武天は武州。迅鷹に守られた、鎮守の森がある。
 神楽の都に程近い、街道から少しだけ朱藩寄りの場所。ケモノも、植物も、虫も、人も、皆等しく、自然の恵みを受ける土地。
 東の咲雪(さゆき)は、神楽の都まで貫く街道に、最も近い地域。子供たちが大好きなサクランボ、イチジク、ビワの果樹園。
 アヤカシとの戦闘が、一番激しかった南の燈華(とうか)。防風林の松とヒマワリ畑が広がり、人とケモノが共存している。
 西の照陽(しょうよう)には、少し勾配が見られる。ミカン、柿、栗が、自然の恵みを与えてくれた。
 寒さが厳く勾配のある北の雪那(ゆきな)は、イチョウ、紅葉、ケヤキが生える。ケモノたちの寝床に、なるように。
 繁る緑は何人も拒まず、優しく迎え入れた。去る者は、再び来たいと願うと言う。
 魔の森の一部だった事を、誰もが忘れた頃。遠い、遠い、未来の姿。
 しかし、ギルドにつづられるのは、現在。
 開拓者と移住者によって、土地が切り開かれた記録。始祖の迅鷹の家族が、安住するまでの出来事。
 ―――芽吹きの物語。


●街道
 弱っていた。精神的にも、肉体的にも。荷物と家畜を伴う移動は、時間がかかる。
 新天地を求めて、瘴気に満ちた朱藩の故郷を捨てた。ようやく住み着いた地は、アヤカシに襲われ、再び逃げだす羽目に。
 理由は鬼面鳥の群れに、目をつけられたこと。人間の胴体に、鳥のような翼と鉤爪を備える鬼顔は、死人の肉を好む。
 死肉を作る為、生きた人間も襲撃するアヤカシ。何人の同胞が、餌食になったか。
 もうどれだけの時間、さすらったか分からない。安住の地を見つけられるのは、いつの日だろう……。


 神楽の都の開拓者ギルドで、聞いた言葉を思い出す。ギルド員の栃面 弥次(とんめ やじ:iz0263)は、サムライ娘の真野 花梨(まの かりん)に説明していた。
「武天の海岸に、難破船が漂着してな。何回かに分けて、調査団が派遣されることになったんだ。お前さん達には、その中の一つの護衛を頼みたい」
「街道沿いを行けば、一週間以内に着きますね♪」
 武天出身のサムライ娘の案内で、旅立ちは順調だった。暗雲が立ち込めたのは、武州と言う地域に、差しかかったとき。
 遠くに、人々の悲鳴を聞いた。次いで、かん高く、威嚇する鳴き声。鬼面鳥の群れが、襲いかかっているではないか。
「月雅(げつが)、花風(はなかぜ)、加勢します!」
 迅鷹は、サムライ娘の知り合いらしい。呼びかけに、信頼の鳴き声を返す。
 武器を手に、朋友と駆け付ける。目の前で、アヤカシの鉤爪が、一羽の迅鷹を捕らえた。
「雪芽(ゆきめ)!」
 サムライ娘の悲鳴。空から、小さな迅鷹が墜落してきた。翼を、赤く染めて。


■参加者一覧
からす(ia6525
13歳・女・弓
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
劉 星晶(ib3478
20歳・男・泰
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
ウルグ・シュバルツ(ib5700
29歳・男・砲
神龍 氷魔 (ib8045
17歳・男・泰
破軍(ib8103
19歳・男・サ
雪邑 レイ(ib9856
18歳・男・陰


■リプレイ本文

●照らす太陽の地
 相棒の炎龍、虎雀から、からす(ia6525)は飛びおりる。山の方角を示した。
 鬼面がはびこるのは、街道の上空。ならば街道から、避難を。遠ざかるべきだと。
 花梨の抱えた、子迅鷹の様子をみる。力なく鳴く迅鷹に、わずかばかり目を細めた。
「『君は誇り高き迅鷹の血族だろう?』であれば、ここで倒れるべきではない」
 傷の具合を確かめる、命取りにはならぬか。薬草を数枚ちぎり、手早く傷口に当てた。からすが自分で調合した薬草。
「何、この傷の仇はとってやる。今は休むといい」
 からすは包帯を花梨に手渡し、巻くように勧め、相棒の背中に戻る。ちらりと見上げると、上の方で気配がした。
 ウルグ・シュバルツ(ib5700)の相棒、駿龍のシャリアが、雪芽を心配していた。金の瞳が、子迅鷹を見下ろしている。
「この手で救えるものがあるなら、迷う理由はない。……シャリア、手伝ってくれるな?」
 ウルグは、不動明王のお守りを左手で握りしめる。深紅のお守りは邪を払い、人々を導く力があるといわれた。
 疾風の手綱を握ったままの右手は、シャリアの首筋をなでる。大きく頷く駿龍、精霊の力が封じ込められた手綱をひるがえし、アヤカシの前に立ちふさがった。
 長い銃身を持つ、狙撃用のマスケットを持ってしても、動く相手は狙いづらい。そこで、ジルベリアのシーチ氏族に伝わる射撃術が活きてくる。
「あれは……! チェン太、全速前進! みんな、助けるよ!」
 龍の背中から飛び降り、リィムナ・ピサレット(ib5201)は大声で難民に知らせる。精気を失っていた難民は、少しだけ、視線を向けた。
 抱えられたニワトリすら、視線を向ける。その瞳には、大きく翼を広げる龍の背中が映る。
 炎龍のチェンタウロは、獰猛な牙を、追いついた鬼面に、強く突きたてる。強力な顎は、腕も翼も問わず、噛み砕いていった。
「虎雀、『民の保護を優先せよ』。突出するな」
『ガルル……』
 武勇の誉れ高き者の色、赤。赤眼の炎龍は、アヤカシを見る。まとう獣鎧「赤備」が、空を占領していた。
 シャリアと時に交わり、ときに離れる虎雀の進路。殿を務め、下がりながら戦闘する、からす。
「シャリア!」
 短いウルグの言葉に、すべては詰まっている。巻き込まれ体質ではあるが、鬼面の攻撃を受けるのは、ご免だ。
 鬼面との距離が近すぎる。藍色の龍の体躯が、大きく傾く。突風と共に衝撃波を放った。
 シャリアはやや臆病ながらも、主の役に立ちたい一心だ。健気に回避し、攻撃に転じ、ウルグを助けようとした。
 我が物顔で飛ぶ鬼面に、虎雀は威嚇の声をあげる。もどかしげに爪を振るった。アヤカシを引き裂きたいのに、できない怒り。
「ありがとう」
 ウルグは礼を述べながら、防衛線に戻ってくる。接近される前に攻撃を加え、鬼面を難民から引き離す作戦。
 背中の引き裂かれた傷、子供をかばった父親。両親を早くに亡くしたリィムナにとって、心が軋む光景。
「誰も死なせないよ!」
 リィムナはしゃがみこみ、白き精霊に働きかけた。力ある言葉を放つ。祈りにも似た言葉、鎮魂歌にはさせない言葉。
 ほのかに輝く白い光が、父親を包む。かすかな、うめき声。安堵とともに、リィムナに煮えたぎる気持ちが湧いた。
 神の鉄槌ならぬ、聖なる矢の魔法。鬼面に向かい、羽を狙っていく。
 一匹も残さず、ぶっ潰す。空を見上げ、歯を鳴らすチェンタウロに、どこかのだれかと同じ意味の命令が下された。


「俺と陽淵は上空でアヤカシの方を担当する」
 蒼羅の考え。難民及び迅鷹家族の救助とアヤカシの殲滅。敵の数も考えると、二手に分かれて同時進行で行くべきだと。
 羽ばたく陽淵の翼は、鬼面との距離をものともしない。気流を味方につけ、一気に距離を詰める。
「……沈めましょう。一匹残らず」
 闘争心を大いに高める、泰拳袍「九紋竜」が力を貸したのだろうか。劉 星晶(ib3478)は、完全に目が据わっている。
 鬼面の注意が、突然割り込んできた蒼羅に向いた。駿龍の翼は、危なげなく、鬼面のかぎ爪を避ける。
「俺達なら問題なくやれるはずだ」
 声かけに、大きく答える、駿龍の鳴き声。琥龍 蒼羅(ib0214)の握る死骨の手綱は、死を越えても続く相棒との絆を表す。
「刃龍一体、飛燕……その名の如く」
「翔星、雪芽ちゃんの仇をとりますよ」
 目の前で、知己が傷つけられたとあれば、翔星も黙っていない。鉤爪「鉄鷲」で、容赦なく、アヤカシを鷲掴みにする。
 斬竜刀「天墜」を持つ蒼羅を背に乗せ、陽淵は羽ばたく。翼を大きくはためかせた陽淵の外見が、少し変化を見せた。
 普段は二枚に分かれている翼が、風の抵抗を受けて一枚ものになる。特徴的な形状の翼は、安定性を高めるのだ。
 小柄な体に細めの足、長大な翼。空気の流れを整える、鎧の形状。それらはすべて、全力で飛翔する助けになる。
 陽淵の名前の由来は、飛燕。その名の通り、急転回や宙返りと言った曲芸的な飛行も、難なくこなす龍。
 翔星は生真面目で、一般的な鷲獅鳥に比べると大人しい。それは、普段、子供と遊ぶときの話。
 戦闘では、勇猛な戦いぶりを見せた。己が名前にふさわしく、飛翔翼を存分に見せつける。
 一応、難民の避難が頭にあるから、撹乱行動に努める。いつもは冷たく接する星晶の指示に対しても、素直に従った。
「氷丸、今回はお前のすばやさを活かせそうだ」
 氏に入った名の如く。龍のピアスを揺らしながら、語る神龍 氷魔 (ib8045)。龍の爪を連想させる耳飾りは、戦意を高揚させるとか。
 氷の世界に居る様に、白い姿をしている駿龍は、アヤカシを睨む。輝く太陽の瞳は、不機嫌そうに、何度もしっぽを振りまわした。
 氷丸は、主人の考えていることを既に理解している。主人の命令の言葉と同時に行動できるほどだが、今日は普段を上回った。
 氷魔のすぐ隣、飛び移れる場所に、鬼面がいる。期待にたがわず、地昇転身で、背中に飛び移った。掌をあて、内部に気を送りこんだ。
 再び、龍の背に戻り、力強い型をとった。空波掌……攻撃を繰り出す事により、離れた相手に衝撃波を放つ技法を披露する。
 リィムナやからすには、真似しないで欲しい。物事を冷静に見渡せる高い見識の持ち主の氷魔が、十分に見極めたから、できた芸当である。


「チ……護衛の仕事と思えば、厄介が転がり込んでくるとはな……」
 ぼやく、破軍(ib8103)。相棒の迅鷹、疾風は先行している。爪に力を込め、隙を見せずに鋭く振るっていた。
「青き炎よ、魔性を滅せよ」
 まず炎龍の青炎が答えた。低い唸り声を響かせながら、鬼面に突っ込んでいく。次いで、雪邑 レイ(ib9856)の手中で、黒死符が反応した。
 青い炎を全身にまとった式が、生まれる。龍が最も、近づいた隙に、手から飛び降りると、鬼面の背中へ。
 背中を狙おうとするのは、アヤカシでも考え付くらしい。したり顔で龍の背後に回ったまでは良かった。
「全く……チビ助といい、この小娘といい……疫病神でも憑いていやがるのか?」
 血だらけの迅鷹を受け止めた花梨に、視線をやる。破軍は脇を通りぬけ、難民の前に立った。
 気の合う仲間の到着を、待ちわびていたのだろうか。疾風は指示も無しに、きらめく光となって、霊剣「迦具土」に宿る。
 せっかちな相棒に舌打ちしながら、破軍は右手に剣を構えた。左手の獲物、鞭が空へと伸びる。
 数度しなり、暴れ、からめとる鞭先。盛りあがった腕の筋肉は、羽ばたく鬼を無理やり手繰り寄せた。
 気配を察した青炎は、飛びあがる。空で飛びあがるのもおかしいが、確かに飛んだ。
「目玉に向かって喰らいつけ、眼突鴉 召喚!」
 レイは背中に乗ったままから、鴉を召喚する。放った眼突鴉は、眼球部分が好物。目玉を狙わせ視界を奪う。
 龍の青炎はクールで、とても律儀。あまりに律儀すぎて、手厳しい一面が顔をだす。ヒートアップで力を溜めていた。
 宙返りした巨体は、鬼面の隙を見逃さない。低い唸り声のまま、強靭な後ろ足で蹴りつける。強力な一撃をくらった鬼面は、落下して行った。
 しなやかな黒い前髪の間から、紅い目が鬼面を見据える。振りあげられる剣。冷やかな太刀筋は、断末魔さえあげることを許さぬ。
「疾風、俺は小娘の方に行く。お前は同属に助力してやれ」
 破軍の声に、疾風は同化を解く。近づきがたい雰囲気を持っているが、仲間や主人の命が何よりも大切な性分。
 凛々しい目で月雅たちを見上げとると、一言鳴き、美しい羽衣を広げる。空へ向かう疾風の首元で、友の御守りが揺れていた。


●空に秀でし王
「虎雀、『やっていいぞ』」
 からすの声に、一気に空を翔け登る龍。溜め込んだ怒りをお供に、眼下の鬼面を睨んだ。
「もう誰も傷つけさせないよっ!」
 白い雪が、辺りを漂い始めた。雪の結晶を模した飾りが付いている、スノウ・ハットをかぶったリィムナは、アヤカシを睨む。
 吹き荒れる、雪の白。アヤカシを巻き込み、留まることを知らない。
 チェンタウロの業火炎は、雪の中を突き抜け、アヤカシを撃つ。口元の龍の火炎袋は、チェンタウロの怒りの炎を増加させていた。
 虎雀の中の無重力。頂点から、地面に向かう感覚。道すがら、二匹の鬼面を両手に掴み、離さぬ。
「この静寂の地にアヤカシ蔓延るのは、目に付いて邪魔だ。地を這うまで追いかけ回そう」
 ふっと、からすの瞳が不思議な笑いをたたえた。赤のリボンが、風で大きくなびいている。
「虎雀は加減が下手でな」
 相棒は、雄叫びをあげる。九月十五日は、からすの誕生日。勝って、誕生祝いとしよう。
 鬼面の喉を貫く、からすの矢じり。右手の薬指と小指に持つもう一本の矢は、翼を狙撃する。
 地面はどんどん近付き、鬼面は暴れた。大地に叩きつけられる頭、潰れる音。瘴気に還り、霧散した。


「俺の後ろに立つな、上にもだ」
 白い狐が空を泳ぐ。長い長いしっぽが、鬼面の翼を捉えた。レイの呪縛符は、頭上の存在を知っている。
 浮世離れした陰陽師の言葉に、聞いた花梨が空を見上げる。レイは、歯の浮くような台詞を言ってしまうとか。
 相棒の青炎も慣れたもので、鬼面をかすめるように飛んだ。レイと言葉を交わさずとも、表情や心で、お互いの考えが通じてしまう。
 羽の自由を奪われた鬼面は、龍の風圧で姿勢を崩す。羽ばたきもままならぬまま、地面に引っ張られるように落ちた。
 それでも、鋭いかぎ爪を開くことを忘れぬのは、アヤカシの本能だろう。地面にいる獲物に向いて、僅かでも近づこうとしている。
 レイの式が絡みついた鬼面に、下から迫る存在がいる。陽淵は斜め上に向かって、方向転換した。
「過去の戦闘経験からだが。鬼面鳥の防御力は低い、特に翼はな」
 蒼羅の呟きを聞いたのだろう。鬼面の背部を狙うように、龍は見事な進路をとる。
「一太刀で倒せれば、理想的だが、そうでなくとも……」
 口数も多くない蒼羅の声を、陽淵は理解していた。「飛行能力を奪い地上に落としてしまえば、それで倒せるだろう」という、続きの心の声までも。
 アヤカシにつかず、離れず。蒼羅の間合いを活かせる距離を保ち、陽淵は追いかける。
「ただ……断ち斬るのみ」
 抜刀術を得意とする、蒼羅。一瞬の虚を突いて、素早く刃を抜き放つ。見極めと、相棒との連携が、全てを可能にした。
 片翼を切り取られた鬼面たちは、無理やり高度を下げざるを得ない。龍の急降下に近い速度で、地面に迫る。
「皆の安全が確保出来て、心配が無くなりましたから、もはや遠慮無用ですね」
 星晶は、大切な者の危機にはどこまでも懸命で、どこまでも物騒。笑ってない笑顔が怖い。
 風を纏って突撃していく、翔星。攻撃を食らっても、ひるみはしない。巧みに避けると、爪で反撃を見せる。
 翔星に自覚はなかったが、星晶と同じように、目が笑っていない。似た者同士の二人、主従で大暴れする。
「あ、落とし損ねましたね」
 丁寧だが、どこか飄々とした星晶の一言。散華で追撃していたが「余計だ」と、翔星の抗議が聞えた。
 苦労人の鷲獅鳥は、鳴き続ける。猫族と呼ばれる黒猫の獣人は、なぜ、こんなときに、世話焼きな面を見せるのだろう。
 翔星にとって、星晶の普段の泰然とした態度は、耐え難い。根性叩き直すべく奮闘していると言うのに。
「手前ぇらだけで、楽しんでんじゃねぇよ……」
 響く咆哮、大地を揺るがす叫び。別に破軍は、難民を助けたい訳ではない。相棒が戻ってこないと困る。
 お荷物の難民を、いつまでも抱えているのも面倒だ。八つ当たりをするべき、アヤカシがいないのは、もっと腹が立つ。
 咆哮につられ、鬼面が来た。かぎ爪を広げての急降下。破軍は鼻で笑い飛ばす。
「利用できるモンは、利用させて貰おうか……」
 剣を肩に担ぎあげた。鬼面の急降下は、衣服をかすめる。それがどうした?
 掴み損ね、地上すれすれから飛びあがろうとする、鬼面の隙。破軍の武器に炎が宿る。
 肩から、一気に振りおろし、首を狩り取る。疾風が駆け付けるも、一足遅いと小突かれた。


「さっさと、アヤカシをなんとかしないと、ならないな……」
 正義感が強く、真面目な氷魔。心には熱い激情を秘めており、そばの迅鷹を気にする。追い、追われる、追跡劇を始めていた。
「氷丸」
 主人に対しては忠実で、呼びかけに答える、龍。目の前で、小さな迅鷹が墜落させられた。敵には容赦しない。
 氷丸は、鬼面の前に飛び出した。紙一重で、かぎ爪を避ける。蹴りとは、こうするのだ。
 強靭な龍の後ろ脚。蹴りと言うより、全体重をかけた気がする。鬼面は、きりもみ状態で落下しながら、霧散して行った。
 アヤカシの被害を、少しでも食い止めることを心に誓う、ウルグ。村が壊滅し、住民がアヤカシと化した様を、とある依頼で目の当たりにした。
 白の中に漂う、犠牲となった者の無念。それを背負い、日々向上に努める。今は、難民たちの、雪芽の無念も、背負っていた。
 ウルグに宿る精霊力は、鬼面の移動方向を見切る。独特の呼吸法で放った弾は、上から襲うとしていた鬼面を蹴散らしていく。
「月雅と花風も、なるべく誰かしらの近くで戦うようにして欲しい」
 無自覚に、お人よしであるのも、ウルグの特徴。言動もお人好し。忠告に従ったのは月雅。開拓者の周りを、距離を保ちながら飛んでいる。
 勘違いしたのは花風で、難民の方へ行ってしまった。確かに、誰かしらの近く。難民と娘が、心配だったのかもしれない。
「森の主の娘がやられた、主は黙っていられないだろう」
 からすの視線の先には、緑野の迅鷹がいる。最も大きな迅鷹が。同胞を盾にし、攻撃から逃れた鬼面。
 逃げる背に向け、月雅は羽ばたく。巻き起こる、風の刃。一匹残らず、生かして返さぬと知るがいい。


●始祖の伝説
 ウルグの持っていた非常食は、難民たちを出迎える。干飯と芋幹縄は、温かなご飯とみそ汁へ。
 音を立てながら沢庵を食べるのは、何日ぶりだろう。からすがいれた、銀狼の森のお茶は、透き通る若草色をしていた。
「一人で天儀で生活してた頃、寂しさを紛らわす為に、よくチェン太のとこに行って、一緒に寝てたんだ!」
 チェンタウロは、リィムナの朋友の中では一番の古株。家族を幸せにしたい一心で開拓者を志し、一人で天儀へ渡ってきたころが懐かしい。
「顔は怖いけど優しい龍だよ♪」
 四人姉妹の次女は、姉が大好きだ。が、龍とどっちが好きか、聞かれると困る。事あるごとに、お尻を叩く姉。
 お風呂はあまり好きじゃないといって、逃げてはつかまり、お尻を叩かれる。隠ぺい工作をしたのに、おねしょの痕跡を見つけられては、お尻を叩かれる。
 ……龍に愛想を尽かされないか、ちと心配である。リィムナは、妹たちと外を駆け回るのが好きだから、気にしないか。
「……雪芽、大丈夫か?」
 花梨に抱えられた雪芽は、ウルグを見上げる。巻かれた包帯が痛々しい。なんとか羽ばたこうとし、痛そうに鳴いて止めた。
 人見知りするはずのシャリアは、何度も雪芽に顔をこすりつける。顔見知りになった迅鷹を、なぐさめていた。
 ウルグが旅立つ際に、故郷の村から贈られた龍。世話になった礼にと、託されたシャリアは、優しい子だった。
 調査団を放っておくわけにもいかず、かといって、難民も捨て置けない。しばし、二手に分かる。
「……待たせた、な」
 静かに、蒼羅は戻ってきた。なぜか、陽淵の口元が動いている。どんな状況でも、落ち着き払っている蒼羅は、理由を語らない。
「お待たせしました」
 口元を隠している星晶のくぐもった声。翔星は、獅子の前足で、器用にくちばしをぬぐっていた。
 去年、自分たちの手で魔の森を焼き払い、植林した緑野。そこには、緑のキュウリがなる、緑の畑があった。
「ほぉ〜……ここが噂の街か……」
 とある地の鬼族の生き残りは、緑野をそう評した。送ってくる道中で、色々と噂を聞いた。
 一番珍しいのは、迅鷹が住んでいることだったが。それに、人間も珍しい。氷魔は、幼い頃、人間が苦手だった。
 原因なんて、分からない。いつ治ったかも、知らない。では普通に人間・種族関係なしに、誰にでも普通に笑顔で接する。
 小さい頃から、鬼のわりに優しい性格の氷魔のことも大きいか。修羅を見たことがある、緑野の人々は、笑顔で出迎えてくれた。
 きちんと、お土産のキュウリを忘れていない。他人になつくことはない氷丸が、たくさん持って帰ってきた。
 普段は冷静な性格なのか、おとなしい。のんきにキュウリを食べる龍。かわいい光景だと思う。



 実に容姿とは不釣り合いな子供がいた。妙に落ち着いた言動で、お茶を飲む。調査団に合流した、からすの第一声。
「虎雀は心配をしすぎだ」
 他の生物を思う心は良い事だと思うから、からすは怒りはしないが。好奇心旺盛で様々な事に興味を示す部分は、今は歓迎できない。
 緑野のスイカに興味を示し、お土産にもらってきてしまう。虎雀は、お茶目なのだ。ちなみに幼なじみであり、ライバルの龍とは、凹凸コンビだとか。
「青炎には飛び回ってもらったからな」
 レイに、スイカが手渡された。相棒を見上げ、「食べるか?」と聞いてみる。青炎の瞳が輝いた。
 口元から、喜びの炎があがる。青炎が吐く炎は青い色。戦闘では炎を使った術を好むレイも、青炎から影響を受けたのかもしれない。
「なんだ?」
 戻ってきた相棒の首元に、黄色い花が一輪飾られている。しきりに見せつける疾風に、破軍はうっとうしそうな表情をした。
 花風が愛する、大輪のヒマワリ。緑野で、最初に咲いた花。疾風は破軍に花を見せても、決して触らせようとはしなかった。


『その日、開拓者たちの龍に乗せられ、新たな移住者が訪れた。先導する父迅鷹、月雅の羽は光を返し、緑野を優しく照らしていたと言う。
迅鷹たちのねぐら、西の地は「照らす太陽の地」、照陽と名づけられた。
また、「照陽」は、新たな移住者が呼びだした事が発端で、月雅の別名としても定着していく』
 ―――当時を伝える緑野の記録には、秀王(しゅうおう)の姿も刻まれている。