【混夢】興朋友一起作戰
マスター名:青空 希実
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/09/03 18:34



■オープニング本文

※このシナリオは【混夢】IFシナリオです。
オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。


●名状しがたき夏の夢
 すぐ隣にあるかも知れない、舵天照にとてもよく似た、平行世界。
 どこかで見たことある風景と、どこかで見たことある人々。なぜか地名も、呼び名も、持ち物も、人物も、舵天照の世界と全く同じ。
 一つだけ違うとすれば、「主を持った朋友たちは全て意思を持ち、擬人化できる技法を持つ」こと。
 開拓者と出会って朋友となった日から、グライダーさえも擬人化して、絵を描ける。
 練力切れで宝珠に引っ込む管狐も、擬人化すれば勝手に動き、お買い物を楽しめる。
 言葉をはなさない鬼火玉も、擬人化すれば自由に人語を操れ、開拓者と歌い踊れる。
 食べることができないアーマーも、擬人化すれば、美食家に変身することもある。
 不自由があるとすれば、翼をもつ者や、空中に浮く人妖などは、空を飛べなくなること。
 でも、開拓者と一緒に過ごす日常は楽しくて、不満は浮かばない。
 これは舵天照に似た、不思議な世界の物語。開拓者と朋友たちの、日常の一幕。


●猫族
 泰国で獣人を猫族(ニャン)と表現するのは約九割が猫か虎の姿に似ているためだ。そうでない獣人についても便宜的に猫族と呼ばれている。
 個人的な好き嫌いは別にして魚を食するのが好き。特に秋刀魚には目がなかった。
 猫族は毎年八月の五日から二十五日にかけての夜月に秋刀魚三匹のお供え物をする。遙か昔からの風習で意味の伝承は途切れてしまったが、月を敬うのは現在でも続いていた。
 夜月に祈りの言葉を投げかけ、地方によっては歌となって語り継がれている。
 今年の八月十日の夕方から十二日の深夜にかけ、朱春の一角『猫の住処』(ニャンノスミカ)において、猫族による大規模な月敬いの儀式が行われる予定になっていた。
 誰がつけたか知らないが儀式の名は『三日月は秋刀魚に似てるよ祭り』。それ以外にも各地で月を敬う儀式は執り行われるようだ。


―――そして、今宵は、猫の住処の祭りの最終日。


●興朋友一起作戰〜朋友と一緒に戦おう〜
 開拓者に限らず、主を得れば使える朋友の擬人化の技法は、年齢も外見も自由自在。たまに開拓者のような、職業を持つ者までいる。
「まちやがれ!」
 ダークエルフの擬人化泰拳士は、怒鳴り声の後、右手を振り上げた。七本の節を持つ多節棍が、月夜に踊る。
 振り返る、黒髪の人間。後ろから棍の先端が襲い来る。蛇のごとくのたうつ武器に、射程を見誤った。
 額を叩かれ、短い悲鳴が上がる。押さえた左手の間から流れるのは、黒。瘴気の黒。
「もう、逃がさないわよ」
 白い虎の娘、司空 亜祈(しくう あき:iz0234)は、頬を膨らませていた。指差す先に、斬撃符が現れる。
 全てを切り裂く式。黒髪の腕を、少しだけかすめた。流れるのは、瘴気の黒。
「てやんでい、観念しろ!」
 鼻息荒いダークエルフ泰拳士は、亜祈の朋友の金(きん)が擬人化した姿。足元の砂を弾き、踏み込む。不意に右方向から、違う気配を感じた。
 屈強な肉体は地を蹴り、宙に舞いあがる。背方向へ逃れた。今までいた足元に、刺さる鋭い爪。
「亜祈殿、後ろだ」
「後ろ?」
 白い虎の陰陽師から、困惑した声が聞えた。宙返りをしながら、泰拳士は舌打ちをする。間に合わない。着地と共に、左の掌に気を集中させた。
「伏せてろ」
 泰拳士から放たれる気。虎耳を抑えてしゃがむ陰陽師の、頭の上を過ぎた。更に後ろ、変化を解いた化け鬼を撃つ。
「金、あの人たちが逃げるわ!」
 前方の二匹の鬼達が、逃走を開始する。黒髪は傷を隠しながら、祭り会場の南の方へ。遠い、もう追えない。
 人魂を放った陰陽師は、逆の方向へ向かう鬼を追った。鋭い爪を持った鬼は変化し、獅子の猫族に。人込みに紛れ、姿をくらます。
「テメェだけは、逃さねえよ」
 陰陽師が追う間、棍を持った泰拳士は、七尺(約2.1m)もある鬼と対峙する。化け鬼。人や亜人に変化する、中級アヤカシ。
 瘴気を体内に集めたか。後ろに退きつつある足元。この鬼は移動力を高め、回避に優れる技法「疾風」を使うと聞いた。
 泰拳士は腕の一振りで、多節棍を一本に戻す。素早く鬼の足元へ走らせた。後ろから足を掬われ、鬼は倒れる。
 棍は鬼の反撃を許さない。攻撃力を増す「活性化」、守りを固める「防護瘴気」。すべて使わせない。
「消えやがれ!」
 泰拳士の渾身の一撃は、鬼の頭を打ち砕く。瘴気に還った鬼は、霧散した。


 猫族の祭りの噂を聞いて、泰国の首都の朱春にやってきた。朋友と祭りを堪能していた矢先、小柄な虎娘に呼び止められる。
 開拓者か聞かれ、そうだと答えた。虎娘に、いきなり服を掴まれる。
「お願い、力を貸してちょうだい! 人に化ける鬼が、お祭りの中に紛れ込んだのよ」
 今日の昼の話。朱春のギルドで、近隣の村を襲う鬼の退治依頼が、緊急で出たと言う。
 退治に出かけた開拓者たちは、油断した。まさか、目の前の村人たちが、鬼とは思わない。
 化け鬼は変化すると、瘴気探索にかからない技法を持つ。鬼退治にきた開拓者たちを、背後から痛めつけると逃走した。
「……開拓者の中に、私の弟と妹も居たの」
 うつむき加減の虎娘。怪我をした弟妹から、早急に真相が伝えられた。祭りの荷物を運ぶ飛行船に、人間の姿をした鬼たちが飛び乗ったと。


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
秋霜夜(ia0979
14歳・女・泰
村雨 紫狼(ia9073
27歳・男・サ
エルディン・バウアー(ib0066
28歳・男・魔
蓮 神音(ib2662
14歳・女・泰
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
稲杜・空狐(ib9736
12歳・女・陰


■リプレイ本文

●赤毛の猫族娘二人
 お姉さんは霞って言うのよ。相棒は、秋霜夜(ia0979)ちゃんなんだけど、今は怒ってるのよねー。
「折角の里帰りついでのお祭り見物……アヤカシなんぞに荒らされてなるものですかっ!」
 ああ、霜夜ちゃんたら、お隣さんを巻きこんじゃった。お姉さん、心配でたまらないわ。もちろん、霜夜ちゃんが一番心配よ。
 お隣さんと、相談がまとまったらしいわね?ふんふん、くれおぱとらちゃんの踊りを、きっかけにするのね。
「……たぶん、人の流れが変わると思うのです」
 あら、お隣さんともども、くれおぱとらちゃんに押し切られたようね。霜夜ちゃん、交渉ごとでの押しが弱い面があるのよ。


 月が綺麗じゃな、妾はくれおぱとらじゃ。妾の相棒、蓮 神音(ib2662)から、パンジャ「ミッドナイトブルー」を奪ったのじゃ!ジプシーの妾に似あう装備であろう♪
「化ける鬼アヤカシかー。厄介な相手だけど早く見つけ出さないとね」
「ほれ、妾の踊りをしっかりみておれ、ちんちくりん」
 猫又の癖にとか、神音は申しておるが、擬人化した妾の方が美しいのは事実じゃ。踊るたびにうねる、漆黒の髪。虜にする、翡翠の瞳。異国情緒の褐色の肌。
「この隙なき、肉体のしまり具合。肌も露な踊り子は、神音には絶対できないじゃろ」
「……ほんと、気位が高い女王様気質なんだから」
 そう言えば、神音は「センセーのおヨメさんになるのが夢」とか、言っておったのう。夢に恋するお子ちゃまに、妾の大人の魅力は伝わらんて。


 ボクはアイリス、マスターは村雨 紫狼(ia9073)だよ。今日は、擬人化を許されたんだ。
「……これでボクも普通の女の子みたいに……マスターと、その、でーとだって」
「なんか言ったか〜? つか仕事だぞー早く終わらせて『ケモミミロリたん、ナンパ大さくせ…ッ』アー!!」
 ボクの右足が、思わず後ろに回し蹴りを放ったのは、不可抗力だよ。そのあと、かかと落としを入れたのは恋……じゃなった、故意だけどね。
「このド犯罪エロマスター!! うわあ〜ん」
 人込みの真ん中で、ボクは泣いちゃった。マスターが頭をさすりながら、なんか言っていたみたいだけど。
「……普段から擬人化してっから、変わり映えねーな。お前」
「マスターがそうやって、ボクら設計したんでしょーが!」
 涙なんて、吹きとんじゃった。もう失礼しちゃう、ボクだって変わっているんだよ!
 耳とか、体重とか。身長は、四尺くらい(138cm)だから、変わらないんだけど。
 マスターたら、ボクのこと「重いから持ち上げられない」とか、ぼやくんだよね。そのたびに蹴りを入れるボクも、大変なんだよ。
「ミニスカ風に改造した巫女服〜、アイリスは巫女キュア☆」
 あれ、マスター、もしかして気が付いてくれたのかな?そっと、マスターを見上げたよ。
「ヘソだしは外せな……イー!?」
 見てくれているんだ、ボクの事♪抱きついたら、マスター変な声出したんだよね。


 私の名は、ケルブ。ジルベリアから来た宣教師、エルディン・バウアー(ib0066)神父様のお供をしているの。
 ほら、白いシスター服を着ているでしょう。暑いから、頭のおおいは外したわよ。
 神父様の褒めてくれる、銀髪が風にさらわれたわ。赤い瞳で、辺りを見渡したの。
 猫族の祭りに興味があって、見学中だったのよ。決して、物見遊山では無いわ。
「アヤカシを退治するのは、私の務めなんだから。べっ、別に神父様に褒められたくて、やってるわけじゃないからね!」
「はいはい、ケルブはいい子ですね」
 神父様、輝く聖職者スマイルをくれたわ。でも、頭をなでるなんて……、私を子供扱いするのは止めて欲しいってお願いしたの。もう、十六才なんだから。
 頬が熱くなったけど、きっと赤面じゃないわ。神父様に背中を向けたのは、悪かったと思うけれど。
 だって、私、自分の頬を自分で、触って確かめたかっただけなの。その……決して、照れ笑いじゃないわ!


 霞よ。片目を閉じて、霜夜ちゃんに返事をしたわ。擬人化すると、わんこのときみたいに、鼻が効かないのが残念ね。
「さあ、霞、出番ですよー」
「霜夜ちゃん、任せてー」
 こんなときは、シノビの耳にお任せ♪わんこは耳も、良いのよ。うさちゃんには、敵わないけど。
「霜夜ちゃん、あいつら怪しいわよー」
 人に変化したとはいえ、実態はアヤカシよね? 細身な女の子なのに、歩く音が重々しかったわ。
 それに、隣の彼氏さんなんて、衣擦れの音が聞こえないの。怪しいわ、怪しすぎるわ!
 不自然過ぎて、思わず、聞き耳たてちゃうわね。ほーら、ボロが出たわね。「あの人間美味しそう」って、もらしたわよ。
 ……あら、くれおぱとらちゃんの事だったのね。鬼さんが単純で、お姉さん、大助かりよ。


 くれおぱおらじゃ。神音が意気込んでおるのう。空回りしなければ、良いのじゃが。
「お祭りは中止させないよ!」
「能書きは要らぬから、妾の為に横笛を吹くのじゃ」
「ぐぬぬ……分かったよ」
 バイラオーラは踊りをより魅惑的、倒錯的なものに変える技法でのう。まさに、妾のためにあるようなものじゃな。
 人々が集まってきたのう。霜夜に霞、ここまで来て、作戦の失敗は許さぬぞ?
「霜夜ちゃん、あいつよー」
 霞が見つけたようじゃ。ふふん、妾無くしてこの作戦は成立せぬゆえ、大いに感謝するのじゃな。
 なんぞ?鬼ごときに、ヴィヌ・イシュタルを使えとは……。今宵の妾は、大盤振る舞いじゃぞ?
「ふふ、どうじゃ、妾といい事しようではないか?」
 仕方ないから、人気のない所に誘ったのじゃが……。面倒じゃな。ほんに、面倒じゃ。
「逃がさないよ!」
 神音が瞬脚を使ったようじゃな。立ち塞がり、真荒鷹陣で威嚇かえ。色気がないのう。
 妾は姿を消して、死角から攻める作戦ぞ。思った通り、逃げ出そうとしておったか。
 大きな隙ができたのう。神音が懐に飛び込み、暗勁掌を叩き込みおったぞ!


 アイリスだよ。見つけてくれた、あの赤毛の猫族娘の二人連れ。ボクの瘴気結界に反応したんだよ!
 弓使いのお姉さんにも、確かめてもらったんだけど……。鬼に間違いないって。
「アイリス、ここは俺に任せろ」
 マスターが、止めたんだ。ボクが迷子のフリして、鬼に近づく作戦。
 巫女のボクは、扇子「舞」を握りしめて祈ったよ。ナンパのチャラ男役で、人ごみから引き離すマスターの無事を。
 マスター、言ったんだ。ボクは真面目で、ちょっと勝ち気な性格にしたって。
 あれ、「口も悪くしたっけ?」って、マスターが悩んでる。どうしたのかな?


 ケルブよ。今は少し退屈だわ。あんまり、身動きが取れないんですもの。
「おや、そこの人、お祭りが面白そうで来たものの、勝手が分からず困っています。よろしければ案内していただけませんか?」
 出たわよ、神父様の聖職者スマイルと、爽やかな聖職者ボイス♪ ……独り占めしたいなんて、私、思っていないわよ!
「すみません、少し人酔いしました。少し休みたいです」
 きたわ。神父様、人ごみから離れた場所に誘い出したのね。私、埋伏りで待ち伏せしていたの。
「待ちくたびれました、神父様〜♪」
 ……って、何よ。あの子。どうして、神父様と腕を組むわけ!? 大好きな神父様を襲う鬼なんて、許さないわよ。
 迷わず、矢を放ったわ。神父様の魔法の蔦が伸びる前に、正体を現しなさい!


●黒髪と豹の恋人たち
 妾の名は、蓮華じゃ。なんぞ、もめごとのようじゃな。妾の弟子、羅喉丸(ia0347)が、小難しい顔をしておるわ。
「化け鬼が人が大勢いる場所で暴れたら、惨事になるぞ!」
「ほう……化け鬼とな」
 妾の酒が、不味くなりそうな話じゃな。手に持つ瓢箪徳利も、はよう倒せと言っておるか。
「特に人が集まる所に、まず行こう。最悪の事態を、避けるためにも」
 羅喉丸は、安請け合いをせぬ男でのう。代わりに一度約束した事は、何としても果たそうとするのはいい所じゃ。
「だから御前はアホなのじゃ! 司空とやら、心当たりはないかのう?」
 とっさに、羅喉丸の掃霞衣の首根っこを、捕まえたのう。妾が聞かねば、どこへ行くつもりじゃったか。ほんに、ドアホじゃ。


 私はサジタリオと、申します。我が女神は、リィムナ・ピサレット(ib5201)。でも今宵は、浴衣ドレス「宵闇」をまとった私の妹です。
「行くよ! サジ太……じゃない、お兄ちゃん♪」
「リィムナ、どれが良いですか?」
 我が女神は、勝気で強気な女神でして。怒られてしまいました。キューピッドボウにハープが重なる様にして、弦を弾いたのですが。
 何が悪かったのでしょうか? 楽器を調律してる様に、見えなかったことでしょうか。
「サジ太は、まじめ過ぎ! 今はあたしと兄妹なんだよ?」
 自然に、兄妹らしく振る舞え、と言うことらしいです。難しいですね。
「お兄ちゃん! 次はあれがいいな〜♪」
 ……我が女神、申し訳ありません。鬼がおりました。買い物は、また今度、楽しみましょう。
「じゃ、お手洗い行ってくるね!」
 ああ、我が女神が怒っておられる。後をつける、黒い髪の青年は、まごううこと無き鬼ですね。撲滅確定です。


 妾の名前は、白狐じゃ。稲杜・空狐(ib9736)の管狐なのじゃが、今日は強制的に召喚されてのぅ。
「クーコは陰陽師の稲杜・空狐なのですよ。こんこん」
「妾は白狐(ハクコ)じゃ。よろしくのぅ」
 擬人化させられた挙句、主様に頭を押さえられながら、挨拶したのぅ。誰に対しても偉そうと思うのは、大きな誤解じゃ。
「人に化けるなんて、こしゃくな鬼さん達なのです」
「なんでわざわざ、そんな面倒なのを相手にせねばならんのかのぅ……」
「依頼解決に『ごー、ごー♪』なのですよ」
 つい、妾は本音を漏らしてしもたわっ。主様から蹴りが来て、それは痛くてのぅ。
 たまたま妾が古風な言葉遣いで、相手を呼び捨てにしておるだけじゃよ。主様には弱くてのぅ。
「……白狐は、その衣装がいいのですよ。こんこん」
 それでも、褒めてくれたのじゃろか? 白い髪に赤い瞳の妖艶な美女とか。立派な巫女だとか言うてくれたわっ。
 狐のしっぽと狐の面が似あう主様が、せっかく、妾の服も褒めてくれたのじゃ。今宵も、頑張るとするかのぅ♪


 サジタリオです。我が女神と共に、ジルベリアから出てくると、すべてが物珍しくて。隣の方と井戸端会議などと言うものを、してしまいました。
「背中の黄金色の立派な翼に、均整のとれた逞しい肉体でしょ。それから、英雄然とした金髪! 美青年だよ♪」
 私の崇拝する女神は、私の身体を良く褒めてくれます。この吟遊詩人のような衣装も、我が女神が選んでくれたのですよ。
「私の体格は、あなたの主と似たようなものでしょうか?」
 隣の方に説明したのですが。ジルベリアの単位で申しますと、私は187cmで87kg。少々、大きいかもしれませんね。
「なるほど、主の年齢は二十二ですか。二十の私より、少し年上のようですね。ちなみにあなたの年齢は?」
「サジ太!」
 我が女神が、急に口をふさぎました。ああ、鬼との戦いに集中するべきなのですね。ところで隣の方は、どうして怒っているのでしょうか?


 ……蓮華じゃ。何故、擬人化した妾の年齢を、尋ねるのじゃ? 心の広い妾でなければ、許されぬ行為ぞ!
 二十六才と教える事は、シャクじゃから、せなんだが。それより、羅喉丸は、素直に妾を頼ったか。褒めておくかのう。
「蓮華、頼む」
「妾に何をして欲しいのかえ?」
「化け鬼が人に化けても、物騒な事を言っていれば、気づけるはずだ。無理はするなよ?」
「羅喉丸よ。誰に対して、言っておるつもりかのう。妾とて、退き際くらい、知っておるわ」
 旗袍「蝶乱」をまとい、神布「武林」を身につけかけた妾には、愚問じゃ。鼻先で笑い飛ばしてやったわ。
「会話の内容から、存在と居場所の特定もできるか?」
「なに、昔取った杵柄という奴じゃ。心配いらぬよ。人妖イヤーは地獄耳じゃ」
 シノビの妾には、簡単なことよ。言うそばから、物騒な会話が聞えてきたのう。……どうやら、あの者たちのようじゃ。


 白狐じゃ。迷子の振りして近づいた主様が、鬼をバカにしておったわっ。
「お母さん、どこ……?」
 泣きマネは抜群じゃな。予め決めておいた、人気の無い場所に誘いこむゆえ。仲間と合流じゃな。
 主様に気づかれんうちに、ごまかしておくかのぅ。妾としたことが、精霊武器を忘れてきそうになって、焦ったわっ。
「瘴索結界……の必要は、なさそうじゃのう」
「おまぬけ、こんこん♪」
 物陰から接近して、瘴索結界で対象を確定するだけ、じゃたんじゃが。本当に、必要なくてのぅ。
 鬼が変化を解きおって、妾は見ておるだけじゃったよ。主様が手を出すなと、命じたからのぅ。
「美人局なのですよ、に〜☆」
「主様よ、一体どこに美人がおるのかのぅ」
 余計な事を言ったかえ? 主様に脛を蹴られて、飛びあがってしもうたよっ。妾の不運を嘆いても、罰は当たらんじゃろうな。


●獅子の親子
 蓮華じゃ。鬼は暗闇に逃げるつもりかえ。浅はかで片腹痛いのう、哀れ過ぎるくらいじゃ。
「多少、頭が回るようじゃな。しかし、妾から逃げられると思うたか?」
 妾の瞳は、夜の中でも、昼間の如く見ゆるぞ。妾の足は、逃げ道を塞ぐくらい簡単ぞ。
「一瞬あれば十分」
 神布「武林」を、羅喉丸に放り投げてやったわ。最初から全力のようじゃのう。瞬時に踏み込みつつ、三連撃を放ちおった。
「酔八拳の妙技を見せてやろう」
 後は、酔八仙拳の達人、妾の出番じゃな♪ 勝利の酒は美味いのう、華麗に鬼を降してやったわ。


 アイリスだよ。マスターって、根は真面目で素直なんだよね。木刀二刀流で、鬼に突っ込んじゃった。
「どんどんアタックしてくぜ、アイリス!」
 わー、マスターかっこいい! にひるに威圧して、鬼を睨んでる♪ にひるって意味、ボク知らないけど。
「アイリスはバトル支援な。んじゃガンバったら、このあとデートしてやるっ!」
「え!? うん、ボク頑張る!!」
 片目を閉じるマスターが、前に教えてくれたんだ。ひたすら、前向きが大事って。ボク、弓のお姉さんと、後ろで頑張るから!


 ケルブよ。さっきまで隠れて、五人張の弓の弦を掻き鳴らしていたのよ。誰か近づいて来るのが、分かったわ。祝福のブーツは、神父様の足音ね。
 大体の方向と距離を探っていたけれど……必要なかったかしら?神父様のムスタシュィルで、侵入者の存在が分かったのよ。
「瘴気をまとっているようですね」
 神父様、さすがだわ。鬼の僅かな痕跡を、みつけだしたのよ。アヤカシに苦しめられている人を助けると、聖職者の使命として誓っているものね。
 あちらはアヤカシであると、決め手に欠けているようね。任せなさい、鏡弦で調べてあげるわよ。
「べ、別に、貴方を助けたわけじゃないんだからねっ! お礼を言われる覚えなんて、無いわ!!」
 私のためよ、私の。別に、手助けするつもりじゃないわ。鬼が分からないと、私が困るもの。
「霜夜殿!」
 あら、いつの間にか、隣が危険にさらされていたわ。神父様の聖なる矢が、鬼を撃ったの。反撃は、任せたわよ。


 霞よ。さっきの戦闘で、茶色の髪が乱れちゃったわ。短髪でも、お姉さんには、大事な髪なのよ?
 それに、服だって、短丈でも悲しいわ。あ、天儀風の袖なし着物だけど、茶系統なのは、髪の色に合わせてあるの。
 霜夜ちゃんが、妖しい人を見つけたようね。勝負の時間だわ。黙苦無を片手に、お姉さん頑張るんだから。
 さっさと、鬼の回避力を低下させたわよ。霜夜ちゃん、泰練気法なんて、良い選択よ。行っちゃえ、行っちゃえ!
「エルディンせんせ、どこにいるのー?」
 ……霜夜ちゃん、仕留めきれなかったのね。慌てているわ。お姉さん、自慢の足で、鬼との間に割り込んだわよ。
「せんせー! お願いしますっ」
 怖かったのね。霜夜ちゃん、エルディンちゃんに叫んだわ。魔法で鬼が弱った今が好機、霜夜ちゃんとお姉さんの連携攻撃を贈ってあげたわ♪


 ハクコじゃ。さて、鬼も追い詰めたし、妾の心穏やかな舞の出番じゃな。神風恩寵を使わんで済むなら、重畳♪
 主様からの指示が無いてのぅ、怪我人が無いのが幸いじゃな。けが人がいれば、積極的に指示するはずじゃから。
「ここなら人はいないわね。だったら……おいで、コスプレ鬼。遊んであげるわ」
 出たのぅ、主様の鬼が。あの冷たい笑みを見ると、妾は背筋が凍りそうになるのじゃ。敵には冷酷非情の方じゃからのぅ。
 あれで、からかっておるつもりじゃから、主様はほんに怖いお方じゃ。式が飛びおった、かまいたちとか言う、斬撃符の一種じゃな。
 おや、呪縛符にかかった鬼が、少し動いたのぅ。後退する主様に、つられておるわ。哀れな鬼よのぅ、その先には罠が待っておると言うに。
「に〜☆」
 主様が笑ったのぅ。地縛霊の発動じゃ、出現した式は狐じゃった。主様と同じように、笑っておったよっ。
 意の一撃に、さしもの鬼も怯んだようじゃ。隙につけ込んだ主様は、連続で斬撃符を放ったのじゃよ。
「こんこん♪」
 主様は、狐の面は表情を隠すのによく使うてのぅ。今宵も、面をかぶって、喜びを表しておったわっ。


 くれおぱとらじゃ。得意満面とな?当たり前じゃぞ、何度も言うが、妾無くして、鬼退治はありえぬからのう。
「うむうむ、すべえて妾のお陰じゃの」
 妾のお踊り、妾の技法。重ねて言うが、妾無くして、鬼退治はありえぬからのう。
「神音、食事の時間じゃ。用意してたもれ」
「屋台のお料理食べさせないよ!」
 なんじゃ、神音の薄っぺらは財布は!?妾の魚が、買えぬではないか!鉄扇「刃」で、小娘の頭をしばこうかと思うたのう
 まったく、まったく。妾に、ただ働きをさせるつもりかえ!?
「しつけは、ちゃんとしとかないとね!」
 ……神音の発言は、腹が立つのぅ。裕福な商家の娘だった母の血は、きっちり受け継いでおるようじゃ。


 サジタリオです。残念ながら、私の心中の悪意を矢じりへ注ぎ込む、心毒翔の技法は出番がありませんでした。
「のんきに鬼がつけて来るなら、しめたものだよ♪」
 無邪気に笑う、我が女神が、鬼を撲滅しました。聖なる矢が雨あられと降り注ぐさまは、圧巻です。
「アヤカシかどうか、確認するだけだったんだって」
 魔法の蔦が、鬼を縛りあげてくれました。さすが、我が女神!我が女神は、戦乙女でござますから。
 隣の方に尋ねると、恨みを込めているように見えたとか。世の中には、おかしな答えをなさる方も居るものです。
「ララド=メ・デリタを頭に撃ち込み瞬殺を狙うのが、必勝法だよ♪」
 最後は、灰色の光球が、鬼を瘴気の灰に変えました。我が女神の怒りを買ったのですから、当然の末路ですね。
「リィムナ、屋台に行きましょう。どれが食べたいですか?」
 私はまだまだ、兄妹ごっこを続けます。我が女神の手を堂々と握って、闊歩できる機会なんて、そうそう巡りませんからね。
「サジ太…じゃない、お兄ちゃん。えーとね、あれ♪」
 お優しい我が女神は、私のわがままに付き合ってくれました。今宵だけは、妹の頭をなでても、良いですよね?