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■オープニング本文 ●緑野 武天は武州。迅鷹に守られた、鎮守の森がある。 神楽の都に程近い、街道から少しだけ朱藩寄りの場所。ケモノも、植物も、虫も、人も、皆等しく、自然の恵みを受ける土地。 東の咲雪(さゆき)は、神楽の都まで貫く街道に、最も近い地域。子供たちが大好きなサクランボ、イチジク、ビワの果樹園。 アヤカシとの戦闘が、一番激しかった南の燈華(とうか)。防風林の松とヒマワリ畑が広がり、人とケモノが共存している。 西の照陽(しょうよう)には、少し勾配が見られる。ミカン、柿、栗が、自然の恵みを与えてくれた。 寒さが厳く勾配のある北の雪那(ゆきな)は、イチョウ、紅葉、ケヤキが生える。ケモノたちの寝床に、なるように。 繁る緑は何人も拒まず、優しく迎え入れた。去る者は、再び来たいと願うと言う。 魔の森の一部だった事を、誰もが忘れた頃。遠い、遠い、未来の姿。 しかし、ギルドにつづられるのは、現在。 開拓者と移住者によって、土地が切り開かれた記録。始祖の迅鷹の家族が、定住するまでの出来事。 ―――芽吹きの物語。 ●シノビ、迅鷹と約束す 「父ちゃん、ただいま!」 「おー? 仁(じん)おかえり。どうした、雪芽(ゆきめ)も一緒なのか?」 神楽の都の開拓者ギルド。依頼から帰ってきたシノビの修羅少年は、養い親に向かって叫んだ。 「お祭りやるってんだ!」 「はっ?」 「おいら、緑野でお祭りやりたいってんだ!」 受付をしているベテランギルド員は、息子を見下ろす。子迅鷹の来訪に、またたき。 「神楽の都から、近い場所だ。今の時期は、ヒマワリ畑が目印になる。 迅鷹の親子が住んでいるんだが、うちの息子と友達でな。息子は、依頼帰りに遊びにいったらしい」 どこから説明したものか。苦笑しつつ、ベテランギルド員は言葉を紡ぐ。 「今は、まだ移住者が少なくて、三家族しか住んでいないんだ。何もない場所だからな。娯楽に飢えているそうだ」 子供たちは全部で四人。修羅少年の来訪は、天地鳴動の大騒ぎだった。 「息子は、約束したんだと。遊び相手をつれてくるっとな。たしかに夏祭りをすれば、人がくるだろうな」 冥越育ちの修羅少年は、夏祭りを知らない。皆が楽しく笑う行事と、教えてきてもらった。 「すまんが、子供たちのために夏祭りをしてやってくれ。夜に外で一緒に食事をして、花火で遊んでくれるだけでいい。 うちの息子たちも連れて行ってくれ、仁と尚武(なおたけ)だ。迅鷹の両親たち……月雅(げつが)と花風(はなかぜ)も、子迅鷹の帰りを待っているだろう」 線香花火セットを、手渡される。祭り自体を知らない迅鷹親子も、喜んでくれるはずだ。 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
杉野 九寿重(ib3226)
16歳・女・志
ウルグ・シュバルツ(ib5700)
29歳・男・砲
フランヴェル・ギーベリ(ib5897)
20歳・女・サ
フィリア・M・ガレット(ib9607)
20歳・女・ジ
久那彦(ib9799)
10歳・男・武 |
■リプレイ本文 ●ヒマワリ畑 「かつて、武州の戦いで戦った場所に、共に戦った頑鉄と、共に赴く……か」 目の前にあったはずの魔の森。切り開かれて、人が暮らすさま。羅喉丸(ia0347)の深緑色の泰拳袍「玄武礁」は、嬉しげにはためく。 「流石に仁達だけですと、賑やかに欠ける面も有りますから」 暑気避けの納涼と、娯楽を兼ねた夏祭りを開催する。杉野 九寿重(ib3226)にとっても、この依頼は嬉しかった。 「やったねっ♪」 くるくると、雪芽と空中追いかけっこをする人妖。朱雀は、腰に手を当てる。 九寿重は、物欲しそうな視線に根負けした。なるべく朱雀と視線を合わさないようにしていたけれど、同じ屋根の下では無理だった。 「下僕足るワンコが、主のアタシの意を汲み取って、連れ出したんだよっ」 実家の道場が調達して、贈ってきてくれた人妖。九寿重が主たらんとするはずだが、朱雀とどっちが主か分からない。 目の下のクマと戦う九寿重。毎晩、犬しっぽをもふもふされて、寝不足になるのは、勘弁して欲しい。取るべき道は限られていたと言える。 「仁も迅鷹達も、元気そうだな」 目を細めたウルグ・シュバルツ(ib5700)は、駿龍のシャリアと並び立つ。金の目にすらりとした藍の体躯は、ウルグにべったり。人見知りのきらいがあった。 「友となる者ができれば、また楽しみも増えるぞ?」 穏やかな笑みを浮かべる、ウルグ。相変わらず、寄せてくる頭をなでてやる。シャリアは初対面の相手を前にして、陰に隠れることも少なくない。 「こんにちは! ボクはフランヴェル・ギーベリ。今日は思い切り遊んじゃおうね!」 子供たちに、フランヴェル・ギーベリ(ib5897)は笑いかける。幼い少女が大好きだが、元気な幼い少年も好きだ。 人間の子供と遊ぶのが好きな甲龍、LOの影響だろうか。それとも、フランヴェルにLOが影響を受けたのか。 「作物や、植林した苗木を踏まない様に注意だね」 神楽の都育ちの尚武は、畑に馴染みが薄い。フランヴェルは大げさな動作を交えながら、歩き方を説明してやる。 「子どもと遊べる上に、新しい土地に来れるなんて楽しみでしょうがなかったよ」 甲龍のパンドールは、送り届けに来た。同じ蒼い瞳のフィリア・M・ガレット(ib9607)の楽しげな声と一緒に、地面に降り立つ。 「昨日は、なかなか寝付けなくってね。ふふっ、子供みたいな話でしょう?」 他の龍と比べるとやや小柄だが、フィリアもパンドールも気にしない。小柄の方が乗りやすいから、大満足とか。 「今日は、私が遊んでもらう日なのかもしれないね」 フィリアは、くすりと笑った。パンドールの首をなでると、「また迎えに来て」と見送る。ゆったりと空の散歩をしながら、甲龍は神楽の都に帰っていった。 「夏祭りですか。折角の機会ですから、楽しみたいですね」 迅鷹は、深い森の中に暮らす不思議なケモノ。非常に獰猛と聞くが、緑野では、違和感無く、人の肩に止まる。 久那彦(ib9799)の朋友も迅鷹だが、久那彦が寺にいる頃から一緒に育った存在。物怖じせず、人の輪に突っ込んでいく。 あまり夏祭りなどに行ったことがない。豊かな自然を満喫できれば、嬉しい。むしろ、あまり遊ばず育ったこともあり、今回を楽しみにしてきた。 「カガミも、のびのび飛ばせてあげられるかと思い、連れてきたのですが。親子とうまくやれるでしょうか?」 カガミと雪芽の共通点、まだ若いこと。でも、性格は反対。引っ込み思案の雪芽を、人懐っこく追う、カガミ。甘えたがりの末っ子気質を、発揮していた。 月雅と花風の案内で、ヒマワリ畑を見て回る。周りの水路を作ったウルグとフランヴェルにとっては、もう自分の庭にも等しい場所。 「ラゴウマル、コズエ、ほら見て。空がとっても綺麗!」 青い空に映える、黄色い大輪。童心に戻ったフィリアの声は、はしゃぎ続ける。パンドールも、空の散歩を楽しんでいる頃か。 「頑鉄と遊ぶか? おとなしくしているのが条件だぞ」 興味津々で、見上げる仁を羅喉丸は抱えあげる。怪我をするとまずいので、一緒に乗りながら。 白き羽毛の宝珠は、墜落の際に精霊力で守ってくれる宝珠。お守り代わりの宝珠も、つけてやった。 「編隊を組んで飛ぶのもいいかもね」 「アタシも行くんだよっ」 羅喉丸との遊覧飛行を行う子供たちに、フランヴェルは望遠鏡を貸しだした。フランヴェルの言葉を聞いて、朱雀がLOの背中に乗り込む。 「朱雀、降りてくるですね!」 慌てた九寿重に、フランヴェルとLOは構わないと返事をした。 「誘ってくれている、行ってくるか?」 雪芽がウルグの周りを旋回した。真名の名付け親を、覚えている。一緒に遊ぼうと、懸命に鳴いた。 「……賑やかに遊んでいる中に溶け込むには、まだ時間が掛かるかも知れないが」 無理をさせない程度に、交流の機会を持たせてやりたいとウルグは考えている。シャリアは、少しだけ羽ばたいてみた。 「皆さんに迷惑をかけないようにして下さいね、カガミ」 苦笑する久那彦は、キュウリとスイカを手にしていた。水辺に持っていき、冷やすのだ。 迅鷹親子につられ、カガミも飛び立った。シャリアも、ウルグに促されて、ゆったりと空へ舞い上がる。 「どうだい、いい眺めだろう?」 フランヴェルの問いかけに、朱雀は大きく頷く。一年前まで、魔の森だった痕跡は、どこにもない。大空からは、武州の一帯が見えた。 「魔の森が伐採され、新しい土地が切り開かれた事により、焼け出された人々が定住したのですね」 犬耳がピンと天を示した。段々と豊かになってきたと、九寿重が聞き及んでいる土地。「緑野」と名づけられた、魔の森の跡地。 「ヒマワリ畑、気に入って貰えると良いのだが」 『くるる……♪』 ウルグは、シャリアの鳥が喉を鳴らすように鳴く声を聞いた。人と、迅鷹と、龍と、人妖が同席する空。 「実際に人とケモノの共存する地として歩み始めている姿を、目にすることができるとは……幸運なことだ」 銀の瞳を閉じると、感慨深げに呟く。アヤカシの被害を、少しでも食い止めることを、心に誓う身として。芽吹く地の礎を、築いた者として。 ●水辺にて 「ちゃっちゃっと遊ぶんだよっ」 足元に注意していたが、常に浮かぶ身としては、あんまり実感がない。朱雀は緩い流れを見つけ出し、子供たちを誘導する。 「水掛け合いで、交流深めるんだよっ」 やったりやられたりの繰り返しで、楽しくなれば良い。朱雀には、喧嘩を吹っかけてる自覚は無かった。 「フィリアでも、メイちゃんでも、おねーちゃんでも好きなように呼んで」 「めーたん♪」 フィリアは身をかがめて、尚武と視線を合わせる。舌足らずな幼子は、上手く発音できない。メイ姉ちゃんと呼んでいた。 「夏祭りの定番と言ったら、やっぱり踊り。小さい子がいるから、あんまり難しいのはやめて、簡単なのをやりましょう」 オーロラのヴェールを揺らし、尚武の頭をなでる。フィリアとは「愛」の意味、やりとりにほほ笑みを浮かべていた。 こそこそと、踊りの輪の方に、逃げ出す九寿重。水辺から一足先に離脱した。 「あら、一緒に遊ばないの?」 「ストレス発散暴風圏から、逃げ出したとも言いますね」 不思議そうなフィリアに問われ、犬耳を倒す。物怖じせず、人懐っこい五人姉妹弟の筆頭だが、限界がある。 朱雀は強気で、明朗活発さが前面に出ている人妖。九寿重は我侭であるよりも、他人の面倒を見る方を優先するから、気苦労が絶えない。 小さな水の流れに、足をつけた久那彦。幼子扱いされるのは好まず、体格の小ささを技量で補うべく努力を重ねる。 年下に頼られるのは、悪くない。おっかなびっくり、水に手を伸ばす都会っ子、尚武の手を引いてやる。 水辺に降ろす途中で、仁の体当たりを食らった。派手に上がる、三つの水しぶき。 「迅鷹たちに水をかけられたから、捕まえようとしたんですね。飛びついたけれど、失敗したと」 地団太踏んで、悔しがる仁。ずぶぬれのまま尋ねる久那彦は、冷静だ。小柄な上に、童顔で勘違いされることが多いが、実年齢は十四歳。。 「……負けるつもりはありませんよ。小童と思って侮る勿れ――です」 ミソサザイの羽は淡々と振る舞うが、中身は素直で感情的。風の精霊力が宿っている空大輪を握りしめ、空を見上げる。迅鷹のカガミと雪芽が、愉快そうに誘っていた。 太く短い脚に、どっしりとした体は安定性がある。小さく眠たげな眼が印象的な、LO。 だが、戦においては、雄々しく戦う存在だ。水かけ合戦に負ける訳にはいかない。断じて。 「今だ!」 水着を着たフランヴェルと共に、奇襲作戦。LOは鼻から水を吸い、空に吹きあげる。敵味方関係なく、水を浴びせかけた。 「連日この暑さだ。シャリアも涼んでくるといい」 防風防砂ゴーグルが、こんな形で役立つとは。巻き込まれ体質のウルグが、小さなため息をついた。 子供達や迅鷹同様に楽しませてやる為、シャリアを同伴したが。かけられる水を怖がり、ウルグを盾に隠れていた。 「まぁ、いいじゃないか」 義侠心に厚く、義理堅い羅喉丸は、苦笑を浮かべる。岩や鉄でできているように見える、頑強な甲龍の体躯を、遠巻きに眺めた。 頑固な頑鉄を、勝気な朱雀と組ませた事が、不味かったかもしれない。迅鷹たちを追い掛け、子供たちは朋友たちを巻き込んだ。 派手な捕物は、水路で行われている。ウルグも、羅喉丸も、全身水浸し。目の前を走って行った久那彦たちと、良い勝負。 ●始祖の伝説 夕方になり、太陽を背にして立つ。はりきって水を吸い込むLOに、フランヴェルは声援を飛ばした。 「上手くいけば、虹がかかるはずだ♪」 虹村から運ばれた、ヒマワリの種。花を咲かせた花畑の前で、シャリアと迅鷹一家が期待の声をあげる。 夕闇の中に、七色の橋が浮かんだ。喜んだ朱雀は、手を叩く。頑鉄とカガミは、瞬きを繰り返した。 余談だが。この場に居なかったパンドールの為に、後日、再び水しぶきが舞ったとか。 「天儀の祭りの主流らしい屋台は難しいかも知れないが、代わりに野外調理を行うというのはどうだろうか」 ジルベリアの地方出身のウルグ、天儀の調理法には詳しくない。代わりに住人達と協力して、準備そのものを楽しみたがった。 「薪は、こういう風に組むんだ」 もの珍しげな子供たちに、羅喉丸は野外の火起こしを見せてやる。仁が真似して挑戦、無事に火が付いた。 嬉しそうな頭を、なでて褒めてやる。砂の国で、仁や尚武たち子供を救ってくれた、大きな手だ。 羅喉丸は、子供のころに村がアヤカシの襲撃を受け、開拓者によって助けられた経験がある。その時に自分を助けてくれた泰拳士に、少しは近づいたはず。 「ヘタはきちんと取るですね。アク抜きに、水にさらすのも大事だと思います」 九寿重は、茂る葉っぱが見事な、夏の野菜畑へ。土の指輪をはめた手で、畑でナスビを収穫してきた。 母親より嗜みとして礼儀作法・家事一揃えを会得済み。慣れた手つきで、ナスビを薄く切って行く。 「茄子のソテーだよ」 ジルべリアの地方貴族出身ながら、フランヴェルは調理ができる。兄の死後、争いが起きるのを嫌い、相続権を放棄してから浮き草のような生活を送ったためか。 ジルベリアの鍋、フライパンの中にオリーブ油を垂らした。とれたてのナスビに、火を加えて行く。 「味付けは塩胡椒、醤油少々だね♪」 「醤油か」 天儀風の味付けにするあたり、ウルグは感心したものだ。仏頂面な上に口下手なため誤解を受けやすいが、感心していたのだ。 「お父さんたちに、覚えた踊りを見せましょうね。観覧者は手拍子を!」 フィリアの先導で、くるくるまわる子供たち。LOもくるくる、朱雀もくるくる。 頑鉄や、シャリアも、子供たちにせがまれて、くるくる。月雅と花風、雪芽とカガミは輪の周りを旋回。 「子供だけなんて、ケチな事言わないで? だって、私も楽しみたいもの!」 乱入する、フィリア。黒い髪を揺らし、見事な足さばき。両足義足だと言われて、誰が信じるだろう。 同じようなハンデを持った人の希望の為、今日も踊る。今日も笑顔を振りまく。皆で輪になって、踊った♪ 「夕飯も美味しいし、みんないい人で『最高の一つの家族』だね」 十歳の時にアヤカシに襲われたフィリアは、救ってくれた両親を心から尊敬している。どんな困難にも、家族愛は、壊されはしない。 「そうだ。線香花火、誰が一番長い時間できるか、競争しようか?」 「フィリアさん!?」 寺での生活は、久那彦に別の特徴も与えた。フィリアから線香花火を渡されただけなのに、久那彦は贈り物だと焦る。 女性との接触は不慣れ、びっくりして頬が赤くなった。目をそらしながら、こげ茶色の翼は水辺に移動する。少し頭を冷やしたい。 「……小さいながらも、身の丈以上の華を咲かせる線香花火、見事なものだ」 ウルグは、羅喉丸が持つ花火を、じっくり見つめる。楽しむ機会は、数えるほどしかなかったから。 「異国の魔槍砲を独自に改良してみせる腕といい、天儀の技術力は素晴らしいな」 「そうか? 褒められると、嬉しくなるな」 ウルグが持ってきて、皆のおなかに収まった直火焼裂きイカも、天儀産だったらしい。天儀の片田舎出身の羅喉丸は、素直に喜ぶ。 「朱雀、今日は尚武の勝ちですね」 朱雀の線香花火が落ち、尚武が不思議そうになる。九寿重はよそ見をしている尚武が、火傷をしないように気をつけていた。 「今日はワンコの顔を立てただけだよっ。アタシだって、普段は負けないんだよっ!」 腕組みして、サイドテールの髪を揺らす朱雀。負け惜しみ、どう見ても負け惜しみ。 水辺の久那彦は、空においでをした。伸ばした腕の上で、カガミは羽を休める。 満天の星空の下での花火、地上の星と天空の星。頬にすりよるカガミに、話しかける。 「……一番まばゆいのは、人の笑顔かも知れません」 幼い頃にアヤカシによって親を亡くした、ミソサザイの子供。武僧に救われ、我が子のように育てられた。 「ここは、よいところですね」 久那彦は世間を知るようにと促された、旅立ち日の事を、忘れていない。自分を見守ってくれた僧侶と、今、同じ道を歩んでいると確信できる。 『その日、初めての夏祭りが行われた。小さいながらも、立派な線香花火が、夏の夜を彩る。 花風はヒマワリ畑の中で、夏祭りを嬉しそうに眺めていた。南の地は、太陽の光を宿す華の地との意味を込め、燈華と名づけられる』 ―――当時を伝える緑野の記録には、連花妃(れんかひ)の姿も刻まれている。 |