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■オープニング本文 今日も元気に野良仕事。初老の男は畑を耕す手を止めると、クワを杖代わりにして腰を伸ばす。 お天道様はポカポカと暖かく、辺りは春の陽気に包まれていた。この様子なら、作物も芽吹くのが早いだろう。目を細めて、実りの季節を思い描く。 「鬼だ、鬼が出たぞ!」 陽気を切り裂く悲鳴がした。 兜をかぶった赤小鬼が、にやりと笑ったように見えた。合図のように刀を振り下ろすと、数匹の小鬼がその脇を抜けてくる。 小鬼が鈍い風切り音を立てて棍棒を横になぐ。村の入口の立て札が、根元からへし折られた。 「皆、逃げろ!早く!」 「逃げるって、どこへ!?」 武器を構えた小鬼が迫ってくる、恐怖。 怒声が飛び交い、子供の泣き声が響く。親は泣く子を抱えると、安全な場所を求めて村の奥へ逃げて行く。 のどかな村は混乱に包まれた。 「じいさん、逃げろ、鬼だ!」 「鬼とな?いったい‥‥」 「とにかく逃げろ、たくさん居るんだ。村の入口から来やがった」 「わ、分かった」 元気な若集が、村中に危機を知らせていた。鬼の台詞に初老の男はギョッとする。 アヤカシが理穴の西の、こんな田舎に現れるとは思わなかった。東の大アヤカシの一部が倒されたと、風の噂では聞いていたが‥‥。 せかされクワを畑の脇に置くと、若集に向き直った。 「どこへ行けば良いんじゃ?」 「北の入口はもう駄目だ、とにかく奥へ!」 「池へ逃げるのか!?わしは泳げんぞ!」 「逃げないとやられるんだ!泳ぐ云々は後回しだ」 「仕方ないのう‥‥」 初老の男は急いで村の奥へ、南に足をむける。北の入口に陣取る小鬼から逃げる為に。 村の一番奥にはため池が広がる。池のはたで子供が泣いていた。 母親が必死でなだめるが、泣きやまない。泣く子供達の隣で、難しい顔の大人たちが言い合っていた。 「村長、どうなってるんじゃ」 「おお、お前さんか。北の入口から小鬼の集団がやってきているようじゃな」 「村長、東の入口からも数匹きていたぞ。西の山の方は無事なようだが」 「西か、あの急な山道はわしには登れんのう‥‥」 「わしじゃて、同じじゃ」 「喜兵衛と太助を西の山から、助けを求めに走らせた」 「うーむ、二人が間に合えば良いが」 所々に岩壁が見える、険しい西の山を仰ぐ。小鬼の姿はまだ池の淵からは見えないが、ここに来るのも時間の問題だろう。 元気な若集は、背後の池を泳いで逃げることもできるかもしれない。子供はもちろん、村長を含めた長老集には無理な相談だ。 助けを求めに行った二人が、無事に誰かを連れてきてくれることを願うしかない。 「村を、村を助けてくれ!」 「池に追い詰められているんだ!」 喜兵衛の着物は擦り切れ、体中血まみれ。太助はもっとひどく、片腕が折れてる。 自分達の事はどうでもいい。村人を、皆を助けて欲しい。 決死の叫びがギルドに届けられた。 |
■参加者一覧
雪ノ下・悪食丸(ia0074)
16歳・男・サ
只木 岑(ia6834)
19歳・男・弓
エグム・マキナ(ia9693)
27歳・男・弓
宿奈 芳純(ia9695)
25歳・男・陰
浄巌(ib4173)
29歳・男・吟
藤堂 千春(ib5577)
17歳・女・砲
フランヴェル・ギーベリ(ib5897)
20歳・女・サ
マハ シャンク(ib6351)
10歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ● 「村人達が逃げたのは‥‥池だと? 何故、逃げ道のないほうへ逃げるのだ!」 怒鳴るマハ シャンク(ib6351)の竜しっぽが、地面を打ちすえた。びっくりした藤堂 千春(ib5577)は、肩をすくめる。 「お二人の怪我を見ると、山は難しいかもしれませんね」 「ふん、人間は貧弱だ」 エグム・マキナ(ia9693)は、ゆっくり説教じみた台詞。不快そうに竜翼が動いた。 「理穴、なんですね!?」 「悲しや、悲しや、未だアヤカシ消えぬ世よ」 喜兵衛から詳しい話を聞いていた只木 岑(ia6834)は、ぐっと唇をかむ。理穴は岑の生まれ故郷だ。 深編笠を少しだけ持ち上げ、浄巌(ib4173)は歌うように呟いた。東の魔の森の影響は、西の辺境にまで暗い影を落としている。 「一刻も早く、村人を救わなきゃ! 扶風!」 「主は北の入口だな。行くぞ、ピー!」 「こらっ、待ちたまえ!」 里の人たちが安心して暮らせるようにしたい。故郷の危機に、話の半ばで岑は龍を呼びつける。 血気はやるシャンクも、伝書龍の疾風の手綱を握った。 フランヴェル・ギーベリ(ib5897)が慌てて声をかけるも、時すでに遅し。龍達は飛び立ってしまった。 「行ってしまいました、どうしましょう‥‥」 「やれやれ、しょうがないやつらだ」 困惑した表情で、千春はおろおろする。あきれ交じりのため息を吐き、雪ノ下・悪食丸(ia0074)は頭をかいた。 「平原で敵を討ち、池で村人を守る必要があるでしょうね」 腕の折れた太助に、治癒符をかけていた宿奈 芳純(ia9695)が口を挟んだ。 「ボクは平原降下部隊として行動するよ。咆哮で鬼どもを引き付けよう」 「あ、あの、私は池に行きます!建物や田畑がまだ残っていますので、村の中での白兵戦・乱戦は禁物ですから」 フランヴェルが提案すると、千春は思い切って考えを述べる。農家の長女として育った千春は、田畑が荒れる悲しさを知っていた。 「私も池の方が良いでしょう」 「前衛も必要だろう?」 エグムは背の五人張を、悪食丸は腰の珠刀「阿見」を見せる。弓術師とサムライも力を貸すと。 「我、居り立つは、入り口側の平原也。早々移動を開始せむ」 池側の人数は十分と判断したのだろう。一刻を争う事態だ、浄巌は移動を促した。 「お二人を治療したら、後を追います」 依頼人達をこのままにしては行けない。治療に専念する芳純は、背中越しに告げた。 ● 扶風の背の岑は、険しい顔で小鬼の群れを睨む。上空で旋回し、弓を構えた。 「そっちへは行かせない!」 屋根をかすめるように高度を下げ、池に一番近い小鬼めがけて射る。一匹を貫いた。 そのまま道沿いに龍を駆る。威嚇射撃を続けながら、近い東の入口に向かった。怒れる唸り声をあげ、数匹の小鬼がついてくる。 北の入口周辺では、龍から降りたったシャンクの霊拳「月吼」が吼えた。 姿勢を低くし、右足で踏み込む。疾風脚は、棍棒を持つ小鬼を吹き飛ばした。 次いで左手を地面につけ、左足で後ろの小鬼に足払いをかける。刃こぼれした刀が狙っていた。 「ハッ!雑魚が」 不敵に笑い、竜しっぽが大きく波打った。 シャンクの上を巨大な影が通り過ぎる。三つの影が奥に向かい、一つの影は村の中ほどで引き返してきた。 「――過日の動乱に誘われましたか‥‥ならば『未だ平和なり』と教えて差し上げねばなりませんね」 マキナ・ギアの背中から村の様子を確かめながら、エグムは零す。 「あ、村人を食べてはいけませんよ」 池の淵へ降りようとして、思い出した。一度は主を食べかけた龍だ、諭しておかなければ。 不服そうな声を上げながら、ドラゴンレッグウォーマーを着けた龍の足が大地を踏みしめる。 「はい、上に行ってください」 池の淵には村人が集まっている、龍は一体づつしか降りられない。次に千春の龍が降りたつ。 「ごめんね、細雪‥‥。少しの間我慢して‥‥」 悲しそうに鳴く龍を撫で、千春は指示を出した。白い風切の羽根飾をなびかせながら、龍は池の上空に舞い上がる。 「富嶽は、そのまま村人の盾になっているんだ」 最後の悪食丸は龍に命じた。立派な龍鎧を着けた甲龍が陣取る。 「私たちが来たからには、安心して下さい。草原の方にも仲間がいます」 「小鬼の群れは、俺達に任せな。やらせはしねえぜっ!!」 エグムは柔和な笑みを浮かべて、状況を告げた。力瘤を作り、悪食丸は啖呵を切る。 「喜兵衛と太助は無事ですかな?」 「あの、お二人は怪我をしていました。でも治療しているので、安心してください」 村長は、助けを求めに走った二人の安否を気にする。警戒していた千春は振り返り、にっこりとほほ笑んだ。‥‥つもりだった。 子供がいきなり大声を上げて泣き出した。目元近くまで顔を覆っている千春が、怖かったらしい。 「もう大丈夫、ねっ」 指差され、慌てて首もとまでアサシンマスクを下げる。千春は弟をあやすように笑いかけた。 怖い顔の下から優しい顔が現れ、子供はきょとんとする。 「えっと、大きな音がするから、しばらく耳をふさいでくれるかな?」 銃の説明をしても、子供には通じにくい。千春は耳をふさぐ動作をしてみせる。 涙を拭いた子供は、頷くと千春と同じ様にした。千春は村人たちにも同じように促す。 「早く、隠れるんだ」 悪食丸に誘導され、村人は龍の影に隠れ始める。 開拓者と龍に守られている。このことは村人達に大きな安心をもたらせた。 村の中ほどで引き返したフランヴェルは、小鬼の群れの前に躍り出る。LOの背中から両手を広げてご挨拶。木々が咆哮で揺れた。 「小鬼の皆さん、こんにちはー! 今日は皆を舞踏会に招待するよ! さあ、しっかりついてきてくれたまえ!」 低空飛行のまま、広い道沿いに移動。巧みに龍を操り、北の入口に退き帰す。 建物を避けながら曲がって行くと、戦うシャンクが見えてきた。そのまま通り過ぎ、平原に。 「待て、どこへ行く!‥‥チッ」 咆哮につられた中に、兜を被った赤小鬼が居た。シャンクに見向きもせず、平原へ行ってしまう。 狙っていたシャンクは舌打ちすると、仕方なく平原へ駆けだした。 「全てを闇に還す為、しばし待たれ百蓮よ」 平原で待ち構える浄巌は、威嚇する龍を制した。 「今宵ここに神は来ず、汝の身を裂く刃が来たる」 浄巌の足元に瘴気が渦巻く。白い骨が散らばり、体を組み上げた。 「アヤカシ!?」 村から飛んできたフランヴェルは驚く。浄巌の前にいる武装した白骨兵。敵は小鬼だけでは無かったのか。 一瞬悩み、低空飛行を続ける龍から飛び降りた。討たなくては。 殲刀「朱天」を最上段に構え、着地と同時に示現の姿勢。踏み込むはずだった足は、たたらを踏んだ。 白骨兵が村へ向いて動く。急いで振り返れば、小鬼に白骨兵が斬りかかる所だった。 「我の斬撃符、逃れはできぬ。人は光へ、妖は闇へ。境に引き立て、全てを還せ」 浄巌は、さらなる白骨兵を作り上げた。踊る足取りで白骨兵は小鬼の群れを切り裂く。 「ふーん、あれが式なんだ。‥‥面白いね」 フランヴェルは少し考えて、くすりと笑う。今回が初めての依頼、見るものすべてが新鮮だった。 「さあ踊ろう、死のロンドを!」 なんでも都合よくとらえる性格は、臆することを知らない。小鬼を舞踏会へ誘う。 答えるように、白骨兵がケタケタと歯を鳴らした。 越影にまたがった芳純は、岑の姿を見つけた。小鬼の群れと対峙し、左手で弓を振りまわしている。右肩は赤く染まっていた。 「一度、退いて下さい!」 芳純は叫ぶ。地面から生える白い壁は、小鬼と岑の間を別った。 「ボクは大丈夫です。それより早く小鬼を一掃しないと!」 振り返る岑の声は冷静さを欠く。のんびり屋は影を潜めていた。 「分かっています。今から攻撃をしますから、巻き込まれないように下がってください」 陰陽の指輪をはめた指先が、はるか後方を示した。焦る岑に念押しして、芳純は漆黒の鞍から降りる。 肩を押さえた岑と相棒の霊騎が、無事な距離まで逃げたことを確認。静かに悲恋姫を解き放った。 「嘆きの姫を開放す。侵せ」 おどろおどろしい怒声とも、悲鳴ともつかない音が小鬼達を包む。耳をつんざく、嘆きの嵐。 「内側まで来ていますか‥‥状況次第では、こちらからうって出なくてはいけませんね」 「えっと、銃を使います」 弦を鳴らしていたエグムは、真剣な瞳で危険を知らせる。示す方向を千春は撃つ。 小鬼の隙を付き、一発が命中。断末魔と思わしき音が聞こえた。 「まずは一匹、です…!」 「あと六匹来ます」 言いながらエグムも射る。素早くもう一本。腹を押さえ、小鬼は膝まづいた。 誘導を急いでいた悪食丸は、銃の轟音に村を見た。 「お嬢さん、さあ早く隠れて。大丈夫」 おびえる娘の肩にさりげなく手を置き、安心させるように笑う。女好きの血筋が、そうさせたのだろう。 娘が龍の影に隠れるのを見届け、刀を抜く。走りながら体の違和感を感じた。 「‥‥不覚、蜻蛉の活性化を忘れたか」 神経を研ぎ澄まし、鬼の動きを読む。二人の脇を抜け、一気に小鬼との距離を詰めた。 「チェストォッ!!」 胴に一太刀浴びせた、確かな手ごたえ。結果を見届けず、もう一薙ぎ。ニ匹の小鬼が地面にめり込んだ。 「あ、焦らずに。確実に‥‥!」 狙うは一撃必倒。千春は、少し離れた所の小鬼を撃つ。力を失った小鬼の手から槍が離れた。 「残るはニ匹です」 劣勢と見たか、小鬼は退く素振りを見せた。隙を見逃しはしない、間髪いれずエグムが一匹を討ち取る。 「気合入れるぜ!」 悪食丸の刀が鋭さを増し、勢いのまま斜め上から切り下げる。袈裟斬りの傷を作り、最後の小鬼も倒された。 「加勢に行ってくる!」 村の中央に向かう悪食丸の背中。刀を振りながら、そんな言葉を残していった。 「これで近くにはいませんね‥‥ふむ」 「良かったです‥‥」 弓の弦を掻き鳴らし、安全を確認するエグム。千春も、ほっとした表情を作った。 龍の影にいる村人を、千春は覗き込む。耳を覆う手を外す仕草をして見せた。 「良く耐えて下さりました。心からお礼を申し上げます」 穏やかな笑みを浮かべ、エグムは村人に戦いの終焉を告げた。 「状況は、どうなっていますか?」 嘆きの姫は去った。見晴らしの良い平原が広がるのみ。 「三匹、逃げられました‥‥池へ加勢にいきます!」 右肩の治療の終わった岑は、やや冷静さを取り戻していた。逃げられたことを、悔しそうに告げる。 「私も向かいましょう。一人より、二人です!」 心配する芳純の心を感じ、岑は深く頭を下げる。弓を握りしめ、一目散に村を目指した。 「‥‥彼岸花の花言葉には、情熱もありましたね」 芳純は華妖弓に描かれた花を思い出す。呟くと後を追った。 ● 「私が主をやる、手伝え!」 「はいはい、わがまま女王様」 幼い少女が大好きなフランヴェルは、大げさにかしこまる。シャンクの言動が、可愛くて仕方がない。実年齢を知ったら、反応は違ったかもしれないが。 「チッ‥‥風情も何も分からぬ下郎」 シャンクは最後の小鬼を蹴り飛ばす。ついでに白骨兵を巻き込んだ。気分を害したのか、浄巌は珍しく舌打ちを。 「おぬしが主か?馬鹿な事をしたな、名もないアヤカシめ。ここでおぬしの命は潰える、潰すのはこの私だ!」 「むなしや、むなしや。鬼が出ようと、竜が出ようと、戦に変わりゃせぬか」 兜を被る赤小鬼を指差すシャンク、周りはお構いなし。空虚を訴える浄巌の表情はうかがえぬ。 「暫し我の曲を聞いていけ。宣誓は響き、軍旗よ再び翻れ。汝誇りを抱いて進め、そは意味なきものなれど」 諦めたのかもしれない。浄巌は騎士の魂を紡いだ。そして小枝の笛を奏でる。 「舞踏会も、そろそろ終わりにしよう!」 フランヴェルは咆哮を上げた、赤小鬼の注意がそれる。乗じてシャンクは右側に躍り出た。 気付いた赤小鬼の刀が、シャンクを襲う。素早く交わすと、右腕を掴んだ。 よそ見をしていた赤小鬼の兜を、フランヴェルが弾き飛ばす。むき出しの後頭部に、シャンクの拳が叩きつけられた。 「‥‥南無三」 浄巌の声が平原に響いた。 子鬼が三匹出てきた。 「そこに居たか」 悪食丸は近い一匹に切りかかった、刀と刀がぶつかる。この小鬼、なかなかやる。 後ろから二本の棍棒が迫る気配。避けられない。つばぜり合いを続ける悪食丸に、冷や汗が流れる。 突然、ニ匹の動きが止まった。棍棒を取り落とす。腕には矢が刺さっていた。 「すみません、遅くなりました!」 「助かった!」 遠方に岑と芳純の姿を認めた。勇気づいた悪食丸に力がこもる。刀ごと小鬼を叩き斬った。 「逃がしません」 芳純の白い壁が小鬼の退路を断つ。岑は次々と射り、小鬼を沈黙させていく。芳純に治してもらった右肩は、痛みを感じない。 あっと言う間に、小鬼を制圧した。 「もう少し、考えて行動して下さい。無鉄砲と勇敢は違いますよ」 「ふん、悪かったな」 「本当にすみません‥‥」 エグムの前に正座をさせられている、シャンクと岑。元教師からの説教をひたすら受ける。 二人を連れてきた龍達も、後ろで一緒に反省しているようだった。 「えっと、これで良いのですよね?」 「なかなか良くなったじゃないか」 「おい、こっちは終わったぞ」 建物の修理を、一生懸命行う千春。出来上がったものを見て、フランヴェルは満足そうに眺めた。 女性の二人が頑張っているのに、自分だけ遊ぶわけにも行かない。悪食丸も修理を手伝う。 「他に怪我をしている人はいませんか?」 村人の治療に奔走する芳純は見渡す。幸いにも、大きな傷を負った者はいなかった。転んだとか、腰を打ったぐらいで。 「我、疲れた也」 木の影で浄巌はため息を漏らす。深編笠を脱がされそうになり、さっきまで望まぬ追いかけっこを繰り広げていた。 子供の興味はすぐに移る。今は平原で、龍を見て喜んでいた。 「あ、桜だ!」 一体の龍が頭を振ると、首に付けられた桜の枝から桜が舞い散って見えた。 「扶風の背中に乗ってみますか?」 お説教から解放された岑は、桜を指差す子供の一人に話しかける。 「僕も乗りたい!」 「うちのマキナ・ギアで良かったら、どうぞ」 「私も手伝おう、LO」 エグムはほほ笑み、叫んだ子供を抱き上げて乗せてやった。 フランヴェルも、龍に頭を低くするように命じる。 「僕はあっち!」 「富嶽、気に入られたな♪」 「あの子がいい」 「えっ、細雪が良いのですか?」 嬉しそうな悪食丸の隣で、千春は驚いていた。村人を守った雄姿が記憶にあるのだろう。 「越影、残念でしたね」 苦笑を浮かべて芳純は、落ち込む霊騎を撫でる。 「あ、飛んだよ」 「帰るぞ、ピー」 「百蓮、我は去る也や」 指差す先には、ニ体の龍。付き合いきれないシャンクと、ようやく逃げ出した浄巌が乗る。 龍達は平穏を取り戻した村を後にする。飛び上がる姿に、子供たちの歓声がこだました。 |