背水の村
マスター名:青空 希実
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/04/11 20:38



■オープニング本文

 今日も元気に野良仕事。初老の男は畑を耕す手を止めると、クワを杖代わりにして腰を伸ばす。
 お天道様はポカポカと暖かく、辺りは春の陽気に包まれていた。この様子なら、作物も芽吹くのが早いだろう。目を細めて、実りの季節を思い描く。

「鬼だ、鬼が出たぞ!」
 陽気を切り裂く悲鳴がした。
 兜をかぶった赤小鬼が、にやりと笑ったように見えた。合図のように刀を振り下ろすと、数匹の小鬼がその脇を抜けてくる。
 小鬼が鈍い風切り音を立てて棍棒を横になぐ。村の入口の立て札が、根元からへし折られた。
「皆、逃げろ!早く!」
「逃げるって、どこへ!?」
 武器を構えた小鬼が迫ってくる、恐怖。
 怒声が飛び交い、子供の泣き声が響く。親は泣く子を抱えると、安全な場所を求めて村の奥へ逃げて行く。
 のどかな村は混乱に包まれた。

「じいさん、逃げろ、鬼だ!」
「鬼とな?いったい‥‥」
「とにかく逃げろ、たくさん居るんだ。村の入口から来やがった」
「わ、分かった」
 元気な若集が、村中に危機を知らせていた。鬼の台詞に初老の男はギョッとする。
 アヤカシが理穴の西の、こんな田舎に現れるとは思わなかった。東の大アヤカシの一部が倒されたと、風の噂では聞いていたが‥‥。
 せかされクワを畑の脇に置くと、若集に向き直った。
「どこへ行けば良いんじゃ?」
「北の入口はもう駄目だ、とにかく奥へ!」
「池へ逃げるのか!?わしは泳げんぞ!」
「逃げないとやられるんだ!泳ぐ云々は後回しだ」
「仕方ないのう‥‥」
 初老の男は急いで村の奥へ、南に足をむける。北の入口に陣取る小鬼から逃げる為に。


 村の一番奥にはため池が広がる。池のはたで子供が泣いていた。
 母親が必死でなだめるが、泣きやまない。泣く子供達の隣で、難しい顔の大人たちが言い合っていた。
「村長、どうなってるんじゃ」
「おお、お前さんか。北の入口から小鬼の集団がやってきているようじゃな」
「村長、東の入口からも数匹きていたぞ。西の山の方は無事なようだが」
「西か、あの急な山道はわしには登れんのう‥‥」
「わしじゃて、同じじゃ」
「喜兵衛と太助を西の山から、助けを求めに走らせた」
「うーむ、二人が間に合えば良いが」
 所々に岩壁が見える、険しい西の山を仰ぐ。小鬼の姿はまだ池の淵からは見えないが、ここに来るのも時間の問題だろう。
 元気な若集は、背後の池を泳いで逃げることもできるかもしれない。子供はもちろん、村長を含めた長老集には無理な相談だ。
 助けを求めに行った二人が、無事に誰かを連れてきてくれることを願うしかない。


「村を、村を助けてくれ!」
「池に追い詰められているんだ!」
 喜兵衛の着物は擦り切れ、体中血まみれ。太助はもっとひどく、片腕が折れてる。
 自分達の事はどうでもいい。村人を、皆を助けて欲しい。
 決死の叫びがギルドに届けられた。



■参加者一覧
雪ノ下・悪食丸(ia0074
16歳・男・サ
只木 岑(ia6834
19歳・男・弓
エグム・マキナ(ia9693
27歳・男・弓
宿奈 芳純(ia9695
25歳・男・陰
浄巌(ib4173
29歳・男・吟
藤堂 千春(ib5577
17歳・女・砲
フランヴェル・ギーベリ(ib5897
20歳・女・サ
マハ シャンク(ib6351
10歳・女・泰


■リプレイ本文


「村人達が逃げたのは‥‥池だと? 何故、逃げ道のないほうへ逃げるのだ!」
 怒鳴るマハ シャンク(ib6351)の竜しっぽが、地面を打ちすえた。びっくりした藤堂 千春(ib5577)は、肩をすくめる。
「お二人の怪我を見ると、山は難しいかもしれませんね」
「ふん、人間は貧弱だ」
 エグム・マキナ(ia9693)は、ゆっくり説教じみた台詞。不快そうに竜翼が動いた。
「理穴、なんですね!?」
「悲しや、悲しや、未だアヤカシ消えぬ世よ」
 喜兵衛から詳しい話を聞いていた只木 岑(ia6834)は、ぐっと唇をかむ。理穴は岑の生まれ故郷だ。
 深編笠を少しだけ持ち上げ、浄巌(ib4173)は歌うように呟いた。東の魔の森の影響は、西の辺境にまで暗い影を落としている。
「一刻も早く、村人を救わなきゃ! 扶風!」
「主は北の入口だな。行くぞ、ピー!」
「こらっ、待ちたまえ!」
 里の人たちが安心して暮らせるようにしたい。故郷の危機に、話の半ばで岑は龍を呼びつける。
 血気はやるシャンクも、伝書龍の疾風の手綱を握った。
 フランヴェル・ギーベリ(ib5897)が慌てて声をかけるも、時すでに遅し。龍達は飛び立ってしまった。
「行ってしまいました、どうしましょう‥‥」
「やれやれ、しょうがないやつらだ」
 困惑した表情で、千春はおろおろする。あきれ交じりのため息を吐き、雪ノ下・悪食丸(ia0074)は頭をかいた。
「平原で敵を討ち、池で村人を守る必要があるでしょうね」
 腕の折れた太助に、治癒符をかけていた宿奈 芳純(ia9695)が口を挟んだ。
「ボクは平原降下部隊として行動するよ。咆哮で鬼どもを引き付けよう」
「あ、あの、私は池に行きます!建物や田畑がまだ残っていますので、村の中での白兵戦・乱戦は禁物ですから」
 フランヴェルが提案すると、千春は思い切って考えを述べる。農家の長女として育った千春は、田畑が荒れる悲しさを知っていた。
「私も池の方が良いでしょう」
「前衛も必要だろう?」
 エグムは背の五人張を、悪食丸は腰の珠刀「阿見」を見せる。弓術師とサムライも力を貸すと。
「我、居り立つは、入り口側の平原也。早々移動を開始せむ」
 池側の人数は十分と判断したのだろう。一刻を争う事態だ、浄巌は移動を促した。
「お二人を治療したら、後を追います」
 依頼人達をこのままにしては行けない。治療に専念する芳純は、背中越しに告げた。



 扶風の背の岑は、険しい顔で小鬼の群れを睨む。上空で旋回し、弓を構えた。
「そっちへは行かせない!」
 屋根をかすめるように高度を下げ、池に一番近い小鬼めがけて射る。一匹を貫いた。
 そのまま道沿いに龍を駆る。威嚇射撃を続けながら、近い東の入口に向かった。怒れる唸り声をあげ、数匹の小鬼がついてくる。
 北の入口周辺では、龍から降りたったシャンクの霊拳「月吼」が吼えた。
 姿勢を低くし、右足で踏み込む。疾風脚は、棍棒を持つ小鬼を吹き飛ばした。
 次いで左手を地面につけ、左足で後ろの小鬼に足払いをかける。刃こぼれした刀が狙っていた。
「ハッ!雑魚が」
 不敵に笑い、竜しっぽが大きく波打った。


 シャンクの上を巨大な影が通り過ぎる。三つの影が奥に向かい、一つの影は村の中ほどで引き返してきた。
「――過日の動乱に誘われましたか‥‥ならば『未だ平和なり』と教えて差し上げねばなりませんね」
 マキナ・ギアの背中から村の様子を確かめながら、エグムは零す。
「あ、村人を食べてはいけませんよ」
 池の淵へ降りようとして、思い出した。一度は主を食べかけた龍だ、諭しておかなければ。
 不服そうな声を上げながら、ドラゴンレッグウォーマーを着けた龍の足が大地を踏みしめる。
「はい、上に行ってください」
 池の淵には村人が集まっている、龍は一体づつしか降りられない。次に千春の龍が降りたつ。
「ごめんね、細雪‥‥。少しの間我慢して‥‥」
 悲しそうに鳴く龍を撫で、千春は指示を出した。白い風切の羽根飾をなびかせながら、龍は池の上空に舞い上がる。
「富嶽は、そのまま村人の盾になっているんだ」
 最後の悪食丸は龍に命じた。立派な龍鎧を着けた甲龍が陣取る。
「私たちが来たからには、安心して下さい。草原の方にも仲間がいます」
「小鬼の群れは、俺達に任せな。やらせはしねえぜっ!!」
 エグムは柔和な笑みを浮かべて、状況を告げた。力瘤を作り、悪食丸は啖呵を切る。
「喜兵衛と太助は無事ですかな?」
「あの、お二人は怪我をしていました。でも治療しているので、安心してください」
 村長は、助けを求めに走った二人の安否を気にする。警戒していた千春は振り返り、にっこりとほほ笑んだ。‥‥つもりだった。
 子供がいきなり大声を上げて泣き出した。目元近くまで顔を覆っている千春が、怖かったらしい。
「もう大丈夫、ねっ」
 指差され、慌てて首もとまでアサシンマスクを下げる。千春は弟をあやすように笑いかけた。
 怖い顔の下から優しい顔が現れ、子供はきょとんとする。
「えっと、大きな音がするから、しばらく耳をふさいでくれるかな?」
 銃の説明をしても、子供には通じにくい。千春は耳をふさぐ動作をしてみせる。
 涙を拭いた子供は、頷くと千春と同じ様にした。千春は村人たちにも同じように促す。
「早く、隠れるんだ」
 悪食丸に誘導され、村人は龍の影に隠れ始める。
 開拓者と龍に守られている。このことは村人達に大きな安心をもたらせた。


 村の中ほどで引き返したフランヴェルは、小鬼の群れの前に躍り出る。LOの背中から両手を広げてご挨拶。木々が咆哮で揺れた。
「小鬼の皆さん、こんにちはー! 今日は皆を舞踏会に招待するよ!
さあ、しっかりついてきてくれたまえ!」
 低空飛行のまま、広い道沿いに移動。巧みに龍を操り、北の入口に退き帰す。
 建物を避けながら曲がって行くと、戦うシャンクが見えてきた。そのまま通り過ぎ、平原に。
「待て、どこへ行く!‥‥チッ」
 咆哮につられた中に、兜を被った赤小鬼が居た。シャンクに見向きもせず、平原へ行ってしまう。
 狙っていたシャンクは舌打ちすると、仕方なく平原へ駆けだした。
「全てを闇に還す為、しばし待たれ百蓮よ」
 平原で待ち構える浄巌は、威嚇する龍を制した。
「今宵ここに神は来ず、汝の身を裂く刃が来たる」
 浄巌の足元に瘴気が渦巻く。白い骨が散らばり、体を組み上げた。
「アヤカシ!?」
 村から飛んできたフランヴェルは驚く。浄巌の前にいる武装した白骨兵。敵は小鬼だけでは無かったのか。
 一瞬悩み、低空飛行を続ける龍から飛び降りた。討たなくては。
 殲刀「朱天」を最上段に構え、着地と同時に示現の姿勢。踏み込むはずだった足は、たたらを踏んだ。
 白骨兵が村へ向いて動く。急いで振り返れば、小鬼に白骨兵が斬りかかる所だった。
「我の斬撃符、逃れはできぬ。人は光へ、妖は闇へ。境に引き立て、全てを還せ」
 浄巌は、さらなる白骨兵を作り上げた。踊る足取りで白骨兵は小鬼の群れを切り裂く。
「ふーん、あれが式なんだ。‥‥面白いね」
 フランヴェルは少し考えて、くすりと笑う。今回が初めての依頼、見るものすべてが新鮮だった。
「さあ踊ろう、死のロンドを!」
 なんでも都合よくとらえる性格は、臆することを知らない。小鬼を舞踏会へ誘う。
 答えるように、白骨兵がケタケタと歯を鳴らした。


 越影にまたがった芳純は、岑の姿を見つけた。小鬼の群れと対峙し、左手で弓を振りまわしている。右肩は赤く染まっていた。
「一度、退いて下さい!」
 芳純は叫ぶ。地面から生える白い壁は、小鬼と岑の間を別った。
「ボクは大丈夫です。それより早く小鬼を一掃しないと!」
 振り返る岑の声は冷静さを欠く。のんびり屋は影を潜めていた。
「分かっています。今から攻撃をしますから、巻き込まれないように下がってください」
 陰陽の指輪をはめた指先が、はるか後方を示した。焦る岑に念押しして、芳純は漆黒の鞍から降りる。
 肩を押さえた岑と相棒の霊騎が、無事な距離まで逃げたことを確認。静かに悲恋姫を解き放った。
「嘆きの姫を開放す。侵せ」
 おどろおどろしい怒声とも、悲鳴ともつかない音が小鬼達を包む。耳をつんざく、嘆きの嵐。


「内側まで来ていますか‥‥状況次第では、こちらからうって出なくてはいけませんね」
「えっと、銃を使います」
 弦を鳴らしていたエグムは、真剣な瞳で危険を知らせる。示す方向を千春は撃つ。
 小鬼の隙を付き、一発が命中。断末魔と思わしき音が聞こえた。
「まずは一匹、です…!」
「あと六匹来ます」
 言いながらエグムも射る。素早くもう一本。腹を押さえ、小鬼は膝まづいた。
 誘導を急いでいた悪食丸は、銃の轟音に村を見た。
「お嬢さん、さあ早く隠れて。大丈夫」
 おびえる娘の肩にさりげなく手を置き、安心させるように笑う。女好きの血筋が、そうさせたのだろう。
 娘が龍の影に隠れるのを見届け、刀を抜く。走りながら体の違和感を感じた。
「‥‥不覚、蜻蛉の活性化を忘れたか」
 神経を研ぎ澄まし、鬼の動きを読む。二人の脇を抜け、一気に小鬼との距離を詰めた。
「チェストォッ!!」
 胴に一太刀浴びせた、確かな手ごたえ。結果を見届けず、もう一薙ぎ。ニ匹の小鬼が地面にめり込んだ。
「あ、焦らずに。確実に‥‥!」
 狙うは一撃必倒。千春は、少し離れた所の小鬼を撃つ。力を失った小鬼の手から槍が離れた。
「残るはニ匹です」
 劣勢と見たか、小鬼は退く素振りを見せた。隙を見逃しはしない、間髪いれずエグムが一匹を討ち取る。
「気合入れるぜ!」
 悪食丸の刀が鋭さを増し、勢いのまま斜め上から切り下げる。袈裟斬りの傷を作り、最後の小鬼も倒された。
「加勢に行ってくる!」
 村の中央に向かう悪食丸の背中。刀を振りながら、そんな言葉を残していった。
「これで近くにはいませんね‥‥ふむ」
「良かったです‥‥」
 弓の弦を掻き鳴らし、安全を確認するエグム。千春も、ほっとした表情を作った。
 龍の影にいる村人を、千春は覗き込む。耳を覆う手を外す仕草をして見せた。
「良く耐えて下さりました。心からお礼を申し上げます」
 穏やかな笑みを浮かべ、エグムは村人に戦いの終焉を告げた。


「状況は、どうなっていますか?」
 嘆きの姫は去った。見晴らしの良い平原が広がるのみ。
「三匹、逃げられました‥‥池へ加勢にいきます!」
 右肩の治療の終わった岑は、やや冷静さを取り戻していた。逃げられたことを、悔しそうに告げる。
「私も向かいましょう。一人より、二人です!」
 心配する芳純の心を感じ、岑は深く頭を下げる。弓を握りしめ、一目散に村を目指した。
「‥‥彼岸花の花言葉には、情熱もありましたね」
 芳純は華妖弓に描かれた花を思い出す。呟くと後を追った。



「私が主をやる、手伝え!」
「はいはい、わがまま女王様」
 幼い少女が大好きなフランヴェルは、大げさにかしこまる。シャンクの言動が、可愛くて仕方がない。実年齢を知ったら、反応は違ったかもしれないが。
「チッ‥‥風情も何も分からぬ下郎」
 シャンクは最後の小鬼を蹴り飛ばす。ついでに白骨兵を巻き込んだ。気分を害したのか、浄巌は珍しく舌打ちを。
「おぬしが主か?馬鹿な事をしたな、名もないアヤカシめ。ここでおぬしの命は潰える、潰すのはこの私だ!」
「むなしや、むなしや。鬼が出ようと、竜が出ようと、戦に変わりゃせぬか」
 兜を被る赤小鬼を指差すシャンク、周りはお構いなし。空虚を訴える浄巌の表情はうかがえぬ。
「暫し我の曲を聞いていけ。宣誓は響き、軍旗よ再び翻れ。汝誇りを抱いて進め、そは意味なきものなれど」
 諦めたのかもしれない。浄巌は騎士の魂を紡いだ。そして小枝の笛を奏でる。
「舞踏会も、そろそろ終わりにしよう!」
 フランヴェルは咆哮を上げた、赤小鬼の注意がそれる。乗じてシャンクは右側に躍り出た。
 気付いた赤小鬼の刀が、シャンクを襲う。素早く交わすと、右腕を掴んだ。
 よそ見をしていた赤小鬼の兜を、フランヴェルが弾き飛ばす。むき出しの後頭部に、シャンクの拳が叩きつけられた。
「‥‥南無三」
 浄巌の声が平原に響いた。


 子鬼が三匹出てきた。
「そこに居たか」
 悪食丸は近い一匹に切りかかった、刀と刀がぶつかる。この小鬼、なかなかやる。
 後ろから二本の棍棒が迫る気配。避けられない。つばぜり合いを続ける悪食丸に、冷や汗が流れる。
 突然、ニ匹の動きが止まった。棍棒を取り落とす。腕には矢が刺さっていた。
「すみません、遅くなりました!」
「助かった!」
 遠方に岑と芳純の姿を認めた。勇気づいた悪食丸に力がこもる。刀ごと小鬼を叩き斬った。
「逃がしません」
 芳純の白い壁が小鬼の退路を断つ。岑は次々と射り、小鬼を沈黙させていく。芳純に治してもらった右肩は、痛みを感じない。
 あっと言う間に、小鬼を制圧した。


「もう少し、考えて行動して下さい。無鉄砲と勇敢は違いますよ」
「ふん、悪かったな」
「本当にすみません‥‥」
 エグムの前に正座をさせられている、シャンクと岑。元教師からの説教をひたすら受ける。
 二人を連れてきた龍達も、後ろで一緒に反省しているようだった。
「えっと、これで良いのですよね?」
「なかなか良くなったじゃないか」
「おい、こっちは終わったぞ」
 建物の修理を、一生懸命行う千春。出来上がったものを見て、フランヴェルは満足そうに眺めた。
 女性の二人が頑張っているのに、自分だけ遊ぶわけにも行かない。悪食丸も修理を手伝う。
「他に怪我をしている人はいませんか?」
 村人の治療に奔走する芳純は見渡す。幸いにも、大きな傷を負った者はいなかった。転んだとか、腰を打ったぐらいで。
「我、疲れた也」
 木の影で浄巌はため息を漏らす。深編笠を脱がされそうになり、さっきまで望まぬ追いかけっこを繰り広げていた。
 子供の興味はすぐに移る。今は平原で、龍を見て喜んでいた。
「あ、桜だ!」
 一体の龍が頭を振ると、首に付けられた桜の枝から桜が舞い散って見えた。
「扶風の背中に乗ってみますか?」
 お説教から解放された岑は、桜を指差す子供の一人に話しかける。
「僕も乗りたい!」
「うちのマキナ・ギアで良かったら、どうぞ」
「私も手伝おう、LO」
 エグムはほほ笑み、叫んだ子供を抱き上げて乗せてやった。
 フランヴェルも、龍に頭を低くするように命じる。
「僕はあっち!」
「富嶽、気に入られたな♪」
「あの子がいい」
「えっ、細雪が良いのですか?」
 嬉しそうな悪食丸の隣で、千春は驚いていた。村人を守った雄姿が記憶にあるのだろう。
「越影、残念でしたね」
 苦笑を浮かべて芳純は、落ち込む霊騎を撫でる。
「あ、飛んだよ」
「帰るぞ、ピー」
「百蓮、我は去る也や」
 指差す先には、ニ体の龍。付き合いきれないシャンクと、ようやく逃げ出した浄巌が乗る。
 龍達は平穏を取り戻した村を後にする。飛び上がる姿に、子供たちの歓声がこだました。