|
■オープニング本文 ●翼の掛け橋 雨上がりの空。今回の主役の一人は、虎娘、司空 亜祈(しくう あき:iz0234)の朋友である。 甲龍の背中で、空の旅を楽しむ一行。興味深げに下を覗きこむのは、おのぼりさんの白石 碧(しらいし あおい)だった。 「あたしの国を空から見たのは、初めてでござんす♪」 目指すは安州、歌舞伎者の住む地。魚がおいしいことで有名な、朱藩の首都だ。 「長旅だから、友人の婚礼に間に合わないかと思いやしたが……ちょうどようござんした」 もうすぐ、安州の料亭で友人の婚礼がある。朱藩の使者として、神楽の都に出向いていた歌舞伎者は、間に合いそうに無かった。 せめてもの贈り物と、海で桜鯛の捕獲を頼む。だが、ギルド本部で、歌舞伎者の依頼を見つけ、一番に名乗りを上げたのは子猫又だった。 魚好きな猫族一家の子供たちが、依頼を請け負うことに渋る、長兄のギルド員。朱藩なら土地勘があるサムライ娘の真野 花梨(まの かりん)が、保護者として名乗り出てくれた。 「お魚、楽しみなのです♪」 二つの声が、同時に唱和した。とび色の髪を揺らし、歌舞伎者は猫族の双子を見やる。 「勇喜、お誕生日の金(きん)しゃんに、鯛を捕まえてあげるのです!」 「伽羅、泰に帰った兄上と姉上に、鯛を届けてあげるのです!」 「勇喜(ゆうき)くん、伽羅(きゃら)ちゃん、藤(ふじ)ちゃんは、本当に家族思いですね。あたしの弟や妹と、よい勝負になりやすよ♪」 陽気な旅歌を奏で、虎少年の白虎しっぽが踊る。未来への期待で、猫娘の虎猫しっぽは逆立っていた。 「あれ、喜多(きた)さんと、亜祈さんは泰ですか? てっきり、後から来るものと思っていました」 「……亜祈はん、依頼で大怪我して帰って来たんや。心配した喜多(きた)はん、しばらく『りょーよー』言うて、泰に連れて帰ったねん」 「そうですか……。じゃあ、美味しいお魚を届けなければいけませんね」 不思議そうなサムライ娘の懐で、三毛猫しっぽが悲しげに揺れる。頭をなでながら、サムライ娘はなぐさめた。 「あ、金さん。東にお願いできますか?」 『あいよ、おやすいごようだぜ』 「碧さん、従兄の家の梅酒はおいしいから、期待していてください♪」 「何から何まで、かたじけのうござんす」 旅は道連れ、世は情け。依頼の場所へ赴くついでに、依頼人を届けることになる。 ●白梅の里 「花梨? 突然、どうしたんだ」 「清さん、お久しぶりです。余っている梅酒を分けてくれませんか? 結婚式の依頼で、安州へ行くんです。」 「安州か、懐かしいな……祭りのとき以来だ」 「行きたいんですか?」 「そりゃ、辛い田植えが終わったから、旅に出たいさ」 村の青年の清太郎(せいたろう)は、一年前まで音信不通の旅がらすだった。開拓者として、自由に旅ができる従妹がうらやましい。 「じゃあ、一緒に行きましょう! 清さんたち、もうすぐ結婚記念日でしょう?」 当人たちの都合も聞かず、決定するサムライ娘。新妻の姉弟を、速攻で呼びに走る。 「おりんさん、お久しぶりです。安州へ遊びに行きませんか? 良助(りょうすけ)さんも連れて♪」 「まて、花梨! 俺が親父に怒られる!」 畑の中の新妻に手をふる、サムライ娘。慌てる青年は、従妹の背を追い掛けた。 |
■参加者一覧
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
杉野 九寿重(ib3226)
16歳・女・志
劉 星晶(ib3478)
20歳・男・泰
ローゼリア(ib5674)
15歳・女・砲
月雲 左京(ib8108)
18歳・女・サ |
■リプレイ本文 ●お魚で行こう 「お? 勇喜に伽羅じゃん。どしたんだ?」 「ルオウしゃんです!」 朱藩の安州に降り立った猫族の双子は、口を揃える。手を振り、声を翔けてきた、サムライに向かって、嬉しそうにしっぽを揺らした。 ルオウ(ia2445)と双子が知り合った縁は、去年の秋。とある鬼退治で、死線を共にした友達だ。 「俺はサムライのルオウ! 宜しくなー」 不思議そうな花梨と碧に、双子は説明する。明るく笑い、ルオウは自己紹介した。 「へー、鯛かー。んじゃ俺も、その依頼うけよっと」 ルオウの紅蓮外套が、楽しげに揺れる。風にたなびく様子は、燃える炎にも見えた。 婚礼をあげる人々とは、縁もゆかりもない。だけど双子と偶然出会って、話を聞いたのはきっと縁が繋がっていたから。 なにより、後には記念の会が待っている。人助けは開拓者の基本、手伝うくらい朝飯前だ。 「六月は色々お祝い事が多い時期頃で、結婚式もその一環なのでしょうか」 「ジルベリアには、『ジューンブライド』と言う言葉がありますわ」 「私の知り合いの子供達も誕生日が重なってますし、まずはそのお祝いでしょうかね」 依頼書を手に、杉野 九寿重(ib3226)は首を傾げる。依頼人との待ち合わせ場所は、安州のギルド。 九寿重に誘われた、親友のローゼリア(ib5674)も、依頼人を待っていた。安州は海の匂いがする。 羽ばたく音と、複数の足音。懐かしい声が聞こえる。ギルドの入口に居る姿に、九寿重は瞬きした。 「花梨は久しぶりですよ!」 「あれ? おひさしぶりです♪」 「元気にしてましたか?」 「はい! 九寿重さんもお元気そうで、なによりです。しばらく、遭都の友人の所へ遊びに行っていたので、席をはずしていました」 二つの長い黒髪が揺れる。気さくな九寿重に、花梨は元気に返事をした。隣のローゼリアは不思議そうな顔。 「こちらは砲術士のローゼリアです。依頼を通じて知り合った、今では大事な相棒でもある親友ですね」 ひらめく裾は、まるで春の霞。淡い桃色の小袖「春霞」を揺らし、軽装の九寿重は、親友を紹介する。 「砲術師のローゼリア・ヴァイスですの。宜しくお願いしますわね」 ドレス「黄金の太陽」の裾をつまみあげ、猫耳が優雅に一礼。ローゼリアは、貴族であるヴァイス家に貰われた猫族の娘だ。 花梨に双子、そして依頼人の碧は、つられてお辞儀した。小袖に袴姿の九寿重と違い、ローゼリアのジルベリアの衣装は目立った。 「……あたしと同じ、砲術士でござんすか。儀が違えば、服装も変わりやすね」 天儀育ちの碧は、物珍しげに衣服に見入る。金糸で彩られた、ジルベリア風の上品なドレス。 輝くような装いは、天儀の人々を魅了した。泰国育ちの双子も、興味津々で見上げている。 向けられる視線に、ローゼリアは少し戸惑う。周囲と雰囲気が違い過ぎているのか、それとも、珍しすぎるのか。 「誕生日に披露宴に結婚記念日……お祝い事がいっぱいですね」 船着き場で、依頼人を待っていた劉 星晶(ib3478)。見覚えのある面々に、一つ一つ事情を尋ねた。 「わたくしも、お邪魔したく参加させていただきました」 月雲 左京(ib8108)は、着き場で出迎える。どこかさびしげな笑顔。 双子たちの兄と姉は不在。原因と理由を知っているから、空元気を押し通す。双子たちが悲しまないように。 「がんばりましょう!」 導き出された結論と共に、星晶は海を見やる。はりきって漁をしなければ。もちろん祝い事の為。 魚への期待に、黒猫耳が踊っているような気もするけれど。たぶん、海をよく眺めたい子猫又が、頭の上に乗っかっているせいだろう。 ●祝いごと 「依頼楽しかったぜ。網を見るまで、ハラハラしたけどさ」 からからと笑うルオウ。好奇心旺盛なガキ大将は、おてんばな伽羅と網の前で大騒ぎした。 「祝いの席かー。せっかくだし、俺もお祝いしてもいいかなあ?」 「ようござんすよ、願ったりでございやす」 金の瞳は、依頼の人の碧を見る。恩人のルオウに、即答した。 「まあ、あんまり居て迷惑そうなら、鯛届けて依頼を終えればいいしなー」 「ダメなのです! お友達だから、『おもてなしなし?』なのです!」 軽く付き合うつもりだった、ルオウ。双子は口を揃えて、難しい言葉を使った。理解してないけれど。 「めでたい席だし、枯れ木も山の賑わいって事でいいよな? 賑やかし位ならできるぜー」 明るいだけが取り得と笑う、ルオウ。今日も正義の味方を目指して、全ての悲劇を無くそうとまい進する「道化もの」を務める。 「私たちも同行したいですね」 九寿重も、結婚の記念会には出席したい。ダメでもともと、素直に頼んでみる。 「こちらこそ、頼みたい」 「私たちの恩人ですもの」 白梅の里の人々は、すぐに快諾した。九寿重は新婚夫婦の二年越しの恋の花を咲かせた、立役者の一人。 「天儀の披露宴と言うのは、どのようなものですの?」 ローゼリアの猫族耳が、不思議そうに動く。ジルベリアと天儀、礼儀に違いはあれど、祝い事は喜ぶべきこと。 「姉ちゃんは白無垢を着て、清兄ちゃんは紋付き袴だよ」 良助が教えてくれるが、ローゼリアはピンとこない。実物を見てみたかった。 「賑やかに楽しむ方が良いでしょうから、記念会と披露宴は合同になる方が良いでしょうかね」 「めでたい席にめでたい事が加わるんだし、めでたくていいんじゃねえかな?」 九寿重立案の、記念の会と披露宴の合同開催。ルオウは、気軽に賛成した。 「記念会と披露宴は合同という案。わたくしも、賛同させて頂きますわ」 ここでまみえたのも、何かの縁。ローゼリアは頬を高揚させて、笑顔を見せる。 「その旨、お願いしたい処ですね」 犬耳は位置を変えた、九寿重は頭を下げる。 「仕切りなんて外しちゃいます」 決まれば行動は早い。穏和で物静かだが好奇心は強く、面白いモノ好きの星晶。 碧に教えて貰いながら、襖やら障子やら、次々と外していく。廊下との仕切りまで無くなり、金は「良いの?」と鳴いた。 仕切りの取り外された会場の奥で、新郎新婦が座っている。しばらく見つめ、左京は視線を反らした。 「……兄様や姉様の式を、見とう御座いました」 少しだけ、目尻にたまる涙。冥越の隠れ里で、細々と幸せに生きていたころが懐かしい。 左京の昔話。アヤカシの襲来により里を失い、里民、両親、多くいた兄姉、妹弟も全て失った。 「……場違い過ぎそうですわね」 披露宴に向かう人々を眺めていた、ローゼリア。金の瞳を伏せ、周りとの服装の違いに、小さなため息をもらす。 「ローザ、振袖の着付けをしてあげますね」 携えていた振袖「紅白梅」を、九寿重は見せる。受け取ったローゼリアは、鮮やかに咲き誇る紅白の梅の刺繍をなぞった。 「母様から伝えて貰った技能は万全ですし、体型そのものは似通った私達ですから。ローザにも、誂えた物が似合うと思いますね」 犬耳が嬉しそうに動く、九寿重はほほ笑みを浮かべた。母親より嗜みとして礼儀作法・家事一揃えを会得している。どんと任せて欲しい。 ローゼリアの帯を仕上げると、九寿重は軽く背中を叩く。歩いても良い合図。 「天儀の服装は着るのが大変ですわね。でも良い着心地ですの」 衣服に合わせ結いあげた茶色の髪が、楽しげに踊る。ふわりと回って、広がる袖に笑みを浮かべるローゼリア。 「似あいますかしら?」 「綺麗で御座いますよ」 左京の賛辞に、ほのかに頬を染め、ローゼリアは小さく内またで歩く。畳のヘリもふまず、所作も完璧。天才肌ながら努力家の側面を発揮した結果だ。 「金さんも、碧さんのご友人の方も、清太郎さんも。本日は誠におめでとうございます」 泰拳袍「九紋竜」をまとう星晶は、乾杯の音頭をとる。豪奢な九匹の昇龍の刺繍が「縁起がいい」と、すでに酔った新郎新婦の親戚に担ぎ出された。 「皆さんの人生はまだまだこれからですが、今日という日が素敵な思い出の一日となりますよう、心より願っております」 深々と頭を下げると、黒猫耳に新郎新婦の拍手が聞えた。もちろん、新婚夫婦からも。 「…というわけで俺は飲みます。祝い酒万歳!」 一升マス片手に、一気に飲み干して見せる黒猫耳。言葉遣いこそ丁寧だが、言動はどこか飄々とした奇人だ。 司会役から頼まれたら、応えない訳にはいかない。酔っ払いたちの褒めたたえる拍手、祝い酒はいい気分。 星晶はちゃっかり、酒笊々を発動させていた。酔わないため、各種大呑み大会では、使用禁止扱いされている事が多い技法を。 その分、お酒は持参済み。古酒、極辛純米酒、陣中酒。お祝い先に、迷惑はかけないつもりだ。 「そいじゃ、おめでとー!」 披露宴の片隅で、祝杯の音頭に合わせるルオウ。武天の小さな村で育った、ジルベリア人とのハーフだが、花嫁さんに少し興味あり。 「花嫁さん、綺麗だなー」 素直に褒める、ルオウ。密かに片想いしている、エリナと言うジルベリアの貴族の娘を思い浮かべた。 天儀の衣装も似合うかな、やはりジルベリアの衣装だろうかと考えつつ。食事に舌鼓を打る。 「まだ天儀の料理には疎いですが、天儀の魚料理は大好きで興味深深ですの。運んだ魚も、美味しそうでしたし」 指折り数えて、懸命に料理を教えてくれる双子たち。微笑ましい兄妹に、ローゼリアは楽しそうに頷きながら、双子と視線をあわす。 「……藤様、わたくしの刺身もいかがで御座いますか?」 子猫又を膝の上にのせ、頭をなでた。ほぐした鯛の身を手のひらに乗せて食べさせる。見下ろす隠した緋色の瞳は、憂いを帯びていた。 「左京はん、食べんの?」 子猫又の声が、現実引き戻す。左京は、紅葉虎衣の裾で、涙をぬぐった。 「お魚とお野菜、お酒を少し頂きまする」 肉には、一切手をつけない。どうして食べられよう。左京の昔話には、続きがある。 唯一生き残った双子の兄。愛しい片割れは、その後保護された人間の手により、命を失い、食べられてしまった。 「……夜汐がみれば、拗ねましょうね……」 少しだけ笑顔になる左京。大切な「家族」が、今は増えた。飼い始めた黒い猫又は、愛らしい。 そして、嫉妬深く、人一倍気まぐれ。…まぁ、そこも愛らしいのだが。拗ねて留守をする猫又を思い浮かべ、角なき修羅は苦笑した。 「伽羅、その子をこっちに連れてきて、一緒に遊んであげるですね」 「にゃ♪」 五人姉妹弟の筆頭は、披露宴で同席した小さい子の面倒を、よく見てくれる。末っ子の伽羅が、きちんとお姉さんぶれるのも、九寿重の配慮のお陰。 長姉は、我侭であるよりも、他人の面倒を見る方を優先する。そして、物怖じせず、人懐っこい笑顔で見守った。 「拙い腕ではありますが、お楽しみ頂ければ幸いです」 「がう♪」 星晶は胡琴、特に二胡の演奏に秀でる。主に一人で居る時、気の向くままに奏でているが、今日はめでたい席。 勇喜を誘い、二人で音楽を奏で始めた。胸に染みいる、故郷の楽。異国情緒たっぷりの、泰国の音色。 そのうち、酔っ払いたちに取り囲まれる。即興で弾き始める曲に、天儀の歌が重なる。 泰の音楽隊に合わせて、ルオウも手を叩く。ブレスレットベルが鳴り響いた。陽気な合唱に、金は外で体を揺らしていた。 「金様の誕生日、で御座いますか…。以前は祝って頂きました。おめでとう……御座います。よければ食べて下さいませ」 木の実詰め合わせを手に、庭へ降り立つ左京。松の実を食べる金に、庭の松の木を指差して、この実と教える。 「金さんには、これが似合うと思うですよね」 九寿重も、記念会の主役足る甲龍に、祝い物として竜旗を渡した。受け取った金は、軍旗を握りしめ、背筋を伸ばす。 庭で風にたなびく、龍の印。勇気と忠誠心を高揚させる旗印に、金は喜んだ。 ●遠く思いを 「亜祈さん、怪我をしたってききましたけど……危険な依頼だったんですね」 「あの時は私も深く傷を負いましたが、それにも増して亜祈が容態が悪かったので、以降の経過が心配なのですね」 「あれから会っておりませんし、心配ですわね……」 花梨の何気ない言葉に、九寿重の犬耳が伏せられる。ローゼリアも眉潜め、表情を曇らせた。 「亜祈はん動けるけど、『動いたらあかん』言うて、喜多はんがどなっとったで」 藤によると、傷が治っても、数日は意識が無かったと言う。あと数刻遅ければ、どうなっていたやら。 「勇喜、姉上の近くに、行けなかったです」 「伽羅たち、しばらく『めんかいしゃぜつ』だったです」 双子のしっぽがうなだれる、姉に会えない寂しさを思い出した。開拓者たちが面会したのは、起き上がれるようになってからだ。 「亜祈様は、大丈夫なのでしょうか……? 傷とか、残りませぬか……?」 左京は機会を伺い、双子に尋ねた。双子達の姉は、ゴロツキにさらわれ、瀕死の重傷を負う。 「傷はだいじょぶって、兄上言ったのです」 「姉上、傷ないのです。伽羅、姉上に確かめたのです」 「早く、亜祈様も、喜多様も帰ってきて下されば良いので御座いますが……」 双子は姉が怪我を負った理由を知らない。ただ、依頼が原因とだけ、兄から聞かされた。左京から、心配のため息がこぼれる。 一人、無言なのは星晶。悄然と言う言葉が、良く似合う。月隠で己の気配を殺した。 亜祈を助けだしたときに、頭に血が上って噴火。挙句、何もかもそっちのけで、暴れまわった事が恥ずかしい。 でもそれ以外は、後悔していない。捜索も、見舞いも、全力だった。 「姉上を助けてくれて、ありがとうなのです」 双子は、ちょこんと頭を下げる。姉の命の恩人たちに、心からのお礼を述べた。 「白梅の里? そこの梅酒なのか」 九寿重が飲む梅酒に、視線を送るルオウ。梅酒を漬け込む時期と聞いた。仲の良い、新婚夫婦を見やる。 りんは清太郎に、お酒を注いでいた。呼ばれたりんが視線を外した隙に、清太郎は自分の刺身を、そっと新妻のお皿に移す。 一部始終を見ていたルオウは、頭を掻いて視線を外す。おぼろげに同郷の友人、ニクスから聞いた話を思い出した。二年越しに咲いた、恋の花の手伝いをしたと。 「少し、酔いを覚ましてきますわね」 梅酒は美味しかった。九寿重を誘い、ローゼリアは庭園へ赴く。天儀の庭は、ものめずらしい。気を取られつつ、歩く。 「天儀の白無垢を覚えましたわ。ジルベリアの衣装も白ですのよ」 「私もいずれ花嫁になるのですかね……」 娘たちの会話は、どうしても花嫁の話題に偏る。打ち掛けを着る前の、白色は花嫁だけに許された色。 茶色の髪が揺れ、金の瞳は真剣に九寿重を見た。大事な親友を。 「今日はありがとうございますわね、九寿重」 ローゼリアは一度信じたら、どこまでも信じぬく。今日のお礼。そして、日頃の感謝。心をこめても、まだ足りぬ。 九寿重は、ほほ笑みを浮かべた。無言の返答を行う。遠くのさざ波が、ゆっくりとした時間の経過を告げた。 |