|
■オープニング本文 ●オアシスから離脱する鉱夫たち 彼らは着の身着のまま、取るものもとりあえず次々とオアシスを後にする。遠くからは既に戦闘の音が微かに聞こえてき、小型飛空船は僅かに老人や年少者を乗せて離陸する。 「砂漠の中だ、奇襲に気をつけろ!」 誰かが叫んだ。 出撃した警備兵たちは無事だろうか。時間を稼げたら、上手く離脱してくれているといいのだが。走龍がいななく。その健脚は土くれを、砂を蹴散らし、遥か地平線へと駆け出した。 ●弓の意味 「旦那、無茶でやんすよ!」 「お初(おはつ)、すまん。与一(よいち)と一緒に、避難所で待っていてくれ」 ベテランギルド員は、浴衣を引っ張る人妖を引き離し、心配そうな妻に押しつけた。開拓者時代は、九年も前の話。 「開拓者が、逃げ遅れた人々の救助に向かったでさ。尚武(なおたけ)坊ちゃんは、心配いらないでやんすよ。それに仁(じん)坊ちゃんは、シノビで……」 「与一、お前の背負った弓は、何のためだ?」 朝焼け色の瞳は、人妖を見ずに、オアシスの中心方向を見る。二人の息子たちは、現地で仲良くなった子供たちと水遊びに向かっていた。 家族旅行の始まりは、甘味マップ「アル=カマル」。養い子の修羅少年が、支給品でひいてきた。 幼子は大はしゃぎ。自慢の二人の息子たちの願いを受けて、弓術師一家は砂の国に踏みいれた。 「俺の弓は、人の命を守るためだ。開拓者を止めようと、志は捨てていないぞ!」 露店めぐりをしていたギルド員夫婦と、息子たちを隔てる影。アヤカシは、町中にまで入り込んできた。退けなければ、水辺に取り残された若い命が散る。 「お初、これを預かっていてくれ。息子たちの宝物だからな」 ギルド員は「にやり」と笑い、黙り込んだ人妖の頭を、かき混ぜる。一枚しかない甘味マップ「アル=カマル」を、妻に渡した。必ず戻ると言う、無言の約束。 「ちょっと、子供たちを迎えに行ってくる」 「……弥次(やじ)の旦那が戻るまで、女将は我が守るでさ!」 「頼んだぞ」 砂漠の夜は冷える、服を着こんだギルド員。その背中に向かって、相棒は叫ぶ。 露店主から受け取った、矢筒の中身を確かめる。弓を手にした影法師が、砂漠に、長く、長く伸びていった。 |
■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086)
21歳・女・魔
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
モハメド・アルハムディ(ib1210)
18歳・男・吟
海神 雪音(ib1498)
23歳・女・弓
杉野 九寿重(ib3226)
16歳・女・志
劉 星晶(ib3478)
20歳・男・泰
神座真紀(ib6579)
19歳・女・サ
朱宇子(ib9060)
18歳・女・巫 |
■リプレイ本文 ●道 弥次と与一のやり取りを聞いていた青年が、同行の名乗りを上げた。弥次は迷わず、頭を下げる。 頷く羅喉丸(ia0347)の懐から、御守「あすか」が見えていた。意味する所は『明日への希望』。 羅喉丸は、子供のころに村がアヤカシの襲撃を受け、開拓者によって助けられた経験がある。その時に、自分を助けてくれた泰拳士に憧れた。 少しでも近づこうと、天儀の片田舎から出てきて開拓者になった。記憶に残る姿と同じことを言う弓術師が、今は目の前に居る。 「感謝の言葉が一声でもあればいい、戦う理由などそれで十分だ」 羅喉丸は思い出す、武の道を志した理由を。自分も、自然と言える大人になりたい、と。 「弥次様家族がアル=カマルへの観光旅行最中、巻き込まれた一大事ですか……」 事情を説明する弥次を前に、杉野 九寿重(ib3226)の口調は重い。 「やはり心配ですから、直ちに駆けつけて、元気付けたいものですね」 ピンと立った犬耳が伏せられた。先に向かった仲間が、孤立分断に陥られず、挟撃されないか心配だ。 「……あっちもこっちも、大変な事に……そろそろ心痛で倒れそうです」 のんびりした空気を纏う黒猫の獣人は、耳を倒した。どうせ倒れるなら、無事助けてから倒れるけれど。 「さて、ではオアシスとやらへ急ぎましょう」 劉 星晶(ib3478)は、超越聴覚を発動させた。ふっと、思い出される冬の場面。 泣き虫の白い虎の少年を、雪の中、助けにいった。今回も無事に助け出したい。 「アウラード、子供達を安心させて頂きたいのです」 手分けして、避難民の救出に当たる。そう決まったとき、モハメド・アルハムディ(ib1210)は、ブレスレット・ベルを差し出した。 「ほな、預かっとくで」 神座真紀(ib6579)が受け取り、お供の腕にはめる。もふらに、うさぎに、りゅうのぬいぐるみ。 「ミン・ファドリコム、お願いしました」 虫の知らせ、吟遊詩人の勘。モハメドの行為は、大いに子供たちを勇気づける。呪歌でなくとも、音楽は心を和ませてくれるものだから。 吹き荒れる雪、雪、雪。千早「如月」をまとった、朝比奈 空(ia0086)自身も、雪のような白燐に包まれていた。背中に波打つ、白銀の髪が振り返る。 「何とか間に合いましたか」 ブリザーストームが吹き止み、燐光も消える。平時は優しい表情を見せる顔は、子供たちに少しだけ笑いかけた。安心感を与える。 「怖かったね、頑張ったね」 朱宇子(ib9060)はしゃがみこんだ。毛布をかけてやりながら、仁に怪我がないか確認する。右腕に流血があった。 聖宝珠「白」が、浄なる精霊力を呼び込む。朱宇子がかざした手のひらに、集まるのを感じた。 「天地之御霊の祝福を……」 朱宇子と仁を、淡い白色の光りが覆う。目をしばたかせるうちに、膝の傷は治って行った。 「誰かを護るためなら、逃げずに戦い抜くことに、ためらいはないの。頑張れるんだよ」 朱宇子は穏やかで、争い事を好まない性格。でも、一度決めたことは最後までやり通そうとする、責任感の強い娘だ。 「大変なことになる前で、よかった。皆を護るの。全員、無事に帰るんだよ」 一本の角の修羅の子は、朱宇子の茶色い瞳を見あげる。くだけた口調になった修羅の娘は、最後に付け加えた。私もできる全力を、尽くすからねと。 「……もう大丈夫ですよ。私達と一緒に帰りましょう」 怯えている子供達に、海神 雪音(ib1498)は狩人の外套と防寒胴衣を着せてやる。それから、キャンディを。精神的疲労を和らげたい。 響く弓の弦の音。アヤカシの気配、全周を囲まれている。数の少ない所を探した。 「……子供達には指一本も触れさせはしません」 鏡弦の僅かな違いを見つけ、雪音は道を示す。狼煙銃を手にした。空に向かって、打ち上げる。 ●妖しの包囲網 風に乗って、狼煙の匂いがする。明らに、人的な煙が空に立ち昇っていた。 羅喉丸が、懐から取り出したもの。短針のみ水の懐中時計が、静かに時間を刻んでいた。 次に、太陽を見比べる。目的の水辺の位置は「東」と弥次は答えた。天儀では東は「成長」を意味する。 「無理を通して、道理を引っ込めるまでだ」 羅喉丸は土地勘がない。水辺の方向へ、一直線に進み始めた。身体能力にものをいわせて、無理を押し通す。志体持ちに生んでくれた両親に感謝。 「……先に子供を確保した者が、助けを呼んでいるのか?」 合図と思わしきもの。狼煙と音を頼りに、羅喉丸たちは突っ走る。合流を図らなければ。 「東ですね?」 羅喉丸に示された方向へ、九寿重も向かう。周囲は危険だらけ、アヤカシを探る技法が開拓者に揃っているといえど、死角に注意しなければ。 「……笛の音? いえ、戦闘音も聞こえますね」 四方八方に動く黒猫耳。星晶は、空の呼子笛の音を捉えた。まだ遠い。 真紀の視線の向こう、子供たちが集まっていた。小さな開拓者の仁が、たった一人で守っている。 (久し振りやけど、ええ顔になっとるな) 子供達を安心させようと、頑張っている戦の民、修羅の子。心中でだけ、うんうんと頷き、真紀は愛刀を握る。 「お姉ちゃん達が、絶対お家に連れて帰ったるからな。安心し。そんでも怖かったら、ぬいぐるみをぎゅっとしときな。気が紛れるやろし」 ふわりと空を行く、しろくまんと。真紀は仁の後ろで震える子供にかけてやり、ぬいぐるみを手渡す。 拍子にかわいらしい鈴が鳴った、モハメドが、託した思い。真紀が、預かった願い。 (この子らの明日、アヤカシなんかに、絶対奪わせたりせぇへんからな!) 決意と長巻「焔」を手に、真紀は毒を持つマミーと対峙する。刃が振るわれると同時に、決意の炎の幻影を浮かび上がらせた。 心眼に捉える、アヤカシの気配。青い目を細めて、遠くをみれば、踊る靴が見える。 「下手な踊りですね」 立ちはだかる敵は、殲滅するまで。潰す。九寿重は、野太刀「緋色暁」を構えた。 虚心を発動させ、靴の行き先を見定める。砂にめり込む左足、足場が悪い。横会いに飛ぶ。 九寿重は気位は高く血気盛んで有れど、道理は弁えている。幼年組の出世頭は、紅蓮紅葉を刀に纏わせた。燐光が舞い散る。 「砂漠に靴……ですか、私がそんな物に惑わされるとでも?」 空の台詞に、砂の中で横倒しになっていた靴が隆起し、独りでに起き上がる。赤い踊り子の靴。 踵の高さは異常。美しさも異常。妖艶にステップを踏み始める。ものめずらしさに、魅入りかけた、尚武。 「惑わされては、駄目。どんなにきれいでも、あれはアヤカシです……!」 不用意に近づきかけた尚武を、朱宇子は抱きしめる。胸元に抱えあげると、幼子は暴れた。 軽やかに、飛びはねる赤い靴。同じ赤でも、朱宇子の髪とは似ても似つかぬ、毒々しい色に魅了された。 朱宇子は苦心しながら、印を組み、解術の法の呪文を唱える。尚武が、淡い藍色の光に包まれた。 気付いた空は、怒られると、怯えていた尚武の頭をなでた。前方に視線を戻す。悪影響が出る前に、元を断つ。 「尚武と仁に会うのは久しぶりですね。元気でしたか? ……と、こんな状況ではそれどころではありませんね」 雪音は弓把の両端に宝珠が取り付けられた、ロングボウ「ウィリアム」を構える。鏡弦の気配は……下! 飛びずさった、砂の中から手が生えてくる。掴み損ねた指先は、口惜しげに虚空を掴んだ。もう一本の腕が、迫る 雪音は、サムライの父と陰陽師の母を持つ。が、才能の面では、親のどちらにも似なかった。でも、父の血筋は確実に受け継がれている。 カッツバルゲルを手にした。アヤカシの腕に向かい、迷わず山猟撃を仕掛ける。 「……弓術師にはこういう技もあるんですよ」 跳ね除けられ、行き場を失ったマミーの腕。こんな形で、尚武に実戦を見せることになるとは思わなかった。 瞳に精霊力を集め、雪音はアヤカシの姿を感じとる。握り込む左手、右手のかけで引きしぼる弦。 至近距離の的当ては、見た目以上に技量を要する。短く息を吐き、雪音は気合のこもる矢を放った。 「ミイラだか靴だか知りませんが、あくまで邪魔するのなら、薙ぎ倒すまで……です」 星灯りのもと、星晶の天狗礫が数多の星のごとく飛び交う。「晶」には、きらきらと輝く意味もある。 牽制として放たれた、散華は的確にぶつかり、マミーの数を減らした。が、それでも足りぬ。 足場の悪い砂地から飛びあがり、脚甲の蹴撃をしかけた。踊る靴の対決は、黒猫に軍配があがる。 「子供達を輪の中心にして、私達は外縁に配置ですね」 五人姉妹弟の筆頭は、他人の面倒を見る方を優先する。一息いれてから道のりを順に引き返し始めたが、自分が殿を守ることを忘れない。 「お前さんたち、退くぞ!」 「優勢な内に退路を確保して撤退を」 弥次の声に、羅喉丸も同意。こちらは子連れ、撤退を優先する。 羅喉丸の瞬脚からの崩震脚への流れ技。マミーの身体が崩れ、包囲網に穴があいた。 「後は逃げるだけですが……そう簡単には行かせてくれない様ですね」 子供たちの歩調は遅い。安全を優先すれば、なおさら鈍る。マミーの気配、引きずる足音。囲まれる。 「そこの雑魚アヤカシ共! 神座家次期当主、神座真紀が相手したる。さっさとかかってきぃや!」 横に走りつつ、真紀は咆哮をあげる。列をなし、押し寄せる赤い靴とマミーたち。 「仁君、早く行き!」 引く右足、右後ろに傾いた剣先。脇構えになった真紀は、腰を落とす。 見極めが大事、焦りは禁物。腹の底からの深呼吸。睨む黒い瞳は、横に動いた。 回転切りで、周囲を薙ぎ払う。足場が悪い、数体討ち逃した。負けぬ、膝を深く曲げる。 気合一閃。飛び散る砂とともに、両手で刀を振りあげ、マミーを叩き斬った。 呼子笛の音がした、空の周りに子供たちが集まる。一人は、怯えた視線で背中に隠れた。 「人助けはサダカ、喜捨です。ビスミッラ! ……くらえ!」 モハメドは、澄んだ音色が特徴のリュートを掻きならす、空気を震わせる共鳴、アヤカシを押し止める爆音。 目の前の毒を吐くマミーは、ウルジュワーンと呼ばれる。氏族に伝わる語で「紫」の意味。 「流石にここまで多いと辟易しますね……この辺りで消えて頂きましょう」 空は手をかざして、呪文を唱える。必要とあらば、非情に徹する。鋭い氷の刃は切り裂き、凍らせながら冷気を振りまく。 待ったは無用。続いて、空は竜巻を起こし、吹き飛ばした。 ●父親 空は、水筒に入れた水を飲ませてやった。キャンディボックスで、少し溶けた飴に悩む。その隣で、泣きそうな顔の子供は、羅喉丸にくっついてきた。 「シュクラン・ジャズィーラン(大いに感謝している)」 羅喉丸は、子供達を助けるために、アヤカシの群に迷わず突っ込んだ。翻りのローブを着せ、笑って頭をなでてやる。 『武をもって侠を為す』。そんな羅喉丸の生き方は、アル=カマルの子供たちにも受け継がれるだろう。 自身よりも、他人の幸せな姿を見守る方が、性に合う。空は、ほほ笑みを浮かべた。 「自分の出来る事を精一杯やれる子は、とても素晴らしいと思いますよ」 星晶は、仁に声をかける。笑顔で褒めた。頑張ったご褒美を取り出し、友達と分けるように促す。 お礼と共に蜜菓子「マナ」、甘露水を受け取った。仁はきちんと弥次に報告し、新しい友達の所へ走る。 チョコレートは少し残念、溶けていた。頬を茶色くしながら、子供たちはほお張る。 青い目を細め、見守る星晶。開拓者になった理由は「何となく」だが、きっとこの瞬間が好きなのもあるだろう。 「ねーたん」 「あれからどれくらい上達したか、見てみたいところですが……」 尚武は、雪音に手を伸ばす。たった、一度だけの弓の師匠でも、幼子の感動は尽きない。父の弥次もやってくる。 「弓と志士とサムライの娘さん、お前さんたちに伝言を頼まれている。なかなか機会が無かったからな」 「私たちにですか?」 「お前さんたちが蝮党から助けた娘さん、遭都のお店で奉公しているそうだ。笑顔の看板娘だそうだぞ」 「ありがとうございます」 笑みを浮かべる九寿重の隣で、表情の変化が乏しい雪音の目元も、嬉しさそうだった。 「とーたん!」 気付いた尚武は、弥次にしがみつく。仁は口を結び、つまらなそうに下を向いた。 「ほれ、仁も帰るぞ」 「弥次さんは、ええお父さんやね」 真紀はほほ笑みを浮かべ、仁の耳に囁く。そっと、背中を押した。ぽてぽてと、進みだす仁。 弥次はしゃがみこみ、仁と視線を合わした。優しいまなざしを向ける。仁の瞳に浮かぶ涙。 「おっちゃ……父ちゃん!」 鳴き叫びながら、仁は弥次に飛びつく。弥次の浴衣を握りしめ、顔をうずめた。 「おいおい、うちの息子たちは、泣き虫だな」 「おいら、……息子なの?」 「当然だ。うちに来た日から、俺の息子で、尚武の兄さんじゃないか」 弥次は左手で仁の頭をなで、右手の尚武ともども抱き上げる。歩き出し、開拓者に背を向けた。 「ゾァホル・アビ、父親の背中……ですか。良い言葉ですね」 見守っていた、モハメドの呟き。ジルベリア出身だが、祖先は別儀から来たという伝承がある。 アルハムディとはハムディーヤ(賛美の地)の者の意。砂漠の儀にいた祖先も、きっと同じことを繰り返してきたのだろう。 「家族が危ない時に、駆けつける……お父さんって、みんなこんな感じなのかな」 朱宇子は、右の角に巻いた紐を揺らす。父親についてはよく分かっておらず、双子の姉と母親が家族。 「私にはすこし、馴染みが薄いかもしれないけれど……家族が傷つくのは嫌だって気持ち、 分かりますから」 空の月を見上げた。姉に幾度となく説得されて開拓者になった経緯があるが、今は「なって良かった」と胸をはって、姉に言える。 真紀はふっと父の事を考えていた。 「今頃また食事も取らず、研究に没頭しとるんやろか?」 父は学者で一般人。祖母が母と父との結婚に反対だったが、それを押し切って両親は結ばれた。だからこそ、真紀や妹二人が、この世にいる。 「帰ったら大好物でも作ったろかな?」 母は早世した。妹二人の母親代わりでもあった真紀は家事全般をこなす。所帯じみてきている自分を嘆くこともあるが、明日は父のために腕を振るおうと決意した。 モハメドは、甘味マップを手に悩み中。落ち着けば、マクハー(茶店)で一服もできるか。 「折角ですからスーク(市場)に寄って、ハディーヤート・タズカリヤート(土産)も買って行くとよいですよ」 「あー、『シュクル・アンタ』で良いのか? お前さんに感謝する」 モハメドは弥次に助言を。弥次はたどたどしく。慣れないアル=カマルの言葉に苦戦し、頭をかきながら。 「ショクラン、ありがとうでいいですよ」 目元を細めるモハメドの脳裏に、浮かんだもの。素晴らしいと思う、旅商の親兄弟の照れた顔。きっと、父親の照れた笑顔は万国共通。 |