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■オープニング本文 ●寒いから ここ数日、体の芯も凍りつきそうな冷え込みが続いている。 寒いから動けなくなるとか、そんなやわな鍛え方はしていないが、寒いものは寒い。心地よさ‥‥もとい、生きやすい環境を求めるのは生物の本能だ。 「酒‥‥だけじゃ足りねぇか」 温石を抱えて布団の中で丸くなっているのもつまらない。 炭をガンガン突っ込んだ火鉢に背中を丸めてあたっているのも、らしくない。 はふ、と森藍可は息を吐いた。呼気は白く立ち上がり、鈍色の空へと消えて行く。 「暖けぇもの‥‥ついでに面白けりゃ最高なんだが。‥‥ん?」 藍可の傍らを子供達が駆け抜ける。寒空の下、彼らは元気いっぱいだ。 「おーおー、楽しそうに。お、焼き芋でも焼いているのか?」 「そうだよ! お姉ちゃんも食べる?」 差し出されたほくほくの芋を頬張りながら、他愛のない子供達の遣り取りに目元を和ませる。乱暴な振る舞いが多く、暴れ者、婆娑羅姫とふたつ名を付けられた藍可だが、こうした穏やかな時間も嫌いではない。 「お姉ちゃん、おいしい?」 「皆で食べるとおいしいよね!」 ふと、藍可の脳裏にある考えが閃く。 それは、寒さを吹き飛ばし、なおかつ、皆と騒いで楽しめる‥‥、いや、寒さをも楽しむ催しになること間違いない。 バタバタと賑やかな足音と共に仲間達の元へ駆け戻った藍可は、開口一番に宣言した。 「寒いから鍋やるぞ、鍋!」 提案などという可愛らしいものではない。 宣言である。 こうなった場合、反対しても無駄である。浅からぬ付き合いの者達は、ある者は溜息をつき、ある者は苦笑いを浮かべつつ、それぞれに動き出したのであった。 ●点心で行こう 泰の獣人は、猫族と呼ばれる。三月三日は、天儀のひな祭り。猫族四兄妹の二番目の虎娘の司空 亜祈(しくう あき:iz0234)は、熱く語る。 泰出身の猫族一家の娘たちは、大いに興味を持った。おてんばな末っ子の猫娘の伽羅(きゃら)と、ふてぶてしい三毛の子猫又の(ふじ)は、大はしゃぎ。 庭で遊んでいた虎娘の朋友、親分肌の甲龍の金(きん)と、内気な三番目の虎少年の勇喜(ゆうき)を巻き添えに。長兄の喜多(きた)のいる、開拓者ギルド本部に家族全員で押しかけた。 「女の子のお祭りだと、聞いています。神楽の都では、『闇鍋』と言う特別な料理を味わうとか」 「浪志組でも、行われる予定よ。だから、私、その会場にお邪魔しようと思うの!」 真剣な表情で、新人ギルド員の長兄は依頼書を見せる。依頼人の虎娘は紅潮しながら、白虎しっぽを揺らした。 虎娘の所属する浪志組では、闇鍋が流行っている。闇鍋を知らない虎娘は、参加の機会を伺っていた。 「どうも珍しい料理を持参しないと、闇鍋は食べる資格がないらしいんですよね」 「私は故郷の点心を作って行くつもりよ」 「がう? お菓子は全部、点心です」 「にゃ、兄上、姉上どうするです?」 「万商店の月餅も、点心の一つやで? あれ、つくるん?」 「あのね、天儀では『桃の節句』とも言うんだ。兄上が最初に担当した依頼も雛まつりだから、間違いないよ」 「じゃあ、桃包(タオバオ)が一番ね。縁起の良い食べ物で、お祝いのときに食べるもの♪」 猫開拓者は置いてきぼり、猫族一家の中で話が進む。新人ギルド員は、簡単に説明した。 桃包。桃の実の形に似せて作る、あんこが入った食べ物。桃色の皮に包まれ、きちんと二枚の葉っぱまで装飾する、蒸し料理。 甘味のある点心、甜点心に分類される。「寿包」「寿桃」とも呼ばれ、誕生日の祝いに食べることが多い。 ……天儀では、「桃まん」や「桃饅頭」とも認識されるとか。 「泰料理は珍しいと思うんですが……天儀の『まんじゅう』に、似ている気がするんですよね。僕らが珍しいと思う中身でも、天儀では普通の中身になる可能性があります」 「だから、中に入れるものを考えて欲しいの。外見は珍しいかもしれないけれど、中身がありふれたものでは、意味が無いわ」 今回、包む生地は、猫族一家が事前に準備してくれる。桃の色も葉っぱも着色済みで、葉っぱも形作っておくとのこと。 開拓者に求められるのは、中身の準備。何が喜ばれるのか、泰の獣人たちは分からない。 中身さえあれば、包んで、仕上げの飾りつけをするだけ。竹で編まれた泰の蒸籠(せいろ)で蒸せば、点心の出来上がり。 「うち、闇鍋を食べてみたいんや! 金はんも食べたい言うとったで」 「上の妹が覚えてくれば、うちの家族にも作ってあげられますからね」 新人ギルド員は虎娘が胸に抱いた、飼い子猫又の頭をなでる。外からは、甲龍の期待の鳴き声も聞かれた。 虎猫料理人の孫にして、猫族一家の長兄。兄としての義務と、料理好きの血が騒ぐ。 「美味しい点心を作るから、楽しみにしなさいね」 「にゃ! 最後に、飲茶です。一緒に、おやつするです!」 「がう♪ 姉上が誕生日に貰った『またたび茶』、美味しいのです♪」 折れ猫耳の猫娘から、熱い視線を感じる。双子の妹の影に隠れながら、内気な虎少年も様子をうかがっていた。 開拓者の返事も待たずに、約束する虎娘。無邪気に喜ぶ、双子と猫又と甲龍。 ……猫族は、総じてせっかちであった。 |
■参加者一覧
杉野 九寿重(ib3226)
16歳・女・志
劉 星晶(ib3478)
20歳・男・泰
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
月雲 左京(ib8108)
18歳・女・サ
蟹座(ib9116)
23歳・男・サ |
■リプレイ本文 ●点心師参上? 「点心作りと聞いて、さっき登録してきたんだぜ!」 ギルドの受付に近寄ってきた影。蟹座(ib9116)は、美食と芸術をこよなく愛す、サムライ。 「点心だろっ!? 任せとけ♪」 二つ返事で初依頼が決定。鼻歌を歌いながら、蟹座は腕まくりした。見習いの服が初々しい。 「つまりは桃包の中身を色々な具に変えて、皆に楽しんで貰うという事でしょうか?」 腰まである漆黒の髪を揺らし、杉野 九寿重(ib3226)は小首を傾げる。九寿重としては、闇鍋会場で話題になるのは恥ずかしい。常識的な範囲で済ませたい。 「雛祭りに闇鍋って……いろいろ間違ってるような……」 リィムナ・ピサレット(ib5201)の発言は、天地を揺るがした。聞きつけた伽羅が、問い詰める。 「早速だけど、雛祭りと闇鍋は関係ないから! 単に浪志組で、闇鍋が流行ってるってだけじゃないかなー?」 聖歌の冠を着けたリィムナは、神々しく透き通る声を響かせた。大声をあげる猫族一家。 「ヤミナベっつーのが良く解んねぇが、要はスープだろっ?」 蟹座は闇鍋を知らない様子。小麦色のほっぺを引っ掻き、悩む。 「スープに入れるんだったら、甘いモンより、水餃子や小龍包みてーなモンの方がいーかとも思うんだが…。天儀の流儀かなっ!?」 「そうかもしれませんね」 蟹座の質問に、劉 星晶(ib3478)も考え込む。世界は広い。 「闇鍋、饅頭……で、御座いますか? ……危うい中身にならねば良いのですが……」 月雲 左京(ib8108)は隠した緋色の瞳で、猫族兄妹の様子をうかがう。冷汗の原因、亜祈だった。 「前回えらいものが出来上がった亜祈さんの作業は、それとなく見守っています」 星晶の言う、「えらいもの」。チョコクッキーなる、ジルベリアの食べ物作りを手伝ったときに味わった、思い出。 どこか飄々とした星晶。言葉遣いこそ丁寧だが、視線が据わっている。 「隊士の皆も、あの炭塩の衝撃を味わえばいいと思います」 「……そんなに、凄い味で御座いましたか? いえ、食べたいとは、毛頭も思いませぬが」 「何を食べたんだ?」 興味をもった蟹座が尋ねてきた。黒猫耳が味わったもの。左京が捨てた、チョコまみれの物体。 九寿重が犬耳を伏せた、滅茶苦茶な火加減。リィムナが目撃した、砂糖と塩を間違える現場。 「つまり、塩味の消し炭のチョコレートクッキー……か。俺も、いらねーよ」 蟹座の表情が、精彩を欠く。聞くだけで胸やけしそうだ。 「とりあえず、そっと隔離ですね」 虎の装飾がされている闘士鉢金を締め直し、星晶は囁く。喜多を含め、大きく頷く面々。 「……何かあったら止めるつもりですが。闇鍋用には、そっちの方が良いような気がして複雑です」 どちらになっても、きっと面白い。星晶は青い目を細めた。食べるのが自分ではなくて良かったと、しみじみ。 「本場の中身は、これだぜ。まずは、旬の食材を下調べかな?」 蟹座は市場に繰り出す。桃包は本来、白あんである。白豆に合う、様々な食材を吟味。匂いを嗅いだり、かじってみたりした。 「思いっきり値切ろうね」 「あったり前だ、俺に任せとけーッて♪」 「無理は禁物ですよ?」 偉そうにしている奴に悪戯するのが好きなリィムナを道ずれに、蟹座は行く。他人の面倒を見る方を優先する九寿重も、心配してついて来た。 「……闇鍋そのものは、実家道場の余興で、よく見かけたものですが」 九寿重の視線は、遠くを見ていた。道場宗主の縁戚で、宗主の妹が母で、父が獣人になる。 「それはもう……色々な具を持ち込まれて、食べる際には阿鼻狂乱な状況が繰り広げつつ……」 阿鼻狂乱。なんとなく、九寿重の視線が遠い理由が判明してきた。 「宴会の勢いで皆ワイワイ囃したてながら頂いているのを、覚えているのですが……」 ピンとたった犬耳が、段々と伏せられていく。小さくなる九寿重の声。 「っていうか、財政状況がよろしくない浪志組の人達がやるのはどうかと思う」 闇鍋は、味や組み合わせによっては、食材が丸々無駄になるかもしれない。リィムナは別の観測も打ちだした。 「どんな味になっても、気合と根性と食欲で平らげちゃうのかなぁ?」 大根のはっぱも、煮込めば料理になる。リィムナは思った。……貧乏な浪志組なら、ありそうな気がする、と。 ●恐怖の時間 「生地があるのか? 皮から作れるので、少し残念だ」 台所に立つ赤い瞳が、しょぼくれる。後々、蟹座の腕前が活きてくるのだが、今では無い。 「やはり芋類でしょうか?」 餡に似せつつも、それなりに驚かれる。なおかつ、食べても大丈夫な物。 九寿重が選んだ、ジャガイモ、里芋、サツマイモ。……里芋がハズレ? 皮をむき、一口大に切り分けゆでる。竹串で、中まで火が通った事を確認した。 「そんなに食べられない物では有りませんし、精々食感が驚かれるくらいでしょうか」 九寿重の首が、かくりと傾く。ジャガイモのみ、バターを一緒に詰め込んだ。 「皆はどんなの持って来たのかな? さて、あたしが持って来たのは、バカリャウ!」 リィムナは四人姉妹の次女。一番下の妹が、故郷のジルベリアの国情調査に帰っていたらしい。 「お土産買ってきてくれたんだよ!」 バカリャウは、塩漬けタラの干物。すぐに使えるように、水に漬け、塩抜きして持ってきた。 「お次は乾燥肉! 歯応えあるけど、肉の風味が堪らないね!」 ピサレット家では、ジャガイモと合わせて、コロッケにする事が多い。 「んで、これは来る途中で買った納豆! 悪くない味になると思うよ。んで、後は甘味、干し柿でーす!」 「……普通に食べて、充分に美味しそうな餡が良いよな?」 リィムナの選んだ食材が、心配になってきた。蟹座が耳打ちすると、九寿重は犬耳を倒す。 「甘いものが苦手な方に、少し甘さを押さえた抹茶餡、そして甘いものが好きな方にはうぐいす餡を」 場を取りなすように左京も、持ってきた物を見せる。白あんに抹茶を混ぜたものと、青エンドウで作ったあん。 「桃饅頭の餡、で御座いますか……蓬餅(よもぎもち)や、兎饅頭を作りたくなりますね……」 色どり豊かな食材に生地、左京は考えを巡らせる。春の装いは、すぐ近くまでやってきていた。 「俺は、普通の物しか作れませんので」 蟹座の作った白あんを、生地に詰め込む星晶。膝の上で、子猫又が丸くなっていた。 「変わり種としては、杏のジャムでも入れてみようかと」 星晶の隣から、喜多と伽羅が手元を覗きこむ。二人の虎猫耳に説明して笑う黒猫耳。 「藤様用に、またたび入りも忘れませぬ。なおかつ、星晶様が食べぬよう留意で御座います」 泰の猫たちが、こたつに居座る様子を見やり、ぐっと拳を握る左京。……星晶はまたたびで、へろへろになってしまうとか。 ●雛まつり飲茶 「出来上がったら試食してみたいな♪ 飲茶楽しみー!」 リィムナは、妹たちと外を駆け回るのが好き。双子と庭のたき火の周りで遊んでいた。子供たちをあやす亜祈の声に、左京の興味が向く。 「家族……良い、ものでございますね……」 髪の毛をくしゃりと撫ぜる。アヤカシが来た日、左京の故郷は無くなった。 里民、両親、多くいた兄姉、妹弟、全て失った。唯一生き残った双子の兄は、保護された人間の手で……。 「……わたくしも、耳が御座いましたら良いですのに……少し、皆様の仲の良さが羨ましくなりました」 左の額上の平らに残る角痕を隠した左京は、一見修羅と判らぬ風貌。でも耳宛の下は、さきっぽがとがった耳。 猫族一家や、星晶の黒猫耳、九寿重の犬耳のような、獣耳ではない。リィムナや蟹座の人間の耳とも違う。別の声が、思考を中断させた。 「俺流、桃包だ!」 蟹座は自信満々に、蒸籠を運んでくる。蓋を取ると、湯気の中から天心がお目見えした。 「餡の中に色々入れたぜ。白ゴマに、胡桃(くるみ)、こっちは乾燥果物だ」 慣れた手つきで、点心を取り出した。目を輝かすリィムナに、手渡してやる。 「うん♪ われながら美味ぇ♪」 一つかぶりつき、蟹座は満足そうに頷く。勇喜も認めた歯ごたえのあるクルミが、白あんを引き立てていた。 「お味見を、願えます……でしょうか? …」 蒸しあがった点心を片手に、左京は懇願。星晶と喜多の服の裾を、おずおずと引っ張る。蟹座や勇喜の採点は、厳しそうだった。 「立派なひな壇にお人形を並べて飾って、皆で白酒を飲んで祝うんだよね?」 双子とまたたび茶を飲みながら、リィムナは雛まつりについて語っていた。 「雛祭り、わたくしの里では…ひいなあそびと呼ばれ、人形を飾り、桃を飾り、白酒や美味なる食べ物を食して、女子のすこやかな成長を祈る節句の行事で御座いました……」 左京が歌ってみせた、「灯りをつけましょ雪洞(ぼんぼり)に」と。 「天儀の雛祭りか、コイツも全然知らないな」 左京が人形を置く動作を、蟹座が眺める。興味深く聞くが、参加したいとは思わない。儀式や儀礼ばった事は苦手。 庭で、あくびをする金と理由は同じ。……そもそも、女の子の祭りだし。 「吊し飾りは綺麗でしたね。赤糸に吊された、古布で作った人形が色鮮やかでしたよ」 星晶は暇になると、天儀の彼方此方をふらふらしている。好奇心は強く、面白いモノ好き。 「あたしは飲んだ事ないけど、どんなお酒なのかなぁ」 「白酒と甘酒は違いますね」 リィムナの疑問に、儀の北面育ちの九寿重が説明してくれた。白酒はアルコール度が高く、天儀の子供たちにはご法度。甘酒は、飲んでも大丈夫。 「昔は、こうして唄をうたい、ひな壇を飾ったもので御座います。お雛様に、お内裏様……階段のようになった下には……」 亜祈の作った人形を借りて、簡易のひな壇を作る左京。ふっと、手が止まる。翠玉の耳飾りだけが揺れ続けた。 「わたくしのお雛様も、今や何処で御座いましょう……」 左京は、ぽつりともらす。冥越の隠れ里で、細々と幸せに生きていた日々が懐かしい。 「うぎゃっぴー、何だこりゃ!?」 雛まつりの説明に、蟹座の悲鳴が混じった。全てが不味かった、ひどく不味かった。 「それ、亜祈さんが作った、闇鍋会場行きですよ?」 「先に言ってくれ!」 振り返った星晶が、のんきに説明してくれた。蟹座は、必死でお茶を飲む。桃包を味わったことを、激しく後悔。 「……あとで、どうなったかの感想を聞かせてくださいね」 お土産のサツマイモの桃包は、死守した。雪うさぎの帽子をかぶり、返ろうとした九寿重は喜多に念押する。 ●闇鍋へようこそ 点心作りから、しばらく経ったころ。開拓者ギルドの受付の喜多に、呼び止められた。 浪志の鍋会場は、盛況だった様子。……薬を求める依頼も、ギルドに持ち込まれたとか。 「今から、うちに来ませんか? 闇鍋をするんです♪」 猫族一家、初の闇鍋。天儀の土鍋まで購入し、意欲満々。 「俺はアモーレ ムージコ パースタが大好きだ!」 ジルベリア語で語る蟹座も、興味津々。ちなみに天儀語に訳すと「愛 音楽家 麺が大好きだ!」と言う意味になる。 「あたしは、人間が食べられる味のものなら頂けます!」 リィムナは右手をあげて主張。守備範囲は広いが、味にうるさい勇喜と似たり寄ったり。 「闇鍋……何と胸の高鳴る素敵な響きでしょう。特に亜祈さんが参戦すると聞いてから、鼓動はまるで早鐘のようです」 警鐘を鳴らし続ける、鼓動。額の嫌な汗をぬぐう星晶は、視線をあさっての方向に向ける。 「……というか、亜祈は大雑把ですから。ノリでとんでもない様な物を、具にしそうな気がします……」 九寿重は、リィムナに教えて貰った「とれんでぃなジルベリア語」を思い出す。「マイペース」かつ、「ゴーイングマイウェイ」な、亜祈の性格。 「闇鍋は藤様に渡す際は、よく冷ましませんと」 左京の中では、既に参加が確定。問題児の亜祈が居る時点で、子供たちが危ういと。 「青龍・九寿重、ここに推参……ですかね」 九寿重が、闇鍋の戦場に乗り込む。これも、一流剣士へなる為の修行? 「司空家の皆さん、今回もよろしくっ!」 元気なリィムナの声が来客を、開拓者たちも家に入る。来客に喜んだ双子と藤は、庭で煮込む鍋を指差した。 「がう、金しゃんに手伝って貰ったです♪」 「にゃ、お魚たくさんです!」 「海の匂いやで♪」 闇鍋は、好きな具材を使って良い。大好物を集めたら、海鮮鍋が出来上がった。 「なんでも良いんですよね?」 帰宅した喜多は、味付けを失敗したキムチを見せた。最後は、注目の亜祈の食材。 「昨日のご飯よ、冷ご飯。浪志組で聞いたわ、天儀の食べ方なんですって♪」 ……喜多と亜祈の食材は、泰の鍋に回された。金の目の前で、キムチ雑炊が湯気をあげる。 「俺は甘いのも好きだけどさ、甘いのばかりじゃ飽きてしまうよな?」 勇喜に桃包をせがまれた蟹座は、立ち上がった。双子の頭をかき混ぜると、一緒に家の奥に消える。 待ちぼうけ。またたび茶の飲めない星晶は、珍しい飲み物をご馳走になっていた。 「干し柿の飲み物、面白いですね」 「へたを煎じて飲むと、おねしょに効くっていうんで、姉ちゃんがいっぱい買ってきてくれて……」 ハッとなり、口を押さえるリィムナ。黒猫耳が動き、湯呑からリィムナに視線を移動する。 「おねしょですか?」 「ち、違うよ? あたしじゃないよ? えっとその、……妹がまだしてるから!」 リィムナは、大慌てで誤魔化す。見た目通りのお子様で、実はまだおねしょをしているのは内緒。 「お土産を買ってきてくれた子か」 点心を手に蟹座は、こたつに上がり込む。記憶を辿り、バカリャウを思い出した。 「ほれ、特製の小龍包と水餃子だ♪」 泰出身の猫族一家の台所は、天心の材料の宝庫。蟹座は、腕によりをかけた。 「わー、点心闇鍋する?」 リィムナは、点心を覗きこむ。闇鍋に入ると、なんでも珍しい食べ物に早変わり。 「投げるのは、危険ですね!」 喜んだ亜祈が、蟹座の返事を待たずに投げ込む。九寿重は警戒心をあらわにした。 「猫に危険なものでないか、気をつけるべきで御座いましょう!」 同じころ、左京の咎める声。星晶が何気なく、藤にアワビを与えようとした。 「……友達に大声で脅かされるなんて。嗚呼、何という悲劇」 「いえ、あの……その!? も、申し訳ございませぬ、そのように泣かぬで下さいませ!」 びっくりして泣き崩れる星晶に、慌てる左京。黒猫耳が泣きマネをしているなんて、考えもしない。 「藤様、お味は如何で御座いましょう…?」 気を反らせるように、子猫又にサワラを差し出す。藤はご満悦で、三毛猫しっぽを揺らした。 |