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■オープニング本文 ●東和の戦い 北面の王たる芹内王の下には、北面東部の各地より様々な連絡が届けられていた。 アヤカシの軍勢は、蒼硬や翔鬼丸の撃破といった指揮官の多くを失し、何より、魔神「牌紋」の力をも取り込んだ大アヤカシ「弓弦童子」の死によって天儀側の勝利に終わった。各軍は疲労の極みにある身を叱咤激励して逃げる敵を追撃し、一定の打撃を与えもした。 しかしその一方で―― 「敵は新庄寺館より動く気配無し。朽木にたむろするアヤカシも周辺に出没し始めております」 「ううむ」 芹内は思わず唸った。敵に確か足る指揮官を欠いているがゆえだろうか。アヤカシは先の戦いで一部破損はしているものの、かつて北面軍が防衛線の一角に築いた城を、今は自らの拠る城として立て篭もっているのだ。 また、各地には、はぐれアヤカシが跋扈し、朽木の奪還もこれからだ。このままでは、弓弦童子を討ったとヘいえ、東和平野の一角がアヤカシの手に落ちてしまう。 どうやら、まだまだ休むことはできないらしい。 ●新庄寺館 弓を背負った弓術師は、雪で白くなった平野を踏みしめた。くるぶしまで足が埋まる。丘の上の新庄寺館を見上げ、白い息を吐き出した。 「仁(じん)、絶対に離れるんじゃないぞ」 「……うん、分かってる」 小さな開拓者は、上の空で答える。一本角の修羅少年の視線は、前方に居る、ある修羅の背中を追っていた。 「……修羅の王に、会えて良かったな」 「うん! 弥次(やじ)さのおっちゃんに頼んで良かった」 亡くなった父母から聞いた、伝説の修羅の王。今は王を退いたと聞いたが、修羅少年の思いは変わらない。 強く、頼もしい、憧れの存在。遠くから姿を拝見できただけで、満足だった。 「俺たちの役割は分かっているな?」 弓術師は、霊騎の率いている朋友たちの方向を見やる。奇襲部隊の方向に、まだアヤカシは向かっていない。 「おいらたちは、空のアヤカシの攻撃でしょ? これがあれば、大丈夫ってんだ!」 修羅少年は、宝珠砲の練力の充填に、意識を集中する。シノビである修羅少年の投擲が届かない距離でも、アヤカシに攻撃できるはず。 ベテランギルド員でもある弓術師は、開拓者の方向に向き直った。いつもの癖で、説明が飛び出る。 「あれは、『宝珠砲』と言って、練力を込めれば、砲術士でなくとも砲撃ができる代物だ。中型を借りたから、射程は問題無い。充填に時間がかかるのが、難点だな」 山なりに飛ぶ弾の軌道修正は、修羅少年が行う予定。とりあえず一発撃たない事には、角度の修正も行えない。 「アヤカシから奪った投石機もあるが、投げられる石は重いからな……。石が無ければ、戦力にもならん。 宝珠砲も練力が無ければ、役に立たんし。二つとも、ちょっと扱いが難しいかもな」 普通では、扱いが難しい。でも、工夫すれば役に立つ。 「まあ、いい。とりあえず、新庄寺館城の上空は、アヤカシに抑えられている。敵が城から打って出てこないように牽制しつつ、正面門に注意をひく必要があるぞ」 話題を切り換える弓術師。アヤカシを散らさず、砦の空を押さえておく事が、後方支援の役割と言う。 朋友を伴った奇襲部隊が、突撃に専念できるように。元修羅の王の率いた面々が、心おきなく暴れられるように。 「今はアヤカシ殲滅より、新庄寺館の奪還が先決だ。新庄寺館は、数百人が駐屯できる規模の砦。そこが全部、アヤカシに乗っ取られているのが現状だ」 アヤカシを追い散らし、新庄寺館を取り返せなければ、周辺の住民たちは戻れない。東和平野に、アヤカシの台頭を許す訳には行かなかった。 「ギルド員が、前線に出張している理由か? ……子守だ」 十一才の修羅少年を見やり、苦笑を浮かべる弓術師。養い子は、子供ゆえに突拍子の無い行動をとる。 どこで聞きつけたのか、「憧れの修羅の王に、会いに行きたい」と、正座して願い出た。弓術師は放ってもおけず、万商店の宝珠砲輸送の護衛として連れ出し、一緒に北面に赴く。 「おっちゃん、アヤカシが来た。宝珠砲は、いつでも撃てるってんだ!」 前方が騒がしくなった、正面門で戦いが始まっている。宝珠砲の砲身を叩き、修羅少年は叫んだ。 空を見渡すと、奇襲部隊はまだ発見されていない様子。ならば、取るべき行動は一つだ。 「お前さんたち、頼んだぞ」 弓術師はいつもの癖で、信頼の眼差しを送る。ギルドの受付から、数多の開拓者を見送ってきた眼差しを。 |
■参加者一覧
バロン(ia6062)
45歳・男・弓
琥龍 蒼羅(ib0214)
18歳・男・シ
劉 星晶(ib3478)
20歳・男・泰
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
神座亜紀(ib6736)
12歳・女・魔
ウーサー(ib6946)
26歳・男・砂
影雪 冬史朗(ib7739)
19歳・男・志
嶽御前(ib7951)
16歳・女・巫 |
■リプレイ本文 ●空の敵 「あれだけ落としたというのに、まだ湧いてくるか……」 バロン(ia6062)は顔をしかめて、げんなりする。数えるのも面倒なほど、アヤカシは空にひしめいていた。 バロンの率いる白獅子小隊は、合戦で空戦を行った。相当な数のアヤカシを仕留め、霧散させたはず。 「大将を仕留めても、戦ってなかなか終わらないものですね」 手のひらに気を集中する、劉 星晶(ib3478)。神通力の宿る小さな石、天狗礫を転がしている。 「新庄寺館に巣食うアヤカシ、絶対退治しないとね。ボクだってアヤカシ退治の神座家の一員だよ」 神座亜紀(ib6736)は、バロンや弥次を見上げる。いわゆるファザコンの気がある為か、ナイスミドルに弱い。 「ふむ……少しでも敵の注意をそらすことが出来ればいいが……」 影雪 冬史朗(ib7739)は、思案顔。奇襲する部隊は、見つからずに近づけただろうか。 「下級アヤカシばかりとは言え多数、種類も様々……か」 黒い戦弓「夏侯妙才」を手に、琥龍 蒼羅(ib0214)は呟く。仁の方向に歩み寄り、声をかけた。念押し、状況に応じて砲手を務めると告げる。 「敵アヤカシの内、自爆霊は最優先で処理しておくべきだな。兵器を直接狙ってくる可能性が高い。それに加え、自爆の破壊力は厄介だ」 神妙に頷く仁の肩を、蒼羅は叩いた。口数も多くなく、その言動から誤解される事もあるが、人付き合いは悪くない。 「合戦の時は、あたしは空からアヤカシ軍団に魔法撃ち込んだんだよねー。記念銀子も、その功績で貰ったんだ」 興味を持った仁にせがまれ、リィムナ・ピサレット(ib5201)は【北戦】記念銀子を見せる。 「今回も隕石弾で、纏めて吹っ飛ばしてあげるよ!」 かんじきの履き心地は良好、仲間の反応も上々。お茶目に片目を閉じて、リィムナは宣言した。 「俺の名はウーサー! ウーサー・カイルロッドだ。よろしく願う」 「よろしくってんだ!」 ウーサー(ib6946)から、力強い声が響く。男同士の挨拶。ウーサーと仁は、手を打ち合った。 「嶽御前と申します。よろしくお願いします」 次は、嶽御前(ib7951)に、仁は近づいていった。同じ修羅に、興味津々の様子。 屈みこみ、仁と視線を合わせる嶽御前。にっこり笑うと、八重歯が見えた。 「来たぞ! 四時の方向!」 砦を再び見たウーサーは、叫んだ。振り返った格好になるから、砦は六時の方向にある。 ウーサーは魔槍砲「コイチャグル」を撃つ、振動で雪が舞い上がった。色は違うが、砂漠の砂が舞う様子に、どこか似ている。砂迅騎は宝珠に練力を込めながら思った。 「兵器を守るために全力です」 星晶は石を握り込み、目標を確かめる。螺旋を放った。ウーサーの示す方向に投げつけられた小さな石は、鋭く回転する。 「まあ良い。それでも出来る限りの事をするだけだ。どの道、そうするしかないのだからな」 弓「幻」に、手がかかる。「派手に暴れてやろう」、バロンは言い切った。奇襲を行なう者達の為にも。 「今回は空の敵を地上で迎撃か……合戦の時とは立場が逆だね」 敵には空中連れ去り攻撃や、武器奪取を仕掛ける奴もいる。リィムナの作戦に変更はない、隕石弾で全て吹っ飛ばすのみ。 杖「砂漠の薔薇」を掲げた、リィムナの頭上に火炎弾が召喚される。正面攻撃部隊を避けながら、アヤカシに向かって放たれた。 宝珠砲は蒼羅の手によって、最初の砲撃が放たれた。轟音をたてて、空を貫く。 宝珠砲の準備は仁に任せ、蒼羅は弓をつがえる。黒い宝珠が輝き、渦巻く風をまとった。 「翔けろ……、風刃」 風の刃をまき散らしながら、一直線に飛ぶ矢。アヤカシの群れを突き抜ける。 「どうやら、凍らせて闘う戦法を用いるようだ……、足元を注意して動く必要がありそうだな……」 翼腕鬼が羽ばたくと、氷雪刃が襲ってきた。凍えそうな風をこらえ、冬史朗は踏みとどまる。 「ふむ……俺に出来る事はやらせてもらおう……」 宝珠砲の前に立ちふさがり、冬史朗は前方を見据える。雪は凍り、足場が悪くなった。滑りやすい地面に注意しながら、突き進む。 「角度はこれでよろしいですか?」 最初の雪弾は、砦の掘に落ちてしまった。嶽御前は弥次といっしょに、投石器を調節する。 やり方を教われば、自分にも扱えるはず。嶽御前の努力は、のちに報われることになった。 「お姉ちゃんじゃないけど、住む場所を追われた『北面の人達の明日を取り戻す為』にもボク、頑張るよ!」 神座家三女は、姉妹の中では一番現実的な性格をしている。神の祝福を受けた聖なる矢は届かない距離。 杖の栄光の手から、狭間筒「八咫烏」に持ちかえる。弾丸は、太陽の使いとされる八咫烏のように敵を貫いた。 ●寒の国 戦闘が始まる前のこと。投石機の側で、秘密兵器を見せ合う娘たち。 リィムナ、薪。亜紀、中華鍋。嶽御前、塩。 「おぬしら、何をするつもりじゃ?」 「さあ、落ち着いていこう。焦る事はない、この戦い俺達は勝てる! やれる!」 戦陣は的確な攻撃や連携を指示し、仲間の戦闘力を底上げする技法。ウーサーは、悩めるバロンと弥次の背を叩いた。 とにかく総出で、中華鍋に雪を盛る。少し離れた所には、薪を積み上げる者たちの姿。 「ねぇ、ねぇ、火は着くかな?」 「問題ない」 とにかく元気で勝気で強気なリィムナも、心配顔を見せる。座り込んだ冬史朗は、中身はとても優しい。薪の山に火をつけてやる、たき火ができた。 取っ手のない金タライは、やけどの危険があり止められた。リィムナは炊き出し用の鍋を借りて、たき火に乗せる。中身は雪。 「嶽御前さん、準備できたよ」 「では、我の出番ですね」 たき火に拍手をしていた嶽御前、亜紀の呼びかけで移動。中華鍋の雪に塩を振りまき、軽く踏み固めた。 前頭部両脇から黒光りする角を持つ修羅は、サバイバル生活が長かった。開拓者になってからは、新しい分野も学習中で、仕入れた知識は広い。 「中華鍋ですか、懐かしいですね」 星晶は泰国出身。目を細めながら仁と、二つの鍋を合わせる。半円同士がくっつき、一つの丸になった。 こちらは研究者である父を尊敬している、亜紀の提案。膝まで届く少し癖のある自慢のロングヘアが、揺れている。 「水をかければ良いんだな?」 炊き出し鍋の雪が解けた。どんな状況でも落ち着き払っている蒼羅は、雪玉に水をまく。なぜか亜紀のフリーズが、雪玉に炸裂した。 「寒いとこだと、雪像に水かけて一晩おくと凍るんだ」 「考えたのう」 ジルベリアは雪の国。妹たちと外を駆け回った、リィムナらしい考え。ふっと、故郷を思い出すバロン。 「硬くなりましたね、完成です」 「やった♪」 嶽御前は毛皮の手袋をはめて、雪弾をさわり確かめる。亜紀は喜んで、飛びはねた。 ●忍び寄る影 「すぐ側に、瘴気を感じます。 南東に十七と、真後ろに……九?」 ちらつく雪は視界をさえぎった。瘴索結界を使った嶽御前の叫びは、絶望的なもの。 「南東と真後ろって、宝珠砲と投石機の後方ですよ!」 頻繁に動く星晶の黒猫耳は、西からの叫び声を捉えた。隣にいた仁の体が崩れ落ち、震え始める。 「しまった! ヒダラシの飢餓感染の効果は、広く及ぶんだ」 さっきから動悸が治まらない、冷汗が出ていた。一般人ならとっくにあの世行きと、舌打ちする弥次の説明。 「後ろじゃと?」 思わぬ報告に、前方に陣取っていたバロンは振り返る。投石機の方は、嶽御前が見つけ出し、撃破していく様子が見えた。問題は宝珠砲、探索が間に合わない。 「居た! 七時と五時の方向!」 バロンの隣、最前線からバダドサイトを使ったウーサー。スナイパーゴーグルをつけた両眼は、見つけ出した。いつから居たのが、雪煙に黒いもやが潜んでいる。 「射手役、変わります」 「お願い、任せたよ」 嶽御前は雪弾を転がし、投石器の発射口に置く。やり方は教えて貰っている。ちらりと確かめた亜紀、弓をひく弥次が見えた。 ホーリーアローに混ざり、弥次の矢も飛び始める。地上の空中戦の開幕、知らぬ間に背後を取られたのは痛い。 「あたし、そっちに行くよ!」 宝珠砲に向かって叫び、リィムナは五時の方向へ移動する。閃光と共に電撃が駆けた。 杖の先からは、吹雪が吹きつける。アヤカシの視界は、少し鈍くなっていった。 「心得た」 駆け出した冬史朗が無表情なのは、無心の修業をしていたから。苦しみを心中に隠し耐え忍ぶ、隠忍を身につけた。 「フェイントで敵の注意をひいてみる……狙えそうなら、狙ってくれ……」 珍しく冬史朗の青い瞳が、わずかに細められた。懐からヴォトカを取り出し、空へ投げる。 七時の方向のヒダラシも、なるべく優先して倒しておきたい相手。蒼羅は、無言で頷く。 瞬間、冬史朗に殺気が宿った。白銀がちりばめられた黒い刀身が、空を大きくなぐ。 冬史朗がヴォトカを叩き切ると、酒が飛び散った。空に注意を向けたヒダラシと、闇照の剣にかかったしずくが輝く。 「天墜の名……伊達では無い」 蒼羅は斬竜刀「天墜」に手をかけた。構えすら見せない自然体から放たれる返しの技は、神速の域に達している。 反応の遅れた敵は、手のようにもやを動かした。蒼羅に迫る攻撃は、紙一重で避けられる。すれ違い様に放つ居合。 雪が舞う、雪が散る、雪が手折る。抜刀術の一種、雪折。 何事も無かったかのように、素早く鞘へと刀を収める。瞬きをする蒼羅の後ろで、敵は霧散した。 「……大した威力はないだろうが、万が一の足止め位にはなるだろう……」 影に舞う雪もある。冬史朗の身体が、微かな青い光を発した。纏う精霊力は、攻撃を受け流す。 風の外套がはためき、大きく踏み込む右足。握る剣は、炎を立ち昇らせていた。 冬史朗は怒る時も、物静かに話す。静かなる赤い太刀筋。一撃のもとに、敵を斬り伏せた。 「ええ、お手伝いさせていただきますよ」 仁は意識を失っているが、生きていた。確かめた星晶は、宝珠砲に小さな体を預ける。 首のジン・ストールを、目元まで引き上げた。表情の伺えなくなった星晶。 黒猫耳は穏和で物静かだが、過去に関しては色々あった様で多くを語らない。ただ、幼い頃にアヤカシの襲撃で故郷を失ったのは事実。 蒼羅と冬史朗の隙をついて、自爆霊が近づいてきている。宝珠砲を取り囲んだ。 脚絆「瞬風」を着けた星晶の足が、一番近くの敵を蹴る。直後に発動した真空の刃は、周囲の敵を切り刻んだ。 「俺にとっては開拓者としての初陣だ。だからこの戦い、勝利して飾ろう……」 前線のウーサーは苦戦する。後ろを見ていた隙に、敵が迫っていた。左腕を押さえる、血が流れて銃を構えられない。 「しっかりせぬか!」 狩射を使ったバロンが駆け付けた。囮を引き受け、ウーサーと敵を引き離す。空から雪弾も降ってきた。 「頑張ってください、治療します」 以津真天の毒に置かされていたウーサーの体が、光に包まれた。爽やかな風が吹き、傷が治っていく。嶽御前の解毒と神風恩寵。 バロンは強く弦を引く、矢と己が一体化する感覚。放たれた強射「弦月」は、羽猿を射抜く。墜落を確認する暇もなく、次の矢をつがえた。 空を翔ける、アークブラストとホーリーアロー。遅れて、矢が飛んでくる。 投石機のそばで、亜紀とリィムナ、魔術師たちが手を振っていた。敵は片付けたと、弓持つ弥次が頷く。 宝珠砲の方も、蒼羅が撃つ体勢に入っていた。仁も意識を取り戻した様子。星晶と冬史朗が、砦の方に疾駆する。 戦場は一人ではない、仲間がいる。初陣のウーサーが手に入れた、思いと力。 「ありがとう! いくぞ、何よりも牙持たぬ民の為に!」 ダナブ・アサドは、獅子の尾を意味する。砂漠の色の魔槍砲と言う牙を携え、ウーサーと言う獅子は吼えた。 ●終結宣言 空飛ぶアヤカシが、西の空に去っていく。砦の中から、朋友たちが戻ってきた。 中に突入した奇襲部隊や、前方の攻撃がうまくいったようだ。奪還作戦の終焉、後方の開拓者から歓声が上がった。 「わしはただの弓兵だ。それ以上でも、以下でも無い」 仁の称賛に、弓掛鎧「山伏」を身に着けた弓導師は腕組みをした。見た目通りの頑固親爺のバロンは、戦場では寡黙で厳しい顔を崩さない。 戦場の何処からでも、何処にでも攻撃できる。戦況を味方につけ、有利に戦い抜く。バロンにとっては、当たり前の事。 「〜てんだ!って修羅の方言なの?」 「おいらの里では、使ってたってんだ」 「我は使いませんから、方言? ……なかなか面白い♪」 亜紀はさまざまな地域の言葉に興味がある。炊き出し鍋に作った携帯汁粉を渡しながら、修羅たちに尋ねた。知識を得られる機会は逃さない。 汁粉を飲みながら、嶽御前は少し考える。精霊鈴輪を鳴らしながら、くすりと笑った。話に聞いていたよりも、ずいぶん世界は広い。 「俺にも頂けますか? 寒いと心が折れますからね」 仁と一緒に、手を差し出す星晶。ちゃっかりとたき火前に陣取り、汁粉をご馳走になる。 「……足りるのか?」 「こうすれば良いって!」 たき火に薪をくべる蒼羅は、ぼそりと尋ねた。ウーサーは、気軽に雪を放り込む。溶けると水になると学習済み。 「飲んでみてくれ」 冬史朗は口数も少なめに、眼前の光景を眺める。表情及び感情の起伏が極端に少ないが、そのせいだけではないはず。 とりあえず鍋をかき混ぜ、ウーサーと弥次に味見を託す。ご機嫌に飲むウーサーの隣で、弥次はむせ込んだ。 「甘くて、あったかくて、おいしいよ! はい、どうぞ♪」 見た目通りのお子様のリィムナ、増えた汁粉に大喜び。満面の笑顔で、薄くなった汁粉をくみ上げる。味見した後、まだ飲んでいない者たちに差し出した。 無言で顔を見合す、青年たち。蒼羅と冬史朗に、逃げ場はなかった。 |