白梅の咲くころに
マスター名:青空 希実
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや易
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/03/29 20:40



■オープニング本文

 青年は立っていた。山の上からは故郷が見える。朱藩中をめぐり、帰ってきた。
 村を旅立ったのは、今と同じ白梅の花が咲く季節。
 二年ぶりに会う幼馴染は元気だろうか。同い年だから18歳を迎える、きっと美しい娘になっているに違いない。
 思いをはせると、足早に山道を下り始める。

 村の入口の木が青年を出迎える、二年前に幼馴染と別れた場所。白梅が咲いていた。
 あの頃の自分は田舎暮らしが嫌だった、華やかな都に憧れた。幼馴染と村を捨てて旅に出た。
 違う。逃げるように村をあとにした。
 旅に出て分かった。自分がどれほど弱かったか、思いあがっていたか。
 失って知った。どれほど故郷が好きで、幼馴染を大切に思っていたか。
 村の中の道を歩み始める。まずは幼馴染の家を目指そう、実家はそのあとでもいい。
 ずっと待っていると告げた幼馴染の声が、耳に残っている。
 まだ待っていてくれるだろうか。待ってくれていなくてもいい、ただ会いたいと願う。

「おりん!」
「‥‥清太郎‥‥?」
「おりん、待たせた!」
「‥‥清君‥‥おかえりなさい」
 青年は叫んだ、畑で野良仕事をしていた娘の動きが止まる。ゆっくりと振り返った娘の瞳は驚きを示した。
 青年は駆け寄ると娘の手をぐっと握り、娘もしっかりと握り返した。二人にそれ以上の言葉は必要なかった。
 その場にいた誰もが青年の登場に驚きに満ちた。驚いた後は、懐かしい顔に嬉しがった。
‥‥快く思わない者もいた。

「渡したいものがある、あの日の返事だ」
「え‥‥」
 青年は小さな風呂敷包みを取りだす。二年越しの返事は受け取ってもらえるのだろうか。
 包みが渡される瞬間、娘は躊躇した。沈黙が流れる。
 急に青年はバランスを崩し、包みを取り落とした。体当たりした人影は、素早く地面に落ちた包みを拾う。
「良助、なにをするの!」
「‥‥良助?」
「清兄ちゃんのばかやろう!姉ちゃん、泣かせたくせに」
 娘は人影に向かって声を上げる。青年は人影をみた、睨みつけているのは幼馴染の弟だった。
 13歳の少年は、青年が旅立った日から娘がしばらく泣き暮らしたのを覚えている。今頃、のこのこ帰ってきたのが許せなかった。
 少年は包みを持ったまま、裏山に向かって走り始める。
「良助!どこへいくの」
「待て、良助。話を聞いてくれ!」
 娘は弟に声をかけるが、少年は止まらない。青年は山へ向かう少年を追いかけて行く。二人の姿は、まだ枯木が目立つ山へ消えた。

 二人が山に入ってから三日が過ぎた。村総出で探したが見つからない。
 山は雪解けの季節を迎え、地盤が緩んでいた。山を知っていても転び、怪我をする村人まで出る始末。
 捜索した村人の話では、山を流れる小川に向かって、いくつも地滑りが起きていたという。青年と少年は地滑りに巻き込まれたのかもしれない。
 小川は緩やかな流れで村につながっているので、川伝いに村に戻ることはできる。源流まで歩いても半日ほどの距離だ。
 しかし雪解けの川の水は冷たく、もし怪我をしていたら徒歩で戻るのは困難だろう。
 裏山に熊や狼がいると言う話は聞いたことなく、ケモノに襲われる心配はないのだけが救いだ。
 青年と少年の家族は話し合い、ギルドに捜索願が出された。二人が生きているか、わからないが。


 村の入口で娘は開拓者を待っていた。
「どうか良助と清君を‥‥、弟と幼馴染をみつけてください」
 大地に散った白梅が広がる。その上に娘の涙がこぼれ落ちた。



■参加者一覧
ユリア・ソル(ia9996
21歳・女・泰
アルーシュ・リトナ(ib0119
19歳・女・吟
ニクス・ソル(ib0444
21歳・男・騎
杉野 九寿重(ib3226
16歳・女・志
羽喰 琥珀(ib3263
12歳・男・志
リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386
14歳・女・陰


■リプレイ本文


「良助はまだ子供です、清君もどうしているのか‥‥」
「‥‥弟も幼馴染も大切なのだな‥‥その気持ち解る」
 りんは伏せ目がちに話し始め、不安そうに胸の前で手を握りしめる。真剣な面持ちでニクス(ib0444)は相槌を返した。
「私も皆さんと一緒に、探しに行きます!」
「駄目だ。二人は絶対に連れて帰ってくる、だから君は迎える準備をして待っているんだ」
「捜索は私達に任せて、あなたは二人が帰ってきた時の為に、美味しい食事の用意をしてくれる?私達の分も忘れずにね」
 決心したりんの瞳がニクスに向けられた。大きく被りを振るとニクスはゆっくりと諭しかける。
 ユリア・ヴァル(ia9996)は茶目っけたっぷりにウインクを送った。片手は恋人のニクスの指に絡めながら。
「待ってる間、心配かけた二人をひっぱたく準備と説教考えときなって」
 鼻をこすりながら羽喰 琥珀(ib3263)も笑う。虎しっぽが力強く振られていた。
「お二人の無事を此処で祈っていて下さい。良助さんを叱らずに迎えて。そして清太郎さんに答えを。
それが何よりのお迎えになるでしょうから」
 一言、一言を大事に告げながら、アルーシュ・リトナ(ib0119)は、りんの手を包み込む。
「いや〜、青春やってるねー」
 少し後方で、なぜか腕組みしながら目を閉じ、頷きまくるリーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)。
「お揃いの伊達メガネなんて、みんなラブってるわねぇ」
「色恋沙汰は、まだ私には無縁なので‥‥」
 杉野 九寿重(ib3226)は服を引っ張り、耳打ちするリーゼロッテから逃れようとする。
「あらそう?ほらほら、さりげなく手が!」
「そういう詳しい事は私ではなく、他の方に任せて貰えませんか」
「あらあら♪じゃ、そうするわ」
 ユリアとニクスから外した視線は、落ち着きなく辺りをさまよう。いつもはピンとたった犬耳も、ちょっと伏せ気味だ。
 リーゼロッテは悪戯っぽく笑うと、九寿重の薄紅に染まった頬を軽く突く。やっと絡むのをやめた。

「二人の行きそうな心当たりは?」
「よく私たちが遊んだのは、山の頂上の梅の木です。良助は父に怒られると、その木のそばで泣いていました。
‥‥捜索した時は、二人とも居ませんでしたけど」
 尋ねると間髪おかず、りんの返答があった。居なかったの部分で目が伏せられる。一番に探した場所なのだろう。
「梅の木ですね、良助さんはそこに向かったのでしょう」
「居なかったとしたら、途中で地滑りに巻き込まれたのかしらね」
 九寿重とリーゼロッテは顔を見合わせた。自然と二人の視線が厳しくなる。
「あ、山の地図を描いてもらいたいんだ。地滑りの場所とかさー」
「山小屋の場所などもお願いします」
「分かりました、しばらくお待ちください」
 琥珀とアルーシュが大事なお願いをする。りんは頷き、承知した。

「お待たせしました、ニ枚でよいですか?」
「ありがとうございます」
「大事なこと、聞き忘れていたんだけどさ。りんは清太郎の事、どう思っているんだ?」
「それは‥‥」
「はいはい、頂上班はあっちよ!」
「遅れないように、行きなさいね」
 琥珀が何気なく尋ねた言葉に、りんの顔がこわばり無言になる。
 ユリアが琥珀の襟首を捕まえた。リーゼロッテも腕を掴み、強制的にりんの前から退場させる。
「色々お騒がせしました。青龍・九寿重の名にかけて、これ以上のご無礼がないように見張っておきます」
 九寿重がにりんに謝る、見張りは任せてくれと胸を叩いてみせた。
「野暮はするもんじゃない」
「なんだよ、皆して」
「もう少し大人になれば分かりますよ。さあ行きましょう」
肩をすくめながら、ニクスも琥珀に忠告。納得がいかないやんちゃ小僧に、おっとりとほほ笑むアルーシュ。
 ぼそぼそ文句を言いながらも、琥珀は九寿重とアルーシュとともに出発していった。


 山頂の梅の木は、源流からほど近い場所にあった。
「ここも白梅なのですね」
 ほのかに広がる香りに、アルーシュは目を細める。花は満開を迎えていた。
「見事な絶景ですね」
「すごい、すごい!」
 山里を一望できる眺めに、九寿重と琥珀は歓喜を上げる。遠くの方に、武天まで見える気がした。
「道伝いに、山を下りましょう。早くお二人を探しませんと」
 アルーシュは感激している二人に声をかける。
「あのさ‥‥、良助の居場所なら、分かった気がするな」
 振り返りながら、琥珀は少し考える仕草を見せた。虎しっぽがゆらゆらと迷いを表す。
「良助さんのですか?」
 不思議そうにアルーシュの小首がかしげられる。
「私も、ここまでの道中に心当たりがあります」
 登ってきた山道に九寿重の視線が向けられる。自信と予感に満ちた声音だった。
「そうですか。お二人について行くことにします」
 アルーシュは穏やかな笑みを浮かべると、先導をお願いする。
 良助と年齢の近い二人は、なにか通じるものがあったのかもしれない。今はその勘を信じよう。


 麓から登山する、ユリア、ニクス、リーゼロッテの三人組。少しの痕跡も見逃すまいと、慎重に探索を重ねていた。
「清太郎―、良助―、どこー?」
「聞こえたら返事をしてくれ!」
 枯木の続く中に、ユリアとニクスの声が空しくこだまする。何の音もしなかった。
「冬の山は厄介ね。本当に注意が必要だわ」
 バランスを崩したリーゼロッテは、そばの木に手をついた。ぬかるみに草原のブーツが捕らわれる。
「あ‥‥、ニクスちょっと来て」
「なん、だぁあーーー!」
 道端で手招きする恋人に、ニクスは近づいた。指差す先を覗き込み‥‥、叫びながら姿が川に向かって消える。
「大人だと、これぐらいの大きさになるのね」
「ユリア、ユリア・ヴァル!いきなりなにするんだ!」
「地滑りの実験よ、実験。協力ありがとうね」
「ボクで実験しないでくれ!」
 恋人の危機なのに、のんきに分析するユリア。下からニクスの切迫した声が聞こえた。手近な枯木にしがみついている。
 あっけらかんと笑う好奇心旺盛なユリアは、地滑りの大きさを知りたかったらしい。
体当たりされたニクスは、たまったものではないが。
「いやー、お熱いわね」
 うんうんと、頷きまくるリーゼロッテ。危険な実験が許されるのも、愛のなせる技であろう。



「このへんだと思います」
 九寿重が自信を持って案内した場所は、道から少し離れた岩場だった。
 木は無く隙間だらけ、子供たちなら秘密基地を作って大喜びだろう。琥珀の目が輝いている。
「良助さんを捜して下さいね?」
「へへっ。おーーい、良助か清太郎、どっちでもいーから居たら返事しろーーっ」
 困ったようにほほ笑み、アルーシュは釘を刺すのを忘れない。ごまかすように頭をかくと、琥珀は手ごろな岩の上に陣取った。
 心眼を発動させた九寿重は一つの岩影を指す。大人の入れない隙間に動く人影が見えた。
「良助さんですね?」
 覗き込むアルーシュは、ゆっくりと語りかけた。びっくりした人影は岩の奥に。
 琥珀は隙間に身を滑り込ませ、追いかける。逃げ場がないと知ると、今度は頭を隠した。
「りんさんが心配しています、出てきなさい」
 凛とした口調が響いた。
「自分が好きだと思う人を悲しませるのは、つたなくは無いですか?
皆に心配かけて悪いと思うのなら、出てきなさい!」
 聞いた者は、思わず背筋を正すような口調。九寿重は五人姉妹弟の筆頭だ、姉は厳しい。
 琥珀に手をとられ、良助は隙間から姿を表した。怖ず怖ずと、仁王立ちの九寿重の顔色をうかがう。
「まず言うべき事があるでしょう?」
「‥‥ごめんなさい」
「今度から、してはいけませんよ。分かりますね」
「‥‥はい」
 正面から九寿重は視線を合わせて、良助の目を見て話しかける。良助の目は涙で腫れぼったい。
 小さくもハッキリ告げる謝罪に、九寿重は表情を緩めて頭を撫でた。姉は優しい。
「お怪我はありませんか?」
 見守っていたアルーシュもしゃがみ込み、良助を気使う。
 コクりと頷く良助には、怪我らしい怪我も見当たらない。
「包みはどうしましたか?」
「泣くなよ、探そーぜ」
 良助の顔色が変わり、じわりと涙がにじむ。琥珀がポンポンと勇気づける。返事を待たず、九寿重は探し始めていた。


 山の中腹に差し掛かった頃。
「しっ、なにか聞こえないか?」
 人差指を口の前にかざし、ニクスは静止した。風の吹き渡る音にのって短く二回。何回か繰り返される、武天の呼子笛の音。
「良助が見つかったようだな」
「清太郎も早く見つけましょう」
 ニクスとユリアが頷き合う。リーゼロッテが手を開くと、カラスが頭を持ち上げた。漆黒の翼は、大きく羽ばたき空に。


「ありましたよ!」
 アルーシュが精一杯手を伸ばす。岩の隙間から包みを拾い上げた。
「今度は落とさないでくださいね」
「うん、もう落とさない。ありがとう」
 手渡すアルーシュに、良助はきっぱりと言った。包みを受け取り、しっかりと抱え込む。良助は包みを持ち、逃げはしたが返すつもりはあった。
 ただ隠れているうちに、なくしてしまっただけ。岩場で探していたが見つからず、涙にくれていただけ。


「じゃ、行ってくるわ」
 ユリアは腰に荒縄を括りつけると、太そうな枯木の幹に結ぶ。命綱を確かめると、眼下にある川の流れを見やった。
 人魂のカラスが捉えた着物姿は、この下の河原にいる。湿った土の匂いが鼻をつく、慎重に向かった。
「ね、あなたたち恋人なんでしょ?」
「そうだ」
「ユリアが降りて行ったわよ?」
「行きたいと言ったから、良いだろう」
「あなたは行かないのね」
「うるさいな、君には関係ないだろう!」
「はいはい、悪かったわね」
 地滑りを心配そうに見下ろしたままのニクスに、リーゼロッテは声をかける。
 短いながらも分かりづらい口調に、ニクスは辟易した。やり取りの末に、ついつい声を張り上げる。
 怒鳴られたリーゼロッテは退散した。
「‥‥甲斐性がない男は駄目ね。ユリアの将来が心配だわ、可哀そうに」
「‥‥!」
 ため息交じりのリーゼロッテの独り言。ニクスの耳に届き、心に突き刺さった。
 ニクスは無言で行動を起こす。もう一本の荒縄を取り出し、自分の腰と幹に括りつけた。
「ちょっと行ってくる、心配だからな」
「はーい、ここは私に任せていってらっしゃい」
 一言告げるとニクスも、キビキビと地滑りの先に向かう。ひらひらと手を振り、送り出すリーゼロッテ。
「‥‥こうでなくちゃね」
 完全に姿が見えなくなってから、満足そうに頷いた。



 集合場所の山の中腹の小屋。
 一同が固唾を飲んで見守るなか、清太郎と良助の間には沈黙が流れた。
 見かねたユリアが良助を引っ張る。アルーシュも決意した瞳で、清太郎の前に進み出た。

「良助、怒る気持ちはわかるわ。でも、お姉さんが清太郎を待っていたのは知ってるでしょ?二人を心配して待っているわよ」
「姉ちゃん‥‥」
「とびっきり怒ったら、その後はお姉さんの気持ちを大事にしてあげなさい。できるわね?」
「うん、分かったよ」
 なかなか素直になれない良助は、ユリアの真剣なまなざしに押される。
 良助は姉も清太郎も大好きだ。幸せになって貰いたい、そう思っている。
 姉を思わすユリアのほほ笑みに、良助は答えた。

「清太郎さん、二年間、りんさんを誰が支えていたのかお分かりですね」
「‥‥家族だろうな」
「お父様以外にも『お嬢さんを下さい』と、お願いすべき人がいますよね?」
「良助だ」
「ええ、大切な人の心を守ろうとした一人の男性ですもの」
「あいつも、いつまでも子供じゃないんだな。二年は大きいか‥‥」
 アルーシュの言葉に、清太郎は自嘲めいた笑みを浮かべる。
 手のかかる弟分は、立派になっていた。成長を認めなければ。
 そして、自分の事を認めて貰わなければ。

「清兄ちゃん、これ返すよ」
 ユリアに背中を押され、良助は一歩前に出た。両手で包みを差し出す。
「俺に返してもいいのか?」
「いいよ、清兄ちゃん好きだから。一つだけ約束してよ。
姉ちゃんを泣かせないで、泣かせたら許さないから!」
「‥‥!」
 良助の純粋な願いは、心に痛かった。清太郎は生唾を飲み込む。
「良助、右手で拳を出せるか?」
「‥‥?」
 言われるまま、右手を差し出した。清太郎の拳が軽くぶつけられる。
「俺がおりんを泣かせたら殴れ。男と男の約束だ!」
 無骨ながら清太郎の決意だった。それに答えて、大きく良助は頷いた。


 一息ついたのち、一行は山小屋を後にする。ひょいと、リーゼロッテが良助を捕まえた。
「あまり無茶しちゃダメよ」
「でも秘密基地は捨てがたいよなー」
 琥珀が援護に入るも、睨まれ退散。
「自分たちだけじゃなく、周りの人たちも大変になるんだから!」
「そうですよ。迷惑をかけるのは、金輪際にすることですね」
「はい、もうしません」
 九寿重の説教を受けて、良助はひたすら謝る。やっぱり姉は厳しい。
 ニクスは清太郎と肩を並べていた。切々と語りかける。
「心配する者を残して出て行った事について、どういう思いがあったかは、君にしかわからない事だろう。
だが、一つ確かな事は『女性の涙は高くつく』、という事だ。意図していようと、していまいと‥‥な。
大切であればあるほど‥‥自分に返ってくる。覚えておくといい」
 段々と背中を丸める清太郎の肩を、頑張れと叩いた。


 村の入口の白梅の下に、りんと清太郎が立つ。皆は離れた所で見守っていた。
「おりん、待っていてくれたのなら‥‥。今も俺を思っていてくれるのなら、これを受けとって欲しい」
「‥‥白梅の?」
 包みから取り出されたのは、白梅を模したかんざし。真ん中には真珠があしらわれている。
 りんは白梅の木を見上げた、花びらが風に乗り舞っている。無言のりんに、清太郎は言葉を失った。
 すっとりんの手が動いた、かんざしを髪に挿す。
「私に似合いますか?」
「ああ、綺麗だ。これ以上、なにも思いつかない」
 ほほ笑むりんの頬に、清太郎はそっと触れる。
 優しいセイレーンハープの音色が響いた。そして白梅の花吹雪が舞う。
「二人に春告草の祝福をってな♪」
「姉ちゃん、清兄ちゃん、おめでとう!」
 琥珀と良助が、驚く二人に笑顔をむけた。花吹雪の向こうで、アルーシュがハープを奏でている。
「熱いわねー」
「だから、私にふらないでください」
 リーゼロッテに服を掴まれた九寿重は、再び薄紅の頬をしていた。
「良い雰囲気だな」
「そうね。恋に落ちるのは一瞬でも、恋を繋げていくにはお互いに想いが大事よね」
 さりげなくニクスは恋人を抱きしめた。ユリア目は閉じて、ニクスの鼓動を感じる。
 恋人達の上に白梅の花びらが降る。いつまでも、いつまでも。