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■オープニング本文 ●男の娘ってなに? 「喜多、男の娘って、知ってるか?」 「なんですか、それ?」 「業界用語らしいぞ。お前、女装してこの依頼に行ってみるか? 志体が無くても、大丈夫だ」 「……はい? まあ、良いですけど」 「おい、冗談だ。女装だぞ!?」 「女装って、変ですか? 僕、妹が生まれるまで一人っ子だったので。小さな頃は、よく女の子の格好させられたんですよ」 「俺は絶対に女装は、やらん! 子供たちにも、女装はさせんぞ!」 新人ギルド員は、事もなげに衝撃の告白。一人息子と、修羅少年を預かるベテランギルド員は、口調を荒げた。 「うちの弟も時々、女の子の服をきていますよ? 逆に下の妹は、男の子の服ですけど。双子は、昔からお揃いの服ですから」 「……性別が違うのに、お揃いか? お前の家、変だな」 「そうですか? 妹が小さいうちは、僕と妹もお揃いでしたよ」 お揃いは、猫族一家の両親のこだわりらしい。兄妹たちは、自然に馴染んでいた。 「天儀には、そんな風習が無いんですか?」 「そう言えば……、幼少期は、女装させて育てる家もあると聞く。天儀もあなどれんな」 泰の猫族の意見に、理穴の弓術師は納得。泰も、天儀も広い。どんな習慣があっても、おかしくはなかった。 「今回の依頼は、泰で食べ物屋台の売り子をしてくれ。人手が足りないらしい」 ベテランギルド員は言い淀む、目の前の開拓者に事実を告げるべきか。 「その……売り子の性別も年齢も問わんが、『売り子』で通して欲しい。大人も、子供も、『子』だそうだ。 各種衣装も揃える、男装女装もドーンと来い! でも、『売り子だ』……とか、妙なこだわりがあるらしい」 言った、言ってしまった! 少しずつ視線を外す、ベテランギルド員。 ベテランギルド員が少し苦手なタイプでも、受け入れられる依頼人のようだ。 「これって、『見かけではなく、中身で勝負♪』が合言葉の屋台ですよね? 別にヒゲを生やした『売り娘』さんでも、大丈夫ですよ。以前見たのは、屈強なおじさん売り子で『永遠の美少年』、と言い張る方もいましたし」 「はっ?」 「しかし、大典(だいてん)と回上(かいじょう)の間の、……あのケンカの有名な橋で、ラーメン屋台だなんて。店長さん、根性ありますね」 「……お前さん、なんで、そんなに詳しいんだ?」 「だって、泰の街ですよ? ……猫族の僕でも、知っているくらい、泰ではひそかに有名な……痛っ!」 「知ってるなら、さっさと言え!」 ベテランギルド員は、新人ギルド員にゲンコツを食らわせた。 「つまり、一日売り子の仕事です。売り子は調理から販売まで、幅広い分野の仕事が求められます」 ベテランギルド員に変わり、担当になった、泰出身の新人ギルド員。虎猫しっぽを揺らしながら、自分の知る情報を付け加える。 大典と回上。泰にある、川で隔てられた二つの隣町。川の北が大典、南が回上になる。 二つの街の特徴は、お互いソリが合わない事。川に唯一かかった訪来橋で行き来できるが、橋はケンカが絶えない事で有名だ。 ケンカしている二つの街を丸ごと仲直りさせるのは、天地がひっくり返るより難しいかもしれない。 「店長さんが、新しい味のラーメンに挑戦してるみたいですね。大典と回上は、全く違う味の料理を作るんです。 二つの真ん中の橋で商売をすれば、それぞれの味に親しんだ、二種類の人々から感想を貰える。そう考えたんでしょうね」 大典は、香滋料理。回上は、漁特料理。ケンカするだけあって、お互い味にも譲れない部分があるのだろう。頑固な人々が、新しい味にどんな反応するのか、店長は見たいらしい。 「今回は天儀の調味料から、『しょう油ラーメン』『味噌ラーメン』を作ったようです。それぞれ限定五十食を売り切れば、依頼は完了です」 味噌汁、澄まし汁からひらめきを得た、得意顔の店長が想像できた。泰料理に詳しくても、天儀の料理には、ちょっと誤解を生じたようす。 ……いわく、お湯に濃い口しょう油を入れただけ。お湯で、赤味噌を溶いただけ。隠し味は、「愛情」と店長は言い張った。 「えーと、麺は本当に美味しいですよ。でも、個人的にダシが引っ掛かるんですよね……天儀って、こんな味付けなのかなって?」 料理好きな新人ギルド員、真剣に虎猫しっぽを揺らした。天儀に訪問したことないラーメン店長と、神楽の都で料理に親しむ新人ギルド員の違い。 ラーメンの中身は、刻んだネギ、かまぼこ、麺のみ。あっさりしすぎたダシ汁が加わる。 ……もうひと工夫すれば、天儀と泰の美味い所を合わせた料理も、望めるかもしれない。 「とにかく、ラーメンを無事に売り切るまで、頑張ってください。販売場所はケンカが多い所だから、屋台や商品を傷つけられないようにするのも、仕事ですかね」 ラーメンの味も大事だが、周りの環境も大事だ。ケンカ囃子を聞きながら、ラーメンをすするくらいの余裕を客には持って貰いたい。 「開拓者の皆さんの衣装は、好きなものを選んでください。店長さんは、天儀の味に合わせて、正装の振り袖に挑戦するとか。天儀の正装って、袴だけだと思っていました♪ 店長さんの特徴ですか? 豊かなしっぽとヒゲのあるおじさんで、狼獣人の猫族ですよ」 聞き逃しそうになった、最後の台詞。天儀の正装を、おもいっきり勘違いしている、新人ギルド員と店長。 猫族は、総じてせっかちな傾向を持つ。ある意味、大変な売り子仕事の開幕だった。 |
■参加者一覧
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
サガラ・ディヤーナ(ib6644)
14歳・女・ジ
日依朶 美織(ib8043)
13歳・男・シ
ラグナ・グラウシード(ib8459)
19歳・男・騎 |
■リプレイ本文 ●訪来橋のラーメン屋さん 「く……、ッ、わ、私が、飲食店の……売り子をやるなど、ッ!」 困惑と混乱で、頬を赤く染めるラグナ・グラウシード(ib8459)。新たな相棒・羽妖精のキルアに、依頼を勝手に受けられてしまった。 全体的に羽妖精の性格は子供のように無邪気で明るく、いたずら好き。ラグナは、いたずらの犠牲者になった。 「ケンカ橋、ですか〜」 サガラ・ディヤーナ(ib6644)の赤い瞳は、瞬きする。小首を傾げて、人差し指を顎にあてる。 「せっかく近くに住んでるんだから、仲良くすれば良いのに。ケンカしてるなんて、もったいないですね♪」 灯かりをあてると、ピンク色に輝くサファイアを使用した、ピンクサファイアの首飾りがサガラの首元で揺れる。色の個性が同居するように、隣会う個性的な町も同居しているのかもしれない。 「くそっ! くそっ! …な、なぜ、騎士たる私が、こんな…ッ!」 言葉使いはどうであれ、ラグナは真面目に勉強中。今さら逃げることなどできない、それは男らしくない。 天儀と泰、二種類の料理本を広げ、頭に詰め込んでいる修羅の騎士。修羅のシノビは不思議そうに、本を横から覗きこんだ。 「成程、ラーメンの売り子をすればいいんですね。ところでラーメンとは何ですか?」 冥越の隠れ里出身の日依朶 美織(ib8043)は小首を傾げる。代々里の社を守護してきた巫女の家系だが、業は失伝してしまった。 「……すみません、ずっと隠れ里で暮らしていたので、外の世界の事はまだまだ知らない事ばかりで……」 うつむき加減になった美織の頬に、長い黒髪が落ちてきた。額のすぐ上辺りに生えている一本角が、わずかばかり顔を出す。 「現地までの荷物運びに、八曜丸を連れていきたいところですが……」 ふじ色もふらを隣に、柚乃(ia0638)はギルド員に相談する。泰に、もふらは居ない。ぜひ、一目見たいと、店長から返事があった。 ついでに天儀からの店長用の着物や、しょうゆと味噌の荷物運びを頼まれる。期せずして、他の朋友たちも、泰へ同行することになった。 「テンギのお味噌汁や、煮物も参考になるかな〜?」 ラグナと並んで、サガラもお勉強。屋台へ向かう前に、神楽の都の食堂に入る。 味方を知るには、まず仲間から? しょうゆを使った煮物と、味噌を使った味噌汁を堪能した。 次は、旅人を装い、泰の二つの町のラーメンを味わう。勘定台(カウンターテーブル)に陣取った。 「ラーメンは、どんな風に作るものなのか、視察です♪」 「異論は無いぞ」 サガラは無邪気に、ラグナを見上げる。何故か恋人が出来ないことを、内心相当気に病んでいるラグナは無口だった。 りあじゅう、ジルベリアの言葉が混じった、天儀の新しい言葉らしい。詳しく分からないが、生活の恋愛や仕事の充実ぶりを意味するそうだ。 単なる思い込みに過ぎないが、「りあじゅうの自分」に対して、戸惑うラグナ。恋人では無いが、女の子が隣に居る。一緒に食事を食べている。 「せっかくのラーメンがイマイチだったら、食べた人もがっかりですもんね〜」 ラグナの戸惑いは、サガラの目の前の湯気に消えて行く。南北に別れた二つの味、二つの町の二種類のラーメン。 「依頼のお店のラーメンを食べてみて、どうしたらもっと美味しくなるかとか、考えてみようと思います♪」 「これを使え!」 にっこり笑うサガラは、なれぬ箸使いでラーメンを挟もうとする。問答無用で、レンゲを押し付けるラグナ。 ちょっとだけ、ほのぼのした時間が流れた。 ●負けん気の売り子さん お箸の使い方は泰も共通だった、美織は安心して手に取る。具材が少なすぎて、そっけない見た目。 少し考えつつ、麺を口に運ぶ。みそ味というダシ汁を一口飲んだ。美織の時間が止まる。 「八曜丸?」 柚乃が天儀風柄ブーツのかかとを鳴らすと、八曜丸が意味ありげに見上げた。もふら用に置かれた地面の器には、食べ残した跡がある。 柚乃は、毛づくろいする相棒をいぶかしむ。八曜丸にラーメンをすすめても、麺以外は食べようとしない。 食欲があっても、天儀の精霊としての意地があるのか。汁は天儀の味じゃないと、もふらは言い張った。 「どうやら、旨味が足らないのではないか?」 普段は冷静な、ラグナ・ラクス・エル・グラウシード。だが、一度怒りに火がつけば、相手を滅ぼし尽くすまで決して攻撃の手を緩めない。 今のラグナの敵、美味くない天儀風ラーメン。立ちふさがる壁を撃ち滅ぼさんと、一気に口に押し込んでいる。 「……ええと、こんな事申し上げるのは心苦しいですが」 葛藤する時間が必要だった。同じく味わった仲間たちの表情を見て、美織は意を決する。 「おいしくないです……。麺や具材はいいのですが、スープが頂けません」 猫族のヒゲの店長が、怪訝な顔をした。美織はきっぱり告げる。 「これが天儀風として売られるのは、天儀出身者として抵抗があります……」 どう考えても、故郷の味と似ていない。家事全般に習熟しており、特に料理が得意な美織は可愛らしい顔立ちの眉をひそめる。 「私は料理には詳しくないが…なんだろう、煮干しでも煮た、ダシ汁を入れるのはどうだろうか」 汁の一滴まで一気に飲み尽くし、ラグナは店長に器を押し付ける。前もって読んでいた本の知識を合わせ、考え込んだ。 「やっぱり、おダシに問題があるのですね……うーん」 柚乃は、水面に映る自分の顔を箸で突く。器を傾けると、名残惜しげに、最後の麺をほお張った。 「元々の泰風ラーメンと言うのは、どんなスープで作るのですか?」 見聞を広めつつ、修業を積んで巫女となる為に開拓者となった美織。ジルベリアの言葉を聞きかじったらしい。スープと言う単語を口にする。 残念だが、泰の猫族の店長には理解できなかった。泰用の説明を求められ、考え込む美織。スープを「汁」と、押し通すことにした。 「大本の汁に、醤油や味噌をダシの一部として加えるんです。うまく調和のとれた味に仕上げていく方がいいですよ」 天儀の味を、泰の人々に誤解されては大変だ。美織は「ラーメン作りのお手伝いをする」と申し出る。 名無しの美織の駿龍に、改良味噌ラーメン第一号が出される。 「この子も、天儀育ちですから」 穏やかで優しい性格だが、怒ると怖い美織。向けられる笑顔に、何か心当たりがあるのか、駿龍は黙ってラーメンをすすった。 「どうですか?」 可もなく、不可もなく。味は問題ないらしい。でも、内容が不満の様子。駿龍は微妙な眼差しで、ネギの付いた舌を見せた。 「言われてみれば、具も寂しい感じがしますね」 美織は朋友の仕草からから、推理する。思考を働かせること数分、ある考えが浮かんだ。 「天儀風なら、もふらかまぼこをっ!」 喜々として、紅白のかまぼこを差し出す柚乃。天儀風ラーメンと聞いて、神楽の都で食材調達をしてきた甲斐があった。 「食べて頂いたお客さんに、お互いの街のいい所を見付けてもらう切欠になる様なラーメン。そう仕上げるのは、如何でしょうか?」 販売場所は、仲の悪い二つの街が交わる橋。ならば、大典と回上の伝統料理を具材として使うことを提案する。 次々と二つの町の食材や、もふらかまぼこが投入される。もふらと駿龍が太鼓判を押す、天儀風ラーメンが完成した。 「それだったら、ボクも覚えたから作れます♪」 挙手するサガラは、ラーメンの盛付をし、勘定台に置く仕事を任される。一つの事に没頭し始めると、他の事に気が回らなくなるから、ちょうど良いかもしれない。 ●ケンカ橋のお客さん 「わ〜、フリソデって、すっごく綺麗ですね!」 店長用の振袖が、いくつか並べられていた。珍しげに、サガラは眺める。 「ボク、フリソデって着てみたいです……お店のご主人さんに借りられるかな?」 好きな着物を選んで良いと、麺を打つ店長から返事が聞えた。 「呉服屋のお手伝いをしているのもあって、着付けなどはお任せです♪」 柚乃は、神楽の都にある呉服屋の看板娘。元開拓者だった店主夫妻が、母親の古い友人 に当たる。 「着るのが楽しみです♪ ……う……そ、そんなに締め上げるんですか?」 「そうですよ、背筋も伸びますしね」 「テンギの人はガマン強いんですね〜」 着物初体験と喜んでいたサガラから、冷や汗が流れた。柚乃は、容赦なく帯を締め上げる。 「はい、内股に歩いてくださいね。着崩れしないコツですよ」 柚乃はサガラの背中を押し、帯は完了したと教える。柚乃がかんざしを見繕う間に、気に入った花飾りを頭に挿したサガラは、表に飛び出した。 「アッティ、見てください♪」 外で待っていた炎龍の前で、サガラの銀髪が一回りする。亡き父親の相棒だった炎龍の子は、サガラを見ずに地面を眺めた。 「あれ、何をしているのですか?」 アッティは、サガラの髪から落ちた花飾りを拾いあげる。かなりやんちゃで好戦的ではあるが、本当の意味での悪さはしない。 「サガラちゃん、振袖にエプロンドレスを重ねると、とても可愛くなるんですよ」 「柚乃さん、ありがとう♪」 柚乃は用意された衣服から、エプロンドレスを見付けた。着崩れしないように注意しながら、サガラに着せてあげる。 アッティから花飾りを受け取った柚乃、サガラの髪をきちんと纏めた。花飾りとかんざしも挿し、着付けは終わる。 ラグナは片足をあげ、屋台の椅子を踏み付けた。見えそうで見えない、メイド服の中身。 「今は亡き我が師匠が……『奉仕の心、それはメイド服』とおっしゃっておられたっ!」 力説するラグナの傍らには、駿龍のレギが控える。お揃いのメイド用ヘッドドレスに、お揃いの黒いメイド服。スカートを翻し、レギは一回転する。 頬を染めた美織も、思い切って飛び出した。星屑のヘアピンが輝き、太陽のピアスが耳元を彩る。 「……ちょっと恥ずかしいけど」 天儀風ブーツの先が、もじもじと地面を蹴飛ばした。美織、大胆にも生脚を披露する。 家訓により生まれた時から女性として育てられた為、仕草も佇まいも少女の様だ。よく性別を間違えられる。 「しかし、眼光鋭い長身筋肉質の男が着るメイド服は、お客様にどう映るのだろうか」 ラグナは、被ってきた雪うさぎの帽子を手にした。紅い目に葉っぱの耳、帽子の後ろには可愛らしい尻尾付き。 「レギ、どうだ?」 ラグナはヘッドドレスを取り去り、雪うさぎの帽子をかぶる。相棒は良い考えだと、賛辞の拍手を送った。 「寒さも、働いてるうちに吹き飛んでしまうでしょうね」 ほほ笑む美織の浴衣ドレス「宵闇」のスカートのような裾が、風になびく。落ち着いた黒の地に、裾や襟元の白レースが映える浴衣姿だった。 「せっかくご主人さんの自信作なんですから、頑張って売り込みます〜」 屋台の奥に陣取り、サガラは腕まくり。振袖、柄は綺麗だが、長い袖が邪魔で仕方ない。 「着物は『たすき』をすると、動きやすいですよ」 サガラは店長共々、美織から天儀の秘技「たすき掛け」を伝授される。動きやすさに感動するサガラ、美織はくすっと笑った。 ラグナは決意を固め、メイド服を着んだはずだった。しかし騎士のプライドが中途半端に残っているのか、敬語を使わない。 「何、バリカタ?! わけのわからぬことを言うッ!」 バリカタ。ラーメンの硬さを表す、業界用語。もしくは専門用語。ラグナは、お客を睨む。 天儀の袴姿で、髪を高めに一つに束ねた少年が止めに入った。屋台裏に、メイドを引っ張って行く。 「相手は、お客さんですよ?」 「むっ、大人げなかったか」 よく見れば、少年売り子姿の柚乃だ。小声で、ラグナに耳打ちする。渋々、口をつぐむメイド売り子。 「ご注文はなんですか? しょうゆ味に……かまぼこだけですか?」 浴衣売り子が、怒り気味なお客に笑顔を向ける。お客は気を取り直して、美織にラーメンを注文した。 「本当に仲が悪いというか……注文が凄いですね」 表に戻ろうとした柚乃は、眉を潜めた。相手の町の具材は抜き、天儀一本や自分の町の具材だけを食べると言う。 「えーと、待って下さい。とにかく頑張ります」 狼しっぽが激しく動く店長の隣で、エルフ耳の振袖売り子が悲鳴を上げている。住人たちの徹底ぶりに、泣き出しそうなサガラ。 「とりあえず、しょうゆが一、味噌が二でいいな? 具材抜きのかまぼこだけが、かま一丁だ」 一本気だが、何処か融通の利かない傲慢メイド。ラグナは自分の理論で納得して、自分勝手に省略専門用語を作り上げた。 二種類の味のラーメンには、自分の町の具材のみ。仲良くできない、ケンカ橋。 「せっかく美味しいモノがあるんだから、ケンカなんてやめて、ラーメンを食べれば良いのに。不思議ですね?」 考え込むサガラの前で、住人たちは「自分の町の食材が一番天儀に合う」と口ゲンカ。 「暴力沙汰はダメなのですっ。……でも、『喧嘩する程、仲が良い』って言葉もありますから」 強面さんがこようと、にこやかに応対。柚乃は、お気に入りの琵琶を手にした。 精霊の唄が響く。勝気な住人が、ケンカ腰に詰め寄ってきた。 「もう一つの味も、いかがですか?」 爪紅を施した手先は、ラーメンを差し出した。ツインテールにした長い黒髪が踊る。瞬間を見計らっていた美織だ。 「美味しいですよね〜♪」 ラーメンを美味しく飾りつけると言う、大役を請け負ったサガラ。盛りつけの合間に屋台の横から顔をだして、道行く人々に声をかけていく。 年下の娘たち(?)に諌められた、中年親父たち。かっこ悪い。口ごもり、静かにラーメンをすする。 「ふむ、なるほど。やれば、できるではないか!」 何だかんだ言って、出来る限りの努力をしたラグナ。黙って肩を並べ、ラーメンをすする住人たちを褒める。 「食事は皆で楽しく……ですよねっ♪」 琵琶の演奏を続けながら、満足そうに柚乃は頷く。ラーメンは、とうとう売り切れた。 「出来得るなら、このラーメンが二国の懸け橋にならんことを……」 ラーメン屋台を引っ張る、女装メイド。かっこ良い台詞と祈りを残し、非モテ騎士はケンカ橋を後にした。 |