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■オープニング本文 ●戦雲 アヤカシは、東和平野での攻撃を開始した。 その目的は住民の蹂躙。開拓者たちの反撃もあって最悪の事態こそ避けられたものの、各地の集落、特に朽木では多くの犠牲者を出し、北方では北ノ庄砦が陥落し開拓者が後退を強いられた。 日は傾きつつあるが、アヤカシは夜でも構わずに活動する。 前進で消耗した戦力も、魔の森で十分に力を蓄えた新手を加えることで回復していくだろう。 「本隊を佐和山まで前進させる。援軍を集合させつつ反撃に出る」 備えの兵を残し、北面国数百の本隊が整然として清和の町を出陣する。城へと進むと時を同じくして、東和地域にははらはらと粉雪が舞い始めていた。 ●双子の願い 猫族一家の母親は、元旅一座の歌姫。子供たちは、子守歌と共に、旅の思い出話を聞かされて育った。 旅一座が到着した村には、アヤカシに襲われ、荒れた場所もあったと言う。「嘆く人々に希望をもたらす事が旅一座の仕事」と、母親は誇りを持って語っていた。 現在、天儀の北面では、アヤカシと戦闘が起こっている。猫族一家の双子は、母親と同じ道を歩もうとしていた。 「勇喜、『べんべん』するのです♪」 「伽羅は、『ちぇいちぇい』です!」 開拓者ギルド本部の受付前に陣取る、猫族の十一才の双子。琵琶を掻き鳴らす白虎少年の隣で、虎猫娘は華麗にポーズを決めた。 泰の子猫語は分かり辛い。ベテランギルド員は視線で、新人ギルド員に通訳を促す。 「えーと、べんべんは『琵琶の音』、ちぇいちぇいは『やっつける』だった気がするんですけど……。なんで伽羅は、ちぇいちぇいするの?」 兄は困惑顔で、おてんばな末っ子に尋ねた。 「にゃ? 伽羅はアヤカシと戦えるから、『ちぇいちぇい』です!」 「ああ、妹さんは演武をしているのか」 次のポーズを決める泰拳士の猫娘、故郷の泰武術を披露している。言われて見れば「荒鷹陣」だ、ベテランギルド員は納得した。 「がう、勇喜の歌と伽羅しゃんの演武で、皆様に喜んで貰うのです♪」 吟遊詩人の虎少年、ご機嫌で白虎しっぽを揺らす。 「伽羅、勇喜しゃんと、母上みたいに笑顔をあげるのです」 演武を止めた猫娘、受付に両手を置いた。 「兄上、二人で北面に行きたいのです!」 双子は口を揃えて、兄を見遣る。長い長い沈黙、虎猫の兄はゆっくり口を開いた。 「金(きん)に乗せて貰って、三人で行っておいで。父上と母上なら、そういうはずだよ」 猫族一家の甲龍を保護者にして行くようにと、新人ギルド員は双子の頭をなでる。ベテランギルド員は、和やかな笑みで見守った。 ●予期せぬ敗走 開拓者ギルド本部に、虎娘の司空 亜祈(しくう あき:iz0234)が飛び込む。呼びに来た子猫又を、抱きしめていた。 「兄上! あの子たちが、アヤカシに襲われたなんて、嘘でしょう!?」 浪志組として、神楽の都の治安維持を勤める虎娘は、猫族一家の二番目の姉。浪志組の職務を放り出してきた。 「訪問していた避難所近くの砦、北之庄館が陥落したって……。幼い子供たちを乗せて、血まみれになった金だけが、保護されたらしいんだ」 「勇喜はんも、伽羅はんも、行方不明やねん!」 新人ギルド員は拳を握りしめ、受付を叩く。虎娘の胸に顔をうずめ、猫又は泣き声をあげた。 「そんな……」 白虎しっぽを膨らませたまま、虎耳がうなだれる。おおらかな虎娘でも、家族の危機には動揺を隠せなかった。 浪志組仲間に背中を押され、北面の東和平野に赴いた虎娘。避難誘導に当たる清和の開拓者の中に、探していた妹と、疲労で眠り続ける朋友を見付けた。 「伽羅、金、無事だったのね!」 「姉上、姉上! 勇喜しゃん、居ないです。はぐれたです!」 幼い猫娘は、夢中で虎娘にしがみつく。泣きじゃくりながら、状況を説明した。 「何があったの?」 「うにゃ……突然、アヤカシがいっぱい来たです、『ぽん』です! 伽羅たち、逃げる皆様と『ばたばた』したのです。 勇喜しゃん『べんべん』して、伽羅『ちぇいちぇい』です。伽羅より小さな子、金しゃんにお願いして『どんどこ』頑張ったです」 「……そう、三人で避難誘導しながら、ここに向かってきたの。本当に頑張ったわね」 「ここの近くに来て、開拓者です。『ざわざわ』です。皆様、何人か居ないです。勇喜しゃんも居ないです!」 「……まあ、清和の開拓者の皆さんに助けられの! でも、避難民の一部の人と、勇喜が行方不明だから、大騒ぎになったのね」 通常では理解不能な、猫族姉妹のやり取り。虎の姉は長年の付き合いで、猫の妹の言葉を察する。 「伽羅、右手と右足が、すごく『ぽん』なのです。勇喜しゃん、『ざくざく』です」 「なんですって? 勇喜は大怪我をしているから、動けないなんて……」 猫娘は怪我をしていないのに、体が痛いと告げた。双子の兄が、右半身に怪我を負っていると。 猫族の双子は、たまに不思議な事を言う。お互いの半身を、本能的に感じているかのようだ。 「姉上、避難民の皆さんをしてくるわね。きっと、勇喜も一緒にいるはずよ」 「にゃ、伽羅も行くです!」 「伽羅はここに居て、逃げてきた皆さんと、金のお世話をしてあげるの」 「嫌です、探すのです!」 だだをこねる妹をなだめ、虎娘はしゃがむ。猫娘の緑の瞳と、虎娘の青い瞳がぶつかった。 「母上の言葉を思い出しなさい! 何のために、北面に来たのかしら?」 「うにゃ……嘆く人々に希望をもたらす仕事です」 「はぐれた家族を探そうと、心配で平野に戻ろうとする人がいるはずよ。『避難民救助に、開拓者が動いた』って、きちんと説明できるわね?」 「……伽羅、できるです。金しゃんと、一緒に待ってるです」 「そう、良い子ね」 涙をぬぐう猫娘の頭をなで、虎娘は立ち上がる。甲龍はまだ目覚めない、妹に朋友の世話も任せた。 清和に居合わせた開拓者に、助力を求める。はぐれた避難民を救うために。 清和から少し離れた場所に、はぐれた虎少年と六人の避難民たちは居た。佐和山城に向かう予定だったと言う、北面の兵士一行に保護される。 「がるる……、またアヤカシです」 虎少年のしっぽが逆立った。避難民は身を寄せ合い、息を飲む。 アヤカシの群れの目的は、避難民の座る場所。もふらの引っ張る、大きな荷物が乗った荷台。 荷物に掛けられた布はめくれ、大砲の先端が見えていた。北面の兵士たちは詳しく教えてくれなかったが、宝珠砲というものらしい。 (……勇喜の眠らせたアヤカシも、おはようする時間です。もうすぐ来るはずです) 白兵戦が苦手な、吟遊詩人の虎少年。はぐれた避難民を守るために、アヤカシの真ん中で子守唄を奏でた。成功の代償は、右半身の大怪我。 「……勇喜も、泰拳士になれば良かったです」 後悔が募る。父の泰拳士の修行は辛くて、虎少年は母の影に隠れてばかりだった。 何もできない。兄妹とお揃いの瑠璃の腕輪に、小さな開拓者の涙がこぼれ落ちた。 |
■参加者一覧
礼野 真夢紀(ia1144)
10歳・女・巫
バロン(ia6062)
45歳・男・弓
ロック・J・グリフィス(ib0293)
25歳・男・騎
劉 星晶(ib3478)
20歳・男・泰
ヘルゥ・アル=マリキ(ib6684)
13歳・女・砂
神座亜紀(ib6736)
12歳・女・魔
ハシ(ib7320)
24歳・男・吟
刃香冶 竜胆(ib8245)
20歳・女・サ |
■リプレイ本文 ●心の片鱗 「……宝珠砲の護衛のみ、思っていんしたが」 鬼面「紅葉」をかぶった刃香冶 竜胆(ib8245)は、急ぎ離れる。己が背から、身を寄せ合う避難民たちを遠ざけよう。 「兎に角…此処、切り抜けねば護衛、完遂できんせん」 守るべきものが背後にあれば、迂闊に避けられない。最悪、巻き添えにしてしまう。敵の出鼻を挫くためにも、囮の竜胆の役割は重要だ。 別の場所では、悪鬼兵の刀が横に振るわれる。バロン(ia6062)のつま先は、真横を示した。 「弓術士の接近戦という物を、見せてやろう」 飛びながら、幻「弓」に矢をつがえる。至近距離からの威力、悪鬼兵の頭を貫いた。 狩射で自身の回避を上げ、後退しながらの射撃。囮役もこなすバロンを見た勇喜の眼が、見開かれる。 「敵に近付かれたら何も出来ぬようでは、半人前よ!」 バロンは着地した直後、振り向きざまに二つ目の矢を放つ。勇喜の目の前で、鬼は断末魔をあげた。 「まゆだって巫女ですから白兵戦苦手です。敵撃破には貢献出来てないです。 でも、本当に何も出来ないんだったら、吟遊詩人なんて存在して無い筈でしょ?」 巫女装束の精霊の衣を纏う、礼野 真夢紀(ia1144)は声を張り上げた。勇喜の嘆きは、心に悲しく響く。 「よいか勇喜、民達の顔をよく見よ。正真正銘、お前の戦いで救った者達の顔じゃぞ」 ヘルゥ・アル=マリキ(ib6684)が指差す先には、六人の避難民。勇喜が連れてきたからこそ、ヘルゥたちに出会えた。 「誇り高きアル=マリキの娘である私が、勇喜を戦士として認める。戦士としての誉れは誇りこそすれ、落胆すべき事ではないっ」 勇喜の頬には、まだ涙が流れていた。叱咤するヘルゥの故郷は、砂漠という過酷な地。 力なき者の代わりに戦う、戦士たらんとする事。獅子の星の名を冠するヘルゥの氏族にとって、子供から大人までの命題。そして誇り! 「勇喜さんには、未だ出来る事があるから。力を貸して。皆さんも一緒に戦う仲間です、頑張って下さい!」 真夢紀の身体が、淡く輝いた。放たれた光は、傷ついた勇喜と北面の兵士たちを癒す。 「わしは弓術士だが、このように前線に立って戦う事もできる。確かに職業で向き不向きという物はあるが、努力と工夫である程度は融通がきく物だ」 アレックス=バロン=バルバロッサの生き甲斐は、若者達の成長を見守り、導くこと。未熟者とは、先が見えぬ状況に耐えられない者と諭す。 「少年!」 オネェ口調のお兄さん。外見上は性別不明のハシ(ib7320)から、よく通る声が発っせられる。 「斬った張ったばかりが、戦いじゃないわ! 誇りなさ〜い」 濃ゆいアイメイクだけが覗くハシも、吟遊詩人。 「……怖いのは厭だし、痛いのは嫌いよ〜。でも奴らの為に、むざむざ絶望なんてしてやる必要は無いの!」 アヤカシは負の感情を好む。力を与える事はないと、クイーンは言い切った。 「さぁまだ力あるなら、歌うてくれ。勇喜の戦い方で私達と共に戦うのじゃ。私も獅子の名に恥じぬ戦ぶりで、応えてやるぞっ!」 ヘルゥから、もふらのハンカチが渡される。勇喜は鼻をすすりながら、右手で受け取った。 「……寒い。寒いですね……」 雪が降り、真っ白な大地。ウシャンカの中に、劉 星晶(ib3478)の黒猫耳は隠れている。 「こんなに寒くて広い戦場の何処かに、勇喜君達が居るんですね……だというのに耳が使えないとは」 悔やむ星晶。かくなる上は、足で何とかする。準備に避ける時間も、持ち運べるものも限られる。 「心配する伽羅嬢の様子を見たら、放っておくことは出来んからな……それに、避難民のことも心配だ」 ロック・J・グリフィス(ib0293)は、薔薇の花を一輪、ぴっと取り出した。優雅に口元運び、憂いの眼差しで見つめる。 「急がなきゃいけないけど、焦っちゃ駄目だよ。焦りはかえって状況を悪くするからね」 薬品を手にした神座亜紀(ib6736)は、口を固く結んだ亜祈に、防寒具や食料を押し付けた。 北面の雪景色は、避難民たちを消耗させているはず。事前準備をしっかり行うべきと。 ●希望を求めて 「伽羅嬢。アヤカシに襲われた直後の状況や場所を覚えている限り、詳しく聞かせてくれるかな」 「お日様、おはようから来たです。『どやどや』だけど、金しゃん『ちぇいちぇい』で、『がやがや』です」 ロックは瞬き、少し沈黙した。意味を汲み取るのに、やや苦労しそうだ。 「戦いがどの方向に拡がったか、分かるかい?」 「伽羅、お日様さよなら前に『どんどこ』です」 どんな些細なことにも、糸口は隠れているはず。ロックは辛抱強く、伽羅の言葉に耳を傾ける。 「アヤカシは東から来たのね。半分くらいに減らした隙に、南西に逃げたそうよ」 「……南西、佐和山城か?」 通訳する亜祈は小首を傾げた、広げた地図で避難経路を辿る。ロックは覗き込み、対比する場所の推測を立てる。 「良かった、なんとかなりそうだね」 「佐和山城へ宝珠砲を運ぶ為に、隊が出ているはずです」 亜紀の言葉を不思議がる白虎耳に、星晶は説明をする。もし城を目指したなら、保護されているかもしれないと。 「安心してくれ、兄さんは必ず見つけて、助け出してくる」 涙もろい伽羅の頭をなで、ロックは花を手渡す。赤い薔薇の花言葉の一つは「情熱」。視線を合わせると、華麗な騎士礼をした。 「倒すというより、弓や剣は牽制程度になりそうです」 真夢紀の将来の夢は、ギルドの報告書記載係。姉達と手紙を交わすときに使う手には、今は神刀「青蛇丸」が握られている。 (巫女のまゆが刀使うような状況には、なって欲しくないんだけどな) 最近は、子鬼程度なら、剣や弓でも倒せるようになった。でも、使わずに済むのが一番と、真夢紀は祈る。 「援軍が来るまでに、どこまで減らせるかしら」 ハシは、物憂げに呟いた。勇喜の言葉から察すると、避難民を狙う鬼の援軍が来る。 「勇喜ちゃんに怪我負わせちゃったのは不覚ね。宝珠砲もあたし達の希望だし」 空飛ぶ鬼蝙蝠が見えた、ハシは梵露丸を飲み込む。満ち足りる練力、湧き上がる音。 「狙うべき敵は、最優先は民や宝珠砲を狙う敵だ」 理穴の足袋で、大地を踏みしめる。老いてなお盛んなバロンは、空を飛ぶ羽猿や、弓を使う悪鬼兵の腕を打ち抜いて行く。 民や兵士たちの安全を最優先にして、長期戦覚悟。じっくりと腰を据えて挑む。 ロックは片膝をつき、地面を確かめる。戦いの爪痕や、足跡の様子に気を配りながら、足取りを追ったのは正解。 雪溶けのぬかるみに、足跡が散乱していた。途中で空から鬼蝙蝠が来て、混乱した伽羅の話と一致する。 「城に向かおうとしたのは、確かなようだな……さて」 ロックの視線は東を向く。一部の足跡は清和では無く、通り過ぎた佐和山城に向かっていた。 「きっと清和から佐和山へ宝珠砲を輸送する隊が、勇喜君達を保護してくれているよ」 栄光の手が、示す先。ロックの見付けた足跡の他に、亜紀は荷車のわだちを見付けた。 「俺は先行します。何かあれば、狼煙銃で合図を」 星晶から穏やかさが消え、気迫がみなぎる。避難民を見つけられるなら、錬力が空になっても構わない。 「竜胆姉ぇが狼の狩場の中心じゃ。兄ぃ姉ぇの皆、集まった愚かな餌共へ存分に食らいつき、骨も残すでないぞ!」 総面「獅子」を被った、母様父様譲りのヘルゥの指揮術。鬼が霧と失せる前に、戦陣「砂狼」を見せつける。 「武具、使われてこそ武具足り得んすから、宝珠砲、武具とするため、邪魔、殲滅致しんす」 修羅は戦さの民。寒九の空気を震わせ、竜胆の咆哮が響く。着物の裾を、鮮やかに翻した。 ヘルゥの助力を受けた竜胆の刀は、容赦しない。寄ってきた悪鬼兵を打ち据え、返す刀で空からの槍をいなす。 ひたすら眼前の敵を討ちとる事が、迅速かつ最大の目的。背後に迎え入れる訳には、いかなかった。 前方の星晶から、狼煙銃の合図。急行すると雪は目茶苦茶で、血溜まりがあった。 わだちを追う、まだ新しい赤い筋がくっきり残る。平行する二つの足跡は、負傷者を運んだ様子。 「亜祈さん、人魂を使ってもらえる?」 亜紀の強張った口調に応え、鳥は高く高く飛ぶ。群がる鬼と奮闘する輸送隊を、視界の彼方に捕らえた。 「急ぐとしましょう。勇喜君が待っています!」 報告を聞くが早いか、星晶の姿が消える。早駆。 「俺は、空の掟によってのみ縛られる。止められはしない」 仕えしは、ただ己の信念のみ。空賊騎士も騎槍「ドニェーストル」を携え、駆け出した。 「待って、ボクも行くよ!」 先行く二人と亜紀には身長差がある、歩幅と移動速度の違い。亜紀はアクセラレートをかけ、後を追う。 ●未来のかけら 突如、鬼を阻む石壁が出現した。荷台を中心に、避難民と宝珠砲を取り囲む。亜紀が展開させた、守りのストーンウォール。 「助けに来たぞ、もう安心だ」 聖十字の盾を構え、ロックが割って入った。亜祈の斬撃符をお供に、羽猿の槍を払いのける。 「避難民達を上からの攻撃から守るよ」 バロンの矢と亜紀のホーリーアローは、空中で交差した。空の羽猿を打ち落とす。 「援軍じゃな……皆もう一踏ん張りじゃ!」 黄金色に輝く魔槍「ゲイ・ボー」は、手元に戻ってくる。荷台上から空に向かって投げていたヘルゥは、槍を受け止め不敵に笑った。 「捜索隊の合流で小休憩……なんて時間くれないわよね〜。体勢を整える時間を稼ぐわ♪」 ハシは少しだけ本音をもらすと、前を向いた。勇喜に的確な指示を飛ばす。 「勇喜ちゃん、基本は武勇の歌ね。敵が減ってきたら奴隷戦士の葛藤よ。気が向いたら精霊集積をお願いかしら。無理はしないでね♪」 「よいか、皆も戦士ならば、勇喜のように見事守り抜いてみせよ! 苦しくとも私達が共におるっ!」 戦術攻を放つヘルゥの声に合わせて、ハシの重力の爆音が空に弾けた。手は出せないけど、気魄で圧倒す。 ジルベリア風に言うなら、テンション上がっちゃった☆ 「まゆ、なるべく練力消費を抑えていましたから」 真夢紀の手から放たれた白霊弾は、妖鬼兵の瘴気術を押しのけようとする。瘴気と練力、術と術のぶつかり合い。 肩で息をする真夢紀に、軍配は上がる。勇喜の歌が聞えたと、真夢紀は笑って見せた。 「おぬし、狙えるか?」 「直接攻撃には向かないので、援護中心ですけどね」 「充分じゃ」 六節を駆使した、バロンの早打ちの矢が後方の鬼に降り注ぐ。星晶は飄々と言ってのけ、風神を叩き込んだ。 不意打ちによる隙を、バロンは見逃さない。強射「弦月」で仕留めて行く。星晶の天狗礫も、鬼に向けられた。 「殲滅するには、良さそうでありんすね」 修羅の金の眼差し、どこまでも冷えた声。鬼の大将は太太刀を引き抜き、竜胆を真っ向から見ていた。 足元の雪が散り、鬼は動く。数度の打ち合い。竜胆は大きく足を踏み込む、全力で胸を突いた。 雷の力を帯びた霊剣「御雷」に、確かな手応えを感じる。引き抜くと同時に、螺旋牛鬼は霧散した。 「愛が重たいって言われるの〜♪」 ハシが命を謳歌する音色のリュート「激情の炎」を、掻き鳴らした。スプラッターノイズが地面を駆ける。 「兄を思う少女の為にも、アヤカシ共の好きにはさせん……ロック・ジャーニー・グリフィス、参る!」 ロックの槍に、聖なる精霊力が宿る。舞い上がる雪、真っ二つになる鎧鬼の薙刀。 聖堂騎士剣を受けた援軍の鬼の大将は、塩となって崩れ落ちた。 はぐれた避難民は、誰も欠けていない。捜索隊が持ってきた防寒具、毛布やもふら〜が渡される。 「清和で、ご家族が待っていますよ」 のんびりした空気を纏う星晶は、遠くの家族の温もりを伝えた。……黒猫耳は幼いころ、アヤカシの襲撃で故郷を失った過去を持つ。 「以前こやつの兄にも言ったが、前に立って戦う事だけが全てでは無い」 バロンは、亜祈に声をかける。視線の先には、小さな開拓者たち。 「終わりじゃの、よく頑張ったのじゃーっ♪」 ヘルゥは年不相応に、獅子の誇り高さを見せ付ける。勇喜に抱きつき、褒めたたえた。 「開拓者は何でチーム組んで、依頼受けると思ってるのですか?」 避難民に携帯汁粉を、配り終えた真夢紀もやって来た。出された謎かけに、勇喜は唸り声を上げる。 「皆が力合わせて色んな技能を使って、それで依頼を解決するんですよ」 真夢紀は、ほほ笑む。泣いていた勇喜は、気付かなかった答え。最も簡単で、最も大切なもの。 「勇喜は今自分に出来る最善を尽くした。それは誇るべき事だし、今持っている物を大切に育てて欲しいものだ」 戦場では寡黙で厳しい顔を崩さない頑固爺のバロンが、少しだけ目を細める。先達の開拓者として、伝えるべきこと。教えるべきこと。 「皆さんから聞いたわよ。吟遊詩人を辞めるのね?」 バロンと話し終えた姉は、弟を覗き込む。わざと琵琶を取り上げた。 「ボクだって出来ない事は沢山あるけど……、それでも魔術師にならなければよかったと思った事はないよ!」 膝まで届く少し癖のあるロングヘアが、大きく動いた。思わず叫んだ亜紀、月の帽子の先端が左右に揺れる。 「避難民の人達を守る為にアヤカシを眠らせたんでしょ? それは吟遊詩人だから出来た事だよ! 自信を持って!」 神座家の三女は、大人びた言動をすることが多い。勇喜の手を強く強く握った。 「絶対、辞めないです!」 自信に満ちた虎耳は頷く。勇喜は琵琶を奪い返し、姉を睨みつけた。 「吟遊詩人に必要なのは、強い心よ〜♪ いつも心に太陽を〜むしろあたしが太陽よ!」 布の山が動き、ハシは勇喜にハグ。心行くまで、抱きしめる。 「宝珠砲の護衛、続けなくてはいけんせん」 視線をそらした竜胆、鬼に怯えていたもふらの頭をなでた。自分たちの目的を忘れてはいけないと促す。 「避難民の処遇、如何様にも任せんす。小生、あまり興味のないことで」 そっけない言葉をかけ、佐和山城の方角を向く。無口で感情表現に乏しい竜胆の興味は、宝珠砲を無事に届けること。 竜胆の花言葉はいろいろある、「あなたの悲しみに寄りそう」、そして「正義」。佐和山城には、まだ他の避難民もいる。アヤカシと戦っている人が居る。 「急いだ方がいい、雪がくるぞ」 各地を放浪した空族は、天候にも詳しいらしい。頭にゴーグルをかけたロックは空を見上げて、心配そうに告げる。 「うふふ……さぁ胸を張って! れっつすま〜いる☆」 ハシは楽譜「精霊賛歌」を取りだし、勇喜に見せ、片目を閉じた。 「……とても良い音でありんす♪」 竜胆は珍しく、口角を持ちあげる。趣味は音楽。天儀王朝や他種族に対しての日頃の警戒心が、解かれていく。 佐和山に向かう一行と、清和に向かう一行。吟遊詩人たちの別れの曲は陽気に、そしてお互いの武運を祈った。 |