白梅の里の餅つき
マスター名:青空 希実
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/01/07 19:16



■オープニング本文

●理穴は甘味処
「奏生にも、砂糖はありますよね?」
「……ある」
「菓子職人で無くても、買えますか?」
「……店に行けば、買える」
 真剣な表情で、サムライ娘は受付を見上げる。仏頂面で対応するのは、理穴出身のベテランギルド員。奏生は理穴の首都で、貿易都市だった。
「……娘さん、そろそろ仕事を進めたいんだが。質問攻めでは、書類が作れん」
「すみません! じゃあ、もう一つだけ質問を」
「……もう一つの質問とやらは、いくつあるんだ?」
 武天生まれのサムライ娘、依頼を頼みに来たはずが、世間話が延々と続く。ベテランギルド員はため息をつきながら、辛抱強く待った。


「依頼は、理穴から朱藩への荷物の運搬だ。詳細は、依頼人の娘さんに聞いてくれ」
 ベテランギルド員は、疲れていた。力を無くした身体は事務的に用件を述べ、依頼人に丸投げする。
「依頼をお願いした、真野 花梨(まの かりん)と申します」
 ポニーテールの黒髪を揺らし、サムライ娘は頭を下げる。
「実は朱藩の親戚が餅つきをするので、理穴の砂糖を欲しがっているんです。お正月のすぐあと、一月六日は従兄の誕生日で、今年は贅沢をするつもりらしくて。
砂糖は、あんこの材料です。あずきやもち米は、親戚の家にありますから」
 手紙には、「新婚の従兄や新妻を驚かせるつもり」だと、書き添えが。豪放な伯父は、お茶目でもあった。


●正月の準備
 サムライ娘が、ギルドに依頼を頼む、少し前の話し。
 朱藩の田舎に、白梅の里がある。年明けの春の前には、里の入口や各家の梅の花が咲き乱れるだろう。
「親父、餅つきは、いつするんだ?」
「花梨が来てからだな」
「花梨? なんで、わざわざ武天から……」
 新婚の青年は、久しぶりの故郷で年末の準備に追われていた。しめ縄を編みながら、父親に尋ねる。
 青年は一人息子、従妹のサムライ娘も道場の一人娘。子供の少ない両家は、昔から家族ぐるみの行事も多かったが、ふに落ちない。
「どっかのどら息子が家出してから、花梨が一心に手伝ってくれていたんだ」
「……俺のせいか」
 十八の青年は、十六に家出してから二年ほど音信不通状態が続く。朱藩中を旅した放蕩息子も、ようやく白梅の里に戻る気になった。
 二年の歳月は、野良仕事を下手にした。田舎の生活は、父の怒声を浴びる日々が続く。
「武天か……婚礼衣装を求めにいったとき以来だな」
 旅の虫が顔をのぞかせるが、青年は顔を振って振り払う。今年の六月には、同い年の幼馴染の娘と祝言をあげた。
 大事な新妻は、青年が旅の話をすると悲しがる。二年前のように、一人だけ置いて行かれると恐れていた。
「清君、門松が飾れたわよ」
「そうか、ありがとう」
 新妻は、ひょっこりと縁側に姿を現す。青年は笑顔で迎えた。
 青年が迷って、遠回りして手に入れた幸せ。二度と手放さない、守ると決めた。
「おりん、餅つきに花梨が来るらしい。そのときは頼む」
「まあ、花梨さんが? 楽しみね♪」
 青年の従妹と新妻の家族は、今年から親戚となった。親戚ぐるみの付き合いも、増えている。
「……餅を丸める要員に、良助(りょうすけ)も引っ張ってくるか? 花梨もきっと喜ぶぞ」
 師走の忙しい時期だが、義弟になった少年も、喜んでかけてくるだろう。
「でも、良助は実家の餅つきをしないと」
 新妻の表情が少し曇る。少年は新妻の弟、実家の跡取り。家の手伝いを覚えるのが当たり前。
「うちとおりんの実家と、花梨の家と合同でやれば……親父、良いか?」
「構わんぞ」
「おりん、おじさ……じゃなかった、お義父さんに伝えてくれるか?」
「清太郎(せいたろう)、自分の実父も『お父さん』と敬ってだな……」
「うちはうち、よそはよそ。……親父の口癖だったよな?」
「う……うむ、だがな……」
「親父は親父、おふくろはおふくろ。父さんは父さん、母さんは母さん。問題ない」
「お義父さん、今日は清君の方が一枚上手ね♪」
 豪放な父親に対し、大胆な息子あり。新妻は、くすくすと笑う。
 白梅の里は、今日も平和だった。


■参加者一覧
水月(ia2566
10歳・女・吟
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
ティア・ユスティース(ib0353
18歳・女・吟
プレシア・ベルティーニ(ib3541
18歳・女・陰
ファムニス・ピサレット(ib5896
10歳・女・巫
神座真紀(ib6579
19歳・女・サ
和亜伊(ib7459
36歳・男・砲
棕櫚(ib7915
13歳・女・サ


■リプレイ本文

●砂糖警備隊
 奇しくも、一月六日は琥龍 蒼羅(ib0214)の誕生日であった。
「白梅の里……、以前行ったのは半年ほど前だったか」
 蒼羅は懐かしそうに、白梅の木を見やる。里の入口は、変わらない。
「この里の人と会うのも、もう三回目なの……」
 水月(ia2566)は大きく、背伸びをした。開拓者として、依頼に追われるような忙しい日々。
でも、里にいる間は『開拓者の水月』ではなく、ただの『十歳の少女』に戻れる。穏やかに過ごした夏休みは、楽しい思い出。
「皆さん、お久しぶりです。寒くなりましたが、お風邪などひかれてないですか……?」
 引っ込み思案で、いつもおどおどしている少女は、堂々と挨拶をした。ファムニス・ピサレット(ib5896)は、自分を変えたいと思い、密かに巫女の修業を行い、開拓者となった。
「今回も、どうぞよろしくお願いします」
 新婚夫婦と家族たちの笑顔を見て、安心する。ファムニスは新婚夫婦の結婚式のとき、怪我をした新郎の父を治療した。
「これで甘くて美味しい甘味ができるんだな。早く食べてみたいなっ」
 棕櫚(ib7915)は甘い匂いを断ち切りながら、荷車から降ろした。
「無事運び終わったから〜、お餅つきだ〜〜〜!」
「お餅つきとか、お正月の様々な行事とか、体験出来たら嬉しいです♪」
 ぴょいんぴょいん跳ねる、プレシア・ベルティーニ(ib3541)。にっこり笑うティア・ユスティース(ib0353)には、エプロンドレスがお供する。黒曜石の様に青黒く輝く黒髪も、楽しげに揺れた。
「砂糖を届けたら、餅つき大会の準備を手伝わせてもらうね。もち米研いで水につけといたり、前日にやる事結構あるしな」
 神座真紀(ib6579)は、妹二人の母親代わりでもあり、家事全般をこなす。割烹着の入った手提げ袋を見せた。花梨に会うのも、久し振り。
「おせちや雑煮作りも楽しみやわ。他所の家の料理覚える、いい機会やし♪」
 砂糖泥棒から、荷物を守り抜いた真紀にも、ひそかな悩みがある。自分が、所帯じみてきているのではないかと。
「じゃあ〜、お米蒸すための火を焚かないとね〜☆ 火炎獣でごぉ〜って火を吹いてもらえば、一発着火できるよ〜♪」
 陰陽符「アラハバキ」を取りだしたプレシアを、誰も止めない。むしろ、ノリノリで見守る。
「ん〜、やっぱりお餅ぺったんは、これが良いかもね〜♪」
 ちょっと考えた狐耳。落ち葉に向かって、落下攻撃を仕掛ける。岩杵の登場に、良助から拍手が贈られた。


「天儀の田舎で過ごすお正月……ですか。ジルベリアの新年とはまた違った趣があるって父様から伺って、何時か体験してみたいと思っていたんです」
 ティアは、王国出身の父と帝国出身の母との間に生まれたハーフ。
「お〜も〜ち、お・も・ち〜、お餅っち〜♪ う〜ん、いっぱい食べるよ〜☆」
 ご機嫌で歌うプレシアも、鼻歌が交じってくる。微かに漂ってくる甘やかな香りに、水月はふらふらと引き寄せられた。
「お仕事はお仕事で、しっかりとするの」
 水月はきらきらと、上目遣い。、はっと気が付き、邪念を振り払い、言い聞かせる。
「これ、食べたらええで」
 道中のおやつに貰った氷砂糖を、真紀は少しだけ差し出した。
 水月は能面「天女」を見せる、天にも昇るくらい嬉しい。喋れない訳では無いのに、言葉を使わずに会話を進める。
 そんな平和を乱す、砂糖泥棒。無言の蒼羅の睨む相手は、腹ぺこの猿の群れ。
「へっ! あんたらにこの砂糖は渡さねぇよ!」
 姓は和(なごみ)名は亜伊(あい)。和亜伊(ib7459)は、豪快な口調と裏腹に、落ち着いた態度で対処する。
「迎撃して砂糖を死守、だろう?」
 愛読の小説に登場する二丁拳銃使いは、最強のアヤカシ狩りだというのに。亜衣の、今の姿は程遠い。
「よっし、楽しんでやるぞっ!」
 戦袍「子考」がはためく。戦士としての風格を引き立てる威風堂々とした戦袍は、棕櫚の性格を表していた。


●朱藩餅紀行
 忘れずに、正月の準備。
「雑煮は、うちは飛び魚のあごだしやけど、こちらはどんな出汁やろか?」
 ポーニーテールを揺らす、真紀の質問。りんは白みそを見せた。
「おせちは、そんな変わらんかな? うちは入れんけど、『ちょろぎ』言うの入れる所もあるみたいやね」
 ちょろぎは、「長老木」とも書かれる植物。巻貝のような形で、梅酒に漬けて、赤く染めると言う。白梅の里には、無かった。
「下の妹がうるさいから、栗きんとんは外せんな」
 真紀は気を取り直し、重箱におせちを詰めて行く。
「私は天儀で新年を迎えるのは初めてなので、見た事のないものが多いですね……」
 庭では、竹や松が飾られていく。蒼羅と清太郎が作る、門松作りは興味深い。
「これも、必要ですか?」
 ファムニスは、持ってきた薔薇の花を差し出す。同じ誕生日の青年たちは、顔を見合わせた。
「……飾るか」
 ジルベリアには、新年に薔薇を飾る風習があるのだろうと、蒼羅は解釈。門松の根元に、彩りが添えられた。


「あたしは返し手やろうかな。か弱い乙女が杵振り上げて餅つくなんてなぁ。でけへんわ」
「サムライって身分なら、あんたもできそうな気がしなくも無……」
 亜依は、思い出した。断る真紀の荷物に、戦面頬「赤炎」があった事を。闘争心を高めると聞く。餅つきに、ちょうどいい。
「せやから、あたし、これでもか弱い乙女なんやで? 和さん」
「いや、何でもねぇ、忘れてくれ」
 困った顔を浮かべる真紀は、反し手の準備万端。苦笑で、亜依は答える。
「お餅か……腕がなるな……!」
 標的は餅つき。亜伊のサイティングハットの切れ込みから、臼と杵が覗く。普段から得意な菓子作りをしているだけに、兎耳は自信満々。
「餅つき大会、俺は杵で叩く役をしたいな。最後のほうでいいから、やらせて欲しいな」
「よーし、最後は頼んだぜ♪」
 棕櫚は上目づかいに、訴える。片目を閉じた亜伊は帽子を脱ぎ、棕櫚の頭にかぶせた。
「私は要領がよくないので、手伝ったらリズムを乱してしまって……」
 亜依が手招きする。ファムニスは、一歩下がった。下手をすると、誰かに怪我をさせてしまう不安。
「つくのは見学するだけにして、お餅を丸めるのをお手伝いします」
 尻ごみするファムニスの背中を、花梨が押した。蒼羅に介助して貰ったファムニスは、驚く。蒼羅が振り上げるたびに、身体が浮き上がるのだ。
「あたしの父さん、こういうのはさっぱりやからな。しっかりつける男の人、惚れてまうなぁ」
 真紀の父は学者。蒼羅の力持ちぶりに、感嘆の声がもれる。
「これぐらいの重さなら、特に問題は無い」
 口数も多くなく、誤解される事もある蒼羅だが、人付き合いは悪くない。表情を変えず、杵を動かし続けた。
「確か……、合いの手の方と息を合わせた、リズミカルな動きで、御餅を搗くんでしたよね?」
 ティアは反し手、初体験。真紀に習いつつ、臼に手を入れる。まだご飯粒の残る、もち米の感触。
「ぺったんぺったん、やってみたかったんだっ!」
 握る杵の重い感触を楽しむ、棕櫚。力加減に気を使いつつ、杵を振り上げた。リズムを合わせるのは得意なティア、コツを掴むのも早かった。
 ティアの反しを受けながら、棕櫚は楽しそうに杵をふるう。少しして、二人の持ち場を入れ替えると、新たな笑顔が弾けた。
「ふにぃ〜、それじゃあ〜、ボクもお餅ぺったんぺったんしたいの〜!!」
 プレシアも、明るく元気はつらつ自己主張。蒼羅から受け取った杵を、「よい〜っしょ」と持ちあげた。
「おりゃあああ!!」
「……意外と威力があるな」
 プレシアの餅つきは、蒼羅をも感心させた。見かけより体力がある。
 修羅角を震わせ、全力で立ち向かう棕櫚。隣では、狐しっぽが興奮で踊る、プレシアの餅つき。
「きっと、すぐに出来るようになるの」
「えっと、片栗粉をつけるんですね?」
 杵の音を聞きながら、水月はご機嫌で丸め手に回る。ファムニスも、手をまっ白にした。
「…………なるはずなので……もうちょっとまってて」
 上手く丸める前に、手に付いた餅をどうにかしたい。苦戦する水月。母譲りの白銀の髪が、困ったように左右に揺れ動く。
「甘いお餅がいっぱい出来ますね……お餅を食べるのは初めてではないですが、楽しみです」
 丸め手になった、ファムニス。目を丸くして、りんのちぎる餅を受け取る。
「ぺったん、ぺったん、ぺったんこ〜♪ ……うにゅう……やっぱり、お餅ころころしてた方が良さそうだね〜」
 狐しっぽがうなだれる、疲れた。蒼羅に杵を戻し、プレシアは丸め手に回る。
「……餅が出来たから、丸めて作るのもやってみようかなっ」
 棕櫚、あんまり器用じゃない。修羅に良く見られる傾向の通り、不器用で大雑把 形も大きさもバラバラになる。
「あたしは、ずんだ餅作ってみるね。初めて作るから、上手くできるかな?」
 真紀は、ゆでて潰した枝豆に砂糖を混ぜた「ずんだ」を、餅にからめるという。ずんだ餅は、乾くと硬くなって食べられないらしい。
「お餅食べすぎて、他の料理が食べられないとかは悲しいの」
 ちょっと我慢するよう、自分に言い聞かせていた水月。見た目とは裏腹に、かなりの大食娘。
 緑のあんこが食欲を誘う。依頼に行った先々で、美味しい料理を食べる事が、密やかな楽しみ。
「きっと味は美味しいから、問題ないぞっ」
 棕櫚は丸めた餅にかじりつき、摘み食い。口元はべとべとで、うにょーん。水月も、つられて食べる。うにょーん。
「ボク、食べてばっかりじゃないもん!」
「そうです、ちょっと味見しただけです」
 狐しっぽとツインテールの主張は、認められない。プレシアとファムニスの口元には、緑のあんこがへばりついていた。


●笑う門には福が来る
 薄暗いうちから起き出すのが、蒼羅の日課。それ以上に早いのが、正月に心躍らせる子供たち。
「正月の遊びは……、付き合うのは構わないが」
 ファムニスと水月を引き連れた棕櫚が、庭に陣取っていた。栄えある遊び相手に、遊びを楽しむのは不得手な蒼羅を選ぶ。
「とりあえずは居合いの動作を一通り、だな」
 何をするのか尋ねられた、蒼羅の解答。三人は目を瞬かせる、子供たちには難しい。
「つまり、刀の朝稽古を……」
「んっ、俺は羽根つきとかしてみたいな。罰は勿論、墨と筆で落書きだなっ」
 棕櫚、蒼羅の言葉を遮った。難しい事を考えるのは大の苦手。ふんぞり返って、提案する。
「聞いたことあります。双子の姉さんが言うには、『合法的に人の顔に墨で落書きできる素晴らしい遊びだ』という事なんですが……」
 四人姉妹の三女で、双子の妹側のファムニスの知識は偏っている。間違っていないけど、変な方向に偏っている。
「その後で、書き初めをしたいの」
 墨と筆があるなら、半紙もあるはず。水月も意思を言葉にした。


「ごはんやで♪ ……あれ、どこ行ったん?」
 朝ごはんを手伝っていた真紀が、庭に出てくる。蒼羅が一人で、縁側に座っていた。
 無造作に置かれた、錦の手甲。傍らに、羽根つきの道具がある。
「……中に居る」
 滅多に感情を表に出さず、どんな状況でも落ち着き払っている蒼羅。墨色になった手で、書き初め中の座敷を示す。
「一生懸命書くぞ!」
 頬を墨色に染めたまま、棕櫚は無言で書きつづる。
「よくわかないけど、俺にぴったりらしいぞっ」
 にかっと笑う修羅角は、出来上がった文字を見せた。『愉快活発』の四文字。
 落書きだらけの顔で、水月も筆をとる。大きく書いた文字を見せた。
『洽覧深識(こうらんしんき)』
 これまで以上に見聞を広めて、もっともっといろんなことが出来るように学びたい。それが水月の目標。
「お汁粉や善哉も、甘くて美味しそうですね」
「そうだな」
 巻き込まれたティアが、筆で書いた文字。おしるこ。隣の亜依は、ぜんざい。


「天儀のお正月って、すごく楽しいです♪ あ、焼き餅を作っていいですか?」
 満開の笑顔のファムニス、準備が良い。七輪を持って来ていた、網の上でお餅を焼く気だ。
「ぷくっと膨れたら醤油を万遍なく塗って、海苔を巻いて作る……と姉さんに聞いてきました」
 海苔を出しつつ、口元を隠す。ファムニスのツインテールが、期待に踊った。
「お餅は、やっぱりあん餅が一番好き……あと、ぜんざいもなの♪」
 餅は焼いてから入れる派の水月、七輪の前に移動する。
「あと、きなことか、ごまとかも好きですし、食べた事ないお餅も挑戦してみたいの♪ ……でも梅はやめて〜」
 水月はとっさに、辺りを見渡した。梅餅は見たことないが、白梅の里ならありそうだ。
「俺はあまり甘すぎるのは、好みではないな」
 さり気なく蒼羅は、砂糖しょう油の入れ物を差し出した。
「甘いのも好きですが、しょっぱいのも好きなんです……」
 砂糖しょう油に、視線が輝いた。照れた笑顔を浮かべる、ファムニス。
「他には、きな粉を中心にだな……」
 蒼羅の言葉に、プレシアの歌が重なる。
「♪大福におはぎにいそべ餅〜……あっ、でもでも、あべかわ餅が一番良いかな〜? きなこも美味しいし〜♪」
 きな粉をまぶした餅に、砂糖をかける。お稲荷さんみたいなお餅を想像し、よだれをじゅるりと拭うプレシアのお腹は、ぐきゅるるるる〜。
 ティアの両手に握られたもの。「フライパン」「フライパン返し」と言う、ジルベリア製の調理器具。
「私は、知人に教わった風邪予防にも良い、お餅の食べ方をやってみようと思います」
 せんべいのように、薄くなった餅を見せる。七輪の上に、調理器具を乗せた。油をなじませると、刻んだネギ、餅を敷いて、その上から軽く小麦粉をまく。
「蓋を落として、葱から出る蒸気で蒸し焼きにするんですよ」
 少し経つと、小麦粉が蒸気を吸ってしっとりした。ティアは蓋を取り、たっぷりの削り節と醤油をかける。
「お餅のもっちり感と、表面の香ばしいカリッカリ感が、意外といけるそうです♪」
 ティアが中身をひっくり返すと、香ばしい匂い。湿気と醤油を吸った小麦と削り節が、表面カリッカリに焼きあがる。
「よぉ〜し、全部終わったよ〜!! それじゃあ、いっただっきまぁ〜〜っす☆」
 プレシアの声に、水月も嬉しそうに合掌。全種類制覇したツワモノたちは、次に亜依を見た。
「明日のお楽しみさと言った、昨日のあれか? 待ってな」
 兎耳に台所を追いだされた人々の、無言の質問。お餅を手に、亜衣は台所に消える。
「その質問の答え、それはこのお揚げの中さ!」
 たこや昆布入り土鍋を手に、片目を閉じる亜依。好物の登場に、狐しっぽが嬉しそうに舞い踊る。
 背がちょっと低い事を気にしているプレシアは、背伸びをして顔を近づけた。お揚げの中に入れた餅を発見し、指差した。
「……そう、これは巾着さ! 冬はやっぱ暖かいモンが一番だな!」
 巾着多めのおでん。餅と関係無さそうに見えて、実は関係ある、粋な計らい。
 良助を含む、年少者は大喜び。おでんを受け取る順番を賭けて、じゃんけんを繰り広げた。