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■オープニング本文 ●理穴は甘味処 「奏生にも、砂糖はありますよね?」 「……ある」 「菓子職人で無くても、買えますか?」 「……店に行けば、買える」 真剣な表情で、サムライ娘は受付を見上げる。仏頂面で対応するのは、理穴出身のベテランギルド員。奏生は理穴の首都で、貿易都市だった。 「……娘さん、そろそろ仕事を進めたいんだが。質問攻めでは、書類が作れん」 「すみません! じゃあ、もう一つだけ質問を」 「……もう一つの質問とやらは、いくつあるんだ?」 武天生まれのサムライ娘、依頼を頼みに来たはずが、世間話が延々と続く。ベテランギルド員はため息をつきながら、辛抱強く待った。 「依頼は、理穴から朱藩への荷物の運搬だ。詳細は、依頼人の娘さんに聞いてくれ」 ベテランギルド員は、疲れていた。力を無くした身体は事務的に用件を述べ、依頼人に丸投げする。 「依頼をお願いした、真野 花梨(まの かりん)と申します」 ポニーテールの黒髪を揺らし、サムライ娘は頭を下げる。 「実は朱藩の親戚が餅つきをするので、理穴の砂糖を欲しがっているんです。お正月のすぐあと、一月六日は従兄の誕生日で、今年は贅沢をするつもりらしくて。 砂糖は、あんこの材料です。あずきやもち米は、親戚の家にありますから」 手紙には、「新婚の従兄や新妻を驚かせるつもり」だと、書き添えが。豪放な伯父は、お茶目でもあった。 ●正月の準備 サムライ娘が、ギルドに依頼を頼む、少し前の話し。 朱藩の田舎に、白梅の里がある。年明けの春の前には、里の入口や各家の梅の花が咲き乱れるだろう。 「親父、餅つきは、いつするんだ?」 「花梨が来てからだな」 「花梨? なんで、わざわざ武天から……」 新婚の青年は、久しぶりの故郷で年末の準備に追われていた。しめ縄を編みながら、父親に尋ねる。 青年は一人息子、従妹のサムライ娘も道場の一人娘。子供の少ない両家は、昔から家族ぐるみの行事も多かったが、ふに落ちない。 「どっかのどら息子が家出してから、花梨が一心に手伝ってくれていたんだ」 「……俺のせいか」 十八の青年は、十六に家出してから二年ほど音信不通状態が続く。朱藩中を旅した放蕩息子も、ようやく白梅の里に戻る気になった。 二年の歳月は、野良仕事を下手にした。田舎の生活は、父の怒声を浴びる日々が続く。 「武天か……婚礼衣装を求めにいったとき以来だな」 旅の虫が顔をのぞかせるが、青年は顔を振って振り払う。今年の六月には、同い年の幼馴染の娘と祝言をあげた。 大事な新妻は、青年が旅の話をすると悲しがる。二年前のように、一人だけ置いて行かれると恐れていた。 「清君、門松が飾れたわよ」 「そうか、ありがとう」 新妻は、ひょっこりと縁側に姿を現す。青年は笑顔で迎えた。 青年が迷って、遠回りして手に入れた幸せ。二度と手放さない、守ると決めた。 「おりん、餅つきに花梨が来るらしい。そのときは頼む」 「まあ、花梨さんが? 楽しみね♪」 青年の従妹と新妻の家族は、今年から親戚となった。親戚ぐるみの付き合いも、増えている。 「……餅を丸める要員に、良助(りょうすけ)も引っ張ってくるか? 花梨もきっと喜ぶぞ」 師走の忙しい時期だが、義弟になった少年も、喜んでかけてくるだろう。 「でも、良助は実家の餅つきをしないと」 新妻の表情が少し曇る。少年は新妻の弟、実家の跡取り。家の手伝いを覚えるのが当たり前。 「うちとおりんの実家と、花梨の家と合同でやれば……親父、良いか?」 「構わんぞ」 「おりん、おじさ……じゃなかった、お義父さんに伝えてくれるか?」 「清太郎(せいたろう)、自分の実父も『お父さん』と敬ってだな……」 「うちはうち、よそはよそ。……親父の口癖だったよな?」 「う……うむ、だがな……」 「親父は親父、おふくろはおふくろ。父さんは父さん、母さんは母さん。問題ない」 「お義父さん、今日は清君の方が一枚上手ね♪」 豪放な父親に対し、大胆な息子あり。新妻は、くすくすと笑う。 白梅の里は、今日も平和だった。 |
■参加者一覧
水月(ia2566)
10歳・女・吟
琥龍 蒼羅(ib0214)
18歳・男・シ
ティア・ユスティース(ib0353)
18歳・女・吟
プレシア・ベルティーニ(ib3541)
18歳・女・陰
ファムニス・ピサレット(ib5896)
10歳・女・巫
神座真紀(ib6579)
19歳・女・サ
和亜伊(ib7459)
36歳・男・砲
棕櫚(ib7915)
13歳・女・サ |
■リプレイ本文 ●砂糖警備隊 奇しくも、一月六日は琥龍 蒼羅(ib0214)の誕生日であった。 「白梅の里……、以前行ったのは半年ほど前だったか」 蒼羅は懐かしそうに、白梅の木を見やる。里の入口は、変わらない。 「この里の人と会うのも、もう三回目なの……」 水月(ia2566)は大きく、背伸びをした。開拓者として、依頼に追われるような忙しい日々。 でも、里にいる間は『開拓者の水月』ではなく、ただの『十歳の少女』に戻れる。穏やかに過ごした夏休みは、楽しい思い出。 「皆さん、お久しぶりです。寒くなりましたが、お風邪などひかれてないですか……?」 引っ込み思案で、いつもおどおどしている少女は、堂々と挨拶をした。ファムニス・ピサレット(ib5896)は、自分を変えたいと思い、密かに巫女の修業を行い、開拓者となった。 「今回も、どうぞよろしくお願いします」 新婚夫婦と家族たちの笑顔を見て、安心する。ファムニスは新婚夫婦の結婚式のとき、怪我をした新郎の父を治療した。 「これで甘くて美味しい甘味ができるんだな。早く食べてみたいなっ」 棕櫚(ib7915)は甘い匂いを断ち切りながら、荷車から降ろした。 「無事運び終わったから〜、お餅つきだ〜〜〜!」 「お餅つきとか、お正月の様々な行事とか、体験出来たら嬉しいです♪」 ぴょいんぴょいん跳ねる、プレシア・ベルティーニ(ib3541)。にっこり笑うティア・ユスティース(ib0353)には、エプロンドレスがお供する。黒曜石の様に青黒く輝く黒髪も、楽しげに揺れた。 「砂糖を届けたら、餅つき大会の準備を手伝わせてもらうね。もち米研いで水につけといたり、前日にやる事結構あるしな」 神座真紀(ib6579)は、妹二人の母親代わりでもあり、家事全般をこなす。割烹着の入った手提げ袋を見せた。花梨に会うのも、久し振り。 「おせちや雑煮作りも楽しみやわ。他所の家の料理覚える、いい機会やし♪」 砂糖泥棒から、荷物を守り抜いた真紀にも、ひそかな悩みがある。自分が、所帯じみてきているのではないかと。 「じゃあ〜、お米蒸すための火を焚かないとね〜☆ 火炎獣でごぉ〜って火を吹いてもらえば、一発着火できるよ〜♪」 陰陽符「アラハバキ」を取りだしたプレシアを、誰も止めない。むしろ、ノリノリで見守る。 「ん〜、やっぱりお餅ぺったんは、これが良いかもね〜♪」 ちょっと考えた狐耳。落ち葉に向かって、落下攻撃を仕掛ける。岩杵の登場に、良助から拍手が贈られた。 「天儀の田舎で過ごすお正月……ですか。ジルベリアの新年とはまた違った趣があるって父様から伺って、何時か体験してみたいと思っていたんです」 ティアは、王国出身の父と帝国出身の母との間に生まれたハーフ。 「お〜も〜ち、お・も・ち〜、お餅っち〜♪ う〜ん、いっぱい食べるよ〜☆」 ご機嫌で歌うプレシアも、鼻歌が交じってくる。微かに漂ってくる甘やかな香りに、水月はふらふらと引き寄せられた。 「お仕事はお仕事で、しっかりとするの」 水月はきらきらと、上目遣い。、はっと気が付き、邪念を振り払い、言い聞かせる。 「これ、食べたらええで」 道中のおやつに貰った氷砂糖を、真紀は少しだけ差し出した。 水月は能面「天女」を見せる、天にも昇るくらい嬉しい。喋れない訳では無いのに、言葉を使わずに会話を進める。 そんな平和を乱す、砂糖泥棒。無言の蒼羅の睨む相手は、腹ぺこの猿の群れ。 「へっ! あんたらにこの砂糖は渡さねぇよ!」 姓は和(なごみ)名は亜伊(あい)。和亜伊(ib7459)は、豪快な口調と裏腹に、落ち着いた態度で対処する。 「迎撃して砂糖を死守、だろう?」 愛読の小説に登場する二丁拳銃使いは、最強のアヤカシ狩りだというのに。亜衣の、今の姿は程遠い。 「よっし、楽しんでやるぞっ!」 戦袍「子考」がはためく。戦士としての風格を引き立てる威風堂々とした戦袍は、棕櫚の性格を表していた。 ●朱藩餅紀行 忘れずに、正月の準備。 「雑煮は、うちは飛び魚のあごだしやけど、こちらはどんな出汁やろか?」 ポーニーテールを揺らす、真紀の質問。りんは白みそを見せた。 「おせちは、そんな変わらんかな? うちは入れんけど、『ちょろぎ』言うの入れる所もあるみたいやね」 ちょろぎは、「長老木」とも書かれる植物。巻貝のような形で、梅酒に漬けて、赤く染めると言う。白梅の里には、無かった。 「下の妹がうるさいから、栗きんとんは外せんな」 真紀は気を取り直し、重箱におせちを詰めて行く。 「私は天儀で新年を迎えるのは初めてなので、見た事のないものが多いですね……」 庭では、竹や松が飾られていく。蒼羅と清太郎が作る、門松作りは興味深い。 「これも、必要ですか?」 ファムニスは、持ってきた薔薇の花を差し出す。同じ誕生日の青年たちは、顔を見合わせた。 「……飾るか」 ジルベリアには、新年に薔薇を飾る風習があるのだろうと、蒼羅は解釈。門松の根元に、彩りが添えられた。 「あたしは返し手やろうかな。か弱い乙女が杵振り上げて餅つくなんてなぁ。でけへんわ」 「サムライって身分なら、あんたもできそうな気がしなくも無……」 亜依は、思い出した。断る真紀の荷物に、戦面頬「赤炎」があった事を。闘争心を高めると聞く。餅つきに、ちょうどいい。 「せやから、あたし、これでもか弱い乙女なんやで? 和さん」 「いや、何でもねぇ、忘れてくれ」 困った顔を浮かべる真紀は、反し手の準備万端。苦笑で、亜依は答える。 「お餅か……腕がなるな……!」 標的は餅つき。亜伊のサイティングハットの切れ込みから、臼と杵が覗く。普段から得意な菓子作りをしているだけに、兎耳は自信満々。 「餅つき大会、俺は杵で叩く役をしたいな。最後のほうでいいから、やらせて欲しいな」 「よーし、最後は頼んだぜ♪」 棕櫚は上目づかいに、訴える。片目を閉じた亜伊は帽子を脱ぎ、棕櫚の頭にかぶせた。 「私は要領がよくないので、手伝ったらリズムを乱してしまって……」 亜依が手招きする。ファムニスは、一歩下がった。下手をすると、誰かに怪我をさせてしまう不安。 「つくのは見学するだけにして、お餅を丸めるのをお手伝いします」 尻ごみするファムニスの背中を、花梨が押した。蒼羅に介助して貰ったファムニスは、驚く。蒼羅が振り上げるたびに、身体が浮き上がるのだ。 「あたしの父さん、こういうのはさっぱりやからな。しっかりつける男の人、惚れてまうなぁ」 真紀の父は学者。蒼羅の力持ちぶりに、感嘆の声がもれる。 「これぐらいの重さなら、特に問題は無い」 口数も多くなく、誤解される事もある蒼羅だが、人付き合いは悪くない。表情を変えず、杵を動かし続けた。 「確か……、合いの手の方と息を合わせた、リズミカルな動きで、御餅を搗くんでしたよね?」 ティアは反し手、初体験。真紀に習いつつ、臼に手を入れる。まだご飯粒の残る、もち米の感触。 「ぺったんぺったん、やってみたかったんだっ!」 握る杵の重い感触を楽しむ、棕櫚。力加減に気を使いつつ、杵を振り上げた。リズムを合わせるのは得意なティア、コツを掴むのも早かった。 ティアの反しを受けながら、棕櫚は楽しそうに杵をふるう。少しして、二人の持ち場を入れ替えると、新たな笑顔が弾けた。 「ふにぃ〜、それじゃあ〜、ボクもお餅ぺったんぺったんしたいの〜!!」 プレシアも、明るく元気はつらつ自己主張。蒼羅から受け取った杵を、「よい〜っしょ」と持ちあげた。 「おりゃあああ!!」 「……意外と威力があるな」 プレシアの餅つきは、蒼羅をも感心させた。見かけより体力がある。 修羅角を震わせ、全力で立ち向かう棕櫚。隣では、狐しっぽが興奮で踊る、プレシアの餅つき。 「きっと、すぐに出来るようになるの」 「えっと、片栗粉をつけるんですね?」 杵の音を聞きながら、水月はご機嫌で丸め手に回る。ファムニスも、手をまっ白にした。 「…………なるはずなので……もうちょっとまってて」 上手く丸める前に、手に付いた餅をどうにかしたい。苦戦する水月。母譲りの白銀の髪が、困ったように左右に揺れ動く。 「甘いお餅がいっぱい出来ますね……お餅を食べるのは初めてではないですが、楽しみです」 丸め手になった、ファムニス。目を丸くして、りんのちぎる餅を受け取る。 「ぺったん、ぺったん、ぺったんこ〜♪ ……うにゅう……やっぱり、お餅ころころしてた方が良さそうだね〜」 狐しっぽがうなだれる、疲れた。蒼羅に杵を戻し、プレシアは丸め手に回る。 「……餅が出来たから、丸めて作るのもやってみようかなっ」 棕櫚、あんまり器用じゃない。修羅に良く見られる傾向の通り、不器用で大雑把 形も大きさもバラバラになる。 「あたしは、ずんだ餅作ってみるね。初めて作るから、上手くできるかな?」 真紀は、ゆでて潰した枝豆に砂糖を混ぜた「ずんだ」を、餅にからめるという。ずんだ餅は、乾くと硬くなって食べられないらしい。 「お餅食べすぎて、他の料理が食べられないとかは悲しいの」 ちょっと我慢するよう、自分に言い聞かせていた水月。見た目とは裏腹に、かなりの大食娘。 緑のあんこが食欲を誘う。依頼に行った先々で、美味しい料理を食べる事が、密やかな楽しみ。 「きっと味は美味しいから、問題ないぞっ」 棕櫚は丸めた餅にかじりつき、摘み食い。口元はべとべとで、うにょーん。水月も、つられて食べる。うにょーん。 「ボク、食べてばっかりじゃないもん!」 「そうです、ちょっと味見しただけです」 狐しっぽとツインテールの主張は、認められない。プレシアとファムニスの口元には、緑のあんこがへばりついていた。 ●笑う門には福が来る 薄暗いうちから起き出すのが、蒼羅の日課。それ以上に早いのが、正月に心躍らせる子供たち。 「正月の遊びは……、付き合うのは構わないが」 ファムニスと水月を引き連れた棕櫚が、庭に陣取っていた。栄えある遊び相手に、遊びを楽しむのは不得手な蒼羅を選ぶ。 「とりあえずは居合いの動作を一通り、だな」 何をするのか尋ねられた、蒼羅の解答。三人は目を瞬かせる、子供たちには難しい。 「つまり、刀の朝稽古を……」 「んっ、俺は羽根つきとかしてみたいな。罰は勿論、墨と筆で落書きだなっ」 棕櫚、蒼羅の言葉を遮った。難しい事を考えるのは大の苦手。ふんぞり返って、提案する。 「聞いたことあります。双子の姉さんが言うには、『合法的に人の顔に墨で落書きできる素晴らしい遊びだ』という事なんですが……」 四人姉妹の三女で、双子の妹側のファムニスの知識は偏っている。間違っていないけど、変な方向に偏っている。 「その後で、書き初めをしたいの」 墨と筆があるなら、半紙もあるはず。水月も意思を言葉にした。 「ごはんやで♪ ……あれ、どこ行ったん?」 朝ごはんを手伝っていた真紀が、庭に出てくる。蒼羅が一人で、縁側に座っていた。 無造作に置かれた、錦の手甲。傍らに、羽根つきの道具がある。 「……中に居る」 滅多に感情を表に出さず、どんな状況でも落ち着き払っている蒼羅。墨色になった手で、書き初め中の座敷を示す。 「一生懸命書くぞ!」 頬を墨色に染めたまま、棕櫚は無言で書きつづる。 「よくわかないけど、俺にぴったりらしいぞっ」 にかっと笑う修羅角は、出来上がった文字を見せた。『愉快活発』の四文字。 落書きだらけの顔で、水月も筆をとる。大きく書いた文字を見せた。 『洽覧深識(こうらんしんき)』 これまで以上に見聞を広めて、もっともっといろんなことが出来るように学びたい。それが水月の目標。 「お汁粉や善哉も、甘くて美味しそうですね」 「そうだな」 巻き込まれたティアが、筆で書いた文字。おしるこ。隣の亜依は、ぜんざい。 「天儀のお正月って、すごく楽しいです♪ あ、焼き餅を作っていいですか?」 満開の笑顔のファムニス、準備が良い。七輪を持って来ていた、網の上でお餅を焼く気だ。 「ぷくっと膨れたら醤油を万遍なく塗って、海苔を巻いて作る……と姉さんに聞いてきました」 海苔を出しつつ、口元を隠す。ファムニスのツインテールが、期待に踊った。 「お餅は、やっぱりあん餅が一番好き……あと、ぜんざいもなの♪」 餅は焼いてから入れる派の水月、七輪の前に移動する。 「あと、きなことか、ごまとかも好きですし、食べた事ないお餅も挑戦してみたいの♪ ……でも梅はやめて〜」 水月はとっさに、辺りを見渡した。梅餅は見たことないが、白梅の里ならありそうだ。 「俺はあまり甘すぎるのは、好みではないな」 さり気なく蒼羅は、砂糖しょう油の入れ物を差し出した。 「甘いのも好きですが、しょっぱいのも好きなんです……」 砂糖しょう油に、視線が輝いた。照れた笑顔を浮かべる、ファムニス。 「他には、きな粉を中心にだな……」 蒼羅の言葉に、プレシアの歌が重なる。 「♪大福におはぎにいそべ餅〜……あっ、でもでも、あべかわ餅が一番良いかな〜? きなこも美味しいし〜♪」 きな粉をまぶした餅に、砂糖をかける。お稲荷さんみたいなお餅を想像し、よだれをじゅるりと拭うプレシアのお腹は、ぐきゅるるるる〜。 ティアの両手に握られたもの。「フライパン」「フライパン返し」と言う、ジルベリア製の調理器具。 「私は、知人に教わった風邪予防にも良い、お餅の食べ方をやってみようと思います」 せんべいのように、薄くなった餅を見せる。七輪の上に、調理器具を乗せた。油をなじませると、刻んだネギ、餅を敷いて、その上から軽く小麦粉をまく。 「蓋を落として、葱から出る蒸気で蒸し焼きにするんですよ」 少し経つと、小麦粉が蒸気を吸ってしっとりした。ティアは蓋を取り、たっぷりの削り節と醤油をかける。 「お餅のもっちり感と、表面の香ばしいカリッカリ感が、意外といけるそうです♪」 ティアが中身をひっくり返すと、香ばしい匂い。湿気と醤油を吸った小麦と削り節が、表面カリッカリに焼きあがる。 「よぉ〜し、全部終わったよ〜!! それじゃあ、いっただっきまぁ〜〜っす☆」 プレシアの声に、水月も嬉しそうに合掌。全種類制覇したツワモノたちは、次に亜依を見た。 「明日のお楽しみさと言った、昨日のあれか? 待ってな」 兎耳に台所を追いだされた人々の、無言の質問。お餅を手に、亜衣は台所に消える。 「その質問の答え、それはこのお揚げの中さ!」 たこや昆布入り土鍋を手に、片目を閉じる亜依。好物の登場に、狐しっぽが嬉しそうに舞い踊る。 背がちょっと低い事を気にしているプレシアは、背伸びをして顔を近づけた。お揚げの中に入れた餅を発見し、指差した。 「……そう、これは巾着さ! 冬はやっぱ暖かいモンが一番だな!」 巾着多めのおでん。餅と関係無さそうに見えて、実は関係ある、粋な計らい。 良助を含む、年少者は大喜び。おでんを受け取る順番を賭けて、じゃんけんを繰り広げた。 |