壊し屋、求む
マスター名:青空 希実
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/03/12 10:12



■オープニング本文

 泰国の南部は一足早い春の訪れを示していた。
  山里ではせせらぎの聞こえる小川が流れ、開墾を待つ畑が広がっている。
  畑のあぜ道で唸る中年男が一人、腕組みをして考え込んでいた。

「そろそろ限界か‥‥、今年はがんばって新しいのを建てるとするかの」
 唸り声がやむと、独りで呟いては納得したかのように頷く。
 畑の向こうには、おんぼろの木造小屋が一つ見える。農機を置いておく小屋だったのだが、長年の風雨にさらされ傾いていた。
 ついでに何年か前から雨漏りを繰り返し、屋根にも小さな穴があいている。
 そろそろ小屋とお別れの時期に来ているのかもしれない。


「壊し屋を探しているらしいですよ、腕が騒ぎますね!」
 新人ギルド員は拳を握り力説する、依頼書が握りつぶされた。
 間髪おかずベテランギルド員のゲンコツが飛び、誤解を招きかけた新人ギルド員に命中。
 なかなか良い音がギルド内に響いた。

「新しい小屋を建てるので、古い小屋の解体を手伝って欲しいという依頼です。
一人で行えば何日もかかるでしょうが、人数がいれば一日ぐらいだと思いますよ。
解体後は廃材の運搬も手伝って下さいね、畑でたき火をして芋を焼くつもりだそうです」
 後頭部のタンコブをさすりながら、新人ギルド員は依頼書を差し出した。
 しわがのばされた依頼書を受け取り、内容を確認する。
 解体するのは構わないが、どれぐらいの大きさの小屋なのだろう。
 かすめる不安に、顔を上げて新人ギルドの続きを聞いた。

「物を壊しても怒られないうえ、食事つきの依頼なんて羨ましいです。
行けることなら、ストレス発散に僕が行きたいくらいですよ‥‥」
 ため息とともに新人ギルド員がつぶやく台詞が聞こえた。
 ゲンコツを受けて怒られたら、ストレスがたまるのかもしれない。
 冬の寒さでなまった体を動かすには良い機会だろう、焼き芋もおいしそうだ。
 しわしわの依頼書を眺めながら、浮かんだ考えに頬が緩んでいた。



■参加者一覧
鴇ノ宮 風葉(ia0799
18歳・女・魔
和奏(ia8807
17歳・男・志
ティエル・ウェンライト(ib0499
16歳・女・騎
モハメド・アルハムディ(ib1210
18歳・男・吟
十野間 修(ib3415
22歳・男・志
紫吹(ib5493
24歳・女・砲
Kyrie(ib5916
23歳・男・陰
翠荀(ib6164
12歳・女・泰


■リプレイ本文


 壊し屋の朝は、破壊大帝の高笑いから始まる。
「我は破壊の大帝‥‥。さあ、ギグの始まりだ!」
 髪を逆立てたKyrie(ib5916)が腰に手をあてて、ふんぞり返っていた。
「我がウェンライトの家名にかけて、この仕事果たしてみせます!」
「はーい、はーい、うちも!ティエやキリリと、がんがんぶっこわーす♪」
 ティエル・ウェンライト(ib0499)の黄金の胸当ても、決意を語るように朝日を受けて輝く。犬しっぽをふりふり、翠荀(ib6164)も楽しそうだ。
「グハハハハハァ!」
「えーい、うるさい、わしの話をきけ!」
 白い手ぬぐいが宙を舞い、大帝の頭を直撃。Kyrieが振り向くと、依頼人が人数分の手ぬぐいを手に立っていた。
「お前さんたちが、解体の手伝いをしてくれるんだな。方法は任すが、芋を焼けるようにはしてくれ」
 乙女の敵と分かっていても、焼き芋の誘惑は断ち切れない。
「焼き芋、楽しみだねぇ。この時期の焼き芋だ‥‥さぞ美味しいことさね」
 口元に笑みを浮かべて、紫吹(ib5493)は舌なめずりをした。妖艶な仕草は、過去に何人もの男を虜にしたのだろう。
「はいはいっ、あんた達しっかり働きなさいよー?」
 あたしの為にという言葉は胸の内に隠し、ざ・おじょーさま・鴇ノ宮 風葉(ia0799)は叱咤する。
「ほれ、手ぬぐいだ、口でも覆っとけ」
「ショクラン、感謝します。天儀の建築物には土壁や漆喰が多く、解体時は著しい埃が立ちますから」
「芋のときには回収するぞ」
 手ぬぐいを差し出す依頼人、無骨ながら好意らしい。余計なひと言が付いているが。 土木建築に詳しいモハメド・アルハムディ(ib1210)は、礼を述べながら受け取った。
「僕には必要ありません」
 竹林模様の手ぬぐいがはためき、シュタッと口元に結ばれる。マイ手ぬぐい持参の和奏(ia8807)は、額の風読のゴーグルを下して武装完了。
「どうやって解体しましょうか」
 一人まじめに小屋を観察していた十野間 修(ib3415)は、モハメドに話しかけた。自分達は解体に来たのであって、破壊に来ているのでは無いはず。

「ふぃーふぁ、さあ我が為に奏でよ、破壊のロンドを!」
 紫の唇が妖しい、まっ白い肌の人は、目のクマドリも凄い。修Kyrieの額にある「壊」の文字を知ってか、知らずか。
「おっきーけど、他の人にあたんないよーにきをつけて、だよねー?」
「いいですか、常に常にフルスイングがコツです!」
「派手に解体できる‥‥、楽しみだねぇ」
 ティエルと翠荀は仲良く、ブロークンバロウの振り方を研究中。紫吹は紫吹で、鳥銃を撫でながらうっとりしていた。
 破壊への一方通行は近いかもしれない。



「どうすんのよ?」
「ナソィーハ、助言を申し上げると、まず戸、襖、障子、壁、畳など。小屋の内層を撤去ですね」
「解体時に手順を間違わず、掛けるべき所に手間を少しかける。それだけで再利用できるものが意外と出るものです」
「龍さんのおうちを作れるくらいですか?」
「‥‥。建物として使えなくても、敷地境の柵などに流用できるものもあると思いますよ」
「柵にと‥‥」
「現場周囲に柵を設置し、立入の制限を設けましょう。安全を期すのも大事です」
「で、アルハムディ、その柵はどこにあんの?」
「外の戸を流用しますか?」
「ナァム、それが良いでしょう」
 一応、解体意識がある者もいた。
 あくびをしながら尋ねる風葉に、モハメドは土木建築の知識を活かして説明を始める。うんうんと頷きながら、修も続いて口を開いた。
 するどいのか、天然なのか分からない和奏の台詞。まじめにメモを取る相手を、小さな沈黙のあと修はやんわりと流した。
 モハメドは説明を続ける、真顔で聞いているふりをして風葉は聞き流していたが。
 小屋を観察してきていた修が即座に考えを告げる、最初の行動が決定した。

「すみません、みなさん。戸を外すのを手伝ってください」
 和奏が手を振り、素振り練習中の面々に声をかける。メイス二刀流のKyrieが手を振り返す‥‥と見せかけ、破壊の為のリズムをとりだした。
「我にもっと破壊の音を、ゲハッ、ゲハッ!」
 打ち鳴らされる鈍い金属音に、派手な銃声が旋律を添える。紫吹は両手で愛銃を構えると軽快に撃つ、撃つ。
 最後に銃口を上に向け、口づけるように紫煙を吹き飛ばした。
「ふぅ‥‥快感‥‥っ」
「しぶりん、ありがとー♪もはめっちの言うとおり、どんどんがすがす、ぶっこわせ!」
「我が一撃、受けてみよー!とりゃー!」
 紫吹の弾道を追っていくと、ニ枚戸の真ん中を突きっている。翠荀が右に、ティエルが左に立ち、一斉に打撃ポーズ。掛け声とともに、戸を真っ二つにした。
「ん、持ち運びやすくなったじゃないか」
「あ、本当ですね」
 高揚状態のKyrieの高笑いが感染したかのように笑う紫吹。のんきに和奏が同意した、

「外枠を修理すれば、まだ使えそうだったのですが」
「あんた、うだうだ言わずにとっと運びなさいよ」
「行きますよ」
「ヤー、鴇ノ宮さん、なにをしているのですか?」
「お茶よ、お茶を沸かすの。のどが渇くでしょ」
 修が頬をかきながら姿を変えた戸を眺める、叱咤する風葉の声にしょうがなく運びに向かった。
 モハメドが何気なく声をかけてきた。風葉は依頼人宅から借りてきたお茶用具一式を広げる所。不機嫌になりつつ、軽く睨みつける。
「あによ、あたしの行動にケチつけるわけ」
「ラ、お茶は良いですね。お湯はいずこに?」
「あの廃材で火を起こすのよ、解体はまだ?」
「アフワン、すみません。まず水をかけて埃を予防しませんと」
「水を掛けるなンてねぇ‥‥。折角の焼き芋の素材が、無くなっちまわないかい?」
「水より湯をかけませんか、そこの川の水はまだ冷たいですよ」
「ナァム、湯が良いでしょうね。廃材を燃料にしましょう」
「水か、湯をかけなきゃ、解体できないんじゃないのかい?」
「湯の為に廃材が必要なんですよね」
「‥‥?」
 動くとのどは渇くだろう、風葉の判断は正しいと思われた。モハメドは首をふり、風葉に肯定を示す。単にサボりたいだけの風葉に本心には気づかない。
 第一弾の元・戸を運んできたティエルと紫吹が会話に参戦する。解体用の湯が先か、湯を沸かすための解体が先か。
 しばらく答えの出ない議論が続いた。

「♪お水をかけましょ、廃屋に〜♪ あ、たかいとこは任せて、慣れてるからー」
 何やらご機嫌の翠荀は、距離を取りつつKyrieのヘッドバンキングに合わせて歌う。
 その距離が生来の男性苦手か、イカ墨を補給して黒くなったKyrieの口の中が原因かわからないが。
 川の水を汲んできては、楽しそうに撒き散らしていた。ひょほーいと屋根に上がって、上側の水撒きも忘れない。
「まずは屋根ですね」
「ったく、もー‥‥術使うとお腹減るってーのに‥‥」
 遠くで空っぽのお茶用具を見下ろし、モハメドの助言通り、狙うは高いところ。
 不機嫌絶好調の風葉は、下をみたまま呪殺符「深愛」を取り出す。焼き芋は、まだ遠い彼方だ。
 力の歪みを怒りのまま放つ。‥‥連続で。
「わふ?」
 急に翠荀の右足が穴に落ちた。ぱっと左足で飛びずさり、後ろに着地。着地した床も無くなった、木のきしむ音が聞こえる。
「ヤッラー!」
「うっさいわね」
「翠荀さんが上にいますよ」
「いたいのいやーっ!!」
 モハメドが声を張り上げた。怒りに風葉が顔を上げると、悲鳴とともに翠荀が屋根の崩壊に巻き込まれた所だった。
「万物よ悉く 我が前にて灰塵と化せ!
破壊 ハカイ HAKAI DESTROY!
破壊 ハカイ HAKAI DESTROY!
DEDEDEDEDEDEDEDEDEDEDEDESTROY!
DES DEATH DEATH DEATH DEATH DEATH DEATH DEATH
DEDEDEDEDEDEDEDEDEDEDEDE DEATH DEATH TROOOOOOOJ!」
 崩壊に合わせて激しくリュートをかきならすKyrie。トランスの世界にスイッチが入る。
 破壊大帝以外、誰も動かない。時が止まっていた。
「ばっかー」
 犬耳がぺたりとなった翠荀が、建物の後ろから出てくる。瞬脚で事なきを得たらしい。
 とりあえず、屋根の破壊完了。



「この窓の作りを教えてください」
「組み加工ですね」
 ふわふわした笑みを浮かべているらしい和奏が、窓を差し出す。ゴーグルと手ぬぐいで表情は分からないが、たぶん、ふわふわ笑顔。
 修は真剣な面持ちで、窓をひっくり返し和奏に視線を向ける。向かい合う二人。
 畑の脇では、修先生による日曜大工講義の第一回が開かれていた。
 窓枠を一つ外した所で修先生は枠をはめ直し、和奏生徒がマネをする。一年生の和奏は、先生のように上手く組外しができない。
 部品を一つ外してはメモをとり、見よう見まねで実践練習。時間がかかりつつも一歩一歩進んでいく。解体作業のはずが、二人の間では分解になっていた。
「僕でも龍さんのおうちが作れるようになりますか?」
「あきらめなければ、道は開けますよ」
 なかなか思うような成果が上がらず、うなだれる和奏。修は無言で肩に手を置いた。和奏が顔を上げ、まっすぐな視線が修に注がれる。
 和奏生徒が修先生を超える日は来るだろう、いつか。

「わっかも、とのさも、なにやっているんだろーね」
「アーヒ、周囲への被害を防ぐ為、内側に向かうのが良いでしょうね」
「つまり外から中に向かって壊すのですね、力仕事ならお任せください!」
「手順はちゃんと踏むつもりだけどねぇ。だけど派手なのは捨て難いじゃないか」
「ラ、丈夫な壁や床は、壊す際に倒れる力を使って崩しましょう」
「気が利かないね。折角のストレス解消依頼なンだ、ちょっと位、暴れさせて貰ってもバチは当たるまい?」
「どーんとぶち壊しますよー!」
「ここんとこあんま動いてなかったから、がんばるー♪」
 モハメドの誇るべき土木建築の知識も、破壊三人衆たちの前では役立たずだった。手順は説明しているが、あまり真剣にはきいていないだろう。
 話もそこそこに、ササッと各々の獲物を携えて、壁だけになった小屋に向かう。
「あたしからだね」
 銃を構えると、空撃砲や強弾撃を次々に放つ。壁が穴だらけになってきた。
 撃ちたいだけ撃つと真珠の耳飾りがゆれ、猫耳がぴくぴくする。再び紫煙を吹き飛ばし、満足そうに口元がわらった。
「ぶっこわせー」
 気が向くまま、翠荀は外から壁を叩きまくる。危険なため、中に入れないのは残念だ。
「あれ?変な音がしたような?まあいいか」
 ティエルは軽く首をかしげた、空耳とは思う。しかし、家から聞こえる音がさっきと違うような気がした。
 たいていの建物には、大黒柱というものが存在する。モハメドはきちんと説明していたが、ティエルの頭からはすっぽり抜けていた。
 振りかぶり素振り練習の成果を披露、目の前の柱に打ち付ける。木が大きく軋んだ、家の中に向いて傾いてく。
 モハメドの予想はあたり、大黒柱を失った小屋は倒壊した。破壊完了。



「これで終わりですね」
 柵にしていた戸に火をつける話になった。ずぶぬれになった小屋は、たき火には向かない。後日、モハメドが新たな燃料や堆肥として、土壌改良に使う予定だ。
「火をつけなきゃねぇ」
「我に任せよ!」
 松明とヴォトカを手にしたKyrieが進み出る。たき火の元に点火の前に依頼人が一言。
「それで火をつけたら、芋なしだぞ。酒がダメな奴もいるだろうからな」
 鋲を沢山生やしたお手製の黒いベストは、背中が小さくなったように見えた。無言でKyrie退場。
 モハメドは軽く安堵の息を漏らす、お酒はダメな人の一人。
「あたしに任せなさい」
 風葉は火種の術を放ち、たき火の種火が起こされた。ぐるぐる腕をまわし、ティエルは位置につく。
「体を動かしたらお腹空きますよね!火力全開!」
 廃材を次々とくべていき、炎が大きくなる。和奏が芋を一緒に放り込んでいく。
「昔、薪ストーブで焼き芋を作ろうとして、お芋の形をした炭を作ったことあるんですよね」
 半分、芋を焼いた所でゴーグルと手ぬぐいをとり、不吉な一言。手ぬぐいを返していた修が動いた、芋を取り出す。
「‥‥焼き芋ならぬ、焼き過ぎですね」
 火力全開の中に入れられた、芋の中身は真っ黒。たき火の前で、お座りして待っていた翠荀の声が小さくなる。
「おーいもー、おーいもー‥‥」
「アーヒ、これは立派な堆肥になりますよ」
 ダラダラのよだれは、ダラダラの涙に変わっていた。モハメドは芋炭の一つを手に取り、皆に向かって宣言する。嬉しくない宣言だった。
「火を小さくしとくれよ、焼き芋たべないのかい?」
 紫吹は新しい芋を手にとり、たき火に放り込む。次はおいしい芋を食べたい。期待が高まった。


「アーニー、また後日、土壌改良にうかがいます」
「木が乾いたころに、再利用できるものがないか見に来ますよ」
 モハメドと修が焼き芋を食べながら、依頼人と話込んでいた。この二人ならば、廃材を活かすことができるだろう。
「楽しく仕事してご飯も食べられて!わたしは幸せです」
 たき火の番から解放されたティエルは、両手に持った芋にかぶりつく。程よい甘さは、幸せな気分にさせた。
「ねね、おじさん?この芋もう少し貰えない?いーわよね?‥‥そういえばギルドの子が欲しがってたっけ。差し入れしてあげよーかな。」
 依頼人の答えも待たず、焼き芋を持てるだけ持ち、ふらりと風葉は姿を消した。道中、少し悩んだとか、悩まなかったとか。
 できたての焼き芋を持ち、幸福感に浸る紫吹。湯気の上る芋にかぶりつき、悲鳴を上げた。
「暖かい内にこう‥‥黄色いお芋をはふっと‥‥って熱ッッ!
‥‥!忘れてたわ‥‥あたし、猫舌だったんだわ」
 猫しっぽが残念そうに、しょぼくれた。後方では犬しっぽが嬉しさ満開で振られる。
「おいもー♪」
「美味しそうですね」
 翠荀と和奏がうまく焼けた焼き芋を手にする。かぶりつこうとした瞬間、芋が消えた。
「食べないのでしたら、芋は私がいただきます」
「おいもー!」
「返して下さい」
 ティエルの両手には二人の芋が握られる。たき火の周りで、焼き芋争奪戦が始まった。
「おいしいですね。私、甘党なんですよ」
 いつの間にか、お客が一人増えている。穏やかな笑みを浮かべながら、焼き芋を賞味する人物。
 メイクを落としたKyrieと皆が気づくには、もう少し時間がかかりそうだ。