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■オープニング本文 ※このシナリオはパンプキンマジック・シナリオです。オープニングは架空のものであり、DTSの世界観に一切影響を与えません。 ●パンプキンマジック すぐ隣にあるかも知れない、舵天照にとてもよく似た、平行世界。 どこかで見たことある風景と、どこかで見たことある人々。なぜか地名も、呼び名も、持ち物も、人物も、舵天照の世界と全く同じ。 一つだけ違うとすれば、「開拓者の朋友たちは全て意思を持ち、擬人化できる技法を持つ」こと。 開拓者と出会って朋友となった日から、グライダーさえも擬人化して、絵を描ける。 練力切れで宝珠に引っ込む管狐も、擬人化すれば勝手に動き、お買い物を楽しめる。 言葉をはなさない鬼火玉も、擬人化すれば自由に人語を操れ、開拓者と歌い踊れる。 食べることができないアーマーも、擬人化すれば、美食家に変身することもある。 不自由があるとすれば、翼をもつ者や、空中に浮く人妖などは、空を飛べなくなること。でも、開拓者と一緒に過ごす日常は楽しくて、不満は浮かばない。 これは舵天照に似た、不思議な世界の物語。開拓者と朋友たちの、日常の一幕。 ●祭とかけて山と解く、その心は? 賑わっていた。祭の相談で、武天の田舎村は持ち切り。村をあげて、春の花見を決行する土地柄だ。秋のお祭りにかける意気込みも違う。 「うむ、準備は進んでおるの」 「俺達に任せてくれよ」 「村長、やっぱり、野趣祭(やしゅまつり)は行く必要があるよな?」 「あの市場で肉を買い出しして来ないと、村の祭は始まらないからな」 「うむ。準備や子守は、いつものように開拓者に任せるかの」 若衆は話し会う、地元の山神さまに供えるものについて。野趣祭での売買は、村の収入源にも繋がる。 わんぱくな子供たちは野趣祭に行きたがり、なだめるのが大変。毎年、開拓者に相手をしてもらう間に、若衆が出かけるのが習わしになっていた 。 ●野趣祭 武天の都、此隅で九月十五日から十一月三日に開かれる市場。広場で行われていて、秋に肥えた野生肉が多く屋台に並ぶ。 期間中は、暴力的に美味しそうな匂いが漂い続ける祭り。肉食主義の食べ歩きに好きには、大変喜ばれるとか。 が、山の幸は肉に留まらない。きのこや栗など、ほんの小数の植物もあるらしい。 「開拓者の方々には、子供たちの子守と村の祭の準備をお願いします」 「朋友の方々は、擬人化して一緒に野趣祭で売る品物を運んでくれ。うちの村の山で採れたきのこは、美味いと評判だ!」 「ああ、運んでくれたら、市場では一日好きに過ごしてくれて構わない。翌日は肉を持って帰るから、夜までには宿に戻って欲しいんだ」 村の若衆から、依頼内容の説明を受ける。開拓者は村でお留守番、朋友は市場への往復路の品物の運搬をお願いされた。 大好きな開拓者と離れるのはさみしいが、祭の間の自由行動はちょっとした冒険。肉が多いと噂の祭だが、穴場の山の幸を探すのも、ひそかに楽しいと聞く。 武天は鉱物が多く、サムライの国でもある。りんご飴を頬張りながら、装飾された宝石類の品定めをしたり、刀のうんちくを語る事もできそうだ。 もちろん、依頼人の村人たちのキノコ販売を手伝っても、喜ばれるはず。歌や踊りで客寄せもできそうだし、商売人体験も面白そう。 忘れちゃいけない、開拓者へのお土産は何にしよう。朋友たちは、どんな祭を過ごそうかと悩み始めた。 |
■参加者一覧
秋桜(ia2482)
17歳・女・シ
菊池 志郎(ia5584)
23歳・男・シ
レビィ・JS(ib2821)
22歳・女・泰
針野(ib3728)
21歳・女・弓
九条 炮(ib5409)
12歳・女・砲
猪 雷梅(ib5411)
25歳・女・砲
ウルグ・シュバルツ(ib5700)
29歳・男・砲
霧雁(ib6739)
30歳・男・シ |
■リプレイ本文 ●嬉し、寂し 「わたしはレビィ・ジョーンスタイン‥‥」 「レビィの相棒、忍犬のヒダマリです。皆さん、今回は宜しくお願いします」 飄々としたレビィ・JS(ib2821)の言葉をさえぎり、礼をする忍犬のヒダマリ。十二歳の女の子は、色々とダメなレビィのフォローに走る苦労人。 礼儀正しいしっかり者の柴犬は、何時の間にか旅に同行していた。 「こんにちは、私は初霜といいます。主(あるじ)と離れるお仕事は初めてですが、頑張ります!」 菊池 志郎(ia5584)の隣で、十歳くらいの小柄な黒犬の獣人の少年も、お行儀よく頭を下げる。志郎の相棒の忍犬は、前向きで何事も一生懸命。 「初霜、寒いでしょうから、これを着て行くとよいでしょう」 「はい、主! ありがとうございます」 志郎は袴姿の初霜に、ポンチョ風の外套を羽織らせる。照れながら、初霜は先が僅かに白い、黒犬しっぽを盛んに揺らした。 一通りの訓練はしているが、まだ小さい忍犬。季節の移ろいに敏感な志郎は、初霜が風邪をひかないようにと、心を砕く。 針野(ib3728)の隣の人妖は、輝石のティアラを揺らしてご挨拶。 「えっと、シヅはしづるって言います。はりちゃんの人妖なんだよ。今日は人間さんになって、お祭りを手伝うのっ」 真っ白な狩衣を着た十二歳の女の子は、針野の側から離れられない。 「シヅ、あんまり力持ちじゃないけど、お手伝いできることは、めいっぱい手伝うんだよ」 針野の背中に隠れながらも、懸命に主張していた。しづる‥‥正式には『四弦』は、おっちょこちょいな面があり、まっすぐ飛べなかったのは内緒だ。 「え、えっと‥‥今回ご一緒させていただくことになりました、駿龍のシャリアです。あの、宜しくお願いします‥‥っ」 「よろしく頼む」 同じくウルグ・シュバルツ(ib5700)の背中に隠れつつ、シャリアは深々と頭を下げる。初対面の相手を前にして陰に隠れることも少なくない。 シャリアはウルグが手すきだと見るや、甘えにかかる。三人兄弟の次男は、撫でたり、構ったりしてやっているが、今回は同行しない。 「お荷物運べば、いいのですよね。人がたくさんなのはちょっと怖いですけど‥‥頑張って、にいさまのお役にたつのです‥‥!」 溺愛している訳ではないが、やはり心配は募る。握り拳で答えるシャリアの頭をなで、ウルグは送り出した。 「霊騎の春雷だ。ま、よろしく頼む」 猪 雷梅(ib5411)の隣で、反応薄い春雷が挨拶をする。大雑把で、大抵の事はスルーで済ます。 「面白いじゃねぇか、春雷。祭りだぞ、祭り!」 「‥‥祭りか?」 目の前の光景をすべて「祭り」で済ます雷梅とは、正反対。返事のかわりに、空を見上げてしまった。 「保護者不在のフリータイムだ、存分に愉しむのが粋だろう?」 鷲の翼を持った獣人は、村で留守番の九条 炮(ib5409)に向かって笑う。銀を細く伸ばして造られた、美しい白銀の首飾りは、真紅のロングコートに良く似合っていた。 「狙い定めてSHOOT!!」 怒りの炮は、レイダーに向かって右手の小石を投げる。気配を察したレイダーは携えた大型拳銃の銃身で、華麗にはじく。 「キミ、どういうつもりかな?」 「レイダーが、一番よくわかっていますよね?」 炮に利き手は無く、左右のバランスが取れた両利き型。すぐに左手の小石も飛んだ。 「残念だったね、行ってくるよ」 レイダーは、バトルマニアでトリガーハッピー♪ 戸惑うことなく、小石を撃つ。悔しがり、むくれる炮に背を向け村の外へ行く。 「霧雁、卿は安心して留守番をしているがいい。これを託そう」 どこか落ち込み気味の霧雁(ib6739)。ジミーは、剛鉤爪を外して霧雁に手渡す。寂しくないようにとの配慮。 「なあに、俺が代わりに野趣祭とやらを大いに堪能してきてやるさ。では」 「お土産を忘れないでほしいでござるよ」 長身痩躯のジルベリア人将校は、おどけて敬礼。色気より食い気の霧雁の言葉を耳にした。 「はぅ、精進が足りません‥‥すっちーにやられました」 村で異変に気付いた秋桜(ia2482)が、顔を真っ赤にして怒っていたころ、相棒の迅鷹は歌っていた。愛称は「すっちー」。 「お祭り〜♪ おっまつり〜♪ おかーさんと離れるのはヤだけど、これ借りてきたし‥‥」 鷹の獣人化した迅鷹は、鷹の羽の耳を動かしながら、胸元を覗きこむ。様々な曲線を持つある民族衣装の下に、秋桜のサラシを巻きつけていた。 名前は「睡蓮」と秋桜は説明した。でもギルドの登録上の名前は「鈴蘭」。ギルドの報告書は、鈴蘭として記録されることになった。 鈴蘭はサラシに絡まって遊ぶことが好き。今回も、秋桜のサラシを黙って借りてきたようである。 低く渋い声が響く。洗練された身のこなしで、荷車の前に立った。 「俺はジミー、猫又だ」 朋友たちの中で最年長の三十代前半。くすんだ銀髪を後ろになでつけ、彫りの深い細面には切れ長の目がほほ笑む。 機能性を重視した儀礼服を纏った姿は、華美でなくとも貴族と察せられた。大げさに手を胸元にやろうと、気品に溢れ嫌みはない。 「物や人を運ぶのは得意だ、馬だからな」 こちらでも村人に変わって、荷車を曳き始める春雷。期待を込める視線を感じた。 「‥‥乗るか?」 荷車の台車に乗せて貰えることになった鈴蘭は、透明感のある青い帯「水鏡」をひるがえし乗り込む。隣のシャリアにご挨拶をして笑った。 「頑張ってるんだ〜」 「‥‥にいさまもお仕事してるのですし、シャリアも何かお手伝いしたいのです!」 鈴蘭はぱっとみ、男の子か女の子か分からない。カゴを押さえているシャリアは、不思議そうに小首を傾げた。 村を出て行く分もしない頃、ふっと横をみると動くものが居た。初霜は蝶やトンボを追いかけて遊ぶのが好き。訓練で忍耐力は養っているが、我慢できない。 「なにをしているんだ?」 「藪の中に兎がいましたっ。あっちで虫も跳ねてます」 道を外れたことを心配したレイダーがやってくる。満足そうに黒犬しっぽを振真剣に道の脇を覗きこむ初霜の前を、赤トンボが目の前を横切った。 「主がよくこうしてるんです。私も初めてできました‥‥」 初霜は人差し指を空中に伸ばして、止まるのを待つ。一番好きなトンボは、指先で羽を休めてくれた。 「上手いな。だが、置いて行かれるぞ」 「‥‥あ、待ってくださーい」 苦笑するレイダーの声かけに、初霜は慌てて一行を追いかける。トンボは不思議そうに、二人を見送っていた。 若干、ぼーっとしているヒダマリ。しづるは声をかける。 「うにゅ? どうしたの?」 「しづるさん。私、村に残っているお姉ちゃんが、心配でたまらないんです」 「心配?」 「うっかり物を壊したり、うっかり井戸に落ちたり、うっかり山で迷子になったりしてないかと心配で、心配で」 「‥‥うっかりの項目、多いね?」 手を頬に当てながら、悟りきったように答えるヒダマリ。ちょっとだけ視線が低い相手に、しづるは小首を傾げた。 ●お祭り冒険譚 「お肉と一緒に食べるとおいしい、きのこでーす」 元気な呼び声が響く。お客様に、笑顔で応対しているのは初霜。足を止めてくれる度に、黒犬しっぽは、ぱたぱたと動く。 「私は、仕事中です」 気を抜くと、周りから食欲を誘う匂いがただよってくる。初霜は、お腹に力をいて、ぐっと我慢した。 「はりちゃん、『シヅと一緒に、武天の野趣祭に行ってくるんよー』って、すごく嬉しそうだったの」 一緒に売り子を務める初霜に、しづるは語る。嬉しそうだった針野は、村でお留守番。しづる一人だけのお祭りは、悲しかった。 「‥‥私の主は、もうすぐ誕生日なんです。一緒に来たかったけれど、願いは叶いませんでした」 初霜は、ゆっくりと言葉を紡ぎ出す。 「だから主に、笑顔で報告するつもりです」 浴衣姿のしづるは瞬きをした、初霜の言外にこめられた意味。 針野は朋友達を、家族同然に大切に想っている。しづるが悲しそうに祭りの様子を語れば、針野は依頼を受けたことを悔やむかもしれない。 「‥‥はりちゃんへのお土産、どうしようかな」 おっとりした性格で、少々気弱なはずのしづるの様子が変わった。誰もがお祭りを楽しめるように、笑顔の売り子さんになる。 「主は、どんな方ですか?」 「はりちゃんは、女の人だけど、髪が短くて‥‥でも、とってもきれいな群青色の髪なの♪ 」 初霜の質問に、しづるは心に決めた。針野に合う髪飾りを探そう。 「それから、褒められるとすぐ照れたり‥‥、からかわれたりすると、すぐに吹き出したりするんだよ」 たどたどしい口調で懸命に話す、しづる。初霜は黒犬しっぽを振りながら、耳を傾けた。 キノコは無事に完売、初霜としづるはお肉を買う村人について行く。薦められるままに、お肉を試食。感動で笑顔が広がった。 「主、喜んでくれるでしょうか‥‥」 「あの髪飾りとか、どうだろ?」 お土産を選びも、大事なおつとめ。志郎と針野の喜ぶ顔を思い浮かべ、初霜としづるは店の中へ消えた。 レイダーは、さしあたってお目当てがある訳ではない。シャリアを伴い、ブラつきながら店を冷やかして周る。 お祭りに踏み込んだレイダーは、宿から出てすぐ人込みに囲まれ、動けなくなっているシャリアを見つけた。 涙目であたりを見渡し、歩き出そうとして立ち止まる。たどたどしく危なっかしい、細身の小柄な少女。 外見も炮と似たり寄ったりの十二、三歳。目を離せなくて、レイダーは保護した。 「えっと‥‥『持って帰れる量が限られるだろうから、気になるものは現地で食べてくるといい』って、にいさまからお小遣い貰ったのです!」 「優しい兄さんだな」 六尺を超えるレイダーを、シャリアは見上げる。嬉しそうに巾着袋を見せた。 「ほんとは全部一緒に食べたいのですけど‥‥レイダーさんは、どんなものを買われますか?」 「オレは買わないな、土産も予定はないね」 レイダーは大きく伸びをする、背中の鷲の翼が羽ばたいた。シャリアの藍のロングストレートが、悲しげにうつむく。 「村で子守中の炮も、家でお留守番中の甲龍のガーディスも、衣服には独自の拘りがあるからな」 二人とも刃物や装飾には、さほど興味を示さない。特に炮は独特の形状をした銃を好み、市販されている銃の外装を、自分流にいじったりもする。 レイダーが視線を戻すと、シャリアの紺のワンピースが遠ざかり欠けていた。うるんだ金の目が、無言で訴える。感情豊かな少女は、人見知りもするが寂しがり。 「その髪飾りは、兄さんが着けてくれたのか?」 理知的に振舞う諧謔好きも、少女の涙には弱かった。レイダーは頭をかきつつ、話題を探す。 姫沙羅の花言葉の一つは「愛らしさ」。シャリアに笑顔が戻った。龍時の風切の羽根飾を思わせたる、白のカーディガンが嬉しそうに揺れる。 「土産は保存の利く食物を、適当に見繕って持ち帰れば良いだろう」 「美味しかったら、レイダーさんも買って帰ると良いのです」 ウルグは無自覚にお人よしであり、巻き込まれ体質。そして、口下手なため誤解を受けやすい。 色男風口調のレイダーも、似ている部分があった。共通点を見つけたシャリアは、くるる‥‥と、鳥が喉を鳴らすように笑った。 「む。これは美味いな」 手近な屋台で串焼きを手にする春雷は、一本にかぶりついた。ヒダマリは不思議そうに見上げる。 「‥‥馬が肉を食べる姿は、そんなに珍しいか? 人参を食べていたほうが良かったかな」 慌てて、手を振り否定するヒダマリ。 「いや気にするな。その呆けた面は面白くて、ついな」 チャイナ服と同じ色合いの、髪結い紐が揺れる。春雷はくすりと笑った。さすがに子供の前では、心に刺さる毒舌を発揮しなかった。 旅の食料として持っていけそうな干し肉を手に取り、ヒダマリは隣を見上げた。 「お姉ちゃん、これ‥‥」 隣に居るはずのレビィの姿がない。ヒダマリの表情が引きつった、辺りを見渡す。居ない! 「ま た 迷 子 か」 ヒダマリの見立てでは、レビィは非常に抜けている。干し肉を戻し、五歩進んだ所で春雷が声をかけた。 「レビィは村じゃないのか?」 「‥‥別行動中だったね」 美しい青色の羽で作られた、鳥の羽の御守りが悲しげにゆれた。トレードマークの首に巻いた黄色いスカーフが、風にたなびく。 黙り込んだヒダマリは、首のゴーグルをいじった。レビィから贈られた物。 「村祭への土産は酒と肉料理だな。祭好きの雷梅は、村の祭に確実に参加するだろうからな」 背の高い春雷は、吊られた干し肉を取り、ヒダマリに渡していく。中世的な容姿は無関心のようで、相手を観察していた。 「一人では、心配で帰れんだろう?」 「うん」 (あいつ、雷梅も男ができたんだ。少しは女らしくしているだろう) ヒダマリが、保存食を探していたことを覚えている。春雷の雷梅へ土産の簪は後回し。 擬人化しても、健啖家なのは変わらず。冷静沈着なジミーは状況を分析する。 「さて、俺はさして歌舞音曲に秀でている訳でも愛想がいい訳でもないからな」 品物の運搬を、そつなくこなすのは問題ない。悩んだ末、陳列や屋台づくりを手伝う。 そこかしこから、美味しそうな匂い。鈴蘭は誘われるまま、山の幸を味わう。 「やっぱり、最優先でお土産のお酒を見て回りたいなぁ〜♪」 天真爛漫な元気っ子は、祭り屋台の方へ進みだす。 「お荷物を届けたから、出店を見て回ろ〜。お土産は何がいいかなぁ〜」 秋桜は大のお酒好き、ほぼ毎日飲んでいる。鈴蘭は、楽しそうに笑う姿を思い浮かべた。 「そこの卿、良い酒を扱っている店はないか? 保存のきく、美味い干し肉もだ」 霧雁への土産を見つくろうジミーが、周囲の人々に聞いていた。鈴蘭は嬉しそうに、歩いて行く。 「なに買うの〜」 「鈴蘭卿か、俺の親友への土産だ」 「お酒? でも、すいは買っちゃ駄目って、お店のひと、怒るかなぁ。まだ零歳だし‥‥」 生後七ヶ月の鈴蘭は、店先で酒の品定めをするジミーを見上げる。天儀の飲酒年齢は十四歳くらい。外見は七、八歳の鷹獣人の羽の耳が、悲しげに動いた。 「ふむ、店主この酒を二つ頼みたい」 あくまでもジルベリア貴族の本分を忘れず、困った者の力に。ジミーは、鈴蘭の分のお酒も頼む。 鈴蘭が女の子だったら、もっと優しく振る舞っただろうが。名誉のために行っておく‥‥特に下心は無い。 ●村祭り 初霜の神木を削って作られた御速靴の靴音が、早くなる。心配そうに待っていた志郎に駆け寄った。 「主、主、ただ今戻りました! おつとめ果たしてまいりました」 黒犬しっぽをぱたぱたと激しく動かしながら、胸を張って志郎に報告する。外套の下から風呂敷包みを差し出した。 「主、誕生日おめでとうございます! お土産の秋草に、蜻蛉の意匠の刀の鍔です」 「ありがとうございます‥‥ずっと大切にしますね」 志郎の動きが少しだけ止まった。我に返り、贈り物を受け取ると、黒犬しっぽを揺らす初霜の頭をなでる。 野趣祭でのあれこれを、懸命に話しかける初霜。子供と思っていた朋友は、立派に成長しつつある。 「はりちゃん! あのね‥‥お肉おいしかったの」 しづるは食べることが大好きで、見かけによらず相当な大食い。たらふく腹に収めて、帰ってきた。 「シヅ、どないしたんよ?」 村に戻ったしづるは、針野に抱きついたまま。後頭部で束ねた腰まで届く銀髪を揺らし、おでこをこすりつける。 「いつもは、他のみんなもいるから‥‥」 針野の家では、三人の朋友たちが首を長くして待っていた。 「たまには、シヅが独り占めしても、いいよね?」 「あたりまえさー♪」 金色の瞳の瞳が、不安げに見上げてくる。針野は優しく、しづるを抱きしめた。 離れた所で、ヒダマリも勢い余って、レビィに抱き付く。 「わっ!?‥‥おかえり、ヒダマリ!」 「うん。ただいまっ」 再開を喜ぶヒダマリの耳に、村人の会話が聞えた。 「村の方、何事もなかったか?」 「それが、うっかり物を壊したり、うっかり井戸に落ちたり‥‥うっかり山で迷子になった上に、獣用の罠に引っ掛かった『開拓者』が居てさ」 「うへぇ‥‥」 話しかけようとして見上げた、ヒダマリ。横を向いているレビィに気づく。 「‥‥お姉ちゃん?」 沈黙を貫くレビィの周りが重い、空気が重すぎる。 「お 姉 ち ゃ ん?」 「‥‥ゴメンナサイ」 にっこり笑うヒダマリは、怖い。何かあるとすぐに地が出るレビィに、有無を言わせず説明を求めた。更に隣でも、似たような光景。 「おかーさん、お土産〜」 「すっちー、その前に言うことがありますよね?」 仁王立ちで出迎える秋桜、鈴蘭は不思議そう。お酒を地面に置くと、ちょこんと頭を下げた。 「おかーさん、ただいま〜」 「はい良くできました、それから?」 「お祭り、楽しかったよ〜。すいはお酒買えないから、買ってもらったの〜」 「それは良かったですね♪」 にこにこと、思い出話を語る鈴蘭。秋桜のサラシを黙って持ちだしたことを、怒られるのはもう少し後の話し。 「なんですか?」 ぶーたれていた炮の頭に、レイダーは風呂敷つつみを乗せた。あまり期待をしていなかった炮は、包みを受け取りながらレイダーを見上げる。 「保存食だから、ガーディスと一緒に食べること。約束は?」 「できますよ、子供扱いしないでください!」 やっぱり、ぶーたれたまま答える炮の怒声。レイダーは覗きこみ、言いかけて止めた。 「怒ったら‥‥いや、もういい。キミはキミだからな」 あるがまま、受け入れよう。レイダーは妙に悟る。きっと個性とは、そういうもの。 個性を分かっているつもりだが、こちらはあきれた。雷梅のけらけら笑う声と右手の一升マス。 「よーう春雷! おめーも飲めぇ!」 「‥‥少しも女らしくならんな‥‥はあ」 ため息をつく春雷は、簪を投げて寄越す。二人は時たま喧嘩する、今日も喧嘩した。 「それをつければ少しは女らしくなるだろ。せいぜい惚れた男に愛想尽かされないようにな」 「な!? て、てめぇ喧嘩売ってんのか!」 乱暴で短気な雷梅は、良くも悪くもドライな性格。 「お前の幸せを思ってだな」 「嘘つけ!」 「本当だ」 真顔の春雷の首元で、牙の御守りが揺れた。だが、霊騎の春雷は牙を持たない。 「やっとお前を幸せにしてくれる人が現れたんだ。自分でチャンスを捨てるバカには、なってほしくない」 「‥‥ありがとう」 春雷にとって、雷梅は良き相棒であり、大切な娘。簪を拾い、頭に挿してやる。 (まあ、もしお前を泣かす男なら私が蹴り飛ばすだけだが) 牙はないが、蹄を持っていた。春雷の心の呟きは、雷梅に聞えることはない。 静かな出迎えもある。 「‥‥霧雁、今戻ったぞ。‥‥なんだ、退屈そうな顔だな」 「ジミー、遅いでござるよ」 世話の焼ける親友は、縁側に転がり、動こうとしなかった。大の字になったまま、視線だけが見てくる。 パステルピンクの猫しっぽは、だらりと垂れ下がったまま。獣人ゆえの苦行、子供たちのお触り攻撃。 「これは土産だ。今宵は旨い肉を肴に、卿と一献傾けようかと思ってな」 ジミーも縁側に腰掛け、包みを霧雁の隣で広げる。燻製肉の香りが広がった。 「味の方は保証する。肉も、酒もな」 「楽しみでござるな」 霧雁は起き上がると、預かっていた剛鉤爪を懐から取り出し返す。代わりにお土産の酒入りひょうたんが、霧雁の手におさまった。 もう一つの出迎えは笑い声。 「お祭り、楽しかったです♪」 「そうか、良かったな」 「村の秋祭りにも行きたいのです」 嬉しそうに語るシャリアに、ウルグはほほ笑む。山頂から祭りばやしが聞えてきた。 「ここ、春になったら桜で一杯になるって聞きました。またにいさまと一緒に来たいのです!」 「山頂が見えるか? 秋も賑やかだぞ」 ウルグは自分の荷物を手渡した、きょとんとするシャリアを抱き上げる。シャリアの歓声が響いた。 |